古今和歌集 巻六 冬:歌の配置・コメント付

巻五:秋下 古今和歌集
巻六
冬歌
巻七:賀
目次
  314
不知
315
宗于
316
不知
317
不知
318
不知
319
不知
320
不知
321
不知
322
不知
323
貫之
324
秋岑
325
是則
326
興風
327
忠岑
328
忠岑
329
躬恒
330
深養
331
貫之
332
是則
333
不知
334
柿?
335
336
貫之
337
友則
338
躬恒
339
元方
340
不知
341
列樹
342
貫之
 
 
※冬は全体で三番目に少ない(羈旅・賀・冬)。女性もいない。
 雪ふる・白雪が目立つ。冬→雪。普通。別に悪くはない。普通。それだけでは。
 その中で先頭314が「神な月」というのは味がある。
 しかしこの語調只者ではない。かなりの傑作。自然に乱れを織り込んでいる。
 シンプルな力強さ、繊細な掛かりと倒置。神に掛ける龍田川。確実に六歌仙。
 同じ龍田川で「からくれないに水くくるとは」があるが、これは業平の歌ではない。それが古今の認定だが違う。屏風の歌ではなく伊勢106段の歌。そちらがオリジナル。伊勢物語は業平の話ではない。同101段で業平は歌を元より知らないとされているし、伊勢全体で業平を出すたび非難している(63段、在五・けぢめ見せぬ心)。水くくるの歌も同様。当時から著者が在五と混同されたから拒絶している。
 何が言いたいかというと、この冬最初の歌は伊勢の著者の歌。つまり文屋の歌。
 語感・余韻が美しい。響きが美しい。しぐれの雨で象徴韻、
 神単体ではなく月と合わせてそれとなく。天才。

 
 さらに続く賀の先頭も文屋の歌。チヨとヤチヨを同時に用いたのは伊勢が最初。万葉にはない。
 その影響力から、こう見るのが自然。
 つまり、秋下・冬・賀は文屋が先頭。
 
 さらに加えて、334にあるような「ある人のいはく柿本人まろか歌」という詞書の「ある人」も文屋。
 なぜなら、上の実力はそれ以上(いないので本人)でないと、はかれないから。
 実力(和歌では古の理解)がないのに評したところで、それを特に公に参照する意義がないから。スポーツの解説と同じ。それを聞いたのが貫之。
 別格視する人麻呂評を聞き入れて書いたのは、人麻呂並の実力者と認識したから。そうでないと、これも人麻呂あれも人麻呂になる。根拠が必要。
 しかし古今の業平認定に関しては噂しか根拠がないというのは皮肉。なので伊勢の歌は、手当たり次第業平認定。
 それで不都合が出ると、ここだけ兄の行平の歌だと認定したり、どこかにあるはずの業平原歌集などと言い出す。
 最早それ自体ナンセンスな指摘というのは、ほぼ誰にでも分かるだろう。しかしそれが公の認定・認識レベルなのである(後撰)。
 過ちを絶対自分達で認められない。この国のお決まりですね。それを上塗りしてジェンガがおかしな方向にどんどん伸びていく。いつ崩れる? 今でしょ!
 なのでそれらの安易な認定と一線を画し、ある人のいはく。
 
 ここでは基本的に貫之以外、古の歌の心を知らない。つまり掛かりの理解がない。
 表面的に見るのは解釈ではない。思い思いに言い立てるのも解釈ではない。思い込み。なので基本間違う(意味をほとんど読めない)。
 
 神な月×時雨のあめは、貫之も使用している(雑体1010)。これは当然本巻314のリスペクト。
 神な月×時雨に、貞観御時の文屋ありすゑ(雑下997)がいるが、これもまず文屋の別名。別人ではない。
 貞観とは伊勢物語の中核時代、詞書の内容(万葉集はいつはかりつくれる)からも、そう見るのが自然。
 そんな質問を受けて、それが残されるのは超一流の歌人。答えを歌でしていることがその証。それ自体普通のレベルではない。
 それに普通の人に聞いても、その答えに意味がない。
 
 

巻六:冬

   
   0314
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 竜田河 錦おりかく 神な月
 しくれの雨を たてぬきにして
かな たつたかは にしきおりかく かみなつき
 しくれのあめを たてぬきにして
   
  0315
詞書 冬の歌とてよめる
作者 源宗于朝臣
原文 山里は 冬そさひしさ まさりける
 人めも草も かれぬと思へは
かな やまさとは ふゆそさひしさ まさりける
 ひとめもくさも かれぬとおもへは
コメ 百人一首28
やまざとは ふゆぞさびしさ まさりける
 ひとめもくさも かれぬとおもへば
/山里は 冬ぞ寂しさ まさりける
 人目も草も かれぬと思へば
   
  0316
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 おほそらの 月のひかりし きよけれは
 影見し水そ まつこほりける
かな おほそらの つきのひかりし きよけれは
 かけみしみつそ まつこほりける
   
  0317
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 ゆふされは 衣手さむし みよしのの
 よしのの山にみ雪ふるらし
かな ゆふされは ころもてさむし みよしのの
 よしののやまに みゆきふるらし
   
  0318
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 今よりは つきてふらなむ わかやとの
 すすきおしなみ ふれるしら雪
かな いまよりは つきてふらなむ わかやとの
 すすきおしなひ ふれるしらゆき
   
  0319
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 ふる雪は かつそけぬらし あしひきの
 山のたきつせ おとまさるなり
かな ふるゆきは かつそけぬらし あしひきの
 やまのたきつせ おとまさるなり
   
  0320
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 この河に もみちは流る おく山の
 雪けの水そ 今まさるらし
かな このかはに もみちはなかる おくやまの
 ゆきけのみつそ いままさるらし
   
  0321
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 ふるさとは よしのの山し ちかけれは
 ひと日もみ雪 ふらぬ日はなし
かな ふるさとは よしののやまし ちかけれは
 ひとひもみゆき ふらぬひはなし
   
  0322
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 わかやとは 雪ふりしきて みちもなし
 ふみわけてとふ 人しなけれは
かな わかやとは ゆきふりしきて みちもなし
 ふみわけてとふ ひとしなけれは
   
  0323
詞書 冬のうたとて
作者 紀貫之
原文 雪ふれは 冬こもりせる 草も木も
 春にしられぬ 花そさきける
かな ゆきふれは ふゆこもりせる くさもきも
 はるにしられぬ はなそさきける
   
  0324
詞書 しかの山こえにてよめる
作者 紀あきみね(紀秋岑、紀秋峰)
原文 白雪の ところもわかす ふりしけは
 いはほにもさく 花とこそ見れ
かな しらゆきの ところもわかす ふりしけは
 いはほにもさく はなとこそみれ
   
  0325
詞書 ならの京にまかれりける時に
やとれりける所にてよめる
作者 坂上これのり(坂上是則)
原文 みよしのの 山の白雪 つもるらし
 ふるさとさむく なりまさるなり
かな みよしのの やまのしらゆき つもるらし
 ふるさとさむく なりまさるなり
   
  0326
詞書 寛平御時きさいの宮の歌合のうた
作者 ふちはらのおきかせ(藤原興風)
原文 浦ちかく ふりくる雪は 白浪の
 末の松山 こすかとそ見る
かな うらちかく ふりくるゆきは しらなみの
 すゑのまつやま こすかとそみる
   
  0327
詞書 寛平御時きさいの宮の歌合のうた
作者 壬生忠岑
原文 みよしのの 山の白雪 ふみわけて
 入りにし人の おとつれもせぬ
かな みよしのの やまのしらゆき ふみわけて
 いりにしひとの おとつれもせぬ
   
  0328
詞書 寛平御時きさいの宮の歌合のうた
作者 壬生忠岑
原文 白雪の ふりてつもれる 山さとは
 すむ人さへや 思ひきゆらむ
かな しらゆきの ふりてつもれる やまさとは
 すむひとさへや おもひきゆらむ
   
  0329
詞書 雪のふれるを見てよめる
作者 凡河内みつね(凡河内躬恒)
原文 ゆきふりて 人もかよはぬ みちなれや
 あとはかもなく 思ひきゆらむ
かな ゆきふりて ひともかよはぬ みちなれや
 あとはかもなく おもひきゆらむ
   
  0330
詞書 ゆきのふりけるをよみける
作者 きよはらのふかやふ(清原深養父)
原文 冬なから そらより花の ちりくるは
 雲のあなたは 春にやあるらむ
かな ふゆなから そらよりはなの ちりくるは
 くものあなたは はるにやあるらむ
   
  0331
詞書 雪の木にふりかかれりけるをよめる
作者 つらゆき(紀貫之)
原文 ふゆこもり 思ひかけぬを このまより
 花と見るまて 雪そふりける
かな ふゆこもり おもひかけぬを このまより
 はなとみるまて ゆきそふりける
   
  0332
詞書 やまとのくににまかれりける時に、
ゆきのふりけるを見てよめる
作者 坂上これのり(坂上是則)
原文 あさほらけ ありあけの月と 見るまてに
 よしののさとに ふれるしらゆき
かな あさほらけ ありあけのつきと みるまてに
 よしののさとに ふれるしらゆき
コメ 百人一首31
あさぼらけ ありあけのつきと みるまでに
 よしののさとに ふれるしらゆき
/朝ぼらけ 有明の月と 見るまでに
 吉野の里に 降れる白雪
   
  0333
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 けぬかうへに 又もふりしけ 春霞
 たちなはみ雪 まれにこそ見め
かな けぬかうへに またもふりしけ はるかすみ
 たちなはみゆき まれにこそみめ
   
  0334
詞書 題しらす/この歌は、ある人のいはく、
柿本人まろか歌なり
作者 よみ人しらす
(一説、柿本人まろ(柿本人麻呂))
原文 梅花 それとも見えす 久方の
 あまきる雪の なへてふれれは
かな うめのはな それともみえす ひさかたの
 あまきるゆきの なへてふれれは
   
  0335
詞書 梅花にゆきのふれるをよめる
作者 小野たかむらの朝臣(小野篁)
原文 花の色は 雪にましりて 見えすとも
 かをたににほへ 人のしるへく
かな はなのいろは ゆきにましりて みえすとも
 かをたににほへ ひとのしるへく
   
  0336
詞書 雪のうちの梅花をよめる
作者 きのつらゆき(紀貫之)
原文 梅のかの ふりおける雪に まかひせは
 たれかことこと わきてをらまし
かな うめのかの ふりおけるゆきに まかひせは
 たれかことこと わきてをらまし
   
  0337
詞書 ゆきのふりけるを見てよめる
作者 きのとものり(紀友則)
原文 雪ふれは 木ことに花そ さきにける
 いつれを梅と わきてをらまし
かな ゆきふれは きことにはなそ さきにける
 いつれをうめと わきてをらまし
   
  0338
詞書 物へまかりける人をまちて
しはすのつこもりによめる
作者 みつね(凡河内躬恒)
原文 わかまたぬ 年はきぬれと 冬草の
 かれにし人は おとつれもせす
かな わかまたぬ としはきぬれと ふゆくさの
 かれにしひとは おとつれもせす
   
  0339
詞書 年のはてによめる
作者 在原もとかた(在原元方)
原文 あらたまの 年のをはりに なることに
 雪もわか身も ふりまさりつつ
かな あらたまの としのをはりに なることに
 ゆきもわかみも ふりまさりつつ
   
  0340
詞書 寛平御時きさいの宮の歌合のうた
作者 よみ人しらす
原文 雪ふりて 年のくれぬる 時にこそ
 つひにもみちぬ 松も見えけれ
かな ゆきふりて としのくれぬる ときにこそ
 つひにもみちぬ まつもみえけれ
   
  0341
詞書 年のはてによめる
作者 はるみちのつらき(春道列樹)
原文 昨日といひ けふとくらして あすかかは
 流れてはやき 月日なりけり
かな きのふといひ けふとくらして あすかかは
 なかれてはやき つきひなりけり
   
  0342
詞書 歌たてまつれとおほせられし時に
よみてたてまつれる
作者 きのつらゆき(紀貫之)
原文 ゆく年の をしくもあるかな ますかかみ
 見るかけさへに くれぬと思へは
かな ゆくとしの をしくもあるかな ますかかみ
 みるかけさへに くれぬとおもへは