古事記~国生み①廻逢 原文対訳

オノゴロ島 古事記
上巻 第一部
イザナギとイザナミ
国生み①廻逢
国生み②
原文 書き下し
(武田祐吉)
現代語訳
(武田祐吉)
於其嶋
天降坐而。
その島に
天降あもりまして、
その島に
お降くだりになつて、
見立
天之御柱。
天あめの御柱みはしらを
見立て
大きな柱を立て、
見立
八尋殿。
八尋殿やひろどのを
見立てたまひき。
大きな御殿ごてんを
お建たてになりました。
     
於是
問其妹
伊邪那美命曰。
 ここにその妹
伊耶那美いざなみの命に
問ひたまひしく、
 そこで
イザナギの命が、
イザナミの女神に
汝身者
如何成。
「汝なが身は
いかに成れる」
と問ひたまへば、
「あなたのからだは、
どんなふうにできていますか」と、
答曰 答へたまはく、 お尋ねになりましたので、
吾身者
成成
不成合
處一處在。
「吾わが身は
成り成りて、
成り合はぬところ
一處あり」
とまをしたまひき。
「わたくしのからだは、
できあがつて、
でききらない所が
一か所あります」
とお答えになりました。

伊邪那岐命
詔。
ここに
伊耶那岐いざなぎの命
詔のりたまひしく、
そこで
イザナギの命の
仰せられるには
我身者。 「我が身は 「わたしのからだは、
成成而
成餘處
一處在。
成り成りて、
成り餘れるところ
一處あり。
できあがつて、
でき過ぎた所が
一か所ある。
故以
此吾身
成餘處。
故かれ
この吾が身の
成り餘れる處を、
だから
わたしの
でき過ぎた所を
刺塞汝身
不成合處
而。
汝が身の
成り合はぬ處に
刺し塞ふたぎて、
あなたの
でききらない所にさして
以爲
生成國土生
奈何。
國土くに生み成さむ
と思ほすはいかに」
とのりたまへば、
國を生み出そうと思うが
どうだろう」
と仰せられたので、
〈訓生云宇牟。下效此〉    
伊邪那美命
答曰
然善。
伊耶那美いざなみの命
答へたまはく、
「しか善けむ」とまをしたまひき。
イザナミの命が
「それがいいでしよう」
とお答えになりました。
     

伊邪那岐命。
ここに
伊耶那岐の命
そこで
イザナギの命が
詔りたまひしく、  
然者
吾與汝
行廻逢
是天之御柱
「然らば
吾あと汝なと、
この天の御柱を
行き廻めぐりあひて、
「そんなら
わたしとあなたが、
この太い柱を
廻りあつて、
     
而爲
美斗能
麻具波比。
〈此七字以音〉
美斗みとの
麻具波比まぐはひせむ」
結婚をしよう」
  とのりたまひき。 と仰せられて
如此云期。 かく期ちぎりて、 このように約束して
乃詔 すなはち詔りたまひしく、 仰せられるには
汝者自右廻逢。 「汝は右より廻り逢へ、 「あなたは右からお廻りなさい。
我者自左廻逢。 我あは左より廻り逢はむ」
とのりたまひて、
わたしは左から廻つてあいましよう」
約竟
以廻時。
約ちぎり竟をへて
廻りたまふ時に、
と約束して
お廻りになる時に、
伊邪那美命。 伊耶那美の命 イザナミの命が
先言
阿那邇夜志
愛〈上〉袁登古袁。
まづ
「あなにやし、
えをとこを」
とのりたまひ、
先に
「ほんとうにりつぱな
青年ですね」
といわれ、
〈此十字以音下效此〉    
後伊邪那岐命 後に伊耶那岐の命 その後あとでイザナギの命が

阿那邇夜志
愛〈上〉袁登賣袁。
「あなにやし、
え娘子をとめを」
とのりたまひき。
「ほんとうに
美うつくしいお孃じようさんですね」
といわれました。
各言竟之後。 おのもおのものりたまひ竟をへて後に、 それぞれ言い終つてから、
告其妹曰 その妹に告のりたまひしく、 その女神に
女人
先言不良。
「女人を
みな先立さきだち言へるはふさはず」
とのりたまひき。
「女が
先に言つたのはよくない」
とおつしやいましたが、
雖然
久美度邇
〈此四字以音〉
興而。
然れども
隱處くみどに
興おこして
しかし
結婚をして、
生子
水蛭子。
子みこ
水蛭子ひるこを
生みたまひき。
これによつて御子みこ
水蛭子ひるこを
お生うみになりました。
此子者
入葦船而
流去。
この子は
葦船あしぶねに入れて
流し去やりつ。
この子は
アシの船に乘せて
流してしまいました。
     
次生
淡嶋
次に淡島あはしまを
生みたまひき。
次に淡島あわしまを
お生みになりました。
是亦
不入子之例。
こも
子の數に入らず。
これも
御子みこの數にははいりません。

 

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