伊勢物語 63段:つくもがみ あらすじ・原文・現代語訳

第62段
古の匂は
伊勢物語
第三部
第63段
つくもがみ
第64段
玉すだれ

 
 目次
 

 ・あらすじ(大意)
 

 ・原文対照
 

 ・現代語訳(逐語解説)
 
  まことならぬ 在五中将 
 
  寝にけり 恋ふらし
 
  女のせしやう けぢめみせぬ
 
 
 

あらすじ

 
 
 昔、ある程度世の心得あった女が、今度は情深い男に会いたいと思ったが(フラグ)、世にはよう言い出せず、その夢を三人の子に語ったりしていた。
 
 その内の一人三郎という子が、良い男に会わせたるというので、女は喜んだが、それはなんと、あの在五中将のことであった(死亡フラグ)。
 なお、三男三郎というように、「在五」は著者が開発した五流並の小僧という超適当な当て字で、当然蔑称。間違っても通称などではない。
 

 狩に行く時、その馬○の口をとり、かくかく鹿々言えば、それ「あはれ」と馬鹿みたいに言い、早速やって来て寝た(早! 種馬並みにプロセス無)
 なお、このすぐ「あはれ」というのは、39段の天下の色好み、軽薄な源の至と同様の記述。加えて、業平には馬頭が当てられる(82段)。つまりバ○。
 

 そして早々、この男は来なくなったが、女が思いあまって在五の家に覗きに行くと、男はこれをチラと横目でみて、
 「九十九髪のような白髪の化けモンが。俺の超マジな恋路をたぶらかしたやつ。そんなんが今見えた希ガス」といっていきりたち、イキなり出て行く様子。
 (百から一引いて白髪ね。包んでいるのは著者の作法)
 

 それを聞き、垣間見ていた女はヨヨとなって卒倒しかね、垣の茨・カラタチのトゲに刺さりつつ、血の涙もでんばかりに、うちにかえって打ち伏せった。
 

 しかしなぜか男は女がするように、女々しく女の家に忍びで来て、馬+鹿みたいに突っ立って見れば(つまり自分の嫌味がキいたか見に来た。最低)、
 女が「恋しい人に会えず寝る寂しさで、さムシロに寝ているよう」(ここで恋しい人とは、在五ではなく冒頭の意味)と嘆いている様子だったので
 
 またも「あはれ(?)」と思い、その夜「は」寝た。
 つまり悲劇中の悲劇。そして誰からも悲劇と見られないという更なる悲劇。
 だって誘ったのは女だもん。一度寝た女性を罵倒しても、一途に恋焦がれるのが女だろ。在五様が寝てヤったから有難いだろ? …チョまてよ
 まるっきり犯○者じゃない。こいつの「あはれ」って何? 説明ないとだめですか? つまりもてあそんでいるのね。人の心を。やばいでしょ?
 
 やばいけど、これ序の口だからね。
 後宮で女に拒絶されてもつきまとって流されたり(65段)、帝の女になった自分の姪を孕ませた疑惑とか(79段)、これからワンサカあるからね。
 

 世の中の例として、思えば思い、思わなければ思わない。(それが道理)
 しかるにこの馬○は、思うも思わないも、けじめも(良いも悪いも)何もかも、分別をつけれない心なのであった。
 (それを馬鹿とか阿保という、あ、違った阿呆でした)
 

 差別なく・分け隔てなく大らかに愛する? は???
 「けぢめみせぬ」ってそういう意味? 違うでしょ。言動が無責任って意味でしょ。
 しかも罵倒して分け隔てたよね? 瞬間的に悔い改め愛した? それこそ無責任の極み。
 
 そんでこれが主人公? なぜ???
 主人公を業平の異名で呼んでいる? ホワッと? どこどう見ればそうなるの。それにこの段は、いつもの「むかし男」じゃないがな。
 けじめつけなくても、愛なんだ~と言い張ればそうなるの? この珍獣も受け入れることこそ、愛だね大人だね~、ってなるかって。
 愛を否定するのを受け入れたら、愛が存在できなくなるがな。それを黙認したらどうなんの。こうなんの。こういう世の中に。全然愛なんてねーだろ。
 夢物語したいなら自分達でやって。おかしな主人公注入し続け、伊勢物語をもてあそばないで。けじめつけて。
 
 
 
 

原文対照

男女
及び
和歌
定家本 武田本
(定家系)
朱雀院塗籠本
(群書類従本)
  第63段 つくもがみ(髪)
   
 むかし、世心づける女、  むかし、世心づける女、  むかし。世ごゝろある女。
  いかで心情けあらむ男に いかで心なさけあらむおとこに いかでこのなさけある男を
  あひえてしがなと思へど、 あひえてしがなとおもへど、 かたらひてしがなと思へども。
  言ひ出でむも頼りなさに、 いひいでむもたよりなさに、 いひいでんにもたよりなければ。
  まことならぬ夢がたりをす。 まことならぬゆめがたりをす。 まことならぬ夢がたりを。
       
  子三人を呼びて語りけり。 子三人をよびてかたりけり。 むす子みたりをよびあつめてかたりけり。
  二人の子は、情けなくいらへて止みぬ。 ふたりのこは、なさけなくいらへてやみぬ。 ふたりの子はなさけなくいらへてやみぬ。
  三郎なりけむ子なむ、 さぶらうなりける子なむ、 さぶらふなりけるなん。
  よき御男ぞいでこむとあはするに、 よき御おとこぞいでこむ、とあはするに、 よき御おとこぞいでこむとあはするに。
  この女気色いとよし。 この女けしきいとよし。 この女けしきいとよし。
  こと人とはいと情けなし。 こと人はいとなさけなし。 こと人はいとなさけなし。
  いかでこの在五中将にあはせてしがな いかでこの在五中将にあはせてしがな いかでこの在五中將にあはせてしがな
  と思ふ心あり。 と思ふ心あり、 とおもふ心ありけり。
       
  狩しありきけるにいきあひて、 かりしありきけるに、いきあひて、 かりしありきける道にゆきあひにけり。
  道にて馬の口をとりて、 道にてむまのくちをとりて、 馬のくちをとりて。
  かうかうなむ思ふといひければ、 かうかうなむ思ふ、といひければ、 やう〳〵なんおもふといひけれは。
  哀れがりて、きて寝にけり。 あはれがりて、きてねにけり。 あはれがりてひとよねにけり。
       
  さてのち男見えざりければ、 さてのち、おとこ見えざりければ さてのちをさをさこねば。
  女、男の家にいきて垣間みけるを、 女、おとこのいゑにいきてかいまみけるを、 女おとこの家にいきて。かいま見けるを。
  男ほのかに見て、 をとこほのかに見て、 男ほのかにま見て。
       

114
 百歳に
 一歳たらぬつくも髪
 もゝとせに
 ひとゝせたらぬつくもがみ
 百とせに
 一とせたらぬつくもかみ
  われを恋ふらし
  おもかげに見ゆ
  われをこふらし
  おもかげに見ゆ
  我をこふらし
  俤にたつ
       
  とて、 とて といひて。馬にくらおかせて
  出でたつ気色を見て、 いでたつけしきを見て、 いでたつけしきを見て。
  茨からたちにかゝりて、 むばら、からたちにかゝりて、 むばらからたちともしらずはしりまどひて。
  家にきてうちふせり。 いゑにきてうちふせり。 家にきてふせり。
       
  男かの女のせしやうに、 おとこ、かの女のせしやうに 男この女のせしやうに。
  しのびて立てりてみれば、 しのびてたてりて見れば、 しのびてたてりて見ければ。
  女嘆きて寝ぬとて、 女なげきてぬとて、 女うちなきてぬとて。
       

115
 さむしろに
 衣かたしき今宵もや
 狭席に
 衣片敷今夜もや
 さむしろに
 衣片しきこよひもや
  恋しき人に
  逢はでのみ寝む
  恋しき人に
  あはでのみねむ
  戀しき人に
  あはてわかねん
       
  と詠みけるを、 とよみけるを、 とよみけるを。
  男あはれと思ひて、その夜は寝にけり。 ゝとこあはれと思ひて、そのよはねにけり。 あはれとみてその夜はねにけり。
  世の中の例として、 世中のれいとして、 世中のれいとして。
  思ふをば思ひ、
思はぬをば思はぬものを、
おもふをば思ひ、
おもはぬをばおもはぬものを、
思ひおもはぬ人有を。
  この人は、思ふをも思はぬをも、 この人は、思ふをもおもはぬをも、 この人は
  けぢめみせぬ心なむありける。 けぢめ見せぬ心なむ有りける。 そのけぢめ見せぬこゝろなんありける。
   

現代語訳

 
 

まことならぬ

 

むかし世心づける女、
いかで心情けあらむ男にあひえてしがなと思へど、
言ひ出でむも頼りなさに、まことならぬ夢がたりをす。

 
 
むかし世心づける女
 むかし世渡りの心得が多少はあった女が、
 (前段の文脈から、たぶらかされる示唆)
 →「年ごろおとづれざりける女、心かしこくやあらざりけむ。はかなき人の言につきて、人の国になりける人に使はれて」
 
 つまりここでの「心づける」を「ごろおとづれざり」とかけて、世の心をよう知らん女という暗示。表面の表現は皮肉(皮+肉=表層)。
 
 一般の辞書では、伊勢のこの部分を参照し
 よごころ 【世心】
 :異性を慕う心。男女間の情を解する心。
 →異性を慕う心がおきた女が
 という定義をするが、この狭い部分だけで既に意味が不自然。
 

いかで心情けあらむ男に
 どうすれば心情け深い男に
 

あひえてしがなと思へど
 会えるだろかと思ったが
 

言ひ出でむも頼りなさに
 そう言って出るのも頼りなく
 

まことならぬ夢がたりをす
 全く根拠のない夢物語をする。
 
 →うその夢の話× 嘘ではなく「根拠のない理想」という意味。
 →夢占い× 占いという言葉は文章にない。

 

 まこと 【真・実・誠】:
 ①真実。事実。本当。
 ②誠実。誠意。真心。
 

 ゆめがたり 【夢語り】
 ①夢に見たことを話すこと。夢の話。
 ②夢物語。
 
 

在五中将

 

子三人を呼びて語りけり。二人の子は、情けなくいらへて止みぬ。
三郎なりけむ子なむ、よき御男ぞいでこむとあはするに、この女気色いとよし。
こと人とはいと情けなし。
いかでこの在五中将にあはせてしがなと思ふ心あり。

 
 
子三人を呼びて語りけり
 子供三人を呼んで語った。
 

二人の子は情けなくいらへて止みぬ
 二人の子は情けなく返事もしなかったので、話は止めた。
 

 いらへ 【答へ】
 :返事。
 ここでは、居なかったのでとかけている。
 

三郎なりけむ子なむ
 三郎という子が
 

よき御男ぞいでこむとあはするに
 良い男が出てくれば会わせようというので、
 

この女気色いとよし
 この女が気色ばんで(喜び)
 

 気色
 :ここでは「いとよし」とかけ、良い意味で色気を出すこと。
 ただし、後述の怒りの文脈とかけた伏線。
 

こと人とはいと情けなし
 ことほど人は情けないもの
 

いかでこの在五中将にあはせてしがな
 どのようにしてこの在五に会わせようか
 

と思ふ心あり
 と思う心であった。
 
 つまり、三郎が母に紹介しようとした「良き御男」が在五。
 
 

寝にけり

 

狩しありきけるにいきあひて、道にて馬の口をとりて、かうかうなむ思ふといひければ、
哀れがりて、きて寝にけり。

 
 
狩しありきけるにいきあひて
 在五が狩に行く時に会って、
 

道にて馬の口をとりて
 道で馬の口をとって、(道案内のふりで)
 

かうかうなむ思ふといひければ
 こうこうしたほうが良いと思うといえば、
 

哀れがりてきて寝にけり
 そのまま哀れがってついてきて、寝た。
 
 え、はや!?
 
 

恋ふらし

 

さてのち男見えざりければ、女、男の家にいきて垣間みけるを、
男ほのかに見て、
 
 百歳に 一歳たらぬ つくも髪
  われを恋ふらし おもかげに見ゆ
 
とて、出でたつ気色を見て、
茨からたちにかゝりて、家にきてうちふせり。

 
 
さてのち男見えざりければ
 さて、その事後、在五は見えなくなったので、
 
 え、はや!?
 

女男の家にいきて垣間みけるを
 女が在五の家に行って覗き見ると
 

男ほのかに見て
 男それを垣間見て、
 

 ほのか:かすか・薄目で。
 
 

百歳に一歳たらぬつくも髪
 ああどこの白髪の妖怪か
 

 つくもかみ(憑物神)
 :年数を経た物につく霊。俗に物の怪。化け物。
 ここでは九十九髪に当て、年数を経た死に際の妖怪(のような女性と例えて)。
 加えて、百から一を抜いて白髪の老婆。
 

われを恋ふらし
 おれをたぶらかし
 

 恋ふらし
 :来いといってたぶらかし(だました)を縮めた言葉。
 

おもかげに見ゆ
 なんか今みえた。気のせいか。
 

とて出でたつ気色を見て
 と言ってどこかへ行こうと、いきりたつ様子を見て
 

茨からたちにかゝりて
 茨やカラタチ(のトゲ)に引っ掛かりながら、
 

 からたち 【枳殻・枳】
 :みかん科の低木。トゲがある。
 

家にきてうちふせり
 家に帰ってきて、血の涙を流すようにうちで打ち伏せった。
 
 血の意味を補わないと、「茨」「カラタチ」をセットで出した意味がない。
 
 寝たふり→× 文脈が通らない。鈍感すぎる。
 
 

女のせしやう

 

男かの女のせしやうに、しのびて立てりてみれば、
女嘆きて寝ぬとて、
 
さむしろに 衣かたしき今宵もや
 恋しき人に 逢はでのみ寝む
 
と詠みけるを、
 
男あはれと思ひて、その夜は寝にけり。

 
 ※参考:

 さむしろに 衣かたしき 今宵もや 我をまつらむ うちのはしひめ古今689。題しらす/又は、うちのたまひめ)

 さむしろに 衣かたしき 今宵もや 恋しき人に  逢はでのみ寝む(本伊勢63段)
 
 
男かの女のせしやうに
 男、この女がしたように
 

しのびて立てりてみれば
 こっそり来てみれば、
 

 (徹底した悪態をつきながら憑いて来る意味不明さが、末尾の「世の中の例」に反していること。
 つまりモノノケ。お化け・化け物とはそういう性格)
  

女嘆きて寝ぬとて
 女が嘆いて寝ていると
 
 

さむしろに衣かたしき今宵もや
 ムシロで衣が堅く、寂しく一人寝する今宵でも
 

 さむしろ 【狭筵】
 :むしろ。
 →寒い+(茨とカラタチ=針)ムシロ=いたたまれない
 

 かたしき【片敷き】
 :独り寝すること。袖の片方だけ敷いて一人で寝ること。
 →堅し+板敷(床)
 

恋しき人に逢はでのみ寝む
 恋しい人に会わないで寝る
 

と詠みけるを
 と詠んだのを
 

男あはれと思ひてその夜は寝にけり
 男あはれと思ってその夜「は」その女と寝た。
 
 無節操すぎるだろ。
 
 

けぢめみせぬ

 

世の中の例として、思ふをば思ひ、思はぬをば思はぬものを、
この人は、思ふをも思はぬをも、けぢめみせぬ心なむありける。

 
 
世の中の例として
 
 

思ふをば思ひ
 思う人を思って
 

思はぬをば思はぬものを
 思わない人は思わないものを、
 

この人は思ふをも思はぬをも
 この男は思うも思わないも関係ない、
 

けぢめみせぬ心なむありける
 けじめをみせない心なのであった。
 

 けじめ
 :節度ある態度。分別を弁えること。
 
 この文脈で「分け隔てなく・差別をつけずに愛する」とかいうのは語義に反する。愛を自分達の都合のいいようにもてあそんでいる。世も末。