古事記 吉野クズの歌~原文対訳

古波陀嬢子の歌 古事記
中巻⑧
15代 応神天皇
愛の歌物語
8 吉野クズの歌
渡来人 
原文 書き下し
(武田祐吉)
現代語訳
(武田祐吉)

つるぎ冬木サヤサヤの歌

     
又吉野之國主等。  また、吉野えしのの國主くずども、  また、吉野のクズどもが
瞻大雀命之
所佩御刀。
大雀の命の
佩はかせる御刀を見て、
オホサザキの命の
佩おびておいでになるお刀を見て
歌曰。 歌ひて曰ひしく、 歌いました歌は、
     
本牟多能 品陀ほむだの  天子樣の
比能美古 日の御子、 日の御子である
意富佐邪岐 大雀おほさざき  オホサザキ樣、
意富佐邪岐 大雀。 オホサザキ樣の
波加勢流多知 佩かせる大刀、 お佩はきになつている大刀は、
母登都流藝 本劍もとつるぎ 本は鋭く、
須惠布由 末すゑふゆ。 切先きつさきは魂あり、
布由紀能 冬木の 冬木の
須加良賀志多紀能 すからが下した木の すがれの下の木のように
佐夜佐夜 さやさや。 さやさやと鳴り渡る。
     

口鼓の歌

     
又於
吉野之白檮上。
 また、
吉野の白檮かしの生ふに
 また吉野のカシの木の
作横臼而。 横臼よくすを作りて、 ほとりに臼を作つて、
於其横臼。 その横臼に その臼で
釀大御酒。 大御酒おほみきを釀かみて、 お酒を造つて、
獻其大御酒之時。 その大御酒を獻る時に、 その酒を獻つた時に、
撃口鼓
爲伎而
歌曰。
口鼓くちつづみを撃ち、
伎わざをなして、
歌ひて曰ひしく、
口鼓を撃ち
演技をして
歌つた歌、
     
加志能布邇 白檮かしの生ふに カシの木の原に
余久須袁都久理 横臼よくすを作り、 横の廣い臼を作り
余久須邇 横臼に その臼に
迦美斯意富美岐 釀かみし大御酒、 釀かもしたお酒、
宇麻良爾 うまらに  おいしそうに
岐許志母知袁勢 聞こしもちをせ。 召し上がりませ、
麻呂賀知 まろが父ち。 わたしの父とうさん。
     
此歌者。  この歌は、  この歌は、
國主等。 國主くずども クズどもが
獻大贄之時時。 大贄にへ獻る時時、 土地の産物を獻る時に、
恒至于今。 恆に今に至るまで 常に今でも
詠之歌者也。 歌ふ歌なり。 歌う歌であります。
古波陀嬢子の歌 古事記
中巻⑧
15代 応神天皇
愛の歌物語
8 吉野クズの歌
渡来人