徒然草121段 養ひ飼ふもの:原文

唐のもの 徒然草
第四部
121段
養ひ飼ふもの
人の才能

 
 養ひ飼ふものには、馬、牛。
つなぎ苦しむるこそいたましけれど、なくてかなはぬものなれば、いかがはせむ。
犬は、守り防ぐつとめ、人にもまさりたれば、必ずあるべし。
されど、家ごとにあるものなれば、ことさらに求め飼はずともありなむ。
そのほかの鳥、獣、すべて用なきものなり。
 

 走る獣は檻にこめ、くさりをさされ、飛ぶ鳥は翼を切り、篭に入れられて、雲を恋ひ、野山を思ふ憂へ、やむときなし。
その思ひ、わが身にあたりて忍びがたくは、心あらむ人、これを楽しまむや。
生を苦しめて目を喜ばしむるは、桀、紂が心なり。
王子猷が鳥を愛せし、林に楽しぶを見て、逍遥の友としき。
とらへ苦しめたるにあらず。
「およそ珍しき禽、あやしき獣、国に養はず」とこそ、文にも侍るなれ。