枕草子101段 御方々、君達、上人など

職に 枕草子
上巻下
101段
御方々
中納言殿

(旧)大系:101段
新大系:97段、新編全集:97段
(以上全て三巻本系列本。しかし後二本の構成は2/3が一致せず、混乱を招くので、三巻本理論の根本たる『(旧)大系』に準拠すべきと思う)
(旧)全集=能因本:105段
 


 
 御方々、君達、上人など、御前に人のいとおほく候へば、廂の柱によりかかりて、女房と物語などしてゐたるに、物を投げ賜はせたる、あけて見れば、思ふべしや、いなや。人、第一ならずはいかに」と書かせ給へり。
 御前にて物語などするついでにも、「すべて、人に一に思はれずは、なににかはせむ。ただいみじう、なかなかにくまれ、あしうせられてあらむ。二三にては死ぬともあらじ。一にてをあらむ」などいへば、「一乗の法ななり」など、人々もわらふことのすぢなめり。
 筆、紙など賜はせたれば、「九品蓮台の間には、下品といふとも」など、書きて参らせたれば、「むげに思ひ屈しにけり。いとわろし。いひとぢめつることは、さてこそあらめ」と宣はす。
 「それは、人にしたがひてこそ」と申せば、「そがわるきぞかし。第一の人に、また一に思はれむとこそ思はめ」と仰せらるるもをかし。