枕草子12段 今内裏のひむがしをば

よろこび 枕草子
上巻上
12段
今内裏の
山は

(旧)大系:12段
新大系:9段、新編全集:10段
(以上全て三巻本系列本。しかし後二本の構成は2/3が一致せず、混乱を招くので、三巻本理論の根本たる『(旧)大系』に準拠すべきと思う)
(旧)全集=能因本:10, 295段(後段)
 


 
 今内裏のひむがしをば北の陣といふ。なしの木のはるかにたかきを、「いく尋あらむ」などいふ。権中将、「もとよりうちきりて、定澄僧都の枝扇にせばや」と宣ひしを、山階寺の別当になりてよろこび申す日、近衛づかさにてこの君の出で給へるに、たかき屐子をさへはきたれば、ゆゆしうたかし。出でぬる後に、「などその枝扇をばもたせ給はぬ」といへば、「物わすれせぬ」と笑ひ給ふ。
 

「定澄僧都に袿なし。すくせ君に袙なし」と言ひけむ人こそをかしけれ。