平家物語 巻第三 颷(辻風):概要と原文

僧都死去 平家物語
巻第三

つじかぜ
異:付 辻風
医師問答

〔概要〕
 
 京中に辻風=旋風が吹き人家が巻き上げられ多くの人命・家畜が失われた。公的機関の占いによれば、この百日の内に兵乱が起こって続くという(つまり多数の人命が失われた旋風が、中枢で突発的に巻き起こる社会的騒乱と象徴的に解釈される)。

 なお平家物語では治承3年の流れだが、『明月記』等でこれは治承4年4月29日のこととされ、こちらが正と認定されている。治承4年5月26日に以仁王挙兵

 


 
 さるほどに、同じき五月十二日の午の刻ばかり、京中に辻風おびたたしう吹いて、人屋多く顛倒す。風は中御門京極より起こつて、坤の方へ吹いてゆくに、棟門、平門吹き抜いて、四五町吹きもてゆく。桁、長押、柱などは虚空に散在す。檜皮、葺板の類、冬の木の葉の風に乱るるがごとし。おびたたしう鳴りどよむ音、かの地獄の業風なりとも、これには過ぎじとぞ見えし。
 ただ舎屋の破損するのみならず、命を失ふ者も多し。牛馬の類、数をしらず打ち殺さる。「これただ事にあらず。御占あるべし」とて、神祇官にして御占あり。「いま百日の内に、禄を重んずる大臣のつつしみ、別しては天下の大事、並びに仏法王法ともに傾いて、兵革相続すべし」とぞ、神祇官、陰陽寮ともに占ひ申しける。
 

僧都死去 平家物語
巻第三

つじかぜ
異:付 辻風
医師問答