伊勢物語 28段:あふご形見 あらすじ・原文・現代語訳

第27段
たらひの影
伊勢物語
第一部
第28段
あふごかたみ
第29段
花の賀

 
 目次
 

 ・あらすじ(大意)
 

 ・原文
 

 ・現代語訳(逐語解説)
 
 
 
 

あらすじ

 
 
 むかし、色好みの女が、出て行ったことをうけて、歌を詠んだ。
 (色好み:色んなことが好きな女。25段の「色好みなる女」と同じで小町)
 

 などてかく あふごかたみに なりにけむ 水もらさじと むすびしものを

 →このように 会った形見に するために 水も漏らさず 固く結んだ約束を
 

 水も漏らさずとは、ぴったりくっついて親密なこと。結ぶのは約束。
 つまりここでの「形見」は、二人で結んだ約束。それを記したのがこの歌。
 
 この段と同旨の歌が、37段(下紐)で同じ「色好みなりける女」の歌。
 「ふたりして 結びし紐を ひとりして あひ見るまでは 解かじとぞ思ふ」
 

 そして会えても、上手くいかないというのが、53段「あひがたき女」以降の話。
 
 ~
 

 ここに業平は関係ない。古今の業平認定は全て誤り。
 女×色好み=業平! と安直に見ただけ。
 
 だから「友」「人」とすれば、内容がいくら女物でも、男の話と解する。
 それが例えば、9段(東下り)や、44段(馬の餞)。
 いずれも唐衣・裳という女物の服が出てきているのに、女と解さない。
 だから三河にブラブラした男達が業平が突如妻を懐かしむ歌で泣いたり、地方に行く男に女物の服を贈るとかいう、わけのわからない話になる。
 
 
 
 

原文

男女
及び
和歌
定家本 武田本
(定家系)
朱雀院塗籠本
(群書類従本)
  第28段 あふごかたみ
   
 むかし、色好みなりける女、  むかし、いろごのみなりける女、  昔いろごのみなりける女。
  出でていにければ、 いでゝいにければ、 いでていにければ。
      いひがひなくて。男
       

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 などてかく
 あふごかたみに
 なりにけむ
 などてかく
 あふごかたみに
 なりにけむ
 なとてかく
 あふこかたみと(とも一本)
 成ぬらん
  水漏らさじと
  結びしものを
  水もらさじと
  むすびしものを
  水もらさしと
  契し(むすひ一本)物を
   

現代語訳

 
 

むかし、色好みなりける女、出でていにければ、
 
 などてかく あふごかたみに なりにけむ
  水漏らさじと 結びしものを

 
むかし、色好みなりける女、
 むかし、色好みの女(小町)が、
 

 色好み
 :風流・みやびを解すること。
 ここでは、多情という意味ではない。
 

 25段にも「色好みなる女」とあり、
 これは古今の認定通り、小町と見て差し支えないから、ここでも小町。
 この物語では、特徴的な言葉は明確にかけて書かれている。
 

出でていにければ、
 出て行ってしまったが、
 

 (△いひがひなくて。男
 →これは塗籠独自の補足。つまり違う推定が働く)
 
 

などてかく
 どうしてこのように(なったか)、
 このように書くに至ったか。
 

 などて
 ①どうして(疑問)
 ②などと(提示)
 

 かく
 ①このように
 ②書く
 ③理由。かくかくしかじか。
 

 これらをまとめた表現。
 その理由は以下の通り。
 

あふごかたみに(△と)
 会った時の形見に
 

 あふご 【会ふ期】
 :会った時
 

 かたみ【形見】
 : 思い出の種になるもの。記念に残された品物。
 人が死んだ場合、遺された遺品になる。
 つまり、非常に遠い所への別れを意味している(秋田?)。
 

なりにけむ(△成ぬらん)
 なるだろう
(するために)
 

水漏らさじと
 水も洩らさないほど
 
 水も漏らさない
 :ぴったりくっついて、とても(親)密なこと。
 

むす(▲結)びしものを(△契りし物を)
 固い約束を結んだことと
 

 むすびとは、水と合わせて、左右の手のひらを合わせて水をすくうという意味もある(掬び)。
 加えて、文章の最後の言葉。