古事記 サホ姫とサホ彦の物語~原文対訳

宮と系譜 古事記
中巻④
11代 垂仁天皇
サホ姫サホ彦兄妹物語
①共謀
サホ姫の涙と蛇の夢
原文 書き下し
(武田祐吉)
現代語訳
(武田祐吉)
此天皇。  この天皇、  この天皇、
以沙本毘賣
爲后之時。
沙本さほ毘賣を
后としたまひし時に、
サホ姫を皇后になさいました時に、
沙本毘賣命之兄。 沙本さほ毘賣の命の兄いろせ、 サホ姫の命の兄の
沙本毘古王。 沙本毘古さほびこの王、 サホ彦の王が
問其伊呂妹曰。 その同母妹いろもに問ひて曰はく、 妹に向つて
孰愛
夫與兄歟。
「夫せと兄いろせとは
いづれか愛はしき」
と問ひしかば、
「夫と兄とは
どちらが大事であるか」
と問いましたから、
答曰
愛兄。
答へて曰はく
「兄を愛しとおもふ」
と答へたまひき。
「兄が大事です」
とお答えになりました。
     
爾沙本毘古王
謀曰。
ここに沙本毘古さほびこの王、
謀りて曰はく、
そこでサホ彦の王が
謀をたくらんで、
汝寔思愛我者。 「汝みましまことに
我あれを愛しと思ほさば、
「あなたがほんとうに
わたしを大事にお思いになるなら、
將吾與汝治天下
而。
吾と汝と天の下治らさむとす」
といひて、
あなたとわたしとで天下を治めよう」
と言つて、
     
即作
八鹽折之
紐小刀。
すなはち八鹽折やしほりの
紐小刀ひもがたなを作りて、
色濃く染めた
紐のついている小刀を
作つて、
授其妹曰。 その妹いろもに授けて
曰はく、
その妹に授けて、
以此小刀
刺殺
天皇之寢。
「この小刀もちて、
天皇の寢みねしたまふを
刺し殺しせまつれ」といふ。
「この刀で
天皇の眠つておいでになるところを
お刺し申せ」と言いました。
宮と系譜 古事記
中巻④
11代 垂仁天皇
サホ姫サホ彦兄妹物語
①共謀
サホ姫の涙と蛇の夢

八鹽折之紐小刀

 
 
 サホ彦が持っていた「八鹽折之紐小刀」の「八鹽折」とは、出雲でスサノオが退治した八俣大蛇で出てきた形容詞である(八鹽折之酒)。だからその小刀を振るわれた天皇の夢に小蛇が出てきたのであり、スサノオ同様に幼稚なホムチワケ(情況からサホ彦の子)が出雲大神に行って何やらしゃべり出し、蛇の娘と一夜を共にするのである。

 

 そしてここでの情況は、天照とスサノオを反転させたものと言える。だからサホ姫は、サホ彦に面前なので逆らえなかったといいつつ、その指示にはすんでの所で従わないのだろう。