古事記~天逆手 原文対訳

剣の逆刺立 古事記
上巻 第四部
国譲りの物語
天の逆手
(あめのさかて)
建御名方神
原文 書き下し
(武田祐吉)
現代語訳
(武田祐吉)
故爾遣
天鳥船神。
かれここに
天の鳥船の神を遣はして、
依つて
アメノトリフネの神を遣して
徴來八重事代主神而。 八重事代主の神を徴めし來て、 コトシロヌシの神を呼んで來て
問賜之時。 問ひたまふ時に、 お尋ねになつた時に、
     
語其父大神言。 その父の大神に語りて、 その父の神樣に
恐之。 「恐かしこし。 「この國は謹しんで
此國者
立奉
天神之御子。
この國は
天つ神の御子に
獻たてまつりたまへ」といひて、
天の神の御子に
獻上なさいませ」と言つて、
即蹈傾其船而。 その船を蹈み傾けて、 その船を踏み傾けて、
天逆手矣。 天の逆手さかて 逆樣さかさまに手をうつて
青柴垣
打成而隱也。
〈訓柴云布斯〉
青柴垣
あをふしがきにうち成して、
隱りたまひき。
青々とした神籬ひもろぎを
作り成して
その中に隱れてお鎭まりになりました。

 
 

天の逆手=中指立て

 

天逆手(あめのさかて)=中の指立て

読み方は、前の話の天の佐具売(あめのさぐめ)とかかり、アメのさかて。
天逆手を青柴垣に打成とは、①中指立てという手段をとったアオガキのことで、②拍手を打つことではない。根拠は以下の通り。
 
①この話は、サグメの言で天に弓なした話及び、トツカ剣(長い剣)を逆さに立てた話の直後に続いている。
弓は指に掛かり、長い剣を逆さにした形が中指立てを導く。手を剣に見立てることは、対をなす直後の段にも出てくる(其御手者…取成劔刄)。
天に弓なしたことは反逆、トツカ剣は波の上に逆さに立て、その上にあぐらをかくとは、これまでの話のありえない不遜の反逆を象徴している。
 
②拍手ではないことは、国譲り後の、天の眞魚咋(まなぐひ)のお祝いの段で示される(天とサカの時点で、天逆手と掛かっている)。
「爲膳夫(かしわで)」(料理夫となり)「獻天之眞魚咋」(サカナ料理を献上する)という二つのフレーズ。
これを合わせ、拍手ではなしに、サカサの剣を上にした話(献上)が真であると暗示。
哭女(なきめ)の段に同じ料理人で「御食人(みけびと)」とあることから、あえて「膳夫(かしわで)」にしていることが示される。
 
以上から「青柴垣打成」とあるが、打つは拍手に掛からない。手を打つとは手段をとるという意味でもある。段の意味でも垣。
青垣は以前に一度「倭之青垣」として出てくる。これは乱暴な幼い国つ神の意味。大国主と共に国づくりしようと寄ってきた御諸山の神の発言。
つまりハナタレのアオガキ。柴垣なのでハナはタレていないが(一応成人でも)アオガキという意味(スサノオの描写と同じ。つまりその系譜)。
古事記は読みに音をもって当てることがあるのは、何度も明示されている。原初の古典の言葉は、他の文献ではなく、まず内部での符合を見る。