徒然草69段 書写の上人は:原文

筑紫 徒然草
第二部
69段
書写の上人
元応の清暑堂

 
 書写の上人は、法華読誦の功つもりて、六根浄にかなへる人なりけり。
旅の仮屋に立ち入られけるに、豆の殻を焚きて豆を煮ける音のつぶつぶとなるを聞き給ひければ、「うとからぬおのれらしも、恨めしく我をば煮て、辛き目を見するものかな」といひけり。
焚かるる豆殻のはらはらと鳴る音は、「我が心よりすることかは。焼かるるはいかばかり堪へがたけれども、力なきことなり。かくな恨み給ひそ」とぞ聞こえける。