枕草子180段 ある所に、なにの君とかや

宮仕人の里 枕草子
中巻中
180段
ある所に
雪のいと

(旧)大系:180段
新大系:173段、新編全集:173段
(以上全て三巻本系列本。しかし後二本の構成は2/3が一致せず混乱を招くので、以後、三巻本理論の根本たる『(旧)大系』に準拠すべきと思う)
(旧)全集=能因本:315段
(ある所に、中の君とかや)
 


 
  「ある所に、なにの君とかやいひける人のもとに、君達にはあらねど、その頃いたうすいたるものにいはれ、心ばせなどある人の、九月ばかりにいきて、有明のいみじう霧りみちておもしろきに、名残思ひ出でられむとことばをつくして出づるに、いまは往ぬらむと遠く見送るほど、えもいはず艶なり。出づる方を見せてたちかへり、立蔀の間に陰にそひて立ちて、なほいきやらぬさまに、いまひとたびいひ知らせむと思ふに、『有明の月のありつつも』と、しのびやかにうちいひてさしのぞきたる、髪の頭にもより来ず、五寸ばかり下がりて、火をさしともしたるやうなりけるに、月の光もよほされて、おどろかるる心地のしければ、やをら出でにけり」とこそ語りしか。
 
 

宮仕人の里 枕草子
中巻中
180段
ある所に
雪のいと