枕草子77段 まいて臨時の祭の調楽などは

内裏の局 枕草子
上巻中
77段
臨時の祭
職の御曹司

(旧)大系:77段
新大系:73段、新編全集:73段末二段
(以上全て三巻本系列本。しかし後二本の構成は2/3が一致せず、混乱を招くので、三巻本理論の根本たる『(旧)大系』に準拠すべきと思う)
(旧)全集=能因本:79段
 


 
 まいて、臨時の祭の調楽などはいみじうをかし。
 主殿寮の官人、長き松をたかくともして、頸は引き入れていけば、さきはしつけつばかりなるに、をかしう遊び、笛吹き立てて、心ことに思ひたるに、君達日の装束して立ちどまり、物いひなどするに、供の随身どもの、前駆を忍びやかにみじかう、おのが君たちの料に追ひたるも、遊びにまじりてつねに似ずをかしう聞こゆ。
 

 なほあげながら帰るを待つに、君たちの声にて、「荒田に生ふるとみ草の花」とうたひたる、このたびはいますこしをかしきに、いかなるまめ人にかあらむ、すくずくしうさしあゆみて往ぬるもあれば、わらふを、「しばしや。『など、さ、夜を捨てていそぎ給ふ』とあり」などいへば、心地などやあしからむ、倒れぬばかり、もし人などや追ひて捕らふると見ゆるまで、まどひ出づるもあめり。