古事記 山部大楯~原文対訳

雲雀の歌 古事記
下巻①
16代 仁徳天皇
女鳥王の歌物語
3 山部大楯
たまきはる
原文 書き下し
(武田祐吉)
現代語訳
(武田祐吉)
其將軍
山部大楯連。
 その將軍いくさのきみ
山部やまべの大楯おほたての連むらじ、
 その時に將軍
山部の大楯おおだてが、
取其女鳥王。 その女鳥の王の、 メトリの王の
所纒御手之
玉釧而。
御手に纏まかせる
玉釧たまくしろを取りて、
御手に纏まいておいでになつた
玉の腕飾を取つて、
與己妻。 おのが妻めに與へき。 自分の妻に與えました。
     
此時之後。 この時の後、 その後に
將爲豐樂之時。 豐の樂あかりしたまはむとする時に、 御宴が開かれようとした時に、
氏氏之女等。
皆朝參。
氏氏の女ども
みな朝參みかどまゐりす。
氏々の女どもが
皆朝廷に參りました。
爾大楯連之妻。 ここに大楯の連が妻、 その時大楯の妻は
以其王之玉釧。
纒于己手
而參赴。
その王の玉釧を、
おのが手に纏まきて
まゐ赴むけり。
かのメトリの王の玉の腕飾を
自分の手に纏いて
參りました。
     
於是
大后石之日賣命。
ここに
大后石いはの日賣の命、
そこで
皇后石いわの姫の命が、
自取
大御酒柏。
みづから
大御酒の栢かしはを取らして、
お手ずから
御酒みきの柏かしわの葉を
お取りになつて、
賜諸氏氏之女等。 諸もろもろ氏氏の女どもに賜ひき。 氏々の女どもに與えられました。
     
爾大后。 ここに大后、 皇后樣は
見知
其玉釧。
その玉釧を
見知りたまひて、
その腕飾を
見知つておいでになつて、
不賜
御酒柏。
御酒の栢を
賜はずて、
大楯の妻には
御酒の柏の葉を
お授けにならないで
乃引退。 すなはち引き退そけて、 お引きになつて、
召出
其夫大楯連以。
詔之。
その夫
大楯の連を召し出でて、
詔りたまはく、
夫の
大楯を召し出して
仰せられましたことは、
     
其王等。 「その王たち、 「あのメトリの王たちは
因无禮而
退賜。
禮ゐやなきに因りて
退けたまへる、
無禮でしたから、
お退けになつたので、
是者無異事耳。 こは異けしき事無きのみ。 別の事ではありません。
     
夫之奴乎。 それの奴や、 しかるにその奴やつは
所纒己君之
御手
玉釧。
おのが君の
御手に纏かせる
玉釧を、
自分の君の
御手に纏いておいでになつた
玉の腕飾を、
於膚温
剥持來。
膚もあたたけきに
剥ぎ持ち來て、
膚はだも温あたたかいうちに
剥ぎ取つて持つて來て、
即與己妻。 おのが妻に與へつること」
と詔りたまひて、
自分の妻に與えたのです」
と仰せられて、
乃給死刑也。 死刑ころすつみに行ひたまひき。 死刑に行われました。
雲雀の歌 古事記
下巻①
16代 仁徳天皇
女鳥王の歌物語
3 山部大楯
たまきはる