紫式部集34 言ひ絶えば:原文対訳・逐語分析

33東風に 紫式部集
第三部
言い寄る夫

34言ひ絶えば
35たけからぬ
原文
(実践女子大本)
現代語訳
(渋谷栄一)
注釈
【渋谷栄一】
「今はものも聞こえじ」と、  「もう何も言いません」と言って、 【聞こえじ】-実践本は、ヤ行下二段活用動詞「聞こゆ」の未然形に「江」が使用されている。
腹立ちたれば、 腹を立てているので、  
笑ひて、返し、 笑って返歌。  
    【包みしもせむ】-主語はわたし。あなたの腹立ちを我慢する必要はない。仲が切れてもよいでしょう、の意。
言ひ絶えば 絶交するならば  
さこそは絶えめ おっしゃるとおり絶交しましょう、  
なにかその なんでその 【なにかその】-係助詞「か」、「せむ」連体形に係る、係結び。反語表現の構文。
みはらの池を みはらの池の堤ではありませんが、 【みはらの池を包み】-「みはらの池」は所在不明。接頭語「み」と解すと、摂津国に「はらの池」がある。『枕草子』「池は」にも出る。「腹立ち」に掛けて引用。
包みしもせむ 腹立ちを包んでいられましょう 「包み」は「堤」との掛詞。「堤」は「池」の縁語。
     

参考異本=後世の二次資料

「家集  紫式部
いひたえばさこそは絶えめなにかそのみはらの池のつつみかもせん」(静嘉堂文庫本「夫木和歌抄」雑五 池 一〇八三六)