百人一首~全首一覧・歌の配置

 
 百人一首の全首一覧と、漢字・かな表記の対照。及び、歌の配置、その解釈。
 
 
 目次
 

 ・上句目次(配置) 
 

 ・人名目次(配置)  
 

 ・百首一覧
 
 

上句目次

 
1
2
春過
3
4
田子
5
奥山
6
かさ
7
天の
8
わが
9
花の
10
これ
11
わた
12
天つ
13
筑波
14
陸奥
15
君が
16
立別
17
ちは
18
住の
19
難波
20
侘び
21
今来
22
吹く
23
月見
24
此の
25
名に
26
小倉
27
みか
28
山里
29
心あ
30
有明
31
朝ぼ
32
山川
33
久方
34
誰を
35
人は
36
夏の
37
白露
38
忘ら
39
浅茅
40
忍ぶ
41
戀す
42
契り
43
逢ひ
44
逢ふ
45
哀れ
46
由良
47
八重
48
風を
49
御垣
50
君が
51
かく
52
明け
53
嘆き
54
忘れ
55
瀧の
56
あら
57
廻り
58
有馬
59
やす
60
大江
61
古へ
62
夜を
63
今は
64
朝ぼ
65
恨み
66
諸共
67
春の
68
心に
69
嵐吹
70
寂し
71
夕さ
72
音に
73
高砂
74
憂か
75
契り
76
わた
77
瀬を
78
淡路
79
秋風
80
長か
81
ほと
82
思ひ
83
世の
84
長ら
85
夜も
86
嘆け
87
村雨
88
難波
89
玉の
90
見せ
91
きり
92
わが
93
世の
94
み吉
95
おほ
96
花さ
97
来ぬ
98
風そ
99
人も
100
百敷
 

 
 1~4で四季廻る(秋・春夏・秋・冬)。
 先頭秋が和歌では最重要。これは古今の配分にも示されている。
 
 あとは、25-35の名人。25のかみしもでも名人、15-35で「君が名人」。でなければ35の貫之をここまで後にしない。
 最後に、百の百敷は百の数。数にかかることまで見る。
 
 

人名目次

 
1
天智
2
持統
3
柿本
4
山部
5
猿丸
6
家持
7
安倍
8
喜撰
9
小町
10
蝉丸
11
参議
12
遍照
13
陽成
14
河原
15
光孝
16
行平
17
業平
18
敏行
19
伊勢
20
元良
21
素性
22
文屋
23
大江
24
菅家
25
三条
26
貞信
27
兼輔
28
宗于
29
凡河
30
壬生
31
坂上
32
春道
33
友則
34
興風
35
貫之
36
清原
37
朝康
38
右近
39
40
兼盛
41
壬生
42
元輔
43
敦忠
44
朝忠
45
謙徳
46
曽根
47
恵慶
48
重之
49
能宣
50
義孝
51
実方
52
道信
53
道綱母
54
三司母
55
公任
56
和泉
57
58
大貮
59
赤染
60
小式部
61
伊勢大
62
清少
63
道雅
64
定頼
65
相模
66
行尊
67
周防
68
三条
69
能因
70
良暹
71
経信
72
祐子
73
匡房
74
俊頼
75
基俊
76
法性
77
崇徳
78
兼昌
79
顕輔
80
待賢
81
後徳
82
道因
83
俊成
84
清輔
85
俊恵
86
西行
87
寂蓮
88
皇嘉
89
式子
90
殷富
91
後京
92
讃岐
93
鎌倉
94
雅経
95
慈円
96
入道
97
定家
98
家隆
99
後鳥
100
順徳

 
 
 まず天地。と、地と天(ぢとう天)から始まる父娘。
 天地(あめつち)は古今集仮名序にも見られる言葉。
 

 加えて目を引く、内側に固められた女子達。
 道信から道綱母と道で導き、母(三司)と式部(和泉・紫)とかけつなげ、紫と大弐(おなごとおやこ)。
 

 小町は特別。女子で姓名で呼ばれるのは小町のみ。
 伊勢と、どちらも伊勢物語の時代。伊勢の御とは、それにあやかっているのではないか。
  

 他には、22の文屋と23の大江(男男)、上句で59「やす」と60「大江」(女女)。22の吹くからに嵐、59-69で嵐吹く。
 でなければ、敏行・伊勢・元良より後にすることは、年代的にも歌の肩書でも、古今の配置からいっても、絶対ない。
 
 私見を述べれば、1・2は人麻呂、5・10の猿丸・蝉丸は、人麻呂(人丸)をもじった文屋の歌。
 
 加えて、14・15、そして17も、文屋の歌。
 14・17は端的に伊勢物語に登場する(初段・106段)。
 17にまつわる古今の屏風の話は、業平の恋愛云々の風評にのっかった捏造(素性は屏風の詞書を多くもち、その素性と完全同一抱き合わせの詞書)。
 
 この物語の歌は、他人の歌とされるものでも、基本的に全て著者の歌。翻案(本人は詠みようがないクサしが入っていたりする)。
 伊勢物語で、業平は歌は詠めないと評され(101段)、六条屋敷の左大臣も歌を詠めるような描写はされていない(81段)。
 伊勢初段の陸奥のしのぶの歌は、良い心栄えとすることで、暗に自分の作と表現している。伊勢の昔男は一貫して人目を忍ぶ。だから匿名。
 15の光孝(仁和)には、歌を要請され詠む描写があり(114段)、その歌の内容が15とパラレル(正面から真剣に歌わない)。
 

 そして業平や源融のような皇族の流れを汲む上級貴族が、名を伏せ他人の歌を代作することはありえないし、田舎の物語を匿名で書く理由も一切ない。
 逆に下級役人で家の名も何もない者が、宮中の嗜みとされる和歌で六歌仙と称されるには、圧倒的な実力がないとそうはならない。伊勢を記すほどに。
 
 

百首一覧

 

1 天智天皇 秋の田の かりほの庵の 苫をあらみ
  てんちてんのう あき あきのたの かりほのいほの とまをあらみ
     わが衣手は 露にぬれつつ
    わがこ  わがころもでは つゆにぬれつつ
       
2 持統天皇 春過ぎて 夏来にけらし 白妙の
  ぢとうてんのう はる はるすぎて なつきにけらし しろたへの
     衣ほすてふ 天の香具山
    ころも  ころもほすてふ あまのかぐやま

 

 

3 柿本人麻呂(柿本人麿) 足引きの 山鳥の尾の しだり尾の
  かきのもとのひとまろ あし あしびきの やまどりのをの しだりをの
     ながながし夜を ひとりかも寝む
    なが  ながながしよを ひとりかもねむ
       
4 山部赤人 田子の浦に 打出でてみれば 白妙の
  やまべのあかひと たごの たごのうらに うちいでてみれば しろたへの
     富士の高嶺に 雪は降りつつ
    ふじの  ふじのたかねに ゆきはふりつつ
       
5 猿丸大夫 奥山に 紅葉踏みわけ 鳴く鹿の
  さるまるだいふ おく おくやまに もみぢふみわけ なくしかの
     聲きく時ぞ 秋は悲しき
    こえ  こゑきくときぞ あきはかなしき
       
6 中納言家持 かささぎの 渡せる橋に おく霜の
  ちゆうなごんやかもち かさ かさゝぎの わたせるはしに おくしもの
     白きを見れば 夜ぞふけにける
    しろき  しろきをみれば よぞふけにける
       
7 安倍仲麻呂(阿倍仲麿) 天の原 ふりさけ見れば 春日なる
  あべのなかまろ あま あまのはら ふりさけみれば かすがなる
     三笠の山に 出でし月かも
    みかさ  みかさのやまに いでしつきかも
       
8 喜撰法師 わが庵は 都のたつみ しかぞ住む
  きせんほうし わが わがいほは みやこのたつみ しかぞすむ
     世をうぢ山と 人はいふなり
    よ(を)  よをうぢやまと ひとはいふなり
       
9 小野小町 花の色は 移りにけりな 徒に
  をののこまち はな はなのいろは うつりにけりな いたづらに
     我が身世にふる ながめせしまに
    わが  わがみよにふる ながめせしまに
       
10 蝉丸 これや此の 行くも帰るも 別れては
  せみまる これ これやこの ゆくもかへるも わかれては
     知るも知らぬも 逢坂の関
    しる  しるもしらぬも あふさかのせき
       
11 参議篁 わたの原 八十島かけて 漕ぎ出でぬと
  さんぎたかむら わた わたのはら やそしまかけて こぎいでぬと
     人には告げよ 海人の釣舟
    ひとに  ひとにはつげよ あまのつりぶね
       
12 僧正遍照 天つ風 雲の通ひ路 吹き閉ぢよ
  そうじやうへんじよう あま あまつかぜ くものかよひぢ ふきとぢよ
     をとめの姿 しばし留めむ
    おと  をとめのすがた しばしとどめむ
       
13 陽成院 筑波嶺の 峰(峯)より落つる 男女川
  やうぜいいん つく つくばねの みねよりおつる みなのがは
     戀ぞつもりて 淵となりぬる
    こひ  こひぞつもりて ふちとなりぬる
       
14 河原左大臣 陸奥の しのぶもぢずり 誰故に
  かはらのさだいじん みち みちのくの しのぶもぢずり たれゆゑに
     乱れ初めにし 我ならなくに
    みだれ  みだれそめにし われならなくに
       
15 光孝天皇 君がため 春の野に出でて 若菜つむ
  こうこうてんのう きみが きみがため はるののにいでて わかなつむ
     わが衣手に 雪は降りつつ
    わがこ  わがころもでに ゆきはふりつつ
       
16 中納言行平 立別れ いなばの山の 嶺(峰)におふる
  ちゆうなごんゆきひら たち たちわかれ いなばのやまの みねにおふる
     まつとし聞かば 今帰り来む
    まつ  まつとしきかば いまかへりこむ
       
17 在原業平朝臣 ちはやぶる 神代も聞かず 龍田川
  ありはらのなりひらあそん ちは ちはやぶる かみよもきかず たつたがは
     から紅に 水くくるとは
    から  からくれなゐに みづくくるとは
       
18 藤原敏行朝臣 住の江の 岸に寄る浪 よるさへや
  ふぢはらのとしゆきあそん すみ すみのえの きしによるなみ よるさへや
     夢の通ひ路 人目よくらむ
    ゆめ  ゆめのかよひぢ ひとめよくらむ
       
19 伊勢 難波潟 短き葦(芦)の ふしの間も
  いせ なに なにはがた みじかきあしの ふしのまも
     逢はで此の世を 過ぐしてよとや
    あはで  あはでこのよを すぐしてよとや
       
20 元良親王 侘びぬれば 今はた同じ 難波なる
  もとよししんのう わび わびぬれば いまはたおなじ なにはなる
     身をつくしても 逢はむとぞ思ふ
    みを  みをつくしても あはむとぞおもふ
       
21 素性法師 今来むと 言ひしばかりに 長月の
  そせいほうし いま いまこむと いひしばかりに ながつきの
     有明の月を 待ち出でつるかな
    あり  ありあけのつきを まちいづるかな
       
22 文屋康秀 吹くからに 秋の草木の しをるれば
  ふんやのやすひで ふく ふくからに あきのくさきの しをるれば
     むべ山風を 嵐といふらむ
     むべやまかぜを あらしといふらむ
       
23 大江千里 月見れば 千々に物こそ 悲しけれ
  おほえのちさと つき つきみれば ちゞにものこそ かなしけれ
     わが身一つの 秋にはあらねど
     わがみひとつの あきにはあらねど
       
24 菅家 此の度は 幣もとりあへず 手向山
  かんけ この このたびは ぬさもとりあへず たむけやま
     紅葉の錦 神のまにまに
    もみじ  もみぢのにしき かみのまにまに
       
25 三条右大臣 名にしおはば 逢坂山の さねかづら
  さんじようのうだいじん なに なにしおはば あふさかやまの さねかづら
     人にしられで くるよしもがな
    ひとに  ひとにしられで くるよしもがな
       
26 貞信公 小倉山 峰(峯)のもみぢ葉 心あらば
  ていしんこう をぐら をぐらやま みねのもみぢば こゝろあらば
     今ひとたびの みゆき待たなむ
    いま  いまひとたびの みゆきまたなむ
       
27 中納言兼輔 みかの原 わきて流るる 泉川
  ちゆうなごんかねすけ みかの みかのはら わきてながるる いづみがは
     いつ見きとてか 戀しかるらむ
    いつみ  いつみきとてか こひしかるらむ
       
28 源宗于朝臣 山里は 冬ぞ寂しさ まさりける
  みなもとのむねゆきあそん やま やまざとは ふゆぞさびしさ まさりける
     人目も草も かれぬと思へば
    ひとめ  ひとめもくさも かれぬとおもへば
       
29 凡河内躬恒 心あてに 折らばや折らむ 初霜の
  おおしかうちのみつね こころ こゝろあてに をらばやをらむ はつしもの
     置きまどはせる 白菊の花
    おき  おきまどはせる しらぎくのはな
       
30 壬生忠岑 有明の つれなく見えし 別れより
  みぶのただみね あり ありあけの つれなくみえし わかれより
     暁ばかり 憂きものはなし
    あか  あかつきばかり うきものはなし
       
31 坂上是則 朝ぼらけ 有明の月と 見るまでに
  さかのうへのこれのり あさ あさぼらけ ありあけのつきと みるまでに
     吉野の里に 降れる白雪
    よし  よしののさとに ふれるしらゆき
       
32 春道列樹 山川に 風のかけたる しがらみは
  はるみちのつらき やま やまがはに かぜのかけたる しがらみは
     流れもあへぬ 紅葉なりけり
    ながれ  ながれもあへぬ もみぢなりけり
       
33 紀友則 久方の 光のどけき 春の日に
  きのとものり ひさ ひさかたの ひかりのどけき はるのひに
     静心なく 花の散るらむ
    しづ  しづごころなく はなのちるらむ
       
34 藤原興風 誰をかも 知る人にせむ 高砂の
  ふぢはらのおきかぜ たれ たれをかも しるひとにせむ たかさごの
     松も昔の 友ならなくに
    まつ  まつもむかしの ともならなくに
       
35 紀貫之 人はいさ 心も知らず ふるさとは
  きのつらゆき ひとは ひとはいさ こゝろもしらず ふるさとは
     花ぞ昔の 香ににほひける
    はなぞ  はなぞむかしの かににほひける
       
36 清原深養父 夏の夜は まだ宵ながら 明けぬるを
  きよはらのふかやぶ なつの なつのよは まだよひながら あけぬるを
     雲のいづこに 月宿るらむ
    くもの  くものいづこに つきやどるらむ
       
37 文屋朝康 白露に 風の吹きしく 秋の野は
  ふんやのあさやす しら しらつゆに かぜのふきしく あきののは
     つらぬきとめぬ 玉ぞ散りける
    つらぬ  つらぬきとめぬ たまぞちりける
       
38 右近 忘らるる 身をば思はず 誓ひてし
  うこん わす わすらるる みをばおもはず ちかひてし
     人の命の 惜しくもあるかな
    ひとの  ひとのいのちの をしくもあるかな
       
39 参議等 浅茅生の 小野の篠原 しのぶれど
  さんぎひとし あさ あさぢふの をののしのはら しのぶれど
     あまりてなどか 人の戀しき
    あまり  あまりてなどか ひとのこひしき
       
40 平兼盛 忍ぶれど 色に出にけり 我が戀は
  たひらのかねもり しのぶ しのぶれど いろにいでにけり わがこひは
     物や思ふと 人の問ふまで
    もの  ものやおもふと ひとのとふまで
       
41 壬生忠見 戀すてふ わが名はまだき 立ちにけり
  みぶのただみ こひす こひすてふ わがなはまだき たちにけり
     人知れずこそ 思ひそめしか
    ひとし  ひとしれずこそ おもひそめしか
       
42 清原元輔 契りきな かたみに袖を しぼりつつ
  きよはらのもとすけ ちぎり ちぎりきな かたみにそでを しぼりつつ
     末の松山 波越さじとは
    すえ  すゑのまつやま なみこさじとは
       
43 権中納言敦忠 逢ひ見ての 後の心に くらぶれば
  ごんちゆうなごんあつただ あひ あひみての のちのこころに くらぶれば
     昔は物を 思はざりけり
    むかし  むかしはものを おもはざりけり
       
44 中納言朝忠 逢ふことの 絶えてしなくは なかなかに
  ちゆうなごんあさただ あふ あふことの たえてしなくば なかなかに
     人をも身をも 恨みざらまし
    ひとを  ひとをもみをも うらみざらまし
       
45 謙徳公 哀れとも いふべき人は 思ほえで
  けんとくこう あはれ あはれとも いふべきひとは おもほえで
     身のいたづらに なりぬべきかな
    みの  みのいたづらに なりぬべきかな
       
46 曽根好忠(曾禰好忠) 由良の戸を 渡る舟人 楫を絶え
  そねのよしただ ゆらの ゆらのとを わたるふなびと かぢをたえ
     行方も知らぬ 戀の道かな
    ゆくへ  ゆくへもしらぬ こひのみちかな
       
47 恵慶法師 八重葎 しげれる宿の さびしきに
  ゑきようほうし やへ やへむぐら しげれるやどの さびしきに
     人こそ見えね 秋は来にけり
    ひとこ  ひとこそみえね あきはきにけり
       
48 源重之 風をいたみ 岩うつ浪の おのれのみ
  みなもとのしげゆき かぜ かぜをいたみ いはうつなみの おのれのみ
     砕けて物を 思ふ頃かな
    くだけ  くだけてものを おもふころかな
       
49

大中臣能宣

(大中臣能宣朝臣)

御垣守 衛士のたく火の 夜は燃え
  おほなかとみのよしのぶあそん みかき みかきもり ゑじのたくひの よるはもえ
     晝(昼)は消えつつ 物をこそ思へ
    ひる  ひるはきえつつ ものをこそおもへ
       
50 藤原義孝 君がため 惜しからざりし 命さへ
  ふぢはらのよしたか きみが きみがため をしからざりし いのちさへ
     長くもがなと 思ひけるかな
    なが  ながくもがなと おもひけるかな
       
51 藤原実方朝臣 かくとだに えやはいぶきの さしも草
  ふぢはらのさねかたあそん かく かくとだに えやはいぶきの さしもぐさ
     さしも知らじな 燃ゆる思ひを
    さしも  さしもしらじな もゆるおもひを
       
52 藤原道信朝臣 明けぬれば 暮るるものとは 知りながら
  ふぢはらのみちのぶあそん あけぬ あけぬれば くるるものとは しりながら
     なほ恨めしき 朝ぼらけかな
    なほ  なほうらめしき あさぼらけかな
       
53 右大将道綱母 嘆きつつ 獨り寝る夜の 明くる間は
  うだいしやうみちつなのはは なげき なげきつつ ひとりぬるよの あくるまは
     いかに久しき ものとかは知る
    いか  いかにひさしき ものとかはしる
       
54 儀同三司母 忘れじの 行末までは 難ければ
  ぎどうさんしのはは わすれ わすれじの ゆくすゑまでは かたければ
     今日を限りの 命ともがな
    けふ  けふをかぎりの いのちともがな
       
55 大納言公任 瀧(滝)の音は 絶えて久しく なりぬれど
  だいなごんきんとう たきの たきのおとは たえてひさしく なりぬれど
     名こそ流れて なほ聞こえけれ
    なこそ  なこそながれて なほきこえけれ
       
56 和泉式部 あらざらむ 此の世のほかの 思ひ出に
  いづみしきぶ あら あらざらむ このよのほかの おもひでに
     今一たびの 逢ふこともがな
    いま  いまひとたびの あふこともがな
       
57 紫式部 廻り逢ひて 見しやそれとも わかぬ間に
  むらさきしきぶ めぐ めぐりあひて みしやそれとも わかぬまに
     雲がくれにし 夜半の月かな
    くも  くもがくれにし よはのつきかな
       
58 大弐三位(大貮三位) 有馬山 猪名の笹原 風吹けば
  だいにのさんみ ありま ありまやま ゐなのささはら かぜふけば
     いでそよ人を 忘れやはする
    いで  いでそよひとを わすれやはする
       
59 赤染衛門 やすらはで 寝なましものを 小夜更けて
  あかぞめゑもん やすら やすらはで ねなましものを さよふけて
     傾くまでの 月を見しかな
    かた  かたぶくまでの つきをみしかな
       
60 小式部内侍 大江山 いく野の道の 遠ければ
  こしきぶのないし おほえ おほえやま いくののみちの とほければ
     まだふみもみず 天の橋立
    まだ  まだふみもみず あまのはしだて
       
61 伊勢大輔 古への 奈良の都の 八重桜
  いせのおおすけ いに いにしへの ならのみやこの やへざくら
     今日九重に 匂ひぬるかな
    けふ  けふここのへに にほひぬるかな
       
62 清少納言 夜をこめて 鳥のそら音は はかるとも
  せいしようなごん よを よをこめて とりのそらねは はかるとも
     世に逢坂の 関はゆるさじ
    よに  よにあふさかの せきはゆるさじ
       
63 左京大夫道雅 今はただ 思ひ絶えなむ とばかりを
  さきようだいぶみちまさ いま いまはただ おもひたえなむ とばかりを
     人づてならで 言ふよしもがな
    ひとづ  ひとづてならで いふよしもがな
       
64 権中納言定頼 朝ぼらけ 宇治の川霧 絶えだえに
  ごんちゆうなごんさだより あさ あさぼらけ うぢのかはぎり たえだえに
     あらはれ渡る 瀬々の網代木
    あらは  あらはれわたる せぜのあじろぎ
       
65 相模 恨み侘び ほさぬ袖だに あるものを
  さがみ うら うらみわび ほさぬそでだに あるものを
     戀に朽ちなむ 名こそ惜しけれ
    こひ  こひにくちなむ なこそをしけれ
       
66

大僧正行尊

(前大僧正行尊)

諸共に あはれと思へ 山桜
  だいそうじようぎやうそん もろ もろともに あはれとおもへ やまざくら
     花よりほかに 知る人もなし
    はな  はなよりほかに しるひともなし
       
67 周防内侍 春の夜の 夢ばかりなる 手枕に
  すはうのないし はる はるのよの ゆめばかりなる たまくらに
     かひなく立たむ 名こそ惜しけれ
    かひ  かひなくたたむ なこそをしけれ
       
68 三条院 心にも あらで憂世に ながらへば
  さんじようゐん こころ こゝろにも あらでうきよに ながらへば
     戀しかるべき 夜半の月かな
    こひし  こひしかるべき よはのつきかな
       
69 能因法師 嵐吹く 三室の山の もみぢ葉は
  のういんほうし あらし あらしふく みむろのやまの もみぢばは
     龍(竜)田の川の 錦なりけり
    たつた  たつたのかはの にしきなりけり
       
70 良暹法師 寂しさに 宿を立ち出でて 眺むれば
  りやうせんほうし さび さびしさに やどをたちいでて ながむれば
     いづくも同じ 秋の夕暮
    いづ  いづくもおなじ あきのゆふぐれ
       
71 大納言経信 夕されば 門田の稲葉 おとづれて
  だいなごんつねのぶ ゆふ ゆふされば かどたのいなば おとづれて
     芦のまろやに 秋風ぞ吹く
    あし  あしのまろやに あきかぜぞふく
       
72 祐子内親王家紀伊 音に聞く 高師の濱(浜)の あだ浪は
  ゆうしないしんのうけのきい おと おとにきく たかしのはまの あだなみは
     かけじや袖の ぬれもこそすれ
    かけ  かけじやそでの ぬれもこそすれ
       
73 権中納言匡房 高砂の 尾の上の桜 咲きにけり
  ごんちゆうなごんまさふさ たか たかさごの をのへのさくら さきにけり
     外山の霞 立たずもあらなむ
    とやま  とやまのかすみ たたずもあらなむ
       
74 源俊頼朝臣 憂かりける 人を初瀬の 山おろしよ
  みなもとのとしよりあそん うかり うかりける ひとをはつせの やまおろし
     はげしかれとは 祈らぬものを
    はげ  はげしかれとは いのらぬものを
       
75 藤原基俊 契りおきし させもが露を 命にて
  ふぢはらのもととし ちぎり ちぎりおきし させもがつゆを いのちにて
     あはれ今年の 秋も去ぬめり
    あはれ  あはれことしの あきもいぬめり
       
76 法性寺入道前関白太政大臣 わたの原 漕ぎ出でて見れば 久方の
  ほしようじにゆうどうさきのかんぱくだじようだいじん わたの わたのはら こぎいでてみれば ひさかたの
     雲居にまがふ 沖つ白浪
    くも  くもゐにまがふ おきつしらなみ
       
77 崇徳院 瀬を早み 岩にせかるる 瀧(滝)川の
  すとくいん せを せをはやみ いはにせかるる たきがはの
     われても末に 逢はむとぞ思ふ
    われて  われてもすゑに あはむとぞおもふ
       
78 源兼昌 淡路島 かよふ千鳥の 鳴く声に
  みなもとのかねまさ あはぢ あはぢしま かよふちどりの なくこゑに
     いく夜寝覚めぬ 須磨の関守
    いく  いくよねざめぬ すまのせきもり
       
79 左京大夫顕輔 秋風に たなびく雲の 絶間より
  さきようだいぶあきすけ あき あきかぜに たなびくくもの たえまより
     もれ出づる月の 影のさやけさ
    もれ  もれいづるつきの かげのさやけさ
       
80 待賢門院堀河 長からむ 心も知らず 黒髪の
  たいけんもんゐんのほりかわ なが ながからむ こころもしらず くろかみの
     乱れて今朝は 物をこそ思へ
    みだ  みだれてけさは ものをこそおもへ
       
81 後徳大寺左大臣 ほととぎす 鳴きつる方を 眺むれば
  ごとくだいじのさだいじん ほとと ほととぎす なきつるかたを ながむれば
     ただ有明の 月ぞ残れる
    ただ  ただありあけの つきぞのこれる
       
82 道因法師 思ひわび さても命は あるものを
  どういんほうし おも おもひわび さてもいのちは あるものを
     憂きに堪へぬは 涙なりけり
    うき  うきにたへぬは なみだなりけり
       
83 皇太后宮大夫俊成 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る
  こうたいごうぐうのたいぶとしなり よの よのなかよ みちこそなけれ おもひいる
     山の奥にも 鹿ぞ鳴くなる
    やま  やまのおくにも しかぞなくなる
       
84 藤原清輔朝臣 長らへば また此の頃や しのばれむ
  ふぢはらのきよすけあそん ながら ながらへば またこのごろや しのばれむ
     憂しと見し世ぞ 今は戀しき
    うし  うしとみしよぞ いまはこひしき
       
85 俊恵法師 夜もすがら 物思ふ頃は 明けやらで
  しゆんゑほうし よも よもすがら ものおもふころは あけやらで
     閨のひまさへ つれなかりけり
    ねや  ねやのひまさへ つれなかりけり
       
86 西行法師 嘆けとて 月やは物を 思はする
  さいぎようほうし なげけ なげけとて つきやはものを おもはする
     かこち顔なる わが涙かな
    かこ  かこちがほなる わがなみだかな
       
87 寂蓮法師 村雨の 露もまだひぬ 槙(真木)の葉に
  じやくれんほうし むらさ むらさめの つゆもまだひぬ まきのはに
     霧立ちのぼる 秋の夕暮
    きり  きりたちのぼる あきのゆふぐれ
       
88 皇嘉門院別当 難波江の 芦のかりねの 一夜ゆゑ
  こうかもんゐんのべつとう なに なにはえの あしのかりねの ひとよゆゑ
     みをつくしてや 戀ひわたるべき
    みを  みをつくしてや こひわたるべき
       
89 式子内親王 玉の緒よ 絶えなば絶えね ながらへば
  しきしないしんのう たま たまのをよ たえなばたえね ながらへば
     忍ぶることの 弱りもぞする
    しのぶ  しのぶることの よはりもぞする
       
90 殷富門院大輔 見せばやな 雄島のあまの 袖だにも
  いんぶもんゐんのたいふ みせば みせばやな をじまのあまの そでだにも
     濡れにぞ濡れし 色はかはらず
    ぬれ  ぬれにぞぬれし いろはかはらず
       
91 後京極摂政前太政大臣 きりぎりす 鳴くや霜夜の さむしろに
  ごきようごくせつしようさきのだじようだいじん きり きりぎりす なくやしもよの さむしろに
     衣かたしき 獨りかも寝む
    ころも  ころもかたしき ひとりかもねむ
       
92 二条院讃岐 わが袖は 潮(汐)干に見えぬ 沖の石の
  にじよういんのさぬき わがそで わがそでは しほひにみえぬ おきのいしの
     人こそ知らね 乾く間もなし
    ひとこそ  ひとこそしらね かわくまもなし
       
93 鎌倉右大臣 世の中は 常にもがもな 渚こぐ
  かまくらのうだいじん よの よのなかは つねにもがもな なぎさこぐ
     海士の小舟の 綱手かなしも
    あまの  あまのをぶねの つなでかなしも
       
94 参議雅経 み吉野の 山の秋風 小夜更けて
  さんぎまさつね みよ みよしのの やまのあきかぜ さよふけて
     故郷寒く 衣うつなり
    ふる  ふるさとさむく ころもうつなり
       
95

前大僧正慈円

(前大僧正慈圓)

おほけなく うき世の民に おほふかな
  さきのだいそうじようじゑん おほけ おほけなく うきよのたみに おほふかな
     我が立つ杣に 墨染の袖
    わが  わがたつそまに すみぞめのそで
       
96 入道前太政大臣 花さそふ 嵐の庭の 雪ならで
  にうどうさきのだじようだいじん はな はなさそふ あらしのにはの ゆきならで
     ふりゆくものは 我が身なりけり
    ふり  ふりゆくものは わがみなりけり
       
97 権中納言定家 来ぬ人を 松帆の浦の 夕なぎに
  ごんちゆうなごんさだいへ こぬひ こぬひとを まつほのうらの ゆふなぎに
     焼くや藻塩の 身もこがれつつ
    やく  やくやもしほの みもこがれつつ
       
98 従二位家隆 風そよぐ 楢の小川の 夕暮れは
  じゆにゐいへたか かぜ かぜそよぐ ならのをがはの ゆふぐれは
     みそぎぞ夏の しるしなりける
    みそぎ  みそぎぞなつの しるしなりける
       
99 後鳥羽院 人も惜し 人も恨めし あぢきなく
  ごとばのゐん ひとも ひともをし ひともうらめし あぢきなく
     世を思ふ故に 物思ふ身は
    よを  よをおもふゆゑに ものおもふみは
       
100 順徳院 百敷や 古き軒端の しのぶにも
  じゆんとくいん もも ももしきや ふるきのきばの しのぶにも
     なほあまりある 昔なりけり
    なほ(けり)  なほあまりある むかしなりけり