万葉集 第八巻:一覧と配置

第七巻 万葉集
第八巻
第九巻

 
 万葉集第八巻、その一覧と配置(歌の内容はリンク先を参照)。
 ここでは個別の歌の検討というより、全体の配置に示される万葉の構造を見る。
 

 8巻では、春夏秋冬という新たな分類が出現し、これを人麻呂の基本分類(雑歌・相聞)と掛け合わせる。
 この人麻呂と分類を重んじる姿勢がまず一つの赤人の根拠。さらに春夏は赤人、秋冬を憶良が担当。7巻の古歌との対比で先人は含めないとしたと思われる。
 配置こそ秋冬が厚いが、これは憶良を形式上重んじた赤人の配慮と解される。しかし配置の上では全体の流れとあいまって赤人が上。ここで夏が家持の異様な厚みによって春とほぼ同値になることは家持の歌の理解のなさを表している。
 

 なお、ここで家持による付け足しにより、四季の配分が崩れることは極めて重要。家持編纂説を履す最も強い根拠となるだろう(そもそも家持編纂説が成り立っているわけではないが)。
 夏に家持が多く付け足し、春とほぼ同数になる(47:46)。かたや無名が支配的で付け足せない10巻では夏は春の半分以下、こちらが本来(125:59)。8巻でも家持影響部分を除けば、25:8。古今も同様(134:34)。
 

第八巻 目次と配置(1418~1663:246首)
47(雜歌:相聞・30:17)19%
         46(雜歌:相聞・33:13)19% ※家の付加多し
125(雜歌:相聞・95:30)51%
28(雜歌:相聞・19:9)11%
 
(参考)家持影響除く 春25(雜歌:相聞・14:11)34%          
 夏8(雜歌:相聞・8:0)11%
秋37(雜歌:相聞・28:9)51%
冬3(雜歌:相聞・2:1)4%
 
(参考)10巻:春125(23%)古今:134(39%)      
 夏  59(11%)古今:34(10%)
   秋316(59%)古今:145(42%)
 冬  39(7%)古今:29(8%)
10巻は人麻呂歌集と圧倒的無名の巻で家持は皆無。かつ夏が春に並ぶことはない
つまり家持は既に完成していた歌集に功名のために付け足しただけの存在
全巻一貫して後付けで記述も異様に異なるのに編纂とは本末転倒で万葉の占奪
人麻呂・赤人主要部分は一貫してシンプル。寄せ集めなどではありえない
この巻では春夏を赤人・秋冬を憶良が担当しているが以後赤人主体になる
編纂とは本巻春の赤人、秋の憶良、巻一の人麻呂、古今の貫之の配置のこと
家持は万葉全体でも各巻でも先頭部にない
配置はどこでも同列ではないし、単なる年代順でもない。
春雜歌(30首)
              1418
志貴皇子
1419
鏡王女 
1420
駿河釆女
1421
尾張連 
1422
尾張連 
1423
阿倍廣庭
1424
赤☆
1425
赤☆
1426
赤☆
1427
赤☆
1428
草香山歌
1429
若宮年魚麻呂
1430
若宮年魚麻呂
1431
赤☆
1432
大伴坂上郎女
1433
大伴坂上郎女
1434
大伴三林
1435
厚見王 
1436
大伴村上
1437
大伴村上
1438
大伴駿河麻呂
1439
中臣武良自
1440
河邊東人
1441
1442
丹比屋主
1443
丹比乙麻呂
1444
高田女王
1445
大伴坂上郎女
1446
1447
大伴坂上郎女
 
春相聞(17首)
  1448
1449
大伴田村大嬢
1450
大伴坂上郎女
1451
笠女郎 
1452
紀女郎小鹿
1453
笠金村 
1454
笠金村 
1455
笠金村 
1456
藤原廣嗣
1457
娘子
 
1458
厚見王 
1459
久米女郎
1460
紀女郎 
1461
紀女郎 
1462
1463
1464
 
夏雜歌(33首)
  1465
藤原夫人
1466
志貴皇子
1467
弓削皇子
1468
小治田廣瀬王
1469
沙弥
 
1470
刀理宣令
1471
赤☆
1472
石上堅魚
1473
大宰帥大伴卿
1474
大伴坂上郎女
1475
大伴坂上郎女
1476
小治田廣耳
1477
1478
1479
1480
大伴書持
1481
大伴書持
1482
大伴清縄
1483
奄君諸立
1484
大伴坂上郎女
1485
1486
1487
1488
1489
1490
1491
1492
遊行女婦
1493
大伴村上
1494
1495
1496
1497
高橋連蟲麻呂
 
夏相聞(13首)
  1498
大伴坂上郎女
1499
大伴四縄
1500
大伴坂上郎女
 
 
1501
小治田廣耳
1502
大伴坂上郎女
1503
紀豊河 
1504
高安
 
1505
大神女郎
1506
大伴田村大嬢
1507
1508
1509
1510
秋雜歌(95首)
1511
崗本天皇
1512
大津皇子
1513
穂積皇子
1514
穂積皇子
1515
但馬皇女
1516
山部王 
1517
長屋王 
1518
憶良
1519
憶良
1520
憶良
1521
憶良
1522
憶良
1523
憶良
1524
憶良
1525
憶良
1526
憶良
1527
憶良
1528
憶良
1529
憶良
1530
1531

 
1532
笠金村 
1533
笠金村 
1534
石川老夫
1535
藤原宇合
1536
縁達帥 
1537
憶良
1538
憶良
1539
◇:聖武 
1540
◇:聖武 
1541
大宰帥大伴卿
1542
大宰帥大伴卿
1543
三原王 
1544
湯原王 
1545
湯原王 
1546
市原王 
1547
藤原八束
1548
大伴坂上郎女
1549
紀鹿人 
1550
湯原王 
1551
市原王 
1552
湯原王 
1553
大伴稲公
1554
1555
安貴王 
1556
忌部黒麻呂
1557
丹比真人國人
1558
沙弥尼
1559
沙弥尼
1560
大伴坂上郎女
1561
大伴坂上郎女
1562
巫部麻蘇娘子
1563
1564
日置長枝娘子
1565
1566
1567
1568
1569
1570
藤原八束
1571
藤原八束
1572
1573
大伴利上
1574
右大臣橘家宴歌
1575
右大臣橘家宴歌
1576
巨曽倍津嶋
1577
阿倍朝臣蟲麻呂
1578
阿倍朝臣蟲麻呂
1579
文忌寸馬養
1580
文忌寸馬養
1581
橘奈良麻呂
1582
橘奈良麻呂
1583
久米女王
1584
長忌寸娘
1585
縣犬養吉男
1586
縣犬養吉男
1587
縣犬養持男
1588
大伴書持
1589
三手代人名
1590
秦許遍麻呂
1591
大伴池主
1592
1593
大伴坂上郎女
1594
佛前唱歌
1595
大伴像見
1596
1597
1598
1599
1600
石川廣成
 
 
1601
石川廣成
1602
1603
1604
大原今城
1605
 
秋相聞(30首)
  1606
額田王 
1607
鏡王女 
1608
弓削皇子
1609
丹比真人
1610
丹生女王
1611
笠縫女王
1612
石川賀係女郎
1613
賀茂女王
1614
櫻井王 
1615
◇:聖武 
1616
笠郎女 
1617
山口女王
1618
湯原王 
1619
1620
大伴坂上郎女
1621
巫部麻蘇娘子
1622
大伴田村大嬢
1623
大伴田村大嬢
1624
大伴田村大嬢
1625
1626
1627
1628
1629
1630
1631
1632
1633
或者
1634
或者
1635
 
冬雜歌(19首)
  1636
舎人娘子
1637
太上◇:元正
1638
◇:聖武 
1639
大宰帥大伴卿
1640
大宰帥大伴卿
1641
角廣辨 
1642
安倍奥道
1643
若櫻部君足
1644
三野石守
1645
巨勢宿奈麻呂
1646
小治田東麻呂
1647
忌部黒麻呂
1648
紀少鹿女郎
1649
1650
?阿倍虫麻呂
1651
大伴坂上郎女
1652
他田廣津娘子
1653
縣犬養娘子
1654
大伴坂上郎女
 
冬相聞(9首)
  1655
三國真人人足
1656
大伴坂上郎女
1657
禁酒
 
1658
藤皇后 
1659
他田廣津娘子
1660
大伴駿河麻呂
1661
紀少鹿女郎
1662
大伴田村大娘
1663
             

第八巻

   
 

春雜歌

   
   08/1418
題詞 春雜歌 / 志貴皇子懽御歌一首
題訓 春の雑歌くさぐさのうた  志貴皇子の懽よろこびの御歌みうた一首ひとつ
原文 石激 垂見之上乃 左和良妣乃 毛要出春尓 成来鴨
訓読 石走る垂水の上のさわらびの萌え出づる春になりにけるかも
仮名 いはばしる たるみのうへの さわらびの もえいづるはるに なりにけるかも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 激 [類] 灑
事項 春雑歌 作者:志貴皇子 喜び 植物
訓異 いはばしる;いはそそく, さわらびの;さわらひの, もえいづるはるに;もえいつるはるに,
   
  08/1419
題詞 鏡王女歌一首
題訓 鏡女王かがみのおほきみの歌一首
原文 神奈備乃 伊波瀬乃社之 喚子鳥 痛莫鳴 吾戀益
訓読 神なびの石瀬の社の呼子鳥いたくな鳴きそ我が恋まさる
仮名 かむなびの いはせのもりの よぶこどり いたくななきそ あがこひまさる
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 春雑歌 作者:鏡王女 恋情 慕情 奈良 斑鳩町 地名 動物 枕詞
訓異 かむなびの;かみなひの, よぶこどり;よふことり, あがこひまさる;わかこひまさる,
   
  08/1420
題詞 駿河釆女歌一首
題訓 駿河釆女するがのうねべが歌一首
原文 沫雪香 薄太礼尓零登 見左右二 流倍散波 何物之花其毛
訓読 沫雪かはだれに降ると見るまでに流らへ散るは何の花ぞも
仮名 あわゆきか はだれにふると みるまでに ながらへちるは なにのはなぞも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 春雑歌 作者:駿河釆女 雪
訓異 はだれにふると;はたれにふると, みるまでに;みるまてに, ながらへちるは;なからへちるは, なにのはなぞも;なにのはなそも,
   
  08/1421
題詞 尾張連歌二首 [名闕]
題訓 尾張連をはりのむらじが歌二首ふたつ
原文 春山之 開乃乎為<里>尓 春菜採 妹之白紐 見九四与四門
訓読 春山の咲きのををりに春菜摘む妹が白紐見らくしよしも
仮名 はるやまの さきのををりに はるなつむ いもがしらひも みらくしよしも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 黒→里 [万葉考]
事項 春雑歌 作者:尾張連 野遊び 菜摘牫 恋情 妻問媿
訓異 さきのををりに;さくのをすくるに, はるなつむ;わかなつむ, いもがしらひも;いもかしらひも,
   
  08/1422
題詞 (尾張連歌二首 [名闕])
原文 打<靡> 春来良之 山際 遠木末乃 開徃見者
訓読 うち靡く春来るらし山の際の遠き木末の咲きゆく見れば
仮名 うちなびく はるきたるらし やまのまの とほきこぬれの さきゆくみれば
左注 なし
校異 麾→靡 [類][紀][細]
事項 春雑歌 作者:尾張連 花 山遊び 野遊び 叙景
訓異 うちなびく;うちなひき, はるきたるらし;はるはきぬらし, やまのまの;やまのはの, とほきこぬれの;とほきこすゑの, さきゆくみれば;さきゆくみれは,
   
  08/1423
題詞 中納言阿倍廣庭卿歌一首
題訓 中納言なかのものまをすつかさ阿倍廣庭の卿まへつきみの歌一首
原文 去年春 伊許自而殖之 吾屋外之 若樹梅者 花咲尓家里
訓読 去年の春いこじて植ゑし我がやどの若木の梅は花咲きにけり
仮名 こぞのはる いこじてうゑし わがやどの わかきのうめは はなさきにけり
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 春雑歌 作者:阿倍広庭 植物
訓異 こぞのはる;こそのはる, いこじてうゑし;いこしてうゑし, わがやどの;わかやとの,
   
  08/1424
題詞 山部宿祢赤人歌四首
題訓 山部宿禰赤人が歌四首よつ
原文 春野尓 須美礼採尓等 来師吾曽 野乎奈都可之美 一夜宿二来
訓読 春の野にすみれ摘みにと来し我れぞ野をなつかしみ一夜寝にける
仮名 はるののに すみれつみにと こしわれぞ のをなつかしみ ひとよねにける
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 春雑歌 作者:山部赤人 野遊び 風流 恋情 植物
訓異 こしわれぞ;こしわれそ,
   
  08/1425
題詞 (山部宿祢赤人歌四首)
原文 足比奇乃 山櫻花 日並而 如是開有者 甚戀目夜裳
訓読 あしひきの山桜花日並べてかく咲きたらばいたく恋ひめやも
仮名 あしひきの やまさくらばな ひならべて かくさきたらば いたくこひめやも
左注 なし
校異 なし
事項 春雑歌 作者:山部赤人 野遊び 比喩 恋情 植物
訓異 やまさくらばな;やまさくらはな, ひならべて;ひならへて, かくさきたらば;かくしさけらは, いたくこひめやも;いとこひめやも,
   
  08/1426
題詞 (山部宿祢赤人歌四首)
原文 吾勢子尓 令見常念之 梅花 其十方不所見 雪乃零有者
訓読 我が背子に見せむと思ひし梅の花それとも見えず雪の降れれば
仮名 わがせこに みせむとおもひし うめのはな それともみえず ゆきのふれれば
左注 なし
校異 なし
事項 春雑歌 作者:山部赤人 野遊び 植物
訓異 わがせこに;わかせこに, それともみえず;それともみえす, ゆきのふれれば;ゆきのふれれは,
   
  08/1427
題詞 (山部宿祢赤人歌四首)
原文 従明日者 春菜将採跡 標之野尓 昨日毛今日<母> 雪波布利管
訓読 明日よりは春菜摘まむと標めし野に昨日も今日も雪は降りつつ
仮名 あすよりは はるなつまむと しめしのに きのふもけふも ゆきはふりつつ
左注 なし
校異 毛→母 [類][紀]
事項 春雑歌 作者:山部赤人 野遊び 比喩
訓異 はるなつまむと;わかなつまむと,
   
  08/1428
題詞 草香山歌一首
題訓 草香山くさかやまの歌一首
原文 忍照 難波乎過而 打靡 草香乃山乎 暮晩尓 吾越来者 山毛世尓 咲有馬酔木乃 不悪 君乎何時 徃而早将見
訓読 おしてる 難波を過ぎて うち靡く 草香の山を 夕暮れに 我が越え来れば 山も狭に 咲ける馬酔木の 悪しからぬ 君をいつしか 行きて早見む
仮名 おしてる なにはをすぎて うちなびく くさかのやまを ゆふぐれに わがこえくれば やまもせに さけるあしびの あしからぬ きみをいつしか ゆきてはやみむ
左注 右一首依作者微不顕名字
左注訓 右の一首ひとうたは、作者よみひと微いやしきに依りて名字なを顕さず。
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 春雑歌 東大阪市日下町 生駒山 羈旅 望郷 恋情 地名 植物 枕詞
訓異 なにはをすぎて;なにはをすきて, うちなびく;うちなひく, ゆふぐれに;ゆふくれに, わがこえくれば;わかこえくれは, さけるあしびの;さけるつつしの, あしからぬ;にくからぬ,
   
  08/1429
題詞 櫻花歌一首[并短歌]
題訓 桜の花の歌一首、また短歌みじかうた
原文 D嬬等之 頭挿乃多米尓 遊士之 蘰之多米等 敷座流 國乃波多弖尓 開尓鶏類 櫻花能 丹穂日波母安奈<尓>
訓読 娘子らが かざしのために 風流士の かづらのためと 敷きませる 国のはたてに 咲きにける 桜の花の にほひはもあなに
仮名 をとめらが かざしのために みやびをの かづらのためと しきませる くにのはたてに さきにける さくらのはなの にほひはもあなに
左注 (右二首若宮年魚麻呂誦之)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌 / 何→尓 [類][紀][温]
事項 春雑歌 若宮年魚麻呂 伝誦 予祝 植物
訓異 をとめらが;をとめらか, かざしのために;かさしのために, みやびをの;たはれを, かづらのためと;かつらのためと, にほひはもあなに;にほひはもいかに,
   
  08/1430
題詞 (櫻花歌一首[并短歌])反歌
題訓 反し歌
原文 去年之春 相有之君尓 戀尓手師 櫻花者 迎来良之母
訓読 去年の春逢へりし君に恋ひにてし桜の花は迎へけらしも
仮名 こぞのはる あへりしきみに こひにてし さくらのはなは むかへけらしも
左注 右二首若宮年魚麻呂誦之
左注訓 右の二首は、若宮年魚麻呂わかみやのあゆまろ誦うたへりき。
校異 歌 [西] 謌
事項 春雑歌 若宮年魚麻呂 伝誦 恋愛 予祝 植物
訓異 こぞのはる;こそのはる, むかへけらしも;むかへくらしも,
   
  08/1431
題詞 山部宿祢赤人歌一首
題訓 山部宿禰赤人が歌一首
原文 百濟野乃 芽古枝尓 待春跡 居之鴬 鳴尓鶏鵡鴨
訓読 百済野の萩の古枝に春待つと居りし鴬鳴きにけむかも
仮名 くだらのの はぎのふるえに はるまつと をりしうぐひす なきにけむかも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌
事項 春雑歌 作者:山部赤人 奈良県 広陵町 地名 植物 動物
訓異 くだらのの;くたらのの, はぎのふるえに;はきのふるえに, をりしうぐひす;すみしうくひす,
   
  08/1432
題詞 大伴坂上郎女柳歌二首
題訓 大伴坂上郎女が柳の歌二首
原文 吾背兒我 見良牟佐保道乃 青柳乎 手折而谷裳 見<縁>欲得
訓読 我が背子が見らむ佐保道の青柳を手折りてだにも見むよしもがも
仮名 わがせこが みらむさほぢの あをやぎを たをりてだにも みむよしもがも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 綵→縁 [代匠記初稿本]
事項 春雑歌 作者:坂上郎女 奈良 佐保 望郷 恋情 羈旅 植物 地名
訓異 わがせこが;わかせこか, みらむさほぢの;みらむさほちの, あをやぎを;あをやきを, たをりてだにも;たをりてたにも, みむよしもがも;みるいろにもか,
   
  08/1433
題詞 (大伴坂上郎女柳歌二首)
原文 打上 佐保能河原之 青柳者 今者春部登 成尓鶏類鴨
訓読 うち上る佐保の川原の青柳は今は春へとなりにけるかも
仮名 うちのぼる さほのかはらの あをやぎは いまははるへと なりにけるかも
左注 なし
校異 なし
事項 春雑歌 作者:坂上郎女 奈良 佐保 地名 植物
訓異 うちのぼる;うちあくる, あをやぎは;あをやきは,
   
  08/1434
題詞 大伴宿祢三林梅歌一首
題訓 大伴宿禰三依みよりが梅の歌一首
原文 霜雪毛 未過者 不思尓 春日里尓 梅花見都
訓読 霜雪もいまだ過ぎねば思はぬに春日の里に梅の花見つ
仮名 しもゆきも いまだすぎねば おもはぬに かすがのさとに うめのはなみつ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 春雑歌 作者:大伴三林 奈良 春日 地名 植物
訓異 いまだすぎねば;いまたすきねは, おもはぬに;おもはすに, かすがのさとに;かすかのさとに,
   
  08/1435
題詞 厚見王歌一首
題訓 厚見王あつみのおほきみの歌一首
原文 河津鳴 甘南備河尓 陰所見<而> 今香開良武 山振乃花
訓読 かはづ鳴く神奈備川に影見えて今か咲くらむ山吹の花
仮名 かはづなく かむなびかはに かげみえて いまかさくらむ やまぶきのはな
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <>→而 [類][紀]
事項 春雑歌 作者:厚見王 飛鳥川 竜田川 地名 植物
訓異 かはづなく;かはつなく, かむなびかはに;かみなひかはに, かげみえて;かけみえて, いまかさくらむ;いまやさくらむ, やまぶきのはな;やまふきのはな,
   
  08/1436
題詞 大伴宿祢村上梅歌二首
題訓 大伴宿禰村上が梅の歌二首
原文 含有常 言之梅我枝 今旦零四 沫雪二相而 将開可聞
訓読 含めりと言ひし梅が枝今朝降りし沫雪にあひて咲きぬらむかも
仮名 ふふめりと いひしうめがえ けさふりし あわゆきにあひて さきぬらむかも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 春雑歌 作者:大伴村上 植物
訓異 いひしうめがえ;いひしうめかえ, けさふりし;けふふりし, さきぬらむかも;さきにけはかも,
   
  08/1437
題詞 (大伴宿祢村上梅歌二首)
原文 霞立 春日之里 梅花 山下風尓 落許須莫湯目
訓読 霞立つ春日の里の梅の花山のあらしに散りこすなゆめ
仮名 かすみたつ かすがのさとの うめのはな やまのあらしに ちりこすなゆめ
左注 なし
校異 なし
事項 春雑歌 作者:大伴村上 奈良 春日 地名 植物
訓異 かすがのさとの;かすかのさとの, やまのあらしに;やましたかせに,
   
  08/1438
題詞 大伴宿祢駿河丸歌一首
題訓 大伴宿禰駿河麻呂するがまろが歌一首
原文 霞立 春日里之 梅花 波奈尓将問常 吾念奈久尓
訓読 霞立つ春日の里の梅の花花に問はむと我が思はなくに
仮名 かすみたつ かすがのさとの うめのはな はなにとはむと わがおもはなくに
左注 なし
校異 なし
事項 春雑歌 作者:大伴駿河麻呂 奈良 春日 地名 植物
訓異 かすがのさとの;かすかのさとの, わがおもはなくに;わかおもはなくに,
   
  08/1439
題詞 中臣朝臣武良自歌一首
題訓 中臣朝臣武良自むらじが歌一首
原文 時者今者 春尓成跡 三雪零 遠山邊尓 霞多奈婢久
訓読 時は今は春になりぬとみ雪降る遠山の辺に霞たなびく
仮名 ときはいまは はるになりぬと みゆきふる とほやまのへに かすみたなびく
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 春雑歌 作者:中臣武良自 季節
訓異 とほやまのへに;とほきやまへに, かすみたなびく;かすみたなひく,
   
  08/1440
題詞 河邊朝臣東人歌一首
題訓 河邊朝臣東人かはへのあそみあづまひとが歌一首
原文 春雨乃 敷布零尓 高圓 山能櫻者 何如有良武
訓読 春雨のしくしく降るに高円の山の桜はいかにかあるらむ
仮名 はるさめの しくしくふるに たかまとの やまのさくらは いかにかあるらむ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 春雑歌 作者:河辺東人 高円山 奈良 地名 植物
訓異 はるさめの;はるのあめの, しくしくふるに;しきしきふるに,
   
  08/1441
題詞 大伴宿祢家持鴬歌一首
題訓 大伴宿禰家持が鴬の歌一首
原文 打霧之 雪者零乍 然為我二 吾宅乃苑尓 鴬鳴裳
訓読 うち霧らひ雪は降りつつしかすがに我家の苑に鴬鳴くも
仮名 うちきらし ゆきはふりつつ しかすがに わぎへのそのに うぐひすなくも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 春雑歌 作者:大伴家持 動物 季節
訓異 しかすがに;しかすかに, わぎへのそのに;わかへのそのに, うぐひすなくも;うくひすなくも,
   
  08/1442
題詞 大蔵少輔丹比屋主真人歌一首
題訓 大蔵少輔おほくらのすなきすけ丹比屋主真人たぢひのやぬしのまひとが歌一首
原文 難波邊尓 人之行礼波 後居而 春菜採兒乎 見之悲也
訓読 難波辺に人の行ければ後れ居て春菜摘む子を見るが悲しさ
仮名 なにはへに ひとのゆければ おくれゐて はるなつむこを みるがかなしさ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 春雑歌 作者:丹比屋主 菜摘牫 大阪 恋情 地名
訓異 ひとのゆければ;ひとのゆけれは, はるなつむこを;わかなつむこを, みるがかなしさ;みるかかなしさ,
   
  08/1443
題詞 丹比真人乙麻呂歌一首 [屋主真人之第二子也]
題訓 丹比真人乙麻呂おとまろが歌一首
原文 霞立 野上乃方尓 行之可波 鴬鳴都 春尓成良思
訓読 霞立つ野の上の方に行きしかば鴬鳴きつ春になるらし
仮名 かすみたつ ののへのかたに ゆきしかば うぐひすなきつ はるになるらし
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 春雑歌 作者:丹比乙麻呂 野遊び 動物 季節
訓異 ののへのかたに;のかみのかたに, ゆきしかば;ゆくしかは, うぐひすなきつ;うくひすなきつ,
   
  08/1444
題詞 高田女王歌一首 [高安之女也]
題訓 高田女王の歌一首
原文 山振之 咲有野邊乃 都保須美礼 此春之雨尓 盛奈里鶏利
訓読 山吹の咲きたる野辺のつほすみれこの春の雨に盛りなりけり
仮名 やまぶきの さきたるのへの つほすみれ このはるのあめに さかりなりけり
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 春雑歌 作者:高田女王 大原高安 高安王 植物 叙景
訓異 やまぶきの;やまふきの, このはるのあめに;このはるさめに,
   
  08/1445
題詞 大伴坂上郎女歌一首
題訓 大伴坂上郎女が歌一首
原文 風交 雪者雖零 實尓不成 吾宅之梅乎 花尓令落莫
訓読 風交り雪は降るとも実にならぬ我家の梅を花に散らすな
仮名 かぜまじり ゆきはふるとも みにならぬ わぎへのうめを はなにちらすな
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 春雑歌 作者:坂上郎女 比喩 植物
訓異 かぜまじり;かせませに, ゆきはふるとも;ゆきはふれとも, わぎへのうめを;わきへのうめを,
   
  08/1446
題詞 大伴宿祢家持<春>雉歌一首
題訓 大伴宿禰家持が春雉きぎしの歌一首
原文 春野尓 安佐留雉乃 妻戀尓 己我當乎 人尓令知管
訓読 春の野にあさる雉の妻恋ひにおのがあたりを人に知れつつ
仮名 はるののに あさるきぎしの つまごひに おのがあたりを ひとにしれつつ
左注 なし
校異 養→春 [西(訂正)][紀][温][矢] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 春雑歌 作者:大伴家持 動物
訓異 はるののに;はるのに, あさるきぎしの;あさるききすの, つまごひに;つまこひに, おのがあたりを;おのかあたりを,
   
  08/1447
題詞 大伴坂上郎女歌一首
題訓 大伴坂上郎女が歌一首
原文 尋常 聞者苦寸 喚子鳥 音奈都炊 時庭成奴
訓読 世の常に聞けば苦しき呼子鳥声なつかしき時にはなりぬ
仮名 よのつねに きけばくるしき よぶこどり こゑなつかしき ときにはなりぬ
左注 右一首天平四年三月一日佐保宅作
左注訓 右ノ一首、天平四年三月一日、佐保ノ宅ニテ作ヨメリ。
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 春雑歌 作者:坂上郎女 動物 季節
訓異 きけばくるしき;きくはくるしき, よぶこどり;よふことり, こゑなつかしき;こえなつかしき,
   
 

春相聞

   
  08/1448
題詞 春相聞 / 大伴宿祢家持贈坂上家之大嬢歌一首
題訓 春の相聞したしみうた 大伴宿禰家持が坂上さかのへの家の大嬢おほいらつめに贈れる歌一首
原文 吾屋外尓 蒔之瞿麥 何時毛 花尓咲奈武 名蘇經乍見武
訓読 我がやどに蒔きしなでしこいつしかも花に咲きなむなそへつつ見む
仮名 わがやどに まきしなでしこ いつしかも はなにさきなむ なそへつつみむ
左注 なし
校異 なし
事項 春相聞 作者:大伴家持 坂上大嬢 贈答 恋情 植物
訓異 わがやどに;わかやとに, まきしなでしこ;まきしなてしこ, はなにさきなむ;はなにさかなむ,
   
  08/1449
題詞 大伴田村家<之>大嬢與妹坂上大嬢歌一首
題訓 大伴田村家おほとものたむらのいへの大嬢が妹いも坂上大嬢さかのへのおほいらつめに与おくれる歌一首
原文 茅花抜 淺茅之原乃 都保須美礼 今盛有 吾戀苦波
訓読 茅花抜く浅茅が原のつほすみれ今盛りなり我が恋ふらくは
仮名 つばなぬく あさぢがはらの つほすみれ いまさかりなり あがこふらくは
左注 なし
校異 毛→之 [代匠記初稿本] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 春相聞 作者:田村大嬢 坂上大嬢 贈答 恋情 植物
訓異 つばなぬく;つはなぬく, あさぢがはらの;あさちかはらの, いまさかりなり;いまさかりあり, あがこふらくは;わかこふらくは,
   
  08/1450
題詞 大伴宿祢坂上郎女歌一首
題訓 大伴宿禰家持が坂上郎女に贈れる歌一首
原文 情具伎 物尓曽有鶏類 春霞 多奈引時尓 戀乃繁者
訓読 心ぐきものにぞありける春霞たなびく時に恋の繁きは
仮名 こころぐき ものにぞありける はるかすみ たなびくときに こひのしげきは
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 春相聞 作者:坂上郎女 恋情
訓異 こころぐき;こころくき, ものにぞありける;ものにそありける, たなびくときに;たなひくときに, こひのしげきは;こひのしけれは,
   
  08/1451
題詞 笠女郎贈大伴家持歌一首
題訓 笠女郎が大伴家持に贈れる歌一首
原文 水鳥之 鴨乃羽色乃 春山乃 於保束無毛 所念可聞
訓読 水鳥の鴨の羽色の春山のおほつかなくも思ほゆるかも
仮名 みづどりの かものはいろの はるやまの おほつかなくも おもほゆるかも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 春相聞 作者:笠郎女 大伴家持 贈答 恋情 動物
訓異 みづどりの;みつとりの, おもほゆるかも;おほほゆるかも,
   
  08/1452
題詞 紀女郎歌一首 [名曰小鹿也]
題訓 紀女郎が歌一首
原文 闇夜有者 宇倍毛不来座 梅花 開月夜尓 伊而麻左自常屋
訓読 闇ならばうべも来まさじ梅の花咲ける月夜に出でまさじとや
仮名 やみならば うべもきまさじ うめのはな さけるつくよに いでまさじとや
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 春相聞 作者:紀女郎 小鹿 恋情 怨恨 植物 贈答
訓異 やみならば;やみなれは, うべもきまさじ;うへもきまさす, さけるつくよに;さけるつきよに, いでまさじとや;いてまさしとや,
   
  08/1453
題詞 天平五年癸酉春閏三月笠朝臣金村贈入唐使歌一首[并短歌]
題訓 天平てむひやう五年いつとせといふとし癸酉みづのととり春閏三月のちのやよひ、笠朝臣金村が入唐使もろこしにつかはすつかひに贈れる歌一首、また短歌
原文 玉手次 不懸時無 氣緒尓 吾念公者 虚蝉之 <世人有者 大王之> 命恐 夕去者 鶴之妻喚 難波方 三津埼従 大舶尓 二梶繁貫 白浪乃 高荒海乎 嶋傳 伊別徃者 留有 吾者幣引 齋乍 公乎者将<待> 早還万世
訓読 玉たすき 懸けぬ時なく 息の緒に 我が思ふ君は うつせみの 世の人なれば 大君の 命畏み 夕されば 鶴が妻呼ぶ 難波潟 御津の崎より 大船に 真楫しじ貫き 白波の 高き荒海を 島伝ひ い別れ行かば 留まれる 我れは幣引き 斎ひつつ 君をば待たむ 早帰りませ
仮名 たまたすき かけぬときなく いきのをに あがおもふきみは うつせみの よのひとなれば おほきみの みことかしこみ ゆふされば たづがつまよぶ なにはがた みつのさきより おほぶねに まかぢしじぬき しらなみの たかきあるみを しまづたひ いわかれゆかば とどまれる われはぬさひき いはひつつ きみをばまたむ はやかへりませ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌 / <>→世人有者 大王之 [代匠記初稿本] / 徃→待 [代匠記初稿本]
事項 春相聞 作者:笠金村 入唐使 贈答 送別 遣唐使 枕詞 地名 大阪 餞別 天平5年閏3月 年紀
訓異 あがおもふきみは;わかおもふきみは, よのひとなれば, おほきみの, ゆふされば;ゆふされは, たづがつまよぶ;たつのつまよふ, なにはがた;なにはかた, おほぶねに;おほふねに, まかぢしじぬき;まかちししぬき, しまづたひ;しまつたひ, いわかれゆかば;いわかれゆけは, とどまれる;ととまれる, われはぬさひき;われはたむけに, きみをばまたむ;きみをはやらむ,
   
  08/1454
題詞 (天平五年癸酉春閏三月笠朝臣金村贈入唐使歌一首[并短歌])反歌
題訓 反し歌
原文 波上従 所見兒嶋之 雲隠 穴氣衝之 相別去者
訓読 波の上ゆ見ゆる小島の雲隠りあな息づかし相別れなば
仮名 なみのうへゆ みゆるこしまの くもがくり あないきづかし あひわかれなば
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 春相聞 作者:笠金村 入唐使 贈答 送別 遣唐使 餞別 天平5年閏3月 年紀
訓異 くもがくり;くもかくれ, あないきづかし;あないきつかし, あひわかれなば;あひわかれなは,
   
  08/1455
題詞 ((天平五年癸酉春閏三月笠朝臣金村贈入唐使歌一首[并短歌])反歌)
原文 玉切 命向 戀従者 公之三舶乃 梶柄母我
訓読 たまきはる命に向ひ恋ひむゆは君が御船の楫柄にもが
仮名 たまきはる いのちにむかひ こひむゆは きみがみふねの かぢからにもが
左注 なし
校異 なし
事項 春相聞 作者:笠金村 入唐使 贈答 送別 遣唐使 枕詞 天平5年閏3月 年紀
訓異 いのちにむかひ;いのちにむかふ, こひむゆは;こひよりは, きみがみふねの;きみかみふねの, かぢからにもが;かちからもわか,
   
  08/1456
題詞 藤原朝臣廣嗣櫻花贈娘子歌一首
題訓 藤原朝臣廣嗣が桜の花を娘子に贈れる歌一首
原文 此花乃 一与能内尓 百種乃 言曽隠有 於保呂可尓為莫
訓読 この花の一節のうちに百種の言ぞ隠れるおほろかにすな
仮名 このはなの ひとよのうちに ももくさの ことぞこもれる おほろかにすな
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 春相聞 作者:藤原広嗣 娘子 贈答
訓異 ことぞこもれる;ことそこもれる,
   
  08/1457
題詞 娘子和歌一首
題訓 娘子が和ふる歌一首
原文 此花乃 一与能裏波 百種乃 言持不勝而 所折家良受也
訓読 この花の一節のうちは百種の言待ちかねて折らえけらずや
仮名 このはなの ひとよのうちは ももくさの ことまちかねて をらえけらずや
左注 なし
校異 歌 [西] 謌
事項 春相聞 藤原広嗣 作者:娘子 和歌 贈答
訓異 ことまちかねて;こともちかねて, をらえけらずや;をられけらすや,
   
  08/1458
題詞 厚見王贈久米女郎歌一首
題訓 厚見王の久米女郎に贈れる歌一首
原文 室戸在 櫻花者 今毛香聞 松風疾 地尓落良武
訓読 やどにある桜の花は今もかも松風早み地に散るらむ
仮名 やどにある さくらのはなは いまもかも まつかぜはやみ つちにちるらむ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 春相聞 作者:厚見王 久米女郎 贈答 比喩 心変柜り 植物
訓異 やどにある;やとにある, まつかぜはやみ;まつかせはやみ,
   
  08/1459
題詞 久米女郎報贈歌一首
題訓 久米女郎が報へまつれる歌一首
原文 世間毛 常尓師不有者 室戸尓有 櫻花乃 不所比日可聞
訓読 世間も常にしあらねばやどにある桜の花の散れるころかも
仮名 よのなかも つねにしあらねば やどにある さくらのはなの ちれるころかも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌
事項 春相聞 作者:久米女郎 贈答 厚見王 植物
訓異 つねにしあらねば;つねにしあらねは, やどにある;やとにある,
   
  08/1460
題詞 紀女郎贈大伴宿祢家持歌二首
題訓 紀女郎が合歓木花ねぶのはなと茅花ちばなとを折り攀よぢて、大伴宿禰家持に贈れる歌二首
原文 戯奴 [變云 和氣] 之為 吾手母須麻尓 春野尓 抜流茅花曽 御食而肥座
訓読 戯奴 [變云 わけ] がため我が手もすまに春の野に抜ける茅花ぞ食して肥えませ
仮名 わけ[わけ] がため わがてもすまに はるののに ぬけるつばなぞ めしてこえませ
左注 (右折<攀>合歡花并茅花贈也)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 春相聞 作者:紀女郎 大伴家持 贈答 植物
訓異 わけ[わけ],がため;わけかため, わがてもすまに;わかてもすまに, ぬけるつばなぞ;ぬけるつはなそ,
   
  08/1461
題詞 (紀女郎贈大伴宿祢家持歌二首)
原文 晝者咲 夜者戀宿 合歡木花 君耳将見哉 和氣佐倍尓見代
訓読 昼は咲き夜は恋ひ寝る合歓木の花君のみ見めや戯奴さへに見よ
仮名 ひるはさき よるはこひぬる ねぶのはな きみのみみめや わけさへにみよ
左注 右折<攀>合歡花并茅花贈也
左注訓
校異 擧→攀 [細][温][矢][京]
事項 春相聞 作者:紀女郎 大伴家持 贈答 植物
訓異 ねぶのはな;ねふのはな, きみのみみめや;きみのみみむや,
   
  08/1462
題詞 大伴家持贈和歌二首
題訓 大伴家持が贈和こたふる歌二首
原文 吾君尓 戯奴者戀良思 給有 茅花手雖喫 弥痩尓夜須
訓読 我が君に戯奴は恋ふらし賜りたる茅花を食めどいや痩せに痩す
仮名 あがきみに わけはこふらし たばりたる つばなをはめど いややせにやす
左注 なし
校異 なし
事項 春相聞 作者:大伴家持 和歌 紀女郎 植物 贈答
訓異 あがきみに;わかきみに, たばりたる;たまひたる, つばなをはめど;つはなをくへと,
   
  08/1463
題詞 (大伴家持贈和歌二首)
原文 吾妹子之 形見乃合歡木者 花耳尓 咲而盖 實尓不成鴨
訓読 我妹子が形見の合歓木は花のみに咲きてけだしく実にならじかも
仮名 わぎもこが かたみのねぶは はなのみに さきてけだしく みにならじかも
左注 なし
校異 なし
事項 春相聞 作者:大伴家持 和歌 紀女郎 植物 贈答
訓異 わぎもこが;わきもこか, かたみのねぶは;かたみのねふは, さきてけだしく;さきてけたしも, みにならじかも;みにならぬかも,
   
  08/1464
題詞 大伴家持贈坂上大嬢歌一首
題訓 大伴家持が坂上大嬢に贈れる歌一首
原文 春霞 軽引山乃 隔者 妹尓不相而 月曽經去来
訓読 春霞たなびく山のへなれれば妹に逢はずて月ぞ経にける
仮名 はるかすみ たなびくやまの へなれれば いもにあはずて つきぞへにける
左注 右従久邇京贈寧樂宅
左注訓 右、久邇京ヨリ寧樂ノ宅ニ贈レリ。
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 春相聞 作者:大伴家持 坂上大嬢 贈答 恋情
訓異 たなびくやまの;たなひくやまの
  へなれれば;へたたれは, いもにあはずて;いもにあはすて, つきぞへにける;つきそへにける,
   
 

夏雜歌

   
  08/1465
題詞 夏雜歌 / 藤原夫人歌<一首> [明日香清御原<宮>御宇天皇之夫人也 字曰大原大刀自 即新田部皇子之母也]
題訓 夏の雑歌くさぐさのうた 藤原夫人ふぢはらのおほとじの歌一首
原文 霍公鳥 痛莫鳴 汝音乎 五月玉尓 相貫左右二
訓読 霍公鳥いたくな鳴きそ汝が声を五月の玉にあへ貫くまでに
仮名 ほととぎす いたくななきそ ながこゑを さつきのたまに あへぬくまでに
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 歌 [西] 謌 / <>→一首 [類][紀] / <>→宮 [紀][温][矢]
事項 夏雑歌 作者:藤原夫人 大原大刀自 天武天皇 新田部皇子 動物
訓異 ほととぎす;ほとときす, ながこゑを;なかこゑを, あへぬくまでに;あひぬくまてに,
   
  08/1466
題詞 志貴皇子御歌一首
題訓 志貴皇子の御歌一首
原文 神名火乃 磐瀬之<社>之 霍公鳥 毛無乃岳尓 何時来将鳴
訓読 神奈備の石瀬の社の霍公鳥毛無の岡にいつか来鳴かむ
仮名 かむなびの いはせのもりの ほととぎす けなしのをかに いつかきなかむ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 杜→社 [類][紀]
事項 夏雑歌 作者:志貴皇子 奈良 斑鳩 動物 地名
訓異 かむなびの;かみなひの, ほととぎす;ほとときす, けなしのをかに;ならしのをかに,
   
  08/1467
題詞 弓削皇子御歌一首
題訓 弓削皇子の御歌一首
原文 霍公鳥 無流國尓毛 去而師香 其鳴音手 間者辛苦母
訓読 霍公鳥なかる国にも行きてしかその鳴く声を聞けば苦しも
仮名 ほととぎす なかるくににも ゆきてしか そのなくこゑを きけばくるしも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌
事項 夏雑歌 作者:弓削皇子 動物
訓異 ほととぎす;ほとときす, きけばくるしも;きけはくるしも,
   
  08/1468
題詞 小治田廣瀬王霍公鳥歌一首
題訓 小治田をはりだの廣瀬王の霍公鳥の歌一首
原文 霍公鳥 音聞小野乃 秋風<尓> 芽開礼也 聲之乏寸
訓読 霍公鳥声聞く小野の秋風に萩咲きぬれや声の乏しき
仮名 ほととぎす こゑきくをのの あきかぜに はぎさきぬれや こゑのともしき
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <>→尓 [類][紀]
事項 夏雑歌 作者:小治田広瀬王 動物 植物
訓異 ほととぎす;ほとときす, あきかぜに;あきかせに, はぎさきぬれや;はきさきたれや,
   
  08/1469
題詞 沙弥霍公鳥歌一首
題訓 沙弥が霍公鳥の歌一首
原文 足引之 山霍公鳥 汝鳴者 家有妹 常所思
訓読 あしひきの山霍公鳥汝が鳴けば家なる妹し常に偲はゆ
仮名 あしひきの やまほととぎす ながなけば いへなるいもし つねにしのはゆ
左注 なし
校異 なし
事項 夏雑歌 作者:沙弥 恋情 望郷 動物
訓異 やまほととぎす;やまほとときす, ながなけば;なかなけは, いへなるいもし;いへにあるいも, つねにしのはゆ;つねにおもほゆ,
   
  08/1470
題詞 刀理宣令歌一首
題訓 刀理宣令とりのせむりやうが歌一首
原文 物部乃 石瀬之<社>乃 霍公鳥 今毛鳴奴<香> 山之常影尓
訓読 もののふの石瀬の社の霍公鳥今も鳴かぬか山の常蔭に
仮名 もののふの いはせのもりの ほととぎす いまもなかぬか やまのとかげに
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(別筆訂正)] 歌 / 杜→社 [西(訂正)][類][紀] / <>→香 [代匠記初稿本]
事項 夏雑歌 作者:刀理宣令 奈良 斑鳩 地名 動物
訓異 ほととぎす;ほとときす, やまのとかげに;やまのとかけに,
   
  08/1471
題詞 山部宿祢赤人歌一首
題訓 山部宿禰赤人が歌一首
原文 戀之家婆 形見尓将為跡 吾屋戸尓 殖之藤浪 今開尓家里
訓読 恋しけば形見にせむと我がやどに植ゑし藤波今咲きにけり
仮名 こひしけば かたみにせむと わがやどに うゑしふぢなみ いまさきにけり
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 夏雑歌 作者:山部赤人 恋情 植物
訓異 こひしけば;こひしけは, わがやどに;わかやとに, うゑしふぢなみ;うえしふちなみ,
   
  08/1472
題詞 式部大輔石上堅魚朝臣歌一首
題訓 式部大輔のりのつかさのおほきすけ石上堅魚いそのかみのかつをの朝臣が歌一首
原文 霍公鳥 来鳴令響 宇乃花能 共也来之登 問麻思物乎
訓読 霍公鳥来鳴き響もす卯の花の伴にや来しと問はましものを
仮名 ほととぎす きなきとよもす うのはなの ともにやこしと とはましものを
左注 右神龜五年戊辰大宰帥大伴卿之妻大伴郎女遇病長逝焉 于時 勅使式部大輔石上朝臣堅魚遣<大>宰府弔喪并賜物也 其事既畢驛使及府諸卿大夫等共登記夷城而望遊之日乃作此歌
左注訓 右、神亀五年戊辰、太宰帥大伴卿ノ妻大伴郎女、 病ニ遇ヒテ長逝ス。時ニ勅使式部大輔石上朝臣 堅魚ヲ太宰府イ遣シテ、弔喪ト賜物トセシム。 其ノ事既ニ畢リテ、駅使ト府ノ諸卿大夫等ト、 共ニ記夷城ニ登リテ望遊セシ日、乃チ此ノ歌ヲ 作メリ。
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 太→大 [紀][温] / 歌 [西] 謌
事項 夏雑歌 作者:石上堅魚 太宰府 大伴旅人 動物 植物
訓異 ほととぎす;ほとときす, きなきとよもす;きなきとよます,
   
  08/1473
題詞 <大>宰帥大伴卿和歌一首
題訓 太宰帥おほみこともちのかみ大伴卿おほとものまへつきみの和へたまへる歌一首
原文 橘之 花散里乃 霍公鳥 片戀為乍 鳴日四曽多寸
訓読 橘の花散る里の霍公鳥片恋しつつ鳴く日しぞ多き
仮名 たちばなの はなちるさとの ほととぎす かたこひしつつ なくひしぞおほき
左注 なし
校異 太→大 [紀][温][矢] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 夏雑歌 作者:大伴旅人 太宰府 和歌 石上堅魚 非情 恋情 植物 動物
訓異 たちばなの;たちはなの, ほととぎす;ほとときす, なくひしぞおほき;なくひしそおほき,
   
  08/1474
題詞 大伴坂上郎女思筑紫大城山歌一首
題訓 大伴坂上郎女が筑紫の大城山おほきのやまを思しぬふ歌一首
原文 今毛可聞 大城乃山尓 霍公鳥 鳴令響良武 吾無礼杼毛
訓読 今もかも大城の山に霍公鳥鳴き響むらむ我れなけれども
仮名 いまもかも おほきのやまに ほととぎす なきとよむらむ われなけれども
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 夏雑歌 作者:坂上郎女 奈良 大野城 回顧 太宰府 地名 動物
訓異 ほととぎす;ほとときす, われなけれども;われなけれとも,
   
  08/1475
題詞 大伴坂上郎女霍公鳥歌一首
題訓 大伴坂上郎女が霍公鳥の歌一首
原文 何奇毛 幾許戀流 霍公鳥 鳴音聞者 戀許曽益礼
訓読 何しかもここだく恋ふる霍公鳥鳴く声聞けば恋こそまされ
仮名 なにしかも ここだくこふる ほととぎす なくこゑきけば こひこそまされ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 奇 [類][温] 哥
事項 夏雑歌 作者:坂上郎女 恋情 動物
訓異 ここだくこふる;ここはくこふる, ほととぎす;ほとときす, なくこゑきけば;なくこゑきけは,
   
  08/1476
題詞 小治田朝臣廣耳歌一首
題訓 小治田朝臣廣耳ひろみみが歌一首
原文 獨居而 物念夕尓 霍公鳥 従此間鳴渡 心四有良思
訓読 ひとり居て物思ふ宵に霍公鳥こゆ鳴き渡る心しあるらし
仮名 ひとりゐて ものもふよひに ほととぎす こゆなきわたる こころしあるらし
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 夏雑歌 作者:小治田広耳 恋情 動物
訓異 ものもふよひに;ものおもふよひに, ほととぎす;ほとときす, こころしあるらし;こころしてあるらし,
   
  08/1477
題詞 大伴家持霍公鳥歌一首
題訓 大伴家持が霍公鳥の歌一首
原文 宇能花毛 未開者 霍公鳥 佐保乃山邊 来鳴令響
訓読 卯の花もいまだ咲かねば霍公鳥佐保の山辺に来鳴き響もす
仮名 うのはなも いまださかねば ほととぎす さほのやまへに きなきとよもす
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 夏雑歌 作者:大伴家持 佐保 奈良 動物 地名 植物
訓異 いまださかねば;いまたさかねは, ほととぎす;ほとときす, さほのやまへに;さほのやまへを, きなきとよもす;きなきとよます,
   
  08/1478
題詞 大伴家持橘歌一首
題訓 大伴家持が橘の歌一首
原文 吾屋前之 花橘乃 何時毛 珠貫倍久 其實成奈武
訓読 我が宿の花橘のいつしかも玉に貫くべくその実なりなむ
仮名 わがやどの はなたちばなの いつしかも たまにぬくべく そのみなりなむ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌
事項 夏雑歌 作者:大伴家持 植物
訓異 わがやどの;わかやとの, はなたちばなの;はなたちはなの, たまにぬくべく;たまにぬくへく,
   
  08/1479
題詞 大伴家持晩蝉歌一首
題訓 大伴家持が晩蝉ひぐらしの歌一首
原文 隠耳 居者欝悒 奈具左武登 出立聞者 来鳴日晩
訓読 隠りのみ居ればいぶせみ慰むと出で立ち聞けば来鳴くひぐらし
仮名 こもりのみ をればいぶせみ なぐさむと いでたちきけば きなくひぐらし
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 夏雑歌 作者:大伴家持 鬱屈 動物
訓異 こもりのみ;しのひのみ, をればいぶせみ;をれはいふかし, なぐさむと;なくさむと, いでたちきけば;いてたちきけは, きなくひぐらし;きなくひくらし,
   
  08/1480
題詞 大伴書持歌二首
題訓 大伴書持ふみもちが歌二首
原文 我屋戸尓 月押照有 霍公鳥 心有今夜 来鳴令響
訓読 我が宿に月おし照れり霍公鳥心あれ今夜来鳴き響もせ
仮名 わがやどに つきおしてれり ほととぎす こころあれこよひ きなきとよもせ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 夏雑歌 作者:大伴書持 動物
訓異 わがやどに;わかやとに, ほととぎす;ほとときす, こころあれこよひ;こころあるこよひ, きなきとよもせ;きなきとよませ,
   
  08/1481
題詞 (大伴書持歌二首)
原文 我屋<戸>前乃 花橘尓 霍公鳥 今社鳴米 友尓相流時
訓読 我が宿の花橘に霍公鳥今こそ鳴かめ友に逢へる時
仮名 わがやどの はなたちばなに ほととぎす いまこそなかめ ともにあへるとき
左注 なし
校異 <>→戸 [類][紀]
事項 夏雑歌 作者:大伴書持 植物 動物
訓異 わがやどの;わかやとの, はなたちばなに;はなたちはなに, ほととぎす;ほとときす,
   
  08/1482
題詞 大伴清縄歌一首
題訓 大伴清繩きよなはが歌一首
原文 皆人之 待師宇能花 雖落 奈久霍公鳥 吾将忘哉
訓読 皆人の待ちし卯の花散りぬとも鳴く霍公鳥我れ忘れめや
仮名 みなひとの まちしうのはな ちりぬとも なくほととぎす われわすれめや
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 夏雑歌 作者:大伴清縄 植物 動物
訓異 ちりぬとも;ちるといへと, なくほととぎす;なくほとときす,
   
  08/1483
題詞 奄君諸立歌一首
題訓 庵君諸立いほりのきみもろたちが歌一首
原文 吾背子之 屋戸乃橘 花乎吉美 鳴霍公鳥 見曽吾来之
訓読 我が背子が宿の橘花をよみ鳴く霍公鳥見にぞ我が来し
仮名 わがせこが やどのたちばな はなをよみ なくほととぎす みにぞわがこし
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 夏雑歌 作者:奄君諸立 宴席 主人讃美 植物 動物
訓異 わがせこが;わかせこか, やどのたちばな;やとのたちはな, なくほととぎす;なくほとときす, みにぞわがこし;みにそわかこし,
   
  08/1484
題詞 大伴坂上郎女歌一首
題訓 大伴坂上郎女が歌一首
原文 霍公鳥 痛莫鳴 獨居而 寐乃不所宿 聞者苦毛
訓読 霍公鳥いたくな鳴きそひとり居て寐の寝らえぬに聞けば苦しも
仮名 ほととぎす いたくななきそ ひとりゐて いのねらえぬに きけばくるしも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 夏雑歌 作者:坂上郎女 動物
訓異 ほととぎす;ほとときす, いのねらえぬに;いのねらぬに, きけばくるしも;きけはくるしも,
   
  08/1485
題詞 大伴家持唐棣花歌一首
題訓 大伴家持が唐棣花はねずの歌一首
原文 夏儲而 開有波祢受 久方乃 雨打零者 将移香
訓読 夏まけて咲きたるはねずひさかたの雨うち降らば移ろひなむか
仮名 なつまけて さきたるはねず ひさかたの あめうちふらば うつろひなむか
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 夏雑歌 作者:大伴家持 植物
訓異 さきたるはねず;さきたるはねす, あめうちふらば;あめうちふらは,
   
  08/1486
題詞 大伴家持恨霍公鳥晩喧歌二首
題訓 大伴家持が霍公鳥の晩喧おそきを恨む歌二首
原文 吾屋前之 花橘乎 霍公鳥 来不喧地尓 令落常香
訓読 我が宿の花橘を霍公鳥来鳴かず地に散らしてむとか
仮名 わがやどの はなたちばなを ほととぎす きなかずつちに ちらしてむとか
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 夏雑歌 作者:大伴家持 植物 動物
訓異 わがやどの;わかやとの, はなたちばなを;はなたちはなを, ほととぎす;ほとときす, きなかずつちに;きなかてつちに, ちらしてむとか;ちらしなむとか,
   
  08/1487
題詞 (大伴家持恨霍公鳥晩喧歌二首)
原文 霍公鳥 不念有寸 木晩乃 如此成左右尓 奈何不来喧
訓読 霍公鳥思はずありき木の暗のかくなるまでに何か来鳴かぬ
仮名 ほととぎす おもはずありき このくれの かくなるまでに なにかきなかぬ
左注 なし
校異 なし
事項 夏雑歌 作者:大伴家持 動物 怨恨
訓異 ほととぎす;ほとときす, おもはずありき;おもはすありき, かくなるまでに;かくなるまてに, なにかきなかぬ;なとかきなかぬ,
   
  08/1488
題詞 大伴家持懽霍公鳥歌一首
題訓 大伴家持が霍公鳥を懽よころぶ歌一首
原文 何處者 鳴毛思仁家武 霍公鳥 吾家乃里尓 <今>日耳曽鳴
訓読 いづくには鳴きもしにけむ霍公鳥我家の里に今日のみぞ鳴く
仮名 いづくには なきもしにけむ ほととぎす わぎへのさとに けふのみぞなく
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 乃 [春][紀] 之 / <>→今 [西(右書)][類][紀][細]
事項 夏雑歌 作者:大伴家持 動物
訓異 いづくには;いつこかは, ほととぎす;ほとときす, わぎへのさとに;わきへのさとに, けふのみぞなく;けふのみそなく,
   
  08/1489
題詞 大伴家持惜橘花歌一首
題訓 大伴家持が橘の花を惜しむ歌一首
原文 吾屋前之 花橘者 落過而 珠尓可貫 實尓成二家利
訓読 我が宿の花橘は散り過ぎて玉に貫くべく実になりにけり
仮名 わがやどの はなたちばなは ちりすぎて たまにぬくべく みになりにけり
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 夏雑歌 作者:大伴家持 植物
訓異 わがやどの;わかやとの, はなたちばなは;はなたちはなは, ちりすぎて;ちりすきて, たまにぬくべく;たまにぬくへく,
   
  08/1490
題詞 大伴家持霍公鳥歌一首
題訓 大伴家持が霍公鳥の歌一首
原文 霍公鳥 雖待不来喧 <菖>蒲草 玉尓貫日乎 未遠美香
訓読 霍公鳥待てど来鳴かず菖蒲草玉に貫く日をいまだ遠みか
仮名 ほととぎす まてどきなかず あやめぐさ たまにぬくひを いまだとほみか
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <>→菖 [代匠記初稿本]
事項 夏雑歌 作者:大伴家持 動物 植物
訓異 ほととぎす;ほとときす, まてどきなかず;まてときなかぬ, あやめぐさ;あやめくさ, いまだとほみか;いまたとほみか,
   
  08/1491
題詞 大伴家持雨日聞霍公鳥喧歌一首
題訓 大伴家持が、雨のふる日霍公鳥の喧くを聞きてよめる歌一首
原文 宇乃花能 過者惜香 霍公鳥 雨間毛不置 従此間喧渡
訓読 卯の花の過ぎば惜しみか霍公鳥雨間も置かずこゆ鳴き渡る
仮名 うのはなの すぎばをしみか ほととぎす あままもおかず こゆなきわたる
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 夏雑歌 作者:大伴家持 植物 動物
訓異 すぎばをしみか;すきはをしみか, ほととぎす;ほとときす, あままもおかず;あままもおかす,
   
  08/1492
題詞 橘歌一首 [遊行女婦]
題訓 橘の歌一首 遊行女婦うかれめ
原文 君家乃 花橘者 成尓家利 花乃有時尓 相益物乎
訓読 君が家の花橘はなりにけり花のある時に逢はましものを
仮名 きみがいへの はなたちばなは なりにけり はななるときに あはましものを
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 花乃 [類][紀](塙) 花
事項 夏雑歌 作者:遊行女婦 宴席 植物
訓異 きみがいへの;きみかいへの, はなたちばなは;はなたちはなは, はななるときに;はなのさかりに,
   
  08/1493
題詞 大伴村上橘歌一首
題訓 大伴村上が橘の歌一首
原文 吾屋前乃 花橘乎 霍公鳥 来鳴令動而 本尓令散都
訓読 我が宿の花橘を霍公鳥来鳴き響めて本に散らしつ
仮名 わがやどの はなたちばなを ほととぎす きなきとよめて もとにちらしつ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 夏雑歌 作者:大伴村上 植物 動物
訓異 わがやどの;わかやとの, はなたちばなを;はなたちはなを, ほととぎす;ほとときす,
   
  08/1494
題詞 大伴家持霍公鳥歌二首
題訓 大伴家持が霍公鳥の歌二首
原文 夏山之 木末乃繁尓 霍公鳥 鳴響奈流 聲之遥佐
訓読 夏山の木末の茂に霍公鳥鳴き響むなる声の遥けさ
仮名 なつやまの こぬれのしげに ほととぎす なきとよむなる こゑのはるけさ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 夏雑歌 作者:大伴家持 動物 叙景
訓異 こぬれのしげに;こすゑのしのに, ほととぎす;ほとときす,
   
  08/1495
題詞 (大伴家持霍公鳥歌二首)
原文 足引乃 許乃間立八十一 霍公鳥 如此聞始而 後将戀可聞
訓読 あしひきの木の間立ち潜く霍公鳥かく聞きそめて後恋ひむかも
仮名 あしひきの このまたちくく ほととぎす かくききそめて のちこひむかも
左注 なし
校異 なし
事項 夏雑歌 作者:大伴家持 動物
訓異 ほととぎす;
   
  08/1496
題詞 大伴家持石竹花歌一首
題訓 大伴家持が石竹花なでしこの歌一首
原文 吾屋前之 瞿麥乃花 盛有 手折而一目 令見兒毛我母
訓読 我が宿のなでしこの花盛りなり手折りて一目見せむ子もがも
仮名 わがやどの なでしこのはな さかりなり たをりてひとめ みせむこもがも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 夏雑歌 作者:大伴家持 恋情 植物
訓異 わがやどの;わかやとの, なでしこのはな;なてしこのはな, みせむこもがも;みせむこもかも
   
  08/1497
題詞 惜不登筑波山歌一首
題訓 筑波山に登らざりしを惜しむ歌一首
原文 筑波根尓 吾行利世波 霍公鳥 山妣兒令響 鳴麻志也其
訓読 筑波嶺に我が行けりせば霍公鳥山彦響め鳴かましやそれ
仮名 つくはねに わがゆけりせば ほととぎす やまびことよめ なかましやそれ
左注 右一首高橋連蟲麻呂之歌中出
左注訓 右ノ一首ハ、高橋連蟲麻呂ノ歌集ノ中ニ出ヅ。
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 夏雑歌 作者:高橋虫麻呂歌集 筑波 茨城 地名 動物
訓異 わがゆけりせば;わかゆけりせは, ほととぎす;ほとときす, やまびことよめ;やまひことよめ,
   
 

夏相聞

   
  08/1498
題詞 夏相聞 / 大伴坂上郎女歌一首
題訓 夏の相聞したしみうた 大伴坂上郎女が歌一首
原文 無暇 不来之君尓 霍公鳥 吾如此戀常 徃而告社
訓読 暇なみ来まさぬ君に霍公鳥我れかく恋ふと行きて告げこそ
仮名 いとまなみ きまさぬきみに ほととぎす あれかくこふと ゆきてつげこそ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 夏相聞 作者:坂上郎女 勧誘 動物
訓異 きまさぬきみに;こさりしきみに, ほととぎす;ほとときす, あれかくこふと;われかくこふと, ゆきてつげこそ;ゆきてつけこそ,
   
  08/1499
題詞 大伴四縄宴吟歌一首
題訓 大伴四繩よつなはが宴に吟うたへる歌一首
原文 事繁 君者不来益 霍公鳥 汝太尓来鳴 朝戸将開
訓読 言繁み君は来まさず霍公鳥汝れだに来鳴け朝戸開かむ
仮名 ことしげみ きみはきまさず ほととぎす なれだにきなけ あさとひらかむ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 夏相聞 作者:大伴四綱 宴席 誦詠 女歌 尫柜蹋 動物
訓異 ことしげみ;ことしけみ, きみはきまさず;きみはきまさす, ほととぎす;ほとときす, なれだにきなけ;なれたにきなけ,
   
  08/1500
題詞 大伴坂上郎女歌一首
題訓 大伴坂上郎女が歌一首
原文 夏野<之> 繁見丹開有 姫由理乃 不所知戀者 苦物曽
訓読 夏の野の茂みに咲ける姫百合の知らえぬ恋は苦しきものぞ
仮名 なつののの しげみにさける ひめゆりの しらえぬこひは くるしきものぞ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 乃→之 [類][紀][矢][京]
事項 夏相聞 作者:坂上郎女 片思媿 忍恋媿 恋情 植物
訓異 しげみにさける;しけみにさける, しらえぬこひは;しられぬこひは, くるしきものぞ;くるしきものを,
   
  08/1501
題詞 小治田朝臣廣耳歌一首
題訓 小治田朝臣廣耳が歌一首
原文 霍公鳥 鳴峯乃上能 宇乃花之 猒事有哉 君之不来益
訓読 霍公鳥鳴く峰の上の卯の花の憂きことあれや君が来まさぬ
仮名 ほととぎす なくをのうへの うのはなの うきことあれや きみがきまさぬ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 夏相聞 作者:小治田広耳 女嬥立場 宴席 恨牫 植物 動物
訓異 ほととぎす;ほとときす, きみがきまさぬ;きみかきまさぬ,
   
  08/1502
題詞 大伴坂上郎女歌一首
題訓 大伴坂上郎女が歌一首
原文 五月之 花橘乎 為君 珠尓社貫 零巻惜美
訓読 五月の花橘を君がため玉にこそ貫け散らまく惜しみ
仮名 さつきの はなたちばなを きみがため たまにこそぬけ ちらまくをしみ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 夏相聞 作者:坂上郎女 植物
訓異 はなたちばなを;はなたちはなを, きみがため;きみかため,
   
  08/1503
題詞 紀朝臣豊河歌一首
題訓 紀朝臣豊河が歌一首
原文 吾妹兒之 家乃垣内乃 佐由理花 由利登云者 不<欲>云二似
訓読 我妹子が家の垣内のさ百合花ゆりと言へるはいなと言ふに似る
仮名 わぎもこが いへのかきつの さゆりばな ゆりといへるは いなといふににる
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 内乃 [類][紀](塙) 内 / 歌(謌)→欲 [新訓]
事項 夏相聞 作者:紀豊河 植物
訓異 わぎもこが;わきもこか, いへのかきつの;やとのかきうちの, さゆりばな;さゆりはな, ゆりといへるは;ゆりとしいへは, いなといふににる;うたはぬににる,
   
  08/1504
題詞 高安歌一首
題訓 高安の歌一首
原文 暇無 五月乎尚尓 吾妹兒我 花橘乎 不見可将過
訓読 暇なみ五月をすらに我妹子が花橘を見ずか過ぎなむ
仮名 いとまなみ さつきをすらに わぎもこが はなたちばなを みずかすぎなむ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 夏相聞 作者:高安王 大原高安 植物
訓異 いとまなみ;いとまなき, さつきをすらに;さつきをひさに, わぎもこが;わきもこか, はなたちばなを;はなたちはなを, みずかすぎなむ;みすかすくさむ,
   
  08/1505
題詞 大神女郎贈大伴家持歌一首
題訓 大神女郎おほみわのいらつめが大伴家持に贈れる歌一首
原文 霍公鳥 鳴之登時 君之家尓 徃跡追者 将至鴨
訓読 霍公鳥鳴きしすなはち君が家に行けと追ひしは至りけむかも
仮名 ほととぎす なきしすなはち きみがいへに ゆけとおひしは いたりけむかも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 夏相聞 作者:大神女郎 大伴家持 贈答 動物
訓異 ほととぎす;ほとときす, きみがいへに;きみかいへに, ゆけとおひしは;ゆけとをひしは,
   
  08/1506
題詞 大伴田村大嬢与妹坂上大嬢歌一首
題訓 大伴田村大嬢おほとものたむらのおほいらつめが妹坂上大嬢に与おくれる歌一首
原文 古郷之 奈良思乃岳能 霍公鳥 言告遣之 何如告寸八
訓読 故郷の奈良思の岡の霍公鳥言告げ遣りしいかに告げきや
仮名 ふるさとの ならしのをかの ほととぎす ことつげやりし いかにつげきや
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 夏相聞 作者:田村大嬢 坂上大嬢 贈答 地名 動物
訓異 ほととぎす;ほとときす, ことつげやりし;ことつけやりし, いかにつげきや;いかにつけきや,
   
  08/1507
題詞 大伴家持<攀>橘花贈坂上大嬢歌一首[并短歌]
題訓 大伴家持が、橘花たちばなを攀ぢて坂上大嬢に贈れる歌一首、また短歌
原文 伊加登伊可等 有吾屋前尓 百枝刺 於布流橘 玉尓貫 五月乎近美 安要奴我尓 花咲尓家里 朝尓食尓 出見毎 氣緒尓 吾念妹尓 銅鏡 清月夜尓 直一眼 令覩麻而尓波 落許須奈 由<米>登云管 幾許 吾守物乎 宇礼多伎也 志許霍公鳥 暁之 裏悲尓 雖追雖追 尚来鳴而 徒 地尓令散者 為便乎奈美 <攀>而手折都 見末世吾妹兒
訓読 いかといかと ある我が宿に 百枝さし 生ふる橘 玉に貫く 五月を近み あえぬがに 花咲きにけり 朝に日に 出で見るごとに 息の緒に 我が思ふ妹に まそ鏡 清き月夜に ただ一目 見するまでには 散りこすな ゆめと言ひつつ ここだくも 我が守るものを うれたきや 醜霍公鳥 暁の うら悲しきに 追へど追へど なほし来鳴きて いたづらに 地に散らせば すべをなみ 攀ぢて手折りつ 見ませ我妹子
仮名 いかといかと あるわがやどに ももえさし おふるたちばな たまにぬく さつきをちかみ あえぬがに はなさきにけり あさにけに いでみるごとに いきのをに あがおもふいもに まそかがみ きよきつくよに ただひとめ みするまでには ちりこすな ゆめといひつつ ここだくも わがもるものを うれたきや しこほととぎす あかときの うらがなしきに おへどおへど なほしきなきて いたづらに つちにちらせば すべをなみ よぢてたをりつ みませわぎもこ
左注 なし
校異 擧→攀 [紀][細][温] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 来→米 [類][紀][細] / 擧→攀 [類][紀][温]
事項 夏相聞 作者:大伴家持 坂上大嬢 贈答 植物 動物
訓異 あるわがやどに;あるわかやとに, おふるたちばな;おふるたちはな, たまにぬく;たまにぬき, あえぬがに;あえぬかに, いでみるごとに;いてみることに, あがおもふいもに;わかおもふいもに, まそかがみ;まそかかみ, きよきつくよに;きよきつきよに, ただひとめ;たたひとめ, みするまでには;みせむまてには, ここだくも;ここたくも, わがもるものを;わかもるものを, しこほととぎす;しこほとときす, あかときの;あかつきの, うらがなしきに;うらかなしきに, おへどおへど;をへとをへと, いたづらに;いたつらに, つちにちらせば;つちにちらせは, すべをなみ;すへをなみ, よぢてたをりつ;よちてたをりつ, みませわぎもこ;みませわきもこ,
   
  08/1508
題詞 (大伴家持<攀>橘花贈坂上大嬢歌一首[并短歌])反歌
題訓 反し歌
原文 望降 清月夜尓 吾妹兒尓 令覩常念之 屋前之橘
訓読 望ぐたち清き月夜に我妹子に見せむと思ひしやどの橘
仮名 もちぐたち きよきつくよに わぎもこに みせむとおもひし やどのたちばな
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 覩 [類][紀][矢][京](塙) 視
事項 夏相聞 作者:大伴家持 坂上大嬢 贈答 植物
訓異 もちぐたち;もちくたち, きよきつくよに;きよきつきよに, わぎもこに;わきもこに, やどのたちばな;やとのたちはな,
   
  08/1509
題詞 ((大伴家持<攀>橘花贈坂上大嬢歌一首[并短歌])反歌)
原文 妹之見而 後毛将鳴 霍公鳥 花橘乎 地尓落津
訓読 妹が見て後も鳴かなむ霍公鳥花橘を地に散らしつ
仮名 いもがみて のちもなかなむ ほととぎす はなたちばなを つちにちらしつ
左注 なし
校異 なし
事項 夏相聞 作者:大伴家持 坂上大嬢 贈答 動物 植物
訓異 いもがみて;いもかみて, ほととぎす;ほとときす, はなたちばなを;はなたちはなを,
   
  08/1510
題詞 大伴家持贈紀女郎歌一首
題訓 大伴家持が紀女郎に贈れる歌一首
原文 瞿麥者 咲而落去常 人者雖言 吾標之野乃 花尓有目八方
訓読 なでしこは咲きて散りぬと人は言へど我が標めし野の花にあらめやも
仮名 なでしこは さきてちりぬと ひとはいへど わがしめしのの はなにあらめやも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 夏相聞 作者:大伴家持 紀女郎 贈答 比喩 植物
訓異 なでしこは;なてしこは, ひとはいへど;ひとはいへと, わがしめしのの;わかしめしのの,
   
 

秋雜歌

   
  08/1511
題詞 秋雜歌 / 崗本天皇御製歌一首
題訓 秋の雑歌くさぐさのうた 崗本天皇のみよみませる御製歌おほみうた一首
原文 暮去者 小倉乃山尓 鳴鹿者 今夜波不鳴 寐<宿>家良思母
訓読 夕されば小倉の山に鳴く鹿は今夜は鳴かず寐ねにけらしも
仮名 ゆふされば をぐらのやまに なくしかは こよひはなかず いねにけらしも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <>→宿 [西(右書)][類][紀][細]
事項 秋雑歌 作者:舒明天皇 斉明天皇 地名 動物
訓異 ゆふされば;ゆふされは, をぐらのやまに;をくらのやまに, なくしかは;なくしかの, こよひはなかず;こよひはなかす,
   
  08/1512
題詞 大津皇子御歌一首
題訓 大津皇子の御歌一首
原文 經毛無 緯毛不定 未通女等之 織黄葉尓 霜莫零
訓読 経もなく緯も定めず娘子らが織る黄葉に霜な降りそね
仮名 たてもなく ぬきもさだめず をとめらが おるもみちばに しもなふりそね
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 秋雑歌 作者:大津皇子 植物
訓異 ぬきもさだめず;ぬきもさためす, をとめらが;をとめらか, おるもみちばに;をれるもみちに,
   
  08/1513
題詞 穂積皇子御歌二首
題訓 穂積皇子の御歌二首
原文 今朝之旦開 鴈之鳴聞都 春日山 黄葉家良思 吾情痛之
訓読 今朝の朝明雁が音聞きつ春日山もみちにけらし我が心痛し
仮名 けさのあさけ かりがねききつ かすがやま もみちにけらし あがこころいたし
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 秋雑歌 作者:穂積皇子 奈良 動物 地名 季節
訓異 かりがねききつ;かりかねききつ, かすがやま;かすかやま, あがこころいたし;わかこころいたし,
   
  08/1514
題詞 (穂積皇子御歌二首)
原文 秋芽者 可咲有良之 吾屋戸之 淺茅之花乃 散去見者
訓読 秋萩は咲くべくあらし我がやどの浅茅が花の散りゆく見れば
仮名 あきはぎは さくべくあらし わがやどの あさぢがはなの ちりゆくみれば
左注 なし
校異 なし
事項 秋雑歌 作者:穂積皇子 植物
訓異 あきはぎは;あきはきは, さくべくあらし;さきぬへからし, わがやどの;わかやとの, あさぢがはなの;あさちかはなの, ちりゆくみれば;ちりゆくみれは,
   
  08/1515
題詞 但馬皇女御歌一首 [一書云子部王作]
題訓 但馬皇女の御歌一首 一書ニ云ク、子部王ノ作
原文 事繁 里尓不住者 今朝鳴之 鴈尓副而 去益物乎 [一云 國尓不有者]
訓読 言繁き里に住まずは今朝鳴きし雁にたぐひて行かましものを [一云 国にあらずは]
仮名 ことしげき さとにすまずは けさなきし かりにたぐひて ゆかましものを [くににあらずは]
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 秋雑歌 作者:但馬皇女 尫柜蹋 動物
訓異 ことしげき;ことしけき, さとにすまずは;さとにすますは, かりにたぐひて;かりにたくひて, [くににあらずは];くににあらすは,
   
  08/1516
題詞 山部王惜秋葉歌一首
題訓 山部王の秋葉もみちを惜しみたまへる歌一首
原文 秋山尓 黄反木葉乃 移去者 更哉秋乎 欲見世武
訓読 秋山にもみつ木の葉のうつりなばさらにや秋を見まく欲りせむ
仮名 あきやまに もみつこのはの うつりなば さらにやあきを みまくほりせむ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 秋雑歌 作者:山部王 植物 季節
訓異 もみつこのはの;きはむこのはの, うつりなば;うつろへは,
   
  08/1517
題詞 長屋王歌一首
題訓 長屋王の歌一首
原文 味酒 三輪乃祝之 山照 秋乃黄葉<乃> 散莫惜毛
訓読 味酒三輪のはふりの山照らす秋の黄葉の散らまく惜しも
仮名 うまさけ みわのはふりの やまてらす あきのもみちの ちらまくをしも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 祝 [類](塙) 社 / <>→乃 [類][紀]
事項 秋雑歌 作者:長屋王 三輪 奈良 枕詞 地名 植物
訓異 うまさけ;うまさかの, みわのはふりの;みわのはふりか,
   
  08/1518
題詞 山上<臣>憶良七夕歌十二首
題訓 山上臣憶良が七夕なぬかのよの歌十二首とをまりふたつ
原文 天漢 相向立而 吾戀之 君来益奈利 紐解設奈 [一云 向河]
訓読 天の川相向き立ちて我が恋ひし君来ますなり紐解き設けな [一云 川に向ひて]
仮名 あまのがは あひむきたちて あがこひし きみきますなり ひもときまけな [かはにむかひて]
左注 右養老八年七月七日應令
左注訓 右、養老八年七月七日、令ニ応ヘテ作メリ。
校異 巨→臣 [類][紀][細] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 秋雑歌 作者:山上憶良 七夕
訓異 あまのがは;あまのかは, あひむきたちて;こむかひたちて, あがこひし;わかこひし, ひもときまけな;ひも*****, [かはにむかひて];かはにむかひ,
   
  08/1519
題詞 (山上<臣>憶良七夕歌十二首)
原文 久方之 漢<瀬>尓 船泛而 今夜可君之 我許来益武
訓読 久方の天の川瀬に舟浮けて今夜か君が我がり来まさむ
仮名 ひさかたの あまのかはせに ふねうけて こよひかきみが わがりきまさむ
左注 右神亀元年七月七日夜左大臣宅
左注訓 右、神亀元年七月七日ノ夜、左大臣ノ宅ニテ作メリ。
校異 漢 [京] 天漢 / <>→瀬 [類][矢]
事項 秋雑歌 作者:山上憶良 七夕
訓異 こよひかきみが;こよひかきみか, わがりきまさむ;わかりきまさむ,
   
  08/1520
題詞 (山上<臣>憶良七夕歌十二首)
原文 牽牛者 織女等 天地之 別時<由> 伊奈宇之呂 河向立 <思>空 不安久尓 嘆空 不安久尓 青浪尓 望者多要奴 白雲尓 渧者盡奴 如是耳也 伊伎都枳乎良牟 如是耳也 戀都追安良牟 佐丹塗之 小船毛賀茂 玉纒之 真可伊毛我母 [一云 小棹毛何毛] 朝奈藝尓 伊可伎渡 夕塩尓 [一云 夕倍尓毛] 伊許藝渡 久方之 天河原尓 天飛也 領巾可多思吉 真玉手乃 玉手指更 餘宿毛 寐而師可聞 [一云 伊毛左祢而師加] 秋尓安良受登母 [一云 秋不待登毛]
訓読 彦星は 織女と 天地の 別れし時ゆ いなうしろ 川に向き立ち 思ふそら 安けなくに 嘆くそら 安けなくに 青波に 望みは絶えぬ 白雲に 涙は尽きぬ かくのみや 息づき居らむ かくのみや 恋ひつつあらむ さ丹塗りの 小舟もがも 玉巻きの 真櫂もがも [一云 小棹もがも] 朝なぎに い掻き渡り 夕潮に [一云 夕にも] い漕ぎ渡り 久方の 天の川原に 天飛ぶや 領巾片敷き 真玉手の 玉手さし交へ あまた夜も 寐ねてしかも [一云 寐もさ寝てしか] 秋にあらずとも [一云 秋待たずとも]
仮名 ひこほしは たなばたつめと あめつちの わかれしときゆ いなうしろ かはにむきたち おもふそら やすけなくに なげくそら やすけなくに あをなみに のぞみはたえぬ しらくもに なみたはつきぬ かくのみや いきづきをらむ かくのみや こひつつあらむ さにぬりの をぶねもがも たままきの まかいもがも [をさをもがも] あさなぎに いかきわたり ゆふしほに [ゆふべにも] いこぎわたり ひさかたの あまのかはらに あまとぶや ひれかたしき またまでの たまでさしかへ あまたよも いねてしかも [いもさねてしか] あきにあらずとも [あきまたずとも]
左注 (右天平元年七月七日夜憶良仰觀天河 [一云帥家作])
校異 雨→由 [西(訂正右書)][類][紀][細] / 宇 [童蒙抄](塙) 牟 / 意→思 [類][紀][温]
事項 秋雑歌 作者:山上憶良 七夕
訓異 たなばたつめと;たなはたつめと, やすけなくに;やすからなくに, なげくそら;なけくそら, やすけなくに;やすからなくに, のぞみはたえぬ;のそみはたえぬ, いきづきをらむ;いきつきをらむ, をぶねもがも;こふねもかも, まかいもがも;まかいもかも, [をさをもがも], あさなぎに;あさなきに, [ゆふべにも], いこぎわたり;いこきわたり, あまとぶや;あまとふや, またまでの;またまての, たまでさしかへ;たまてさしかへ, あまたよも;よいも, いねてしかも;ねてしかも, [いもさねてしか], あきにあらずとも;あきにあらすとも, [あきまたずとも];あきまたすとも,
   
  08/1521
題詞 (山上<臣>憶良七夕歌十二首)反歌
題訓 反し歌
原文 風雲者 二岸尓 可欲倍杼母 吾遠嬬之 [一云 波之嬬乃] 事曽不通
訓読 風雲は二つの岸に通へども我が遠妻の [一云 愛し妻の] 言ぞ通はぬ
仮名 かぜくもは ふたつのきしに かよへども わがとほづまの[はしつまの] ことぞかよはぬ
左注 (右天平元年七月七日夜憶良仰觀天河 [一云 帥家作])
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 秋雑歌 作者:山上憶良 七夕
訓異 かぜくもは;かせくもは, かよへども;かよへとも, わがとほづまの;わかとほつまの, [はしつまの], ことぞかよはぬ;ことそかよはぬ,
   
  08/1522
題詞 (山上<臣>憶良七夕歌十二首)
原文 多夫手二毛 投越都倍<吉> 天漢 敝太而礼婆可母 安麻多須辨奈吉
訓読 たぶてにも投げ越しつべき天の川隔てればかもあまたすべなき
仮名 たぶてにも なげこしつべき あまのがは へだてればかも あまたすべなき
左注 右天平元年七月七日夜憶良仰觀天河 [一云 帥家作]
左注訓 右、天平元年七月七日ノ夜、憶良、天ノ河ヲ仰ギ観テ作メリ。一ニ云ク、帥ノ家ノ作。
校異 伎→吉 [類][紀]
事項 秋雑歌 作者:山上憶良 七夕
訓異 たぶてにも;たふてにも, なげこしつべき;なけこしつへき, あまのがは;あまのかは, へだてればかも;へたてれはかも, あまたすべなき;あまたすへなき,
   
  08/1523
題詞 (山上<臣>憶良七夕歌十二首)
原文 秋風之 吹尓之日従 何時可登 吾待戀之 君曽来座流
訓読 秋風の吹きにし日よりいつしかと我が待ち恋ひし君ぞ来ませる
仮名 あきかぜの ふきにしひより いつしかと あがまちこひし きみぞきませる
左注 (右天平二年七月八日夜帥家集會)
校異 なし
事項 秋雑歌 作者:山上憶良 七夕
訓異 あきかぜの;あきかせの, あがまちこひし;わかまちこひし, きみぞきませる;きみそきませる,
   
  08/1524
題詞 (山上<臣>憶良七夕歌十二首)
原文 天漢 伊刀河浪者 多々祢杼母 伺候難之 近此瀬呼
訓読 天の川いと川波は立たねどもさもらひかたし近きこの瀬を
仮名 あまのがは いとかはなみは たたねども さもらひかたし ちかきこのせを
左注 (右天平二年七月八日夜帥家集會)
校異 なし
事項 秋雑歌 作者:山上憶良 七夕
訓異 あまのがは;あまのかは, たたねども;たたねとも, さもらひかたし;うかかひかたし,
   
  08/1525
題詞 (山上<臣>憶良七夕歌十二首)
原文 袖振者 見毛可波之都倍久 雖近 度為便無 秋西安良祢波
訓読 袖振らば見も交しつべく近けども渡るすべなし秋にしあらねば
仮名 そでふらば みもかはしつべく ちかけども わたるすべなし あきにしあらねば
左注 (右天平二年七月八日夜帥家集會)
校異 なし
事項 秋雑歌 作者:山上憶良 七夕
訓異 そでふらば;そてふらは, みもかはしつべく;みもかはしつへく, ちかけども;ちかけれと, わたるすべなし;わたるすへなし, あきにしあらねば;あきにしあらねは,
   
  08/1526
題詞 (山上<臣>憶良七夕歌十二首)
原文 玉蜻蜒 髣髴所見而 別去者 毛等奈也戀牟 相時麻而波
訓読 玉かぎるほのかに見えて別れなばもとなや恋ひむ逢ふ時までは
仮名 たまかぎる ほのかにみえて わかれなば もとなやこひむ あふときまでは
左注 右天平二年七月八日夜帥家集會
左注訓 右、天平二年七月八日ノ夜、帥ノ家ニ集会フ。
校異 なし
事項 秋雑歌 作者:山上憶良 七夕
訓異 たまかぎる;かけろふの, わかれなば;わかれなは, あふときまでは;あふときまては,
   
  08/1527
題詞 (山上<臣>憶良七夕歌十二首)
原文 牽牛之 迎嬬船 己藝出良之 <天>漢原尓 霧之立波
訓読 彦星の妻迎へ舟漕ぎ出らし天の川原に霧の立てるは
仮名 ひこほしの つまむかへぶね こぎづらし あまのかはらに きりのたてるは
左注 なし
校異 <>→天 [類][紀]
事項 秋雑歌 作者:山上憶良 七夕
訓異 つまむかへぶね;つまむかへふね, こぎづらし;こきいつらし, きりのたてるは;きりのたてれは,
   
  08/1528
題詞 (山上<臣>憶良七夕歌十二首)
原文 霞立 天河原尓 待君登 伊徃<還>尓 裳襴所沾
訓読 霞立つ天の川原に君待つとい行き帰るに裳の裾濡れぬ
仮名 かすみたつ あまのかはらに きみまつと いゆきかへるに ものすそぬれぬ
左注 なし
校異 還程→還 [類][紀]
事項 秋雑歌 作者:山上憶良 七夕
訓異 いゆきかへるに;いかよふほとに,
   
  08/1529
題詞 (山上<臣>憶良七夕歌十二首)
原文 天河 浮津之浪音 佐和久奈里 吾待君思 舟出為良之母
訓読 天の川浮津の波音騒くなり我が待つ君し舟出すらしも
仮名 あまのがは うきつのなみおと さわくなり わがまつきみし ふなですらしも
左注 なし
校異 なし
事項 秋雑歌 作者:山上憶良 七夕
訓異 あまのがは;あまのかは, うきつのなみおと;うきつのなみと, わがまつきみし;わかまつきみし, ふなですらしも;ふなてすらしも,
   
  08/1530
題詞 大宰諸卿大夫并官人等宴筑前國蘆城驛家歌二首
題訓 太宰おほみこともちの諸卿大夫まへつきみたち、また官人等つかさびとたちが、筑前国つくしのみちのくちのくに蘆城あしきの駅家うまやに宴する歌二首
原文 娘部思 秋芽子交 蘆城野 今日乎始而 萬代尓将見
訓読 をみなへし秋萩交る蘆城の野今日を始めて万世に見む
仮名 をみなへし あきはぎまじる あしきのの けふをはじめて よろづよにみむ
左注 (右二首作者未詳)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 秋雑歌 福岡県 太宰府 宴席 土地讃美 地名 植物
訓異 あきはぎまじる;あきはきましり, あしきのの;あしきのは, けふをはじめて;けふをはしめて, よろづよにみむ;よろつよにみむ,
   
  08/1531
題詞 (大宰諸卿大夫并官人等宴筑前國蘆城驛家歌二首)
原文 珠匣 葦木乃河乎 今日見者 迄萬代 将忘八方
訓読 玉櫛笥蘆城の川を今日見ては万代までに忘らえめやも
仮名 たまくしげ あしきのかはを けふみては よろづよまでに わすらえめやも
左注 右二首作者未詳
左注訓 右の二首は、作者よみひと未詳しらず。
校異 なし
事項 秋雑歌 福岡県 太宰府 宴席 土地讃美 枕詞 地名
訓異 たまくしげ;たまくしけ, けふみては;けふみれは, よろづよまでに;よろつよまてに, わすらえめやも;わすられめやも,
   
  08/1532
題詞 笠朝臣金村伊香山作歌二首
題訓 笠朝臣金村が伊香山いかごやまにてよめる歌二首
原文 草枕 客行人毛 徃觸者 尓保比奴倍久毛 開流芽子香聞
訓読 草枕旅行く人も行き触ればにほひぬべくも咲ける萩かも
仮名 くさまくら たびゆくひとも ゆきふれば にほひぬべくも さけるはぎかも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 秋雑歌 作者:笠金村 滋賀県 塩津 羈旅 土地讃美 枕詞 植物
訓異 たびゆくひとも;たひゆくひとも, ゆきふれば;ゆきふれは, にほひぬべくも;にほひぬへくも, さけるはぎかも;さけるはきかも,
   
  08/1533
題詞 (笠朝臣金村伊香山作歌二首)
原文 伊香山 野邊尓開有 芽子見者 公之家有 尾花之所念
訓読 伊香山野辺に咲きたる萩見れば君が家なる尾花し思ほゆ
仮名 いかごやま のへにさきたる はぎみれば きみがいへなる をばなしおもほゆ
左注 なし
校異 なし
事項 秋雑歌 作者:笠金村 滋賀県 塩津 羈旅 望郷 地名 植物
訓異 いかごやま;いかこやま, はぎみれば;はきみれは, きみがいへなる;きみかやとれる, をばなしおもほゆ;をはなしそおもふ,
   
  08/1534
題詞 石川朝臣老夫歌一首
題訓 石川朝臣老夫をきなが歌一首
原文 娘部志 秋芽子折礼 玉桙乃 道去褁跡 為乞兒
訓読 をみなへし秋萩折れれ玉桙の道行きづとと乞はむ子がため
仮名 をみなへし あきはぎをれれ たまほこの みちゆきづとと こはむこがため
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 秋雑歌 作者:石川老夫 旅牫侄げ 植物
訓異 あきはぎをれれ;あきはきたをれ, みちゆきづとと;みちゆきつとと, こはむこがため;こはむこのため,
   
  08/1535
題詞 藤原宇合卿歌一首
題訓 藤原宇合の卿の歌一首
原文 我背兒乎 何時曽且今登 待苗尓 於毛也者将見 秋風吹
訓読 我が背子をいつぞ今かと待つなへに面やは見えむ秋の風吹く
仮名 わがせこを いつぞいまかと まつなへに おもやはみえむ あきのかぜふく
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 秋雑歌 作者:藤原宇合 女歌 宴席
訓異 わがせこを;わかせこを, いつぞいまかと;いつそいまかと, あきのかぜふく;あきかせのふく,
   
  08/1536
題詞 縁達帥歌一首
題訓 縁達帥えむたちしが歌一首
原文 暮相而 朝面羞 隠野乃 芽子者散去寸 黄葉早續也
訓読 宵に逢ひて朝面なみ名張野の萩は散りにき黄葉早継げ
仮名 よひにあひて あしたおもなみ なばりのの はぎはちりにき もみちはやつげ
左注 なし
校異 謌 [温][矢][京] 歌
事項 秋雑歌 作者:縁達帥 三重県 名張 羈旅 序詞 植物
訓異 あしたおもなみ;あさかほはつる, なばりのの;かくれのの, はぎはちりにき;はきはちりにき, もみちはやつげ;もみちはやつけ,
   
  08/1537
題詞 山上<臣>憶良詠秋野花<歌>二首
題訓 山上臣憶良が秋野の花を詠める歌二首
原文 秋野尓 咲有花乎 指折 可伎數者 七種花 [其一]
訓読 秋の野に咲きたる花を指折りかき数ふれば七種の花 [其一]
仮名 あきののに さきたるはなを およびをり かきかぞふれば ななくさのはな
左注 なし
校異 巨→臣 [紀][細][温] / <>→歌 [類][矢][京]
事項 秋雑歌 作者:山上憶良 詠物詩 植物
訓異 およびをり;てをりて, かきかぞふれば;かきかそふれは,
   
  08/1538
題詞 (山上<臣>憶良詠秋野花<歌>二首)
原文 芽之花 乎花葛花 瞿麦之花 姫部志 又藤袴 朝皃之花 [其二]
訓読 萩の花尾花葛花なでしこの花をみなへしまた藤袴朝顔の花 [其二]
仮名 はぎのはな をばなくずはな なでしこのはな をみなへし またふぢはかま あさがほのはな
左注 なし
校異 なし
事項 秋雑歌 作者:山上憶良 秋七草 詠物歌 植物
訓異 はぎのはな;はきのはな, をばなくずはな;をはなくすはな, なでしこのはな;なてしこのはな, またふぢはかま;またふちはかま, あさがほのはな;あさかほのはな,
   
  08/1539
題詞 天皇御製歌二首
題訓 天皇すめらみことのみよみませる御製歌二首
原文 秋<田>乃 穂田乎鴈之鳴 闇尓 夜之穂杼呂尓毛 鳴渡可聞
訓読 秋の田の穂田を雁がね暗けくに夜のほどろにも鳴き渡るかも
仮名 あきのたの ほたをかりがね くらけくに よのほどろにも なきわたるかも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 日→田 [矢][京]
事項 秋雑歌 作者:聖武天皇 動物 季節 叙景
訓異 ほたをかりがね;ほたをかりかね, くらけくに;くらやみに, よのほどろにも;よのほとろにも,
   
  08/1540
題詞 (天皇御製歌二首)
原文 今朝乃旦開 鴈鳴寒 聞之奈倍 野邊能淺茅曽 色付丹来
訓読 今朝の朝明雁が音寒く聞きしなへ野辺の浅茅ぞ色づきにける
仮名 けさのあさけ かりがねさむく ききしなへ のへのあさぢぞ いろづきにける
左注 なし
校異 なし
事項 秋雑歌 作者:聖武天皇 動物 季節
訓異 かりがねさむく;かりかねさむみ, のへのあさぢぞ;のへのあさちそ, いろづきにける;いろつきにける,
   
  08/1541
題詞 大宰帥大伴卿歌二首
題訓 太宰帥おほみこともちのかみ大伴卿の歌二首
原文 吾岳尓 棹<壮>鹿来鳴 先芽之 花嬬問尓 来鳴棹<壮>鹿
訓読 我が岡にさを鹿来鳴く初萩の花妻どひに来鳴くさを鹿
仮名 わがをかに さをしかきなく はつはぎの はなつまどひに きなくさをしか
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 牡→壮 [定本] / 牡→壮 [定本]
事項 秋雑歌 作者:大伴旅人 太宰府 植物 動物
訓異 わがをかに;わかをかに, はつはぎの;はつはきの, はなつまどひに;はなつまとひに,
   
  08/1542
題詞 (大宰帥大伴卿歌二首)
原文 吾岳之 秋芽花 風乎痛 可落成 将見人裳欲得
訓読 我が岡の秋萩の花風をいたみ散るべくなりぬ見む人もがも
仮名 わがをかの あきはぎのはな かぜをいたみ ちるべくなりぬ みむひともがも
左注 なし
校異 なし
事項 秋雑歌 作者:大伴旅人 太宰府 植物 恋情
訓異 わがをかの;わかをかの, あきはぎのはな;あきはきのはな, かぜをいたみ;かせをいたみ, ちるべくなりぬ;ちるへくなりぬ, みむひともがも;みむひともかな,
   
  08/1543
題詞 三原王歌一首
題訓 三原王の歌一首
原文 秋露者 移尓有家里 水鳥乃 青羽乃山能 色付見者
訓読 秋の露は移しにありけり水鳥の青葉の山の色づく見れば
仮名 あきのつゆは うつしにありけり みづどりの あをばのやまの いろづくみれば
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 秋雑歌 作者:三原王 季節
訓異 うつしにありけり;うつしなりけり, みづどりの;みつとりの, あをばのやまの;あをはのやまの, いろづくみれば;いろつくみれは,
   
  08/1544
題詞 湯原王七夕歌二首
題訓 湯原王の七夕なぬかのよの歌二首
原文 牽牛之 念座良武 従情 見吾辛苦 夜之更降去者
訓読 彦星の思ひますらむ心より見る我れ苦し夜の更けゆけば
仮名 ひこほしの おもひますらむ こころより みるわれくるし よのふけゆけば
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 秋雑歌 作者:湯原王 七夕
訓異 こころより;こころゆも, よのふけゆけば;よのふけゆけは,
   
  08/1545
題詞 (湯原王七夕歌二首)
原文 織女之 袖續三更之 五更者 河瀬之鶴者 不鳴友吉
訓読 織女の袖継ぐ宵の暁は川瀬の鶴は鳴かずともよし
仮名 たなばたの そでつぐよひの あかときは かはせのたづは なかずともよし
左注 なし
校異 なし
事項 秋雑歌 作者:湯原王 七夕
訓異 たなばたの;たなはたの, そでつぐよひの;そてつくよるの, あかときは;あかつきは, かはせのたづは;かはせのたつは, なかずともよし;なかすともよし,
   
  08/1546
題詞 市原王七夕歌一首
題訓 市原王の七夕の歌一首
原文 妹許登 吾去道乃 河有者 附目緘結跡 夜更降家類
訓読 妹がりと我が行く道の川しあればつくめ結ぶと夜ぞ更けにける
仮名 いもがりと わがゆくみちの かはしあれば つくめむすぶと よぞふけにける
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 秋雑歌 作者:市原王 七夕
訓異 いもがりと;いもかりと, わがゆくみちの;わかゆくみちの, かはしあれば;かはのあれは, つくめむすぶと;ひとめつつむと, よぞふけにける;よそふけにける,
   
  08/1547
題詞 藤原朝臣八束歌一首
題訓 藤原朝臣八束やつかが歌一首
原文 棹四香能 芽二貫置有 露之白珠 相佐和仁 誰人可毛 手尓将巻知布
訓読 さを鹿の萩に貫き置ける露の白玉あふさわに誰れの人かも手に巻かむちふ
仮名 さをしかの はぎにぬきおける つゆのしらたま あふさわに たれのひとかも てにまかむちふ
左注 なし
校異 なし
事項 秋雑歌 作者:藤原八束 旋頭歌 比喩 恋歌 動物
訓異 はぎにぬきおける;はきにぬきをける,
   
  08/1548
題詞 大伴坂上郎女晩芽子歌一首
題訓 大伴坂上郎女が晩おくての萩の歌一首
原文 咲花毛 <乎曽>呂波猒 奥手有 長意尓 尚不如家里
訓読 咲く花もをそろはいとはしおくてなる長き心になほしかずけり
仮名 さくはなも をそろはいとはし おくてなる ながきこころに なほしかずけり
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 宇都→乎曽 [類][紀]
事項 秋雑歌 作者:坂上郎女 比喩 恋歌
訓異 をそろはいとはし;うつろはうきを, ながきこころに;なかきこころに, なほしかずけり;なをしかすけり,
   
  08/1549
題詞 典鑄正紀朝臣鹿人至衛門大尉大伴宿祢稲公跡見庄作歌一首
題訓 典鑄正いものしのかみ紀朝臣鹿人かひとが、衛門大尉ゆけひのおほきまつりごとひと大伴宿禰稲公いなきみが跡見とみの庄たどころに至りてよめる歌一首
原文 射目立而 跡見乃岳邊之 瞿麦花 總手折 吾者将去 寧樂人之為
訓読 射目立てて跡見の岡辺のなでしこの花ふさ手折り我れは持ちて行く奈良人のため
仮名 いめたてて とみのをかへの なでしこのはな ふさたをり われはもちてゆく ならひとのため
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 秋雑歌 作者:紀鹿人 大伴稲公 奈良県 桜井市 牫侄げ 別悞歌 地名 植物 旋頭歌
訓異 なでしこのはな;なてしこのはな, われはもちてゆく;われはもていなむ,
   
  08/1550
題詞 湯原王鳴鹿歌一首
題訓 湯原王が鳴鹿しかの歌一首
原文 秋芽之 落乃乱尓 呼立而 鳴奈流鹿之 音遥者
訓読 秋萩の散りの乱ひに呼びたてて鳴くなる鹿の声の遥けさ
仮名 あきはぎの ちりのまがひに よびたてて なくなるしかの こゑのはるけさ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 秋雑歌 作者:湯原王 植物 動物 叙景
訓異 あきはぎの;あきはきの, ちりのまがひに;ちりのまかひに, よびたてて;よひたてて,
   
  08/1551
題詞 市原王歌一首
題訓 市原王の歌一首
原文 待時而 落<鍾>礼能 <雨>零収 開朝香 山之将黄變
訓読 時待ちて降れるしぐれの雨やみぬ明けむ朝か山のもみたむ
仮名 ときまちて ふれるしぐれの あめやみぬ あけむあしたか やまのもみたむ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 鐘→鍾 [類][温][矢] / 雨令→雨 [万葉集新考]
事項 秋雑歌 作者:市原王 季節
訓異 ふれるしぐれの;おつるしくれの, あめやみぬ;あめやみて, あけむあしたか;あさかのやまの, やまのもみたむ;うつろひぬらむ,
   
  08/1552
題詞 湯原王蟋蟀歌一首
題訓 湯原王の蟋蟀こほろぎの歌一首
原文 暮月夜 心毛思努尓 白露乃 置此庭尓 蟋蟀鳴毛
訓読 夕月夜心もしのに白露の置くこの庭にこほろぎ鳴くも
仮名 ゆふづくよ こころもしのに しらつゆの おくこのにはに こほろぎなくも
左注 なし
校異 なし
事項 秋雑歌 作者:湯原王 動物 季節 叙景
訓異 ゆふづくよ;ゆふつくよ, こほろぎなくも;きりきりすなくも,
   
  08/1553
題詞 衛門大尉大伴宿祢稲公歌一首
題訓 衛門大尉大伴宿禰稲公が歌一首
原文 <鍾>礼能雨 無間零者 三笠山 木末歴 色附尓家里
訓読 時雨の雨間なくし降れば御笠山木末あまねく色づきにけり
仮名 しぐれのあめ まなくしふれば みかさやま こぬれあまねく いろづきにけり
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 鐘→鍾 [類]
事項 秋雑歌 作者:大伴稲公 奈良 地名 季節
訓異 しぐれのあめ;しくれのあめ, まなくしふれば;まなくしふれは, こぬれあまねく;こすゑあまねく, いろづきにけり;いろつきにけり,
   
  08/1554
題詞 大伴家持和歌一首
題訓 大伴家持が和こたふる歌一首
原文 皇之 御笠乃山能 秋黄葉 今日之<鍾>礼尓 散香過奈牟
訓読 大君の御笠の山の黄葉は今日の時雨に散りか過ぎなむ
仮名 おほきみの みかさのやまの もみちばは けふのしぐれに ちりかすぎなむ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 鐘→鍾 [類]
事項 秋雑歌 作者:大伴家持 奈良 地名 植物
訓異 もみちばは;もみちはは, けふのしぐれに;けふのしくれに, ちりかすぎなむ;ちりかすきなむ,
   
  08/1555
題詞 安貴王歌一首
題訓 安貴王あきのおほきみの歌一首
原文 秋立而 幾日毛不有者 此宿流 朝開之風者 手本寒母
訓読 秋立ちて幾日もあらねばこの寝ぬる朝明の風は手本寒しも
仮名 あきたちて いくかもあらねば このねぬる あさけのかぜは たもとさむしも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 秋雑歌 作者:安貴王 季節 恋情
訓異 いくかもあらねば;いくかもあらねは, あさけのかぜは;あさけのかせは,
   
  08/1556
題詞 忌部首黒麻呂歌一首
題訓 忌部首黒麻呂いみべのおびとくろまろが歌一首
原文 秋田苅 借蘆毛未壊者 鴈鳴寒 霜毛置奴我二
訓読 秋田刈る仮廬もいまだ壊たねば雁が音寒し霜も置きぬがに
仮名 あきたかる かりいほもいまだ こほたねば かりがねさむし しももおきぬがに
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 秋雑歌 作者:忌部黒麻呂 動物 季節
訓異 かりいほもいまだ;かりいほもいまた, こほたねば;こほたねは, かりがねさむし;かりかねさむし, しももおきぬがに;しももおきぬかに,
   
  08/1557
題詞 故郷豊浦寺之尼私房宴歌三首
題訓 故郷の豊浦寺とよらのてらの尼が私房いへに宴する歌三首
原文 明日香河 逝廻<丘>之 秋芽<子>者 今日零雨尓 落香過奈牟
訓読 明日香川行き廻る岡の秋萩は今日降る雨に散りか過ぎなむ
仮名 あすかがは ゆきみるをかの あきはぎは けふふるあめに ちりかすぎなむ
左注 右一首丹比真人國人
左注訓 右の一首は、丹比真人國人。
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌→謌 / 岳→丘 [類][紀] / <>→子 [類][紀][温]
事項 秋雑歌 作者:丹比国人 飛鳥 宴席 豊浦寺 尼 地名 植物 季節
訓異 あすかがは;あすかかは, ゆきみるをかの;ゆききのをかの, あきはぎは;あきはきは, ちりかすぎなむ;ちりかすきなむ,
   
  08/1558
題詞 (故郷豊浦寺之尼私房宴歌三首)
原文 鶉鳴 古郷之 秋芽子乎 思人共 相見都流可聞
訓読 鶉鳴く古りにし里の秋萩を思ふ人どち相見つるかも
仮名 うづらなく ふりにしさとの あきはぎを おもふひとどち あひみつるかも
左注 (右二首沙弥尼等)
校異 なし
事項 秋雑歌 作者:沙弥尼 飛鳥 宴席 豊浦寺 動物 植物
訓異 うづらなく;うつらなく, あきはぎを;あきはきを, おもふひとどち;おもふひととち,
   
  08/1559
題詞 (故郷豊浦寺之尼私房宴歌三首)
原文 秋芽子者 盛過乎 徒尓 頭刺不挿 還去牟跡哉
訓読 秋萩は盛り過ぐるをいたづらにかざしに挿さず帰りなむとや
仮名 あきはぎは さかりすぐるを いたづらに かざしにささず かへりなむとや
左注 右二首沙弥尼等
左注訓 右の二首は、沙弥尼等さみにども。
校異 なし
事項 秋雑歌 作者:沙弥尼 飛鳥 宴席 豊浦寺 植物
訓異 あきはぎは;あきはきは, さかりすぐるを;さかりすくるを, いたづらに;いたつらに, かざしにささず;かさしにささて,
   
  08/1560
題詞 大伴坂上郎女跡見田庄作歌二首
題訓 大伴坂上郎女が跡見とみの田庄たどころにてよめる歌二首
原文 妹目乎 始見之埼乃 秋芽子者 此月其呂波 落許須莫湯目
訓読 妹が目を始見の崎の秋萩はこの月ごろは散りこすなゆめ
仮名 いもがめを **みのさきの あきはぎは このつきごろは ちりこすなゆめ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 秋雑歌 作者:坂上郎女 奈良県 桜井市 植物
訓異 いもがめを;いもかめを, **みのさきの;みそめしさきの, あきはぎは;あきはきは, このつきごろは;このつきころは,
   
  08/1561
題詞 (大伴坂上郎女跡見田庄作歌二首)
原文 吉名張乃 猪養山尓 伏鹿之 嬬呼音乎 聞之登聞思佐
訓読 吉隠の猪養の山に伏す鹿の妻呼ぶ声を聞くが羨しさ
仮名 よなばりの ゐかひのやまに ふすしかの つまよぶこゑを きくがともしさ
左注 なし
校異 聞 [類][紀](塙) 門
事項 秋雑歌 作者:坂上郎女 奈良県 桜井市 地名 動物
訓異 よなばりの;ふなはりの, ゐかひのやまに;さかひのやまに, つまよぶこゑを;つまよふこゑを, きくがともしさ;きくかともしさ,
   
  08/1562
題詞 巫部麻蘇娘子鴈歌一首
題訓 巫部麻蘇娘子かむこべのまそをとめが雁の歌一首
原文 誰聞都 従此間鳴渡 鴈鳴乃 嬬呼音乃 <乏>知<在><乎>
訓読 誰れ聞きつこゆ鳴き渡る雁がねの妻呼ぶ声の羨しくもあるか
仮名 たれききつ こゆなきわたる かりがねの つまよぶこゑの ともしくもあるか
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 之→乏 [万葉集略解] / 左→在 [万葉集略解] / 守→乎 [定本]
事項 秋雑歌 作者:巫部麻蘇娘子 恋情 恋歌 大伴家持 動物
訓異 かりがねの;かりかねの, つまよぶこゑの;つまよふこゑの, ともしくもあるか;ゆくをしらさす,
   
  08/1563
題詞 大伴家持和歌一首
題訓 大伴家持が和ふる歌一首
原文 聞津哉登 妹之問勢流 鴈鳴者 真毛遠 雲隠奈利
訓読 聞きつやと妹が問はせる雁が音はまことも遠く雲隠るなり
仮名 ききつやと いもがとはせる かりがねは まこともとほく くもがくるなり
左注 なし
校異 歌 [西] 謌
事項 秋雑歌 作者:大伴家持 和歌 巫部麻蘇娘子 恋歌 比喩 動物
訓異 いもがとはせる;いものとはせる, かりがねは;かりかねは, くもがくるなり;くもかくるなり,
   
  08/1564
題詞 <日>置長枝娘子歌一首
題訓 日置長枝娘子へきのながえのをとめが歌一首
原文 秋付者 尾花我上尓 置露乃 應消毛吾者 所念香聞
訓読 秋づけば尾花が上に置く露の消ぬべくも我は思ほゆるかも
仮名 あきづけば をばながうへに おくつゆの けぬべくもわは おもほゆるかも
左注 なし
校異 曰→日 [紀][細][温] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 秋雑歌 作者:日置長枝娘子 大伴家持 恋歌 恋情 植物
訓異 あきづけば;あきつけは, をばながうへに;をはなかうへに, けぬべくもわは;けぬへくもわれは,
   
  08/1565
題詞 大伴家持和歌一首
題訓 大伴家持が和ふる歌一首
原文 吾屋戸乃 一村芽子乎 念兒尓 不令見殆 令散都類香聞
訓読 我が宿の一群萩を思ふ子に見せずほとほと散らしつるかも
仮名 わがやどの ひとむらはぎを おもふこに みせずほとほと ちらしつるかも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌
事項 秋雑歌 作者:大伴家持 日置長枝娘子 恋歌 恋情 比喩 植物
訓異 わがやどの;わかやとを, ひとむらはぎを;ひとむらはきを, みせずほとほと;みせてほとほと, ちらしつるかも;ちらせつるかも,
   
  08/1566
題詞 大伴家持秋歌四首
題訓 大伴家持が秋の歌四首よつ
原文 久堅之 雨間毛不置 雲隠 鳴曽去奈流 早田鴈之哭
訓読 久方の雨間も置かず雲隠り鳴きぞ行くなる早稲田雁がね
仮名 ひさかたの あままもおかず くもがくり なきぞゆくなる わさだかりがね
左注 (右四首天平八年丙子秋九月作)
校異 歌 [西] 謌
事項 秋雑歌 作者:大伴家持 天平8年9月 年紀 動物 季節 叙景
訓異 あままもおかず;あままもおかす, くもがくり;くもかくれ, なきぞゆくなる;なきそゆくなる, わさだかりがね;わさたかりかね,
   
  08/1567
題詞 (大伴家持秋歌四首)
原文 雲隠 鳴奈流鴈乃 去而将居 秋田之穂立 繁之所念
訓読 雲隠り鳴くなる雁の行きて居む秋田の穂立繁くし思ほゆ
仮名 くもがくり なくなるかりの ゆきてゐむ あきたのほたち しげくしおもほゆ
左注 (右四首天平八年丙子秋九月作)
校異 なし
事項 秋雑歌 作者:大伴家持 天平8年9月 年紀 動物
訓異 くもがくり;くもかくれ, ゆきてゐむ;ゆきていむ, しげくしおもほゆ;しけくしそおもふ,
   
  08/1568
題詞 (大伴家持秋歌四首)
原文 雨隠 情欝悒 出見者 春日山者 色付二家利
訓読 雨隠り心いぶせみ出で見れば春日の山は色づきにけり
仮名 あまごもり こころいぶせみ いでみれば かすがのやまは いろづきにけり
左注 (右四首天平八年丙子秋九月作)
校異 なし
事項 秋雑歌 作者:大伴家持 鬱屈 奈良 雨隠 天平8年9月 年紀 地名 季節
訓異 あまごもり;あまこもり, こころいぶせみ;こころゆかしみ, いでみれば;いてみれは, かすがのやまは;かすかのやまは, いろづきにけり;いろつきにけり,
   
  08/1569
題詞 (大伴家持秋歌四首)
原文 雨晴而 清照有 此月夜 又更而 雲勿田菜引
訓読 雨晴れて清く照りたるこの月夜またさらにして雲なたなびき
仮名 あめはれて きよくてりたる このつくよ またさらにして くもなたなびき
左注 右四首天平八年丙子秋九月作
左注訓 右ノ四首ハ、天平八年丙子秋九月ニ作メリ。
校異 なし
事項 秋雑歌 作者:大伴家持 天平8年9月 年紀
訓異 きよくてりたる;きよくてらせる, このつくよ;このつきよ, くもなたなびき;くもなたなひき,
   
  08/1570
題詞 藤原朝臣八束歌二首
題訓 藤原朝臣八束が歌二首
原文 此間在而 春日也何處 雨障 出而不行者 戀乍曽乎流
訓読 ここにありて春日やいづち雨障み出でて行かねば恋ひつつぞ居る
仮名 ここにありて かすがやいづち あまつつみ いでてゆかねば こひつつぞをる
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 秋雑歌 作者:藤原八束 奈良 鬱屈 雨隠 地名 恋情
訓異 かすがやいづち;かすかやいつこ, あまつつみ;あまさはり, いでてゆかねば;いててゆかねは, こひつつぞをる;こひつつそをる,
   
  08/1571
題詞 (藤原朝臣八束歌二首)
原文 春日野尓 <鍾>礼零所見 明日従者 黄葉頭刺牟 高圓乃山
訓読 春日野に時雨降る見ゆ明日よりは黄葉かざさむ高円の山
仮名 かすがのに しぐれふるみゆ あすよりは もみちかざさむ たかまとのやま
左注 なし
校異 鐘→鍾 [類]
事項 秋雑歌 作者:藤原八束 奈良 地名
訓異 かすがのに;かすかのに, しぐれふるみゆ;しくれふるみゆ, もみちかざさむ;もみちかささむ,
   
  08/1572
題詞 大伴家持白露歌一首
題訓 大伴家持が白露の歌一首
原文 吾屋戸乃 草花上之 白露乎 不令消而玉尓 貫物尓毛我
訓読 我が宿の尾花が上の白露を消たずて玉に貫くものにもが
仮名 わがやどの をばながうへの しらつゆを けたずてたまに ぬくものにもが
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 秋雑歌 作者:大伴家持 植物
訓異 わがやどの;わかやとの, をばながうへの;をはなかうへの, けたずてたまに;けたすてたまに, ぬくものにもが;ぬくものにもか,
   
  08/1573
題詞 大伴利上歌一首
題訓 大伴村上が歌一首
原文 秋之雨尓 所沾乍居者 雖賎 吾妹之屋戸志 所念香聞
訓読 秋の雨に濡れつつ居ればいやしけど我妹が宿し思ほゆるかも
仮名 あきのあめに ぬれつつをれば いやしけど わぎもがやどし おもほゆるかも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 秋雑歌 作者:大伴利上 恋情
訓異 ぬれつつをれば;ぬれつつをれは, いやしけど;やしけれと, わぎもがやどし;わきもかやとし,
   
  08/1574
題詞 右大臣橘家宴歌七首
題訓 右大臣みぎのおほまへつきみ橘の家にて宴する歌七首
原文 雲上尓 鳴奈流鴈之 雖遠 君将相跡 手廻来津
訓読 雲の上に鳴くなる雁の遠けども君に逢はむとた廻り来つ
仮名 くものうへに なくなるかりの とほけども きみにあはむと たもとほりきつ
左注 (右二首)( / 天平十年戊寅秋八月廿日)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 秋雑歌 宴席 橘諸兄 天平10年8月20日 年紀 動物
訓異 とほけども;とほけれと, たもとほりきつ;たもとほりきつむ,
   
  08/1575
題詞 (右大臣橘家宴歌七首)
原文 雲上尓 鳴都流鴈乃 寒苗 芽子乃下葉者 黄變可毛
訓読 雲の上に鳴きつる雁の寒きなへ萩の下葉はもみちぬるかも
仮名 くものうへに なきつるかりの さむきなへ はぎのしたばは もみちぬるかも
左注 右二首( / 天平十年戊寅秋八月廿日)
左注訓 右二首ふたうた。
校異 なし
事項 秋雑歌 宴席 橘諸兄 天平10年8月20日 年紀 植物
訓異 はぎのしたばは;はきのしたはは, もみちぬるかも;うつろはかも,
   
  08/1576
題詞 (右大臣橘家宴歌七首)
原文 此岳尓 小<壮>鹿履起 宇加埿良比 可聞可<聞>為良久 君故尓許曽
訓読 この岡に小鹿踏み起しうかねらひかもかもすらく君故にこそ
仮名 このをかに をしかふみおこし うかねらひ かもかもすらく きみゆゑにこそ
左注 右一首長門守巨曽倍朝臣津嶋( / 天平十年戊寅秋八月廿日)
左注訓 右の一首ひとうたは、長門守巨曽倍朝臣津島。
校異 牡→壮 [定本] / 開→聞 [代匠記精撰本]
事項 秋雑歌 作者:巨曽倍津嶋 宴席 橘諸兄 天平10年8月20日 年紀 主人讃美 動物
訓異 かもかもすらく;かもかくすらく, きみゆゑにこそ;きみゆへにこそ,
   
  08/1577
題詞 (右大臣橘家宴歌七首)
原文 秋野之 草花我末乎 押靡而 来之久毛知久 相流君可聞
訓読 秋の野の尾花が末を押しなべて来しくもしるく逢へる君かも
仮名 あきののの をばながうれを おしなべて こしくもしるく あへるきみかも
左注 (右二首阿倍朝臣蟲麻呂)( / 天平十年戊寅秋八月廿日)
校異 なし
事項 秋雑歌 作者:阿倍虫麻呂 宴席 橘諸兄 天平10年8月20日 年紀 主人讃美 植物
訓異 をばながうれを;をはなかすゑを, おしなべて;おしなへて,
   
  08/1578
題詞 (右大臣橘家宴歌七首)
原文 今朝鳴而 行之鴈鳴 寒可聞 此野乃淺茅 色付尓家類
訓読 今朝鳴きて行きし雁が音寒みかもこの野の浅茅色づきにける
仮名 けさなきて ゆきしかりがね さむみかも このののあさぢ いろづきにける
左注 右二首阿倍朝臣蟲麻呂( / 天平十年戊寅秋八月廿日)
左注訓 右の二首は、阿倍朝臣蟲麻呂。
校異 なし
事項 秋雑歌 作者:阿倍虫麻呂 宴席 橘諸兄 天平10年8月20日 年紀 主人讃美 動物
訓異 けさなきて;あさなきて, ゆきしかりがね;ゆきしかりかね, このののあさぢ;こののあさち, いろづきにける;いろつきにけり,
   
  08/1579
題詞 (右大臣橘家宴歌七首)
原文 朝扉開而 物念時尓 白露乃 置有秋芽子 所見喚鶏本名
訓読 朝戸開けて物思ふ時に白露の置ける秋萩見えつつもとな
仮名 あさとあけて ものもふときに しらつゆの おけるあきはぎ みえつつもとな
左注 (右二首文忌寸馬養 / 天平十年戊寅秋八月廿日)
校異 なし
事項 秋雑歌 作者:文馬養 宴席 橘諸兄 天平10年8月20日 年紀 植物
訓異 ものもふときに;ものおもふときに, おけるあきはぎ;おけるあきはき,
   
  08/1580
題詞 (右大臣橘家宴歌七首)
原文 棹<壮>鹿之 来立鳴野之 秋芽子者 露霜負而 落去之物乎
訓読 さを鹿の来立ち鳴く野の秋萩は露霜負ひて散りにしものを
仮名 さをしかの きたちなくのの あきはぎは つゆしもおひて ちりにしものを
左注 右二首文忌寸馬養 / 天平十年戊寅秋八月廿日
左注訓 右の二首は、文忌寸馬養あやのいみきうまかひ。 天平十年戊寅秋八月二十日。
校異 牡→壮 [紀]
事項 秋雑歌 作者:文馬養 宴席 橘諸兄 天平10年8月20日 年紀 動物 植物
訓異 あきはぎは;あきはきは,
   
  08/1581
題詞 橘朝臣奈良麻呂結集宴歌十一首
題訓 橘朝臣奈良麻呂が宴するときの歌十一首とをまりひとつ
原文 不手折而 落者惜常 我念之 秋黄葉乎 挿頭鶴鴨
訓読 手折らずて散りなば惜しと我が思ひし秋の黄葉をかざしつるかも
仮名 たをらずて ちりなばをしと わがおもひし あきのもみちを かざしつるかも
左注 (右二首橘朝臣奈良麻呂)( / 以前冬十月十七日集於右大臣橘卿之舊宅宴飲也)
校異 朝臣 [類] 宿祢 / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 秋雑歌 作者:橘奈良麻呂 宴席 天平10年10月17日 年紀 植物
訓異 たをらずて;たをらすて, ちりなばをしと;ちりなはをしと, わがおもひし;わかおもひし, かざしつるかも;かさしつるかも,
   
  08/1582
題詞 (橘朝臣奈良麻呂結集宴歌十一首)
原文 <希>将見 人尓令見跡 黄葉乎 手折曽我来師 雨零久仁
訓読 めづらしき人に見せむと黄葉を手折りぞ我が来し雨の降らくに
仮名 めづらしき ひとにみせむと もみちばを たをりぞわがこし あめのふらくに
左注 右二首橘朝臣奈良麻呂( / 以前冬十月十七日集於右大臣橘卿之舊宅宴飲也)
左注訓 右の二首は、橘朝臣奈良麻呂。
校異 布→希 [万葉集略解]
事項 秋雑歌 作者:橘奈良麻呂 宴席 天平10年10月17日 年紀 植物
訓異 めづらしき;しきてみむ, もみちばを;もみちはを, たをりぞわがこし;たをりそわかこし,
   
  08/1583
題詞 (橘朝臣奈良麻呂結集宴歌十一首)
原文 黄葉乎 令落<鍾>礼尓 所沾而来而 君之黄葉乎 挿頭鶴鴨
訓読 黄葉を散らす時雨に濡れて来て君が黄葉をかざしつるかも
仮名 もみちばを ちらすしぐれに ぬれてきて きみがもみちを かざしつるかも
左注 右一首久米女王( / 以前冬十月十七日集於右大臣橘卿之舊宅宴飲也)
左注訓 右の一首は、久米女王。
校異 鐘→鍾 [定本]
事項 秋雑歌 作者:久米女王 橘奈良麻呂 宴席 天平10年10月17日 年紀 植物
訓異 もみちばを;もみちはを, ちらすしぐれに;ちらすしくれに, きみがもみちを;きみかもみちを, かざしつるかも;かさしつるかも,
   
  08/1584
題詞 (橘朝臣奈良麻呂結集宴歌十一首)
原文 <希>将見跡 吾念君者 秋山<乃> 始<黄>葉尓 似許曽有家礼
訓読 めづらしと我が思ふ君は秋山の初黄葉に似てこそありけれ
仮名 めづらしと あがおもふきみは あきやまの はつもみちばに にてこそありけれ
左注 右一首長忌寸娘( / 以前冬十月十七日集於右大臣橘卿之舊宅宴飲也)
左注訓 右の一首は、長忌寸娘ながのいみきがむすめ。
校異 布→希 [万葉集略解] / <>→乃 [類][紀][温][矢] / <>→黄 [西(右書)][類][紀][細]
事項 秋雑歌 作者:長娘 橘奈良麻呂 宴席 天平10年10月17日 年紀 主人讃美 植物
訓異 めづらしと;しきてみむと, あがおもふきみは;わかおもふきみは, はつもみちばに;はつもみちはに,
   
  08/1585
題詞 (橘朝臣奈良麻呂結集宴歌十一首)
原文 平山乃 峯之黄葉 取者落 <鍾>礼能雨師 無間零良志
訓読 奈良山の嶺の黄葉取れば散る時雨の雨し間なく降るらし
仮名 ならやまの みねのもみちば とればちる しぐれのあめし まなくふるらし
左注 右一首内舎人縣犬養宿祢吉男( / 以前冬十月十七日集於右大臣橘卿之舊宅宴飲也)
左注訓 右の一首は、内舎人うちとねり縣犬養宿禰吉男。
校異 鐘→鍾 [類]
事項 秋雑歌 作者:縣犬養吉男 橘奈良麻呂 宴席 天平10年10月17日 年紀 地名 植物 奈良
訓異 ならやまの;ひらやまの, みねのもみちば;みねのもみちは, とればちる;とれはちる, しぐれのあめし;しくれのあめし,
   
  08/1586
題詞 (橘朝臣奈良麻呂結集宴歌十一首)
原文 黄葉乎 落巻惜見 手折来而 今夜挿頭津 何物可将念
訓読 黄葉を散らまく惜しみ手折り来て今夜かざしつ何か思はむ
仮名 もみちばを ちらまくをしみ たをりきて こよひかざしつ なにかおもはむ
左注 右一首縣犬養宿祢持男( / 以前冬十月十七日集於右大臣橘卿之舊宅宴飲也)
左注訓 右の一首は、縣犬養宿禰持男。
校異 なし
事項 秋雑歌 作者:縣犬養持男 橘奈良麻呂 宴席 天平10年10月17日 年紀 植物
訓異 もみちばを;もみちはを, こよひかざしつ;こよひかさしつ,
   
  08/1587
題詞 (橘朝臣奈良麻呂結集宴歌十一首)
原文 足引乃 山之黄葉 今夜毛加 浮去良武 山河之瀬尓
訓読 あしひきの山の黄葉今夜もか浮かび行くらむ山川の瀬に
仮名 あしひきの やまのもみちば こよひもか うかびゆくらむ やまがはのせに
左注 右一首大伴宿祢書持( / 以前冬十月十七日集於右大臣橘卿之舊宅宴飲也)
左注訓 右の一首は、大伴宿禰書持。
校異 なし
事項 秋雑歌 作者:大伴書持 橘奈良麻呂 宴席 天平10年10月17日 植物
訓異 やまのもみちば;やまのもみちは, うかびゆくらむ;うきていぬらむ, やまがはのせに;やまかはのせに,
   
  08/1588
題詞 (橘朝臣奈良麻呂結集宴歌十一首)
原文 平山乎 令丹黄葉 手折来而 今夜挿頭都 落者雖落
訓読 奈良山をにほはす黄葉手折り来て今夜かざしつ散らば散るとも
仮名 ならやまを にほはすもみち たをりきて こよひかざしつ ちらばちるとも
左注 右一首<三>手代人名( / 以前冬十月十七日集於右大臣橘卿之舊宅宴飲也)
左注訓 右の一首は、三手代人名みてしろのひとな。
校異 之→三 [細]
事項 秋雑歌 作者:三手代人名 橘奈良麻呂 宴席 天平10年10月17日 年紀 地名 奈良 植物
訓異 にほはすもみち;にほすもみちは, こよひかざしつ;こよひかさしつ, ちらばちるとも;ちらはちるとも,
   
  08/1589
題詞 (橘朝臣奈良麻呂結集宴歌十一首)
原文 露霜尓 逢有黄葉乎 手折来而 妹挿頭都 後者落十方
訓読 露霜にあへる黄葉を手折り来て妹とかざしつ後は散るとも
仮名 つゆしもに あへるもみちを たをりきて いもはかざしつ のちはちるとも
左注 右一首秦許遍麻呂( / 以前冬十月十七日集於右大臣橘卿之舊宅宴飲也)
左注訓 右の一首は、秦許遍麻呂はたのこべまろ。
校異 なし
事項 秋雑歌 作者:秦許遍麻呂 橘奈良麻呂 宴席 天平10年10月17日 年紀 植物
訓異 いもはかざしつ;いもにかさしつ,
   
  08/1590
題詞 (橘朝臣奈良麻呂結集宴歌十一首)
原文 十月 <鍾>礼尓相有 黄葉乃 吹者将落 風之随
訓読 十月時雨にあへる黄葉の吹かば散りなむ風のまにまに
仮名 かむなづき しぐれにあへる もみちばの ふかばちりなむ かぜのまにまに
左注 右一首大伴宿祢池主( / 以前冬十月十七日集於右大臣橘卿之舊宅宴飲也)
左注訓 右の一首は、大伴宿禰池主。
校異 鐘→鍾 [類]
事項 秋雑歌 作者:大伴池主 橘奈良麻呂 宴席 天平10年10月17日 年紀 植物
訓異 かむなづき;かみなつき, しぐれにあへる;しくれにあへる, もみちばの;もみちはの, ふかばちりなむ;ふかはちりなむ, かぜのまにまに;かせのまにまに,
   
  08/1591
題詞 (橘朝臣奈良麻呂結集宴歌十一首)
原文 黄葉乃 過麻久惜美 思共 遊今夜者 不開毛有奴香
訓読 黄葉の過ぎまく惜しみ思ふどち遊ぶ今夜は明けずもあらぬか
仮名 もみちばの すぎまくをしみ おもふどち あそぶこよひは あけずもあらぬか
左注 右一首内舎人大伴宿祢家持 / 以前冬十月十七日集於右大臣橘卿之舊宅宴飲也
左注訓 右の一首は、内舎人大伴宿禰家持。 以前冬十月十七日、右大臣橘卿ノ旧宅ニ集ヒテ宴飲ス。
校異 なし
事項 秋雑歌 作者:大伴家持 橘奈良麻呂 宴席 天平10年10月17日 年紀 植物
訓異 もみちばの;もみちはの, すぎまくをしみ;すきまくをしみ, おもふどち;おもふとち, あそぶこよひは;あそふこよひは, あけずもあらぬか;あけすもあらぬか,
   
  08/1592
題詞 大伴坂上郎女竹田庄作歌二首
題訓 大伴坂上郎女が竹田の庄にてよめる歌二首
原文 然不有 五百代小田乎 苅乱 田蘆尓居者 京師所念
訓読 しかとあらぬ五百代小田を刈り乱り田廬に居れば都し思ほゆ
仮名 しかとあらぬ いほしろをだを かりみだり たぶせにをれば みやこしおもほゆ
左注 (右天平十一年己卯秋九月作)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 秋雑歌 作者:坂上郎女 奈良県 桜井市 望郷 天平11年9月 年紀 地名
訓異 しかとあらぬ;たたならす, いほしろをだを;いほしろをたを, かりみだり;かりみたり, たぶせにをれば;たふせにをれは,
   
  08/1593
題詞 (大伴坂上郎女竹田庄作歌二首)
原文 隠口乃 始瀬山者 色附奴 <鍾>礼乃雨者 零尓家良思母
訓読 隠口の泊瀬の山は色づきぬ時雨の雨は降りにけらしも
仮名 こもりくの はつせのやまは いろづきぬ しぐれのあめは ふりにけらしも
左注 右天平十一年己卯秋九月作
左注訓 右、天平十一年己卯秋九月ニ作メリ。
校異 鐘→鍾 [類][矢]
事項 秋雑歌 作者:坂上郎女 奈良県 桜井市 天平11年9月 年紀 季節
訓異 いろづきぬ;いろつきぬ, しぐれのあめは;しくれのあめは,
   
  08/1594
題詞 佛前唱歌一首
題訓 仏の前にて唱ふ歌一首
原文 思具礼能雨 無間莫零 紅尓 丹保敝流山之 落巻惜毛
訓読 時雨の雨間なくな降りそ紅ににほへる山の散らまく惜しも
仮名 しぐれのあめ まなくなふりそ くれなゐに にほへるやまの ちらまくをしも
左注 右冬十月皇后宮之維摩講 終日供養大唐高麗等種々音樂 尓乃唱此歌詞 弾琴者市原王 忍坂王[後賜姓大原真人赤麻呂也] 歌子者田口朝臣家守 河邊朝臣東人 置始連長谷等十數人也
左注訓 右、冬十月かみなつき、皇后宮きさきのみやの維摩講ゆゐまかうに、終日ひねもす大唐もろこし高麗こま 等の種種くさぐさの音楽うたまひを供養つかへまつり、すなはち此の歌詞うたを 唄ふ。琴弾きは市原王、忍坂王おさかのおほきみ後、大原真人赤麻呂 ヲ賜姓フ。歌子うたひとは田口朝臣家守やかもり、河邊朝臣東人あづまひと、 置始連長谷おきそめのむらじはつせ等十数人とたりまりのひとなり。
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 謌 [温][矢][京] 歌 / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 秋雑歌 天平11年10月 年紀 光明皇后 誦唱
訓異 しぐれのあめ;しくれのあめ,
   
  08/1595
題詞 大伴宿祢像見歌一首
題訓 大伴宿禰像見かたみが歌一首
原文 秋芽子乃 枝毛十尾二 降露乃 消者雖消 色出目八方
訓読 秋萩の枝もとををに置く露の消なば消ぬとも色に出でめやも
仮名 あきはぎの えだもとををに おくつゆの けなばけぬとも いろにいでめやも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 秋雑歌 作者:大伴像見 恋愛 植物
訓異 あきはぎの;あきはきの, えだもとををに;えたもとををに, けなばけぬとも;けなはけぬとも, いろにいでめやも;いろにいてめやも,
   
  08/1596
題詞 大伴宿祢家持到娘子門作歌一首
題訓 大伴宿禰家持が娘子の門に到りてよめる歌一首
原文 妹家之 門田乎見跡 打出来之 情毛知久 照月夜鴨
訓読 妹が家の門田を見むとうち出で来し心もしるく照る月夜かも
仮名 いもがいへの かどたをみむと うちいでこし こころもしるく てるつくよかも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 秋雑歌 作者:大伴家持 恋愛 恋情
訓異 いもがいへの;いもかいへの, かどたをみむと;かとたをみむと, うちいでこし;うちいてこし, てるつくよかも;てるつきよかも,
   
  08/1597
題詞 大伴宿祢家持秋歌三首
題訓 大伴宿禰家持が秋の歌三首
原文 秋野尓 開流秋芽子 秋風尓 靡流上尓 秋露置有
訓読 秋の野に咲ける秋萩秋風に靡ける上に秋の露置けり
仮名 あきののに さけるあきはぎ あきかぜに なびけるうへに あきのつゆおけり
左注 (右天平十五年癸未秋八月見物色作)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 秋雑歌 作者:大伴家持 天平15年8月 年紀 植物 季節
訓異 さけるあきはぎ;さけりあきはき, あきかぜに;あきかせに, なびけるうへに;なひけるうへに,
   
  08/1598
題詞 (大伴宿祢家持秋歌三首)
原文 棹<壮>鹿之 朝立野邊乃 秋芽子尓 玉跡見左右 置有白露
訓読 さを鹿の朝立つ野辺の秋萩に玉と見るまで置ける白露
仮名 さをしかの あさたつのへの あきはぎに たまとみるまで おけるしらつゆ
左注 (右天平十五年癸未秋八月見物色作)
校異 牡→壮 [紀]
事項 秋雑歌 作者:大伴家持 天平15年8月 年紀 動物 植物
訓異 あきはぎに;あきはきに, たまとみるまで;たまとみるまて,
   
  08/1599
題詞 (大伴宿祢家持秋歌三首)
原文 狭尾<壮>鹿乃 胸別尓可毛 秋芽子乃 散過鶏類 盛可毛行流
訓読 さを鹿の胸別けにかも秋萩の散り過ぎにける盛りかも去ぬる
仮名 さをしかの むなわけにかも あきはぎの ちりすぎにける さかりかもいぬる
左注 右天平十五年癸未秋八月見物色作
左注訓 右、天平十五年癸未秋八月、物色ヲ見テ作メリ。
校異 牡→壮 [紀]
事項 秋雑歌 作者:大伴家持 天平15年8月 年紀 動物 植物
訓異 むなわけにかも;むねわけにかも, あきはぎの;あきはきの, ちりすぎにける;ちりすきにける,
   
  08/1600
題詞 内舎人石川朝臣廣成歌二首
題訓 内舎人石川朝臣廣成が歌二首
原文 妻戀尓 鹿鳴山邊之 秋芽子者 露霜寒 盛須疑由君
訓読 妻恋ひに鹿鳴く山辺の秋萩は露霜寒み盛り過ぎゆく
仮名 つまごひに かなくやまへの あきはぎは つゆしもさむみ さかりすぎゆく
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 秋雑歌 作者:石川広成 植物 動物 季節
訓異 つまごひに;つまこひに, かなくやまへの;しかなくやまの, あきはぎは;あきはきは, さかりすぎゆく;さかりすきゆく,
   
  08/1601
題詞 (内舎人石川朝臣廣成歌二首)
原文 目頬布 君之家有 波奈須為寸 穂出秋乃 過良久惜母
訓読 めづらしき君が家なる花すすき穂に出づる秋の過ぐらく惜しも
仮名 めづらしき きみがいへなる はなすすき ほにいづるあきの すぐらくをしも
左注 なし
校異 なし
事項 秋雑歌 作者:石川広成 宴席 植物 季節
訓異 めづらしき;めつらしき, きみがいへなる;きみかいへなる, ほにいづるあきの;ほにいつるあきの, すぐらくをしも;すきらくをしも,
   
  08/1602
題詞 大伴宿祢家持鹿鳴歌二首
題訓 大伴宿禰家持が鹿鳴しかの歌二首
原文 山妣姑乃 相響左右 妻戀尓 鹿鳴山邊尓 獨耳為手
訓読 山彦の相響むまで妻恋ひに鹿鳴く山辺に独りのみして
仮名 やまびこの あひとよむまで つまごひに かなくやまへに ひとりのみして
左注 (右二首天平十五年癸未八月十六日作)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 秋雑歌 作者:大伴家持 天平15年8月16日 年紀 孤独 恋情 動物
訓異 やまびこの;やまひこの, あひとよむまで;あひとよむまて, つまごひに;つまこひに, かなくやまへに;しかなくやまへに,
   
  08/1603
題詞 (大伴宿祢家持鹿鳴歌二首)
原文 <頃>者之 朝開尓聞者 足日木篦 山<呼>令響 狭尾<壮>鹿鳴哭
訓読 このころの朝明に聞けばあしひきの山呼び響めさを鹿鳴くも
仮名 このころの あさけにきけば あしひきの やまよびとよめ さをしかなくも
左注 右二首天平十五年癸未八月十六日作
左注訓 右ノ二首、天平十五年癸未八月十六日ニ作メリ。
校異 項→頃 [紀] / 乎→呼 [類][紀][矢][京] / <>→壮 [西(右書)][紀]
事項 秋雑歌 作者:大伴家持 天平15年8月16日 年紀 動物 季節
訓異 あさけにきけば;あさけにきけは, やまよびとよめ;やまをとよまし,
   
  08/1604
題詞 大原真人今城傷惜寧樂故郷歌一首
題訓 大原真人今城おほはらのまひといまきが寧樂の故郷を傷惜をしむ歌一首
原文 秋去者 春日山之 黄葉見流 寧樂乃京師乃 荒良久惜毛
訓読 秋されば春日の山の黄葉見る奈良の都の荒るらく惜しも
仮名 あきされば かすがのやまの もみちみる ならのみやこの あるらくをしも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 秋雑歌 作者:大原今城 奈良 荒都 地名
訓異 あきされば;あきされは, かすがのやまの;かすかのやまの,
   
  08/1605
題詞 大伴宿祢家持歌一首
題訓 大伴宿禰家持が歌一首
原文 高圓之 野邊乃秋芽子 此日之 暁露尓 開兼可聞
訓読 高円の野辺の秋萩このころの暁露に咲きにけむかも
仮名 たかまとの のへのあきはぎ このころの あかときつゆに さきにけむかも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 秋雑歌 作者:大伴家持 奈良 地名 植物
訓異 のへのあきはぎ;のへのあきはき, あかときつゆに;あかつきつゆに,
   
 

秋相聞

   
  08/1606
題詞 秋相聞 / 額田王思近江天皇作歌一首
題訓 秋の相聞したしみうた 額田王の近江天皇を思しぬひてよみたまへる歌一首
原文 君待跡 吾戀居者 我屋戸乃 簾令動 秋之風吹
訓読 君待つと我が恋ひをれば我が宿の簾動かし秋の風吹く
仮名 きみまつと あがこひをれば わがやどの すだれうごかし あきのかぜふく
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)]
事項 秋相聞 作者:額田王 天智天皇 恋情
訓異 あがこひをれば;わかこひをれは, わがやどの;わかやとの, すだれうごかし;すたれうこかし, あきのかぜふく;あきのかせふく,
   
  08/1607
題詞 鏡王女作歌一首
題訓 鏡女王のよみたまへる歌一首
原文 風乎谷 戀者乏 風乎谷 将来常思待者 何如将嘆
訓読 風をだに恋ふるは羨し風をだに来むとし待たば何か嘆かむ
仮名 かぜをだに こふるはともし かぜをだに こむとしまたば なにかなげかむ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 秋相聞 作者:鏡王女 天智天皇 恋情
訓異 かぜをだに;かせをたに, こふるはともし;こふれはともし, かぜをだに;かせをたに, こむとしまたば;こむとしまたは, なにかなげかむ;いかかなけかむ,
   
  08/1608
題詞 弓削皇子御歌一首
題訓 弓削皇子の御歌一首
原文 秋芽子之 上尓置有 白露乃 消可毛思奈萬思 戀管不有者
訓読 秋萩の上に置きたる白露の消かもしなまし恋ひつつあらずは
仮名 あきはぎの うへにおきたる しらつゆの けかもしなまし こひつつあらずは
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 秋相聞 作者:弓削皇子 恋情 植物
訓異 あきはぎの;あきはきの, こひつつあらずは;こひつつあらすは,
   
  08/1609
題詞 丹比真人歌一首 [名闕]
題訓 丹比真人が歌一首
原文 宇陀乃野之 秋芽子師弩藝 鳴鹿毛 妻尓戀樂苦 我者不益
訓読 宇陀の野の秋萩しのぎ鳴く鹿も妻に恋ふらく我れにはまさじ
仮名 うだののの あきはぎしのぎ なくしかも つまにこふらく われにはまさじ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 秋相聞 作者:丹比真人 奈良県 地名 植物 動物
訓異 うだののの;うたののの, あきはぎしのぎ;あきはきしのき, われにはまさじ;われにはまさし,
   
  08/1610
題詞 丹生女王贈大宰帥大伴卿歌一首
題訓 丹生女王にふのおほきみの太宰帥大伴卿に贈りたまへる歌一首
原文 高圓之 秋野上乃 瞿麦之花 丁<壮>香見 人之挿頭師 瞿麦之花
訓読 高円の秋野の上のなでしこの花うら若み人のかざししなでしこの花
仮名 たかまとの あきののうへの なでしこのはな うらわかみ ひとのかざしし なでしこのはな
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 牡→壮 [紀][温][矢]
事項 秋相聞 作者:丹生女王 大伴旅人 奈良 旋頭歌 贈答 地名 植物
訓異 なでしこのはな;なてしこのはな, ひとのかざしし;ひとのかさしし, なでしこのはな;なてしこのはな,
   
  08/1611
題詞 笠縫女王歌一首 [六人部王之女母曰田形皇女也]
題訓 笠縫女王かさぬひのおほきみの歌一首
原文 足日木乃 山下響 鳴鹿之 事乏可母 吾情都末
訓読 あしひきの山下響め鳴く鹿の言ともしかも我が心夫
仮名 あしひきの やましたとよめ なくしかの ことともしかも わがこころつま
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 秋相聞 作者:笠縫女王 六人部王 田形皇女 忍恋媿 動物
訓異 やましたとよめ;やましたとよみ, わがこころつま;わかこころつま,
   
  08/1612
題詞 石川賀係女郎歌一首
題訓 石川賀係女郎かけのいらつめが歌一首
原文 神佐夫等 不許者不有 秋草乃 結之紐乎 解者悲哭
訓読 神さぶといなにはあらず秋草の結びし紐を解くは悲しも
仮名 かむさぶと いなにはあらず あきくさの むすびしひもを とくはかなしも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 秋相聞 作者:石川賀係女郎
訓異 かむさぶと;かみさふと, いなにはあらず;きかすはあらす, むすびしひもを;むすひしひもを,
   
  08/1613
題詞 賀茂女王歌一首 [長屋王之女母曰阿倍朝臣也]
題訓 賀茂女王の歌一首
原文 秋野乎 旦徃鹿乃 跡毛奈久 念之君尓 相有今夜香
訓読 秋の野を朝行く鹿の跡もなく思ひし君に逢へる今夜か
仮名 あきののを あさゆくしかの あともなく おもひしきみに あへるこよひか
左注 右歌或云椋橋部女王作 或云笠縫女王作
左注訓 右ノ歌、或ハ云ク椋橋部女王、或ハ云ク笠縫女王ノ作。
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 秋相聞 作者:賀茂女王 長屋王 阿倍朝臣 異伝 椋橋部女王 笠縫女王 動物
訓異 -
   
  08/1614
題詞 遠江守櫻井王奉天皇歌一首
題訓 遠江守櫻井王の天皇に奉らせる歌一首
原文 九月之 其始鴈乃 使尓毛 念心者 <所>聞来奴鴨
訓読 九月のその初雁の使にも思ふ心は聞こえ来ぬかも
仮名 ながつきの そのはつかりの つかひにも おもふこころは きこえこぬかも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 可→所 [代匠記初稿本]
事項 秋相聞 作者:桜井王 聖武天皇 大夫 動物
訓異 ながつきの;なかつきの,
   
  08/1615
題詞 天皇賜報和御歌一首
題訓 天皇の報和こたへませる御歌おほみうた一首
原文 大乃浦之 其長濱尓 縁流浪 寛公乎 念<比>日 [大浦者遠江國之海濱名也]
訓読 大の浦のその長浜に寄する波ゆたけく君を思ふこのころ [大浦者遠江國之海濱名也]
仮名 おほのうらの そのながはまに よするなみ ゆたけくきみを おもふこのころ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 大乃 [類][古](塙) 大 / 此→比 [古][温][京]
事項 秋相聞 作者:聖武天皇 桜井王 和歌 静岡県 地名
訓異 そのながはまに;そのなかはまに,
   
  08/1616
題詞 笠女郎<贈>大伴宿祢家持歌一首
題訓 笠女郎が大伴宿禰家持に贈れる歌一首
原文 毎朝 吾見屋戸乃 瞿麦之 花尓毛君波 有許世奴香裳
訓読 朝ごとに我が見る宿のなでしこの花にも君はありこせぬかも
仮名 あさごとに わがみるやどの なでしこの はなにもきみは ありこせぬかも
左注 なし
校異 賜→贈 [紀] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 秋相聞 作者:笠郎女 大伴家持 贈答 恋情 植物
訓異 あさごとに;あさことに, わがみるやどの;わかみるやとの, なでしこの;なてしこの,
   
  08/1617
題詞 山口女王<贈>大伴宿祢家持歌一首
題訓 山口女王の大伴宿禰家持に贈りたまへる歌一首
原文 秋芽子尓 置有露乃 風吹而 落涙者 留不勝都毛
訓読 秋萩に置きたる露の風吹きて落つる涙は留めかねつも
仮名 あきはぎに おきたるつゆの かぜふきて おつるなみたは とどめかねつも
左注 なし
校異 賜→贈 [紀][温][矢][京] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 秋相聞 作者:山口女王 大伴家持 贈答 恋情 植物
訓異 あきはぎに;あきはきに, かぜふきて;かせふきて, とどめかねつも;ととめかねつも,
   
  08/1618
題詞 湯原王<贈>娘子歌一首
題訓 湯原王の娘子に贈りたまへる歌一首
原文 玉尓貫 不令消賜良牟 秋芽子乃 宇礼和々良葉尓 置有白露
訓読 玉に貫き消たず賜らむ秋萩の末わくらばに置ける白露
仮名 たまにぬき けたずたばらむ あきはぎの うれわくらばに おけるしらつゆ
左注 なし
校異 賜→贈 [紀][温][矢][京] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 秋相聞 作者:湯原王 娘子 贈答 植物
訓異 けたずたばらむ;けさてたまらむ, あきはぎの;あきはきの, うれわくらばに;うれわわらはに,
   
  08/1619
題詞 大伴家持至姑坂上郎女竹田庄作歌一首
題訓 大伴家持が、姑をば坂上郎女の竹田の庄に至りてよめる歌一首
原文 玉桙乃 道者雖遠 愛哉師 妹乎相見尓 出而曽吾来之
訓読 玉桙の道は遠けどはしきやし妹を相見に出でてぞ我が来し
仮名 たまほこの みちはとほけど はしきやし いもをあひみに いでてぞわがこし
左注 (右二首天平十一年己卯秋八月作)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 秋相聞 作者:大伴家持 坂上郎女 奈良 桜井市 天平11年8月 年紀 枕詞
訓異 みちはとほけど;みちはとほけれと, はしきやし;よしゑやし, いでてぞわがこし;いててそわかこし,
   
  08/1620
題詞 大伴坂上郎女和歌一首
題訓 大伴坂上郎女が和ふる歌一首
原文 荒玉之 月立左右二 来不益者 夢西見乍 思曽吾勢思
訓読 あらたまの月立つまでに来まさねば夢にし見つつ思ひぞ我がせし
仮名 あらたまの つきたつまでに きまさねば いめにしみつつ おもひぞわがせし
左注 右二首天平十一年己卯秋八月作
左注訓 右ノ二首、天平十一年己卯秋八月ニ作メリ。
校異 歌 [西] 謌
事項 秋相聞 作者:坂上郎女 和歌 大伴家持 天平11年8月 年紀
訓異 つきたつまでに;つきたつまてに, きまさねば;きまさねは, いめにしみつつ;ゆめにしみつつ, おもひぞわがせし;おもそわかせし,
   
  08/1621
題詞 巫部麻蘇娘子歌一首
題訓 巫部麻蘇娘子が歌一首
原文 吾屋前<之> 芽子花咲有 見来益 今二日許 有者将落
訓読 我が宿の萩花咲けり見に来ませいま二日だみあらば散りなむ
仮名 わがやどの はぎはなさけり みにきませ いまふつかだみ あらばちりなむ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 乃→之 [類][紀]
事項 秋相聞 作者:巫部麻蘇娘子 勧誘 恋情 植物
訓異 わがやどの;わかやとの, はぎはなさけり;はきのはなさけり, いまふつかだみ;いまふつかはかり, あらばちりなむ;あらはちりなむ,
   
  08/1622
題詞 大伴田村大嬢与<妹>坂上大嬢歌二首
題訓 大伴田村大嬢が妹坂上大嬢さかのへのおほいらつめに与おくれる歌二首
原文 吾屋戸乃 秋之芽子開 夕影尓 今毛見師香 妹之光儀乎
訓読 我が宿の秋の萩咲く夕影に今も見てしか妹が姿を
仮名 わがやどの あきのはぎさく ゆふかげに いまもみてしか いもがすがたを
左注 なし
校異 <>→妹 [西(右書)][紀] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 秋相聞 作者:田村大嬢 坂上大嬢 贈答 与歌 植物
訓異 わがやどの;わかやとの, あきのはぎさく;あきのはきさく, ゆふかげに;ゆふかけに, いもがすがたを;いもかすかたを,
   
  08/1623
題詞 (大伴田村大嬢与<妹>坂上大嬢歌二首)
原文 吾屋戸尓 黄變蝦手 毎見 妹乎懸管 不戀日者無
訓読 我が宿にもみつ蝦手見るごとに妹を懸けつつ恋ひぬ日はなし
仮名 わがやどに もみつかへるて みるごとに いもをかけつつ こひぬひはなし
左注 なし
校異 なし
事項 秋相聞 作者:田村大嬢 坂上大嬢 贈答 与歌 植物
訓異 わがやどに;わかやとに, もみつかへるて;もみつるかへて, みるごとに;みることに,
   
  08/1624
題詞 坂上大娘秋稲蘰贈大伴宿祢家持歌一首
題訓 坂上大娘が秋稲蘰いなかづらを大伴宿禰家持に贈れる歌一首
原文 吾之蒔有 早田之穂立 造有 蘰曽見乍 師弩波世吾背
訓読 我が蒔ける早稲田の穂立作りたるかづらぞ見つつ偲はせ我が背
仮名 わがまける わさだのほたち つくりたる かづらぞみつつ しのはせわがせ
左注 (右三首天平十一年己卯秋九月徃来)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 蒔 [類][紀] 業
事項 秋相聞 作者:坂上大嬢 大伴家持 贈答 天平11年9月 年紀 植物
訓異 わがまける;わかわさなる, わさだのほたち;わさたのほたて, かづらぞみつつ;かつらそみつつ, しのはせわがせ;しのはせわかせ,
   
  08/1625
題詞 大伴宿祢家持報贈歌一首
題訓 大伴宿禰家持が報贈こたふる歌一首
原文 吾妹兒之 業跡造有 秋田 早穂乃蘰 雖見不飽可聞
訓読 我妹子が業と作れる秋の田の早稲穂のかづら見れど飽かぬかも
仮名 わぎもこが なりとつくれる あきのたの わさほのかづら みれどあかぬかも
左注 (右三首天平十一年己卯秋九月徃来)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 秋相聞 作者:大伴家持 贈答 天平11年9月 年紀 植物 讃美
訓異 わぎもこが;わきもこか, なりとつくれる;わさとつくれる, わさほのかづら;わさほのかつら, みれどあかぬかも;みれとあかぬかも,
   
  08/1626
題詞 <又>報脱著身衣贈家持歌一首
題訓 また著ならせる衣を脱きて家持に贈れるに報ふる歌一首
原文 秋風之 寒比日 下尓将服 妹之形見跡 可都毛思努播武
訓読 秋風の寒きこのころ下に着む妹が形見とかつも偲はむ
仮名 あきかぜの さむきこのころ したにきむ いもがかたみと かつもしのはむ
左注 右三首天平十一年己卯秋九月徃来
左注訓 右ノ三首、天平十一年己卯秋九月ニ徃来ス。
校異 又 [西(上書訂正)][紀][温][矢] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 秋相聞 作者:大伴家持 贈答 天平11年9月 年紀
訓異 あきかぜの;あきかせの, いもがかたみと;いもかかたみと,
   
  08/1627
題詞 大伴宿祢家持<攀>非時藤花并芽子黄葉二物贈坂上大嬢歌二首
題訓 大伴宿禰家持が、非時ときじくの藤の花、また芽子はぎの黄葉もみちの二物ふたくさを攀をりて、坂上大嬢に贈れる歌二首
原文 吾屋前之 非時藤之 目頬布 今毛見<壮>鹿 妹之咲容乎
訓読 我が宿の時じき藤のめづらしく今も見てしか妹が笑まひを
仮名 わがやどの ときじきふぢの めづらしく いまもみてしか いもがゑまひを
左注 (右二首天平十二年庚辰夏六月徃来)
校異 擧→攀 [紀][温][矢] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 牡→壮 [紀]
事項 秋相聞 作者:大伴家持 坂上大嬢 天平12年6月 年紀 贈答 植物
訓異 わがやどの;わかやとの, ときじきふぢの;ときならぬふちの, めづらしく;めつらしく, いもがゑまひを;いもかゑまひを,
   
  08/1628
題詞 (大伴宿祢家持<攀>非時藤花并芽子黄葉二物贈坂上大嬢歌二首)
原文 吾屋前之 芽子乃下葉者 秋風毛 未吹者 如此曽毛美照
訓読 我が宿の萩の下葉は秋風もいまだ吹かねばかくぞもみてる
仮名 わがやどの はぎのしたばは あきかぜも いまだふかねば かくぞもみてる
左注 右二首天平十二年庚辰夏六月徃来
左注訓 右ノ二首、天平十二年庚辰夏六月ニ徃来ス。
校異 なし
事項 秋相聞 作者:大伴家持 坂上大嬢 天平12年6月 年紀 贈答 植物
訓異 わがやどの;わかやとの, はぎのしたばは;はきのしたはは, あきかぜも;あきかせも, いまだふかねば;いまたふかねは, かくぞもみてる;かくそもみてる,
   
  08/1629
題詞 大伴宿祢家持贈坂上大嬢歌一首[并短歌]
題訓 大伴宿禰家持が坂上大嬢に贈れる歌一首、また短歌
原文 叩々 物乎念者 将言為便 将為々便毛奈之 妹与吾 手携而 旦者 庭尓出立 夕者 床打拂 白細乃 袖指代而 佐寐之夜也 常尓有家類 足日木能 山鳥許曽婆 峯向尓 嬬問為云 打蝉乃 人有我哉 如何為跡可 一日一夜毛 離居而 嘆戀良武 許己念者 胸許曽痛 其故尓 情奈具夜登 高圓乃 山尓毛野尓母 打行而 遊徃杼 花耳 丹穂日手有者 毎見 益而所思 奈何為而 忘物曽 戀云物呼
訓読 ねもころに 物を思へば 言はむすべ 為むすべもなし 妹と我れと 手携さはりて 朝には 庭に出で立ち 夕には 床うち掃ひ 白栲の 袖さし交へて さ寝し夜や 常にありける あしひきの 山鳥こそば 峰向ひに 妻問ひすといへ うつせみの 人なる我れや 何すとか 一日一夜も 離り居て 嘆き恋ふらむ ここ思へば 胸こそ痛き そこ故に 心なぐやと 高円の 山にも野にも うち行きて 遊び歩けど 花のみ にほひてあれば 見るごとに まして偲はゆ いかにして 忘れむものぞ 恋といふものを
仮名 ねもころに ものをおもへば いはむすべ せむすべもなし いもとあれと てたづさはりて あしたには にはにいでたち ゆふへには とこうちはらひ しろたへの そでさしかへて さねしよや つねにありける あしひきの やまどりこそば をむかひに つまどひすといへ うつせみの ひとなるわれや なにすとか ひとひひとよも さかりゐて なげきこふらむ ここおもへば むねこそいたき そこゆゑに こころなぐやと たかまとの やまにものにも うちゆきて あそびあるけど はなのみ にほひてあれば みるごとに ましてしのはゆ いかにして わすれむものぞ こひといふものを
左注 なし
校異 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌 / 婆 [類][紀] 波 / 呼 [類][細][温] 乎
事項 秋相聞 作者:大伴家持 坂上大嬢 贈答 恋情 奈良 地名
訓異 ねもころに;いたみいたみ, ものをおもへば;ものをおもへは, いはむすべ;いはむすへ, せむすべもなし;せむすへもなし, いもとあれと;いもとわれ, てたづさはりて;てたつさはりて, にはにいでたち;にはにいてたち, そでさしかへて;そてさしかへて, やまどりこそば;やまとりこそは, つまどひすといへ;つまとひすといへ, さかりゐて;はなれゐて, なげきこふらむ;なけきこふらむ, ここおもへば;ここおもへは, むねこそいたき;むねこそいため, そこゆゑに;そのゆゑに, こころなぐやと;こころなくやと, あそびあるけど;あそひてゆけと, はなのみ;はなのみに, にほひてあれば;にほひてあれは, みるごとに;みることに, ましてしのはゆ;ましておもほゆ, わすれむものぞ;わするるものそ,
   
  08/1630
題詞 (大伴宿祢家持贈坂上大嬢歌一首[并短歌])反歌
題訓 反し歌
原文 高圓之 野邊乃容花 面影尓 所見乍妹者 忘不勝裳
訓読 高円の野辺のかほ花面影に見えつつ妹は忘れかねつも
仮名 たかまとの のへのかほばな おもかげに みえつついもは わすれかねつも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 秋相聞 作者:大伴家持 坂上大嬢 贈答 奈良 地名 植物
訓異 のへのかほばな;のへのかほはな, おもかげに;おもかけに,
   
  08/1631
題詞 大伴宿祢家持贈安倍女郎歌一首
題訓 大伴宿禰家持が安倍女郎に贈れる歌一首
原文 今造 久邇能京尓 秋夜乃 長尓獨 宿之苦左
訓読 今造る久迩の都に秋の夜の長きにひとり寝るが苦しさ
仮名 いまつくる くにのみやこに あきのよの ながきにひとり ぬるがくるしさ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 秋相聞 作者:大伴家持 安倍女郎 贈答 久邇京 恋情 京都
訓異 ながきにひとり;なかきにひとり, ぬるがくるしさ;ぬるかくるしさ,
   
  08/1632
題詞 大伴宿祢家持従久邇京贈留寧樂宅坂上大娘歌一首
題訓 大伴宿禰家持が久迩の京より寧樂の宅に留まれる坂上大娘に贈れる歌一首
原文 足日木乃 山邊尓居而 秋風之 日異吹者 妹乎之曽念
訓読 あしひきの山辺に居りて秋風の日に異に吹けば妹をしぞ思ふ
仮名 あしひきの やまへにをりて あきかぜの ひにけにふけば いもをしぞおもふ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 秋相聞 作者:大伴家持 坂上大嬢 久邇京 恋情 京都
訓異 あきかぜの;あきかせの, ひにけにふけば;ひにけにふけは, いもをしぞおもふ;いもをしそおもふ,
   
  08/1633
題詞 或者贈尼歌二首
題訓 或者あるひと、尼に贈れる歌二首
原文 手母須麻尓 殖之芽子尓也 還者 雖見不飽 情将盡
訓読 手もすまに植ゑし萩にやかへりては見れども飽かず心尽さむ
仮名 てもすまに うゑしはぎにや かへりては みれどもあかず こころつくさむ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 秋相聞 尼 贈答 植物
訓異 うゑしはぎにや;うゑしはきにや, みれどもあかず;みれともあかす,
   
  08/1634
題詞 (或者贈尼歌二首)
原文 衣手尓 水澁付左右 殖之田乎 引板吾波倍 真守有栗子
訓読 衣手に水渋付くまで植ゑし田を引板我が延へまもれる苦し
仮名 ころもでに みしぶつくまで うゑしたを ひきたわがはへ まもれるくるし
左注 なし
校異 なし
事項 秋相聞 作者:尼 贈答
訓異 ころもでに;ころもてに, みしぶつくまで;みしふつくまて, ひきたわがはへ;ひきたわれはへ,
   
  08/1635
題詞 尼作頭句并大伴宿祢家持所誂尼續末句等和歌一首
題訓 尼が頭句もとのつがひことばをよみ、また大伴宿禰家持が尼に誂あつらへて末句すゑのつがひことばを続ぎて和ふる歌一首
原文 佐保河之 水乎塞上而 殖之田乎 [尼作] 苅流早飯者 獨奈流倍思 [家持續]
訓読 佐保川の水を堰き上げて植ゑし田を [尼作] 刈れる初飯はひとりなるべし [家持續]
仮名 さほがはの みづをせきあげて うゑしたを かれるはついひは ひとりなるべし
左注 なし
校異 句等 [矢][京] 句 / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 秋相聞 作者:尼 大伴家持 連歌 地名 奈良
訓異 さほがはの;さほかはの, みづをせきあげて;みつをせきあけて, かれるはついひは;かるわさいひは, ひとりなるべし;ひとりなるへし,
   
 

冬雜歌

   
  08/1636
題詞 冬雜歌 / 舎人娘子雪歌一首
題訓 冬の雑歌くさぐさのうた 舎人娘子とねりのいらつめが雪の歌一首
原文 大口能 真神之原尓 零雪者 甚莫零 家母不有國
訓読 大口の真神の原に降る雪はいたくな降りそ家もあらなくに
仮名 おほくちの まかみのはらに ふるゆきは いたくなふりそ いへもあらなくに
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 冬雑歌 作者:舎人娘子 飛鳥 羈旅 地名
訓異 -
   
  08/1637
題詞 太上天皇御製歌一首
題訓 太上天皇おほきすめらみことのみよみませる御製歌おほみうた一首
原文 波太須珠寸 尾花逆葺 黒木用 造有室者 迄萬代
訓読 はだすすき尾花逆葺き黒木もち造れる室は万代までに
仮名 はだすすき をばなさかふき くろきもち つくれるむろは よろづよまでに
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 冬雑歌 作者:元正天皇 室讃姤 宴席 長屋王 植物
訓異 はだすすき;はたすすき, をばなさかふき;をはなさかふき, つくれるむろは;つくれるやとは, よろづよまでに;よろつよまてに,
   
  08/1638
題詞 天皇御製歌一首
題訓 天皇のみよみませる御製歌おほみうた一首
原文 青丹吉 奈良乃山有 黒木用 造有室者 雖居座不飽可聞
訓読 あをによし奈良の山なる黒木もち造れる室は座せど飽かぬかも
仮名 あをによし ならのやまなる くろきもち つくれるむろは ませどあかぬかも
左注 右聞之御在左大臣長屋王佐保宅肆宴御製
左注訓 右聞クナラク、左大臣長屋王ノ佐保ノ宅ニ御在シテ肆宴キコシメシテ、御製セリ。
校異 なし
事項 冬雑歌 作者:聖武天皇 長屋王 宴席 室讃姤 奈良 地名
訓異 くろきもち;くろきもて, つくれるむろは;つくれるやとは, ませどあかぬかも;をれとあかすかも,
   
  08/1639
題詞 <大>宰帥大伴卿冬日見雪憶京歌一首
題訓 太宰帥大伴卿の、冬の日雪を見て京みやこを憶しぬひたまふ歌一首
原文 沫雪 保杼呂保杼呂尓 零敷者 平城京師 所念可聞
訓読 沫雪のほどろほどろに降りしけば奈良の都し思ほゆるかも
仮名 あわゆきの ほどろほどろに ふりしけば ならのみやこし おもほゆるかも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 太→大 [類][紀][細] / 保杼呂 [類](塙) 々々々
事項 冬雑歌 作者:大伴旅人 望郷 太宰府 福岡県 地名
訓異 ほどろほどろに;ほとろほとろに, ふりしけば;ふりしけは,
   
  08/1640
題詞 <大>宰帥大伴卿梅歌一首
題訓 太宰帥大伴卿の梅の歌一首
原文 吾岳尓 盛開有 梅花 遺有雪乎 乱鶴鴨
訓読 我が岡に盛りに咲ける梅の花残れる雪をまがへつるかも
仮名 わがをかに さかりにさける うめのはな のこれるゆきを まがへつるかも
左注 なし
校異 太→大 [類][紀][細] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 冬雑歌 作者:大伴旅人 太宰府 福岡県 地名 植物
訓異 わがをかに;わかをかに, まがへつるかも;まかへをるかも,
   
  08/1641
題詞 角朝臣廣辨雪梅歌<一首>
題訓 角朝臣廣辨ひろべが雪のうちの梅の歌一首
原文 沫雪尓 所落開有 梅花 君之許遣者 与曽倍弖牟可聞
訓読 沫雪に降らえて咲ける梅の花君がり遣らばよそへてむかも
仮名 あわゆきに ふらえてさける うめのはな きみがりやらば よそへてむかも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <>→一首 [紀][細]
事項 冬雑歌 作者:角廣辨 植物
訓異 あわゆきに;あはゆきに, ふらえてさける;ふられてさける, きみがりやらば;きみかりやらは,
   
  08/1642
題詞 安倍朝臣奥道雪歌一首
題訓 安倍朝臣奥道おきみちが雪の歌一首
原文 棚霧合 雪毛零奴可 梅花 不開之代尓 曽倍而谷将見
訓読 たな霧らひ雪も降らぬか梅の花咲かぬが代にそへてだに見む
仮名 たなぎらひ ゆきもふらぬか うめのはな さかぬがしろに そへてだにみむ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 冬雑歌 作者:安倍奥道 植物
訓異 たなぎらひ;たなきりあひ, さかぬがしろに;さかぬかはりに, そへてだにみむ;そへてたにみむ,
   
  08/1643
題詞 若櫻部朝臣君足雪歌一首
題訓 若桜部朝臣君足が雪の歌一首
原文 天霧之 雪毛零奴可 灼然 此五柴尓 零巻乎将見
訓読 天霧らし雪も降らぬかいちしろくこのいつ柴に降らまくを見む
仮名 あまぎらし ゆきもふらぬか いちしろく このいつしばに ふらまくをみむ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 冬雑歌 作者:若桜部君足 植物
訓異 あまぎらし;あまきりし, このいつしばに;このいつしはに,
   
  08/1644
題詞 三野連石守梅歌一首
題訓 三野連石守いそもりが梅の歌一首
原文 引攀而 折者可落 梅花 袖尓古寸入津 染者雖染
訓読 引き攀ぢて折らば散るべみ梅の花袖に扱入れつ染まば染むとも
仮名 ひきよぢて をらばちるべみ うめのはな そでにこきいれつ しまばしむとも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 冬雑歌 作者:三野石守 植物
訓異 ひきよぢて;ひきよちて, をらばちるべみ;をらはちるへく, そでにこきいれつ;そてにこきいれつ, しまばしむとも;そまはそむとも,
   
  08/1645
題詞 巨勢朝臣宿奈麻呂雪歌一首
題訓 巨勢朝臣宿奈麻呂が雪の歌一首
原文 吾屋前之 冬木乃上尓 零雪乎 梅花香常 打見都流香裳
訓読 我が宿の冬木の上に降る雪を梅の花かとうち見つるかも
仮名 わがやどの ふゆきのうへに ふるゆきを うめのはなかと うちみつるかも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 冬雑歌 作者:巨勢宿奈麻呂 植物
訓異 わがやどの;わかやとの,
   
  08/1646
題詞 小治田朝臣東麻呂雪歌一首
題訓 小治田朝臣東麻呂が雪の歌一首
原文 夜干玉乃 今夜之雪尓 率所沾名 将開朝尓 消者惜家牟
訓読 ぬばたまの今夜の雪にいざ濡れな明けむ朝に消なば惜しけむ
仮名 ぬばたまの こよひのゆきに いざぬれな あけむあしたに けなばをしけむ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 冬雑歌 作者:小治田東麻呂 枕詞
訓異 ぬばたまの;ぬはたまの, いざぬれな;いさぬれな, けなばをしけむ;けなはをしけむ,
   
  08/1647
題詞 忌部首黒麻呂雪歌一首
題訓 忌部首黒麻呂が雪の歌一首
原文 梅花 枝尓可散登 見左右二 風尓乱而 雪曽落久類
訓読 梅の花枝にか散ると見るまでに風に乱れて雪ぞ降り来る
仮名 うめのはな えだにかちると みるまでに かぜにみだれて ゆきぞふりくる
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 冬雑歌 作者:忌部黒麻呂 植物
訓異 えだにかちると;えたにかちると, みるまでに;みるまてに, かぜにみだれて;かせにみたれて, ゆきぞふりくる;ゆきをちりくる,
   
  08/1648
題詞 紀少鹿女郎梅歌一首
題訓 紀少鹿女郎きのをしかのいらつめが梅の歌一首
原文 十二月尓者 沫雪零跡 不知可毛 梅花開 含不有而
訓読 十二月には沫雪降ると知らねかも梅の花咲くふふめらずして
仮名 しはすには あわゆきふると しらねかも うめのはなさく ふふめらずして
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 冬雑歌 作者:紀少鹿女郎 植物
訓異 あわゆきふると;あはゆきふると, しらねかも;しらぬかも, うめのはなさく;めのはなさく, ふふめらずして;つほめらすして,
   
  08/1649
題詞 大伴宿祢家持雪梅歌一首
題訓 大伴宿禰家持が雪のうちの梅の歌一首
原文 今日零之 雪尓競而 我屋前之 冬木梅者 花開二家里
訓読 今日降りし雪に競ひて我が宿の冬木の梅は花咲きにけり
仮名 けふふりし ゆきにきほひて わがやどの ふゆきのうめは はなさきにけり
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 冬雑歌 作者:大伴家持 植物
訓異 わがやどの;わかやとの,
   
  08/1650
題詞 御在西池邊肆宴歌一首
題訓 西の池の辺ほとりに御在いまして肆宴とよのあかりきこしめす歌一首
原文 池邊乃 松之末葉尓 零雪者 五百重零敷 明日左倍母将見
訓読 池の辺の松の末葉に降る雪は五百重降りしけ明日さへも見む
仮名 いけのへの まつのうらばに ふるゆきは いほへふりしけ あすさへもみむ
左注 右一首作者未詳 但堅子阿倍朝臣虫麻呂傳誦之
左注訓 右の一首は、作者よみひと未詳しらず。但シ堅子ワラワ阿倍朝臣蟲麻呂伝誦セリ。
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 冬雑歌 阿倍虫麻呂 宴席 肆宴 伝誦 宮廷 植物
訓異 まつのうらばに;まつのすゑはに,
   
  08/1651
題詞 大伴坂上郎女歌一首
題訓 大伴坂上郎女が歌一首
原文 沫雪乃 比日續而 如此落者 梅始花 散香過南
訓読 沫雪のこのころ継ぎてかく降らば梅の初花散りか過ぎなむ
仮名 あわゆきの このころつぎて かくふらば うめのはつはな ちりかすぎなむ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 冬雑歌 作者:坂上郎女 植物
訓異 あわゆきの;あはゆきの, このころつぎて;ひなへにつきて, かくふらば;かくふれは, ちりかすぎなむ;ちりかすきなむ,
   
  08/1652
題詞 他田廣津娘子梅歌一首
題訓 池田廣津娘子いけだのひろきづのをとめが梅の歌一首
原文 梅花 折毛不折毛 見都礼杼母 今夜能花尓 尚不如家利
訓読 梅の花折りも折らずも見つれども今夜の花になほしかずけり
仮名 うめのはな をりもをらずも みつれども こよひのはなに なほしかずけり
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 冬雑歌 作者:他田廣津娘子 植物
訓異 をりもをらずも;をりもをらすも, みつれども;みつれとも, なほしかずけり;なほしかすけり,
   
  08/1653
題詞 縣犬養娘子依梅發思歌一首
題訓 縣犬養娘子あがたのいぬかひのいらつめが、梅に依よせて思ひを発のぶる歌一首
原文 如今 心乎常尓 念有者 先咲花乃 地尓将落八方
訓読 今のごと心を常に思へらばまづ咲く花の地に落ちめやも
仮名 いまのごと こころをつねに おもへらば まづさくはなの つちにおちめやも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 冬雑歌 作者:縣犬養娘子
訓異 いまのごと;いまのこと, おもへらば;おもへらは, まづさくはなの;まつさくはなの,
   
  08/1654
題詞 大伴坂上郎女雪歌一首
題訓 大伴坂上郎女が雪の歌一首
原文 松影乃 淺茅之上乃 白雪乎 不令消将置 言者可聞奈吉
訓読 松蔭の浅茅の上の白雪を消たずて置かむことはかもなき
仮名 まつかげの あさぢのうへの しらゆきを けたずておかむ ことはかもなき
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 冬雑歌 作者:坂上郎女 植物
訓異 まつかげの;まつかけの, あさぢのうへの;あさちかうへの, けたずておかむ;けたすておかむ, ことはかもなき;いへはかもなき,
   
 

冬相聞

   
  08/1655
題詞 冬相聞 / 三國真人人足歌一首
題訓 冬の相聞したしみうた 三国真人人足ひとたりが歌一首
原文 高山之 菅葉之努藝 零雪之 消跡可曰毛 戀乃繁鶏鳩
訓読 高山の菅の葉しのぎ降る雪の消ぬと言ふべくも恋の繁けく
仮名 たかやまの すがのはしのぎ ふるゆきの けぬといふべくも こひのしげけく
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 冬相聞 作者:三国人足 恋情 植物
訓異 すがのはしのぎ;すかのはしのき, けぬといふべくも;けぬとかいふも, こひのしげけく;こひのしけけく,
   
  08/1656
題詞 大伴坂上郎女歌一首
題訓 大伴坂上郎女が歌一首
原文 酒杯尓 梅花浮 念共 飲而後者 落去登母与之
訓読 酒杯に梅の花浮かべ思ふどち飲みての後は散りぬともよし
仮名 さかづきに うめのはなうかべ おもふどち のみてののちは ちりぬともよし
左注 (右酒者<官>禁制称 京中閭里不得集宴 但親々一二飲樂聴許者 縁此和人作此發句焉)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 冬相聞 作者:坂上郎女 禁酒 植物 贈答
訓異 さかづきに;さかつきに, うめのはなうかべ;うめのはなうけて, おもふどち;おもふとち,
   
  08/1657
題詞 和歌一首
題訓 姓名和ふる歌一首
原文 官尓毛 縦賜有 今夜耳 将欲酒可毛 散許須奈由米
訓読 官にも許したまへり今夜のみ飲まむ酒かも散りこすなゆめ
仮名 つかさにも ゆるしたまへり こよひのみ のまむさけかも ちりこすなゆめ
左注 右酒者<官>禁制称 京中閭里不得集宴 但親々一二飲樂聴許者 縁此和人作此發句焉
左注訓 右、酒ハ官禁制シテ称ク、京中ノ閭里、集宴スルコト ヲ得ズ。但シ親親一二飲楽スルハ聴許スト。此ニ縁リ、 和フル人此ノ発句ヲ作メリ。
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 宮→官 [類][紀][古]
事項 冬相聞 禁酒 贈答
訓異 ゆるしたまへり;ゆるしたまへる,
   
  08/1658
題詞 藤<皇>后奉天皇御歌一首
題訓 藤原皇后ふぢはらのおほきさきの天皇に奉れる御歌一首
原文 吾背兒与 二有見麻世波 幾許香 此零雪之 懽有麻思
訓読 我が背子とふたり見ませばいくばくかこの降る雪の嬉しくあらまし
仮名 わがせこと ふたりみませば いくばくか このふるゆきの うれしくあらまし
左注 なし
校異 原→皇 [西(訂正右書)][紀] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 冬相聞 作者:光明皇后 聖武天皇
訓異 わがせこと;わかせこと, ふたりみませば;ふたりみませは, いくばくか;いくはくか, うれしくあらまし;うれしからまし,
   
  08/1659
題詞 他田廣津娘子歌一首
題訓 池田廣津娘子が歌一首
原文 真木乃於尓 零置有雪乃 敷布毛 所念可聞 佐夜問吾背
訓読 真木の上に降り置ける雪のしくしくも思ほゆるかもさ夜問へ我が背
仮名 まきのうへに ふりおけるゆきの しくしくも おもほゆるかも さよとへわがせ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 冬相聞 作者:他田廣津娘子 勧誘 植物
訓異 さよとへわがせ;さよとふわかせ,
   
  08/1660
題詞 大伴宿祢駿河麻呂歌一首
題訓 大伴宿禰駿河麻呂が歌一首
原文 梅花 令落冬風 音耳 聞之吾妹乎 見良久志吉裳
訓読 梅の花散らすあらしの音のみに聞きし我妹を見らくしよしも
仮名 うめのはな ちらすあらしの おとのみに ききしわぎもを みらくしよしも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 冬相聞 作者:大伴駿河麻呂 植物 恋情
訓異 おとのみに;おとにのみ, ききしわぎもを;ききしわきもを,
   
  08/1661
題詞 紀少鹿女郎歌一首
題訓 紀少鹿女郎が歌一首
原文 久方乃 月夜乎清美 梅花 心開而 吾念有公
訓読 久方の月夜を清み梅の花心開けて我が思へる君
仮名 ひさかたの つくよをきよみ うめのはな こころひらけて あがおもへるきみ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 冬相聞 作者:紀少鹿女郎 恋情 枕詞 植物
訓異 つくよをきよみ;つきよをきよみ, あがおもへるきみ;わかおもへるきみ,
   
  08/1662
題詞 大伴田村大娘与妹坂上大娘歌一首
題訓 大伴田村大娘が妹坂上大娘に与おくれる歌一首
原文 沫雪之 可消物乎 至今<尓> 流經者 妹尓相曽
訓読 沫雪の消ぬべきものを今までに流らへぬるは妹に逢はむとぞ
仮名 あわゆきの けぬべきものを いままでに ながらへぬるは いもにあはむとぞ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <>→尓 [類][紀]
事項 冬相聞 作者:田村大嬢 坂上大嬢 贈答
訓異 あわゆきの;あはゆきの, けぬべきものを;けぬへきものを, いままでに;いままてに, ながらへぬるは;なからへぬれは, いもにあはむとぞ;いもにあへるそ,
   
  08/1663
題詞 大伴宿祢家持歌一首
題訓 大伴宿禰家持が歌一首
原文 沫雪乃 庭尓零敷 寒夜乎 手枕不纒 一香聞将宿
訓読 沫雪の庭に降り敷き寒き夜を手枕まかずひとりかも寝む
仮名 あわゆきの にはにふりしき さむきよを たまくらまかず ひとりかもねむ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 冬相聞 作者:大伴家持 恋情
訓異 あわゆきの;あはゆきの, たまくらまかず;たまくらまかす,