紫式部日記 15 内裏より御佩刀もて参れる 逐語分析

出産直後の渡殿 紫式部日記
第一部
御佩刀
御湯殿の儀式
目次
冒頭
1 内裏より御佩刀
2 禄なども賜ひける
3 御臍の緒は殿の上
4 御乳付は橘の三位
5 御乳母もとよりさぶらひ

 

原文
(黒川本)
現代語訳
(渋谷栄一)
〈適宜当サイトで改め〉
注釈
【渋谷栄一】
〈適宜当サイトで補注〉

1

 内裏より
御佩刀(みはかし)
もて参れる
頭中将頼定、
 内裏から
御佩刀を
持って参上した
頭中将源頼定は、
【御佩刀】-天皇から新皇子に賜る守り刀。御剣。
【頭中将頼定】-前出「左の頭中将」。源頼定
今日
伊勢の奉幣使、
帰るほど、
今日は
伊勢神宮への奉幣使が
出立する日なので、
【伊勢の奉幣使】-底本「いと」。諸本「伊勢」と校訂する。例年九月十一日に伊勢神宮に奉幣使が発遣される。

昇るまじ
ければ、
頼定は
昇殿することはできない
だろうから、
土御門殿邸から内裏に帰参した時に出産の触穢によって〈この部分、訳から注に移した〉

立ちながらぞ、
殿は清涼殿の東庭に
立ったままで、
【立ちながら】-立ったままであれば穢れに触れないとされていた。源氏物語の夕顔巻で、源氏が夕顔の死に遭遇した後の病臥中、頭中将が見舞いに来た場面の応対を参照。〈→大殿の君達参りたまへど、頭中将ばかりを「立ちながら、こなたに入りたまへ」とのたまひて、〈源氏は〉御簾の内ながらのたまふ〉
平らかにおはします
御ありさま
奏せさせたまふ。
母子ともに
御健康でいらっしゃることを
奏上させなさる。
 

2

禄なども賜ひける、 禄なども賜わったが、  
そのことは見ず。 そのことは見ていない。  

3

 御臍(おんほぞ)の緒は
殿の上。
 御臍の緒を切る役は
殿の北の方である。
〈殿の上-藤原道長の正室源倫子。彰子の母。度々出てくる〉

4

御乳付(おんちつけ)は
橘の三位<徳子>。
御乳付け役は
橘三位徳子である。

〈乳付(ちつけ・ちちつけ):新生児に最初に乳を含ませること。またその乳母。ただの乳母より格上。よって位を示す〉

【橘の三位】-橘徳子。傍注「つな子」は「徳」の誤読。一条天皇〈つまり赤子の父〉の乳母。藤原有国〈従二位〉の妻。

5

御乳母(おんめのと)、
もとよりさぶらひ、
むつましう
心よいかたとて、
大左衛門のおもと
仕うまつる。
御乳母は、
以前からお仕えしていて、
親しく
気立ての良い人として、
大左衛門のおもとが
お就き申す。



【大左衛門のおもと】-中宮付きの女房。