紫式部集 古本系の意義~定家本との対照から定家公向け編集本

総論 紫式部集
定家本と古本系
全文

 

 ここでは紫式部集の写本で対立する、①定家本と②古本系の配置を視覚的に対照し意義を論ずる。

 結論、①は紫式部自撰(祖本)の写本、②は秘蔵した①を前後類纂した他撰集と解する。つまり現状定家本が最古本。

 

 両本の記述配置、②のみ「日記歌」という分類が末尾にあること、さらに両本の代表本が蔵されていた情況(①は実践女子大本という私立の女子大=これ自体顕著な特徴の筆頭写本、②は近衛家の陽明文庫本と宮内庁本)を総合分析すると、定家が写本を秘蔵していた状態(手は定家子女というと難癖つけるから定家)で、勅撰歌集のように紫式部集の取りまとめとし既にある資料の供出を指示され、その過程で公と御用学者が受け売りで意見し、苦肉の策として、公向けに前後編集追加し提供した羊頭狗肉、それが②の古本。その過程で定家が憤りを覚えたことは、古本末尾「日記歌」末尾一首の「題しらず」から間違いない。つまり羊頭が前半の両本共通部分で、犬が後半操作した部分。

 さらなる根拠を以下に示す。

 

目次

古本系の断片作為性(類纂構造)と定家本の一貫した前後対応性

 ア古本のみ「日記歌」区分+日記歌末尾の「題知らず」=他撰

 イ定家本独自2首は前後対応あるが、古本独自2首は前後対応なし

古本系への定家関与性:古本の原本は定家本で定家がやむなく編集

 ア定家本各部分が古本系でのみ綺麗にまとまる→3・4黄色列参照

 イ両本相違部分前後の対句:古本には対句がない+非紫式部的対句

  定家本の対句はこの部分も全編同様に豊富→原本と見るのが自然

  古本の特有部分には対句がほぼ皆無→編集が原因と見るのが自然

  古本特有部分で生じる対句に定家の編集メッセージ性が見られる

 ウ定家が歌の命令で公に抵抗して謹慎を受けた逸話→前例動機あり

定家本配列:5とリンク
古本系配列:6とリンク
定家本対句検証:リンクで全文に通じさせた
古本系対句検証:5とリンク

 

 

 現状、②古本系の陽明文庫本が、現代の主力本である新大系・集成に底本として採用されるが、その論拠は「日記歌」という②のみにある最大の外形的編集性を無視し、それがない①定家本の実践女子大本につき、②より大きな編集や②を編集したものと仮定する、一方的不当評価による。

 

 その背景には、公私の捉え方の違い、端的に言えば、公が第一で私個人はそれ以下、あたかも先に書かれ天皇の蛮行を諫める古事記ではなく、集団で書かれた天皇は神と仲良し日本書紀を正とみなす大政翼賛会的思考様式がある。

 

 古本系を採用する集成は、専門歌人(それはどういう立場か?)では屏風歌や歌合が厚いのに式部集には一切ないことから、「和泉式部や赤染衛門のように歌人として世に認められ、活躍する機会がなかったことを物語るのであろう」(194p)としており、ここに典型的に公重視の目線の姿勢が表される。しかし紫式部は古を重んじる者として、道化(これ見よがしの社交)にいそしむような人は日記で強く軽蔑する(定家がそれらへの出席を拒んだのも同旨と解する)。つまりそれを超昭和社会でも、拒めるだけの立場がある、周りと違う特別な存在。自分の意志を表現できる存在。それが千年続く感覚にも沿うだろう。当初は男でも道化扱い(伊勢81段)だったのにまして女。日記で道長が集団で来て「屏風」を取り払って歌を求めてきた恐ろしかるべき夜の描写もそれを裏付けている。全集も日記最後で夜戸を叩いてきた人の歌で「式部が道長の召人であったことを思わせる」(215P)としている。これが日本目線。しかし召人(夜の世話係)はこじつけであり、誰かわかっていたら戸を開けたというのも根拠がない。根拠がないから「思わせる」。大体主の声がわからないとは馬か。馬でもわかる。

 現代でも和歌〇だったかの半裸踊りにチップ挿し込みで「世界でも活躍」するダンサーと言う政治家の感覚つまりジェンダーギャップ最凶の国で、主体的でも何でもない屏風歌如きを「活躍する機会」というのは人麻呂と家持を逆転させるが如くの本末転倒。

 

 定家本の代表実践女子大本が私大で女子大であることや、古本系の代表が他に宮内庁書陵部本であること(集成190P)、陽明文庫とは近衛家の設立した文庫であることも、両本の境遇を象徴しており、紫式部の思考に近い境遇は当然前者であるが、これは本の内容と無関係ではないことを、以下で証明する。

 

 

 

古本系の断片作為性(類纂構造)と定家本の一貫した前後対応性

 

 

 古本系が公的意図で原紫式部集を編集した(配列を出し入れし類纂的に並び替えた)という根拠、それは定家本との決定的な違いと同義で、以下の点である。

ただ文字で見るより、視覚的に見た方が早いので、まず両本の配列(定家系配列古本系配列)が異なる黄色部分をざっと見て欲しい。古本系は綺麗に整っていることが一見して分かると思う(しかし題材で並び替えているだけで和歌がよく対応している訳ではない)。これが古本系の操作性(古本が先なら、定家があえてその内容を散らばせる意味も動機も全くない)。

 

  1. 古本系末尾のみ、末尾に「日記歌」という項目立てがあること →②論者も認める主観的で非説明調の本編と相容れない。なお日記は宮中生活の記録
    1. その「日記歌」末尾1首に「題しらず」という詞書があること →勅撰集等の他撰集の常套句で、本人の手によるというのは極めて不合理
    2. しかもその「題しらず」の歌は日記には存在しないこと →学説は現存日記にはないとするが、根拠が古本の自称しかないこと自体不自然
    3. 「題しらず」は式部集中その歌にしかないこと →かつて日記にあったなら文脈がないのはおかしく他の歌とも整合せず付加を考えるのが当然
    4. この歌は後拾遺からの引用と②説から認められていること →この時点で古本は他撰と学説は自白している
    5. この歌は前後との連関がないこと →上記諸点と合わさり極めて強い編集性要素
    6. 新大系と集成は日記歌の最後にまで通し番をふること →多数説は日記歌も本編と不可分一体とみなす(通し番をふらない②説もあるが)
    7. 以上の点につき、②を採用する学説は一切触れず、定家本の不備を指摘して②を採用すること
    8. この歌は定家本のどこにもないこと →定家本にはこの理論的問題は存在しない
  2. 定家本のみにある二首(6169)は歌が前後対応する贈答で、古本系本編のみにある二首(古52古114古本独自部分の最初と最後)は前後対応がない独詠であること →1と合わせて、古本独自部分は徹頭徹尾、強い作為性がもたせられている
  3. 両本共通の「忘るるは~誰が里も」(78-79古62-63)間にある空白につき、古本系のみ「返し やれてなし(破れてなし)」という文言があること →明らかに本人以外の書き込み

 

 ②を採用する説は、以上の諸点、即ち②の明らかな作為性に全く触れず、上記3のような①の配列の優位性・連続性を無視、というより気づかず、逆に①②の配列の違いを悉く定家の編集と仮定し(集成)、日記の詞書の恣意的補訂を想定しており(新大系)不適当。

 古本には上記の絶対的作為性があり、それは定家本にはない次元のもので、いくら定家本を攻めてもそうした古本の高次の配列操作性はなくならない。よって定家本を採用しないなら、それ以上の作為が明らかな古本も論理必然、採用できない。

 

 

古本系への定家関与性:古本の原本は定家本

 

 

 古本系はむしろ私的に秘蔵された定家本を基本にし、定家が、公の要望により勅撰歌集のように御用諸学者の見解も取り入れながら編集したものと解する。

 

 根拠は、

  • 一番目につく一番最後の日記歌で「題しらず」とあり、全く編集性を隠す気がないこと、(やっつけ)
  • しかも日記にない歌からはじまる「日記歌」、(おかしいが、定家が同じ話題だから日記歌と言い張れば押し切れる。どうせ本体でも本編でもない)
  • さらに「日記歌」という項目立て、(これ自体編集性のアピールで、何かでもわかりやすい・書かないとわからない人にわかりやすいようにした配慮。即ち編集)
  • ①②の配列がずれた後でのみ「やれてなし」とあること、(共通の前半部分の空白にはそのような文言はない=編集部分とアピールする必要がない)
  • ①②がずれる転換点古本挿入52「折からをひとへにめづる」は定家51「誰が里の春の便りに鴬の霞に閉づる」と贈答でも何でもないのに語が対応していること。(紫式部の歌はほぼ常に対句になっており、編集を拒む形でキーワード的に意味をもたせているところ、同じ配列部分を見て貰うと分かる通り、語の対応はどんな些細でも意味がないことはないが、このような中途半端な対句は紫式部の例にはないので、定家がそれを逆手にとって編集したもので、これを岩波文庫は定家本底本で補うが本来の歌と見るのは難しく、むしろ自分と同じレベルが現れればそれに気づき改めるだろうというアピールと思う。以降定家本からの挿入部分で生じる対句は「憂き」「さしわきて」「憂」「知」となり不本意な挿入を対の配置で表現したと解すべきである。このような読解は学説の認識範囲外)
  • 「日記歌」の古本系は、宮内庁書陵部と陽明本(公益財団・近衛家の私的文庫)の二本(のみ)に所蔵されていたこと(集成190P)(定家も拒みがたい公の要望性を裏付ける)

 これらは世俗序列を究極でなめていて、お上の目をはばからず激怒されて謹慎になり、罷免された定家以外に困難だし、そのような記録がある学者的歌人は他にいないだろう(「不満を託した和歌を持参したところ、後鳥羽上皇の逆鱗に触れて勅勘を受け」「70歳を越えても官位への執着が衰えなかった定家は権中納言への任官を望んで…ついに、 寛喜4年(1232年)正月に71歳で権中納言に任ぜられる。…しかし、九条道家との間で何らかの対立を引き起こしたらしく[『明月記』貞永2年4月5,6,13日条]、同年の12月には権中納言を罷免されてしまい官界を退く」ウィキペディア藤原定家。しかし世間的な意味で官位に執着していたなら一年で罷免されるようなことをするのは筋が通らない)。

 

 

定家本配列(実践本)

定家本

古本系
和歌
(章立は独自)
人物
 

第一部:若かりし頃

 

第二部:近江・越前

 

第三部:言い寄る夫

 

第四部:夫の死

 

第五部:転機

49 世とともに 門叩き帰り
にける人
50 かへりては
51 誰が里の

異52
折からを
52
異53
消えぬ間の
53
異54
若竹の
54
異55
数ならぬ
55
異56
心だに
 

第六部:初々し出仕

56
異91
身の憂さは
57
異92
閉ぢたりし
58
異93
深山辺の ほのかに
語らひける人
59
異94
み吉野は
60
異57
憂きことを 宮の弁のおもと
61
異ナシ
つれづれと
62
異58
わりなしや
63
異59
忍びつる 紫or?
64
異60
今日はかく ?or紫
65
異日1
妙なりや 紫:日記ナシ
66
異日2
篝火の 紫:日記ナシ
67
異日3
澄める池の 紫:日記ナシ
 

第七部:栄花と追憶

68
異61
影見ても 紫or小少将の局
69
異ナシ
一人居て 小少将の局or紫
70
異日4
なべて世の 紫:日記ナシ
71
異日5
何ごとと 小少将の局
:日記ナシ
72
異67
天の戸の 小少将の君
73
異68
槙の戸も
74
異日15
夜もすがら 夜更けて戸を
叩きし人
日記17
75
異日16
ただならじ
日記18
76
異69
女郎花
日記1
77
異70
白露は 道長
日記2
78
異62
忘るるは
空白 (四行空白) ? cf.古本のみ
返し やれてなし
(破れてなし)
79
異63
誰が里も
80
異71
ましもなほ
81
異72
名に高き
82
異73
心あてに
83
異74
け近くて
84
異75
隔てじと
85
異76
峯寒み
86
異77
めづらしき
日記5
87
異78
曇りなく
88
異79
いかにいかが
日記9
89
異80
葦田鶴の 道長
日記10
 

第八部:月影の人

90
異81
折々に
91
異82
霜枯れの
92
異83
入る方は
93
異84
さして行く
94
異85
おほかたの
95
異86
垣ほ荒れ
96
異87
花薄葉
97
異88
世にふるに
98
異89
心ゆく
 

第九部:宮中と女房

99
異90
多かりし
100
異95
三笠山 隣の中将
101
異96
さし越えて
102
異97
埋もれ木の
103
異98
九重に
104
異99
神代には
105
異100
改めて
106
異101
めづらしと
107
異102
さらば君 弁宰相の君
 

第十部:天の川の人

108
異103
うち忍び
109
異104
しののめの
110
異105
おほかたに 紫or?
111
異106
天の川 ?or紫
112
異107
なほざりの
113
異108
横目をも

 

第十一部:終の予感

114
異日6
菊の露
日記4

異日7
水鳥を
日記6
115
異日8
雲間なく 小少将の君
日記7
116
異日9
ことわりの
日記8
117
異日10
浮き寝せし 大納言の君
日記11
118
異日11
うち払ふ
日記12
119
異109
なにばかり
120
異110
たづきなき ?or紫
121
異111
挑む人 紫or?
122
異112
恋ひわびて
123
異113
経ればかく

異114
いづくとも 紫(詞書なし)
124
異64
暮れぬ間の
125
異65
誰れか世に
126
異66
亡き人を 加賀少納言

 
 

古本系配列(陽明本)

定家本

古本系
和歌
(章立は独自)
人物
 

第一部:若かりし頃

 

第二部:近江・越前

 

第三部:言い寄る夫

 

第四部:夫の死

 

第五部:転機

49 世とともに 門叩き帰り
にける人
50 かへりては
51 誰が里の

古52
折からを
52
古53
消えぬ間の
53
古54
若竹の
54
古55
数ならぬ
55
古56
心だに
 

第六部:初々し出仕

60
古57
憂きことを 宮の弁のおもと
61
古ナシ
つれづれと
62
古58
わりなしや
63
古59
忍びつる 紫or?
64
古60
今日はかく ?or紫
 

第七部:栄花と追憶

68
古61
影見ても 紫or小少将の局
69
古ナシ
一人居て 小少将の局or紫
78
古62
忘るるは
空白 返し
やれてなし
?古本のみの文言
破れてなし
17後にこの文言なし
79
古63
誰が里も
124
古64
暮れぬ間の
125
古65
誰れか世に
126
古66
亡き人を 加賀少納言
72
古67
天の戸の 小少将の君
73
古68
槙の戸も
76
古69
女郎花
日記1
77
古70
白露は 道長
日記2
80
古71
ましもなほ
81
古72
名に高き
82
古73
心あてに
83
古74
け近くて
84
古75
隔てじと
85
古76
峯寒み
86
古77
めづらしき
日記5
87
古78
曇りなく
88
古79
いかにいかが
日記9
89
古80
葦田鶴の 道長
日記10
 

第八部:月影の人

90
古81
折々に
91
古82
霜枯れの
92
古83
入る方は
93
古84
さして行く
94
古85
おほかたの
95
古86
垣ほ荒れ
96
古87
花薄葉
97
古88
世にふるに
98
古89
心ゆく
 

第九部:宮中と女房

99
古90
多かりし
56
古91
身の憂さは
57
古92
閉ぢたりし
58
古93
深山辺の ほのかに
語らひける人
59
古94
み吉野は
100
古95
三笠山 隣の中将
101
古96
さし越えて
102
古97
埋もれ木の
103
古98
九重に
104
古99
神代には
105
古100
改めて
106
古101
めづらしと
107
古102
さらば君 弁宰相の君
 

第十部:天の川の人

108
古103
うち忍び
109
古104
しののめの
110
古105
おほかたに 紫or?
111
古106
天の川 ?or紫
112
古107
なほざりの
113
古108
横目をも

 

第十一部:終の予感

119
古109
なにばかり
120
古110
たづきなき ?or紫
121
古111
挑む人 紫or?
122
古112
恋ひわびて
123
古113
経ればかく

古114
いづくとも 紫(詞書なし)
 

日記歌

65
古日1
妙なりや 紫:日記ナシ
66
古日2
篝火の 紫:日記ナシ
67
古日3
澄める池の 紫:日記ナシ
70
古日4
なべて世の 紫:日記ナシ
71
古日5
何ごとと 小少将の局
:日記ナシ
114
古日6
菊の露
日記4

古日7
水鳥を
日記6
115
古日8
雲間なく 小少将の君
日記7
116
古日9
ことわりの
日記8
117
古日10
浮き寝せし 大納言の君
日記11
118
古日11
うち払ふ
日記12

古日12
年暮れて
日記14

古日13
すきものと 道長
日記15

古日14
人にまだ
日記16
74
古日15
夜もすがら 夜更けて戸を
叩きし人
日記17
75
古日16
ただならじ
日記18

古日17
世の中を 紫「題しらず」
(後拾遺)
:日記ナシ

 
 
 
   


定家本対句検証

定家本

古本系
和歌
(章立は独自)
人物
 

第五部:転機

49 世とともに 荒き風吹く 西の海も
 磯辺には 寄せずとや見し
門叩き帰りにける人
50 かへりては 思ひ知りぬや 岩角に
 浮きて寄りける 岸のあだ
51 誰が里の 春の便りに 鴬の
 霞に閉づる 宿を訪ふらむ

異52
折からを ひとへにめづる 花の色は
 薄きつつ 薄きとも
52
異53
消えぬ間の 身をも知る知る 朝顔の
 露と争ふ を嘆くかな
53
異54
若竹の 生ひゆく末を 祈るかな
 このを憂しと 厭ふものから
54
異55
数ならぬ をば まかせねど
 にしたがふは なりけり
55
異56
だに いかなるにか かなふらむ
 思ひ知れども 思ひ知られず
 

第六部:初々し出仕

56
異91
の憂さは のうちに 慕ひきて
 いま九重ぞ 思ひ乱るる
57
異92
閉ぢたりし 岩間の氷 うち解け
 をだえの水も 影見えじやは
58
異93
山辺の 花吹きまがふ 谷風に
 びし水も 解けざらめやは
ほのかに語らひける人
59
異94
吉野は 春のけしきに 霞めども
 ぼほれたる 雪の下草
60
異57
憂きことを 思ひ乱れて 青柳の
 いと久しくも なりにけるかな
宮の弁のおもと
61
異ナシ
つれづれと 長雨降る日は 青柳の
 いと
憂き世に 乱れて経る
62
異58
わりなしや 人こそ人と 言はざらめ
 みづから身をや 思ひ捨つべき
63
異59
忍びつる 根ぞ現はるる 菖蒲草
 言はぬに朽ちて やみぬべければ
紫or?
64
異60
今日はかく 引きけるものを 菖蒲草
 わがみ隠れに 濡れわたりつる
?or紫
65
異日1
妙なりや 今日は五月の 五日とて
 五つの巻の あへる御
紫:日記ナシ
66
異日2
篝火の 影も騒がぬ 水に
 いく千代まむ の光ぞ
紫:日記ナシ
67
異日3
めるの 底まで照らす 篝火の
 まばゆきまでも 憂きわが身かな
紫:日記ナシ
 

第七部:栄花と追憶

68
異61
見ても 憂きわが 落ち添ひて
 かごとがましき 滝の音かな
紫or小少将の局
69
異ナシ
一人居て ぐみける 水の面に
 浮き添はるらむ やいづれぞ
小少将の局or紫
70
異日4
なべて世の 憂きに泣かるる 菖蒲
 今日までかかる はいかが見る
紫:日記ナシ
71
異日5
何ごとと 菖蒲は分かで 今日もなほ
 袂にあまる こそ絶えせね
小少将の局:日記ナシ
72
異67
天のの の通ひ路 鎖さねども
 いかなる方に 叩く水鶏ぞ
小少将の君
73
異68
槙のも 鎖さでやすらふ 影に
 何を開かずと 水鶏
74
異日15
夜もすがら 水鶏よりけに 泣く泣くぞ
 槙の口に き侘びつる
夜更けて戸を叩きし人:日記17
75
異日16
ただならじ ばかり叩く 水鶏ゆゑ
 開けてはいかに 悔しからまし
紫:日記18
76
異69
女郎花 盛りのを 見るからに
 分きける 身こそ知らるれ
紫:日記1
77
異70
は 分きても置かじ 女郎花
 心からにや の染むらむ
道長:日記2
78
異62
忘るるは 憂き世の常と 思ふにも
 身をやる方の なきぞ侘びぬる
空白 (四行
 空白)
79
異63
誰が里も 訪ひもや来ると ほととぎす
 心のかぎり 待ちぞ侘びにし
80
異71
ましもなほ 遠方人の 声交はせ
 われしわぶる たごの呼坂
81
異72
名に高き の白山 雪なれて
 伊吹の岳を 何とこそ見ね
82
異73
あてに あなかたじけな 苔むせる
 仏の御顔 そとは見えねど
83
異74
け近くて 誰れもは 見えにけむ
 言葉隔てぬ 契りともがな
84
異75
隔てじと ならひしほどに 夏衣
 薄き心を まづ知られぬる
85
異76
峯寒み 岩間凍れる 谷水の
 行く末しもぞ 深くなるらむ
86
異77
めづらしき 光さしそふ 盃は
 もちながらこそ 世をめぐらめ
87
異78
曇りなく 千歳に澄める 水の面に
 宿れる月の 影ものどけし
88
異79
いかにいかが 数へやるべき 八千歳
 あまり久しき 君が御世をば
89
異80
葦田鶴の 齢しあらば 君が代の
 千歳の数も 数へとりてむ
道長
     
 

第八部:月影の人→同一

 

第九部:宮中と女房

99
異90
多かりし 豊の宮人 さしわきて
 しるき日蔭を あはれとぞ見し
100
異95
三笠山 同じ麓を さしわきて
 霞に谷の 隔てつるかな
隣の中将
101
異96
さし越えて 入ることかたみ 三笠山
 霞吹きとく 風をこそ待て
102
異97
埋もれ木の 下にやつるる 梅の花
 香をだに散らせ 雲の上まで
103
異98
に 匂ふを見れば がり
 ねて来たる 春の盛りか
104
異99
神代には ありもやしけむ 山
 今日の挿頭に 折れるためしは
105
異100
改めて 今日しもものの 悲しきは
 身の憂さやまた さま変はりぬる
106
異101
めづらしと し思はば 着て見えむ
 摺れるの ほど過ぎぬとも
107
異102
さらば 山藍の衣 過ぎぬとも
 恋しきほどに 着ても見えなむ
弁宰相の君
 

第十部:天の川の人

108
異103
うち忍び 嘆き明かせば しののめの
 ほがらかにだに 夢を見ぬかな
109
異104
しののめの 空霧りわたり いつしかと
 秋のけしきに 世はなりにけり
110
異105
おほかたに 思へばゆゆし 天の川
 今日の逢ふ瀬は うらやまれけり
紫or?
111
異106
天の川 逢ふ瀬は よその雲井にて
 絶えぬ契りし 世々にあせずは
?or紫
112
異107
なほざりの たよりに訪はむ 人言に
 うちとけてしも えじとぞ思ふ
113
異108
横目をも ゆめと言ひしは 誰れなれや
 秋の月にも いかでかは
 

第十一部:終の予感

114
異日6
菊の露 若ゆばかりに 袖触れて
 花のあるじに 千代は譲らむ
紫:日記4

異日7
水鳥を 水の上とや よそに見む
 われも浮きたる 世を過ぐしつつ
紫:日記6
115
異日8
雲間なく 眺むる空も かきくらし
 いかにしのぶる 時雨なるらむ
小少将の君:日記7
116
異日9
ことわりの 時雨は 雲間あれど
 眺むる袖ぞ 乾く世もなき
紫:日記8
117
異日10
浮きせし 水の上のみ 恋しくて
 鴨の上毛に さえぞ劣らぬ
大納言の君:日記11
118
異日11
うち払ふ 友なきころの 覚めには
 つがひし鴛鴦ぞ 夜半に恋しき
紫:日記12
119
異109
なにばかり 心尽くしに 眺めねど
 見しに暮れぬる 秋の月
120
異110
たづきなき 旅の空なる 住まひをば
 雨もよに訪ふ もあらじな
?or紫
121
異111
挑む あまた聞こゆる 百敷の
 相撲憂しとは 思ひ知るやは
紫or?
122
異112
恋ひわびて ありふるほどの 初雪
 消えぬるかとぞ 疑はれける
123
異113
経ればかく
 さのみまさる 
 荒れたる庭に 積もる初雪

異114
いづくとも 身をやる方の 知られねば
 しと見つつも ながらふるかな
紫(詞書なし)
124
異64
暮れぬ間の 身をば思はで 人の
 哀れをるぞ かつは悲しき
125
異65
誰れかに 永らへて見む 書き留めし
 跡は消えせぬ 形見なれども
126
異66
亡き人を 偲ぶることも いつまてぞ
 今日のあはれは 明日のわが身を
加賀少納言

 
 
 
   

古本系対句検証

定家本

古本系
和歌
(章立は独自)
人物
 

第五部:転機

49 世とともに 荒き風吹く 西の海も
 磯辺には 寄せずとや見し
門叩き帰りにける人
50 かへりては 思ひ知りぬや 岩角に
 浮きて寄りける 岸のあだ
51 誰が里の 春の便りに 鴬の
 霞に閉づる 宿を訪ふらむ

古52
折からを ひとへにめづる 花の色は
 薄きつつ 薄きとも
52
古53
消えぬ間の 身をも知る知る 朝顔の
 露と争ふ を嘆くかな
53
古54
若竹の 生ひゆく末を 祈るかな
 このを憂しと 厭ふものから
54
古55
数ならぬ をば まかせねど
 にしたがふは なりけり
55
古56
だに いかなるにか かなふらむ
 思ひ知れども 思ひ知られず
 

第六部:初々し出仕

60
古57
憂きことを 思ひ乱れて 青柳の
 いと
久しくも なりにけるかな
宮の弁のおもと
61
古ナシ
つれづれと 長雨降る日は 青柳の
 いと憂き世に 乱れて経る
62
古58
わりなしや 人こそ人と 言はざらめ
 みづから身をや 思ひ捨つべき
 

第七部:栄花と追憶

68
古61
見ても 憂きわが涙 落ち添ひて
 かごとがましき 滝の音かな
紫or小少将の局
69
古ナシ
一人居て ぐみける 水の面に
 浮き添はるらむ やいづれぞ
小少将の局or紫
78
古62
忘るるは 憂き世の常と 思ふにも
 身をやる方の なきぞ侘びぬる
空白 (四行
 空白)
79
古63
誰が里も 訪ひもや来ると ほととぎす
 心のかぎり 待ちぞ侘びにし
124
古64
暮れぬ間の 身をば思はで 人の
 哀れをるぞ かつは悲しき
125
古65
誰れかに 永らへて見む 書き留めし
 跡は消えせぬ 形見なれども
126
古66
亡き人を 偲ぶることも いつまてぞ
 今日のあはれは 明日のわが身を
加賀少納言
72
古67
天のの の通ひ路 鎖さねども
 いかなる方に 叩く水鶏ぞ
小少将の君
73
古68
槙のも 鎖さでやすらふ 影に
 何を開かずと 叩く水鶏ぞ
76
古69
女郎花 盛りのを 見るからに
 分きける 身こそ知らるれ
紫:日記1
77
古70
は 分きても置かじ 女郎花
 心からにや の染むらむ
道長:日記2
80
古71
ましもなほ 遠方人の 声交はせ
 われしわぶる たごの呼坂
81
古72
名に高き の白山 雪なれて
 伊吹の岳を 何とこそ見ね
82
古73
あてに あなかたじけな 苔むせる
 仏の御顔 そとは見えねど
83
古74
け近くて 誰れもは 見えにけむ
 言葉隔てぬ 契りともがな
84
古75
隔てじと ならひしほどに 夏衣
 薄き心を まづ知られぬる
85
古76
峯寒み 岩間凍れる 谷水の
 行く末しもぞ 深くなるらむ
86
古77
めづらしき 光さしそふ 盃は
 もちながらこそ 世をめぐらめ
87
古78
曇りなく 千歳に澄める 水の面に
 宿れる月の 影ものどけし
88
古79
いかにいかが 数へやるべき 八千歳
 あまり久しき 君が御世をば
89
古80
葦田鶴の 齢しあらば 君が代の
 千歳の数も 数へとりてむ
道長
     
 

第八部:月影の人→同一

 

第九部:宮中と女房

99
古90
多かりし 豊の宮人 さしわきて
 しるき日蔭を あはれとぞ見し
56
古91
の憂さは のうちに 慕ひきて
 いま九重ぞ 思ひ乱るる
57
古92
閉ぢたりし 岩間の氷 うち解け
 をだえの水も 影見えじやは
58
古93
山辺の 花吹きまがふ 谷風に
 びし水も 解けざらめやは
ほのかに語らひける人
59
古94
吉野は 春のけしきに 霞めども
 ぼほれたる 雪の下草
100
古95
三笠山 同じ麓を さしわきて
 霞に谷の 隔てつるかな
隣の中将
101
古96
さし越えて 入ることかたみ 三笠山
 霞吹きとく 風をこそ待て
102
古97
埋もれ木の 下にやつるる 梅の花
 香をだに散らせ 雲の上まで
103
古98
に 匂ふを見れば がり
 ねて来たる 春の盛りか
104
古99
神代には ありもやしけむ 山
 今日の挿頭に 折れるためしは
105
古100
改めて 今日しもものの 悲しきは
 身の憂さやまた さま変はりぬる
106
古101
めづらしと し思はば 着て見えむ
 摺れるの ほど過ぎぬとも
107
古102
さらば 山藍の衣 過ぎぬとも
 恋しきほどに 着ても見えなむ
弁宰相の君
 

第十部:天の川の人

108
古103
うち忍び 嘆き明かせば しののめの
 ほがらかにだに 夢を見ぬかな
109
古104
しののめの 空霧りわたり いつしかと
 秋のけしきに 世はなりにけり
110
古105
おほかたに 思へばゆゆし 天の川
 今日の逢ふ瀬は うらやまれけり
紫or?
111
古106
天の川 逢ふ瀬は よその雲井にて
 絶えぬ契りし 世々にあせずは
?or紫
112
古107
なほざりの たよりに訪はむ 人言に
 うちとけてしも えじとぞ思ふ
113
古108
横目をも ゆめと言ひしは 誰れなれや
 秋の月にも いかでかは
 

第十一部:終の予感

119
古109
なにばかり 心尽くしに 眺めねど
 見しに暮れぬる 秋の月
120
古110
たづきなき 旅の空なる 住まひをば
 雨もよに訪ふ もあらじな
?or紫
121
古111
挑む あまた聞こゆる 百敷の
 相撲憂しとは 思ひ知るやは
紫or?
122
古112
恋ひわびて ありふるほどの 初雪
 消えぬるかとぞ 疑はれける
123
古113
経ればかく
 さのみまさる 知ら
 荒れたる庭に 積もる初雪

古114
いづくとも 身をやる方の 知られねば
 しと見つつも ながらふるかな
紫(詞書なし)
 

日記歌

65
古日1
妙なりや 今日は五月の 五日とて
 五つの巻の あへる御
紫:日記ナシ
66
古日2
篝火の 影も騒がぬ 水に
 いく千代まむ の光ぞ
紫:日記ナシ
67
古日3
めるの 底まで照らす 篝火の
 まばゆきまでも 憂きわが身かな
紫:日記ナシ
70
古日4
なべて世の 憂きに泣かるる 菖蒲
 今日までかかる はいかが見る
紫:日記ナシ
71
古日5
何ごとと 菖蒲は分かで 今日もなほ
 袂にあまる こそ絶えせね
小少将の局:日記ナシ
114
古日6
菊の露 若ゆばかりに 袖触れて
 花のあるじに 千代は譲らむ
紫:日記4

古日7
水鳥を 水の上とや よそに見む
 われも浮きたる 世を過ぐしつつ
紫:日記6
115
古日8
雲間なく 眺むる空も かきくらし
 いかにしのぶる 時雨なるらむ
小少将の君:日記7
116
古日9
ことわりの 時雨は 雲間あれど
 眺むる袖ぞ 乾く世もなき
紫:日記8
117
古日10
浮きせし 水の上のみ 恋しくて
 鴨の上毛に さえぞ劣らぬ
大納言の君:日記11
118
古日11
うち払ふ 友なきころの 覚めには
 つがひし鴛鴦ぞ 夜半に恋しき
紫:日記12
74
古日15
夜もすがら 水鶏よりけに 泣く泣くぞ
 槙の口に 叩き侘びつる
夜更けて戸を叩きし人:日記17
75
古日16
ただならじ ばかり叩く 水鶏ゆゑ
 開けてはいかに 悔しからまし
紫:日記18

古日17
世の中を なに嘆かまし 山桜
 花見る程の 心なりせば
紫「題しらず
(後拾遺)
:日記ナシ