土佐日記 原文全文・比較対照

和歌一覧 土佐日記
全文
   

 

 土佐日記、原文全文対照。55日、歌60首。

 


土佐日記カレンダー
934~935年
12月
21
門出
22
 
23
 
24
 
25
 
26
 
27
大津
28
浦戶
29
大湊
 
1月
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天川
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那波
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室津
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海賊
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土佐
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阿波
2月
1
和泉
2
 
3
 
4
 
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小津
6
澪標
7
川尻
8
鳥養
9
渚院
10
 
11
山崎
12
 
13
 
14
 
15
 
16
 
       
計55日
土佐のキャラクター

原文対照


土佐日記
(國文大觀)
土左日記
(群書類從)
    木工權頭貫之
     
 

12月 師走

 

12/21

  男もすなる日記といふものを、
女もしてみむとてするなり。
それの年〈承平四年〔934年〕〉
しはすの二十日あまり一日の、
戌の時に門出す。
そのよしいさゝかものにかきつく。
ある人縣の四年五年はてゝ
例のことゞも皆しをへて、
解由など取りて
住むたちより出でゝ
船に乘るべき所へわたる。
かれこれ知る知らぬおくりす。
年ごろよく具しつる人々〈共イ〉
なむわかれ難く思ひて
その日頻にとかくしつゝ
のゝしるうちに夜更けぬ。
をとこもすなる[といふイ]日記といふものを。
をむなもして見[こゝろみイ]んとてするなり。
それのとしの[のイナシ]
しはすのはつかあまり。ひとひの
いぬのときにかどです。
そのよしいさゝかものにかきつく。
ある人あがたのよとせいつとせはてゝ。
れいのことゞもみなしをへて。
げゆ粥由などとりて。
すむたちよりいでて。
ふねにのるべきところへわたる。
かれこれしるしらぬおくりす。
としごろよくぐしつる人々どもイ
なんわかれがたくおもひて。
その日しきりにとかくしつゝ
のゝしるうちに夜ふけぬ。
 

12/22

  廿二日〈にイ有〉
和泉の國までと
たひらかにねがひたつ。
藤原の言實
船路なれど馬の餞す。
上中下ながら
醉ひ過ぎていと怪しく
しほ海のほとりにてあざれあへり。
廿二日に。
いづみの國までと。
たひらかに願たつ。
ふぢ原のときざね。
ふなぢなれどむまのはなむけす。
かみなかしも[かみしなかもイ]ながら。
ゑひすぎ[あきイ]ていとあやしく。
しほうみのほとりにてあざれあへり。
 

12/23

  廿三日、
八木の康敎といふ人あり。
この人國に
必ずしも
いひつかふ者にもあらざる〈二字ずイ〉なり。
これぞ正しきやうにて
馬の餞したる。
かみがらにやあらむ、
國人の心の常として
今はとて見えざなるを
心あるものは恥ぢずき〈ぞイ〉なむきける。
これは物によりて譽むるにしもあらず。
廿三日。
やきのやすのりといふ人あり。
この國人イに
かならずしも
いひつかふものにもあらざ[ずイ]なり。
これぞたゞはしきやうにて
むまのはなむけしたる。
かみがらにやあらん。
くに人の心のつねとして。
いまはとて見えざ[ずイ]なるを。
心あるものははぢずぞなんきける。
これはものによりてほむるにしもあらず。
 

12/24

  廿四日、
講師馬の餞しに出でませり。
ありとある上下童まで醉ひしれて、
一文字をだに知らぬものしが、
足は十文字に踏みてぞ遊ぶ。
廿四日。
講師むまのはなむけしにいでませり。
ありとあるかみしもわらはまでゑひしれて。
一文字をだにしらぬものしが。
あしは十文字にふみてぞあそぶ。
 

12/25

  廿五日、
守のたちより
呼びに文もて來れり。
呼ばれて至りて
日ひとひ夜ひとよ
とかく遊ぶやうにて明けにけり。
廿五日。
かみのたちより。
よびにふみもてきたなり。
よばれていたりて。
日ひとひ夜ひとよ。
ふかくあそぶやうにてあけにけり。
 

12/26

  廿六日、
なほ守のたちにて
あるじしのゝしりて
をのこらまでに物かづけたり。
からうた聲あげていひけり。
やまとうた、
あるじもまらうども
こと人もいひあへりけり。
からうたはこれにはえ書かず。
やまとうた
あるじの守のよめりける、
廿六日。
なほかみのたちにて・あるにイ
あるじしのゝしりて。
郞等までに物かづけたり。
からうた聲あげていひけり。
やまとうた。
あるじもまらうども
こと人もいひあへりけり。
からうたはこれにえかゝず。
やまとうた。
あるじのかみのよめりける。
     
♪1 「都いでゝ 君に逢はむと こしものを
こしかひもなく 別れぬるかな」
都いてゝ 君にあはんと こしものを
こしかひもなく 別ぬる哉
     
  となむありければ、
かへる前の守のよめりける、
となんありければ。
かへるさきのかみのよめりける。
     
♪2 「しろたへの 浪路を遠くゆきかひて
我に似べきは たれならなくに」。
白砂の なみちを遠く ゆきかひて
我ににへきは 誰ならなくに
     
  ことひとびとのもありけれど
さかしきもなかるべし。
とかくいひて
前の守も今のも
諸共におりて、
今のあるじも前のも
手取りかはして
ゑひごとに心よげなることして
出でにけり。
こと人々のもありけれど。
さかしきもなかるべし。
とかくいひて。
さきのかみいまのも。
もろともにおりて。
いまのあるじもさきのも。
手とりかはして。
ゑひごとにこゝろよげなることして。
いていさイりにけり。
 

12/27

  廿七日、
大津より浦戶をさして漕ぎ出づ。
かくあるうちに
京にて生れたりし女子〈子イ無〉
こゝにて俄にうせにしかば、
この頃の出立いそぎを見れど
何事もえいはず。
京へ歸るに
女子のなきのみぞ悲しび戀ふる。
ある人々もえ堪へず。
この間にある人のかきて出せる歌、
廿七日。
おほつよりうらとをさしてさしてこぎいづ。
かくあるうちに。
京にてうまれたりしをんな・こイ
こゝくにイにてにはかにうせにしかば。
このごろのいでたちいそぎをみれど。
なにごともいはず。
京へかへるに。
をむなごのなきのみぞかなしびこふる。
ある人々もえたへず。
このあひだにある人のかきていだせるうた。
     
♪3 「都へと おもふもものゝ かなしきは
かへらぬ人の あればなりけり」。
都へと 思ふもものゝ 悲しきは
かへらぬ人の あれはなりけり
     
  又、或時には、 またあるときには。
     
♪4 「あるものと 忘れつゝ なほなき人を
いづらと問ふぞ 悲しかりける」
ある物と 忘れつゝ 猶なき人を
いつもとこふそ 悲しかりける
     
  といひける間に
鹿兒の崎といふ所に
守のはらから
またことひとこれかれ
酒なにど持て追ひきて、
磯におり居て
別れ難きことをいふ。
守のたちの人々の中に
この來る人々ぞ
心あるやうにはいはれほのめく。
かく別れ難くいひて、
かの人々の口網ももろもちにて
この海邊にて荷ひいだせる歌、
といひけるあひだに。
かこのさきといふところに。
かみのはらから。
またこと人これかれ。
さけなに[にイナシ]ともておひきて。
いそにおりゐて。
別がたき事をいふ。
かみのたちの人々のなかに。
このきたるひと〴〵ぞ
心あるやうにはいはれほのめく。
かくわかれがたくいひて。
かの人々のくちあみももろもちにて。
このうみべにてになひいだせる歌。
     
♪5 「をしと思ふ 人やとまると あし鴨の
うちむれてこそ われはきにけれ」
をしと思ふ 人やとまると あし鴨の
打むれて社 我はきにけれ
     
  といひてありければ、
いといたく愛でゝ
行く人のよめりける、
といひてありければ。
いといたくめでゝ。
ゆく人のよめりける。
     
♪6 「棹させど 底ひもしらぬ わたつみの
ふかきこゝろを 君に見るかな」
掉させと そこひもしらぬ わたつみの
ふかき心を 君にみる哉
     
  といふ間に
楫取ものゝ哀も知らで
おのれし酒をくらひつれば、
早くいなむとて
「潮滿ちぬ。風も吹きぬべし」
とさわげば船に乘りなむとす。
この折にある人々折節につけて、
からうたども
時に似つかはしき〈をイ有〉いふ。
又ある人西國なれど
甲斐歌などいふ。
かくうたふに、
ふなやかたの塵も散り、
空ゆく雲もたゞよひぬとぞいふなる。
今宵浦戶にとまる。
藤原のとき實、
橘の季衡、
こと人々追ひきたり。
といふあいだに。
かぢとりものゝあはれもしらで。
おのれしさけをくらひつれば。
はやくいなんとて。
しほみちぬ。かぜもふきぬべし
とさはげば。
ふねにのりなんとす。
このおりにあるひと〴〵おりふしにつけて。
から・[のイ]うたども。
ときににつかはしき・をイいふ。
又ある人にしぐになれど。
かひうたなどいふ。
かくうたふに。
ふなやかたのちりもちり[イニナシ]
そらゆく雲もたゞよひぬとぞいふなり。
こよひうらとにとまる。
ふぢはらのときざね。
たちばなのすゑひら。
こと人人おひきたり。
 

12/28

  廿八日、
浦戶より漕ぎ出でゝ
大湊をおふ。
この間に
はやくの國の守の子
山口の千岑、
酒よき物どももてきて
船に入れたり。
ゆくゆく飮みくふ。
廿八日。
うらとよりこぎいでゝ。
おほみなとをおふ。
このあひだに
はやくのくにの[イニナシ]かみのこ。
やまぐちのちみね。
さけよき物どももてきて。
ふねにいれたり。
ゆく〳〵のみくふ。
 

12/29

  廿九日、
大湊にとまれり。
くす師
ふりはへて
屠蘇白散酒加へてもて來たり。
志あるに似たり。
廿九日。
おほみなとにとまれり。
くすし。
ふりはへて
とうそ白散さけくはへてもてきたり。
心ざしあるににたり。
     
 

1月 睦月

 

1/1

  元日、
なほ同じとまりなり。
白散をあるもの夜のまとて
ふなやかたにさしはさめりければ、
風に吹きならさせて
海に入れてえ飮まずなりぬ。
芋し〈もカ〉あらめも
齒固めもなし。
かやうの物もなき國なり。
求めもおかず。
唯おしあゆの口をのみぞ吸ふ。
このすふ人々の口を
押年魚もし思ふやうあらむや。
今日は都のみぞ思ひやらるゝ。
「九重の門のしりくめ
繩のなよしの頭ひゝら木らいかに」
とぞいひあへる。
元日。
なほおなじとまりなり。
白散をあるもの夜のまとて。
ふなやかたにさしはさめりければ。
風にふきならさせて。
海にいれてえのまずなりぬ。
いもしあらめも。
はがためもなし。
かうやうのものなきくになり。
もとめもおかず。
たゞをしあゆのくちをのみぞすふ。
このあふ[イニナシ]ひと〴〵のくちを
おしあゆもしおもふやうあらんや。
けふはみやこのみぞおもひやらるゝ。
こゝのへのかどのしりくべ
なはのなよしのかしらひゝら木ら。いかに
ぞとぞいひあへる。
 

1/2

  二日、
なほ大湊にとまれり。
講師、物、酒などおこせたり。
二日。
なほおほみなとにとまれり。
講師 もの さけおこせたり。
 

1/3

  三日、
同じ所なり。
もし風浪のしばしと惜む心やあらむ、
心もとなし。
三日。
おなじところなり。
もし風なみのしばしとおしむ心やあらん。
こゝろもとなし。
 

1/4

  四日、
風吹けばえ出でたゝず。
昌連酒よき物たてまつれり。
このかうやうの
物もて來るひとに
なほしもえあらで
いさゝげわざせさすものもなし。
にぎはゝしきやうなれどまくるこゝちす。
四日。
かせふけばえいでたゝず。
まさつらさけよきものたてまつれり。
このかうやうに。
物もてくる人に。
なほしもえ[はイ]あらで。
いさゝけわざせさすものもなし。
にぎはしきやうなれどまくるこゝちす。
 

1/5

  五日、
風浪やまねば
猶同じ所にあり。
人々絕えずとぶらひにく。
五日。
かせなみやまねば。
なほおなじところにあり。
人々たえずとぶらひにく。
 

1/6

  六日、
きのふのごとし。
六日。
きのふのごとし。
 

1/7

  七日になりぬ。
同じ湊にあり。
今日は白馬を思へどかひなし。
たゞ浪の白きのみぞ見ゆる。
かゝる間に
人の家〈野イ〉の池と名ある所より
鯉はなくて
鮒よりはじめて
川のも、海のも、ことものども、
ながひつに
になひつゞけておこせたり。
わかなこに入れて雉など花につけたり
〈十七字イ無〉
若菜ぞ今日をば知らせたる。
歌あり。
そのうた、
七日になりぬ。
おなじみなとにあり。
けふはあをむまをおもへどかひなし。
たゝなみのしろきのみぞ見ゆる。
かゝるあひだ[ほどイ]に。
人のい野イへのいけとなあるところより。
こいはなくて。
ふなよりはじめて。
かはのもうみのもことものども。
ながびつに
になひつゞけてをこせたり。
 
 
わかなぞけふをばしらせたる。
うたあり。
その歌。
     
♪7 「淺茅生の 野邊にしあれば 水もなき
池につみつる わかななりけり」。
淺茅生の 野へにしあれは 水もなき
池につみつる 若菜也けり
     
  いとをかしかし。
この池といふは
所の名なり。
よき人の男につきて
下りて住みけるなり。
この長櫃の物は
皆人童までにくれたれば、
飽き滿ちて
舟子どもは
腹鼓をうちて
海をさへおどろかして
浪たてつべし。
かくてこの間に事おほかり。
けふわりごもたせてきたる人、
その名などぞや、今思ひ出でむ。
この人
歌よまむと思ふ心ありてなりけり。
とかくいひいひて
浪の立つなることゝ
憂へいひて詠める歌、
いとをかしかし。
このいけといふは。
所の名なり。
よき入のおとこにつきて。
くだりてすみけるなり。
このながびつのものは。
みな人わらはまでにくれたれば。
あきみちて。
ふなこどもは。
はらつゞみをうちて。
海をさへおどろかして。
浪たてつべし。
かくてこのあひだにことおほかり。
けふわりごもたせてきたる人。
そのななどぞやいまおもひいでん。
この人
うたよまんとおもふこゝろありてなりけり。
とかくいひいひて。
なみのたつなることゝ。
うれへいひてよめるうた。
     
♪8 「ゆくさきに たつ白浪の 聲よりも
おくれて泣かむ われやまさらむ」
行先に たつ白波の 聲よりも
をくれてなかん われやまさらむ
     
  とぞ〈ぞイ無〉詠める。
いと大聲なるべし。
持てきたる物よりは
歌はいかゞあらむ。
この歌を
此彼あはれがれども
一人りも返しせず。
しつべき人も交れゝど
これをのみいたがり
物をのみくひて夜更けぬ。
 
この歌ぬしなむ
「またまからず」といひてたちぬ。
ある人の子の童なる密にいふ
「まろこの歌の返しせむ」といふ。
驚きて
「いとをかしきことかな。
よみてむやは。
詠みつべくばはやいへかし」といふ〈にイ有〉
「まからずとて立ちぬる人を待ちてよまむ」
とて求めけるを、
夜更けぬとにやありけむ、
やがていにけり。
「そもそもいかゞ詠んだる」
といぶかしがりて問ふ。
 
この童さすがに恥ぢていはず。
强ひて問へば
いへるうた、
とぞよめる。
いとおほごゑなるべし。
もてきたる物より・[はイ]
うたはいかゞあらん。
このうたを。
これかれあはれがれども。
ひとりもかへしせず。
しつべき人もまじれゝど。
これをのみいたがり。
物をのみくひて夜ふけぬ。
 
このうたぬしなん[はイ]
またまからずといひてたちぬ。
ある人のこのわらはなるひそかにいふ。
まろこのうたのかへしせんといふ。
をどろきて。
いとおかしきことかな。
よみてむやは。
よみつべくははやいへかしといふ。
まからずとてたちぬる人をまちてよまん
とてもとめけるを。
夜ふけぬとにやありけん[イニナシ]
やがていにけり。
そも〳〵いかがよんだる
といぶかしがりてとふ。
 
このわらはさすがにはぢていはず。
しゐてとへば。
いへるうた。
     
♪9 「ゆく人も とまるも袖の なみだ川
みぎはのみこそ ぬれまさりけれ」
ゆく人も とまるも袖の なみた川
汀のみこそ ぬれまさりけれ
     
  となむ詠める。
かくはいふものか、
うつくしければにやあらむ、
いと思はずなり。
童ごとにては
何かはせむ、
女翁にをしつべし、
惡しくもあれいかにもあれ、
たよりあらば遣らむとておかれぬめり。
となんよめる。
かくはいふものか。
うつくしければにやあらん。
いとおもはずなり。
わらはごとにては。
なにかはせん。
おんなおきなにをしつべし。
あしくもあれいかにもあれ。
たよりあらばやらんとてをかれぬめり。
 

1/8

  八日、
さはる事ありて
猶同じ所なり。
今宵の月は海にぞ入る。
これを見て
業平の君の
「山のはにげて入れずもあらなむ」
といふ歌なむおもほゆる。
もし海邊にてよまゝしかば
「浪たちさへて入れずもあらなむ」
と詠みてましや。
今この歌を思ひ出でゝ
ある人のよめりける、
八日。
さはることありて。
なほおなじところなり。
こよひ月は海にぞいる。
これを見て。
なりひらのきみの
山のはにげて入ずもあらなん
といふうたをもほゆる[なんおぼゆるイ]
もし海べにてよまゝしかば。
なみたちさへていれずもあらなむ
とも[もイナシ]よみてましや。
いまこの歌をおもひいでて。
ある人のよめりける。
     

10
「てる月の ながるゝ見れば あまの川
いづるみなとは 海にざ〈ぞあイ〉りける」
 後撰
てる月の 流るゝ見れは 天の川
出るみなとは うみにさそあイりける
     
  とや。 とや。
 

1/9

  九日、つとめて
大湊より
那波の泊をおはむとて
漕ぎ出でにけり。
これかれ互に
國の境の內はとて
見おくりにくる人
數多が中に
藤原のときざね、
橘の季衡、
長谷部の行政等なむ
みたちより出でたうびし日より
此所彼所におひくる。
この人々ぞ志ある人なりける。
 
この人々の深き志は
この海には劣らざるべし。
これより今は漕ぎ離れて往く。
これを見送らむとてぞ
この人どもは追ひきける。
かくて漕ぎ行くまにまに
海の邊にとまれる人も遠くなりぬ。
船の人も見えずなりぬ。
岸にもいふ事あるべし、
船にも思ふことあれどかひなし。
かゝれど
この歌を獨言にしてやみぬ。
九日のつとめて。
おほみなとより。
なはのとまりをおはんとて
こぎいでにけり[にイナシ]
これかれたがひに
くにのさかひのうちはとて。
見おくりにくる人。
あまたがなかに。
ふぢはらのときざね。
たちばなのすゑひら。
はせべのゆきまさらなん。
みたちよりいでたうびし日より。
こゝかしこにおひくる。
この人々ぞ心ざしある人なりける。
 
この人びとのふかき心ざしは。
この海にはをとらざるべし。
これよりいまはこぎはなれてゆく。
これをみをくらんとてぞ
この人どもはおひきける。
かくてこぎゆくまにまに。
海のほとりにとまれる人もとをくなりぬ。
ふねの人も見えずなりぬ。
きしにもいふことあるべし。
船にもおもふことあれどかひなし。
かゝれど。
この歌をひとりごとにしてやみぬ。
     

11
「おもひやる 心は海を 渡れども
ふみしなければ 知らずやあるらむ」。
思ひやる 心は海を 渡れとも
文しなけれは しらすやあるらん
     
  かくて
宇多の松原を行き過ぐ。
その松の數幾そばく、
幾千年へたりと知らず。
もとごとに浪うちよせ
枝ごとに鶴ぞ飛びかふ。
おもしろしと見るに堪へずして
船人のよめる歌、
かくて。
宇多の松ばらをゆきすぐ。
その松のかずいくそばく
いくちとせへたりとしらず。
もとごとに波うちよせ。
枝ごとにつるぞとびかよふ。
おもしろしと見るにたへずして。
ふなびとのよめるうた。
     

12
「見渡せば 松のうれごとに すむ鶴は
千代のどちとぞ 思ふべらなる」
み渡せは 松のうれことに 住鶴は
千世のとちとそ 思へらなる
     
  とや。
この歌は所を見るにえまさらず。
かくあるを見つゝ漕ぎ行くまにまに、
山も海もみなくれ、
夜更けて、西ひんがしも見えずして、
てけのこと
檝取の心にまかせつ。
男もならはねば〈二字ぬはイ〉いとも心細し。
まして女は
船底に頭をつきあてゝ
ねをのみぞなく。
かく思へば
舟子檝取は船歌うたひて
何とも思へらず。
そのうたふうたは、
とや。
このうたはところを見るにえまさらす。
かくあるをみつゝこぎゆくまに〳〵。
山も海もみなくれ。
夜ふけてにしひんがしも見えずして。
てけ天氣のこと。
かぢとりの心にまかせつ。
をの子もならはねばいともこゝろぼそし。
ましてをんなは
ふなぞこにかしらをつきあてゝ
ねをのみぞなく。
かくおもへば。
ふなこかぢとりはふなうたうたひて。
なにともおもへらず。
そのうたふうたは。
     

13
「春の野にてぞねをばなく。
わが薄にて
手をきるきる、
つんだる菜を、
親やまほるらむ、
姑やくふらむ。
かへらや。
よんべのうなゐもがな。
ぜにこはむ。
そらごとをして、
おぎのりわざをして、
ぜにももてこず
おのれだにこず」。
はるのゝにてぞねをばなく。
わかすゝきにて。
手をきる〳〵
つんだるなを。
おやゝまほるらん。
しうとめやくふらん。
かへらや。
よんべのうなゐもがな。
ぜ錢にこはん。
そらごとをして。
おぎのりわざをして。
ぜにもゝてこず。
おのれだにこず。
     
  これならず多かれども〈もイ無〉書かず。
これらを人の笑ふを聞きて、
海は荒るれども心は少しなぎぬ。
かくゆきくらして
泊にいたりて、
おきな人ひとり、
たうめ一人あるがなかに、
心ちあしみして
ものも物し給はでひそまりぬ。
これならずおほかれどもイ无かゝず。
これらを人のわらふをききて。
うみはあるれども心はすこしなぎぬ。
かくゆきくらして。
とまりにいたりて。
おきなびとひとり。
たうめひとり。
あるがなかにこゝちあしくみイして。
物もものした・[まイ]はでひそまりぬ。
 

1/10

  十日、
けふはこの那波の泊にとまりぬ。
十日。
けふはこのなはのとまりにとまりぬ。
 

1/11

  十一日、
曉に船を出して
室津をおふ。
人皆まだねたれば
海のありやう〈二字さまイ〉も見えず。
唯月を見てぞ西東をば知りける。
かゝる間に
皆夜明け
手あらひ
例の事どもして晝になりぬ。
いましはねといふ所にきぬ。
わかき童
この所の名を聞きて
「はねといふ所は
鳥の羽のやうにやある」といふ。
まだ幼き童のことなれば
人々笑ふ。
時にありける女の童なむ
この歌をよめる、
十一日。
あかつきに船をいだして。
むろつをおふ。
人みなまだねたれば。
海のありやうも見えず。
たゞ月をみてぞにしひんがしをばしりける。
かゝるあひだに。
みな夜あけて。
手あらひ。
れいのことどもしてひるになぬ。
いましはねといふ所にきぬ。
わかきわらは。
このところの名をきゝて。
はねといふ所は。
鳥のはねのやうにやあるといふ。
まだをさなきわらはの事なれば。
ひと〴〵わらふ。
ときにありけるをんなわらはなん。
このうたをよめる。
     

14
「まことにて 名に聞く所 はねならば
飛ぶがごとくに みやこへもがな」
まことにて 名にきく所 はねならは
とふか如くに 都へもかな
     
  とぞいへる。
男も女も
いかで疾く都へもがなと思ふ心あれば、
この歌よしとにはあらねど
げにと思ひて人々わすれず。
このはねといふ所問ふ
童の序にて〈ぞイ〉
又昔の人を思ひ出でゝ
いづれの時にか忘るゝ。
今日はまして母の悲しがらるゝ事は、
くだりし時の人の數足らねば、
ふるき歌に
「數はたらでぞかへるべらなる」
といふことを思ひ出でゝ
人のよめる、
とぞいへる。
をとこもをんなも
いかでとく京へもがなとおもふ心あれば。
このうたよしとにはあらねど。
げにとおもひてひと〴〵わすれず。
このはねといふ所とふ
わらはのついでにて[ぞイ]
又むかしのつイ人をおもひいでゝ。
いづれの時にかわするゝ。
けふはましてはゝのかなしがらるゝことは。
くだりし時の人のかずたらねば。
ふるうたに。
かずはたらでぞかへるべらなる
といふことをおもひいでゝ。
人のよめる。
     

15
「世の中に おもひや〈あイ〉れども 子を戀ふる
思ひにまさる 思ひなきかな」
世の中に 思ひやれとも こをこふる
思ひにまさる 思ひなき哉
     
  といひつゝなむ。 といひつゝなん。
 

1/12

  十二日、
雨降らず。
文時、維茂が船のおくれたりし。
ならしつより室津に〈つイ有〉きぬ。
十二日。
あめふらず。
ふんときこれもちがふねのおくれたりし。
ならしつよりむろつにきぬ。
 

1/13

  十三日の曉に
いさゝか小〈にイ〉雨ふる。
しばしありて止みぬ。
男女これかれ、ゆあみなどせむとて
あたりのよろしき所におりて行く。
海を見やれば、
十三日のあかつきに。
いさゝかに雨ふる。
しばしありてやみぬ。
・男イをんなこれかれゆあみなどせんとて。
あたりのよろしき所にをりてゆく。
うみをみやれば。
     

16
「雲もみな 浪とぞ見ゆる 海士もがな
いづれか海と 問ひて知るべく」
雲もみな 浪とそ見ゆる あまもかな
いつれか海と 問て知へく
     
  となむ歌よめる。
さて十日あまりなれば
月おもしろし。
船に乘り始めし日より
船には紅こくよききぬ着ず。
それは海の神に怖ぢてといひて、
何の蘆蔭にことづけて
ほやのつまのいずしすしあはびをぞ
心にもあらぬはぎにあげて見せける。
となんうたよめる。
さてとうかあまりなれば。
月おもしろし。
船にのりはじめし日より。
ふねにはくれなゐこくよききぬきず。
それはうみのかみにおぢてといひて。
なにのあしかげにことづけて。
ほやのつまのいすしずしあはびをぞ
こゝろにもあらぬはぎにあげて見せける。
 

1/14

  十四日、
曉より雨降れば
同じ所に泊れり。
船君せちみす。
さうじものなければ
午の時より後に
檝取の昨日釣りたりし鯛に、
錢なければ
よねをとりかけておちられぬ。
かゝる事なほありぬ。
檝取又鯛もてきたり。
よね酒しばしばくる。
檝取けしきあしからず。
十四日。
あかつきより雨ふれば。
おなじところにとまれり。
ふなぎみせちみ節忌す。
さうじ精進物なければ。
むまどきよのちに
かぢとりの昨日つりたりしたひに。
ぜになければ。
よねをとりかけてお落ちられぬ。
かゝる事なほありぬ。
かぢとりまたたひもてきたり。
よねさけしば〴〵[などイ]くる。
かぢとりけしきあしからず。
 

1/15

  十五日、
今日小豆粥煮ず。
口をしくなほ日のあしければ
ゐざるほどにぞ今日廿日あまり經ぬる。
徒に日をふれば
人々海をながめつゝぞある。
めの童のいへる、
十五日。
けふあづきがゆ小豆粥にす。
くちをしくなほ日のあしければ。
ゐざるほどにぞけふはつかあまりへぬる。
いたづらに日をふれば。
ひとびと海をながめつゝぞある。
めのわらはのいへる。
     

17
「立てばたつ ゐれば又ゐる 吹く風と
浪とは思ふ どちにやあるらむ」。
たてはたつ ゐれは又ゐる 吹風と
浪とは思ふ とちにやわる覽
     
  いふかひなきものゝ
いへるには
いと似つかはし。
いふがひなきものゝ
いへるには
いとにつかはし。
 

1/16

  十六日、
風浪やまねば
猶同じ所にとまれり。
たゞ海に浪なくして
いつしかみさきといふ所
渡らむとのみなむおもふ。
風浪ともにやむべくもあらず。
ある人の
この浪立つを見て詠めるうた、
十六日。
風なみやまねば。
猶おなじ所にとまれり。
たゞ海に浪なくして。
いつしかみさきといふところ
わたらんとのみなんおもふ。
かぜ浪とも[もイナシ]にやむべくもあらず。
ある人の
このなみたつを見てよめる歌。
     

18
「霜だにも おかぬかたぞと いふなれど
浪の中には ゆきぞ降りける」。
霜たにも おかぬ潟そと いふなれと
浪のなかには雪そ降ける
     
  さて船に乘りし日よりけふまでに
廿日あまり五日になりにけり。
さて舟にのりし日よりけふまでに。
はつかあまりいつかになりにけり。
 

1/17

  十七日、
曇れる雲なくなりて
曉月夜いとおもしろければ、
船を出して漕ぎ行く。
このあひだに
雲のうへも海の底も
同じ如くになむありける。
うべも昔のをのこは
「棹は穿つ波の上の月を。
船は襲ふ海のうちの空を」
とはいひけむ。
きゝされに聞けるなり。
又ある人のよめる歌、
十七日。
くもれる雲なくなりて。
あかつきづく夜いとおもしろければ。
船をいだしてこぎゆく。
このあひだに。
雲のうへも海のそこも。
をなしごとくになんありける。
むべも昔のをとこは。
さをはうがつなみのうへの月を。
ふねはおさふ海のうちのそらを。
とはいひけん。
きゝざれにきけるなり。
またある人のよめる歌。
     

19
「みなそこの 月のうへより 漕ぐふねの
棹にさはるは 桂なるら〈べイ〉し」。
みな底の 月のうへより 漕舟の
掉にさはるは かつらなるらし
     
  これを聞きてある人の又よめる、 これをきゝてあるひとの又よめる。
     

20
「かげ見れば 浪の底なる ひさかたの
空こぎわたる われぞさびしき」。
かけみれは 浪の底なる 久かたの
空こきわたる 我そわひしき
     
  かくいふあひだに
夜やうやく明けゆくに、
檝取等
「黑き雲にはかに出できぬ。
風も吹きぬべし。
御船返してむ」
といひてかへる。
このあひだに雨ふりぬ。
いとわびし。
かくいふあひだに
夜やうやくあけゆくに。
かぢとりら
くろき雲にはかにいできぬ
風ふきぬべし。
みふねかへしてん
といひて舟かへる。
このあひだに雨ふりぬ。
いとわびし。
 

1/18

  十八日、
猶同じ所にあり。
海あらければ船いださず。
この泊
遠く見れども近く見れども
いとおもしろし。
かゝれども苦しければ
何事もおもほえず。
男どちは心やりにやあらむ、
からうたなどいふべし。
船もいださでいたづらなれば
ある人の詠める、
十八日。
なをおなじところにあり。
海あらければ船いださず。
このとまり。
とほく見れどもちかくみれども。
いとおもしろし。
かゝれどもくるしければ
なにごともおもほへず。
をとこどちは心やりにやあらん。
からうたなどいふべし。
船もいださでいたづらなれば。
あるひとのよめる。
     

21
「いそぶりの 寄する磯には 年月を
いつとも分かぬ 雪のみぞふる」
いそふりの よする礒には 年月を
いつともわかぬ 雪のみそ降
     
  この歌は常にせぬ人のごとなり。
又人のよめる、
この歌はつねせぬひとのご如となり。
また人のよめる。
     

22
「風による 浪のいそには うぐひすも
春もえしらぬ 花のみぞ咲く」。
風による 浪のいそには うくひすも
春もえしらぬ 花のみそ咲
     
  この歌どもを少しよろしと聞きて、
船のをさしける翁、
月頃の苦しき心やりに詠める、
この歌どもをすこしよろしときゝて。
ふねのをさしけるおきな。
つきごろのくるしき心やりによめる。
     

23
「立つなみを 雪か花かと 吹く風ぞ
よせつゝ人を はかるべらなる」。
たつ浪を 雪か花かと ふく風そ
よせつゝ人を はかるへらなる
     
  この歌どもを人の何かといふを、
ある人の又聞きふけりて詠める。
その歌よめるもじ三十文字あまり七文字、
人皆えあらで笑ふやうなり。
歌ぬしいと氣色あしくてえず。
まねべどもえまねばず。
書けりともえ讀みあへがたかるべし。
今日だにいひ難し。
まして後にはいかならむ。
このうたどもを人のなにかといふを。
ある人の又きゝふけりてよめる。
その歌よめるもじみそもじあまりなゝもじ。
人みなえあらでわらふやうなり。
うたぬしいとけしきあしくてゑず。
まねべどもえまねばす。
かけりともえよみあ[すイ]ゑがたかるべし。
けふだにいひがたし。
ましてのちにはいかならん。
 

1/19

  十九日、
日あしければ船いださず。
十九日。
ひあしければふねいださず。
 

1/20

  二十日、
昨日のやうなれば船いださず、
皆人々憂へ歎く。
苦しく心もとなければ、
唯日の經ぬる數を、
今日いくか、
二十日、三十日と數ふれば、
およびもそこなはれぬべし。
いとわびし。
夜はいも寢ず。
二十日の夜の月出でにけり。
山のはもなくて
海の中よりぞ出でくる。
 
かうやうなるを見てや、
むかし安倍の仲麻呂といひける人は、
もろこしに渡りて歸りきける時に、
船に乘るべき所にて、
かの國人馬の餞し、
わかれ惜みて、
かしこのからうた作りなどしける。
あかずやありけむ、
二十日の夜の月出づるまでぞありける。
その月は海よりぞ出でける。
 
これを見てぞ仲麻呂のぬし
「我が國にはかゝる歌をなむ
神代より神もよんたび、
今は上中下の人も
かうやうに別れ惜み、
よろこびもあり、
かなしみもある時には詠む」
とてよめりける歌、
廿日。
きのふのやうなれば船いださず。
みなひとびとうれへなげく。
くるしく心もとなければ。
たゞ日のへぬるかずを。
けふいくか。
はつかみそかとかぞふれば。
および指もそこなはれぬべし。
いとわびし。
よるはいもねず。
はつかの夜の月いでにけり。
山のはもなくて。
海のなかよりぞいでくる。
 
かうやう[かやうイ]なるを見てや。
むかしあべのなかまろといひける人は。
もろこしにわたりてかへりきける時に。
船にのるべきところにて。
かのくにびとむまのはなむけし。
わかれをしみて。
かしこのから歌つくりなどしける。
あかずやありけん。
はつかの夜の月出るまでぞありける。
その月は海よりぞいでける。
 
これを見てぞなかまろのぬし。
わがくにには[にイナシ]かゝるうたをなん。
神代よりかみもよんたび。
いまはかみなかしもの人も。
かうやうにわかれをしみ。
よろこびもあり。
かなしびもある時にはよむ
とてよめりける歌。
     

24
「あをうなばら ふりさけ見れば 春日なる
三笠の山に いでし月かも」
靑海原 ふりさけみれは かすかなる
みかさの山に 出し月かも
     
  とぞよめりける。
かの國の人
聞き知るまじくおもほえたれども、
ことの心を
男文字にさまを書き出して、
こゝの詞傳へたる人に
いひ知らせければ、
心をや聞き得たりけむ、
いと思ひの外になむめでける。
もろこしと
この國とはこと〈ばイ有〉ことなるものなれど、
月の影は同じことなるべければ
人の心も同じことにやあらむ。
さて今そのかみを思ひやりて
或人のよめる歌、
とぞよめりける。
かのくに人
きゝしるまじくおもほへたれども。
ことの心を
おとこもじにさまをかきいだして。
こゝのことばつたへたる人に
いひしらせければ。
心をやきゝえたりけん。
いとおもひの外になむめでける。
もろこしと
この國とはこと〳〵なるものなれど。
月の影はおなじことなるべければ。
人の心もをなじことにやあらん。
さていまそのかみをおもひやりて。
あるひとのよめる歌。
     

25
「都にて やまのはにみし 月なれど
なみより出でゝ なみにこそ入れ」。
 後撰
都にて 山のはに見し 月なれと
なうみよりいてゝ 浪うみにこそいれ
 

1/21

  廿一日、
卯の時ばかりに船出す。
皆人々の船出づ。
これを見れば
春の海に秋の木の葉しも
散れるやうにぞありける。
おぼろげの願に依りてにやあらむ、
風も吹かずよき日出できて漕ぎ行く。
この間に
つかはれむとて、附きてくる童あり。
それがうたふ舟うた、
廿一日。
うの時ばかりに船いだす。
みなひとびとのふねいづ。
これを見れば。
春のうみに秋のこの葉しも。
ちれるやうにぞありける。
おぼろげの願によりてにやあらん。
風もふかずよき日いできてこぎゆく。
このあひだに。
つかはれんとてつきてくるわらはあり。
それがうたふふなうた。
     

26
「なほこそ國のかたは見やらるれ、
わが父母ありとしおもへば。
かへらや」
猶こそくにのかたはみやらるれ。
わがちゝはゝありとしおもへば。
かへらや
     
  とうたふぞ哀なる。
かくうたふを聞きつゝ漕ぎくるに、
くろとりといふ鳥
岩のうへに集り居り。
その岩のもとに浪しろくうち寄す。
檝取のいふやう
「黑〈きイ有〉鳥のもとに
白き浪をよす」とぞいふ。
 
この詞何とにはなけれど、
ものいふやうにぞ聞えたる。
人の程にあはねば咎むるなり。
かくいひつゝ行くに、船君なる人
浪を見て、
國よりはじめて海賊報いせむ
といふなる事を思ふうへに、
海の又おそろしければ、
頭も皆しらけぬ。
七十八十は
海にあるものなりけり。
とうたふぞあはれなる。
かくうたふをきゝつゝこぎくるに。
くろとりといふ鳥
いはのうへにあつまりをり。
そのいはのもとに浪しろくうちよす。
かぢとりのいふやう。
くろ・きイ鳥のもとに
しろきなみをよすとぞいふ。
 
このこと葉なにとにはなけれども。
物いふやうにぞきこへたる。
人の程にあはねばとがむるなり。
かくいひつつゆくにふなぎみなる人。
なみを見て。
國よりはじめてかいぞくむくひせん
といふなる事をおもふうへに。
海のまたおそろしければ。
かしらもみなしらけぬ。
なゝそぢやそぢは
うみにあるものなりけり。
     

27
「わが髮の ゆきといそべの しら浪と
いづれまされり おきつ島もり」
わかかみの 雪と磯への 白浪と
いつれまされり 沖つしまもり
     
  檝取いへ〈りイ有〉 とかぢとりいへり。
 

1/22

  廿二日、
よんべのとまりより
ことゞまりをおひてぞ行く。
遙かに山見ゆ。
年九つばかりなるをの童、
年よりは幼くぞある。
この童、
船を漕ぐまにまに、
山も行くと見ゆるを見て、
あやしきこと歌をぞよめる。
そのうた〈四字イ無〉
廿二日。
よんべのとまりより
ことゞまりをおひてぞゆく。
はるかに山見ゆ。
としこゝのつばかりなるをのわらは。
としよりはをさなくぞある。
このわらは。
船をこぐまに〳〵。
山もゆくと見ゆるをみて。
あやしきこと歌をぞよめる。
[その歌]
     

28
「漕ぎて行く 船にてみれば あしびきの
山さへゆくを 松は知らずや」
漕てゆく 舟にて見れは 足曳の
山さへゆくを まつはしらすや
     
  とぞいへる。
幼き童のことにては似つかはし。
けふ海あらげにて
磯に雪ふり浪の花さけり。
ある人のよめる。
とぞいへる。
をさなきわらはのことにてはにつかはし。
けふ海あらげにて。
いそに雪ふりなみの花さけり。
あるひとのよめる。
     

29
「浪とのみ ひとへに聞けど いろ見れば
雪と花とに まがひけるかな」。
浪とのみ ひとへにきけと 色見れは
雪と花とに まかひける哉
 

1/23

  廿三日、
日てりて曇りぬ。
此のわたり、
海賊のおそりありといへば
神佛を祈る。
廿三日。
ひてりてくもりぬ。
このわたり
かいぞくのおそりありといへば。
神ほとけをいのる。
 

1/24

  廿四日、
昨日のおなじ所なり。
廿四日。
きのふのおなじところなり。
 

1/25

  廿五日、
檝取らの北風あしといへば、
船いださず。
海賊追ひくといふ事絕えずきこゆ。
廿五日。
かぢとりらのきた風あしよからぬイといへば。
船いださず。
かいぞくおひくといふ事たへずきこゆ。
 

1/26

  廿六日、
まことにやあらむ、
海賊追ふといへば
夜はばかりより
船をいだして漕ぎくる。
道にたむけする所あり。
檝取してぬさたいまつらするに、
幣のひんがしへちれば
檝取の申し奉ることは、
「この幣のちるかたに
みふね速にこがしめ給へ」
と申してたてまつる。
これを聞きて
ある女の童のよめる、
廿六日。
まことにやあらん。
かいぞくおふといへば。
夜なかばかりより[イナシ]
船をいだしてこぎくる。
道にたむけする所あり。
かぢとりしてぬさたひまつらするに。
ぬさのひんがしへちれば。
かぢとりのまうしてたてまつる事は。
このぬさのちるかたに
みふねすみやかにこがしめ給へ
とまうしてたてまつる。
これをきゝて。
あるめのわらはのよめる。
     

30
「わたつみの ちぶりの神に たむけする
ぬさのおひ風 やまずふかなむ」
わたつみの ちふりの神に 手向する
幣の追風 やますふかなん
     
  とぞ詠める。
このあひだに風のよければ
檝取いたくほこりて、
船に帆あ〈かイ〉げなど喜ぶ。
その音を聞きて
わらはもおきなも
いつしかとし思へばにやあらむ、
いたく喜ぶ。
このなかに
淡路のたうめといふ人のよめる歌、
とぞよめる。
このあひだほどイに風のよければ。
かぢとりいたくほこりて。
船にほあげなどよろこぶ。
そのおとをきゝて。
わらはもおきなも
いつしかとし[しイナシ]おもへばにやあらん。
いたくよろこぶ。
このなかに
あはぢのたうめといふ人のよめるうた。
     

31
「追風の 吹きぬる時は ゆくふねの
帆手てうちてこそ うれしかりけれ」
おひかせの ふきぬる時は 行舟の
ほてうちて社 嬉しかりけれ
     
  とぞ。
ていけのことにつけていのる。
とぞ。
ていけ天氣のことにつけていのる。
 

1/27

  廿七日、
風吹き浪あらければ船いださず。
これかれかしこく〈八字誰も誰もおそれイ〉歎く。
男たちの心なぐさめに、
からうたに
「日を望めば都遠し」
などいふなる事のさまを聞きて、
ある女のよめる歌、
廿七日。
かせふきなみあらければ船いださず。
これかれかしこくなげく。
をとこだちの心なぐさめに[イニナシ]
からうたに。
日をのぞめばみやことほし
などいふなることのさまをきゝて。
あるをんなのよめる歌。
     

32
「日をだにも あま雲ちかく 見るものを
都へと思ふ 道のはるけさ」。
日をたにも 天雲近く 見るものを
都へと思ふ みちのはるけさ
     
  又ある人のよめる。 またある人のよめる。
     

33
「吹くかぜの 絶えぬ限りし 立ちくれば
波路はいとゞ はるけかりけり」。
吹風の たへぬ限り したちくれは
浪路はいとゝ 遙けかりけり
     
  日ひと日風やまず。
つまはじきしてねぬ。
日ひとひ風やまず。
つまはじきしてねぬ。
 

1/28

  廿八日、
もすがら雨やまず。
けさも。
廿八日。
夜もすがら雨やまず。
けさも。
 

1/29

  廿九日、
船出して行く。
うらうらと照りてこぎゆく。
爪のいと長くなりにたるを見て
日を數ふれば、
今日は子の日なりければ切らず。
正月なれば京の子の日の事いひ出でゝ、
「小松もがな」といへど
海中なれば難しかし。
ある女の書きて出せる歌、
廿九日。
ふねいだしてゆく。
うら〳〵とてりてこぎゆく。
つめのいとながくなりにたるを見て。
ひをかぞふれば。
けふは子日なりければきらず。
む月なれば京のねの日の事いひいでて。
こまつもがなといへど。
海なかなればかたしかし。
あるをんなのかきていだせる歌。
     

34
「おぼつかな けふは子の日か あまならば
海松をだに 引かましものを」
覺束な けふはねのひか あまならは
海松をたに ひかまし物を
     
  とぞいへる。
海にて
子の日の歌にてはいかゞあらむ。
又ある人のよめるうた。
とぞいへる。
うみにて
子日のうたにてはいかがあらん。
またある人のよめるうた。
     

35
「けふなれど 若菜もつまず 春日野の
わがこぎわたる 浦になければ」。
けふなれと 若菜もつます 春日野の
我漕わたる 浦になけれは
     
  かくいひつゝ漕ぎ行く。
おもしろき所に
船を寄せて「こゝやいづこ」と問ひければ、
「土佐のとまり」とぞいひける。
昔土佐といひける所に住みける女、
この船にまじれりけり。
そがいひけらく、
「昔しばしありし所の
名たぐひにぞあなる。
あはれ」といひてよめる歌、
かくいひつゝこぎゆく。
おもしろきところに。
船をよせてこゝやいづこととひければ。
とさのとまりといひけり。
むかしとさといひける所にすみけるをんな。
この舟にまじれりけり。
そがいひけらく。
昔しばしありし所の
なたぐひ[ならひイ]にぞあなる。
あはれ。といひてよめる歌。
     

36
「年ごろを すみし所の 名にしおへば
きよる浪をも あはれとぞ見る」。
としころを すみし所の 名にしおへは
きよる浪をも 哀とそ見る
    とぞいへる。
 

1/30

  三十日、
雨風ふかず。
海賊は夜あるきせざなりと聞きて、
夜中ばかりに船を出して
阿波のみとを渡る。
夜中なれば西ひんがしも見えず、
男女辛く
神佛を祈りてこのみとを渡りぬ。
寅卯の時ばかりに、
ぬ島といふ所を過ぎて
たな川といふ所を渡る。
からく急ぎて
和泉の灘といふ所に至りぬ。
今日海に浪に似たる物なし。
神佛の惠蒙ぶれるに似たり。
けふ船に乘りし日より數ふれば
みそかあまり九日になりにけり。
今は和泉の國に來ぬれば
海賊ものならず。
卅日。
あめかぜふかず。
かいぞくはよるあるきせざなりときゝて。
夜なかばかりに船をいだして。
あはのみとをわたる。
よなかなればにしひんがしもみえず。
おとこをんなからく
神ほとけをいのりてこのみとをわたりぬ。
とらうの時ばかりに
ぬしまといふ所をすぎて。
たながはといふ所をわたる。
からくいそぎて
いづみのなだといふ所にいたりぬ。
けふ海になみににたるものなし。
神ほとけのめぐみかうぶれるににたり。
けふふねにのりしひよりかぞふれば。
みそかあまりこゝぬかに成にけり。
いまはいづみのくににきぬれば。
かいぞくものならず。
     
 

2月 如月

 

2/1

  二月朔日、
あしたのま雨降る。
午の時ばかりにやみぬれば、
和泉の灘といふ所より出でゝ
漕ぎ行く。
海のうへ昨日の如く風浪見えず。
黑崎の松原を經て行く。
所の名は黑く、
松の色は靑く、
磯の浪は雪の如くに、
貝のいろは蘇枋にて
五色に今ひといろぞ足らぬ。
この間に今日は
箱の浦といふ所より綱手ひきて行く。
かく行くあひだにある人の詠める歌、
二月一日。
あしたのま雨ふる。
むまどきばかりにやみぬれば。
いづみのなだといふところよりいでて
こぎゆく。
海のうへ昨日のごとくに風なみ見えず。
くろさきの松ばらをへてゆく。
ところの名はくろく。
松の色はあをく。
いその浪は雪のごとくに。
かひのいろはすはうに・てイ。
五色にいまひといろぞたらぬ。
このあひだにけふは。
はこの浦といふ所よりつなでひきてゆく。
かくゆくあひだにある人のよめる歌。
     

37
「玉くしげ 箱のうらなみ たゝぬ日は
海をかゞみと たれか見ざらむ」。
たまくしけ はこの浦浪 たゝぬひは
うみを鏡と 誰かみさらん
     
  又船君のいはく
「この月までなりぬること」と歎きて
苦しきに堪へずして、
人もいふことゝて
心やりにいへる歌、
またふなぎみのいはく。
この月までなりぬることとなげきて。
くるしきにたへずして。
人もいふことゝて。
心やりにいへるうた[イナシ]
     

38
「ひく船の 綱手のながき 春の日
をよそかいかまで われはへにけり」。
ひく舟の 綱手の長き 春の日
をよそかいかまて 我はへにけり
     
  聞く人の思へるやう。
なぞたゞごとなると密にいふべし。
「船君の辛くひねり出して
よしと思へる事を
えしもこそしいへ」
とてつゝめきてやみぬ。
俄に風なみたかければとゞまりぬ。
きく人のおもへるやう。
なぞたゞごとなるとひそかにいふべし。
ふなぎみのからくひねりいだして。
よしとおもへることを。
ゑじもこそしいへ[たべイ]とて。
つゝめきてやみぬ。
にはかに風なみたかければとゞまりぬ。
 

2/2

  二日、
雨風止まず。
日ひとひ夜もすがら神佛をいのる。
二日。
雨風やまず。
ひゝとひ夜もすがら神佛をいのる。
 

2/3

  三日、
海のうへ昨日のやうなれば船いださず。
風の吹くことやまねば
岸の浪たちかへる。
これにつけてよめる歌、
三日。
うみのうへ昨日のやうなれば舟いださず。
風の吹ことやまねば。
きしのなみたちかへる。
これにつけてよめるうた。
     

39
「緖をよりて かひなきものは おちつもる
淚の玉を ぬかぬなりけり」。
をゝよりて かひなきものは おち積る
淚の玉を ぬかぬなり鳧
     
  かくて、今日〈はイ有〉暮れぬ。 かくてけふ・はイ暮ぬ。
 

2/4

  四日、
檝取
「けふ風雲のけしき
はなはだあし」といひて
船出さずなりぬ。
然れどもひねもすに浪風たゝず。
この檝取は
日も得計らぬかたゐなりけり。
この泊の濱には
くさぐさの麗しき貝石など多かり。
かゝれば唯昔の人をのみ戀ひつゝ
船なる人の詠める、
四日。
かぢとり
けふかせ雲のけしき
はなはだあしといひて。
船いださずなりぬ。
しかれどもひねもすに浪かぜたゝず。
このかぢとりは
日もえはからぬかたゐなりけり。
このとまりのはまには。
くさ〴〵のうるはしきかひいしなどおほかり。
かゝればたゞむかしの人をのみ戀つゝ。
ふねなる人のよめる。
     

40
「よする浪 うちも寄せなむ わが戀ふる
人わすれ貝 おりてひろはむ」
よする浪 打もよせなむ 我こふる
人わすれ貝 おりてひろはん
     
  といへれば、
ある人堪へずして
船の心やりによめる、
といへれば[れイナシ]
ある人の[のイナシ]たへずして。
ふねの心やりによめる。
     

41
「わすれ貝 ひろひしもせじ 白玉を
戀ふるをだにも かたみと思はむ」
忘貝 ひろひしもせし 白玉を
こふるをたにも 形見とおもはむ
     
  となむいへる。
女兒のためには
親をさなくなりぬべし。
玉ならずもありけむをと人いはむや。
されども
死にし子顏よかりき
といふやうもあり。
猶おなじ所に日を經ることを歎きて、
ある女のよめるうた、
となんいへる。
をんな・こイのためには
おやをさなくなりぬべし。
玉ならずもありけんをと人いはんや。
されども
しゝこ[死にしこイ]かほよかりき
といふやうもあり。
猶おなじところに日をふることをなげきて。
あるをんなのよめるうた。
     

42
「手をひでゝ 寒さも知らぬ 泉にぞ
汲むとはなしに 日ごろ經にける」。
てをひてゝ 寒さもしらぬ 泉にそ
汲とはなしに 日比へにける
 

2/5

  五日、
けふ辛くして
和泉の灘より小津のとまりをおふ。
松原めもはるばるなり。
かれこれ苦しければ詠めるうた、
五日。
けふからくして。
いづみのなだよりをつのとまりをゝふ。
松ばらめもはる〴〵なり。
これかれくるしければよめるうた。
     

43
「ゆけどなほ 行きやられぬは いもがうむ
をつの浦なる きしの松原」。
ゆけとなを ゆきやられぬは 妹かうむ
をつの浦なる 岸の松原
     
  かくいひつゞくる程に
「船疾くこげ、日のよきに」
と催せば檝取船子どもにいはく
「御船より仰せたぶなり。
あさぎたの出で來ぬさきに
綱手はやひけ」といふ。
この詞の歌のやうなるは
檝取のおのづからの詞なり。
 
檝取は
うつたへに
われ歌のやうなる事いふとにもあらず。
聞く人の
「あやしく歌めきてもいひつるかな」
とて書き出せれば
げに三十文字あまりなりけり。
今日浪なたちそと、
人々ひねもすに祈る
しるしありて風浪たゝず。
今し鷗むれ居てあそぶ所あり。
京のちかづくよろこびのあまりに
ある童のよめる歌、
かくいひつゞくるほどに。
ふねとくこげ。
ひのよきにともよほせば。
かぢとりふなこどもにいはく。
みふねよりおほせたぶなり。
あさきたのいでこぬさきに
つなではやひけといふ。
このこと葉のうたのやうなるは。
かぢとりのをのづからのことばなり。
 
かぢとりは
うつたへに
われうたのやうなることいふとにもあらず。
きく人の
あやしくうためきてもいひつるかな
とてかきいだせれば。
げにみそもじあまりなりけり。
けふなみなたちそと
人々ひねもすにいのる。
しるしありて風なみたゝず。
いましかもめむれゐてあそぶところあり。
京のちかづくよろこびのあまりに。
あるわらはのよめる歌。
     

44
「いのりくる 風間と思ふを あやなくに
鷗さへだに なみと見ゆらむ」
祈りくる かさまともふを あやなくも
鷗さへたに 浪と見ゆ覽
     
  といひて行く間に、
石津といふ所の松原おもしろくて
濱邊遠し。
又住吉のわたりを漕ぎ行く。
ある人の詠める歌、
といひてゆくあひだに。
いし津といふ所の松原おもしろくて。
はまべとをし。
またすみよしのわたりをこぎ行。
ある人のよめる歌。
     

45
「今見てぞ 身をば知りぬる 住のえの
松よりさきに われは經にけり」。
今見てそ 身をはしりぬる 住の江の
松より先に 我はへにけり
     
  こゝにむかしつ人の母、
一日片時もわすれねばよめる、
こゝにむかしつ[べイ]ひとのはゝ。
ひとひかた時もわすれねばよめる。
     

46
「住の江に 船さしよせよ わすれ草
しるしありやと つみて行くべく」
すみの江に 舟さしよせよ 忘草
しるしありやと つみて行へく
     
  となむ。
うつたへに忘れなむとにはあらで、
戀しき心ちしばしやすめて
又も戀ふる力にせむとなるべし。
かくいひて眺めつゞくるあひだに、
ゆくりなく風吹きて
こげどもこげどもしりへしぞきにしぞきて
ほとほとしくうちはめつべし。
 
檝取のいはく
「この住吉の明神は例の神ぞかし。
ほしきものぞおはすらむ」
とは今めくものか。
さて「幣をたてまつり給へ」
といふにしたがひてぬさたいまつる。
 
かくたいまつれれども
もはら風山で、
いや吹きに
いや立ちに風浪の危ふければ
檝取又いはく
「幣には御心のいかねば
御船も行かぬなり。
猶うれしと思ひたぶべき物
たいまつりたべ」といふ。
 
又いふに從ひて
「いかゞはせむ」とて
「眼もこそ二つあれ。
ただ一つある鏡をたいまつる」とて
海にうちはめつれば
いとくちをし。
さればうちつけに
海は鏡のごとなりぬれば、
或人のよめるうた、
となん。
うつたへにわすれなんとにはあらで。
戀しきこゝちしばしやすめて。
またもこふるちからにせんとなるべし。
かくいひてながめつゞくるあひだに。
ゆくりなくかぜふきて。
こげども〳〵しりへしぞきにしぞきて。
ほとほとしくうちはめつべし。
 
かぢとりのいはく。
この住吉の明神はれいのかみぞかし。
ほしきものぞおはすらん。
今は[とはイ]いまめくものか。
さてぬさをたてまつりたまへといふ。
いふにしたがひてぬさたいまつる。
 
かくたいまつれゝ[ゝイナシ]ども。
もはら風やまで。
いやふきに
いやたちに風なみのあやうければ。
かぢとりまたいはく。
ぬさにはみ心のいかねば。
みふねもゆかぬなり。
なをうれしとおもひたぶべきもの。
たいまつりたべといふ。
 
またいふにしたがひて。
いかゞはせんとて。
まなこもこそふたつあれ。
たゞひとつあるかゞみをたいまつるとて。
海にうちはめつれば。
いと[イナシ]くちおし。
さればうちつけに
海はかゞみの・おもてのイごとなりぬれば。
あるひとのよめる歌。
     

47
「ちはやぶる 神のこゝろの あるゝ海に
鏡を入れて かつ見つるかな」。
千早根 神のこゝろの あるゝ海に
鏡をいれて かつみつるかな
     
  いたく住の江の忘草、
岸の姬松などいふ神にはあらずかし。
目もうつらうつら
鏡に神の心をこそは見つれ。
檝取の心は神の御心なりけり。
いたくすみのえわすれぐさ
岸の姬松などいふかみにはあらずかし。
めもうつら〳〵。
かゞみに神のこゝろをこそは見つれ。
かぢとりの心はかみのみ心なりけり。
 

2/6

  六日、
澪標のもとより出でゝ
難波につ〈二字のつをイ〉きて
河尻に入る。
みな人々女おきな
ひたひに手をあてゝ喜ぶこと二つなし。
かの船醉の淡路の島のおほい子、
都近くなりぬといふを喜びて、
船底より頭をもたげて
かくぞいへる、
六日。
みをつくしのもとよりいでゝ。
なにはにつのをイつきて。
かはじりにいる。
みな人々をんなおきな。
ひたひにてをあてゝよろこぶ事ふたつなし。
かのふなゑひのあはぢのしまのおほいこ。
みやこちかくなりぬといふをよろこびて。
ふなぞこよりかしらをもたげて。
かくぞいへる。
     

48
「いつしかと いぶせかりつる 難波がた
蘆こぎそけて 御船きにけり」。
いつしかと いふせかりつる 難波潟
蘆漕そけて みふれきに鳬
     
  いとおもひの外なる人のいへれば、
人々あやしがる。
これが中に
心ちなやむ船君いたくめでゝ
「船醉したうべりし
御顏には似ずもあるかな」といひける。
いとおもひのほかなる人のいへれば。
ひとびとあやしがる。
これがなかに
こゝちなやむふなぎみいたくめでて。
ふなゑいしたうべりし
みかほにはにずもあるかなといひける。
 

2/7

  七日、
けふは川尻に
船入り立ちて漕ぎのぼるに、
川の水ひて惱みわずらふ。
船ののぼることいと難し。
かゝる間に船君の病者も
とよりこちごちしき人にて、
かうやうの事更に知らざりけり。
かゝれども淡路のたうめの歌にめでゝ、
みやこぼこりにもやあらむ、
からくしてあやしき歌ひねり出せり。
そのうたは、
七日。
けふかはじりに
船いりたちてこぎのぼるに。
川の水ひてなやみわづらふ。
ふねののぼることいとかたし。
かゝるあひだにふなぎみの病者。
もとよりこち〴〵しき人にて。
かうやうのことさらにしらざりけり。
かゝれどもあはぢたうめのうたにめでて。
みやこぼこりにもやあらん。
からくしてあやしきうたひねりいだせり。
そのうたは。
     

49
「きときては 川のほりえの 水をあさみ
船も我が身も なづむけふかな」。
きときては 川の堀江の 水を淺み
舟も我みも なつむけふかな
     
  これは病をすればよめるなるべし。
ひとうたにことの飽かねば今ひとつ、
これは。
やまひをすればよめるなるべし。
ひとうたにことのあかねば今ひとつ。
     

50
「とくと思ふ 船なやますは 我がために
水のこゝろの あさきなりけり〈るべしイ〉」。
とくと思ふ 舟なやますは 我ために
水の心の あさきなりけり[るへしイ]
     
  この歌は、
みやこ近くなりぬるよろこびに堪へずして
言へるなるべし。
淡路の御の歌におとれり。
ねたき、いはざらましものをと
くやしがるうちに
よるになりて寢にけり。
このうたは
みやこちかくなりぬるよろこびにたえずして
いへるなるべし。
あはぢのこのうたにおとれり。
ねたきいはざらましものをと
くやしがるうちに。
よるになりていりてねにけりイねにけり。
 

2/8

  八日、
なほ川のほとりになづみて、
鳥養の御牧といふほとりにとまる。
こよひ船君
例の病起りていたく惱む。
ある人あさらかなる物もてきたり。
よねしてかへりごとす。
男ども密にいふなり「いひぼしてもてる」とや。
かうやうの事所々にあり。
今日節みすればいをもちゐず。
八日。
なほかはのぼり河上になづみて。
とりかひのみまきといふほとりにとまる。
こよひふなぎみ
れいのやまひおこりていたくなやむ。
ある人あさらかなる物もてきたり。
よねしてかへりごとす。
をとこどもひそかにいふなり。
いひほしてもてる[もつつるイ]とや。
かうやうの事ところ〴〵にあり。
けふせちみすればいをもちひず。
 

2/9

  九日、
心もとなさに
明けぬから船をひきつゝのぼれども
川の水なければ
ゐざりにのみゐざる。
 
この間に
和田の泊りの
あかれのところといふ所あり。
よねいをなどこへばおこなひ〈三字くりイ〉つ。
かくて船ひきのぼるに
渚の院といふ所を見つゝ行く。
その院
むかしを思ひやりて見れば、
おもしろかりける所なり。
しりへなる岡には松の木どもあり。
中の庭には梅の花さけり。
 
こゝに人々のいはく
「これむかし名高く聞えたる所なり。
故惟喬のみこのおほん供に
故在原の業平の中將の
九日。
こゝろもとなさに。
あけぬから船をひきつゝのぼれども。
河の水なければ。
ゐざりにのみぞゐざる。
 
このあひだに
わだのとまりの
あかれのところといふ所あり。
よねいほなどこへばおこなひつをくりつイ。
かくてふねひきのぼるに。
なぎさの院といふ所を見つゝゆく。
その院。
むかしをおもひやりてみれば。
おもしろかりけるところなり。
しりへなるをかには松のきどもあり。
なかの庭にはむめのはなさけり。
 
こゝにひと人のいはく。
これむかし名だかくきこへたるところなり。
故これたかのみこのおほんともに。
故ありはらのなりひらの中將の。

51
「世の中に 絕えて櫻の さかざらは
春のこゝろは のどけからまし」
世のなかに たえてさくらの さかさらは
春の心は のとけからまし
  といふ歌よめる所なりけり。
今興ある人所に似たる歌よめり、
といふ歌よめる所なりけり。
いまけふある人ところににたるうたよめり。
     

52
「千代へたる 松にはあれど いにしへの
聲の寒さは かはらざりけり」。
千世へたる 松にはあれと いにしへの
聲の寒さは 變らさり鳬
     
  又ある人のよめる、 またある人のよめる。
     

53
「君戀ひて 世をふる宿の うめの花
むかしの香にぞ なほにほひける」
君こひて よをふるやとの 梅の花
むかしの香にそ 猶匂ひける
     
  といひつゝぞ
都のちかづくを悅びつゝのぼる。
かくのぼる人々のなかに
京よりくだりし時に、
皆人子どもなかりき。
いたれりし國にてぞ
子生める者どもありあへる。
みな人船のとまる所に子を抱きつゝ
おりのりす。
これを見て昔の子の母
かなしきに堪へずして、
といひつゝぞ。
都のちかづくをよろこびつゝのぼる。
かくのぼる人々のなかに
京よりくだりし時に
みなひと子どもなかりき。
いたれりし國にてぞ
子うめるものども有あへる。
人みな船のとまる所にいだきつゝ
おりのりす。
これを見てむかしのこのはゝ。
かなしきにたへずして。
     

54
「なかりしも ありつゝ歸る 人の子を
ありしもなくて くるが悲しさ」
なかりしも 有つゝ歸る 人の子を
有しもなくて くるか悲しさ
     
  といひてぞ泣きける。
父もこれを聞きていかゞあらむ。
かうやうの事ども
歌もこのむとてあるにもあらざるべし。
もろこしもこゝも
思ふことに堪へぬ時のわざとか。
こよひ宇土野といふ所にとまる。
といひてぞなきける。
ちゝもこれをきゝていかゞあらん。
かうやうの事ども。
うたもこのむとてあるにもあらざるべし。
もろこしもこゝも。
おもふことにたへぬ時のわざとか。
こよひうどのといふところにとまる。
 

2/10

  十日、
さはることありてのぼらず。
十日。
さはることありてのぼらず。
 

2/11

  十一日、
雨いさゝか降りてやみぬ。
かくてさしのぼるに
東のかたに
山のよこをれるを見て人に問へば
「八幡の宮」といふ。
これを聞きてよろこびて
人々をがみ奉る。
山崎の橋見ゆ。
嬉しきこと限りなし。
 
こゝに相應寺のほとりに、
しばし船をとゞめて
とかく定むる事あり。
この寺の岸のほとりに
柳多くあり。
ある人
この柳のかげの
川の底にうつれるを見て
よめる歌、
十一日。
あめいさゝかふりてやみぬ。
かくてさしのぼるに。
ひんがしのかたに
山のよこほれるをみて人にとへば。
やはたのみやといふ。
これをきゝてよろこびて
ひと〴〵をがみたてまつる。
山ざきのはしみゆ。
うれしきことかぎりなし。
 
こゝに相應寺のほとりに
しばし船をとどめて。
とかくさだむることあり。
このてらのきし・のイほとりに
やなぎをほくあり。
ある人
このやなぎのかげの
河のそこにうつれるを見て
よめる歌。
     

55
「さざれ浪 よするあやをば 靑柳の
かげのいとして 織るかとぞ見る」
さゝれ浪 よするあやをは 靑柳の
影の糸して おるかとそみる
 

2/12

  十二日、山崎にとまれり。 十二日。
やまざきにとまれり。
 

2/13

  十三日、なほ山崎に。 十三日。
なほやまざきに。
 

2/14

  十四日、雨ふる。
けふ車京へとりにやる。
十四日。
あめふる。
けふくるま京へとりにやる。
 

2/15

  十五日、
今日車ゐてきたれり。
船のむつかしさに
船より人の家にうつる。
この人の家よろこべるやうにて
あるじしたり。
このあるじの又あるじのよきを見るに、
うたておもほゆ。
いろいろにかへりごとす。
家の人のいで入り
にくげならずゐやゝかなり。
十五日。
けふくるまゐてきたり。
船のむづかしさに。
ふねより人の家にうつる。
このひとのいへよろこべるやうにて
あるじしたり。
このあるじのまたあるじのよきを見るに
うたておもほゆ。
色々にかへりごとす。
家の人のいでいり
にくげならずゐやゝかなり。
 

2/16

  十六日、
けふのようさりつかた
京へのぼるついでに見れば、
山崎の小櫃の繪も
まがりのおほちの形も
かはらざりけり。
「賣る人の心をぞ知らぬ」とぞいふなる。
 
かくて京へ行くに
島坂にて人あるじしたり。
必ずしもあるまじきわざなり。
立ちてゆきし時よりは
くる時ぞ人はとかくありける。
これにも〈それにもイ有〉かへりごとす。
よるになして京にはいらむと思へば、
急ぎしもせぬ程に月いでぬ。
桂川月あかきにぞわたる。
 
人々のいはく
「この川飛鳥川にあらねば、
淵瀨更にかはらざりけり」
といひて
ある人のよめる歌、
十六日。
けふのようさり[りイナシ]つかた
京へのぼるついでに見れば。
山ざきのこびつのゑも
まかりのおほぢほらイのかたも
かはらざりけり。
うるひとの心をぞしらぬとぞいふなる。
 
かくて京へいくに。
しまざかにてひとあるじしたり。
かならずしもあるまじきわざなり。
たちてゆきしときよりは。
くる[かへるイ]時ぞ人はとかくありける。
これにも・それにもイかへりごとす。
夜るになして京にはいらんとおもへば。
いそぎしもせぬほどに月いでぬ。
かつら河月のあかきにぞわたる。
 
ひと〴〵のいはく。
この川あすかがはにあらねば
ふち瀨さらにかはらざりけり
といひて。
ある人のよめるうた。
     

56
「ひさかたの 月におひたる かつら川
そこなる影も かはらざりけり」。
久かたの 月におひたる 桂川
そこなるかけも かはらさりけり
     
  又ある人のいへる、 またある人のいへる。
     

57
「あまぐもの はるかなりつる 桂川
そでをひでゝも わたりぬるかな」。
あま雲の はるかなりつる 桂川
袖をひてゝも わたりぬるかな
     
  又ある人よめる、 またある人よめる。
     

58
「桂川 わがこゝろにも かよはねど
おなじふかさは ながるべらなり」。
かつら川 わか心にも かよはねと
同し深さに なかるへらなり
     
  みやこのうれしきあまりに
歌もあまりぞおほかる。
夜更けてくれば所々も見えず。
京に入り立ちてうれし。
 
家にいたりて門に入るに、
月あかければ
いとよくありさま見ゆ。
聞きしよりもまして
いふかひなくぞこぼれ破れたる。
家を預けたりつる人の心も荒れたるなりけり。
中垣こそあれ、
ひとつ家のやうなれば
のぞみて預れるなり。
さるはたよりごとに物も絕えず得させたり。
こよひかゝることゝ聲高にものもいはせず、
いとはつらく見ゆれど
志をばせむとす。
 
さて池めいてくぼまり水づける所あり。
ほとりに松もありき。
五年六年のうちに
千年や過ぎにけむ、
かた枝はなくなりにけり。
いま生ひたるぞまじれる。
大かたの皆あれにたれば、
「あはれ」とぞ人々いふ。
思ひ出でぬ事なく思ひ戀しきがうちに、
この家にて生れし女子の
もろともに歸らねば
いかゞはかなしき。
 
船人も皆子〈いイ有〉だかりてのゝしる。
かゝるうちに猶かなしきに堪へずして
密に心知れる人と
いへりけるうた、
京のうれしきあまりに
うたもあまりぞおほかる。
夜ふけてくればところ〴〵も見えず。
京にいりたちてうれし。
 
家にいたりてかどにいるに
月あかければ。
いとよくありさま見ゆ。
きゝしよりもまして
いふかひなくぞこぼれやぶれたる。
家をあづけたりつる人の心もあれたるなりけり。
なかがきこそあれ。
ひとついへのやうなれば。
のぞみてあづかれるなり。
さるはたよりごとに物もたへやずえさせたり。
こよひかかることこゝはだかにものもいはせず。
いとはつらく見ゆれど。
こゝろざしはせんとす。
 
さていけめいてくぼまり水つける所あり。
ほとりに松もありき。
いつとせむとせのうちに
ちとせやすぎにけん。
かたへはなくなりにけり。
いまおひたるぞまじれる。
おほかたのみなあれにたれば。
あはれとぞひと〴〵いふ。
思ひいでぬことなくおもひ戀しきがうちに。
この家にてうまれしをんなごの
もろともにかへらねば。
いかゞはかなしき。
 
ふなびともみなこ子・いイたかりてのゝしる。
かゝるうちに猶かなしきにたへずして。
ひそかに心しれるひとゝ[ひと〲イ]
いへりけるうた。
     

59
「うまれしも かへらぬものを 我がやどに
小松のあるを 見るがかなしさ」
むまれしも 返らぬものを 我宿に
小松のあるを 見るが悲しさ
     
  とぞいへる。
猶あかずやあらむ、またかくなむ、
とぞいへる。
なをあかずやあらん。
またかくなん。
     

60
「見し人の 松のちとせに みましかば
とほくかなしき わかれせましや」。
見し人の 松の千年に みましかは
遠く悲しき わかれせましや
     
  わすれがたくくちをしきことおほかれどえつくさず。
とまれかくまれ疾くやりてむ。
わすれがたくくちをしきことおほかれど。
えつくさず。
とまれかうまれ。
とくやりてん。
     
  土佐日記終 延長八年〈庚寅〉土佐の國にくだりて。
承平五年〈乙未〉京にのぼりて。
左大臣殿
しら河殿におはします御ともにまうでたる。
歌つかふまつれとあればよめる。
     
     百草の はなのかけまて うつしつゝ
 音もかはらぬ 白河の水
     
     本云
     
    土佐日記。以㆓貫之自筆本㆒。
〈故將軍御物希代之靈寶也。
今度密々自㆓小河御所㆒申出云々。〉

依㆓或人數寄深切所望㆒書㆑之。
古代假名猶㆓科蚪㆒。
末愚臨寫有㆓魯魚㆒哉。後見輩察㆑之而已。
     
    明應壬子仲秋候    亞槐藤原 判
     
    右土佐日記以作者自筆轉寫本書
寫雖假名遣相違多不敢私改而
以扶桑拾葉集及流布印本挍合畢