紫式部集80 ましもなほ:原文対訳・逐語分析

79誰が里も 紫式部集
第七部
栄花と追憶

80ましもなほ
異本71
81名に高き
原文
(実践女子大本)
現代語訳
(渋谷栄一)
注釈
【渋谷栄一】
都の方へとて  都の方へ帰るというので、  
鹿蒜山越えけるに、 鹿蒜山を越えた時に、 【鹿蒜山】-越前国の歌枕。
呼坂といふなる所の 呼坂という所の  
わりなき懸け路に、 とてもひどく険しい路で、 【懸け路】-険しい山道。桟道。
輿もかきわづらふを、 輿もかき難じているのを、  
恐ろしと思ふに、 恐いと思っていると、  
猿の木の葉の中より、 猿が木々の葉の中から、  
いと多く出で来たれば、 たいそうたくさん出て来たので、  
     
ましもなほ 猿よ、 【まし】-「猿」と「まし」(二人称)の掛詞。
遠方人の おまえもやはり遠方人として 【なほ】-「なを」は平安の仮名遣い。
声交はせ 声を掛け合えよ 【声】-「声」と「呼ぶ」は縁語。
われ越しわぶる わたしが越えかねている  
たごの呼坂 たごの呼坂で 【たごの呼坂】-現在地不明。
     

参考異本=後世の二次資料

 「紫式部
ましらなくをちかた人に声かはせわれこしわぶるたごのよびさか
 此歌は、宮このかたへとて帰山をこえけるに、よびさかといふ所のいとわりなきかけぢをこしもかきわづらふ、おそろしとおもふに、さるのこのはの中よりおほくいできたればよみけると云々(静嘉堂文庫本「夫木和歌抄」雑三 坂 九二四六)