古事記~スセリ姫の歌  原文対訳

スセリ姫への歌 古事記
上巻 第三部
大国主の物語
スセリ姫の歌
大国主の系譜
原文 書き下し
(武田祐吉)
現代語訳
(武田祐吉)
爾其后。  ここにその后きささ  そこで、そのお妃きさきが、
取大御酒坏。 大御酒杯さかづきを取らして、 酒盃さかずきをお取りになり、
立依指擧而。 立ち依り指擧ささげて、 立ち寄り捧げて、
歌曰。 歌よみしたまひしく、 お歌いになつた歌、
     
夜知富許能 加微能美許登夜  八千矛の 神の命や、 ヤチホコの神樣かみさま、
阿賀淤富久邇奴斯。 吾あが大國主。 わたくしの大國主樣おおくにぬしさま。
那許曾波 遠邇伊麻世婆 汝なこそは 男をにいませば、 あなたこそ男ですから
宇知微流 斯麻能佐岐耶岐 うち廻みる 島の埼埼 廻つている岬々みさきみさきに
加岐微流 伊蘇能佐岐淤知受 かき廻みる 磯の埼おちず、 廻つている埼さきごとに
和加久佐能 都麻母多勢良米 若草の 嬬つま持たせらめ。 若草のような方をお持ちになりましよう。
阿波母與 賣邇斯阿禮婆 吾あはもよ 女めにしあれば、 わたくしは女おんなのことですから
那遠岐弖 遠波那志 汝なを除きて 男をは無し。 あなた以外に男は無く
那遠岐弖 都麻波那斯 汝なを除て 夫つまは無し。 あなた以外に夫おつとはございません。
阿夜加岐能 布波夜賀斯多爾 文垣あやかきの ふはやが下に、 ふわりと垂たれた織物おりものの下で、
牟斯夫須麻 爾古夜賀斯多爾 蒸被むしぶすま 柔にこやが下に、 暖あたたかい衾ふすまの柔やわらかい下したで、
多久夫須麻 佐夜具賀斯多爾 たくぶすま さやぐが下に、 白しろい衾ふすまのさやさやと鳴なる下したで、
阿和由岐能 和加夜流牟泥遠 沫雪あわゆきの わかやる胸を 泡雪あわゆきのような若々しい胸を
多久豆怒能 斯路岐多陀牟岐 たくづのの 白き臂ただむき コウゾの綱のような白い腕で、
曾陀多岐 多多岐麻那賀理 そ叩だたき 叩きまながり そつと叩いて手をさしかわし
麻多麻傳 多麻傳佐斯麻岐 ま玉手 玉手差し纏まき 玉のような手を廻して
毛毛那賀邇 伊遠斯那世 股長ももながに 寢いをしなせ。 足をのばしてお休み遊ばせ。
登與美岐 多弖麻都良世 豐御酒とよみき たてまつらせ。 おいしいお酒さけをお上あがり遊あそばせ。
     
如此歌。  かく歌ひて、  そこで
即爲
宇伎由比〈四字以音〉而。
すなはち
盞うき結ゆひして、
盃さかずきを取とり交かわして、
宇那賀氣理弖。
〈六字以音〉
項懸うながけりて、 手てを懸かけ合あつて、
至今鎭坐也。 今に至るまで鎭ります。 今日までも鎭しずまつておいでになります。
此謂之
神語也。
こを
神語かむがたりといふ。
これらの歌は
神語かむがたりと申す歌曲かきよくです。
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