古事記 サホ姫自白~原文対訳

サホ姫の涙と蛇の夢 古事記
中巻④
11代 垂仁天皇
サホ姫サホ彦兄妹物語
③サホ姫自白
サホ彦討伐
原文 書き下し
(武田祐吉)
現代語訳
(武田祐吉)
爾其后 ここにその后、 そこでその皇后が
以爲不應爭。 爭ふべくもあらじとおもほして、 隱しきれないと思つて
即白天皇言。 すなはち天皇に白して言さく、 天皇に申し上げるには、
     
妾兄
沙本毘古王。
「妾が兄
沙本毘古さほびこの王、
「わたくしの兄の
サホ彦の王が
問妾曰。
孰愛夫與兄。
妾に、
夫と兄とはいづれか愛はしきと問ひき。
わたくしに、
夫と兄とはどちらが大事かと尋ねました。
是不勝面問 ここに
え面勝たずて、
目の前で尋ねましたので、
故妾答曰
愛兄歟。
かれ妾、
兄を愛しとおもふと答へ曰へば、
仕方しかたがなくて、
兄が大事ですと答えましたところ、
     
爾誂妾曰。 ここに妾に誂あとらへて曰はく、 わたくしに註文して、
吾與汝共。
治天下。
吾と汝と
天の下を治らさむ。
自分とお前とで
天下を治めるから、
故當殺
天皇云而。
かれ天皇を
殺しせまつれといひて、
天皇を
お殺し申せと言つて、
作八鹽折之
紐小刀。
授妾。
八鹽折やしほりの
紐小刀を作りて
妾に授けつ。
色濃く染めた
紐をつけた小刀を作つて
わたくしに渡しました。
     
是以欲刺。
御頸。
ここを以ちて
御頸を刺しまつらむとして、
そこでお頸をお刺し申そうとして
雖三度擧。 三度擧ふりしかども、 三度振りましたけれども、
哀情忽起。 哀しとおもふ情忽に起りて、 哀かなしみの情がたちまちに起つて
不得刺頸而。 頸をえ刺しまつらずて、 お刺し申すことができないで、
泣涙落。 泣く涙の落ちて、 泣きました涙が
洽於御面。 御面を沾らしつ。 お顏を沾ぬらしました。
必有是表焉。 かならずこの表しるしにあらむ」
とまをしたまひき。
きつとこのあらわれでございましよう」
と申しました。
サホ姫の涙と蛇の夢 古事記
中巻④
11代 垂仁天皇
サホ姫サホ彦兄妹物語
③サホ姫自白
サホ彦討伐