古事記 大山守皇子の乱~原文対訳

ススコリのマッコリ 古事記
中巻⑧
15代 応神天皇
大山守皇子の乱
1 舵取に扮す
猪問答
原文 書き下し
(武田祐吉)
現代語訳
(武田祐吉)

天皇崩之後。
 かれ
天皇崩かむあがりましし後に、
 かくして
天皇がお崩かくれになつてから、
大雀命者。 大雀の命は、 オホサザキの命は
從天皇之命。 天皇の命のまにまに、 天皇の仰せのままに
以天下。 天の下を 天下を
讓宇遲能和紀郎子。 宇遲の和紀郎子に讓りたまひき。 ウヂの若郎子に讓りました。
     

謀反

     
於是大山守命者。 ここに大山守の命は、 しかるにオホヤマモリの命は
違天皇之命。 天皇の命に違ひて、 天皇の命に背いて
猶欲獲天下。 なほ天の下を獲むとして、 やはり天下を獲えようとして、
有殺
其弟皇子之情。
その弟皇子おとみこを
殺さむとする心ありて、
その弟の御子を
殺そうとする心があつて、
竊設兵
將攻。
竊みそかに兵つはものを設まけて
攻めむとしたまひき。
竊に兵士を備えて
攻めようとしました。
     

vs大雀(仁徳)・宇遲の和紀郎子

     
爾大雀命。 ここに大雀の命、 そこでオホサザキの命は

其兄備兵。
その兄の軍を備へたまふことを
聞かして、
その兄が軍をお備えになることを
お聞きになつて、
即遣使者。 すなはち使を遣して、 使を遣つて
令告宇遲能和紀郎子。 宇遲の和紀郎子に告げしめたまひき。 ウヂの若郎子に告げさせました。
     
故聞驚。 かれ聞き驚かして、 依つてお驚きになつて、
以兵伏河邊。 兵を河の邊べに隱し、 兵士を河のほとりに隱し、
     
亦其山之上。 またその山の上に、 またその山の上に
張施垣
立帷幕。
きぬがきを張り、
帷幕あげばりを立てて、
テントを張り、
幕を立てて、
詐以。 詐りて、 詐つて
舍人爲王。 舍人とねりを王になして、 召使を王樣として
露坐呉床。 露あらはに呉床あぐらにませて、 椅子にいさせ、
百官。 百官つかさづかさ、 百官が
恭敬往來之状。 敬ゐやまひかよふ状、 敬禮し往來する樣は
既如
王子之坐所而。
既に
王子のいまし所の如くして、
あたかも
王のおいでになるような有樣にして、
     
更爲其兄王。 更にその兄王の また兄の王の
渡河之時。 河を渡りまさむ時のために、 河をお渡りになる時の用意に、
具餝船楫。 船かぢを具へ飾り、 船ふねかじを具え飾り、
者舂佐那
〈此二字以音〉
葛之根。
また佐那葛
さなかづらの根を
臼搗うすづき、
さな葛かずらという
蔓草の根を
臼でついて、
取其汁滑而。 その汁の滑なめを取りて、 その汁の滑なめを取り、
塗其船中之
簀椅。
その船の中の
簀椅すばしに塗りて、
その船の中の
竹簀すのこに塗つて、
設蹈應仆而。 蹈みて仆るべく設まけて、 蹈めば滑すべつて仆れるように作り、
     
其王子者。 その王子は、 御子は
服布衣褌。 布たへの衣褌きぬはかまを服きて、 みずから布の衣裝を著て、
既爲賎人之形。 既に賤人やつこの形になりて、 賤しい者の形になつて
執楫立船。 かぢを取りて立ちましき。 棹を取つて立ちました。
ススコリのマッコリ 古事記
中巻⑧
15代 応神天皇
 大山守皇子の乱
1 舵取に扮す
猪問答