万葉集 第七巻:一覧と配置

第六巻 万葉集
第七巻
第八巻

 
 万葉集第七巻、その一覧と配置(歌の内容はリンク先を参照)。
 ここでは個別の歌の検討というより、全体の配置に示される万葉の構造を見る。
 

 7巻は、一見して従来と異なる。冒頭が圧倒的無名。しかし先頭1首は人麻呂歌集(象徴的なのは人麻呂歌集と並ぶ無名の伊勢随行歌。9巻冒頭参照)。
 雑歌・譬喩歌という前後半で、前半は無名を基本に散発的に人麻呂歌集。後半は、古集・人麻呂歌集・無名をそれぞれ厚く配置する。
 雑歌では、本当の不知を織り交ぜているフシもあるが、後段の譬喩歌に入ったら、古歌・人麻呂歌集・無名と厚く固められており、この末尾の無名は赤人と解される。その根拠がそれに続く8巻の配置である(赤人の春夏)。
 

第七巻 目次と配置(1068~1417:350首)
雑歌(128)・譬喩歌(222)
雑歌(128首)
              1068
柿◆
1069
1070
1071
1072
1073
1074
1075
1076
1077
1078
1079
1080
1081
1082
1083
1084
1085
1086
1087
柿◆
1088
柿◆
1089
伊勢随行歌
1090
1091
1092
柿◆
1093
柿◆
1094
柿◆
1095
1096
1097
1098
1099
1100
柿◆
 
 
1101
柿◆
1102
1103
1104
1105
1106
1107
1108
1109
1110
1111
1112
1113
1114
1115
1116
1117
1118
柿◆
1119
柿◆
1120
1121
1122
1123
1124
1125
1126
1127
1128
1129
1130
1131
1132
1133
1134
1135
1136
1137
1138
1139
1140
1141
1142
1143
1144
1145
1146
1147
1148
1149
1150
1151
1152
1153
1154
1155
1156
1157
1158
1159
1160
1161
1162
1163
1164
1165
1166
1167
1168
1169
1170
1171
1172
1173
1174
1175
1176
1177
1178
1179
1180
1181
1182
1183
1184
1185
1186
1187
柿◆
1188
1189
藤原卿
1190
藤原卿
1191
藤原卿
1192
藤原卿
1193
藤原卿
1194
藤原卿
1195
藤原卿
 
譬喩歌(222首)
  1196
古集
1197
古集
1198
古集
1199
古集
1200
古集
 
 
1201
古集
1202
古集
1203
古集
1204
古集
1205
古集
1206
古集
1207
古集
1208
古集
1209
古集
1210
古集
1211
古集
1212
古集
1213
古集
1214
古集
1215
古集
1216
古集
1217
古集
1218
古集
1219
古集
1220
古集
1221
古集
1222
古集
1223
古集
1224
古集
1225
古集
1226
古集
1227
古集
1228
古集
1229
古集
1230
古集
1231
古集
1232
古集
1233
古集
1234
古集
1235
古集
1236
古集
1237
古集
1238
古集
1239
古集
1240
古集
1241
古集
1242
古集
1243
古集
1244
古集
1245
古集
1246
古集
1247
柿◆
1248
柿◆
1249
柿◆
1250
柿◆
1251
古歌集
1252
古歌集
1253
古歌集
1254
古歌集
1255
古歌集
1256
古歌集
1257
古歌集
1258
古歌集
1259
古歌集
1260
古歌集
1261
古歌集
1262
古歌集
1263
古歌集
1264
古歌集
1265
古歌集
1266
古歌集
1267
古歌集
1268
柿◆
1269
柿◆
1270
古歌集
1271
柿◆
1272
柿◆
1273
柿◆
1274
柿◆
1275
柿◆
1276
柿◆
1277
柿◆
1278
柿◆
1279
柿◆
1280
柿◆
1281
柿◆
1282
柿◆
1283
柿◆
1284
柿◆
1285
柿◆
1286
柿◆
1287
柿◆
1288
柿◆
1289
柿◆
1290
柿◆
1291
柿◆
1292
柿◆
1293
柿◆
1294
柿◆
1295
古歌集
1296
柿◆
1297
柿◆
1298
柿◆
1299
柿◆
1300
柿◆
 
 
1301
柿◆
1302
柿◆
1303
柿◆
1304
柿◆
1305
柿◆
1306
柿◆
1307
柿◆
1308
柿◆
1309
柿◆
1310
柿◆
1311
1312
1313
1314
1315
1316
1317
1318
1319
1320
1321
1322
1323
1324
1325
1326
1327
1328
1329
1330
1331
1332
1333
1334
1335
1336
1337
1338
1339
1340
1341
1342
1343
1344
1345
1346
1347
1348
1349
1350
1351
1352
1353
1354
1355
1356
1357
1358
1359
1360
1361
1362
1363
1364
1365
1366
1367
1368
1369
1370
1371
1372
1373
1374
1375
1376
1377
1378
1379
1380
1381
1382
1383
1384
1385
1386
1387
1388
1389
1390
1391
1392
1393
1394
1395
1396
1397
1398
1399
1400
 
 
1401
1402
1403
1404
1405
1406
1407
1408
1409
1410
1411
1412
1413
1414
1415
1416
1417
     
 

第七巻

   
 

雜歌

   
   07/1068
題詞 雜歌 / 詠天
題訓 雑歌くさぐさのうた  天あめを詠める
原文 天海丹 雲之波立 月船 星之林丹 榜隠所見
訓読 天の海に雲の波立ち月の舟星の林に漕ぎ隠る見ゆ
仮名 あめのうみに くものなみたち つきのふね ほしのはやしに こぎかくるみゆ
左注 右一首柿本朝臣人麻呂之歌集出
左注訓 右ノ一首ヒトウタハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。
校異 歌 [西] 謌 / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 非略体
訓異 こぎかくるみゆ;こきかくるみゆ,
   
  07/1069
題詞 詠月
題訓 月を詠める
原文 常者曽 不念物乎 此月之 過匿巻 惜夕香裳
訓読 常はさね思はぬものをこの月の過ぎ隠らまく惜しき宵かも
仮名 つねはさね おもはぬものを このつきの すぎかくらまく をしきよひかも
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌
訓異 つねはさね;つねはさも, すぎかくらまく;すきかくれまく,
   
  07/1070
題詞 (詠月)
原文 大夫之 弓上振起 <猟>高之 野邊副清 照月夜可聞
訓読 大夫の弓末振り起し狩高の野辺さへ清く照る月夜かも
仮名 ますらをの ゆずゑふりおこし かりたかの のへさへきよく てるつくよかも
左注 なし
校異 借→猟 [類]
事項 雑歌 高円山 奈良 地名
訓異 ゆずゑふりおこし;ゆすゑふりたて, かりたかの;かるたかの, てるつくよかも;てるつきよかも,
   
  07/1071
題詞 (詠月)
原文 山末尓 不知夜歴月乎 将出香登 待乍居尓 夜曽降家類
訓読 山の端にいさよふ月を出でむかと待ちつつ居るに夜ぞ更けにける
仮名 やまのはに いさよふつきを いでむかと まちつつをるに よぞふけにける
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌
訓異 いでむかと;いてむかと, よぞふけにける;よそふけにける,
   
  07/1072
題詞 (詠月)
原文 明日之夕 将照月夜者 片因尓 今夜尓因而 夜長有
訓読 明日の宵照らむ月夜は片寄りに今夜に寄りて夜長くあらなむ
仮名 あすのよひ てらむつくよは かたよりに こよひによりて よながくあらなむ
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌
訓異 あすのよひ;あすのよも, てらむつくよは;てらむつきよは, こよひによりて; よながくあらなむ;よなかからなむ,
   
  07/1073
題詞 (詠月)
原文 玉垂之 小簾之間通 獨居而 見驗無 暮月夜鴨
訓読 玉垂の小簾の間通しひとり居て見る験なき夕月夜かも
仮名 たまだれの をすのまとほし ひとりゐて みるしるしなき ゆふつくよかも
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌
訓異 たまだれの;たまたれの, みるしるしなき;みるしるしなみ,
   
  07/1074
題詞 (詠月)
原文 春日山 押而照有 此月者 妹之庭母 清有家里
訓読 春日山おして照らせるこの月は妹が庭にもさやけくありけり
仮名 かすがやま おしててらせる このつきは いもがにはにも さやけくありけり
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 春日山 奈良 慕情 地名
訓異 かすがやま;かすかやま, おしててらせる;なへててらせる, いもがにはにも;いもかにはにも, さやけくありけり;さやけかりけり,
   
  07/1075
題詞 (詠月)
原文 海原之 道遠鴨 月讀 明少 夜者更下乍
訓読 海原の道遠みかも月読の光少き夜は更けにつつ
仮名 うなはらの みちとほみかも つくよみの ひかりすくなき よはふけにつつ
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌
訓異 つくよみの;つきよみの, ひかりすくなき;ひかりすくなく,
   
  07/1076
題詞 (詠月)
原文 百師木之 大宮人之 退出而 遊今夜之 月清左
訓読 ももしきの大宮人の罷り出て遊ぶ今夜の月のさやけさ
仮名 ももしきの おほみやひとの まかりでて あそぶこよひの つきのさやけさ
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌
訓異 まかりでて;たちいてて, あそぶこよひの;あそふこよひの,
   
  07/1077
題詞 (詠月)
原文 夜干玉之 夜渡月乎 将留尓 西山邊尓 <塞>毛有粳毛
訓読 ぬばたまの夜渡る月を留めむに西の山辺に関もあらぬかも
仮名 ぬばたまの よわたるつきを とどめむに にしのやまへに せきもあらぬかも
左注 なし
校異 塞 [西(上書訂正)][類][紀][細]
事項 雑歌
訓異 ぬばたまの;ぬはたまの, とどめむに;ととめむに,
   
  07/1078
題詞 (詠月)
原文 此月之 此間来者 且今跡香毛 妹之出立 待乍将有
訓読 この月のここに来たれば今とかも妹が出で立ち待ちつつあるらむ
仮名 このつきの ここにきたれば いまとかも いもがいでたち まちつつあるらむ
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌
訓異 ここにきたれば;このまにくれは, いもがいでたち;いもかいてたち, まちつつあるらむ;まちつつあらむ,
   
  07/1079
題詞 (詠月)
原文 真十鏡 可照月乎 白妙乃 雲香隠流 天津霧鴨
訓読 まそ鏡照るべき月を白栲の雲か隠せる天つ霧かも
仮名 まそかがみ てるべきつきを しろたへの くもかかくせる あまつきりかも
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌
訓異 まそかがみ;まそかかみ, てるべきつきを;てるへきつきを,
   
  07/1080
題詞 (詠月)
原文 久方乃 天照月者 神代尓加 出反等六 年者經去乍
訓読 ひさかたの天照る月は神代にか出で反るらむ年は経につつ
仮名 ひさかたの あまてるつきは かむよにか いでかへるらむ としはへにつつ
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌
訓異 かむよにか;かみよにか, いでかへるらむ;いてかへるらむ,
   
  07/1081
題詞 (詠月)
原文 烏玉之 夜渡月乎 A怜 吾居袖尓 露曽置尓鷄類
訓読 ぬばたまの夜渡る月をおもしろみ我が居る袖に露ぞ置きにける
仮名 ぬばたまの よわたるつきを おもしろみ わがをるそでに つゆぞおきにける
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌
訓異 ぬばたまの;ぬはたまの, おもしろみ;あはれとて, わがをるそでに;わかをるそてに, つゆぞおきにける;つゆそおきにける,
   
  07/1082
題詞 (詠月)
原文 水底之 玉障清 可見裳 照月夜鴨 夜之深去者
訓読 水底の玉さへさやに見つべくも照る月夜かも夜の更けゆけば
仮名 みなそこの たまさへさやに みつべくも てるつくよかも よのふけゆけば
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌
訓異 たまさへさやに;たまさへきよく, みつべくも;みつへくも, てるつくよかも;てるつきよかも, よのふけゆけば;よのふけゆけは,
   
  07/1083
題詞 (詠月)
原文 霜雲入 為登尓可将有 久堅之 夜<渡>月乃 不見念者
訓読 霜曇りすとにかあるらむ久方の夜渡る月の見えなく思へば
仮名 しもぐもり すとにかあるらむ ひさかたの よわたるつきの みえなくおもへば
左注 なし
校異 度→渡 [類][紀][温]
事項 雑歌
訓異 しもぐもり;しもくもり, すとにかあるらむ;すとにかあらむ, みえなくおもへば;みえぬおもへは,
   
  07/1084
題詞 (詠月)
原文 山末尓 不知夜經月乎 何時母 吾待将座 夜者深去乍
訓読 山の端にいさよふ月をいつとかも我は待ち居らむ夜は更けにつつ
仮名 やまのはに いさよふつきを いつとかも わはまちをらむ よはふけにつつ
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 恋情
訓異 わはまちをらむ;わかまちをらむ,
   
  07/1085
題詞 (詠月)
原文 妹之當 吾袖将振 木間従 出来月尓 雲莫棚引
訓読 妹があたり我が袖振らむ木の間より出で来る月に雲なたなびき
仮名 いもがあたり わはそでふらむ このまより いでくるつきに くもなたなびき
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 恋情
訓異 いもがあたり;いもかあたり, わはそでふらむ;わかそてふらむ, いでくるつきに;いてくるつきに, くもなたなびき;くもなたなひき,
   
  07/1086
題詞 (詠月)
原文 靱懸流 伴雄廣伎 大伴尓 國将榮常 月者照良思
訓読 靫懸くる伴の男広き大伴に国栄えむと月は照るらし
仮名 ゆきかくる とものをひろき おほともに くにさかえむと つきはてるらし
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 寿歌
訓異  
   
  07/1087
題詞 詠雲
題訓 雲を詠める
原文 痛足河 々浪立奴 巻目之 由槻我高仁 雲居立有良志
訓読 穴師川川波立ちぬ巻向の弓月が岳に雲居立てるらし
仮名 あなしがは かはなみたちぬ まきむくの ゆつきがたけに くもゐたてるらし
左注 (右二首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
校異 立有 [細](塙) 立 / 志 [類][紀][温] 思
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 龍王山 奈良 非略体 地名
訓異 あなしがは;あなしかは, まきむくの;まきもくの, ゆつきがたけに;ゆつきかたけに, くもゐたてるらし;くもたてるらし,
   
  07/1088
題詞 (詠雲)
原文 足引之 山河之瀬之 響苗尓 弓月高 雲立渡
訓読 あしひきの山川の瀬の鳴るなへに弓月が岳に雲立ちわたる
仮名 あしひきの やまがはのせの なるなへに ゆつきがたけに くもたちわたる
左注 右二首柿本朝臣人麻呂之歌集出
左注訓 右ノ二首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 龍王山 奈良 非略体 枕詞 地名
訓異 やまがはのせの;やまかはのせの, ゆつきがたけに;ゆつきかたけに,
   
  07/1089
題詞 (詠雲)
原文 大海尓 嶋毛不在尓 海原 絶塔浪尓 立有白雲
訓読 大海に島もあらなくに海原のたゆたふ波に立てる白雲
仮名 おほうみに しまもあらなくに うなはらの たゆたふなみに たてるしらくも
左注 右一首伊勢従駕作
左注訓 右ノ一首ハ、伊勢ニ従駕シテ作メル。
校異 なし
事項 雑歌 伊勢 三重県 羈旅 地名
訓異 たゆたふなみに;たゆたうなみに,
   
  07/1090
題詞 詠雨
題訓 雨を詠める
原文 吾妹子之 赤裳裙之 将染埿 今日之W霂尓 吾共所沾<名>
訓読 我妹子が赤裳の裾のひづちなむ今日の小雨に我れさへ濡れな
仮名 わぎもこが あかものすその ひづちなむ けふのこさめに われさへぬれな
左注 なし
校異 者→名 [元][類][紀][温]
事項 雑歌
訓異 わぎもこが;わきもこか, ひづちなむ;そめひちむ, われさへぬれな;われとぬれぬな,
   
  07/1091
題詞 (詠雨)
原文 可融 雨者莫零 吾妹子之 形見之服 吾下尓著有
訓読 通るべく雨はな降りそ我妹子が形見の衣我れ下に着り
仮名 とほるべく あめはなふりそ わぎもこが かたみのころも あれしたにけり
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌
訓異 とほるべく;とほるへき, わぎもこが;わきもこか, あれしたにけり;われしたにきたり,
   
  07/1092
題詞 詠山
題訓 山を詠める
原文 動神之 音耳聞 巻向之 桧原山乎 今日見鶴鴨
訓読 鳴る神の音のみ聞きし巻向の桧原の山を今日見つるかも
仮名 なるかみの おとのみききし まきむくの ひはらのやまを けふみつるかも
左注 (右三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
校異 なし
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 巻向 奈良 非略体 地名 枕詞
訓異 おとのみききし;おとにのみきく, まきむくの;まきもくの,
   
  07/1093
題詞 (詠山)
原文 三毛侶之 其山奈美尓 兒等手乎 巻向山者 継之宜霜
訓読 三諸のその山なみに子らが手を巻向山は継ぎしよろしも
仮名 みもろの そのやまなみに こらがてを まきむくやまは つぎしよろしも
左注 (右三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
校異 なし
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 巻向 奈良 非略体 地名 枕詞
訓異 こらがてを;こらかてを, まきむくやまは;まきもくやまは, つぎしよろしも;つきてしよしも,
   
  07/1094
題詞 (詠山)
原文 我衣 色<取>染 味酒 三室山 黄葉為在
訓読 我が衣色取り染めむ味酒三室の山は黄葉しにけり
仮名 あがころも いろどりそめむ うまさけ みむろのやまは もみちしにけり
左注 右三首柿本朝臣人麻呂之歌集出
左注訓 右ノ三首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。
校異 服→取 (塙) / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 三輪山 奈良 略体 地名 枕詞 季節
訓異 あがころも;わかきぬの, いろどりそめむ;いろきそめたり, うまさけ;うまさかの, みむろのやまは;みむろのやまの, もみちしにけり;もみちしたるに,
   
  07/1095
題詞 (詠山)
原文 三諸就 三輪山見者 隠口乃 始瀬之桧原 所念鴨
訓読 三諸つく三輪山見れば隠口の泊瀬の桧原思ほゆるかも
仮名 みもろつく みわやまみれば こもりくの はつせのひはら おもほゆるかも
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 三輪山 奈良 地名 枕詞
訓異 みわやまみれば;みわやまみれは,
   
  07/1096
題詞 (詠山)
原文 昔者之 事波不知乎 我見而毛 久成奴 天之香具山
訓読 いにしへのことは知らぬを我れ見ても久しくなりぬ天の香具山
仮名 いにしへの ことはしらぬを われみても ひさしくなりぬ あめのかぐやま
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 香具山 飛鳥 地名
訓異 あめのかぐやま;あまのかくやま,
   
  07/1097
題詞 (詠山)
原文 吾勢子乎 乞許世山登 人者雖云 君毛不来益 山之名尓有之
訓読 我が背子をこち巨勢山と人は言へど君も来まさず山の名にあらし
仮名 わがせこを こちこせやまと ひとはいへど きみもきまさず やまのなにあらし
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 序詞 恋情
訓異 わがせこを;わかせこを, ひとはいへど;ひとはいへと, きみもきまさず;きみもきまさぬ,
   
  07/1098
題詞 (詠山)
原文 木道尓社 妹山在云 <玉>櫛上 二上山母 妹許曽有来
訓読 紀道にこそ妹山ありといへ玉櫛笥二上山も妹こそありけれ
仮名 きぢにこそ いもやまありといへ たまくしげ ふたかみやまも いもこそありけれ
左注 なし
校異 <>→玉 [万葉考]
事項 雑歌 二上山 地名 枕詞 恋情
訓異 きぢにこそ;きちにこそ, たまくしげ;かつらきの,
   
  07/1099
題詞 詠岳
題訓 岳をかを詠める
原文 片岡之 此向峯 椎蒔者 今年夏之 陰尓将<化>疑
訓読 片岡のこの向つ峰に椎蒔かば今年の夏の蔭にならむか
仮名 かたをかの このむかつをに しひまかば ことしのなつの かげにならむか
左注 なし
校異 比→化 [万葉集古義]
事項 雑歌 王寺町 香芝町 奈良 地名
訓異 このむかつをに;このたのみねに, しひまかば;しゐまかは, かげにならむか;かけになみむか,
   
  07/1100
題詞 詠河
題訓 河を詠める
原文 巻向之 病足之川由 徃水之 絶事無 又反将見
訓読 巻向の穴師の川ゆ行く水の絶ゆることなくまたかへり見む
仮名 まきむくの あなしのかはゆ ゆくみづの たゆることなく またかへりみむ
左注 (右二首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
校異 病 [類][古][紀] 痛
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 巻向 奈良 非略体 地名 恋情
訓異 まきむくの;まきもくの, ゆくみづの;ゆくみつの,
   
  07/1101
題詞 (詠河)
原文 黒玉之 夜去来者 巻向之 川音高之母 荒足鴨疾
訓読 ぬばたまの夜さり来れば巻向の川音高しもあらしかも疾き
仮名 ぬばたまの よるさりくれば まきむくの かはとたかしも あらしかもとき
左注 右二首柿本朝臣人麻呂之歌集出
左注訓 右ノ二首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 巻向 奈良 非略体 地名 枕詞
訓異 ぬばたまの;ぬはたまの, よるさりくれば;よるさりくれは, まきむくの;まきもくの, かはとたかしも;かはおとたかしも,
   
  07/1102
題詞 (詠河)
原文 大王之 御笠山之 帶尓為流 細谷川之 音乃清也
訓読 大君の御笠の山の帯にせる細谷川の音のさやけさ
仮名 おほきみの みかさのやまの おびにせる ほそたにがはの おとのさやけさ
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 三笠山 奈良 地名 枕詞 叙景 土地讃美
訓異 おびにせる;おひにせる, ほそたにがはの;ほそたにかはの,
   
  07/1103
題詞 (詠河)
原文 今敷者 見目屋跡念之 三芳野之 大川余杼乎 今日見鶴鴨
訓読 今しくは見めやと思ひしみ吉野の大川淀を今日見つるかも
仮名 いましくは みめやとおもひし みよしのの おほかはよどを けふみつるかも
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 吉野 地名 土地讃美
訓異 おほかはよどを;おほかはよとを,
   
  07/1104
題詞 (詠河)
原文 馬並而 三芳野河乎 欲見 打越来而曽 瀧尓遊鶴
訓読 馬並めてみ吉野川を見まく欲りうち越え来てぞ瀧に遊びつる
仮名 うまなめて みよしのがはを みまくほり うちこえきてぞ たきにあそびつる
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 吉野 地名
訓異 みよしのがはを;みよしのかはを, うちこえきてぞ;うちこえきてそ, たきにあそびつる;たきにあそひつる,
   
  07/1105
題詞 (詠河)
原文 音聞 目者末見 吉野川 六田之与杼乎 今日見鶴鴨
訓読 音に聞き目にはいまだ見ぬ吉野川六田の淀を今日見つるかも
仮名 おとにきき めにはいまだみぬ よしのがは むつたのよどを けふみつるかも
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 吉野 地名 土地讃美
訓異 めにはいまだみぬ;めにはまたみぬ, よしのがは;よしのかは, むつたのよどを;むつたのよとを,
   
  07/1106
題詞 (詠河)
原文 河豆鳴 清川原乎 今日見而者 何時可越来而 見乍偲食
訓読 かはづ鳴く清き川原を今日見てはいつか越え来て見つつ偲はむ
仮名 かはづなく きよきかはらを けふみては いつかこえきて みつつしのはむ
左注 なし
校異 河 [類][紀](塙) 川
事項 雑歌 動物
訓異 かはづなく;かはつなく,
   
  07/1107
題詞 (詠河)
原文 泊瀬川 白木綿花尓 堕多藝都 瀬清跡 見尓来之吾乎
訓読 泊瀬川白木綿花に落ちたぎつ瀬をさやけみと見に来し我れを
仮名 はつせがは しらゆふはなに おちたぎつ せをさやけみと みにこしわれを
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 初瀬 奈良 地名 土地讃美
訓異 はつせがは;はつせかは, おちたぎつ;おちたきつ, せをさやけみと;せをさやけくと,
   
  07/1108
題詞 (詠河)
原文 泊瀬川 流水尾之 湍乎早 井提越浪之 音之清久
訓読 泊瀬川流るる水脈の瀬を早みゐで越す波の音の清けく
仮名 はつせがは ながるるみをの せをはやみ ゐでこすなみの おとのきよけく
左注 なし
校異 提 [西(貼紙訂正)] 堤
事項 雑歌 初瀬 奈良 土地讃美 地名
訓異 はつせがは;はつせかは, ながるるみをの;なかるるみをの, ゐでこすなみの;ゐてこすなみの, おとのきよけく;おとのさやけく,
   
  07/1109
題詞 (詠河)
原文 佐桧乃熊 桧隅川之 瀬乎早 君之手取者 将縁言毳
訓読 さ桧の隈桧隈川の瀬を早み君が手取らば言寄せむかも
仮名 さひのくま ひのくまがはの せをはやみ きみがてとらば ことよせむかも
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 飛鳥 恋愛 地名
訓異 ひのくまがはの;ひのくまかはの, きみがてとらば;きみかてとらは, ことよせむかも;よらむてうかも,
   
  07/1110
題詞 (詠河)
原文 湯種蒔 荒木之小田矣 求跡 足結出所沾 此水之湍尓
訓読 ゆ種蒔くあらきの小田を求めむと足結ひ出で濡れぬこの川の瀬に
仮名 ゆだねまく あらきのをだを もとめむと あゆひいでぬれぬ このかはのせに
左注 なし
校異 出 [万葉集略解] 出 / 河 [類][紀](塙) 川
事項 雑歌 比喩 恋愛
訓異 ゆだねまく;ゆたねまき, あらきのをだを;あらきのをたを, あゆひいでぬれぬ;あゆいてぬれぬ,
   
  07/1111
題詞 (詠河)
原文 古毛 如此聞乍哉 偲兼 此古河之 清瀬之音矣
訓読 いにしへもかく聞きつつか偲ひけむこの布留川の清き瀬の音を
仮名 いにしへも かくききつつか しのひけむ このふるがはの きよきせのとを
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 天理 地名 土地讃美
訓異 かくききつつか;かくききつつや, このふるがはの;このふるかはの, きよきせのとを;きよきせのおとを,
   
  07/1112
題詞 (詠河)
原文 波祢蘰 今為妹乎 浦若三 去来率去河之 音之清左
訓読 はねかづら今する妹をうら若みいざ率川の音のさやけさ
仮名 はねかづら いまするいもを うらわかみ いざいさかはの おとのさやけさ
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 奈良 地名 土地讃美
訓異 はねかづら;はねかつら, いざいさかはの;いさいさかはの,
   
  07/1113
題詞 (詠河)
原文 此小川 白氣結 瀧至 八信井上尓 事上不為友
訓読 この小川霧ぞ結べるたぎちゆく走井の上に言挙げせねども
仮名 このをがは きりぞむすべる たぎちたる はしりゐのへに ことあげせねども
左注 なし
校異 瀧 [元][類][古] 流
事項 雑歌
訓異 このをがは;このおかは, きりぞむすべる;きりそむすへる, たぎちたる;たきちゆく, はしりゐのへに;はしりゐのうへに, ことあげせねども;ことあけせねとも,
   
  07/1114
題詞 (詠河)
原文 吾紐乎 妹手以而 結八川 又還見 万代左右荷
訓読 我が紐を妹が手もちて結八川またかへり見む万代までに
仮名 わがひもを いもがてもちて ゆふやがは またかへりみむ よろづよまでに
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 序詞 地名 土地讃美
訓異 わがひもを;わかひもを, いもがてもちて;いもかてもちて, ゆふやがは;ゆふはかは, よろづよまでに;よろつよまてに,
   
  07/1115
題詞 (詠河)
原文 妹之紐 結八<河>内乎 古之 并人見等 此乎誰知
訓読 妹が紐結八河内をいにしへのみな人見きとここを誰れ知る
仮名 いもがひも ゆふやかふちを いにしへの みなひとみきと ここをたれしる
左注 なし
校異 川→河 [元][類][古][紀]
事項 雑歌 序詞 土地讃美 地名
訓異 いもがひも;いもかひも, ゆふやかふちを;ゆふはかうちを, ここをたれしる;これをたれしる,
   
  07/1116
題詞 詠露
題訓 露を詠める
原文 烏玉之 吾黒髪尓 落名積 天之露霜 取者消乍
訓読 ぬばたまの我が黒髪に降りなづむ天の露霜取れば消につつ
仮名 ぬばたまの わがくろかみに ふりなづむ あめのつゆしも とればけにつつ
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 枕詞
訓異 ぬばたまの;ぬはたまの, わがくろかみに;わかくろかみに, ふりなづむ;ふりなつむ, あめのつゆしも;あまのつえしも, とればけにつつ;とれはきえつつ,
   
  07/1117
題詞 詠花
題訓 花を詠める
原文 嶋廻為等 礒尓見之花 風吹而 波者雖縁 不取不止
訓読 島廻すと磯に見し花風吹きて波は寄すとも採らずはやまじ
仮名 しまみすと いそにみしはな かぜふきて なみはよすとも とらずはやまじ
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌
訓異 しまみすと;あさりすと, かぜふきて;かせふきて, なみはよすとも;なみはよるとも, とらずはやまじ;とらすはやまし,
   
  07/1118
題詞 詠葉
題訓 葉を詠める
原文 古尓 有險人母 如吾等架 弥和乃桧原尓 挿頭折兼
訓読 いにしへにありけむ人も我がごとか三輪の桧原にかざし折りけむ
仮名 いにしへに ありけむひとも わがごとか みわのひはらに かざしをりけむ
左注 (右二首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
校異 なし
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 三輪山 奈良 非略体 地名 悲嘆
訓異 わがごとか;わかことか, みわのひはらに;みわのひのくに, かざしをりけむ;かさしをりけむ,
   
  07/1119
題詞 (詠葉)
原文 徃川之 過去人之 手不折者 裏觸立 三和之桧原者
訓読 行く川の過ぎにし人の手折らねばうらぶれ立てり三輪の桧原は
仮名 ゆくかはの すぎにしひとの たをらねば うらぶれたてり みわのひはらは
左注 右二首柿本朝臣人麻呂之歌集出
左注訓 右ノ二首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 三輪山 奈良 非略体 地名 悲嘆
訓異 すぎにしひとの;すきゆくひとの, たをらねば;たをらねは, うらぶれたてり;うらふれたてり,
   
  07/1120
題詞 詠蘿
題訓 蘿こけを詠める
原文 三芳野之 青根我峯之 蘿席 誰将織 經緯無二
訓読 み吉野の青根が岳の蘿むしろ誰れか織りけむ経緯なしに
仮名 みよしのの あをねがたけの こけむしろ たれかおりけむ たてぬきなしに
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 吉野 地名 土地讃美
訓異 みよしのの;みよしのは, あをねがたけの;あをねかみねの, たれかおりけむ;たれかをりけむ,
   
  07/1121
題詞 詠草
題訓 草を詠める
原文 妹<等所> 我通路 細竹為酢寸 我通 靡細竹原
訓読 妹らがり我が通ひ道の小竹すすき我れし通はば靡け小竹原
仮名 いもらがり わがかよひぢの しのすすき われしかよはば なびけしのはら
左注 なし
校異 所等→等所
事項 雑歌 植物 恋情
訓異 いもらがり;いもかりと, わがかよひぢの;わかかよひちの, われしかよはば;われしかよはは, なびけしのはら;なひけしのはら,
   
  07/1122
題詞 詠鳥
題訓 鳥を詠める
原文 山際尓 渡秋沙乃 <行>将居 其河瀬尓 浪立勿湯目
訓読 山の際に渡るあきさの行きて居むその川の瀬に波立つなゆめ
仮名 やまのまに わたるあきさの ゆきてゐむ そのかはのせに なみたつなゆめ
左注 なし
校異 徃→行 [類][紀]
事項 雑歌 動物 序詞
訓異 やまのまに;やまのはに, そのかはのせに;そのなはのせに,
   
  07/1123
題詞 (詠鳥)
原文 佐保河之 清河原尓 鳴<知>鳥 河津跡二 忘金都毛
訓読 佐保川の清き川原に鳴く千鳥かはづと二つ忘れかねつも
仮名 さほがはの きよきかはらに なくちどり かはづとふたつ わすれかねつも
左注 なし
校異 智→知 [類][紀][細]
事項 雑歌 奈良 地名 動物 恋情
訓異 さほがはの;さほかはの, なくちどり;なくちとり, かはづとふたつ;かはつとふたつ,
   
  07/1124
題詞 (詠鳥)
原文 佐保<川>尓 小驟千鳥 夜三更而 尓音聞者 宿不難尓
訓読 佐保川に騒ける千鳥さ夜更けて汝が声聞けば寐ねかてなくに
仮名 さほがはに さわけるちどり さよふけて ながこゑきけば いねかてなくに
左注 なし
校異 河→川 [類][紀][温]
事項 雑歌 奈良 動物 地名 恋情
訓異 さほがはに;さほかはに, さわけるちどり;あそふちとりの, ながこゑきけば;そのこゑきけは, いねかてなくに;いねられなくに,
   
  07/1125
題詞 思故郷
題訓 故郷ふるさとを思しぬふ
原文 清湍尓 千鳥妻喚 山際尓 霞立良武 甘南備乃里
訓読 清き瀬に千鳥妻呼び山の際に霞立つらむ神なびの里
仮名 きよきせに ちどりつまよび やまのまに かすみたつらむ かむなびのさと
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 飛鳥 地名 動物
訓異 ちどりつまよび;ちとりつまよふ, やまのまに;やまのはに, かむなびのさと;かみなひのさと,
   
  07/1126
題詞 (思故郷)
原文 年月毛 末經尓 明日香<川> 湍瀬由渡之 石走無
訓読 年月もいまだ経なくに明日香川瀬々ゆ渡しし石橋もなし
仮名 としつきも いまだへなくに あすかがは せぜゆわたしし いしはしもなし
左注 なし
校異 河→川 [類][紀][古][紀]
事項 雑歌 飛鳥 地名
訓異 いまだへなくに;いまたへなくに, あすかがは;あすかかは, せぜゆわたしし;せせにわたしし,
   
  07/1127
題詞 詠井
題訓 井を詠める
原文 隕田寸津 走井水之 清有者 <癈>者吾者 去不勝可聞
訓読 落ちたぎつ走井水の清くあれば置きては我れは行きかてぬかも
仮名 おちたぎつ はしりゐみづの きよくあれば おきてはわれは ゆきかてぬかも
左注 なし
校異 度→癈 [元][類][古]
事項 雑歌 地名
訓異 おちたぎつ;おちたきつ, はしりゐみづの;はしりゐみつの, きよくあれば;きよけれは, おきてはわれは;わたらはわれは,
   
  07/1128
題詞 (詠井)
原文 安志妣成 榮之君之 穿之井之 石井之水者 雖飲不飽鴨
訓読 馬酔木なす栄えし君が掘りし井の石井の水は飲めど飽かぬかも
仮名 あしびなす さかえしきみが ほりしゐの いしゐのみづは のめどあかぬかも
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 地名
訓異 あしびなす;あしひなる, さかえしきみが;さかえしきみか, ほりしゐの;ほりしゐの, いしゐのみづは;いはゐのみつは, のめどあかぬかも;のめとあかぬかも,
   
  07/1129
題詞 詠<倭>琴
題訓 和琴やまとことを詠める
原文 琴取者 嘆先立 盖毛 琴之下樋尓 嬬哉匿有
訓読 琴取れば嘆き先立つけだしくも琴の下樋に妻や隠れる
仮名 こととれば なげきさきだつ けだしくも ことのしたびに つまやこもれる
左注 なし
校異 和→倭 [元][類][紀][温]
事項 雑歌 恋愛
訓異 こととれば;こととれは, なげきさきだつ;なけきさきたつ, けだしくも;けたしくも, ことのしたびに;ことのしたひに,
   
  07/1130
題詞 芳野作
題訓 芳野にてよめる
原文 神左振 磐根己凝敷 三芳野之 水分山乎 見者悲毛
訓読 神さぶる岩根こごしきみ吉野の水分山を見れば悲しも
仮名 かむさぶる いはねこごしき みよしのの みくまりやまを みればかなしも
左注 なし
校異 凝 [類][古][紀] 疑
事項 雑歌 吉野 羈旅 地名
訓異 かむさぶる;かみさふる, いはねこごしき;いはねここしき, みくまりやまを;みつわけやまを, みればかなしも;みれはかなしも,
   
  07/1131
題詞 (芳野作)
原文 皆人之 戀三<芳>野 今日見者 諾母戀来 山川清見
訓読 皆人の恋ふるみ吉野今日見ればうべも恋ひけり山川清み
仮名 みなひとの こふるみよしの けふみれば うべもこひけり やまかはきよみ
左注 なし
校異 吉→芳 [元][類][紀]
事項 雑歌 吉野 羈旅 地名 恋情 土地讃美
訓異 けふみれば;けふみれは, うべもこひけり;うへもこひけり,
   
  07/1132
題詞 (芳野作)
原文 夢乃和太 事西在来 寤毛 見而来物乎 念四念者
訓読 夢のわだ言にしありけりうつつにも見て来るものを思ひし思へば
仮名 いめのわだ ことにしありけり うつつにも みてけるものを おもひしおもへば
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 吉野 羈旅 地名
訓異 いめのわだ;ゆめのわた, みてけるものを;みてこしものを, おもひしおもへば;おもひしおもへは,
   
  07/1133
題詞 (芳野作)
原文 皇祖神之 神宮人 冬薯蕷葛 弥常敷尓 吾反将見
訓読 すめろきの神の宮人ところづらいやとこしくに我れかへり見む
仮名 すめろきの かみのみやひと ところづら いやとこしくに われかへりみむ
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 吉野 地名 土地讃美
訓異 ところづら;さねかつら, いやとこしくに;いやとこしきに,
   
  07/1134
題詞 (芳野作)
原文 能野川 石迹柏等 時齒成 吾者通 万世左右二
訓読 吉野川巌と栢と常磐なす我れは通はむ万代までに
仮名 よしのがは いはとかしはと ときはなす われはかよはむ よろづよまでに
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 吉野 地名 土地讃美
訓異 よしのがは;よしのかは, ときはなす;ときはなる, よろづよまでに;よろつよまてに,
   
  07/1135
題詞 山背作
題訓 山背にてよめる
原文 氏河齒 与杼湍無之 阿自呂人 舟召音 越乞所聞
訓読 宇治川は淀瀬なからし網代人舟呼ばふ声をちこち聞こゆ
仮名 うぢがはは よどせなからし あじろひと ふねよばふこゑ をちこちきこゆ
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 京都 羈旅 地名 叙景
訓異 うぢがはは;うちかははろろ, よどせなからし;よとせなからし, あじろひと;あしろひと, ふねよばふこゑ;ふねよらこゑは,
   
  07/1136
題詞 (山背作)
原文 氏河尓 生菅藻乎 河早 不取来尓家里 褁為益緒
訓読 宇治川に生ふる菅藻を川早み採らず来にけりつとにせましを
仮名 うぢがはに おふるすがもを かははやみ とらずきにけり つとにせましを
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 京都 羈旅 地名
訓異 うぢがはに;うちかはに, おふるすがもを;おふるすかもを, とらずきにけり;とらてきにけり, つとにせましを;つとにしましを,
   
  07/1137
題詞 (山背作)
原文 氏人之 譬乃足白 吾在者 今齒<与>良増 木積不来友
訓読 宇治人の譬への網代我れならば今は寄らまし木屑来ずとも
仮名 うぢひとの たとへのあじろ われならば いまはよらまし こつみこずとも
左注 なし
校異 王→与 [万葉集略解] (塙[古義捄よる]) 生
事項 雑歌 京都 羈旅 地名
訓異 うぢひとの;うちひとの, たとへのあじろ;たとへのあしろ, われならば;われなれは, いまはよらまし;いまはきよらそ, こつみこずとも;こつみこすとも,
   
  07/1138
題詞 (山背作)
原文 氏河乎 船令渡呼跡 雖喚 不所聞有之 楫音毛不為
訓読 宇治川を舟渡せをと呼ばへども聞こえざるらし楫の音もせず
仮名 うぢがはを ふねわたせをと よばへども きこえざるらし かぢのともせず
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 京都 羈旅 地名
訓異 うぢがはを;うちかはを, よばへども;よはへとも, きこえざるらし;きこへさるらし, かぢのともせず;かちのおともせす,
   
  07/1139
題詞 (山背作)
原文 千早人 氏川浪乎 清可毛 旅去人之 立難為
訓読 ちはや人宇治川波を清みかも旅行く人の立ちかてにする
仮名 ちはやひと うぢがはなみを きよみかも たびゆくひとの たちかてにする
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 京都 羈旅 地名
訓異 うぢがはなみを;うちかはなみを, きよみかも;きよしかも, たびゆくひとの;たひゆくひとの,
   
  07/1140
題詞 攝津作
題訓 摂津つのくににてよめる
原文 志長鳥 居名野乎来者 有間山 夕霧立 宿者無<而> [一本云 猪名乃浦廻乎 榜来者]
訓読 しなが鳥猪名野を来れば有馬山夕霧立ちぬ宿りはなくて [一本云 猪名の浦みを漕ぎ来れば]
仮名 しながどり ゐなのをくれば ありまやま ゆふぎりたちぬ やどりはなくて [ゐなのうらみを こぎくれば]
左注 なし
校異 為→而 [元][類][紀]
事項 雑歌 兵庫 大阪 羈旅 動物 地名
訓異 しながどり;しなかとり, ゐなのをくれば;ゐなのをくれは, ゆふぎりたちぬ;ゆふきりたちぬ, やどりはなくて;やとはなくして, [ゐなのうらみを;ゐなのうらわを, こぎくれば];こきくれは,
   
  07/1141
題詞 (攝津作)
原文 武庫河 水尾急<> 赤駒 足何久激 沾祁流鴨
訓読 武庫川の水脈を早みと赤駒の足掻くたぎちに濡れにけるかも
仮名 むこがはの みををはやみと あかごまの あがくたぎちに ぬれにけるかも
左注 なし
校異 嘉→<> [元][類]
事項 雑歌 兵庫 大阪 羈旅 地名
訓異 むこがはの;むこかはの, みををはやみと;みつをはやみか, あかごまの;あかこまの, あがくたぎちに;あかくそそきに,
   
  07/1142
題詞 (攝津作)
原文 命 幸久吉 石流 垂水々乎 結飲都
訓読 命をし幸くよけむと石走る垂水の水をむすびて飲みつ
仮名 いのちをし さきくよけむと いはばしる たるみのみづを むすびてのみつ
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 大阪 羈旅 地名
訓異 いのちをし;いのちさち, さきくよけむと;ひさしきよしも, いはばしる;いはそそく, たるみのみづを;たるみのみつを, むすびてのみつ;むすひてのみつ,
   
  07/1143
題詞 (攝津作)
原文 作夜深而 穿江水手鳴 松浦船 梶音高之 水尾早見鴨
訓読 さ夜更けて堀江漕ぐなる松浦舟楫の音高し水脈早みかも
仮名 さよふけて ほりえこぐなる まつらぶね かぢのおとたかし みをはやみかも
左注 なし
校異 船 [類][古][温] 舟
事項 雑歌 大阪 羈旅 地名 叙景
訓異 ほりえこぐなる;ほりえこくなる, まつらぶね;まつらふね, かぢのおとたかし;かちおとたかし,
   
  07/1144
題詞 (攝津作)
原文 悔毛 満奴流塩鹿 墨江之 岸乃浦廻従 行益物乎
訓読 悔しくも満ちぬる潮か住吉の岸の浦廻ゆ行かましものを
仮名 くやしくも みちぬるしほか すみのえの きしのうらみゆ ゆかましものを
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 大阪 羈旅 地名
訓異 きしのうらみゆ;きしのうらわに,
   
  07/1145
題詞 (攝津作)
原文 為妹 貝乎拾等 陳奴乃海尓 所沾之袖者 雖涼常不干
訓読 妹がため貝を拾ふと茅渟の海に濡れにし袖は干せど乾かず
仮名 いもがため かひをひりふと ちぬのうみに ぬれにしそでは ほせどかわかず
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 大阪 羈旅 地名
訓異 いもがため;いもかため, かひをひりふと;かひをひろふと, ぬれにしそでは;ぬれにしそては, ほせどかわかず;ほせとかはかす,
   
  07/1146
題詞 (攝津作)
原文 目頬敷 人乎吾家尓 住吉之 岸乃黄土 将見因毛欲得
訓読 めづらしき人を我家に住吉の岸の埴生を見むよしもがも
仮名 めづらしき ひとをわぎへに すみのえの きしのはにふを みむよしもがも
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 大阪 羈旅 地名
訓異 めづらしき;めつらしき, ひとをわぎへに;ひとをわかいへに, みむよしもがも;みむよしもかな,
   
  07/1147
題詞 (攝津作)
原文 暇有者 拾尓将徃 住吉之 岸因云 戀忘貝
訓読 暇あらば拾ひに行かむ住吉の岸に寄るといふ恋忘れ貝
仮名 いとまあらば ひりひにゆかむ すみのえの きしによるといふ こひわすれがひ
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 大阪 羈旅 地名 動物
訓異 いとまあらば;いとまあらは, ひりひにゆかむ;ひろひにゆかむ, きしによるといふ;きしによるてふ, こひわすれがひ;こひわすれかひ,
   
  07/1148
題詞 (攝津作)
原文 馬雙而 今日吾見鶴 住吉之 岸之黄土 於万世見
訓読 馬並めて今日我が見つる住吉の岸の埴生を万代に見む
仮名 うまなめて けふわがみつる すみのえの きしのはにふを よろづよにみむ
左注 なし
校異 馬 [元][類](塙) 駒
事項 雑歌 大阪 羈旅 土地讃美 地名
訓異 けふわがみつる;けふわかみつる, よろづよにみむ;よろつよにみむ,
   
  07/1149
題詞 (攝津作)
原文 住吉尓 徃云道尓 昨日見之 戀忘貝 事二四有家里
訓読 住吉に行くといふ道に昨日見し恋忘れ貝言にしありけり
仮名 すみのえに ゆくといふみちに きのふみし こひわすれがひ ことにしありけり
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 大阪 羈旅 望郷 地名 動物
訓異 こひわすれがひ;こひわすれかひ,
   
  07/1150
題詞 (攝津作)
原文 墨吉之 岸尓家欲得 奥尓邊尓 縁白浪 見乍将思
訓読 住吉の岸に家もが沖に辺に寄する白波見つつ偲はむ
仮名 すみのえの きしにいへもが おきにへに よするしらなみ みつつしのはむ
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 大阪 羈旅 望郷 地名
訓異 きしにいへもが;きしにいへもか, みつつしのはむ;みつつおもはむ,
   
  07/1151
題詞 (攝津作)
原文 大伴之 三津之濱邊乎 打曝 因来浪之 逝方不知毛
訓読 大伴の御津の浜辺をうちさらし寄せ来る波のゆくへ知らずも
仮名 おほともの みつのはまへを うちさらし よせくるなみの ゆくへしらずも
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 大阪 羈旅 地名 不安
訓異 ゆくへしらずも;ゆくへしらすも,
   
  07/1152
題詞 (攝津作)
原文 梶之音曽 髣髴為鳴 海末通女 奥藻苅尓 舟出為等思母 [一云 暮去者 梶之音為奈利]
訓読 楫の音ぞほのかにすなる海人娘子沖つ藻刈りに舟出すらしも [一云 夕されば楫の音すなり]
仮名 かぢのおとぞ ほのかにすなる あまをとめ おきつもかりに ふなですらしも [ゆふされば かぢのおとすなり]
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 大阪 羈旅 地名
訓異 かぢのおとぞ;かちのおとそ, ふなですらしも;ふなてすらしも, [ゆふされば;ゆふされは, かぢのおとすなり];かちのおとすなり,
   
  07/1153
題詞 (攝津作)
原文 住吉之 名兒之濱邊尓 馬立而 玉拾之久 常不所忘
訓読 住吉の名児の浜辺に馬立てて玉拾ひしく常忘らえず
仮名 すみのえの なごのはまへに うまたてて たまひりひしく つねわすらえず
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 大阪 羈旅 地名
訓異 なごのはまへに;なこのはまへに, たまひりひしく;たまひろひしく, つねわすらえず;つねわすられす,
   
  07/1154
題詞 (攝津作)
原文 雨者零 借廬者作 何暇尓 吾兒之塩干尓 玉者将拾
訓読 雨は降る仮廬は作るいつの間に吾児の潮干に玉は拾はむ
仮名 あめはふる かりいほはつくる いつのまに あごのしほひに たまはひりはむ
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 大阪 羈旅 地名
訓異 かりいほはつくる;かりほはつくる, あごのしほひに;なこのしほひに, たまはひりはむ;たまはひろはむ,
   
  07/1155
題詞 (攝津作)
原文 奈呉乃海之 朝開之奈凝 今日毛鴨 礒之浦廻尓 乱而将有
訓読 名児の海の朝明のなごり今日もかも磯の浦廻に乱れてあるらむ
仮名 なごのうみの あさけのなごり けふもかも いそのうらみに みだれてあるらむ
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 大阪 羈旅 地名
訓異 なごのうみの;なこのうみの, あさけのなごり;あさけのなこり, いそのうらみに;いそのうらわに, みだれてあるらむ;みたれてあらむ,
   
  07/1156
題詞 (攝津作)
原文 住吉之 遠里小野之 真榛以 須礼流衣乃 盛過去
訓読 住吉の遠里小野の真榛もち摺れる衣の盛り過ぎゆく
仮名 すみのえの とほさとをのの まはりもち すれるころもの さかりすぎゆく
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 大阪 羈旅 地名
訓異 まはりもち;まはきもて, さかりすぎゆく;さかりすきゆく,
   
  07/1157
題詞 (攝津作)
原文 時風 吹麻久不知 阿胡乃海之 朝明之塩尓 玉藻苅奈
訓読 時つ風吹かまく知らず吾児の海の朝明の潮に玉藻刈りてな
仮名 ときつかぜ ふかまくしらず あごのうみの あさけのしほに たまもかりてな
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 大阪 羈旅 地名
訓異 ときつかぜ;ときつかせ, ふかまくしらず;ふかまくしらす, あごのうみの;あこのうみの,
   
  07/1158
題詞 (攝津作)
原文 住吉之 奥津白浪 風吹者 来依留濱乎 見者浄霜
訓読 住吉の沖つ白波風吹けば来寄する浜を見れば清しも
仮名 すみのえの おきつしらなみ かぜふけば きよするはまを みればきよしも
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 大阪 羈旅 地名 土地讃美
訓異 かぜふけば;かせふけは, みればきよしも;みれはきよしも,
   
  07/1159
題詞 (攝津作)
原文 住吉之 岸之松根 打曝 縁来浪之 音之清羅
訓読 住吉の岸の松が根うちさらし寄せ来る波の音のさやけさ
仮名 すみのえの きしのまつがね うちさらし よせくるなみの おとのさやけさ
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 大阪 羈旅 地名 土地讃美
訓異 きしのまつがね;きしのまつかね, よせくるなみの;よりくるなみの,
   
  07/1160
題詞 (攝津作)
原文 難波方 塩干丹立而 見渡者 淡路嶋尓 多豆渡所見
訓読 難波潟潮干に立ちて見わたせば淡路の島に鶴渡る見ゆ
仮名 なにはがた しほひにたちて みわたせば あはぢのしまに たづわたるみゆ
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 大阪 羈旅 地名 叙景 動物
訓異 なにはがた;なにはかた, みわたせば;みわたせは, あはぢのしまに;あはちのしまに, たづわたるみゆ;たつわたるみゆ,
   
  07/1161
題詞 覊旅作
題訓 覊旅たびにてよめる
原文 離家 旅西在者 秋風 寒暮丹 鴈喧<度>
訓読 家離り旅にしあれば秋風の寒き夕に雁鳴き渡る
仮名 いへざかり たびにしあれば あきかぜの さむきゆふへに かりなきわたる
左注 なし
校異 渡→度 [元][類][紀]
事項 雑歌 羈旅 羈旅 動物 叙景
訓異 いへざかり;いへさかり, たびにしあれば;たひにしあれは, あきかぜの;あきかせの,
   
  07/1162
題詞 (覊旅作)
原文 圓方之 湊之渚鳥 浪立也 妻唱立而 邊近著毛
訓読 円方の港の洲鳥波立てや妻呼びたてて辺に近づくも
仮名 まとかたの みなとのすどり なみたてや つまよびたてて へにちかづくも
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 羈旅 三重県 松坂 地名 叙景
訓異 みなとのすどり;みなとのすとり, なみたてや;なみたては, つまよびたてて;つまよひたてて, へにちかづくも;へにちかつくも,
   
  07/1163
題詞 (覊旅作)
原文 年魚市方 塩干家良思 知多乃浦尓 朝榜舟毛 奥尓依所見
訓読 年魚市潟潮干にけらし知多の浦に朝漕ぐ舟も沖に寄る見ゆ
仮名 あゆちがた しほひにけらし ちたのうらに あさこぐふねも おきによるみゆ
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 名古屋 愛知 羈旅 叙景 地名
訓異 あゆちがた;あゆちかた, あさこぐふねも;あさこくふねも,
   
  07/1164
題詞 (覊旅作)
原文 塩干者 共滷尓出 鳴鶴之 音遠放 礒廻為等霜
訓読 潮干ればともに潟に出で鳴く鶴の声遠ざかる磯廻すらしも
仮名 しほふれば ともにかたにいで なくたづの こゑとほざかる いそみすらしも
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 羈旅 動物 叙景
訓異 しほふれば;しほひれは, ともにかたにいで;ともかたにいてて, なくたづの;なくたつの, こゑとほざかる;おととほさかる, いそみすらしも;あさりすらしも,
   
  07/1165
題詞 (覊旅作)
原文 暮名寸尓 求食為鶴 塩満者 奥浪高三 己妻喚
訓読 夕なぎにあさりする鶴潮満てば沖波高み己妻呼ばふ
仮名 ゆふなぎに あさりするたづ しほみてば おきなみたかみ おのづまよばふ
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 羈旅 動物 叙景
訓異 ゆふなぎに;ゆふなきに, あさりするたづ;あさりするたつ, しほみてば;しほみては, おのづまよばふ;おのかつまよふ,
   
  07/1166
題詞 (覊旅作)
原文 古尓 有監人之 覓乍 衣丹揩牟 真野之榛原
訓読 いにしへにありけむ人の求めつつ衣に摺りけむ真野の榛原
仮名 いにしへに ありけむひとの もとめつつ きぬにすりけむ まののはりはら
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 羈旅 神戸 兵庫 地名 植物
訓異 ありけむひとの;ありけんひとの, まののはりはら;まののはきはら,
   
  07/1167
題詞 (覊旅作)
原文 朝入為等 礒尓吾見之 莫告藻乎 誰嶋之 白水郎可将苅
訓読 あさりすと礒に我が見しなのりそをいづれの島の海人か刈りけむ
仮名 あさりすと いそにわがみし なのりそを いづれのしまの あまかかりけむ
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 羈旅 植物 比喩
訓異 いそにわがみし;いそにわかみし, いづれのしまの;いつれのしまの, あまかかりけむ;あまかかるらむ,
   
  07/1168
題詞 (覊旅作)
原文 今日毛可母 奥津玉藻者 白浪之 八重折之於丹 乱而将有
訓読 今日もかも沖つ玉藻は白波の八重をるが上に乱れてあるらむ
仮名 けふもかも おきつたまもは しらなみの やへをるがうへに みだれてあるらむ
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 羈旅 植物
訓異 やへをるがうへに;やへおりのうへに, みだれてあるらむ;みたれたるらむ,
   
  07/1169
題詞 (覊旅作)
原文 近江之海 湖者八十 何尓加 <公>之舟泊 草結兼
訓読 近江の海港は八十ちいづくにか君が舟泊て草結びけむ
仮名 あふみのうみ みなとはやそち いづくにか きみがふねはて くさむすびけむ
左注 なし
校異 君→公 [類][古][紀][温]
事項 雑歌 羈旅 滋賀 地名
訓異 いづくにか;いつくにか, きみがふねはて;きみかふねはて, くさむすびけむ;くさむすひけむ,
   
  07/1170
題詞 (覊旅作)
原文 佐左浪乃 連庫山尓 雲居者 雨會零智否 反来吾背
訓読 楽浪の連庫山に雲居れば雨ぞ降るちふ帰り来我が背
仮名 ささなみの なみくらやまに くもゐれば あめぞふるちふ かへりこわがせ
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 滋賀 羈旅 地名 恋情
訓異 くもゐれば;くもゐては, あめぞふるちふ;あめそふるてふ, かへりこわがせ;かへりこわかせ,
   
  07/1171
題詞 (覊旅作)
原文 大御舟 竟而佐守布 高嶋之 三尾勝野之 奈伎左思所念
訓読 大御船泊ててさもらふ高島の三尾の勝野の渚し思ほゆ
仮名 おほみふね はててさもらふ たかしまの みをのかつのの なぎさしおもほゆ
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 羈旅 滋賀 地名
訓異 みをのかつのの;みをのかちのの, なぎさしおもほゆ;なきさしそおもふ,
   
  07/1172
題詞 (覊旅作)
原文 何處可 舟乗為家牟 高嶋之 香取乃浦従 己藝出来船
訓読 いづくにか舟乗りしけむ高島の香取の浦ゆ漕ぎ出来る舟
仮名 いづくにか ふなのりしけむ たかしまの かとりのうらゆ こぎでくるふね
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 羈旅 滋賀 地名
訓異 いづくにか;いつこにか, かとりのうらゆ;かとりのうらに, こぎでくるふね;こきいてくるふね,
   
  07/1173
題詞 (覊旅作)
原文 斐太人之 真木流云 尓布乃河 事者雖通 船會不通
訓読 飛騨人の真木流すといふ丹生の川言は通へど舟ぞ通はぬ
仮名 ひだひとの まきながすといふ にふのかは ことはかよへど ふねぞかよはぬ
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 羈旅 岐阜県 小八賀川 謡物 地名
訓異 ひだひとの;ひたひとの, まきながすといふ;まきなかすてふ, ことはかよへど;ことはかよへと, ふねぞかよはぬ;ふねそかよはぬ,
   
  07/1174
題詞 (覊旅作)
原文 霰零 鹿嶋之埼乎 浪高 過而夜将行 戀敷物乎
訓読 霰降り鹿島の崎を波高み過ぎてや行かむ恋しきものを
仮名 あられふり かしまのさきを なみたかみ すぎてやゆかむ こほしきものを
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 羈旅 茨城 土地讃美 地名 枕詞
訓異 すぎてやゆかむ;すきてやゆかむ, こほしきものを;こひしきものを,
   
  07/1175
題詞 (覊旅作)
原文 足柄乃 筥根飛超 行鶴乃 乏見者 日本之所念
訓読 足柄の箱根飛び越え行く鶴の羨しき見れば大和し思ほゆ
仮名 あしがらの はこねとびこえ ゆくたづの ともしきみれば やまとしおもほゆ
左注 なし
校異 1176柒順序入悞替譙 [元][紀]
事項 雑歌 羈旅 神奈川 望郷 動物 地名
訓異 あしがらの;あしからの, はこねとびこえ;はこねとひこえ, ゆくたづの;ゆくたつの, ともしきみれば;ともしきみれは,
   
  07/1176
題詞 (覊旅作)
原文 夏麻引 海上滷乃 <奥>洲尓 鳥<者>簀竹跡 君者音文不為
訓読 夏麻引く海上潟の沖つ洲に鳥はすだけど君は音もせず
仮名 なつそびく うなかみがたの おきつすに とりはすだけど きみはおともせず
左注 なし
校異 奥津→奥 [元][類][紀] / <>→者 [西(右書)][元][類][紀] / 君者 [類][古][紀] 君
事項 雑歌 羈旅 千葉 地名 動物
訓異 なつそびく;なつそひく, うなかみがたの;うなかみかたの, とりはすだけど;とりはすたけと, きみはおともせず;きみはおともせす,
   
  07/1177
題詞 (覊旅作)
原文 若狭在 三方之海之 濱清美 伊徃變良比 見跡不飽可聞
訓読 若狭なる三方の海の浜清みい行き帰らひ見れど飽かぬかも
仮名 わかさなる みかたのうみの はまきよみ いゆきかへらひ みれどあかぬかも
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 羈旅 福井 土地讃美 地名
訓異 みれどあかぬかも;みれとあかぬかも,
   
  07/1178
題詞 (覊旅作)
原文 印南野者 徃過奴良之 天傳 日笠浦 波立見 [一云 思賀麻江者 許藝須疑奴良思]
訓読 印南野は行き過ぎぬらし天伝ふ日笠の浦に波立てり見ゆ [一云 飾磨江は漕ぎ過ぎぬらし]
仮名 いなみのは ゆきすぎぬらし あまづたふ ひかさのうらに なみたてりみゆ [しかまえは こぎすぎぬらし]
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 羈旅 兵庫 地名 叙景
訓異 ゆきすぎぬらし;ゆきすきぬらし, あまづたふ;あまつたふ, なみたてりみゆ;なみたてるみゆ, こぎすぎぬらし];こきすきぬらし,
   
  07/1179
題詞 (覊旅作)
原文 家尓之弖 吾者将戀名 印南野乃 淺茅之上尓 照之月夜乎
訓読 家にして我れは恋ひむな印南野の浅茅が上に照りし月夜を
仮名 いへにして あれはこひむな いなみのの あさぢがうへに てりしつくよを
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 羈旅 兵庫 土地讃美 地名
訓異 あれはこひむな;われはこひむな, あさぢがうへに;あさちかうへに, てりしつくよを;てりしつきよを,
   
  07/1180
題詞 (覊旅作)
原文 荒礒超 浪乎恐見 淡路嶋 不見哉将過<去> 幾許近乎
訓読 荒磯越す波を畏み淡路島見ずか過ぎなむここだ近きを
仮名 ありそこす なみをかしこみ あはぢしま みずかすぎなむ ここだちかきを
左注 なし
校異 <>→去 [元][類][古][紀]
事項 雑歌 羈旅 兵庫 地名
訓異 ありそこす;あらいそこす, あはぢしま;あはちしま, みずかすぎなむ;みすてやすきむ, ここだちかきを;ここたちかきを,
   
  07/1181
題詞 (覊旅作)
原文 朝霞 不止軽引 龍田山 船出将為日者 吾将戀香聞
訓読 朝霞止まずたなびく龍田山舟出せむ日は我れ恋ひむかも
仮名 あさかすみ やまずたなびく たつたやま ふなでしなむひ あれこひむかも
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 羈旅 龍田 奈良 地名
訓異 やまずたなびく;やますたなひく, ふなでしなむひ;ふなてせむひは, あれこひむかも;われこひむかも,
   
  07/1182
題詞 (覊旅作)
原文 海人小船 帆毳張流登 見左右荷 鞆之浦廻二 浪立有所見
訓読 海人小舟帆かも張れると見るまでに鞆の浦廻に波立てり見ゆ
仮名 あまをぶね ほかもはれると みるまでに とものうらみに なみたてりみゆ
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 羈旅 広島 鞆嬥浦 地名 叙景
訓異 あまをぶね;あまをふね, みるまでに;みるまてに, とものうらみに;とものうらわに, なみたてりみゆ;なみたてるみゆ,
   
  07/1183
題詞 (覊旅作)
原文 好去而 亦還見六 大夫乃 手二巻持在 鞆之浦廻乎
訓読 ま幸くてまたかへり見む大夫の手に巻き持てる鞆の浦廻を
仮名 まさきくて またかへりみむ ますらをの てにまきもてる とものうらみを
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 羈旅 広島 鞆嬥浦 地名
訓異 まさきくて;よしゆきて, てにまきもてる;てにまきもたる, とものうらみを;とものうらわを,
   
  07/1184
題詞 (覊旅作)
原文 鳥自物 海二浮居而 <奥>浪 驂乎聞者 數悲哭
訓読 鳥じもの海に浮き居て沖つ波騒くを聞けばあまた悲しも
仮名 とりじもの うみにうきゐて おきつなみ さわくをきけば あまたかなしも
左注 なし
校異 奥津→奥 [元][類][古][紀]
事項 雑歌 羈旅
訓異 とりじもの;とりしもの, さわくをきけば;さわくをきけは,
   
  07/1185
題詞 (覊旅作)
原文 朝菜寸二 真梶榜出而 見乍来之 三津乃松原 浪越似所見
訓読 朝なぎに真楫漕ぎ出て見つつ来し御津の松原波越しに見ゆ
仮名 あさなぎに まかぢこぎでて みつつこし みつのまつばら なみごしにみゆ
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 羈旅 難波 大阪 地名 叙景
訓異 あさなぎに;あさなきに, まかぢこぎでて;まかちこきいてて, みつのまつばら;みつのまつはら, なみごしにみゆ;なみこしにみゆ,
   
  07/1186
題詞 (覊旅作)
原文 朝入為流 海未通女等之 袖通 沾西衣 雖干跡不乾
訓読 あさりする海人娘子らが袖通り濡れにし衣干せど乾かず
仮名 あさりする あまをとめらが そでとほり ぬれにしころも ほせどかわかず
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 羈旅
訓異 あまをとめらが;あまをとめらか, そでとほり;そてとほり, ほせどかわかず;ほせとかはかす,
   
  07/1187
題詞 (覊旅作)
原文 網引為 海子哉見 飽浦 清荒礒 見来吾
訓読 網引する海人とか見らむ飽の浦の清き荒磯を見に来し我れを
仮名 あびきする あまとかみらむ あくのうらの きよきありそを みにこしわれを
左注 右一首柿本朝臣人麻呂之歌集出
左注訓 右ノ一首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 羈旅 和歌山 略体 地名
訓異 あびきする;あひきする, あまとかみらむ;あまとやみらむ, あくのうらの;あきのうらの, きよきありそを;きよきあらいそを,
   
  07/1188
題詞 (覊旅作)
原文 山超而 遠津之濱之 石管自 迄吾来 含而有待
訓読 山越えて遠津の浜の岩つつじ我が来るまでにふふみてあり待て
仮名 やまこえて とほつのはまの いはつつじ わがくるまでに ふふみてありまて
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 羈旅 摂津 大阪 別離 地名
訓異 いはつつじ;いはつつし, わがくるまでに;わかきたるまて,
   
  07/1189
題詞 (覊旅作)
原文 大海尓 荒莫吹 四長鳥 居名之湖尓 舟泊左右手
訓読 大海にあらしな吹きそしなが鳥猪名の港に舟泊つるまで
仮名 おほうみに あらしなふきそ しながどり ゐなのみなとに ふねはつるまで
左注 なし
左注訓 (1195末尾:右ノ七首ハ、藤原卿作メリ。年月審ラカナラズ。)
校異 なし
事項 雑歌 羈旅 兵庫 動物 地名
訓異 しながどり;しなかとり, ふねはつるまで;ふねはつるまて,
   
  07/1190
題詞 (覊旅作)
原文 舟盡 可志振立而 廬利為 名子江乃濱邊 過不勝鳧
訓読 舟泊ててかし振り立てて廬りせむ名児江の浜辺過ぎかてぬかも
仮名 ふねはてて かしふりたてて いほりせむ なごえのはまへ すぎかてぬかも
左注 なし
左注訓 (1195末尾:右ノ七首ハ、藤原卿作メリ。年月審ラカナラズ。)
校異 なし
事項 雑歌 羈旅 大阪 土地讃美 地名
訓異 いほりせむ;いほりする, なごえのはまへ;なこえのはまへ, すぎかてぬかも;すきかてぬかも,
   
  07/1191
題詞 (覊旅作)
原文 妹門 出入乃河之 瀬速見 吾馬爪衝 家思良下
訓読 妹が門出入の川の瀬を早み我が馬つまづく家思ふらしも
仮名 いもがかど いでいりのかはの せをはやみ あがうまつまづく いへもふらしも
左注 なし
左注訓 (1195末尾:右ノ七首ハ、藤原卿作メリ。年月審ラカナラズ。)
校異 なし
事項 雑歌 羈旅 望郷 地名 枕詞
訓異 いもがかど;いもかかと, いでいりのかはの;いていりのかはの, あがうまつまづく;わかうまつまつく, いへもふらしも;いへこふらしも,
   
  07/1192
題詞 (覊旅作)
原文 白栲尓 丹保布信土之 山川尓 吾馬難 家戀良下
訓読 白栲ににほふ真土の山川に我が馬なづむ家恋ふらしも
仮名 しろたへに にほふまつちの やまがはに あがうまなづむ いへこふらしも
左注 なし
左注訓 (1195末尾:右ノ七首ハ、藤原卿作メリ。年月審ラカナラズ。)
校異 なし
事項 雑歌 羈旅 望郷 紀州 和歌山 地名
訓異 やまがはに;やまかはに, あがうまなづむ;わかうまなつむ,
   
  07/1193
題詞 (覊旅作)
原文 勢能山尓 直向 妹之山 事聴屋毛 打橋渡
訓読 背の山に直に向へる妹の山事許せやも打橋渡す
仮名 せのやまに ただにむかへる いものやま ことゆるせやも うちはしわたす
左注 なし
左注訓 (1195末尾:右ノ七首ハ、藤原卿作メリ。年月審ラカナラズ。)
校異 なし
事項 雑歌 羈旅 和歌山 地名
訓異 ただにむかへる;たたにむかへる, ことゆるせやも;ことゆるすやも,
   
  07/1194
題詞 (覊旅作)
原文 木國之 狭日鹿乃浦尓 出見者 海人之燎火 浪間従所見
訓読 紀の国の雑賀の浦に出で見れば海人の燈火波の間ゆ見ゆ
仮名 きのくにの さひかのうらに いでみれば あまのともしび なみのまゆみゆ
左注 (右七首者藤原卿作 未審年月)
左注訓 (1195末尾:右ノ七首ハ、藤原卿作メリ。年月審ラカナラズ。)
校異 以下、1207蹔で挹1222嬥後 [元][西][細] [寛]、国歌大観嬥順序捄従尫
事項 雑歌 作者:藤原房前 藤原麻呂 羈旅 和歌山 地名 叙景
訓異 いでみれば;いてみれは, あまのともしび;あまのともすひ, なみのまゆみゆ;なみまよりみゆ,
   
  07/1195
題詞 (覊旅作)
原文 麻衣 著者夏樫 木國之 妹背之山二 麻蒔吾妹
訓読 麻衣着ればなつかし紀の国の妹背の山に麻蒔く我妹
仮名 あさごろも きればなつかし きのくにの いもせのやまに あさまくわぎも
左注 右七首者藤原卿作 未審年月
左注訓 右ノ七首ハ、藤原卿作メリ。年月審ラカナラズ。
校異 なし
事項 雑歌 作者:藤原房前 藤原麻呂 羈旅 和歌山 地名 植物
訓異 あさごろも;あさころも, きればなつかし;きれはなつかし, あさまくわぎも;あさまけわきも,
   
  07/1196
題詞 (覊旅作)
原文 欲得褁登 乞者令取 貝拾 吾乎沾莫 奥津白浪
訓読 つともがと乞はば取らせむ貝拾ふ我れを濡らすな沖つ白波
仮名 つともがと こはばとらせむ かひひりふ われをぬらすな おきつしらなみ
左注 ?(右件歌者古集中出)
左注訓 (1246末尾:右ノ件ノ歌ハ、古集ノ中ニ出ヅ。)
校異 なし
事項 雑歌 作者:古集 羈旅
訓異 つともがと;いてつとと, こはばとらせむ;こははとらせむ, かひひりふ;かひひろふ,
   
  07/1197
題詞 (覊旅作)
原文 手取之 柄二忘跡 礒人之曰師 戀忘貝 言二師有来
訓読 手に取るがからに忘ると海人の言ひし恋忘れ貝言にしありけり
仮名 てにとるが からにわすると あまのいひし こひわすれがひ ことにしありけり
左注 ?(右件歌者古集中出)
左注訓 (1246末尾:右ノ件ノ歌ハ、古集ノ中ニ出ヅ。)
校異 なし
事項 雑歌 作者:古集 羈旅 望郷 動物
訓異 てにとるが;てにとりし, こひわすれがひ;こひわすれかひ,
   
  07/1198
題詞 (覊旅作)
原文 求食為跡 礒二住鶴 暁去者 濱風寒弥 自妻喚毛
訓読 あさりすと礒に棲む鶴明けされば浜風寒み己妻呼ぶも
仮名 あさりすと いそにすむたづ あけされば はまかぜさむみ おのづまよぶも
左注 ?(右件歌者古集中出)
左注訓 (1246末尾:右ノ件ノ歌ハ、古集ノ中ニ出ヅ。)
校異 なし
事項 雑歌 作者:古集 羈旅 望郷 動物
訓異 いそにすむたづ;いそにすむたつ, あけされば;あけゆけは, はまかぜさむみ;はまかせさむみ, おのづまよぶも;おのかつまよふも,
   
  07/1199
題詞 (覊旅作)
原文 藻苅舟 奥榜来良之 妹之嶋 形見之浦尓 鶴翔所見
訓読 藻刈り舟沖漕ぎ来らし妹が島形見の浦に鶴翔る見ゆ
仮名 もかりふね おきこぎくらし いもがしま かたみのうらに たづかけるみゆ
左注 ?(右件歌者古集中出)
左注訓 (1246末尾:右ノ件ノ歌ハ、古集ノ中ニ出ヅ。)
校異 なし
事項 雑歌 作者:古集 羈旅 叙景 植物
訓異 おきこぎくらし;おきこきくらし, いもがしま;いもかしま, たづかけるみゆ;たつかけるみゆ,
   
  07/1200
題詞 (覊旅作)
原文 吾舟者 従奥莫離 向舟 片待香光 従浦榜将會
訓読 我が舟は沖ゆな離り迎へ舟方待ちがてり浦ゆ漕ぎ逢はむ
仮名 わがふねは おきゆなさかり むかへぶね かたまちがてり うらゆこぎあはむ
左注 ?(右件歌者古集中出)
左注訓 (1246末尾:右ノ件ノ歌ハ、古集ノ中ニ出ヅ。)
校異 なし
事項 雑歌 作者:古集 羈旅 望郷
訓異 わがふねは;わかふねは, おきゆなさかり;おきにさかるな, むかへぶね;むかへふね, かたまちがてり;かたまちかてら, うらゆこぎあはむ;うらにこきあはむ,
   
  07/1201
題詞 (覊旅作)
原文 大海之 水底豊三 立浪之 将依思有 礒之清左
訓読 大海の水底響み立つ波の寄らむと思へる礒のさやけさ
仮名 おほうみの みなそことよみ たつなみの よせむとおもへる いそのさやけさ
左注 ?(右件歌者古集中出)
左注訓 (1246末尾:右ノ件ノ歌ハ、古集ノ中ニ出ヅ。)
校異 なし
事項 雑歌 作者:古集 羈旅 土地讃美
訓異 よせむとおもへる;よらむとおもへる,
   
  07/1202
題詞 (覊旅作)
原文 自荒礒毛 益而思哉 玉之<裏> 離小嶋 夢<所>見
訓読 荒礒ゆもまして思へや玉の浦離れ小島の夢にし見ゆる
仮名 ありそゆも ましておもへや たまのうら はなれこしまの いめにしみゆる
左注 ?(右件歌者古集中出)
左注訓 (1246末尾:右ノ件ノ歌ハ、古集ノ中ニ出ヅ。)
校異 浦→裏 [元][類][古] / 石→所 [類]
事項 雑歌 作者:古集 羈旅 和歌山 土地讃美 地名
訓異 ありそゆも;あらいそにも, ましておもへや;ましておもふや, たまのうら;たまのうらの, いめにしみゆる;ゆめにしみゆる,
   
  07/1203
題詞 (覊旅作)
原文 礒上尓 爪木折焼 為汝等 吾潜来之 奥津白玉
訓読 礒の上に爪木折り焚き汝がためと我が潜き来し沖つ白玉
仮名 いそのうへに つまきをりたき ながためと わがかづきこし おきつしらたま
左注 ?(右件歌者古集中出)
左注訓 (1246末尾:右ノ件ノ歌ハ、古集ノ中ニ出ヅ。)
校異 なし
事項 雑歌 作者:古集 羈旅
訓異 ながためと;なかためと, わがかづきこし;わかかつきこし,
   
  07/1204
題詞 (覊旅作)
原文 濱清美 礒尓吾居者 見者 白水郎可将見 釣不為尓
訓読 浜清み礒に我が居れば見む人は海人とか見らむ釣りもせなくに
仮名 はまきよみ いそにわがをれば みむひとは あまとかみらむ つりもせなくに
左注 ?(右件歌者古集中出)
左注訓 (1246末尾:右ノ件ノ歌ハ、古集ノ中ニ出ヅ。)
校異 なし
事項 雑歌 作者:古集 羈旅
訓異 いそにわがをれば;いそにわかをれは, みむひとは;よそひとは,
   
  07/1205
題詞 (覊旅作)
原文 奥津梶 漸々志夫乎 欲見 吾為里乃 隠久惜毛
訓読 沖つ楫やくやくしぶを見まく欲り我がする里の隠らく惜しも
仮名 おきつかぢ やくやくしぶを みまくほり わがするさとの かくらくをしも
左注 ?(右件歌者古集中出)
左注訓 (1246末尾:右ノ件ノ歌ハ、古集ノ中ニ出ヅ。)
校異 なし
事項 雑歌 作者:古集 羈旅
訓異 おきつかぢ;おきつかち, やくやくしぶを;しはしはしふを, わがするさとの;わかするさとの,
   
  07/1206
題詞 (覊旅作)
原文 奥津波 部都藻纒持 依来十方 君尓益有 玉将縁八方 [一云 沖津浪 邊<浪>布敷 縁来登母]
訓読 沖つ波辺つ藻巻き持ち寄せ来とも君にまされる玉寄せめやも [一云 沖つ波辺波しくしく寄せ来とも]
仮名 おきつなみ へつもまきもち よせくとも きみにまされる たまよせめやも [おきつなみ へなみしくしく よせくとも]
左注 ?(右件歌者古集中出)
左注訓 (1246末尾:右ノ件ノ歌ハ、古集ノ中ニ出ヅ。)
校異 波→浪 [元][類][古][紀]
事項 雑歌 作者:古集 羈旅 比喩
訓異 へつもまきもち;へつもまきもて, よせくとも;よりくとも, たまよせめやも;たまよらむやも, よせくとも];よりくとも,
   
  07/1207
題詞 (覊旅作)
原文 粟嶋尓 許枳将渡等 思鞆 赤石門浪 未佐和来
訓読 粟島に漕ぎ渡らむと思へども明石の門波いまだ騒けり
仮名 あはしまに こぎわたらむと おもへども あかしのとなみ いまださわけり
左注 ?(右件歌者古集中出)
左注訓 (1246末尾:右ノ件ノ歌ハ、古集ノ中ニ出ヅ。)
校異 なし
事項 雑歌 作者:古集 羈旅 兵庫 地名
訓異 こぎわたらむと;こきわたらむと, おもへども;おもへとも, いまださわけり;いまたさわけり,
   
  07/1208
題詞 (覊旅作)
原文 妹尓戀 余越去者 勢能山之 妹尓不戀而 有之乏左
訓読 妹に恋ひ我が越え行けば背の山の妹に恋ひずてあるが羨しさ
仮名 いもにこひ わがこえゆけば せのやまの いもにこひずて あるがともしさ
左注 なし
左注訓 (1246末尾:右ノ件ノ歌ハ、古集ノ中ニ出ヅ。)
校異 1210嬥次捄配列 [類][古][紀] 以下、錯簡捄より「古集」注嬥該当歌を変更する。[西][寛]国歌大観嬥配列捄従尫
事項 雑歌 羈旅 和歌山 地名 望郷 土地讃美 恋情
訓異 わがこえゆけば;わかこえゆけは, いもにこひずて;いもにこひすて, あるがともしさ;あるかいもしさ,
   
  07/1209
題詞 (覊旅作)
原文 人在者 母之最愛子曽 麻毛吉 木川邊之 妹与<背>山
訓読 人ならば母が愛子ぞあさもよし紀の川の辺の妹と背の山
仮名 ひとならば ははがまなごぞ あさもよし きのかはのへの いもとせのやま
左注 なし
左注訓 (1246末尾:右ノ件ノ歌ハ、古集ノ中ニ出ヅ。)
校異 背之→背 [類][古][紀]
事項 雑歌 羈旅 和歌山 地名
訓異 ひとならば;ひとならは, ははがまなごぞ;おやのまなこそ, あさもよし;あさもよい, きのかはのへの;きのかはつらの,
   
  07/1210
題詞 (覊旅作)
原文 吾妹子尓 吾戀行者 乏雲 並居鴨 妹与勢能山
訓読 我妹子に我が恋ひ行けば羨しくも並び居るかも妹と背の山
仮名 わぎもこに あがこひゆけば ともしくも ならびをるかも いもとせのやま
左注 なし
左注訓 (1246末尾:右ノ件ノ歌ハ、古集ノ中ニ出ヅ。)
校異 なし
事項 雑歌 古集 羈旅 望郷 和歌山 地名 望郷 恋情 土地讃美
訓異 わぎもこに;わきもこに, あがこひゆけば;わかこひゆけは, ならびをるかも;ならひをるかも,
   
  07/1211
題詞 (覊旅作)
原文 妹當 今曽吾行 目耳谷 吾耳見乞 事不問侶
訓読 妹があたり今ぞ我が行く目のみだに我れに見えこそ言問はずとも
仮名 いもがあたり いまぞわがゆく めのみだに われにみえこそ こととはずとも
左注 なし
左注訓 (1246末尾:右ノ件ノ歌ハ、古集ノ中ニ出ヅ。)
校異 なし
事項 雑歌 羈旅 望郷 和歌山 地名
訓異 いもがあたり;いもかあたり, いまぞわがゆく;いまそわかゆく, めのみだに;めにたにも, われにみえこそ;われにみへこそ, こととはずとも;こととはすとも,
   
  07/1212
題詞 (覊旅作)
原文 足代過而 絲鹿乃山之 櫻花 不散在南 還来万代
訓読 足代過ぎて糸鹿の山の桜花散らずもあらなむ帰り来るまで
仮名 あてすぎて いとかのやまの さくらばな ちらずもあらなむ かへりくるまで
左注 なし
左注訓 (1246末尾:右ノ件ノ歌ハ、古集ノ中ニ出ヅ。)
校異 なし
事項 雑歌 羈旅 悲別 和歌山 地名 植物
訓異 あてすぎて;あしろすきて, さくらばな;さくらはな, ちらずもあらなむ;ちらすもあらなむ, かへりくるまで;かへりかるまて,
   
  07/1213
題詞 (覊旅作)
原文 名草山 事西在来 吾戀 千重一重 名草目名國
訓読 名草山言にしありけり我が恋ふる千重の一重も慰めなくに
仮名 なぐさやま ことにしありけり あがこふる ちへのひとへも なぐさめなくに
左注 なし
左注訓 (1246末尾:右ノ件ノ歌ハ、古集ノ中ニ出ヅ。)
校異 なし
事項 雑歌 羈旅 和歌山 望郷 地名
訓異 なぐさやま;なくさやま, あがこふる;わかこひの, なぐさめなくに;なくさめなくに,
   
  07/1214
題詞 (覊旅作)
原文 安太部去 小為手乃山之 真木葉毛 久不見者 蘿生尓家里
訓読 安太へ行く小為手の山の真木の葉も久しく見ねば蘿生しにけり
仮名 あだへゆく をすてのやまの まきのはも ひさしくみねば こけむしにけり
左注 なし
左注訓 (1246末尾:右ノ件ノ歌ハ、古集ノ中ニ出ヅ。)
校異 なし
事項 雑歌 羈旅 和歌山 地名 植物
訓異 あだへゆく;あたへゆく, ひさしくみねば;ひさしくみねは, こけむしにけり;こけをひにけり,
   
  07/1215
題詞 (覊旅作)
原文 玉津嶋 能見而伊座 青丹吉 平城有人之 待問者如何
訓読 玉津島よく見ていませあをによし奈良なる人の待ち問はばいかに
仮名 たまつしま よくみていませ あをによし ならなるひとの まちとはばいかに
左注 なし
左注訓 (1246末尾:右ノ件ノ歌ハ、古集ノ中ニ出ヅ。)
校異 なし
事項 雑歌 羈旅 和歌山 地名 枕詞
訓異 まちとはばいかに;まちとははいかに,
   
  07/1216
題詞 (覊旅作)
原文 塩満者 如何将為跡香 方便海之 神我手渡 海部未通女等
訓読 潮満たばいかにせむとか海神の神が手渡る海人娘子ども
仮名 しほみたば いかにせむとか わたつみの かみがてわたる あまをとめども
左注 なし
左注訓 (1246末尾:右ノ件ノ歌ハ、古集ノ中ニ出ヅ。)
校異 なし
事項 雑歌 羈旅
訓異 しほみたば;しほみたは, かみがてわたる;かみかてわたる, あまをとめども;あまのをとめら,
   
  07/1217
題詞 (覊旅作)
原文 玉津嶋 見之善雲 吾無 京徃而 戀幕思者
訓読 玉津島見てしよけくも我れはなし都に行きて恋ひまく思へば
仮名 たまつしま みてしよけくも われはなし みやこにゆきて こひまくおもへば
左注 なし
左注訓 (1246末尾:右ノ件ノ歌ハ、古集ノ中ニ出ヅ。)
校異 なし
事項 雑歌 羈旅 和歌山 望郷 地名
訓異 こひまくおもへば;こひまくおもへは,
   
  07/1218
題詞 (覊旅作)
原文 黒牛乃海 紅丹穂經 百礒城乃 大宮人四 朝入為良霜
訓読 黒牛の海紅にほふももしきの大宮人しあさりすらしも
仮名 くろうしのうみ くれなゐにほふ ももしきの おほみやひとし あさりすらしも
左注 (右七首者藤原卿作 未審年月)
左注訓 (1246末尾:右ノ件ノ歌ハ、古集ノ中ニ出ヅ。)
校異 ��該当歌を変更する
事項 以下、錯簡捄より「藤原卿作」左注嬥該当歌を変更する
訓異 雑歌 作者:藤原房前 藤原麻呂 羈旅 和歌山 地名 枕詞 叙景
   
  07/1219
題詞 (覊旅作)
原文 若浦尓 白浪立而 奥風 寒暮者 山跡之所念
訓読 若の浦に白波立ちて沖つ風寒き夕は大和し思ほゆ
仮名 わかのうらに しらなみたちて おきつかぜ さむきゆふへは やまとしおもほゆ
左注 (右七首者藤原卿作 未審年月)
左注訓 (1246末尾:右ノ件ノ歌ハ、古集ノ中ニ出ヅ。)
校異 なし
事項 雑歌 作者:藤原房前 藤原麻呂 羈旅 和歌山 地名 望郷
訓異 おきつかぜ;おきつかせ, さむきゆふへは;さむきゆふへは, やまとしおもほゆ;やまとしそおもふ,
   
  07/1220
題詞 (覊旅作)
原文 為妹 玉乎拾跡 木國之 湯等乃三埼二 此日鞍四通
訓読 妹がため玉を拾ふと紀伊の国の由良の岬にこの日暮らしつ
仮名 いもがため たまをひりふと きのくにの ゆらのみさきに このひくらしつ
左注 (右七首者藤原卿作 未審年月)
左注訓 (1246末尾:右ノ件ノ歌ハ、古集ノ中ニ出ヅ。)
校異 なし
事項 雑歌 作者:藤原房前 藤原麻呂 羈旅 和歌山 地名
訓異 いもがため;いもかため, たまをひりふと;たまをひろふと,
   
  07/1221
題詞 (覊旅作)
原文 吾舟乃 梶者莫引 自山跡 戀来之心 未飽九二
訓読 我が舟の楫はな引きそ大和より恋ひ来し心いまだ飽かなくに
仮名 わがふねの かぢはなひきそ やまとより こひこしこころ いまだあかなくに
左注 (右七首者藤原卿作 未審年月)
左注訓 (1246末尾:右ノ件ノ歌ハ、古集ノ中ニ出ヅ。)
校異 なし
事項 雑歌 作者:藤原房前 藤原麻呂 羈旅 望郷
訓異 わがふねの;わかふねの, かぢはなひきそ;かちはなひきそ, いまだあかなくに;いまたあかなくに,
   
  07/1222
題詞 (覊旅作)
原文 玉津嶋 雖見不飽 何為而 褁持将去 不見人之為
訓読 玉津島見れども飽かずいかにして包み持ち行かむ見ぬ人のため
仮名 たまつしま みれどもあかず いかにして つつみもちゆかむ みぬひとのため
左注 (右七首者藤原卿作 未審年月)
左注訓 (1246末尾:右ノ件ノ歌ハ、古集ノ中ニ出ヅ。)
校異 なし
事項 雑歌 作者:藤原房前 藤原麻呂 羈旅 望郷 土地讃美 地名
訓異 みれどもあかず;みれともあかす, つつみもちゆかむ;つつみもてゆかむ,
   
  07/1223
題詞 (覊旅作)
原文 綿之底 奥己具舟乎 於邊将因 風毛吹額 波不立而
訓読 海の底沖漕ぐ舟を辺に寄せむ風も吹かぬか波立てずして
仮名 わたのそこ おきこぐふねを へによせむ かぜもふかぬか なみたてずして
左注 ?(右件歌者古集中出)
左注訓 (1246末尾:右ノ件ノ歌ハ、古集ノ中ニ出ヅ。)
校異 なし
事項 雑歌 作者:古集 羈旅
訓異 おきこぐふねを;おきこくふねを, かぜもふかぬか;かせもふかぬか, なみたてずして;なみたたすして,
   
  07/1224
題詞 (覊旅作)
原文 大葉山 霞蒙 狭夜深而 吾船将泊 停不知文
訓読 大葉山霞たなびきさ夜更けて我が舟泊てむ泊り知らずも
仮名 おほばやま かすみたなびき さよふけて わがふねはてむ とまりしらずも
左注 ?(右件歌者古集中出)
左注訓 (1246末尾:右ノ件ノ歌ハ、古集ノ中ニ出ヅ。)
校異 なし
事項 雑歌 作者:古集 羈旅 滋賀 地名 不安
訓異 おほばやま;おおはやま, かすみたなびき;かすみたなひき, わがふねはてむ;わかふねはてむ, とまりしらずも;とまりしらすも,
   
  07/1225
題詞 (覊旅作)
原文 狭夜深而 夜中乃方尓 欝之苦 呼之舟人 泊兼鴨
訓読 さ夜更けて夜中の方におほほしく呼びし舟人泊てにけむかも
仮名 さよふけて よなかのかたに おほほしく よびしふなびと はてにけむかも
左注 ?(右件歌者古集中出)
左注訓 (1246末尾:右ノ件ノ歌ハ、古集ノ中ニ出ヅ。)
校異 なし
事項 雑歌 作者:古集 羈旅
訓異 よびしふなびと;よひしふなひとと, はてにけむかも;はてけむかも,
   
  07/1226
題詞 (覊旅作)
原文 神前 荒石毛不所見 浪立奴 従何處将行 与奇道者無荷
訓読 三輪の崎荒磯も見えず波立ちぬいづくゆ行かむ避き道はなしに
仮名 みわのさき ありそもみえず なみたちぬ いづくゆゆかむ よきぢはなしに
左注 ?(右件歌者古集中出)
左注訓 (1246末尾:右ノ件ノ歌ハ、古集ノ中ニ出ヅ。)
校異 なし
事項 雑歌 作者:古集 羈旅 和歌山 地名
訓異 ありそもみえず;あらいそもみえす, なみたちぬ;なみたたす, いづくゆゆかむ;いつこよりゆかむ, よきぢはなしに;よきみちはなしに,
   
  07/1227
題詞 (覊旅作)
原文 礒立 奥邊乎見者 海藻苅舟 海人榜出良之 鴨翔所見
訓読 礒に立ち沖辺を見れば藻刈り舟海人漕ぎ出らし鴨翔る見ゆ
仮名 いそにたち おきへをみれば めかりぶね あまこぎづらし かもかけるみゆ
左注 ?(右件歌者古集中出)
左注訓 (1246末尾:右ノ件ノ歌ハ、古集ノ中ニ出ヅ。)
校異 なし
事項 雑歌 作者:古集 羈旅 叙景
訓異 おきへをみれば;おきへをみれは, めかりぶね;もかりふね, あまこぎづらし;あまこきいつらし,
   
  07/1228
題詞 (覊旅作)
原文 風早之 三穂乃浦廻乎 榜舟之 船人動 浪立良下
訓読 風早の三穂の浦廻を漕ぐ舟の舟人騒く波立つらしも
仮名 かざはやの みほのうらみを こぐふねの ふなびとさわく なみたつらしも
左注 ?(右件歌者古集中出)
左注訓 (1246末尾:右ノ件ノ歌ハ、古集ノ中ニ出ヅ。)
校異 なし
事項 雑歌 作者:古集 羈旅 和歌山 地名
訓異 かざはやの;かさはやの, みほのうらみを;みほのうらわを, こぐふねの;こくふねの, ふなびとさわく;ふなひとさわく,
   
  07/1229
題詞 (覊旅作)
原文 吾舟者 <明>石之<湖>尓 榜泊牟 奥方莫放 狭夜深去来
訓読 我が舟は明石の水門に漕ぎ泊てむ沖へな離りさ夜更けにけり
仮名 わがふねは あかしのみとに こぎはてむ おきへなさかり さよふけにけり
左注 ?(右件歌者古集中出)
左注訓 (1246末尾:右ノ件ノ歌ハ、古集ノ中ニ出ヅ。)
校異 明且→明 [元][古] / 潮→湖 [古][紀]
事項 雑歌 作者:古集 羈旅 兵庫 地名
訓異 わがふねは;わかふねは, あかしのみとに;あかしのはまに, こぎはてむ;こきとめむ, おきへなさかり;おきへさかるな,
   
  07/1230
題詞 (覊旅作)
原文 千磐破 金之三<埼>乎 過鞆 吾者不忘 <壮>鹿之須賣神
訓読 ちはやぶる鐘の岬を過ぎぬとも我れは忘れじ志賀の皇神
仮名 ちはやぶる かねのみさきを すぎぬとも われはわすれじ しかのすめかみ
左注 ?(右件歌者古集中出)
左注訓 (1246末尾:右ノ件ノ歌ハ、古集ノ中ニ出ヅ。)
校異 崎→埼 [元][紀][温] / 牡→壮 [紀]
事項 雑歌 作者:古集 羈旅 福岡 手向醎 地名 枕詞
訓異 ちはやぶる;ちはやふる, すぎぬとも;すきぬとも, われはわすれじ;われはわすれす,
   
  07/1231
題詞 (覊旅作)
原文 天霧相 日方吹羅之 水莖之 岡水門尓 波立渡
訓読 天霧らひひかた吹くらし水茎の岡の港に波立ちわたる
仮名 あまぎらひ ひかたふくらし みづくきの をかのみなとに なみたちわたる
左注 ?(右件歌者古集中出)
左注訓 (1246末尾:右ノ件ノ歌ハ、古集ノ中ニ出ヅ。)
校異 なし
事項 雑歌 作者:古集 羈旅 福岡 地名 叙景
訓異 あまぎらひ;あまきりあひ, みづくきの;みつくきの,
   
  07/1232
題詞 (覊旅作)
原文 大海之 波者畏 然有十方 神乎齋祀而 船出為者如何
訓読 大海の波は畏ししかれども神を斎ひて舟出せばいかに
仮名 おほうみの なみはかしこし しかれども かみをいはひて ふなでせばいかに
左注 ?(右件歌者古集中出)
左注訓 (1246末尾:右ノ件ノ歌ハ、古集ノ中ニ出ヅ。)
校異 なし
事項 雑歌 作者:古集 羈旅
訓異 なみはかしこし;なみはおそろし, しかれども;しかれとも, かみをいはひて;かみをたむけて, ふなでせばいかに;ふなてせはいかに,
   
  07/1233
題詞 (覊旅作)
原文 未通女等之 織機上乎 真櫛用 掻上栲嶋 波間従所見
訓読 娘子らが織る機の上を真櫛もち掻上げ栲島波の間ゆ見ゆ
仮名 をとめらが おるはたのうへを まくしもち かかげたくしま なみのまゆみゆ
左注 ?(右件歌者古集中出)
左注訓 (1246末尾:右ノ件ノ歌ハ、古集ノ中ニ出ヅ。)
校異 なし
事項 雑歌 作者:古集 羈旅 島根 地名 序詞 叙景
訓異 をとめらが;をとめらか, おるはたのうへを;をるはたのうへを, まくしもち;まくしもて, かかげたくしま;かかけたくしま, なみのまゆみゆ;なみまよりみゆ,
   
  07/1234
題詞 (覊旅作)
原文 塩早三 礒廻荷居者 入潮為 海人鳥屋見濫 多比由久和礼乎
訓読 潮早み磯廻に居れば潜きする海人とや見らむ旅行く我れを
仮名 しほはやみ いそみにをれば かづきする あまとやみらむ たびゆくわれを
左注 ?(右件歌者古集中出)
左注訓 (1246末尾:右ノ件ノ歌ハ、古集ノ中ニ出ヅ。)
校異 なし
事項 雑歌 作者:古集 羈旅
訓異 いそみにをれば;いそわにをれは, かづきする;あさりする, あまとやみらむ;あまとやみられ, たびゆくわれを;たひゆくわれを,
   
  07/1235
題詞 (覊旅作)
原文 浪高之 奈何梶<執> 水鳥之 浮宿也應為 猶哉可榜
訓読 波高しいかに楫取り水鳥の浮寝やすべきなほや漕ぐべき
仮名 なみたかし いかにかぢとり みづとりの うきねやすべき なほやこぐべき
左注 ?(右件歌者古集中出)
左注訓 (1246末尾:右ノ件ノ歌ハ、古集ノ中ニ出ヅ。)
校異 取→執 [元][類][紀]
事項 雑歌 作者:古集 羈旅 動物
訓異 いかにかぢとり;いかにかちとり, みづとりの;みつとりの, うきねやすべき;うきねやすへき, なほやこぐべき;なをやこくへき,
   
  07/1236
題詞 (覊旅作)
原文 夢耳 継而所見<乍> 竹嶋之 越礒波之 敷布所念
訓読 夢のみに継ぎて見えつつ高島の礒越す波のしくしく思ほゆ
仮名 いめのみに つぎてみえつつ たかしまの いそこすなみの しくしくおもほゆ
左注 ?(右件歌者古集中出)
左注訓 (1246末尾:右ノ件ノ歌ハ、古集ノ中ニ出ヅ。)
校異 小→乍 [万葉集古義]
事項 雑歌 作者:古集 羈旅 滋賀 地名 序詞 望郷
訓異 いめのみに;ゆめにのみ, つぎてみえつつ;つきてみゆれは, たかしまの;ささしまの,
   
  07/1237
題詞 (覊旅作)
原文 静母 岸者波者 縁家留香 此屋通 聞乍居者
訓読 静けくも岸には波は寄せけるかこれの屋通し聞きつつ居れば
仮名 しづけくも きしにはなみは よせけるか これのやとほし ききつつをれば
左注 ?(右件歌者古集中出)
左注訓 (1246末尾:右ノ件ノ歌ハ、古集ノ中ニ出ヅ。)
校異 なし
事項 雑歌 作者:古集 羈旅
訓異 しづけくも;しつかにも, よせけるか;よりけるか, ききつつをれば;ききつつをれは,
   
  07/1238
題詞 (覊旅作)
原文 竹嶋乃 阿戸白波者 動友 吾家思 五百入鉇染
訓読 高島の安曇白波は騒けども我れは家思ふ廬り悲しみ
仮名 たかしまの あどしらなみは さわけども われはいへおもふ いほりかなしみ
左注 ?(右件歌者古集中出)
左注訓 (1246末尾:右ノ件ノ歌ハ、古集ノ中ニ出ヅ。)
校異 なし
事項 雑歌 作者:古集 羈旅 滋賀 望郷 地名
訓異 あどしらなみは;あとかはなみは, さわけども;とよめとも, いほりかなしみ;いほりかなしも,
   
  07/1239
題詞 (覊旅作)
原文 大海之 礒本由須理 立波之 将依念有 濱之浄奚久
訓読 大海の礒もと揺り立つ波の寄せむと思へる浜の清けく
仮名 おほうみの いそもとゆすり たつなみの よせむとおもへる はまのきよけく
左注 ?(右件歌者古集中出)
左注訓 (1246末尾:右ノ件ノ歌ハ、古集ノ中ニ出ヅ。)
校異 なし
事項 雑歌 作者:古集 羈旅
訓異 よせむとおもへる;よらむとおもへる, はまのきよけく;はまのさやけく,
   
  07/1240
題詞 (覊旅作)
原文 珠匣 見諸戸山<矣> 行之鹿齒 面白四手 古昔所念
訓読 玉櫛笥みもろと山を行きしかばおもしろくしていにしへ思ほゆ
仮名 たまくしげ みもろとやまを ゆきしかば おもしろくして いにしへおもほゆ
左注 ?(右件歌者古集中出)
左注訓 (1246末尾:右ノ件ノ歌ハ、古集ノ中ニ出ヅ。)
校異 奚→矣 [元][類][紀]
事項 雑歌 作者:古集 羈旅 三輪 奈良 懐旧 枕詞 地名
訓異 たまくしげ;たまくしけ, ゆきしかば;ゆきしかは, いにしへおもほゆ;むかしおもほゆ,
   
  07/1241
題詞 (覊旅作)
原文 黒玉之 玄髪山乎 朝越而 山下露尓 沾来鴨
訓読 ぬばたまの黒髪山を朝越えて山下露に濡れにけるかも
仮名 ぬばたまの くろかみやまを あさこえて やましたつゆに ぬれにけるかも
左注 ?(右件歌者古集中出)
左注訓 (1246末尾:右ノ件ノ歌ハ、古集ノ中ニ出ヅ。)
校異 なし
事項 雑歌 作者:古集 羈旅 奈良 地名
訓異 ぬばたまの;ぬはたまの,
   
  07/1242
題詞 (覊旅作)
原文 足引之 山行暮 宿借者 妹立待而 宿将借鴨
訓読 あしひきの山行き暮らし宿借らば妹立ち待ちてやど貸さむかも
仮名 あしひきの やまゆきぐらし やどからば いもたちまちて やどかさむかも
左注 ?(右件歌者古集中出)
左注訓 (1246末尾:右ノ件ノ歌ハ、古集ノ中ニ出ヅ。)
校異 なし
事項 雑歌 作者:古集 羈旅 枕詞
訓異 やまゆきぐらし;やまゆきくらし, やどからば;やとからは, やどかさむかも;やとかさむかも,
   
  07/1243
題詞 (覊旅作)
原文 視渡者 近里廻乎 田本欲 今衣吾来 礼巾振之野尓
訓読 見わたせば近き里廻をた廻り今ぞ我が来る領巾振りし野に
仮名 みわたせば ちかきさとみを たもとほり いまぞわがくる ひれふりしのに
左注 ?(右件歌者古集中出)
左注訓 (1246末尾:右ノ件ノ歌ハ、古集ノ中ニ出ヅ。)
校異 なし
事項 雑歌 作者:古集 羈旅
訓異 みわたせば;みわたせは, ちかきさとみを;ちかきさとわを, いまぞわがくる;いまそわかくれ,
   
  07/1244
題詞 (覊旅作)
原文 未通女等之 放髪乎 木綿山 雲莫蒙 家當将見
訓読 娘子らが放りの髪を由布の山雲なたなびき家のあたり見む
仮名 をとめらが はなりのかみを ゆふのやま くもなたなびき いへのあたりみむ
左注 ?(右件歌者古集中出)
左注訓 (1246末尾:右ノ件ノ歌ハ、古集ノ中ニ出ヅ。)
校異 なし
事項 雑歌 作者:古集 羈旅 大分 望郷 序詞 地名
訓異 をとめらが;をとめらか, はなりのかみを;ふりわけかみを, くもなたなびき;くもなかくしそ,
   
  07/1245
題詞 (覊旅作)
原文 四可能白水郎乃 釣船之<紼> 不堪 情念而 出而来家里
訓読 志賀の海人の釣舟の綱堪へずして心に思ひて出でて来にけり
仮名 しかのあまの つりぶねのつな あへなくも こころにおもひて いでてきにけり
左注 (右件歌者古集中出)
左注訓 (1246末尾:右ノ件ノ歌ハ、古集ノ中ニ出ヅ。)
校異 綱→紼 [元][紀]
事項 雑歌 作者:古集 羈旅 福岡 地名
訓異 つりぶねのつな;つりふねのつな, あへなくも;たへすして, いでてきにけり;いててきにけり,
   
  07/1246
題詞 (覊旅作)
原文 之加乃白水郎之 燒塩煙 風乎疾 立者不上 山尓軽引
訓読 志賀の海人の塩焼く煙風をいたみ立ちは上らず山にたなびく
仮名 しかのあまの しほやくけぶり かぜをいたみ たちはのぼらず やまにたなびく
左注 右件歌者古集中出
左注訓 右ノ件ノ歌ハ、古集ノ中ニ出ヅ。
校異 歌 [西] 謌
事項 雑歌 作者:古集 羈旅 福岡 地名 叙景
訓異 しほやくけぶり;しほやくけふり, かぜをいたみ;かせをいたみ, たちはのぼらず;たちはのほらて, やまにたなびく;やまにたなひく,
   
  07/1247
題詞 (覊旅作)
原文 大穴道 少御神 作 妹勢能山 見吉
訓読 大汝少御神の作らしし妹背の山を見らくしよしも
仮名 おほなむち すくなみかみの つくらしし いもせのやまを みらくしよしも
左注 (右四首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
校異 なし
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 羈旅 和歌山 土地讃美 略体 地名
訓異 つくらしし;つくりたる, みらくしよしも;みれはしよしも,
   
  07/1248
題詞 (覊旅作)
原文 吾妹子 見偲 奥藻 花開在 我告与
訓読 我妹子と見つつ偲はむ沖つ藻の花咲きたらば我れに告げこそ
仮名 わぎもこと みつつしのはむ おきつもの はなさきたらば われにつげこそ
左注 (右四首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
校異 なし
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 羈旅 略体 植物
訓異 わぎもこと;わきもこか, はなさきたらば;はなさきたらは, われにつげこそ;われにつけこよ,
   
  07/1249
題詞 (覊旅作)
原文 君為 浮沼池 菱採 我染袖 沾在哉
訓読 君がため浮沼の池の菱摘むと我が染めし袖濡れにけるかも
仮名 きみがため うきぬのいけの ひしつむと わがそめしそで ぬれにけるかも
左注 (右四首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
校異 なし
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 羈旅 島根 略体 植物 地名
訓異 きみがため;きみかため, ひしつむと;ひしとると, わがそめしそで;わかそめしそて, ぬれにけるかも;ぬれにけるかな,
   
  07/1250
題詞 (覊旅作)
原文 妹為 菅實採 行吾 山路惑 此日暮
訓読 妹がため菅の実摘みに行きし我れ山道に惑ひこの日暮らしつ
仮名 いもがため すがのみつみに ゆきしわれ やまぢにまとひ このひくらしつ
左注 右四首柿本朝臣人麻呂之歌集出
左注訓 右ノ四首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。
校異 なし
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 羈旅 略体 植物
訓異 いもがため;いもかため, すがのみつみに;すかのみとりて, ゆきしわれ;ゆくわれを, やまぢにまとひ;やまちまとひて,
   
  07/1251
題詞 問答
題訓 問ひ答へのうた
原文 佐保河尓 鳴成智鳥 何師鴨 川原乎思努比 益河上
訓読 佐保川に鳴くなる千鳥何しかも川原を偲ひいや川上る
仮名 さほがはに なくなるちどり なにしかも かはらをしのひ いやかはのぼる
左注 (右二首詠鳥)(右十七首古歌集出)
校異 なし
事項 雑歌 作者:古歌集 問答 奈良 伝誦 寓意 地名 動物
訓異 さほがはに;さほかはに, なくなるちどり;なくなるちとり, いやかはのぼる;いやかはのほる,
   
  07/1252
題詞 (問答)
原文 人社者 意保尓毛言目 我幾許 師努布川原乎 標緒勿謹
訓読 人こそばおほにも言はめ我がここだ偲ふ川原を標結ふなゆめ
仮名 ひとこそば おほにもいはめ わがここだ しのふかはらを しめゆふなゆめ
左注 右二首詠鳥(右十七首古歌集出)
左注訓 右の二首ふたうたは、鳥を詠める。
校異 なし
事項 雑歌 作者:古歌集 問答 伝誦 寓意
訓異 ひとこそば;ひとこそは, わがここだ;わかここた,
   
  07/1253
題詞 (問答)
原文 神樂浪之 思我津乃白水郎者 吾無二 潜者莫為 浪雖不立
訓読 楽浪の志賀津の海人は我れなしに潜きはなせそ波立たずとも
仮名 ささなみの しがつのあまは あれなしに かづきはなせそ なみたたずとも
左注 (右二首詠白水郎)(右十七首古歌集出)
校異 なし
事項 雑歌 作者:古歌集 問答 福岡 伝誦 寓意 地名
訓異 しがつのあまは;しかつのあまは, あれなしに;われなしに, かづきはなせそ;いさりはなせそ, なみたたずとも;なみたたすとも,
   
  07/1254
題詞 (問答)
原文 大船尓 梶之母有奈牟 君無尓 潜為八方 波雖不起
訓読 大船に楫しもあらなむ君なしに潜きせめやも波立たずとも
仮名 おほぶねに かぢしもあらなむ きみなしに かづきせめやも なみたたずとも
左注 右二首詠白水郎(右十七首古歌集出)
左注訓 右の二首は、白水郎あまを詠める。
校異 なし
事項 雑歌 作者:古歌集 問答 伝誦 寓意
訓異 おほぶねに;おほふねに, かぢしもあらなむ;かちしもあらなむ, かづきせめやも;いさりせめやも, なみたたずとも;なみたたすとも,
   
  07/1255
題詞 臨時
題訓 時に臨つけてよめる
原文 月草尓 衣曽染流 君之為 綵色衣 将摺跡念而
訓読 月草に衣ぞ染むる君がため斑の衣摺らむと思ひて
仮名 つきくさに ころもぞそむる きみがため まだらのころも すらむとおもひて
左注 (右十七首古歌集出)
校異 綵 [元][類] 深
事項 雑歌 作者:古歌集 臨時 恋歌 植物 女歌
訓異 ころもぞそむる;ころもそそむる, きみがため;きみかため, まだらのころも;いろとるころも,
   
  07/1256
題詞 (臨時)
原文 春霞 井上<従>直尓 道者雖有 君尓将相登 他廻来毛
訓読 春霞井の上ゆ直に道はあれど君に逢はむとた廻り来も
仮名 はるかすみ ゐのうへゆただに みちはあれど きみにあはむと たもとほりくも
左注 (右十七首古歌集出)
校異 徒→従 [元][類][紀]
事項 雑歌 作者:古歌集 臨時 恋歌 女歌
訓異 ゐのうへゆただに;ゐのうへにたに, みちはあれど;みちはあれと,
   
  07/1257
題詞 (臨時)
原文 道邊之 草深由利乃 花咲尓 咲之柄二 妻常可云也
訓読 道の辺の草深百合の花笑みに笑みしがからに妻と言ふべしや
仮名 みちのへの くさふかゆりの はなゑみに ゑみしがからに つまといふべしや
左注 (右十七首古歌集出)
校異 なし
事項 雑歌 作者:古歌集 臨時
訓異 ゑみしがからに;ゑみせしからに, つまといふべしや;つまといふへしや,
   
  07/1258
題詞 (臨時)
原文 黙然不有跡 事之名種尓 云言乎 聞知良久波 少可者有来
訓読 黙あらじと言のなぐさに言ふことを聞き知れらくは悪しくはありけり
仮名 もだあらじと ことのなぐさに いふことを ききしれらくは あしくはありけり
左注 (右十七首古歌集出)
校異 なし
事項 雑歌 作者:古歌集 臨時 伝誦
訓異 もだあらじと;もたあらしと, ことのなぐさに;ことのなくさに, ききしれらくは;ききしるらくは, あしくはありけり;すくなかりけり,
   
  07/1259
題詞 (臨時)
原文 佐伯山 于花以之 哀我 <手>鴛取而者 花散鞆
訓読 佐伯山卯の花持ちし愛しきが手をし取りてば花は散るとも
仮名 さへきやま うのはなまちし かなしきが てをしとりてば はなはちるとも
左注 (右十七首古歌集出)
校異 子→手 [万葉集代匠記(初稿本)]
事項 雑歌 作者:古歌集 臨時 広島 大阪 地名 植物
訓異 うのはなまちし;うのはなもたし, かなしきが;あはれわか, てをしとりてば;こをしとりては, はなはちるとも;はなちりぬとも,
   
  07/1260
題詞 (臨時)
原文 不時 斑衣 服欲香 <嶋>針原 時二不有鞆
訓読 時ならぬ斑の衣着欲しきか島の榛原時にあらねども
仮名 ときならぬ まだらのころも きほしきか しまのはりはら ときにあらねども
左注 (右十七首古歌集出)
校異 衣服→嶋 [古]
事項 雑歌 作者:古歌集 臨時 飛鳥 植物 地名
訓異 まだらのころも;またらころもの, しまのはりはら;ころもはりはら, ときにあらねども;ときにあらねとも,
   
  07/1261
題詞 (臨時)
原文 山守之 里邊通 山道曽 茂成来 忘来下
訓読 山守の里へ通ひし山道ぞ茂くなりける忘れけらしも
仮名 やまもりの さとへかよひし やまみちぞ しげくなりける わすれけらしも
左注 (右十七首古歌集出)
校異 なし
事項 雑歌 作者:古歌集 譬喩 恋愛 怨恨
訓異 さとへかよひし;さとへかよへる, やまみちぞ;やまみちそ, しげくなりける;しけくなりける,
   
  07/1262
題詞 (臨時)
原文 足病之 山海石榴開 八<峯>越 鹿待君之 伊波比嬬可聞
訓読 あしひきの山椿咲く八つ峰越え鹿待つ君が斎ひ妻かも
仮名 あしひきの やまつばきさく やつをこえ ししまつきみが いはひつまかも
左注 (右十七首古歌集出)
校異 岑→峯 [類][古][紀] / [元][紀] 1263嬥次捄配列
事項 雑歌 作者:古歌集 怨恨 恋愛 動物 枕詞 比喩
訓異 やまつばきさく;やまつはきさく, やつをこえ;やつをこに, ししまつきみが;しかまつきみか,
   
  07/1263
題詞 (臨時)
原文 暁跡 夜烏雖鳴 此山上之 木末之於者 未静之
訓読 暁と夜烏鳴けどこの岡の木末の上はいまだ静けし
仮名 あかときと よがらすなけど このをかの こぬれのうへは いまだしづけし
左注 (右十七首古歌集出)
校異 なし
事項 雑歌 作者:古歌集 恋愛歌 動物
訓異 あかときと;あかつきと, よがらすなけど;よからすなけと, こぬれのうへは;こすゆのうへは, いまだしづけし;いまたしつけし,
   
  07/1264
題詞 (臨時)
原文 西市尓 但獨出而 眼不並 買師絹之 商自許里鴨
訓読 西の市にただ独り出でて目並べず買ひてし絹の商じこりかも
仮名 にしのいちに ただひとりいでて めならべず かひてしきぬの あきじこりかも
左注 (右十七首古歌集出)
校異 なし
事項 雑歌 作者:古歌集 譬喩 歌垣 恋愛 奈良 地名
訓異 ただひとりいでて;たたひとりいてて, めならべず;めならはす, かひてしきぬの;かへりしきぬの, あきじこりかも;あきしこりかも,
   
  07/1265
題詞 (臨時)
原文 今年去 新嶋守之 麻衣 肩乃間乱者 <誰>取見
訓読 今年行く新防人が麻衣肩のまよひは誰れか取り見む
仮名 ことしゆく にひさきもりが あさごろも かたのまよひは たれかとりみむ
左注 (右十七首古歌集出)
校異 許誰→誰 [元]
事項 雑歌 作者:古歌集 防人 恋愛 妻 羈旅
訓異 にひさきもりが;にひさきもりか, あさごろも;あさころも,
   
  07/1266
題詞 (臨時)
原文 大舟乎 荒海尓榜出 八船多氣 吾見之兒等之 目見者知之母
訓読 大船を荒海に漕ぎ出でや船たけ我が見し子らがまみはしるしも
仮名 おほぶねを あるみにこぎで やふねたけ わがみしこらが まみはしるしも
左注 (右十七首古歌集出)
校異 なし
事項 雑歌 作者:古歌集 羈旅 防人 望郷 恋愛
訓異 おほぶねを;おほふねを, あるみにこぎで;あるみにこきいて, やふねたけ;やふねたき, わがみしこらが;わかみしこらか, まみはしるしも;めみはしるしも,
   
  07/1267
題詞 就所發思 [旋頭歌]
題訓 所に就けて思ひを発のぶ
原文 百師木乃 大宮人之 踏跡所 奥浪 来不依有勢婆 不失有麻思乎
訓読 ももしきの大宮人の踏みし跡ところ沖つ波来寄らずありせば失せずあらましを
仮名 ももしきの おほみやひとの ふみしあとところ おきつなみ きよらずありせば うせずあらましを
左注 右十七首古歌集出
左注訓 右ノ十七首ハ、古歌集ニ出ヅ。
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:古歌集 旋頭歌 羈旅 枕詞
訓異 ふみしあとところ;ふむあとところ, きよらずありせば;きよらさりせは, うせずあらましを;うせさらましを,
   
  07/1268
題詞 (就所發思)
原文 兒等手乎 巻向山者 常在常 過徃人尓 徃巻目八方
訓読 子らが手を巻向山は常にあれど過ぎにし人に行きまかめやも
仮名 こらがてを まきむくやまは つねにあれど すぎにしひとに ゆきまかめやも
左注 (右二首柿本朝臣人麻呂<之>歌集出)
校異 なし
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 奈良 哀悼 挽歌 恋愛 非略体 枕詞 地名
訓異 こらがてを;こらかてを, まきむくやまは;まきもくやまは, つねにあれど;つねなれと, すぎにしひとに;すきゆくひとに,
   
  07/1269
題詞 (就所發思)
原文 巻向之 山邊響而 徃水之 三名沫如 世人吾等者
訓読 巻向の山辺響みて行く水の水沫のごとし世の人我れは
仮名 まきむくの やまへとよみて ゆくみづの みなわのごとし よのひとわれは
左注 右二首柿本朝臣人麻呂<之>歌集出
左注訓 右ノ二首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。
校異 <>→之 [元][紀][温] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 奈良 哀悼 無常 非略体 地名
訓異 まきむくの;まきもむの, やまへとよみて;やまへひひきて, ゆくみづの;ゆくみつの, みなわのごとし;みなはのことし,
   
  07/1270
題詞 寄物發思
題訓 挽歌かなしみうた(1408と1409の間に配置)
原文 隠口乃 泊瀬之山丹 照月者 盈ち為焉 人之常無
訓読 こもりくの泊瀬の山に照る月は満ち欠けしけり人の常なき
仮名 こもりくの はつせのやまに てるつきは みちかけしけり ひとのつねなき
左注 右一首古歌集出
左注訓
校異 なし
事項 雑歌 作者:古歌集 無常 奈良 枕詞 地名
訓異 みちかけしけり;みちかけしてそ,
   
  07/1271
題詞 行路
題訓 行路みちゆきぶりのうた
原文 遠有而 雲居尓所見 妹家尓 早将至 歩黒駒
訓読 遠くありて雲居に見ゆる妹が家に早く至らむ歩め黒駒
仮名 とほくありて くもゐにみゆる いもがいへに はやくいたらむ あゆめくろこま
左注 右一首柿本朝臣人麻呂之歌集出
左注訓 右ノ一首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。
校異 歌 [西] 謌
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 恋愛 非略体 動物
訓異 いもがいへに;いもかいへに,
   
  07/1272
題詞 旋頭歌
題訓 物に寄せて思ひを発のぶ 旋頭歌
原文 劔<後> 鞘納野 葛引吾妹 真袖以 著點等鴨 夏草苅母
訓読 大刀の後鞘に入野に葛引く我妹真袖もち着せてむとかも夏草刈るも
仮名 たちのしり さやにいりのに くずひくわぎも まそでもち きせてむとかも なつくさかるも
左注 (右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
校異 従→後 [古][紀]
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 旋頭歌 恋愛 非略体 植物 地名 枕詞
訓異 たちのしり;たちしり, さやにいりのに;さやにいるのに, くずひくわぎも;くすひくわきも, まそでもち;まそてもて, きせてむとかも;きてむとてかも, なつくさかるも;なつくすかるも,
   
  07/1273
題詞 (旋頭歌)
原文 住吉 波豆麻<公>之 馬乗衣 雜豆臈 漢女乎座而 縫衣叙
訓読 住吉の波豆麻の君が馬乗衣さひづらふ漢女を据ゑて縫へる衣ぞ
仮名 すみのえの はづまのきみが うまのりころも さひづらふ あやめをすゑて ぬへるころもぞ
左注 (右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
校異 君→公 [元][古][紀][温]
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 旋頭歌 非略体 地名 大阪
訓異 すみのえの;すみのえは, はづまのきみが;つまのきみか, うまのりころも;まそころも, さひづらふ;さにつらふ, あやめをすゑて;をとめをすへて, ぬへるころもぞ;ぬへるころもそ,
   
  07/1274
題詞 (旋頭歌)
原文 住吉 出見濱 柴莫苅曽尼 未通女等 赤裳下 閏将徃見
訓読 住吉の出見の浜の柴な刈りそね娘子らが赤裳の裾の濡れて行かむ見む
仮名 すみのえの いでみのはまの しばなかりそね をとめらが あかものすその ぬれてゆかむみむ
左注 (右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
校異 なし
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 旋頭歌 非略体 地名 大阪
訓異 いでみのはまの;いてみのはまの, しばなかりそね;しはなかりそね, をとめらが;をとめらか, ぬれてゆかむみむ;ぬれてゆかむみゆ,
   
  07/1275
題詞 (旋頭歌)
原文 住吉 小田苅為子 賎鴨無 奴雖在 妹御為 私田苅
訓読 住吉の小田を刈らす子奴かもなき奴あれど妹がみためと私田刈る
仮名 すみのえの をだをからすこ やつこかもなき やつこあれど いもがみためと わたくしだかる
左注 (右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
校異 なし
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 旋頭歌 略体 唱和 大阪 地名
訓異 をだをからすこ;をたからするこ, やつこかもなき;いやしかもなし, やつこあれど;やつこあれと, いもがみためと;いもかにために, わたくしだかる;しのひたをかる,
   
  07/1276
題詞 (旋頭歌)
原文 池邊 小槻下 細竹苅嫌 其谷 <公>形見尓 監乍将偲
訓読 池の辺の小槻の下の小竹な刈りそねそれをだに君が形見に見つつ偲はむ
仮名 いけのへの をつきのしたの しのなかりそね それをだに きみがかたみに みつつしのはむ
左注 (右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
校異 君→公 [元][古][紀][温]
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 旋頭歌 恋愛 非略体
訓異 いけのへの;いけのへに, をつきのしたの;をつきかしたの, それをだに;それをたに, きみがかたみに;きみかかたみに,
   
  07/1277
題詞 (旋頭歌)
原文 天在 日賣菅原 草<莫>苅嫌 弥<那>綿 香烏髪 飽田志付勿
訓読 天なる日売菅原の草な刈りそね蜷の腸か黒き髪にあくたし付くも
仮名 あめなる ひめすがはらの くさなかりそね みなのわた かぐろきかみに あくたしつくも
左注 (右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
校異 <>→莫 [西(右書)][紀][細][温] / <>→那 [西(右書)][元][紀][細]
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 旋頭歌 恋愛 非略体
訓異 あめなる;あめにある, ひめすがはらの;ひめすかはらの, かぐろきかみに;かくろかみに, あくたしつくも;あくたしつくな,
   
  07/1278
題詞 (旋頭歌)
原文 夏影 房之下<邇> 衣裁吾妹 裏儲 吾為裁者 差大裁
訓読 夏蔭の妻屋の下に衣裁つ我妹うら設けて我がため裁たばやや大に裁て
仮名 なつかげの つまやのしたに きぬたつわぎも うらまけて あがためたたば ややおほにたて
左注 (右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
校異 庭→邇 [元][古][紀]
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 旋頭歌 恋愛 非略体
訓異 なつかげの;なつかけの, つまやのしたに;ねやのしたにて, きぬたつわぎも;ころもたつわきも, あがためたたば;わかためたたは, ややおほにたて;やおほきにたて,
   
  07/1279
題詞 (旋頭歌)
原文 梓弓 引津邊在 莫謂花 及採 不相有目八方 勿謂花
訓読 梓弓引津の辺なるなのりその花摘むまでに逢はずあらめやもなのりその花
仮名 あづさゆみ ひきつのへなる なのりそのはな つむまでに あはずあらめやも なのりそのはな
左注 (右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
校異 なし
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 福岡 恋愛 非略体 枕詞 地名 植物 旋頭歌
訓異 あづさゆみ;あつさゆみ, ひきつのへなる;ひきつのへける, つむまでに;つむまては, あはずあらめやも;あはさらめやも,
   
  07/1280
題詞 (旋頭歌)
原文 撃日刺 宮路行丹 吾裳破 玉緒 念<妄> 家在矣
訓読 うちひさす宮道を行くに我が裳は破れぬ玉の緒の思ひ乱れて家にあらましを
仮名 うちひさす みやぢをゆくに わがもはやれぬ たまのをの おもひみだれて いへにあらましを
左注 (右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
校異 委→妄 (塙)
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 旋頭歌 恋愛 非略体 枕詞
訓異 みやぢをゆくに;みやちをゆくに, わがもはやれぬ;わかもやふれぬ, おもひみだれて;おもひすてても,
   
  07/1281
題詞 (旋頭歌)
原文 <公>為 手力勞 織在衣服<叙> 春去 何<色> 揩者吉
訓読 君がため手力疲れ織れる衣ぞ春さらばいかなる色に摺りてばよけむ
仮名 きみがため たぢからつかれ おれるころもぞ はるさらば いかなるいろに すりてばよけむ
左注 (右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
校異 君→公 [元][古][紀][温] / 斜→叙 [万葉集全釈] / 々→色 [万葉集略解]
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 旋頭歌 恋愛 非略体
訓異 きみがため;きみかため, たぢからつかれ;てつからをれる, おれるころもぞ;ころもきななめ, はるさらば;はるさらは, いかなるいろに;いかにやいかに, すりてばよけむ;すりてはよけむ,
   
  07/1282
題詞 (旋頭歌)
原文 橋立 倉椅山 立白雲 見欲 我為苗 立白雲
訓読 はしたての倉橋山に立てる白雲見まく欲り我がするなへに立てる白雲
仮名 はしたての くらはしやまに たてるしらくも みまくほり わがするなへに たてるしらくも
左注 (右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
校異 なし
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 旋頭歌 奈良 非略体 枕詞 地名
訓異 わがするなへに;わかするなへに,
   
  07/1283
題詞 (旋頭歌)
原文 橋立 倉椅川 石走者裳 壮子時 我度為 石走者裳
訓読 はしたての倉橋川の石の橋はも男盛りに我が渡りてし石の橋はも
仮名 はしたての くらはしがはの いしのはしはも をざかりに わがわたりてし いしのはしはも
左注 (右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
校異 なし
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 旋頭歌 恋愛 追憶 非略体 奈良 地名 枕詞
訓異 くらはしがはの;くらはしかはの, をざかりに;みさかりに, わがわたりてし;わかわたしたり,
   
  07/1284
題詞 (旋頭歌)
原文 橋立 倉椅川 河静菅 余苅 笠裳不編 川静菅
訓読 はしたての倉橋川の川の静菅我が刈りて笠にも編まぬ川の静菅
仮名 はしたての くらはしがはの かはのしづすげ わがかりて かさにもあまぬ かはのしづすげ
左注 (右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
校異 なし
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 奈良 旋頭歌 譬喩 恋愛 非略体 地名 枕詞
訓異 くらはしがはの;くらはしかはの, かはのしづすげ;かはのしつすけ, わがかりて;われかりて, かさにもあまぬ;かさにもあます, かはのしづすげ;かはのしつすけ,
   
  07/1285
題詞 (旋頭歌)
原文 春日尚 田立羸 公哀 若草 攦無公 田立羸
訓読 春日すら田に立ち疲る君は悲しも若草の妻なき君が田に立ち疲る
仮名 はるひすら たにたちつかる きみはかなしも わかくさの つまなききみが たにたちつかる
左注 (右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
校異 なし
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 旋頭歌 恋愛 略体 遄ら遄媿 枕詞
訓異 きみはかなしも;きみはあはれ, つまなききみが;つまなききみか,
   
  07/1286
題詞 (旋頭歌)
原文 開木代 来背社 草勿手折 己時 立雖榮 草勿手折
訓読 山背の久世の社の草な手折りそ我が時と立ち栄ゆとも草な手折りそ
仮名 やましろの くせのやしろの くさなたをりそ わがときと たちさかゆとも くさなたをりそ
左注 (右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
校異 なし
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 旋頭歌 譬喩 恋愛 略体 京都 地名
訓異 くせのやしろの;くせのやしろに, わがときと;おのかとき,
   
  07/1287
題詞 (旋頭歌)
原文 青角髪 依網原 人相鴨 石走 淡海縣 物語為
訓読 青みづら依網の原に人も逢はぬかも石走る近江県の物語りせむ
仮名 あをみづら よさみのはらに ひともあはぬかも いはばしる あふみあがたの ものがたりせむ
左注 (右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
校異 なし
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 旋頭歌 大阪 略体 枕詞 地名
訓異 あをみづら;あをみつら, よさみのはらに;よさみのはらの, ひともあはぬかも;ひとにあへるかも, いはばしる;いははしる, あふみあがたの;あふみのかたの, ものがたりせむ;ものかたりせむ,
   
  07/1288
題詞 (旋頭歌)
原文 水門 葦末葉 誰手折 吾背子 振手見 我手折
訓読 港の葦の末葉を誰れか手折りし我が背子が振る手を見むと我れぞ手折りし
仮名 みなとの あしのうらばを たれかたをりし わがせこが ふるてをみむと われぞたをりし
左注 (右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
校異 なし
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 旋頭歌 恋愛 略体 植物
訓異 みなとの;みなとなる, あしのうらばを;あしのすゑはを, わがせこが;わかせこか, われぞたをりし;われそたをりし,
   
  07/1289
題詞 (旋頭歌)
原文 垣越 犬召越 鳥猟為公 青山 <葉>茂山邊 馬安<公>
訓読 垣越しに犬呼び越して鳥猟する君青山の茂き山辺に馬休め君
仮名 かきごしに いぬよびこして とがりするきみ あをやまの しげきやまへに うまやすめきみ
左注 (右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
校異 等→葉 [西(訂正右書)][元][古][紀] / 君→公 [元][古][紀][温]
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 旋頭歌 誘媿歌 略体 動物
訓異 かきごしに;かきこしに, いぬよびこして;いぬよひこして, とがりするきみ;とかりするきみ, しげきやまへに;しけきやまへに, うまやすめきみ;うまやすめよきみ,
   
  07/1290
題詞 (旋頭歌)
原文 海底 奥玉藻之 名乗曽花 妹与吾 此何有跡 莫語之花
訓読 海の底沖つ玉藻のなのりその花妹と我れとここにしありとなのりその花
仮名 わたのそこ おきつたまもの なのりそのはな いもとあれと ここにしありと なのりそのはな
左注 (右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
校異 なし
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 旋頭歌 恋愛 非略体 植物
訓異 わたのそこ;わたつみの, ここにしありと;ここにありとな,
   
  07/1291
題詞 (旋頭歌)
原文 此岡 <草>苅小子 <勿>然苅 有乍 <公>来座 御馬草為
訓読 この岡に草刈るわらはなしか刈りそねありつつも君が来まさば御馬草にせむ
仮名 このをかに くさかるわらは なしかかりそね ありつつも きみがきまさむ みまくさにせむ
左注 (右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
校異 莫→草 [西(訂正右書)][元][古][紀] / <>→勿 [元][紀] / 君→公 [元][温][矢][京]
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 旋頭歌 略体 恋愛
訓異 なしかかりそね;しかなかりそ, きみがきまさむ;きみかきまさむ,
   
  07/1292
題詞 (旋頭歌)
原文 江林 次完也物 求吉 白栲 袖纒上 完待我背
訓読 江林に臥せる獣やも求むるによき白栲の袖巻き上げて獣待つ我が背
仮名 えはやしに ふせるししやも もとむるによき しろたへの そでまきあげて ししまつわがせ
左注 (右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
校異 なし
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 旋頭歌 非略体 歌垣 動物
訓異 ふせるししやも;やとるししやも, もとむるによき;もとめよき, そでまきあげて;そてまきあけて, ししまつわがせ;ししまつわかせ,
   
  07/1293
題詞 (旋頭歌)
原文 丸雪降 遠江 吾跡川楊 雖苅 亦生云 余跡川楊
訓読 霰降り遠つ淡海の吾跡川楊刈れどもまたも生ふといふ吾跡川楊
仮名 あられふり とほつあふみの あとかはやなぎ かれども またもおふといふ あとかはやなぎ
左注 (右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
校異 なし
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 旋頭歌 静岡 譬喩 略体 枕詞 植物 地名
訓異 あられふり;あられふる, とほつあふみの;とほつえにある, あとかはやなぎ;あとかはやなき, かれども;かりつとも, またもおふといふ;またもおふてふ, あとかはやなぎ;あとかはやなき,
   
  07/1294
題詞 (旋頭歌)
原文 朝月 日向山 月立所見 遠妻 持在人 看乍偲
訓読 朝月の日向の山に月立てり見ゆ遠妻を待ちたる人し見つつ偲はむ
仮名 あさづきの ひむかのやまに つきたてりみゆ とほづまを もちたるひとし みつつしのはむ
左注 右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 旋頭歌 略体 望郷 宮崎 地名 枕詞
訓異 あさづきの;あさつくひ, ひむかのやまに;むかひのやまの, つきたてりみゆ;つきたちてみゆ, とほづまを;とほつまを, もちたるひとし;もたらむひとや,
   
  07/1295
題詞 (旋頭歌)
原文 春日在 三笠乃山二 月船出 遊士之 飲酒坏尓 陰尓所見管
訓読 春日なる御笠の山に月の舟出づ風流士の飲む酒杯に影に見えつつ
仮名 かすがなる みかさのやまに つきのふねいづ みやびをの のむさかづきに かげにみえつつ
左注 なし
左注訓 右ノ一首ハ、古歌集ニ出ヅ。
校異 なし
事項 雑歌 旋頭歌 奈良 宴席 地名
訓異 かすがなる;かすかなる, つきのふねいづ;つきのふねいつ, みやびをの;たはれをの, のむさかづきに;のむさかつきに, かげにみえつつ;かけにみへつつ,
   
 

譬喩歌

   
  07/1296
題詞 譬喩歌 / 寄衣
題訓 譬喩歌たとへうた 衣ころもに寄す
原文 今造 斑衣服 面<影> 吾尓所念 末服友
訓読 今作る斑の衣面影に我れに思ほゆいまだ着ねども
仮名 いまつくる まだらのころも おもかげに われにおもほゆ いまだきねども
左注 (右十五首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
左注訓 (1298:右ノ三首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。)
校異 歌 [西] 謌 / 就→影 (塙)
事項 譬喩歌 作者:柿本人麻呂歌集 恋愛 非略体
訓異 いまつくる;いますへる, まだらのころも;またらころもは, おもかげに;めにつくと, いまだきねども;いまたきねとも,
   
  07/1297
題詞 (寄衣)
原文 紅 衣染 雖欲 著丹穗哉 人可知
訓読 紅に衣染めまく欲しけども着てにほはばか人の知るべき
仮名 くれなゐに ころもそめまく ほしけども きてにほはばか ひとのしるべき
左注 (右十五首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
左注訓 (1298:右ノ三首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。)
校異 なし
事項 譬喩歌 作者:柿本人麻呂歌集 恋愛 略体
訓異 ころもそめまく;ころもをそめて, ほしけども;ほしけれと, きてにほはばか;きてにほははや, ひとのしるべき;ひとのしるへき,
   
  07/1298
題詞 (寄衣)
原文 <干><各> 人雖云 織次 我廿物 白麻衣
訓読 かにかくに人は言ふとも織り継がむ我が機物の白麻衣
仮名 かにかくに ひとはいふとも おりつがむ わがはたものの しろあさごろも
左注 (右十五首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
左注訓 (1298:右ノ三首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。)
校異 千→干 [万葉集古義] / 名→各 [万葉集古義]
事項 譬喩歌 作者:柿本人麻呂歌集 恋愛 略体
訓異 かにかくに;ちなにはも, おりつがむ;をりつかむ, わがはたものの;わかはたものの, しろあさごろも;しろあさころも,
   
  07/1299
題詞 寄玉
題訓 玉に寄す
原文 安治村 十依海 船浮 白玉採 人所知勿
訓読 あぢ群のとをよる海に舟浮けて白玉採ると人に知らゆな
仮名 あぢむらの とをよるうみに ふねうけて しらたまとると ひとにしらゆな
左注 (右十五首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
左注訓 (1303:右ノ五首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。)
校異 なし
事項 譬喩歌 作者:柿本人麻呂歌集 恋愛 略体 動物
訓異 あぢむらの;あちむらの, とをよるうみに;なをよるうみに, しらたまとると;しらたまとらむ, ひとにしらゆな;ひとにしらすな,
   
  07/1300
題詞 (寄玉)
原文 遠近 礒中在 白玉 人不知 見依鴨
訓読 をちこちの礒の中なる白玉を人に知らえず見むよしもがも
仮名 をちこちの いそのなかなる しらたまを ひとにしらえず みむよしもがも
左注 (右十五首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
左注訓 (1303:右ノ五首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。)
校異 なし
事項 譬喩歌 作者:柿本人麻呂歌集 恋愛 略体
訓異 ひとにしらえず;ひとにしらせて, みむよしもがも;みるよしもかも,
   
  07/1301
題詞 (寄玉)
原文 海神 手纒持在 玉故 石浦廻 潜為鴨
訓読 海神の手に巻き持てる玉故に礒の浦廻に潜きするかも
仮名 わたつみの てにまきもてる たまゆゑに いそのうらみに かづきするかも
左注 (右十五首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
左注訓 (1303:右ノ五首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。)
校異 なし
事項 譬喩歌 作者:柿本人麻呂歌集 恋愛 略体
訓異 てにまきもてる;てにまきもたる, いそのうらみに;いそのうらわに, かづきするかも;あさりするかも,
   
  07/1302
題詞 (寄玉)
原文 海神 持在白玉 見欲 千遍告 潜為海子
訓読 海神の持てる白玉見まく欲り千たびぞ告りし潜きする海人
仮名 わたつみの もてるしらたま みまくほり ちたびぞのりし かづきするあま
左注 (右十五首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
左注訓 (1303:右ノ五首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。)
校異 なし
事項 譬喩歌 作者:柿本人麻呂歌集 恋愛 略体
訓異 もてるしらたま;もたるしらたま, ちたびぞのりし;ちかへりつけつ, かづきするあま;かつきするあま,
   
  07/1303
題詞 (寄玉)
原文 潜為 海子雖告 海神 心不得 所見不云
訓読 潜きする海人は告れども海神の心し得ねば見ゆといはなくに
仮名 かづきする あまはのれども わたつみの こころしえねば みゆといはなくに
左注 (右十五首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
左注訓 右ノ五首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。(配置が異なる)
校異 なし
事項 譬喩歌 作者:柿本人麻呂歌集 恋愛 略体
訓異 かづきする;かつきする, あまはのれども;あまはつくとも, こころしえねば;こころをえすて, みゆといはなくに;みるといはなくに,
   
  07/1304
題詞 寄木
題訓 木に寄す
原文 天雲 棚引山 隠在 吾<下心> 木葉知
訓読 天雲のたなびく山の隠りたる我が下心木の葉知るらむ
仮名 あまくもの たなびくやまの こもりたる あがしたごころ このはしるらむ
左注 (右十五首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
左注訓 (1305:右ノ二首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。)
校異 忘→下心 [万葉集略解]
事項 譬喩歌 作者:柿本人麻呂歌集 恋愛 略体
訓異 たなびくやまの;たなひくやまに, こもりたる;かくれたる, あがしたごころ;われわすれめや,
   
  07/1305
題詞 (寄木)
原文 雖見不飽 人國山 木葉 己心 名著念
訓読 見れど飽かぬ人国山の木の葉をし我が心からなつかしみ思ふ
仮名 みれどあかぬ ひとくにやまの このはをし わがこころから なつかしみおもふ
左注 (右十五首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
左注訓 右ノ二首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。(配置が異なる)
校異 なし
事項 譬喩歌 作者:柿本人麻呂歌集 和歌山 恋愛 略体 地名
訓異 みれどあかぬ;みれとあかぬ, このはをし;このはをそ, わがこころから;おのかこころに, なつかしみおもふ;なつかしくおもふ,
   
  07/1306
題詞 寄花
題訓 花に寄す
原文 是山 黄葉下 花矣我 小端見 反戀
訓読 この山の黄葉が下の花を我れはつはつに見てなほ恋ひにけり
仮名 このやまの もみちのしたの はなをわれ はつはつにみて なほこひにけり
左注 (右十五首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
左注訓 右ノ一首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。(配置が異なる)
校異 なし
事項 譬喩歌 作者:柿本人麻呂歌集 恋愛 略体
訓異 はなをわれ;はなをわか, なほこひにけり;かへるこひしも,
   
  07/1307
題詞 寄川
題訓 川に寄す
原文 従此川 船可行 雖在 渡瀬別 守人有
訓読 この川ゆ舟は行くべくありといへど渡り瀬ごとに守る人のありて
仮名 このかはゆ ふねはゆくべく ありといへど わたりぜごとに もるひとのありて
左注 (右十五首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
左注訓 右ノ一首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。(配置が異なる)
校異 なし
事項 譬喩歌 作者:柿本人麻呂歌集 恋愛 障害 略体
訓異 このかはゆ;このかはに, ふねはゆくべく;ふねもこくへく, ありといへど;ありといへと, わたりぜごとに;わたるせことに, もるひとのありて;まもるひとあり,
   
  07/1308
題詞 寄海
題訓 海に寄す
原文 大海 候水門 事有 従何方君 吾率凌
訓読 大海をさもらふ港事しあらばいづへゆ君は我を率しのがむ
仮名 おほうみを さもらふみなと ことしあらば いづへゆきみは わをゐしのがむ
左注 (右十五首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
左注訓 (1310:右ノ三首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。)
校異 海 [元] 船
事項 譬喩歌 作者:柿本人麻呂歌集 恋愛 略体
訓異 おほうみを;おほうみの, さもらふみなと;まもるみなとの, ことしあらば;ことあるに, いづへゆきみは;いつくにきみか, わをゐしのがむ;われゐしのかむ,
   
  07/1309
題詞 (寄海)
原文 風吹 海荒 明日言 應久 <公>随
訓読 風吹きて海は荒るとも明日と言はば久しくあるべし君がまにまに
仮名 かぜふきて うみはあるとも あすといはば ひさしくあるべし きみがまにまに
左注 (右十五首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
左注訓 (1310:右ノ三首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。)
校異 君→公 [西(訂正右書)][元][類][紀]
事項 譬喩歌 作者:柿本人麻呂歌集 恋愛 略体
訓異 かぜふきて;かせふきて, あすといはば;あすといはは, ひさしくあるべし;ひさしかるへし, きみがまにまに;きみかまにまに,
   
  07/1310
題詞 (寄海)
原文 雲隠 小嶋神之 恐者 目間 心間哉
訓読 雲隠る小島の神の畏けば目こそ隔てれ心隔てや
仮名 くもがくる こしまのかみの かしこけば めこそへだてれ こころへだてや
左注 右十五首柿本朝臣人麻呂之歌集出
左注訓 右ノ三首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。(配置が異なる)
校異 なし
事項 譬喩歌 作者:柿本人麻呂歌集 恋愛 略体
訓異 くもがくる;くもかくれ, こしまのかみの;をしまのかみの, かしこけば;かしこくは, めこそへだてれ;めはへたつとも, こころへだてや;こころへたつな,
   
  07/1311
題詞 寄衣
題訓 (1296:衣ころもに寄す)
原文 橡 衣人<皆> 事無跡 曰師時従 欲服所念
訓読 橡の衣は人皆事なしと言ひし時より着欲しく思ほゆ
仮名 つるはみの きぬはひとみな ことなしと いひしときより きほしくおもほゆ
左注 なし
校異 者→皆 [元][類][古][紀]
事項 譬喩歌 恋愛 植物
訓異 きぬはひとみな;きぬきしひとは, きほしくおもほゆ;きまほしくおほゆ,
   
  07/1312
題詞 (寄衣)
原文 凡尓 吾之念者 下服而 穢尓師衣乎 取而将著八方
訓読 おほろかに我れし思はば下に着てなれにし衣を取りて着めやも
仮名 おほろかに われしおもはば したにきて なれにしきぬを とりてきめやも
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 恋愛
訓異 おほろかに;おほよそに, われしおもはば;われをおもはは,
   
  07/1313
題詞 (寄衣)
原文 紅之 深染之衣 下著而 上取著者 事将成鴨
訓読 紅の深染めの衣下に着て上に取り着ば言なさむかも
仮名 くれなゐの こそめのころも したにきて うへにとりきば ことなさむかも
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 恋愛 尫柜蹋
訓異 うへにとりきば;うへにとりきは, ことなさむかも;ことならむかも,
   
  07/1314
題詞 (寄衣)
原文 橡 解濯衣之 恠 殊欲服 此暮可聞
訓読 橡の解き洗ひ衣のあやしくもことに着欲しきこの夕かも
仮名 つるはみの ときあらひきぬの あやしくも ことにきほしき このゆふへかも
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 恋愛 植物
訓異 -
   
  07/1315
題詞 (寄衣)
原文 橘之 嶋尓之居者 河遠 不曝縫之 吾下衣
訓読 橘の島にし居れば川遠みさらさず縫ひし我が下衣
仮名 たちばなの しまにしをれば かはとほみ さらさずぬひし あがしたごろも
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 飛鳥 恋愛 後悔 地名
訓異 たちばなの;たちはなの, しまにしをれば;しまにしをれは, さらさずぬひし;さらさてぬひし, あがしたごろも;わかしたころも,
   
  07/1316
題詞 寄絲
題訓 糸に寄す
原文 河内女之 手染之絲乎 絡反 片絲尓雖有 将絶跡念也
訓読 河内女の手染めの糸を繰り返し片糸にあれど絶えむと思へや
仮名 かふちめの てそめのいとを くりかへし かたいとにあれど たえむとおもへや
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 恋愛
訓異 かたいとにあれど;かたいとにあれと, たえむとおもへや;たへむとおもへや,
   
  07/1317
題詞 寄玉
題訓 (1299:玉に寄す)
原文 海底 沈白玉 風吹而 海者雖荒 不取者不止
訓読 海の底沈く白玉風吹きて海は荒るとも取らずはやまじ
仮名 わたのそこ しづくしらたま かぜふきて うみはあるとも とらずはやまじ
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 恋愛
訓異 しづくしらたま;しつくしらたま, かぜふきて;かせふきて, とらずはやまじ;とらすはやまし,
   
  07/1318
題詞 (寄玉)
原文 底清 沈有玉乎 欲見 千遍曽告之 潜為白水郎
訓読 底清み沈ける玉を見まく欲り千たびぞ告りし潜きする海人
仮名 そこきよみ しづけるたまを みまくほり ちたびぞのりし かづきするあま
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 恋愛
訓異 そこきよみ;そこきよし, しづけるたまを;しつめるたまを, ちたびぞのりし;ちたひそつけし, かづきするあま;かつきするあま,
   
  07/1319
題詞 (寄玉)
原文 大海之 水底照之 石著玉 齋而将採 風莫吹行年
訓読 大海の水底照らし沈く玉斎ひて採らむ風な吹きそね
仮名 おほうみの みなそこてらし しづくたま いはひてとらむ かぜなふきそね
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 恋愛
訓異 みなそこてらし;みなそこてらす, しづくたま;あはひたま, かぜなふきそね;かせなふきこそ,
   
  07/1320
題詞 (寄玉)
原文 水底尓 沈白玉 誰故 心盡而 吾不念尓
訓読 水底に沈く白玉誰が故に心尽して我が思はなくに
仮名 みなそこに しづくしらたま たがゆゑに こころつくして わがおもはなくに
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 恋愛
訓異 しづくしらたま;しつくしらたま, たがゆゑに;たかゆゑに, わがおもはなくに;わかおもはなくに,
   
  07/1321
題詞 (寄玉)
原文 世間 常如是耳加 結大王 白玉之緒 絶樂思者
訓読 世間は常かくのみか結びてし白玉の緒の絶ゆらく思へば
仮名 よのなかは つねかくのみか むすびてし しらたまのをの たゆらくおもへば
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 恋愛
訓異 むすびてし;むすふきみ, たゆらくおもへば;たえらくおもへは,
   
  07/1322
題詞 (寄玉)
原文 伊勢海之 白水郎之嶋津我 鰒玉 取而後毛可 戀之将繁
訓読 伊勢の海の海人の島津が鰒玉採りて後もか恋の繁けむ
仮名 いせのうみの あまのしまつが あはびたま とりてのちもか こひのしげけむ
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 恋愛 動物
訓異 あまのしまつが;あまのしまつか, あはびたま;あはひたま, こひのしげけむ;こひのしけけむ,
   
  07/1323
題詞 (寄玉)
原文 海之底 奥津白玉 縁乎無三 常如此耳也 戀度味試
訓読 海の底沖つ白玉よしをなみ常かくのみや恋ひわたりなむ
仮名 わたのそこ おきつしらたま よしをなみ つねかくのみや こひわたりなむ
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 恋愛
訓異 -
   
  07/1324
題詞 (寄玉)
原文 葦根之 懃念而 結義之 玉緒云者 人将解八方
訓読 葦の根のねもころ思ひて結びてし玉の緒といはば人解かめやも
仮名 あしのねの ねもころおもひて むすびてし たまのをといはば ひととかめやも
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 恋愛 枕詞
訓異 むすびてし;むすひてし, たまのをといはば;たまのをといはは, ひととかめやも;ひととかむやも,
   
  07/1325
題詞 (寄玉)
原文 白玉乎 手者不纒尓 匣耳 置有之人曽 玉令<詠>流
訓読 白玉を手には巻かずに箱のみに置けりし人ぞ玉嘆かする
仮名 しらたまを てにはまかずに はこのみに おけりしひとぞ たまなげかする
左注 なし
校異 泳→詠 [元][類][細]
事項 譬喩歌 恋愛
訓異 てにはまかずに;てにはまかぬに, はこのみに;はこにのみ, おけりしひとぞ;おけりしひとそ, たまなげかする;たまおほれする,
   
  07/1326
題詞 (寄玉)
原文 照左豆我 手尓纒古須 玉毛欲得 其緒者替而 吾玉尓将為
訓読 照左豆が手に巻き古す玉もがもその緒は替へて我が玉にせむ
仮名 てるさづが てにまきふるす たまもがも そのをはかへて わがたまにせむ
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 恋愛
訓異 てるさづが;てるさつか, たまもがも;たまもかな, わがたまにせむ;わかたまにせむ,
   
  07/1327
題詞 (寄玉)
原文 秋風者 継而莫吹 海底 奥在玉乎 手纒左右二
訓読 秋風は継ぎてな吹きそ海の底沖なる玉を手に巻くまでに
仮名 あきかぜは つぎてなふきそ わたのそこ おきなるたまを てにまくまでに
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 恋愛
訓異 あきかぜは;あきかせは, つぎてなふきそ;つきてなふきそ, てにまくまでに;てにまくまてに,
   
  07/1328
題詞 寄日本琴
題訓 日本琴やまとことに寄す
原文 伏膝 玉之小琴之 事無者 甚幾許 吾将戀也毛
訓読 膝に伏す玉の小琴の事なくはいたくここだく我れ恋ひめやも
仮名 ひざにふす たまのをごとの ことなくは いたくここだく あれこひめやも
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 恋愛
訓異 ひざにふす;ひさにふす, たまのをごとの;たまのをことの, いたくここだく;いとかくはかり, あれこひめやも;わかこひむやも,
   
  07/1329
題詞 寄弓
題訓 弓に寄す
原文 陸奥之 吾田多良真弓 著<絃>而 引者香人之 吾乎事将成
訓読 陸奥の安達太良真弓弦はけて引かばか人の我を言なさむ
仮名 みちのくの あだたらまゆみ つらはけて ひかばかひとの わをことなさむ
左注 なし
校異 絲→絃 [元][古]
事項 譬喩歌 恋愛 尫柜蹋 植物
訓異 あだたらまゆみ;あたたらまゆみ, つらはけて;つるすけて, ひかばかひとの;ひけはかひとの, わをことなさむ;われをことなさむ,
   
  07/1330
題詞 (寄弓)
原文 南淵之 細川山 立檀 弓束<纒及> 人二不所知
訓読 南淵の細川山に立つ檀弓束巻くまで人に知らえじ
仮名 みなぶちの ほそかはやまに たつまゆみ ゆづかまくまで ひとにしらえじ
左注 なし
校異 級→纒及 [古]
事項 譬喩歌 恋愛 尫柜蹋 飛鳥 地名 植物
訓異 みなぶちの;みなふちの, ゆづかまくまで;ゆつかまくまて, ひとにしらえじ;ひとにしらるな,
   
  07/1331
題詞 寄山
題訓 山に寄す
原文 磐疊 恐山常 知管毛 吾者戀香 同等不有尓
訓読 岩畳畏き山と知りつつも我れは恋ふるか並にあらなくに
仮名 いはたたみ かしこきやまと しりつつも あれはこふるか なみにあらなくに
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 恋愛
訓異 あれはこふるか;われはこふるか, なみにあらなくに;ともならなくに,
   
  07/1332
題詞 (寄山)
原文 石金之 <凝>敷山尓 入始而 山名付染 出不勝鴨
訓読 岩が根のこごしき山に入りそめて山なつかしみ出でかてぬかも
仮名 いはがねの こごしきやまに いりそめて やまなつかしみ いでかてぬかも
左注 なし
校異 凝木→凝 [元]
事項 譬喩歌 恋愛
訓異 いはがねの;いはかねの, こごしきやまに;ここしきやまに, いでかてぬかも;いてかてぬかも,
   
  07/1333
題詞 (寄山)
原文 佐<穂>山乎 於凡尓見之鹿跡 今見者 山夏香思母 風吹莫勤
訓読 佐保山をおほに見しかど今見れば山なつかしも風吹くなゆめ
仮名 さほやまを おほにみしかど いまみれば やまなつかしも かぜふくなゆめ
左注 なし
校異 保→穂 [元][類][紀]
事項 譬喩歌 恋愛 奈良 地名
訓異 おほにみしかど;おほにみしかと, いまみれば;いまみれは, かぜふくなゆめ;かせふくなゆめ,
   
  07/1334
題詞 (寄山)
原文 奥山之 於石蘿生 恐常 思情乎 何如裳勢武
訓読 奥山の岩に苔生し畏けど思ふ心をいかにかもせむ
仮名 おくやまの いはにこけむし かしこけど おもふこころを いかにかもせむ
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 恋愛
訓異 かしこけど;かしこみと,
   
  07/1335
題詞 (寄山)
原文 思賸 痛文為便無 玉手次 雲飛山仁 吾印結
訓読 思ひあまりいたもすべなみ玉たすき畝傍の山に我れ標結ひつ
仮名 おもひあまり いたもすべなみ たまたすき うねびのやまに われしめゆひつ
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 橿原 奈良 恋愛 枕詞 地名
訓異 いたもすべなみ;いともすへなみ, うねびのやまに;うねひのやまに, われしめゆひつ;われしめむすふ,
   
  07/1336
題詞 寄草
題訓 草に寄す
原文 冬隠 春乃大野乎 焼人者 焼不足香文 吾情熾
訓読 冬こもり春の大野を焼く人は焼き足らねかも我が心焼く
仮名 ふゆこもり はるのおほのを やくひとは やきたらねかも わがこころやく
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 恋愛 枕詞
訓異 やきたらねかも;やきたらぬかも, わがこころやく;わかこころやく,
   
  07/1337
題詞 (寄草)
原文 葛城乃 高間草野 早知而 標指益乎 今悔拭
訓読 葛城の高間の草野早知りて標刺さましを今ぞ悔しき
仮名 かづらきの たかまのかやの はやしりて しめささましを いまぞくやしき
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 葛城 奈良 恋愛 後悔 地名
訓異 かづらきの;かつらきの, たかまのかやの;たかまのくさの, いまぞくやしき;いまそくやしき,
   
  07/1338
題詞 (寄草)
原文 吾屋前尓 生土針 従心毛 不想人之 衣尓須良由奈
訓読 我がやどに生ふるつちはり心ゆも思はぬ人の衣に摺らゆな
仮名 わがやどに おふるつちはり こころゆも おもはぬひとの きぬにすらゆな
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 恋愛 植物
訓異 わがやどに;わかやとに, こころゆも;こころにも,
   
  07/1339
題詞 (寄草)
原文 鴨頭草丹 服色取 揩目伴 移變色登 称之苦沙
訓読 月草に衣色どり摺らめどもうつろふ色と言ふが苦しさ
仮名 つきくさに ころもいろどり すらめども うつろふいろと いふがくるしさ
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 恋愛 植物
訓異 ころもいろどり;ころもいろとり, すらめども;すらめとも, いふがくるしさ;いふかくるしさ,
   
  07/1340
題詞 (寄草)
原文 紫 絲乎曽吾搓 足桧之 山橘乎 将貫跡念而
訓読 紫の糸をぞ我が搓るあしひきの山橘を貫かむと思ひて
仮名 むらさきの いとをぞわがよる あしひきの やまたちばなを ぬかむとおもひて
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 恋愛 植物
訓異 いとをぞわがよる;いとをそわれよる, やまたちばなを;やまたちはなを,
   
  07/1341
題詞 (寄草)
原文 真珠付 越能菅原 吾不苅 人之苅巻 惜菅原
訓読 真玉つく越智の菅原我れ刈らず人の刈らまく惜しき菅原
仮名 またまつく をちのすがはら われからず ひとのからまく をしきすがはら
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 恋愛 植物
訓異 をちのすがはら;こしのすかはふ, われからず;われからて, をしきすがはら;をしきすかはら,
   
  07/1342
題詞 (寄草)
原文 山高 夕日隠奴 淺茅原 後見多米尓 標結申尾
訓読 山高み夕日隠りぬ浅茅原後見むために標結はましを
仮名 やまたかみ ゆふひかくりぬ あさぢはら のちみむために しめゆはましを
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 恋愛 植物
訓異 ゆふひかくりぬ;ゆふひかくれぬ, あさぢはら;あさちはら,
   
  07/1343
題詞 (寄草)
原文 事痛者 左右将為乎 石代之 野邊之下草 吾之苅而者 [一云 紅之 寫心哉 於妹不相将有]
訓読 言痛くはかもかもせむを岩代の野辺の下草我れし刈りてば [一云 紅の現し心や妹に逢はずあらむ]
仮名 こちたくは かもかもせむを いはしろの のへのしたくさ われしかりてば [くれなゐの うつしこころや いもにあはずあらむ]
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 異伝 和歌山 尫柜蹋 地名
訓異 こちたくは;ことたくは, かもかもせむを;かにかくせむを, われしかりてば;われしかりては, いもにあはずあらむ];いもにあはさらむ,
   
  07/1344
題詞 (寄草)
原文 真鳥住 卯名手之神社之 菅根乎 衣尓書付 令服兒欲得
訓読 真鳥棲む雲梯の杜の菅の根を衣にかき付け着せむ子もがも
仮名 まとりすむ うなてのもりの すがのねを きぬにかきつけ きせむこもがも
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 橿原 奈良 恋愛 地名 植物
訓異 すがのねを;すかのねを, きせむこもがも;きせむこもかな,
   
  07/1345
題詞 (寄草)
原文 常不 人國山乃 秋津野乃 垣津幡鴛 夢見鴨
訓読 常ならぬ人国山の秋津野のかきつはたをし夢に見しかも
仮名 つねならぬ ひとくにやまの あきづのの かきつはたをし いめにみしかも
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 和歌山 恋愛 地名 植物
訓異 あきづのの;あきつのの, いめにみしかも;ゆめにみるかも,
   
  07/1346
題詞 (寄草)
原文 姫押 生澤邊之 真田葛原 何時鴨絡而 我衣将服
訓読 をみなへし佐紀沢の辺の真葛原いつかも繰りて我が衣に着む
仮名 をみなへし さきさはのへの まくずはら いつかもくりて わがきぬにきむ
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 奈良 恋愛 植物 地名
訓異 さきさはのへの;おふるさはへの, まくずはら;まくすはら, わがきぬにきむ;わかきぬにせむ,
   
  07/1347
題詞 (寄草)
原文 於君似 草登見従 我標之 野山之淺茅 人莫苅根
訓読 君に似る草と見しより我が標めし野山の浅茅人な刈りそね
仮名 きみににる くさとみしより わがしめし のやまのあさぢ ひとなかりそね
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 恋愛 植物
訓異 くさとみしより;くさとみるより, わがしめし;わかしめし, のやまのあさぢ;のやまのあさち,
   
  07/1348
題詞 (寄草)
原文 三嶋江之 玉江之薦乎 従標之 己我跡曽念 雖未苅
訓読 三島江の玉江の薦を標めしより己がとぞ思ふいまだ刈らねど
仮名 みしまえの たまえのこもを しめしより おのがとぞおもふ いまだからねど
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 大阪 恋愛 植物
訓異 おのがとぞおもふ;おのかとそおもふ, いまだからねど;いまたからねと,
   
  07/1349
題詞 (寄草)
原文 如是為<而>也 尚哉将老 三雪零 大荒木野之 小竹尓不有九二
訓読 かくしてやなほや老いなむみ雪降る大荒木野の小竹にあらなくに
仮名 かくしてや なほやおいなむ みゆきふる おほあらきのの しのにあらなくに
左注 なし
校異 <>→而 [西(右書)][元][類][紀]
事項 譬喩歌 奈良 恋愛 植物 地名
訓異 しのにあらなくに;ささにあらなくに,
   
  07/1350
題詞 (寄草)
原文 淡海之哉 八橋乃小竹乎 不造<笶>而 信有得哉 戀敷鬼<呼>
訓読 近江のや八橋の小竹を矢はがずてまことありえむや恋しきものを
仮名 あふみのや やばせのしのを やはがずて まことありえむや こほしきものを
左注 なし
校異 矢→笶 [元][類][古][紀] / 乎→呼 [元][紀]
事項 譬喩歌 滋賀県 恋愛 地名 植物
訓異 やばせのしのを;やはせのしのを, やはがずて;やにはかて, まことありえむや;まことありとや, こほしきものを;こひしきものを,
   
  07/1351
題詞 (寄草)
原文 月草尓 衣者将<揩> 朝露尓 所沾而後者 <徙>去友
訓読 月草に衣は摺らむ朝露に濡れての後はうつろひぬとも
仮名 つきくさに ころもはすらむ あさつゆに ぬれてののちは うつろひぬとも
左注 なし
校異 摺→揩 [元] / 徒→徙 [元][古][温]
事項 譬喩歌 恋愛 移ろ媿 植物
訓異 -
   
  07/1352
題詞 (寄草)
原文 吾情 湯谷絶谷 浮蓴 邊毛奥毛 依<勝>益士
訓読 我が心ゆたにたゆたに浮蓴辺にも沖にも寄りかつましじ
仮名 あがこころ ゆたにたゆたに うきぬなは へにもおきにも よりかつましじ
左注 なし
校異 <>→勝 [西(右書)][元][類][紀]
事項 譬喩歌 恋愛 植物
訓異 あがこころ;わかこころ, よりかつましじ;よりかたましを,
   
  07/1353
題詞 寄稲
題訓 稲に寄す
原文 石上 振之早田乎 雖不秀 繩谷延与 守乍将居
訓読 石上布留の早稲田を秀でずとも縄だに延へよ守りつつ居らむ
仮名 いそのかみ ふるのわさだを ひでずとも なはだにはへよ もりつつをらむ
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 奈良 恋愛 地名 植物
訓異 ふるのわさだを;ふるのわさたを, ひでずとも;ひてすとも, なはだにはへよ;しめたにはへよ,
   
  07/1354
題詞 寄木
題訓 (1304:木に寄す)
題訓  
原文 白菅之 真野乃榛原 心従毛 不念<吾>之 衣尓<揩>
訓読 白菅の真野の榛原心ゆも思はぬ我れし衣に摺りつ
仮名 しらすげの まののはりはら こころゆも おもはぬわれし ころもにすりつ
左注 なし
校異 君→吾 [元][類][紀] / 摺→揩 [元]
事項 譬喩歌 兵庫 恋愛 植物 地名
訓異 しらすげの;しらすけの, まののはりはら;まののはきはら, こころゆも;こころにも, おもはぬわれし;おもはぬきみか, ころもにすりつ;ころもにそする,
   
  07/1355
題詞 (寄木)
原文 真木柱 作蘇麻人 伊左佐目丹 借廬之為跡 造計米八方
訓読 真木柱作る杣人いささめに仮廬のためと作りけめやも
仮名 まきばしら つくるそまびと いささめに かりいほのためと つくりけめやも
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 恋愛
訓異 まきばしら;まきはしら, つくるそまびと;つくるそまひと, かりいほのためと;かりほのためと,
   
  07/1356
題詞 (寄木)
原文 向峯尓 立有桃樹 <将>成哉等 人曽耳言為 汝情勤
訓読 向つ峰に立てる桃の木ならむやと人ぞささやく汝が心ゆめ
仮名 むかつをに たてるもものき ならむやと ひとぞささやく ながこころゆめ
左注 なし
校異 <>→将 [元][類][紀] / 為 [塙本] 焉
事項 譬喩歌 恋愛 植物 歌垣
訓異 ならむやと;なりぬやと, ひとぞささやく;ひとそささめきし, ながこころゆめ;なかこころゆめ,
   
  07/1357
題詞 (寄木)
原文 足乳根乃 母之其業 桑尚 願者衣尓 著常云物乎
訓読 たらちねの母がそのなる桑すらに願へば衣に着るといふものを
仮名 たらちねの ははがそのなる くはすらに ねがへばきぬに きるといふものを
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 恋愛 枕詞 植物
訓異 ははがそのなる;ははのそのなる, くはすらに;くはもなほ, ねがへばきぬに;ねかへはきぬに,
   
  07/1358
題詞 (寄木)
原文 波之吉也思 吾家乃毛桃 本繁 花耳開而 不成在目八方
訓読 はしきやし我家の毛桃本茂く花のみ咲きてならずあらめやも
仮名 はしきやし わぎへのけもも もとしげく はなのみさきて ならずあらめやも
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 恋愛 植物
訓異 わぎへのけもも;わかいへのけもも, もとしげく;もとしけく, ならずあらめやも;ならさらめやも,
   
  07/1359
題詞 (寄木)
原文 向岳之 若楓木 下枝取 花待伊間尓 嘆鶴鴨
訓読 向つ峰の若桂の木下枝取り花待つい間に嘆きつるかも
仮名 むかつをの わかかつらのき しづえとり はなまついまに なげきつるかも
左注 なし
校異 向 [元][類][古][紀] 南
事項 譬喩歌 恋愛 植物
訓異 わかかつらのき;わかかつらきの, しづえとり;しつゑとり, なげきつるかも;なけきつるかも,
   
  07/1360
題詞 寄花
題訓 (1306:花に寄す)
原文 氣緒尓 念有吾乎 山治左能 花尓香<公>之 移奴良武
訓読 息の緒に思へる我れを山ぢさの花にか君がうつろひぬらむ
仮名 いきのをに おもへるわれを やまぢさの はなにかきみが うつろひぬらむ
左注 なし
校異 君→公 [元][類][古][紀]
事項 譬喩歌 恋愛 恨牫 失恋 植物
訓異 やまぢさの;やまちさの, はなにかきみが;はなにかきみか,
   
  07/1361
題詞 (寄花)
原文 墨吉之 淺澤小野之 垣津幡 衣尓揩著 将衣日不知毛
訓読 住吉の浅沢小野のかきつはた衣に摺り付け着む日知らずも
仮名 すみのえの あささはをのの かきつはた きぬにすりつけ きむひしらずも
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 恋愛 大阪 地名 植物
訓異 きむひしらずも;きむひしらすも,
   
  07/1362
題詞 (寄花)
原文 秋去者 影毛将為跡 吾蒔之 韓藍之花乎 誰採家牟
訓読 秋さらば移しもせむと我が蒔きし韓藍の花を誰れか摘みけむ
仮名 あきさらば うつしもせむと わがまきし からあゐのはなを たれかつみけむ
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 恋愛 悔賖蹋 植物
訓異 あきさらば;あきさらは, うつしもせむと;かけにもせむと, わがまきし;わかまきし,
   
  07/1363
題詞 (寄花)
原文 春日野尓 咲有芽子者 片枝者 未含有 言勿絶行年
訓読 春日野に咲きたる萩は片枝はいまだふふめり言な絶えそね
仮名 かすがのに さきたるはぎは かたえだは いまだふふめり ことなたえそね
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 恋愛 奈良 地名 植物
訓異 かすがのに;かすかのに, さきたるはぎは;さきたるはきは, かたえだは;かたえたは, いまだふふめり;いまたふふめり, ことなたえそね;ことなたえこそ,
   
  07/1364
題詞 (寄花)
原文 欲見 戀管待之 秋芽子者 花耳開而 不成可毛将有
訓読 見まく欲り恋ひつつ待ちし秋萩は花のみ咲きてならずかもあらむ
仮名 みまくほり こひつつまちし あきはぎは はなのみさきて ならずかもあらむ
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 恋愛 植物
訓異 あきはぎは;あきはきは, ならずかもあらむ;ならすかもあらむ,
   
  07/1365
題詞 (寄花)
原文 吾妹子之 屋前之秋芽子 自花者 實成而許曽 戀益家礼
訓読 我妹子がやどの秋萩花よりは実になりてこそ恋ひまさりけれ
仮名 わぎもこが やどのあきはぎ はなよりは みになりてこそ こひまさりけれ
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 恋愛 植物
訓異 わぎもこが;わきもこか, やどのあきはぎ;やとのあきはき,
   
  07/1366
題詞 寄鳥
題訓 鳥に寄す
原文 明日香川 七瀬之不行尓 住鳥毛 意有社 波不立目
訓読 明日香川七瀬の淀に住む鳥も心あれこそ波立てざらめ
仮名 あすかがは ななせのよどに すむとりも こころあれこそ なみたてざらめ
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 恋愛 尫柜蹋 飛鳥 地名 動物
訓異 あすかがは;あすかかは, ななせのよどに;ななせのよとに, こころあれこそ;こころあれはこそ, なみたてざらめ;なみたたさらめ,
   
  07/1367
題詞 寄獸
題訓 獣けだものに寄す
原文 三國山 木末尓住歴 武佐左妣乃 此待鳥如 吾<俟>将痩
訓読 三国山木末に住まふむささびの鳥待つごとく我れ待ち痩せむ
仮名 みくにやま こぬれにすまふ むささびの とりまつごとく われまちやせむ
左注 なし
校異 侯→俟 [西(貼紙)][元][類][紀]
事項 譬喩歌 恋愛 地名 動物
訓異 こぬれにすまふ;こすゑにすまふ, むささびの;むささひの, とりまつごとく;とりまつかこと, われまちやせむ;わかまちやせし,
   
  07/1368
題詞 寄雲
題訓 雲に寄す
原文 石倉之 小野従秋津尓 發渡 雲西裳在哉 時乎思将待
訓読 岩倉の小野ゆ秋津に立ちわたる雲にしもあれや時をし待たむ
仮名 いはくらの をのゆあきづに たちわたる くもにしもあれや ときをしまたむ
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 恋愛 和歌山県 田辺市 地名
訓異 をのゆあきづに;をのよりあきつに,
   
  07/1369
題詞 寄雷
題訓 雷いかつちに寄す
原文 天雲 近光而 響神之 見者恐 不見者悲毛
訓読 天雲に近く光りて鳴る神の見れば畏し見ねば悲しも
仮名 あまくもに ちかくひかりて なるかみの みればかしこし みねばかなしも
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 恋愛 序詞
訓異 みればかしこし;みれはかしこし, みねばかなしも;みねはかなしも,
   
  07/1370
題詞 寄雨
題訓 雨に寄す
原文 甚多毛 不零雨故 庭立水 太莫逝 人之應知
訓読 はなはだも降らぬ雨故にはたづみいたくな行きそ人の知るべく
仮名 はなはだも ふらぬあめゆゑ にはたづみ いたくなゆきそ ひとのしるべく
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 恋愛 尫柜蹋
訓異 はなはだも;はなはたも, にはたづみ;にはたつみ, ひとのしるべく;ひとのしるへく,
   
  07/1371
題詞 (寄雨)
原文 久堅之 雨尓波不著乎 恠毛 吾袖者 干時無香
訓読 ひさかたの雨には着ぬをあやしくも我が衣手は干る時なきか
仮名 ひさかたの あめにはきぬを あやしくも わがころもでは ふるときなきか
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 恋愛 枕詞
訓異 わがころもでは;わかころもては, ふるときなきか;ひるときなきか,
   
  07/1372
題詞 寄月
題訓 月に寄す
原文 三空徃 月讀<壮>士 夕不去 目庭雖見 因縁毛無
訓読 み空行く月読壮士夕さらず目には見れども寄るよしもなし
仮名 みそらゆく つくよみをとこ ゆふさらず めにはみれども よるよしもなし
左注 なし
校異 牡→壮 [元][類][紀]
事項 譬喩歌 恋愛
訓異 ゆふさらず;ゆふさらす, めにはみれども;めにはみれとも,
   
  07/1373
題詞 (寄月)
原文 春日山 々高有良之 石上 菅根将見尓 月待難
訓読 春日山山高くあらし岩の上の菅の根見むに月待ちかたし
仮名 かすがやま やまたかくあらし いはのうへの すがのねみむに つきまちかたし
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 恋愛 奈良 地名 植物
訓異 かすがやま;かすかやま, やまたかくあらし;やまたかからし, すがのねみむに;すかのねみむに, つきまちかたし;つきまちかねぬ,
   
  07/1374
題詞 (寄月)
原文 闇夜者 辛苦物乎 何時跡 吾待月毛 早毛照奴賀
訓読 闇の夜は苦しきものをいつしかと我が待つ月も早も照らぬか
仮名 やみのよは くるしきものを いつしかと わがまつつきも はやもてらぬか
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 恋愛
訓異 わがまつつきも;わかまつつきも,
   
  07/1375
題詞 (寄月)
原文 朝霜之 消安命 為誰 千歳毛欲得跡 吾念莫國
訓読 朝霜の消やすき命誰がために千年もがもと我が思はなくに
仮名 あさしもの けやすきいのち たがために ちとせもがもと わがおもはなくに
左注 右一首者不有譬喩歌類也 但闇夜歌人所心之故並作此歌 因以此歌載於此次
左注訓 右ノ一首ハ、譬喩歌ノ類ニアラズ。但シ闇ノ夜ノ歌人ノ、所心ノ故ニ並ニ此ノ歌ヲ作ム。コレニ因リテ此ノ歌、此ノ次ニ載ス。
校異 譬喩歌 [西] 譬喩謌 [西(訂正)] 譬喩歌 / 作此歌 [西] 作此謌 [西(訂正)] 作此歌
事項 譬喩歌 恋愛 枕詞
訓異 たがために;たかために, ちとせもがもと;ちとせもかなと, わがおもはなくに;わかおもはなくに,
   
  07/1376
題詞 寄赤土
題訓 赤土はにに寄す
原文 山跡之 宇陀乃真赤土 左丹著者 曽許裳香人之 吾乎言将成
訓読 大和の宇陀の真埴のさ丹付かばそこもか人の我を言なさむ
仮名 やまとの うだのまはにの さにつかば そこもかひとの わをことなさむ
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 奈良 恋愛 尫柜蹋 地名
訓異 うだのまはにの;うたのまはにの, さにつかば;さにつか, そこもかひとの;そこものかひとの, わをことなさむ;われをことなさむ,
   
  07/1377
題詞 寄神
題訓 神に寄す
原文 木綿懸而 祭三諸乃 神佐備而 齋尓波不在 人目多見許<曽>
訓読 木綿懸けて祭る三諸の神さびて斎むにはあらず人目多みこそ
仮名 ゆふかけて まつるみもろの かむさびて いむにはあらず ひとめおほみこそ
左注 なし
校異 増→曽 [元][類][矢][京]
事項 譬喩歌 恋愛 尫柜蹋 三輪 奈良 地名
訓異 まつるみもろの;まつるみむろの, かむさびて;かみさひて, いむにはあらず;いむにはあらす,
   
  07/1378
題詞 (寄神)
原文 木綿懸而 齋此神社 可超 所念可毛 戀之繁尓
訓読 木綿懸けて斎ふこの社越えぬべく思ほゆるかも恋の繁きに
仮名 ゆふかけて いはふこのもり こえぬべく おもほゆるかも こひのしげきに
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 恋愛 三輪 奈良 地名
訓異 いはふこのもり;いみしやしろも, こえぬべく;こえぬへく, こひのしげきに;こひのしけきに,
   
  07/1379
題詞 寄河
題訓 (1307:川に寄す)
原文 不絶逝 明日香川之 不逝有者 故霜有如 人之見國
訓読 絶えず行く明日香の川の淀めらば故しもあるごと人の見まくに
仮名 たえずゆく あすかのかはの よどめらば ゆゑしもあるごと ひとのみまくに
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 飛鳥 恋情 停滞 尫柜蹋 地名
訓異 たえずゆく;たえすゆく, よどめらば;よとめらは, ゆゑしもあるごと;ゆへしもあると, ひとのみまくに;ひとのみらくに,
   
  07/1380
題詞 (寄河)
原文 明日香川 湍瀬尓玉藻者 雖生有 四賀良美有者 靡不相
訓読 明日香川瀬々に玉藻は生ひたれどしがらみあれば靡きあはなくに
仮名 あすかがは せぜにたまもは おひたれど しがらみあれば なびきあはなくに
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 飛鳥 恋情 恨牫 地名
訓異 あすかがは;あすかかは, せぜにたまもは;せせにたまもは, おひたれど;おひたれと, しがらみあれば;しからみあれは, なびきあはなくに;なひきもあはす,
   
  07/1381
題詞 (寄河)
原文 廣瀬<河> 袖衝許 淺乎也 心深目手 吾念有良武
訓読 広瀬川袖漬くばかり浅きをや心深めて我が思へるらむ
仮名 ひろせがは そでつくばかり あさきをや こころふかめて わがおもへるらむ
左注 なし
校異 川→河 [元][類][古][紀]
事項 譬喩歌 奈良 恋情 地名
訓異 ひろせがは;ひろせかは, そでつくばかり;そてつくはかり, わがおもへるらむ;わかおもへらむ,
   
  07/1382
題詞 (寄河)
原文 泊瀬川 流水沫之 絶者許曽 吾念心 不遂登思齒目
訓読 泊瀬川流るる水沫の絶えばこそ我が思ふ心遂げじと思はめ
仮名 はつせがは ながるるみなわの たえばこそ あがおもふこころ とげじとおもはめ
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 奈良 恋情 地名
訓異 はつせがは;はつせかは, ながるるみなわの;なかるみなわの, たえばこそ;たえはこそ, あがおもふこころ;わかおもふこころ, とげじとおもはめ;とけすとおもはめ,
   
  07/1383
題詞 (寄河)
原文 名毛伎世婆 人可知見 山川之 瀧情乎 塞敢<而>有鴨
訓読 嘆きせば人知りぬべみ山川のたぎつ心を塞かへてあるかも
仮名 なげきせば ひとしりぬべみ やまがはの たぎつこころを せかへてあるかも
左注 なし
校異 与→而 [西(訂正)][元][類][紀]
事項 譬喩歌 恋情 尫柜蹋
訓異 なげきせば;なけきせは, ひとしりぬべみ;ひとしりぬへみ, やまがはの;やまかはの, たぎつこころを;たきつこころを, せかへてあるかも;せかへたるかも,
   
  07/1384
題詞 (寄河)
原文 水隠尓 氣衝餘 早川之 瀬者立友 人二将言八方
訓読 水隠りに息づきあまり早川の瀬には立つとも人に言はめやも
仮名 みごもりに いきづきあまり はやかはの せにはたつとも ひとにいはめやも
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 恋情
訓異 みごもりに;みこもりに, いきづきあまり;いきつきあまり,
   
  07/1385
題詞 寄埋木
題訓 埋木うもれきに寄す
原文 真鉇持 弓削河原之 埋木之 不可顕 事<尓>不有君
訓読 真鉋持ち弓削の川原の埋れ木のあらはるましじきことにあらなくに
仮名 まかなもち ゆげのかはらの うもれぎの あらはるましじき ことにあらなくに
左注 なし
校異 等→尓 [元][類][古][紀]
事項 譬喩歌 大阪 恋情 人目 地名
訓異 まかなもち;まかなもて, ゆげのかはらの;ゆけのかはらの, うもれぎの;むもれきの, あらはるましじき;あらはるましき,
   
  07/1386
題詞 寄海
題訓 (1308:海に寄す)
原文 大船尓 真梶繁貫 水手出去之 奥<者>将深 潮者干去友
訓読 大船に真楫しじ貫き漕ぎ出なば沖は深けむ潮は干ぬとも
仮名 おほぶねに まかぢしじぬき こぎでなば おきはふかけむ しほはひぬとも
左注 なし
校異 <>→者 [元][類][古][紀]
事項 譬喩歌 恋情
訓異 おほぶねに;おほふねに, まかぢしじぬき;まかちししぬき, こぎでなば;こきいてにし, おきはふかけむ;おきはふかなむ,
   
  07/1387
題詞 (寄海)
原文 伏超従 去益物乎 間守尓 所打沾 浪不數為而
訓読 伏越ゆ行かましものをまもらふにうち濡らさえぬ波数まずして
仮名 ふしこえゆ ゆかましものを まもらふに うちぬらさえぬ なみよまずして
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 恋情
訓異 ふしこえゆ;ふしこえに, ゆかましものを;えかましものを, まもらふに;ひまもりに, うちぬらさえぬ;うちぬらされぬ, なみよまずして;なみかそへすて
   
  07/1388
題詞 (寄海)
原文 石灑 岸之浦廻尓 縁浪 邊尓来依者香 言之将繁
訓読 石そそき岸の浦廻に寄する波辺に来寄らばか言の繁けむ
仮名 いはそそき きしのうらみに よするなみ へにきよらばか ことのしげけむ
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 恋情 尫柜蹋
訓異 いはそそき;いはそそく, きしのうらみに;きしのうらわに, へにきよらばか;へにきよれはか, ことのしげけむ;ことのしけけむ,
   
  07/1389
題詞 (寄海)
原文 礒之浦尓 来依白浪 反乍 過不勝者 <誰>尓絶多倍
訓読 礒の浦に来寄る白波返りつつ過ぎかてなくは誰れにたゆたへ
仮名 いそのうらに きよるしらなみ かへりつつ すぎかてなくは たれにたゆたへ
左注 なし
校異 雉→誰 [元][類][古][紀]
事項 譬喩歌 恋情
訓異 すぎかてなくは;すきかてぬれは, たれにたゆたへ;きしにたゆたへ,
   
  07/1390
題詞 (寄海)
原文 淡海之海 浪恐登 風守 年者也将經去 榜者無二
訓読 近江の海波畏みと風まもり年はや経なむ漕ぐとはなしに
仮名 あふみのうみ なみかしこみと かぜまもり としはやへなむ こぐとはなしに
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 滋賀 恋情 琵琶湖 地名
訓異 なみかしこみと;なみをそろしと, かぜまもり;かせまもり, こぐとはなしに;こくとはなしに,
   
  07/1391
題詞 (寄海)
原文 朝奈藝尓 来依白浪 欲見 吾雖為 風許増不令依
訓読 朝なぎに来寄る白波見まく欲り我れはすれども風こそ寄せね
仮名 あさなぎに きよるしらなみ みまくほり われはすれども かぜこそよせね
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 恋情
訓異 あさなぎに;あさなきに, われはすれども;われはすれとも, かぜこそよせね;かせこそよせね,
   
  07/1392
題詞 寄浦沙
題訓 浦沙まなごに寄す
原文 紫之 名高浦之 愛子地 袖耳觸而 不寐香将成
訓読 紫の名高の浦の真砂土袖のみ触れて寝ずかなりなむ
仮名 むらさきの なたかのうらの まなごつち そでのみふれて ねずかなりなむ
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 和歌山 恋情 地名
訓異 まなごつち;まなこちに, そでのみふれて;そてのみふれて, ねずかなりなむ;ねすかなりなむ,
   
  07/1393
題詞 (寄浦沙)
原文 豊國之 <聞>之濱邊之 愛子地 真直之有者 何如将嘆
訓読 豊国の企救の浜辺の真砂土真直にしあらば何か嘆かむ
仮名 とよくにの きくのはまへの まなごつち まなほにしあらば なにかなげかむ
左注 なし
校異 間→聞 [西(頭書)]
事項 譬喩歌 福岡県 恋愛 恨牫 地名
訓異 きくのはまへの;ままのはまへの, まなごつち;まなこちの, まなほにしあらば;まなをにしあらは, なにかなげかむ;なにかなけかむ,
   
  07/1394
題詞 寄藻
題訓 藻に寄す
原文 塩満者 入流礒之 草有哉 見良久少 戀良久乃太寸
訓読 潮満てば入りぬる礒の草なれや見らく少く恋ふらくの多き
仮名 しほみてば いりぬるいその くさなれや みらくすくなく こふらくのおほき
左注 なし
校異 太 [類][紀] 大
事項 譬喩歌 恋愛
訓異 しほみてば;しほみては,
   
  07/1395
題詞 (寄藻)
原文 奥浪 依流荒礒之 名告藻者 心中尓 疾跡成有
訓読 沖つ波寄する荒礒のなのりそは心のうちに障みとなれり
仮名 おきつなみ よするありその なのりそは こころのうちに つつみとなれり
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 恋愛 植物
訓異 よするありその;よするあらいその, つつみとなれり;とくとなりけり,
   
  07/1396
題詞 (寄藻)
原文 紫之 名高浦乃 名告藻之 於礒将靡 時待吾乎
訓読 紫の名高の浦のなのりその礒に靡かむ時待つ我れを
仮名 むらさきの なたかのうらの なのりその いそになびかむ ときまつわれを
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 和歌山 恋愛 地名 植物
訓異 いそになびかむ;いそになひかむ,
   
  07/1397
題詞 (寄藻)
原文 荒礒超 浪者恐 然為蟹 海之玉藻之 憎者不有手
訓読 荒礒越す波は畏ししかすがに海の玉藻の憎くはあらずて
仮名 ありそこす なみはかしこし しかすがに うみのたまもの にくくはあらずて
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 恋情 植物
訓異 ありそこす;あらいそこす, なみはかしこし;なみはおそろし, しかすがに;しかすかに, にくくはあらずて;にくくはあらすて,
   
  07/1398
題詞 寄船
題訓 船に寄す
原文 神樂聲浪乃 四賀津之浦能 船乗尓 乗西意 常不所忘
訓読 楽浪の志賀津の浦の舟乗りに乗りにし心常忘らえず
仮名 ささなみの しがつのうらの ふなのりに のりにしこころ つねわすらえず
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 滋賀 琵琶湖 恋情 地名 序詞
訓異 ささなみの;ささらなみの, しがつのうらの;しかつのうらの, つねわすらえず;つねわすられす,
   
  07/1399
題詞 (寄船)
原文 百傳 八十之嶋廻乎 榜船尓 乗<尓志>情 忘不得裳
訓読 百伝ふ八十の島廻を漕ぐ舟に乗りにし心忘れかねつも
仮名 ももづたふ やそのしまみを こぐふねに のりにしこころ わすれかねつも
左注 なし
校異 西→尓志 [元][類][紀]
事項 譬喩歌 恋情 枕詞 序詞
訓異 ももづたふ;ももつたふ, やそのしまみを;やそのしまわを, こぐふねに;こくふねに,
   
  07/1400
題詞 (寄船)
原文 嶋傳 足速乃小舟 風守 年者也經南 相常齒無二
訓読 島伝ふ足早の小舟風まもり年はや経なむ逢ふとはなしに
仮名 しまづたふ あばやのをぶね かぜまもり としはやへなむ あふとはなしに
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 恋情
訓異 しまづたふ;しまつたふ, あばやのをぶね;あしはやのをふね, かぜまもり;かせまもり,
   
  07/1401
題詞 (寄船)
原文 水霧相 奥津小嶋尓 風乎疾見 船縁金都 心者念杼
訓読 水霧らふ沖つ小島に風をいたみ舟寄せかねつ心は思へど
仮名 みなぎらふ おきつこしまに かぜをいたみ ふねよせかねつ こころはおもへど
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 恋情 枕詞
訓異 みなぎらふ;みなきりあひ, おきつこしまに;おきつをしまに, かぜをいたみ;かせをいたみ, こころはおもへど;こころはおもへと,
   
  07/1402
題詞 (寄船)
原文 殊放者 奥従酒甞 湊自 邊著經時尓 可放鬼香
訓読 こと放けば沖ゆ放けなむ港より辺著かふ時に放くべきものか
仮名 ことさけば おきゆさけなむ みなとより へつかふときに さくべきものか
左注 なし
校異 なし
事項 譬喩歌 恋情
訓異 ことさけば;ことさらは, おきゆさけなむ;おきにさけなめ, さくべきものか;さくへきものか,
   
  07/1403
題詞 旋頭歌
題訓 神に寄す(ママ)
原文 三幣帛取 神之祝我 鎮齋杉原 燎木伐 殆之國 手斧所取奴
訓読 御幣取り三輪の祝が斎ふ杉原薪伐りほとほとしくに手斧取らえぬ
仮名 みぬさとり みわのはふりが いはふすぎはら たきぎこり ほとほとしくに てをのとらえぬ
左注 なし
左注訓 旋頭歌
校異 歌 [西] 謌
事項 譬喩歌 旋頭歌 三輪 奈良 恋情 戯笑 地名
訓異 みぬさとり;みぬさとる, みわのはふりが;みわのはふりか, いはふすぎはら;いはふすきはら, たきぎこり;たききこり, てをのとらえぬ;てをのはとられぬ,
   
  07/1404
題詞 挽歌
題訓 挽歌かなしみうた
原文 鏡成 吾見之君乎 阿婆乃野之 花橘之 珠尓拾都
訓読 鏡なす我が見し君を阿婆の野の花橘の玉に拾ひつ
仮名 かがみなす わがみしきみを あばののの はなたちばなの たまにひりひつ
左注 なし
校異 なし
事項 挽歌 奈良 地名 植物
訓異 かがみなす;かかみなる, わがみしきみを;わかみしきみを, あばののの;あはののの, はなたちばなの;はなたちはなの, たまにひりひつ;たまにひろひつ,
   
  07/1405
題詞 なし
題訓 (挽歌かなしみうた)
原文 蜻野S 人之懸者 朝蒔 君之所思而 嗟齒不病
訓読 秋津野を人の懸くれば朝撒きし君が思ほえて嘆きはやまず
仮名 あきづのを ひとのかくれば あさまきし きみがおもほえて なげきはやまず
左注 なし
校異 なし
事項 挽歌 吉野 地名
訓異 あきづのを;あきつのを, ひとのかくれば;ひとのかかれは, あさまきし;まゐてまく, きみがおもほえて;きみかおもほへて, なげきはやまず;なけきはやます,
   
  07/1406
題詞 なし
題訓 (挽歌かなしみうた)
原文 秋津野尓 朝居雲之 失去者 前裳今裳 無人所念
訓読 秋津野に朝居る雲の失せゆけば昨日も今日もなき人思ほゆ
仮名 あきづのに あさゐるくもの うせゆけば きのふもけふも なきひとおもほゆ
左注 なし
校異 なし
事項 挽歌 吉野 地名
訓異 あきづのに;あきつのに, うせゆけば;うせゆけは, きのふもけふも;むかしもいまも,
   
  07/1407
題詞 なし
題訓 (挽歌かなしみうた)
原文 隠口乃 泊瀬山尓 霞立 棚引雲者 妹尓鴨在武
訓読 隠口の泊瀬の山に霞立ちたなびく雲は妹にかもあらむ
仮名 こもりくの はつせのやまに かすみたち たなびくくもは いもにかもあらむ
左注 なし
校異 なし
事項 挽歌 奈良 初瀬 地名
訓異 たなびくくもは;たなひくくもは,
   
  07/1408
題詞 なし
題訓 (挽歌かなしみうた)
原文 狂語香 逆言哉 隠口乃 泊瀬山尓 廬為云
訓読 たはことかおよづれことかこもりくの泊瀬の山に廬りせりといふ
仮名 たはことか およづれことか こもりくの はつせのやまに いほりせりといふ
左注 なし
校異 なし
事項 挽歌 初瀬 地名
訓異 たはことか;まかことか, およづれことか;さかさまことか, いほりせりといふ;いほりすといふ,
   
  07/1409
題詞 なし
題訓 (挽歌かなしみうた)
原文 秋山 黄葉A怜 浦觸而 入西妹者 待不来
訓読 秋山の黄葉あはれとうらぶれて入りにし妹は待てど来まさず
仮名 あきやまの もみちあはれと うらぶれて いりにしいもは まてどきまさず
左注 なし
校異 なし
事項 挽歌 亡妻歌 植物
訓異 あきやまの;あきやまに, うらぶれて;うらふれて, まてどきまさず;まてときまさぬ,
   
  07/1410
題詞 なし
題訓 (挽歌かなしみうた)
原文 世間者 信二代者 不徃有之 過妹尓 不相念者
訓読 世間はまこと二代はゆかざらし過ぎにし妹に逢はなく思へば
仮名 よのなかは まことふたよは ゆかざらし すぎにしいもに あはなくおもへば
左注 なし
校異 なし
事項 挽歌 亡妻歌
訓異 まことふたよは;ことふたよはは, ゆかざらし;ゆかさらし, すぎにしいもに;すきにしいもに, あはなくおもへば;あはぬおもへは,
   
  07/1411
題詞 なし
題訓 (挽歌かなしみうた)
原文 福 何有人香 黒髪之 白成左右 妹之音乎聞
訓読 幸はひのいかなる人か黒髪の白くなるまで妹が声を聞く
仮名 さきはひの いかなるひとか くろかみの しろくなるまで いもがこゑをきく
左注 なし
校異 なし
事項 挽歌 亡妻歌
訓異 さきはひの;さいわいの, しろくなるまで;しろくなるまて, いもがこゑをきく;いもかおとをきく,
   
  07/1412
題詞 なし
題訓 (挽歌かなしみうた)
原文 吾背子乎 何處行目跡 辟竹之 背向尓宿之久 今思悔裳
訓読 我が背子をいづち行かめとさき竹のそがひに寝しく今し悔しも
仮名 わがせこを いづちゆかめと さきたけの そがひにねしく いましくやしも
左注 なし
校異 なし
事項 挽歌 後悔 枕詞
訓異 わがせこを;わかせこを, いづちゆかめと;いつちゆかめと, そがひにねしく;そかひにねしく,
   
  07/1413
題詞 なし
題訓 (挽歌かなしみうた)
原文 庭津鳥 <可>鷄乃垂尾乃 乱尾乃 長心毛 不所念鴨
訓読 庭つ鳥鶏の垂り尾の乱れ尾の長き心も思ほえぬかも
仮名 にはつとり かけのたりをの みだれをの ながきこころも おもほえぬかも
左注 なし
校異 下→可 [類][紀][温]
事項 挽歌 枕詞 動物 枕詞
訓異 みだれをの;したりをの, ながきこころも;なかきこころも,
   
  07/1414
題詞 なし
題訓 (挽歌かなしみうた)
原文 薦枕 相巻之兒毛 在者社 夜乃深良久毛 吾惜責
訓読 薦枕相枕きし子もあらばこそ夜の更くらくも我が惜しみせめ
仮名 こもまくら あひまきしこも あらばこそ よのふくらくも わがをしみせめ
左注 なし
校異 なし
事項 挽歌 枕詞
訓異 あらばこそ;あらはこそ, わがをしみせめ;われをしみせめ,
   
  07/1415
題詞 なし
題訓 (挽歌かなしみうた)
原文 玉梓能 妹者珠氈 足氷木乃 清山邊 蒔散<柒>
訓読 玉梓の妹は玉かもあしひきの清き山辺に撒けば散りぬる
仮名 たまづさの いもはたまかも あしひきの きよきやまへに まけばちりぬる
左注 なし
校異 染→柒 [古]
事項 挽歌 亡妻歌 枕詞 葬儀
訓異 たまづさの;たまつさの, まけばちりぬる;まけはちりぬる,
   
  07/1416
題詞 或本歌曰
題訓 或ル本ノ歌ニ曰ク、
原文 玉梓之 妹者花可毛 足日木乃 此山影尓 麻氣者失留
訓読 玉梓の妹は花かもあしひきのこの山蔭に撒けば失せぬる
仮名 たまづさの いもははなかも あしひきの このやまかげに まけばうせぬる
左注 なし
校異 歌 [西] 謌
事項 挽歌 亡妻歌 枕詞 葬儀
訓異 たまづさの;たまつさの, このやまかげに;このやまかけに, まけばうせぬる;まけはちりぬる,
   
  07/1417
題詞 羈旅歌
題訓 (1161:覊旅たびにてよめる)
原文 名兒乃海乎 朝榜来者 海中尓 鹿子曽鳴成 A怜其水手
訓読 名児の海を朝漕ぎ来れば海中に鹿子ぞ鳴くなるあはれその鹿子
仮名 なこのうみを あさこぎくれば わたなかに かこぞなくなる あはれそのかこ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 挽歌 大阪 地名 動物
訓異 あさこぎくれば;あさこきくれは, わたなかに;うみなかに, かこぞなくなる;かこそなくなる,