奥の細道 山中:原文対照



『おくのほそ道』
素龍清書原本 校訂
『新釈奥の細道』
   山中の温泉に行くほど、 山中に行ほど一本ほどにトアリ
  白根が岳跡に見なして歩む。 白根かだけあとに見なして步む
  左の山際に観音堂あり。 左の山ぎはに觀音堂あり
  花山の法皇、 花山法皇
  三十三所の巡礼とげさせ給ひて後、 三十三所の順禮とげさせ給ひて後
  大慈大悲の像を安置し給ひて、 大慈大悲の像を安置し給ひて
  那谷と名づけ給ふとや。 那谷と名付給ふと也一本かやトアリ
  那智、谷汲の二字を分かち侍りしとぞ。 那知谷組の二字をわかち侍しとぞ
  奇石さまざまに、古松植ゑ並べて、 奇石さま〴〵に古松うへならべて
  萱葺きの小堂、岩の上に造り掛けて、 萱ふぎの小堂岩の上につくりかけて
  殊勝の土地なり。 殊勝の土地なり
     

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 石山の 石より白し 秋の風  石山の 石より白し 秋の風
     
   温泉に浴す。その効有明に次ぐといふ。 溫泉に浴す其功有明に次と云
     

55
 山中や 菊はたをらぬ 湯の匂ひ  山中や 菊はたおらぬ 湯の匂
     
   あるじとする者は、 あるじとするものは
  久米之助とて、いまだ小童なり。 久米之助とていまだ小童也
  かれが父、俳諧を好み、 彼がいふ俳諧を好て
  洛の貞室若輩の昔、ここに来たりしころ、 洛の貞室若かりしむかし爰に來し頃
  風雅に辱められて、洛に帰りて 風雅に辱しめられて洛に歸て
  貞徳の門人となつて世に知らる。 貞德老人の門人と成て世にしらる
  功名の後、この一村判詞の料を請けずといふ。 功名の後此一村判詞の料をうけずといふ
  今更昔語とはなりぬ。 今更むかしがたりとは成ぬ