源氏物語 橋姫:巻別和歌13首・逐語分析

竹河 源氏物語
和歌一覧
各巻別内訳
45帖 橋姫
椎本

 
 源氏物語・橋姫巻の和歌13首を抜粋一覧化し、現代語訳と歌い手を併記、原文対訳の該当部と通じさせた。

 

 内訳:3×3(八宮=源氏の異母弟、八宮長女=通称大君、薫=柏木の子)、2(柏木=頭中将の子)、1×2(八宮次女=若君=中君、冷泉院)※最初最後
 

橋姫・和歌の対応の程度と歌数
和歌間の文字数
即答 0  40字未満
応答 5首  40~100字未満
対応 4首  ~400~1000字+対応関係文言
単体 4首  単一独詠・直近非対応

※分類について和歌一覧・総論部分参照。

 

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 上下の句に分割したバージョン。見やすさに応じて。

 なお、付属の訳はあくまで通説的理解の一例なので、訳が原文から離れたり対応していない場合、より精度の高い訳を検討されたい。
 


  原文
(定家本校訂)
現代語訳
(渋谷栄一)
619
うち捨てて
つがひ去りにし
水鳥の
仮のこの世
たちおくれけむ
〔八宮:源氏の異母弟〕見捨てて
去って行ったつがいでいた
水鳥の
雁ははかないこの世に
子供を残して行ったのだろうか
620
いかでかく
巣立ちけるぞと
思ふにも
憂き水鳥の
契りをぞ知る
〔八宮長女:姫君・通称大君〕どうしてこのように
大きくなったのだろうと
思うにも
水鳥のような辛い
運命が思い知られます
621
泣く泣く
羽うち着する
なく
われぞ巣守に
なりは果てまし
〔八宮次女:若君・中君〕泣きながらも
羽を着せかけてくださる
お父上がいらっしゃらなかったら
わたしは大きくなることは
できなかったでしょうに
622
見し人も
宿も煙に
なりにしを
何とてわが身
消え残りけむ
〔八宮〕北の方も
邸も煙と
なってしまったが
どうしてわが身だけが
この世に生き残っているのだろう
623
世を厭ふ

かよへども
八重立つ雲を
君や隔つる
〔冷泉院〕世を厭う
気持ちは宇治山に
通じておりますが
幾重にも雲で
あなたが隔てていらっしゃるのでしょうか
624
あと絶えて
澄むとは
なけれども
世を宇治
宿をこそ借れ
〔八宮〕世を捨てて
悟り澄ましているのでは
ありませんが
世を辛いものと思い宇治山に
暮らしております
625
おろしに
耐へぬ木の葉の
露よりも
あやなくもろき
わが涙かな
〔薫〕山颪の風に
堪えない木の葉の
露よりも
妙にもろく流れる
わたしの涙よ
626
あさぼらけ
も見えず
尋ね来し
槙の尾
こめてけり
〔薫〕夜も明けて行きますが
帰る家路も見えません
尋ねて来た
槙の尾山は
霧が立ち込めていますので
627
雲のゐる
峰のかけ

いとど隔つる
ころにもあるかな
〔八宮長女〕雲のかかっている
山路を
秋霧が
ますます隔てている
この頃です
628
橋姫
心を汲みて
高瀬さす
棹のしづく
ぞ濡れぬる
〔薫〕姫君たちの
お寂しい心をお察しして
浅瀬を漕ぐ
舟の棹の、
涙で袖が濡れました
629
さしかへる
宇治の河長
朝夕の
しづく
朽たし果つらむ
〔八宮長女〕棹さして何度も行き来する
宇治川の渡し守は
朝夕の
雫に濡れてすっかり袖を
朽ちさせていることでしょう
630
贈:
目の前に
この世を背く
君よりも
よそに別るる
ぞ悲しき
〔柏木→女三宮〕目の前に
この世をお背きになる
あなたよりも
お目にかかれずに死んで行く
わたしの魂のほうが悲しいのです
631
贈:
命あらば
それとも見まし
人知れぬ
岩根にとめし
松の生ひ末
〔柏木→女三宮〕生きていられたら、
それをわが子だと見ましょうが
誰も知らない
岩根に残した
松の成長ぶりを