枕草子102段 中納言まゐり給ひて

御方々 枕草子
上巻下
102段
中納言まゐり給ひて
雨の

(旧)大系:102段
新大系:98段、新編全集:98段
(以上全て三巻本系列本。しかし後二本の構成は2/3が一致せず、混乱を招くので、三巻本理論の根本たる『(旧)大系』に準拠すべきと思う)
(旧)全集=能因本:106段
 

新大系段冒頭:中納言まいり給て
能因本段冒頭:中納言殿まゐらせたまひて


 
 中納言まゐり給ひて、御扇奉らせ給ふに、「隆家こそいみじき骨は得て侍れ。それを張らせて参らせむとするに、おぼろけの紙は、え得るまじければ、求め侍るなり」と申し給ふ。
 「いかやうにかある」と問ひ聞こえさせ給へば、
 「すべていみじう侍り。『さらにまだ見ぬ骨のさまなり』となむ人々申す。まことにかばかりのは見えざりつ」と、言高く宣へば、
 「さては、扇のにはあらで、海月のななり」と聞こゆべければ、
 「これは隆家が言にしてむ」とて、笑ひ給ふ。
 

 かやうのことこそは、かたはらいたきことのうちに入れつべけれど、「ひとつな落としそ」と言へば、いかがはせむ。