古今和歌集 巻四 秋上:歌の配置・コメント付

巻三:夏 古今和歌集
巻四
秋歌 上
巻五:秋下
目次
  169
敏行
170
貫之
171
不知
172
不知
173
不知
174
不知
175
不知
176
不知
177
友則
178
興風
179
躬恒
180
躬恒
181
素性
182
宗于
183
忠岑
184
不知
185
不知
186
不知
187
不知
188
不知
189
不知
190
躬恒
191
不知
192
不知
193
千里
194
忠岑
195
元方
196
忠房
197
敏行
198
不知
199
不知
200
不知
201
不知
202
不知
203
不知
204
猿?
205
不知
206
元方
207
友則
208
不知
209
不知
210
不知
211
柿?
212
菅根
213
躬恒
214
忠岑
215
猿丸
216
不知
217
不知
218
敏行
219
躬恒
220
不知
221
不知
222
奈良?
223
不知
224
不知
225
朝康
226
遍昭
227
今道
228
敏行
229
美材
230
左大
231
定方
232
貫之
233
躬恒
234
躬恒
235
忠岑
236
忠岑
237
兼覧
238
貞文
239
敏行
240
貫之
241
素性
242
貞文
243
棟梁
244
素性
245
不知
246
不知
247
不知
248
遍昭
   
 
※215は百人一首で猿丸とされているが、ここでは不知扱い。
秋なのに男しかいない暑苦しさ。女性は恋に行った。

 
 

巻四:秋上

   
   0169
詞書 秋立つ日よめる
作者 藤原敏行朝臣
原文 あききぬと めにはさやかに 見えねとも
 風のおとにそ おとろかれぬる
かな あききぬと めにはさやかに みえねとも
 かせのおとにそ おとろかれぬる
   
  0170
詞書 秋たつ日、
うへのをのこともかものかはらに
かはせうえうしけるともにまかりてよめる
作者 つらゆき(紀貫之)
原文 河風の すすしくもあるか うちよする
 浪とともにや 秋は立つらむ
かな かはかせの すすしくもあるか うちよする
 なみとともにや あきはたつらむ
   
  0171
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 わかせこか 衣のすそを 吹返し
 うらめつらしき 秋のはつ風
かな わかせこか ころものすそを ふきかへし
 うらめつらしき あきのはつかせ
   
  0172
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 きのふこそ さなへとりしか いつのまに
 いなはそよきて 秋風の吹く
かな きのふこそ さなへとりしか いつのまに
 いなはそよきて あきかせのふく
   
  0173
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 秋風の 吹きにし日より 久方の
 あまのかはらに たたぬ日はなし
かな あきかせの ふきにしひより ひさかたの
 あまのかはらに たたぬひはなし
   
  0174
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 久方の あまのかはらの わたしもり
 君わたりなは かちかくしてよ
かな ひさかたの あまのかはらの わたしもり
 きみわたりなは かちかくしてよ
   
  0175
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 天河 紅葉をはしに わたせはや
 たなはたつめの 秋をしもまつ
かな あまのかは もみちをはしに わたせはや
 たなはたつめの あきをしもまつ
   
  0176
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 こひこひて あふ夜はこよひ あまの河
 きり立ちわたり あけすもあらなむ
かな こひこひて あふよはこよひ あまのかは
 きりたちわたり あけすもあらなむ
   
  0177
詞書 寛平御時、
なぬかの夜うへにさふらふをのことも
歌たてまつれとおほせられける時に、
人にかはりてよめる
作者 とものり(紀友則)
原文 天河 あさせしら浪 たとりつつ
 わたりはてねは あけそしにける
かな あまのかは あさせしらなみ たとりつつ
 わたりはてねは あけそしにける
   
  0178
詞書 おなし御時きさいの宮の歌合のうた
作者 藤原おきかせ(藤原興風)
原文 契りけむ 心そつらき たなはたの
 年にひとたひ あふはあふかは
かな ちきりけむ こころそつらき たなはたの
 としにひとたひ あふはあふかは
   
  0179
詞書 なぬかの日の夜よめる
作者 凡河内みつね(凡河内躬恒)
原文 年ことに あふとはすれと たなはたの
 ぬるよのかすそ すくなかりける
かな としことに あふとはすれと たなはたの
 ぬるよのかすそ すくなかりける
   
  0180
詞書 なぬかの日の夜よめる
作者 凡河内みつね(凡河内躬恒)
原文 織女に かしつる糸の 打ちはへて
 年のをなかく こひやわたらむ
かな たなはたに かしつるいとの うちはへて
 としのをなかく こひやわたらむ
   
  0181
詞書 題しらす
作者 そせい(素性法師)
原文 こよひこむ 人にはあはし たなはたの
 ひさしきほとに まちもこそすれ
かな こよひこむ ひとにはあはし たなはたの
 ひさしきほとに まちもこそすれ
   
  0182
詞書 なぬかの夜のあかつきによめる
作者 源むねゆきの朝臣(源宗于)
原文 今はとて わかるる時は 天河
 わたらぬさきに そてそひちぬる
かな いまはとて わかるるときは あまのかは
 わたらぬさきに そてそひちぬる
   
  0183
詞書 やうかの日よめる
作者 みふのたたみね(壬生忠岑)
原文 けふよりは いまこむ年の きのふをそ
 いつしかとのみ まちわたるへき
かな けふよりは いまこむとしの きのふをそ
 いつしかとのみ まちわたるへき
   
  0184
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 このまより もりくる月の 影見れは
 心つくしの 秋はきにけり
かな このまより もりくるつきの かけみれは
 こころつくしの あきはきにけり
   
  0185
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 おほかたの 秋くるからに わか身こそ
 かなしき物と 思ひしりぬれ
かな おほかたの あきくるからに わかみこそ
 かなしきものと おもひしりぬれ
   
  0186
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 わかために くる秋にしも あらなくに
 むしのねきけは まつそかなしき
かな わかために くるあきにしも あらなくに
 むしのねきけは まつそかなしき
   
  0187
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 物ことに 秋そかなしき もみちつつ
 うつろひゆくを かきりと思へは
かな ものことに あきそかなしき もみちつつ
 うつろひゆくを かきりとおもへは
   
  0188
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 ひとりぬる とこは草はに あらねとも
 秋くるよひは つゆけかりけり
かな ひとりぬる とこはくさはに あらねとも
 あきくるよひは つゆけかりけり
   
  0189
詞書 これさたのみこの家の歌合のうた
作者 よみ人しらす
原文 いつはとは 時はわかねと 秋のよそ
 物思ふ事の かきりなりける
かな いつはとは ときはわかねと あきのよそ
 ものおもふことの かきりなりける
   
  0190
詞書 かむなりのつほに人人あつまりて
秋のよをしむ歌よみけるついてによめる
作者 みつね(凡河内躬恒)
原文 かくはかり をしと思ふ夜を いたつらに
 ねてあかすらむ 人さへそうき
かな かくはかり をしとおもふよを いたつらに
 ねてあかすらむ ひとさへそうき
   
  0191
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 白雲に はねうちかはし とふかりの
 かすさへ見ゆる 秋のよの月
かな しらくもに はねうちかはし とふかりの
 かすさへみゆる あきのよのつき
   
  0192
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 さ夜なかと 夜はふけぬらし かりかねの
 きこゆるそらに 月わたる見ゆ
かな さよなかと よはふけぬらし かりかねの
 きこゆるそらに つきわたるみゆ
   
  0193
詞書 これさたのみこの家の歌合によめる
作者 大江千里
原文 月見れは ちちに物こそ かなしけれ
 わか身ひとつの 秋にはあらねと
かな つきみれは ちちにものこそ かなしけれ
 わかみひとつの あきにはあらねと
コメ 百人一首23
つきみれば ちぢにものこそ かなしけれ
 わがみひとつの あきにはあらねど
/月見れば 千々に物こそ 悲しけれわが身ひとつの
 秋にはあらねど
   
  0194
詞書 これさたのみこの家の歌合によめる
作者 たたみね(壬生忠岑)
原文 久方の 月の桂も 秋は猶も
 みちすれはや てりまさるらむ
かな ひさかたの つきのかつらも あきはなほ
 もみちすれはや てりまさるらむ
   
  0195
詞書 月をよめる
作者 在原元方
原文 秋の夜の 月のひかりし あかけれは
 くらふの山も こえぬへらなり
かな あきのよの つきのひかりし あかけれは
 くらふのやまも こえぬへらなり
   
  0196
詞書 人のもとにまかれりける夜、
きりきりすのなきけるをききてよめる
作者 藤原忠房
原文 蟋蟀 いたくななきそ 秋の夜の
 長き思ひは 我そまされる
かな きりきりす いたくななきそ あきのよの
 なかきおもひは われそまされる
   
  0197
詞書 これさたのみこの家の歌合のうた
作者 としゆきの朝臣(藤原敏行)
原文 秋の夜の あくるもしらす なくむしは
 わかこと物や かなしかるらむ
かな あきのよの あくるもしらす なくむしは
 わかことものや かなしかるらむ
   
  0198
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 あき萩も 色つきぬれは きりきりす
 わかねぬことや よるはかなしき
かな あきはきも いろつきぬれは きりきりす
 わかねぬことや よるはかなしき
   
  0199
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 秋の夜は つゆこそことに さむからし
 草むらことに むしのわふれは
かな あきのよは つゆこそことに さむからし
 くさむらことに むしのわふれは
   
  0200
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 君しのふ 草にやつるる ふるさとは
 松虫のねそ かなしかりける
かな きみしのふ くさにやつるる ふるさとは
 まつむしのねそ かなしかりける
   
  0201
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 秋ののに 道もまとひぬ 松虫の
 こゑする方に やとやからまし
かな あきののに みちもまとひぬ まつむしの
 こゑするかたに やとやからまし
   
  0202
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 あきののに 人松虫の こゑすなり
 我かとゆきて いさとふらはむ
かな あきののに ひとまつむしの こゑすなり
 われかとゆきて いさとふらはむ
   
  0203
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 もみちはの ちりてつもれる わかやとに
 誰を松虫 ここらなくらむ
かな もみちはの ちりてつもれる わかやとに
 たれをまつむし ここらなくらむ
   
  0204
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす(猿丸説あり)
原文 ひくらしの なきつるなへに 日はくれぬと
 思ふは山の かけにそありける
かな ひくらしの なきつるなへに ひはくれぬと
 おもふはやまの かけにそありける
   
  0205
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 ひくらしの なく山里の ゆふくれは
 風よりほかに とふ人もなし
かな ひくらしの なくやまさとの ゆふくれは
 かせよりほかに とふひともなし
   
  0206
詞書 はつかりをよめる
作者 在原元方
原文 まつ人に あらぬものから はつかりの
 けさなくこゑの めつらしきかな
かな まつひとに あらぬものから はつかりの
 けさなくこゑの めつらしきかな
   
  0207
詞書 これさたのみこの家の歌合のうた
作者 とものり(紀友則)
原文 秋風に はつかりかねそ きこゆなる
 たかたまつさを かけてきつらむ
かな あきかせに はつかりかねそ きこゆなる
 たかたまつさを かけてきつらむ
   
  0208
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 わかかとに いなおほせとりの なくなへに
 けさ吹く風に かりはきにけり
かな わかかとに いなおほせとりの なくなへに
 けさふくかせに かりはきにけり
   
  0209
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 いとはやも なきぬるかりか 白露の
 いろとる木木も もみちあへなくに
かな いとはやも なきぬるかりか しらつゆの
 いろとるききも もみちあへなくに
   
  0210
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 春霞 かすみていにし かりかねは
 今そなくなる 秋きりのうへに
かな はるかすみ かすみていにし かりかねは
 いまそなくなる あききりのうへに
   
  0211
詞書 題しらす/このうたは、
ある人のいはく、柿本の人まろかなりと
作者 よみ人しらす
(一説、柿本の人まろ(柿本人麻呂))
原文 夜をさむみ 衣かりかね なくなへに
 萩のしたはも うつろひにけり
かな よをさむみ ころもかりかね なくなへに
 はきのしたはも うつろひにけり
   
  0212
詞書 寛平御時きさいの宮の歌合のうた
作者 藤原菅根朝臣
原文 秋風に こゑをほにあけて くる舟は
 あまのとわたる かりにそありける
かな あきかせに こゑをほにあけて くるふねは
 あまのとわたる かりにそありける
   
  0213
詞書 かりのなきけるをききてよめる
作者 みつね(凡河内躬恒)
原文 うき事を 思ひつらねて かりかねの
 なきこそわたれ 秋のよなよな
かな うきことを おもひつらねて かりかねの
 なきこそわたれ あきのよなよな
   
  0214
詞書 これさたのみこの家の歌合のうた
作者 たたみね(壬生忠岑)
原文 山里は 秋こそことに わひしけれ
 しかのなくねに めをさましつつ
かな やまさとは あきこそことに わひしけれ
 しかのなくねに めをさましつつ
   
  0215
詞書 これさたのみこの家の歌合のうた
作者 よみ人しらす(※)
原文 おく山に 紅棄ふみわけ なく鹿の
 こゑきく時そ 秋は悲しき
かな おくやまに もみちふみわけ なくしかの
 こゑきくときそ あきはかなしき
コメ 百人一首5(猿丸大夫)。
おくやまに もみぢふみわけ なくしかの
 こゑきくときぞ あきはかなしき
/奥山に 紅葉踏みわけ 鳴く鹿の
 声きく時ぞ 秋は悲しき
   
  0216
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 秋はきに うらひれをれは あしひきの
 山したとよみ しかのなくらむ
かな あきはきに うらひれをれは あしひきの
 やましたとよみ しかのなくらむ
   
  0217
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 秋はきを しからみふせて なくしかの
 めには見えすて おとのさやけさ
かな あきはきを しからみふせて なくしかの
 めにはみえすて おとのさやけさ
   
  0218
詞書 これさたのみこの家の歌合によめる
作者 藤原としゆきの朝臣(藤原敏行)
原文 あきはきの 花さきにけり 高砂の
 をのへのしかは 今やなくらむ
かな あきはきの はなさきにけり たかさこの
 をのへのしかは いまやなくらむ
   
  0219
詞書 むかしあひしりて侍りける人の、秋ののにあひて物かたりしけるついてによめる
作者 みつね(凡河内躬恒)
原文 秋はきの ふるえにさける 花見れは
 本の心は わすれさりけり
かな あきはきの ふるえにさける はなみれは
 もとのこころは わすれさりけり
   
  0220
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 あきはきの したは色つく 今よりや
 ひとりある人の いねかてにする
かな あきはきの したはいろつく いまよりや
 ひとりあるひとの いねかてにする
   
  0221
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 なきわたる かりの涙や おちつらむ
 物思ふやとの 萩のうへのつゆ
かな なきわたる かりのなみたや おちつらむ
 ものおもふやとの はきのうへのつゆ
   
  0222
詞書 題しらす/ある人のいはく、
この歌はならのみかとの御歌なりと
作者 よみ人しらす
(一説、ならのみかと(平城天皇?))
原文 萩の露 玉にぬかむと とれはけぬ
 よし見む人は 枝なから見よ
かな はきのつゆ たまにぬかむと とれはけぬ
 よしみむひとは えたなからみよ
   
  0223
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 をりて見は おちそしぬへき 秋はきの
 枝もたわわに おけるしらつゆ
かな をりてみは おちそしぬへき あきはきの
 えたもたわわに おけるしらつゆ
   
  0224
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 萩か花 ちるらむをのの つゆしもに
 ぬれてをゆかむ さ夜はふくとも
かな はきかはな ちるらむをのの つゆしもに
 ぬれてをゆかむ さよはふくとも
   
  0225
詞書 是貞のみこの家の歌合によめる
作者 文屋あさやす(文屋朝康)
原文 秋ののに おくしらつゆは 玉なれや
 つらぬきかくる くものいとすち
かな あきののに おくしらつゆは たまなれや
 つらぬきかくる くものいとすち
   
  0226
詞書 題しらす
作者 僧正へんせう(遍昭、良岑宗貞)
原文 名にめてて をれるはかりそ をみなへし
 我おちにきと 人にかたるな
かな なにめてて をれるはかりそ をみなへし
 われおちにきと ひとにかたるな
   
  0227
詞書 僧正遍昭かもとにならへまかりける時に、
をとこ山にてをみなへしを見てよめる
作者 ふるのいまみち(布留今道)
原文 をみなへし うしと見つつそ ゆきすくる
 をとこ山にし たてりと思へは
かな をみなへし うしとみつつそ ゆきすくる
 をとこやまにし たてりとおもへは
   
  0228
詞書 是貞のみこの家の歌合のうた
作者 としゆきの朝臣(藤原敏行)
原文 秋ののに やとりはすへし をみなへし
 名をむつましみ たひならなくに
かな あきののに やとりはすへし をみなへし
 なをむつましみ たひならなくに
   
  0229
詞書 題しらす
作者 をののよし木
原文 をみなへし おほかるのへに やとりせは
 あやなくあたの 名をやたちなむ
かな をみなへし おほかるのへに やとりせは
 あやなくあたの なをやたちなむ
   
  0230
詞書 朱雀院のをみなへしあはせに
よみてたてまつりける
作者 左のおほいまうちきみ
(左大臣。藤原時平?)
原文 をみなへし 秋のの風に うちなひき
 心ひとつを たれによすらむ
かな をみなへし あきののかせに うちなひき
 こころひとつを たれによすらむ
   
  0231
詞書 朱雀院のをみなへしあはせに
よみてたてまつりける
作者 藤原定方朝臣
原文 秋ならて あふことかたき をみなへし
 あまのかはらに おひぬものゆゑ
かな あきならて あふことかたき をみなへし
 あまのかはらに おひぬものゆゑ
   
  0232
詞書 朱雀院のをみなへしあはせに
よみてたてまつりける
作者 つらゆき(紀貫之)
原文 たか秋に あらぬものゆゑ をみなへし
 なそ色にいてて またきうつろふ
かな たかあきに あらぬものゆゑ をみなへし
 なそいろにいてて またきうつろふ
   
  0233
詞書 朱雀院のをみなへしあはせに
よみてたてまつりける
作者 みつね(凡河内躬恒)
原文 つまこふる しかそなくなる 女郎花
 おのかすむのの 花としらすや
かな つまこふる しかそなくなる をみなへし
 おのかすむのの はなとしらすや
   
  0234
詞書 朱雀院のをみなへしあはせに
よみてたてまつりける
作者 みつね(凡河内躬恒)
原文 女郎花 ふきすきてくる 秋風は
 めには見えねと かこそしるけれ
かな をみなへし ふきすきてくる あきかせは
 めにはみえねと かこそしるけれ
   
  0235
詞書 朱雀院のをみなへしあはせに
よみてたてまつりける
作者 たたみね(壬生忠岑)
原文 人の見る 事やくるしき をみなへし
 秋きりにのみ たちかくるらむ
かな ひとのみる ことやくるしき をみなへし
 あききりにのみ たちかくるらむ
   
  0236
詞書 朱雀院のをみなへしあはせに
よみてたてまつりける
作者 たたみね(壬生忠岑)
原文 ひとりのみ なかむるよりは 女郎花
 わかすむやとに うゑて見ましを
かな ひとりのみ なかむるよりは をみなへし
 わかすむやとに うゑてみましを
   
  0237
詞書 ものへまかりけるに、人の家に
をみなへしうゑたりけるを見てよめる
作者 兼覧王
原文 をみなへし うしろめたくも 見ゆるかな
 あれたるやとに ひとりたてれは
かな をみなへし うしろめたくも みゆるかな
 あれたるやとに ひとりたてれは
   
  0238
詞書 寛平御時、
蔵人所のをのこともさかのに
花見むとてまかりたりける時、
かへるとてみな歌よみけるついてによめる
作者 平さたふん(平貞文)
原文 花にあかて なにかへるらむ をみなへし
 おほかるのへに ねなましものを
かな はなにあかて なにかへるらむ をみなへし
 おほかるのへに ねなましものを
   
  0239
詞書 これさたのみこの家の歌合によめる
作者 としゆきの朝臣(藤原敏行)
原文 なに人か きてぬきかけし ふちはかま
 くる秋ことに のへをにほはす
かな なにひとか きてぬきかけし ふちはかま
 くるあきことに のへをにほはす
   
  0240
詞書 ふちはかまをよみて人につかはしける
作者 つらゆき(紀貫之)
原文 やとりせし 人のかたみか ふちはかま
 わすられかたき かににほひつつ
かな やとりせし ひとのかたみか ふちはかま
 わすられかたき かににほひつつ
   
  0241
詞書 ふちはかまをよめる
作者 そせい(素性法師)
原文 ぬししらぬ かこそにほへれ 秋ののに
 たかぬきかけし ふちはかまそも
かな ぬししらぬ かこそにほへれ あきののに
 たかぬきかけし ふちはかまそも
   
  0242
詞書 題しらす
作者 平貞文
原文 今よりは うゑてたに見し 花すすき
 ほにいつる秋は わひしかりけり
かな いまよりは うゑてたにみし はなすすき
 ほにいつるあきは わひしかりけり
   
  0243
詞書 寛平御時きさいの宮の歌合のうた
作者 ありはらのむねやな(在原棟梁)
原文 秋の野の 草のたもとか 花すすき
 ほにいててまねく 袖と見ゆらむ
かな あきののの くさのたもとか はなすすき
 ほにいててまねく そてとみゆらむ
   
  0244
詞書 寛平御時きさいの宮の歌合のうた
作者 素性法師
原文 我のみや あはれとおもはむ きりきりす
 なくゆふかけの やまとなてしこ
かな われのみや あはれとおもはむ きりきりす
 なくゆふかけの やまとなてしこ
   
  0245
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 みとりなる ひとつ草とそ 春は見し
 秋はいろいろの 花にそありける
かな みとりなる ひとつくさとそ はるはみし
 あきはいろいろの はなにそありける
   
  0246
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 ももくさの 花のひもとく 秋ののを
 思ひたはれむ 人なとかめそ
かな ももくさの はなのひもとく あきののを
 おもひたはれむ ひとなとかめそ
   
  0247
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 月草に 衣はすらむ あさつゆに
 ぬれてののちは うつろひぬとも
かな つきくさに ころもはすらむ あさつゆに
 ぬれてののちは うつろひぬとも
   
  0248
詞書 仁和のみかとみこにおはしましける時、
ふるのたき御覧せむとて
おはしましけるみちに
遍昭かははの家にやとりたまへりける時に、
庭を秋ののにつくりておほむ物かたりのついてによみてたてまつりける
作者 僧正遍昭
原文 さとはあれて 人はふりにし やとなれや
 庭もまかきも 秋ののらなる
かな さとはあれて ひとはふりにし やとなれや
 にはもまかきも あきののらなる