伊勢物語 46段:うるはしき友 あらすじ・原文・現代語訳

第45段
行く蛍
伊勢物語
第二部
第46段
うるはしき友
第47段
大幣

 
 目次
 

 ・あらすじ(大意)
 

 ・原文対照
 

 ・現代語訳(逐語解説)
 
  あひ思ひ 思ひわび 面影に 
 
 

あらすじ

 
 
 昔、男に麗しい友がいた。
 とても近しかったが、遠く離れてしまったので文を書く。
 

 「情けないけど、もう忘れてないかな」→女々しいのでボツ。

 「離れると 忘れる人の 心でも 私は忘れず 面影に見る」→結局女々しかった。
 

 この麗しい友とは小町。
 44段の馬の餞で「県へゆく」人、女物の服を贈られた人。それに続けた内容。文脈からも「親密な男友達」ではありえない。
 とても近しかった(かた時去らずあひ思ひけり)とは、仕事場が同じで大事にしていたと。縫殿で。二人で恋歌を量産した。
 

 なお、○平は全く無関係。
 いやむしろ小町が京を離れる一因を作ったと思われる。
 (小町針:変な男達に求婚された話。→竹取物語・求婚者の一人の車持皇子・祈祷した皇子。伊勢65段で女に恋をさせる祈祷をした在原なりける男)
 
 

原文対照

男女
及び
和歌
定家本 武田本
(定家系)
朱雀院塗籠本
(群書類従本)
  第46段 うるはしき友 欠落
   
 むかし、男、  むかし、おとこ、  
  いとうるはしき友ありけり。 いとうるはしきともありけり。  
  かた時去らずあひ思ひけるを、 かた時さらずあひおもひけるを、  
  人の国へいきけるを、 人のくにへいきけるを、  
  いとあはれと思ひて別れにけり。 いとあはれと思て、わかれにけり。  
       
  月日経ておこせたる文に、 月日へてをこせたるふみに、  
  あさましく対面せで あさましくえたいめんせで、  
  月日の経にけること。 月日のへにけること、  
  忘れやし給ひにけむと、 わすれやしたまひにけむと  
  いたく思ひわびて なむ侍る。 いたくおもひわびてなむ侍。  
       
  世の中の人の心は、 世中の人の心は、  
  目離るれば めかるれば  
  忘れぬべきものにこそあめれ。 わすれぬべきものにこそあれめ、  
  といへりければ、よみてやる。 といへりければ、よみてやる。  
       

86
 目離るとも
 おもほえなくに忘らるゝ
 めかるとも
 おもほえなくにわすらるゝ
 
  時しなければ
  面影にたつ
  時しなければ
  おもかげにたつ
 
   

現代語訳

 
 

あひ思ひ

 

むかし、男、いとうるはしき友ありけり。
かた時去らずあひ思ひけるを、人の国へいきけるを、いとあはれと思ひて別れにけり。

 
 
むかし男
 むかし、男に
 

いとうるはしき友ありけり
 とても麗しい友がいた。
 

 うるはし 【麗し・美し・愛し】
 :美しい。綺麗。まれであるほど美しい。
 人に用いる場合、よほどの文脈でない限り、女性に用いる。そして以下は完全に女の文脈。
 さらにこの物語でこの他の「うるはし」は、24段梓弓の女の子にあてた言葉のみ。そこでの「年を経て」と本段の「月日経て」を合わせて意図している。
 親密という意味ではない。語義から離れている。男と読むからそうなる。
 
 そして、ただ「友」とし「友だち」としない時、小町(9段。「もとより友とする人」。三河に誘った六歌仙)。
 友は中立。フレンドが異性につけば、特別な一対一の関係。そして「うるわし」は女の属性。友だけや友達ならジャストフレンド。
 

かた時去らずあひ思ひけるを
 片時も離れず、互いに思い合っていたが、
 

 (だからこの表現で男×男はない。単純な可能性としてはともかく、この物語ではない。だから丁寧に女性に当てた表現。
 冒頭で女としなかったのは、それだけでは説明できない特別な関係だったから。だから「片時去らず」。
 つまり一緒に仕事していた。31段・忘草の「局」や、32段「をだまき(糸巻)」というように、女所の縫殿で。六歌仙の二人。)
 

人の国へいきけるを
 よその国へ行ってしまったので、
 
 この「人」は一般的な他人。自分以外の。44段で女の装束を贈られた「県へゆく」人。
 この44段の人を普通、この段同様、冒頭の記述にひっかかり男と解するわけだが、女物の装束・宮中の裳を贈っているのだから、女と解するほかない。
 なぜこうなるかというと、一度思い込んだら、後で不都合が生じても省みて修正しない。
 無理があっても、何が何でも押し通す。それが業平説。そして業平の性格(65段)。
 
 

いとあはれと思ひて別れにけり
 とても切ないと思いながら、別れたのであった。
 (同じく44段の馬の餞の、送別の内容を参照)
 
 

思ひわび

 

月日経ておこせたる文に、
あさましく対面せで月日の経にけること、忘れやし給ひにけむと、
いたく思ひわびてなむ侍る。

 
 
月日経て
 数ヶ月たって、

 
 (これが梓弓の歌「年を経て」と符合し「うるはし」が女性とかかる根拠になることは上述)
 

おこせたる文に
 書きおこした(起案)文に、
 

あさましく
 情けない話だが、
 

 あさまし
 驚くばかり、意外。情けない。ひどい。みっともない。
 
 というのも含みがある。この男は21段で、梓弓の子が自分を忘れていないか問うた時に、そんなこと思ってもみなかったと返しているから。
 →「いひおこせたる。今はとて 忘るゝ草のたねをだに 人の心に まかせずもがな
 返し、忘草 植ふとだに聞くものならば 思ひけりとは 知りもしなまし」
 
 つまり「おこせたる」で符合して、この内容を示唆し、自分は女々しいと。いや、女性がそう思うのはいいが、男の自分から言うのは違う。
 さらにここでは「いひ」がつがないことで、自分が起案した内容ということも表わす。
 

対面せで月日の経にけること
 対面しないで、月日が過ぎれば
 

忘れやし給ひにけむと
 忘れてしまわないかと
 

いたく思ひわびてなむ侍る
 とても思い嘆いているところ。と。(やはりこれはボツ。もっと男らしくしなくては)
 
 

面影に

 

世の中の人の心は、目離るれば忘れぬべきものにこそあめれ。
といへりければ、よみてやる。
 
目離るとも おもほえなくに 忘らるゝ
 時しなければ 面影にたつ

 
世の中の人の心は
 

目離るれば
 目離れすれば
 

 めかれ【目離れ】
 :目にしないようになること。疎遠になること。
 

忘れぬべきものにこそあめれ
 忘れてしまうようである
 

といへりければよみてやる
 というものだから、詠んでやると。(そういう体裁にして。いや嘘じゃないもの)
 
 

目離るとも
 離れて見えなくなるとも
 

おもほえなくに 
 思われないが
 

忘らるゝ
 忘れられる
 

時しなければ
 時もなくて
 

面影にたつ
 面影が見えるほど
 
 しかし、これはこれで女々しいのであった。
 しかるに、この内容を男友達に送るというのは、ない。この物語はそういう内容ではない。