枕草子226段 賀茂へまゐる道に

五月四日の 枕草子
中巻下
226段
賀茂へ
八月つごもり

(旧)大系:226段
新大系:209段、新編全集:210段
(以上全て三巻本系列本。しかし後二本の構成は2/3が一致せず混乱を招くので、以後最も索引性に優れる三巻本理論の根本たる『(旧)大系』に準拠すべきと思う)
(旧)全集=能因本:248段
 


 
 賀茂へまゐる道に、田植うとて、女のあたらしき折敷のやうなるものを笠に着て、いと多う立ちて歌を歌ふ、折れ伏すやうに、また、何事するとも見えで後ろざまにゆく、いかなるにかあらむ。

 をかしと見ゆるほどに、ほととぎすをいとなめう歌ふ、聞くにぞ心憂き。

 「ほととぎす、おれ、かやつよ。おれ鳴きてこそ、我は田植うれ」と歌ふを聞くも、いかなる人か、「いたくな鳴きそ」とは言ひけむ。

 仲忠が童生ひ言ひ落とす人と、ほととぎす、鴬に劣ると言ふ人こそ、いとつらう、にくけれ。
 
 

五月四日の 枕草子
中巻下
226段
賀茂へ
八月つごもり