徒然草90段 大納言法印の召し使ひし乙鶴丸:原文

奥山に猫また 徒然草
第三部
90段
大納言法印
赤舌日

 
 大納言法印の召し使ひし乙鶴丸、やすら殿といふ者を知りて、常に行き通ひしに、ある時出でて帰り来たるを、法印、「いづくへ行きつるぞ」と問ひしかば、「やすら殿のがりまかりて候ふ」と言ふ。
「そのやすら殿は、男か法師か」とまた問はれて、袖かきあはせて、「いかが候ふらん。頭をば見候はず」と答へ申しき。
などか頭ばかりの見えざりけん。