枕草子134段 などて官得はじめたる六位の笏に

頭の弁の御もと 枕草子
中巻上
134段
官得はじめ
故殿の

(旧)大系:134段
新大系:127段、新編全集:128段
(以上全て三巻本系列本。しかし後二本の構成は2/3が一致せず混乱を招くので、以後、三巻本理論の根本たる『(旧)大系』に準拠すべきと思う)
(旧)全集=能因本:137段
 


 
 「などて、官得はじめたる六位の笏に、職の御曹司の辰巳の隅の築土の板はせしぞ。さらば、西東のをもせよかし」などいふことをいひ出でて、
 「あぢきなきことどもを。衣などにすずろなる名どもをつけけむ、いとあやし。衣のなかに、細長はさもいひつべし。なぞ、汗衫は尻長といへかし」
 「男の童の着たるやうに、なぞ、唐衣は短衣といへかし」
 「されど、それは唐土の人の着るものなれば」
 「うへの衣、うへの袴は、さもいふべし。下襲よし。大口、またながさよりは口ひろければ、さもありなむ」
 「袴、いとあぢきなし。指貫は、なぞ、足の衣といふべけれ。もしは、さやうのものをば袋といへかし」など、よろづのことをいひののしるを、
 「いで、あな、かしがまし。今はいはじ。寝給ひね」といふ、
 いらへに、夜居の僧の、「いとわろからむ。夜一夜こそ、なほ宣はめ」と、にくしと思ひたりし声ざまにていひたりしこそ、をかしかりにそへておどろかれにしか。