伊勢物語 113段:短き心 あらすじ・原文・現代語訳

第112段
須磨のあま
伊勢物語
第四部
第113段
短き心
第114段
芹川行幸

 
 目次
 

 ・あらすじ(大意)
 

 ・原文
 

 ・現代語訳(逐語解説)
 
 
 
 

あらすじ

 
 
 むかし男=著者が、やもめなのに(浮気心を嘆いて)歌う。
 
 ながからぬ 命のほどに忘るゝは いかに短き 心なるらむ

 長くない命の途中で忘れるとは、いかに短い心かなあ、というもの。
 
 ~
  

 短い心とは何ぞや。続かない心、浮気心のこと。
 かつての妻、24段・梓弓の子と、この子こそ自分の妻だと思って一緒になったこと(23段・筒井筒「この女をこそ」)。
 

 男の一番大事にする心は、真面目で誠実で、好きな女の子を大切にすること=浮気しないこと。
 (103段むかし男ありけり。いとまめにじちようにて、あだなる心なかりけり
 だから業平とは相容れないし、著者は業平を登場させる全ての段で拒絶・否定している(63103段106段は集大成)。
 

 本段で嘆く浮気心とは、前段(須磨のあま)で、伊勢斎宮が尼になった嘆きを受けている。
 
 斎宮とは、梓弓の子が亡くなり、しばらく後で知り合った(段を大幅に隔てている)。
 古からのいわくがあって(60段62段)、今度は一緒にと契りを交わしたが(69段112段)、結局一人。
 やはり浮気だったかな。そういう話。
 
 ただし、末尾は「らむ」だから、ダメだから後悔しているとか、そういう話ではない。
 それなら「なりけり」になる。
 

 なお、本段は、物語中で一番短い。
 短い順に、38,44,47,47の文字数(113段、74段、30段、51段)なので、確実に意図している。
 
 
 
 

原文

男女
及び
和歌
定家本 武田本
(定家系)
朱雀院塗籠本
(群書類従本)
  第113段 短き心 やもめにて(いて)
   
 むかし、男、  むかし、おとこ、  むかしおとこ。
  やもめにて居て、 やもめにてゐて、 やもめにてゐて。
       

194
 ながからぬ
 命のほどに忘るゝは
 ながゝらぬ
 いのちのほどにわするゝは
 長からぬ
 命のほとに忘るゝは
  いかに短き
  心なるらむ
  いかにみじかき
  心なるらむ
  いかにみしかき
  心なるらむ
   

現代語訳

 
 

むかし、男、
やもめにて居て、
 
ながからぬ 命のほどに 忘るゝは
 いかに短き 心なるらむ

 
 
むかし男
 
 著者。ある男ではない。
 前段(須磨のあま)は、懇ろに言い契った女(伊勢斎宮)が、尼になったことに掛けた歌。
 やもめは、それを受けた悲しさ。
 

やもめにて居て
 独り身で居て
 

 やもめ 【寡】
 :独身。
 

ながからぬ 命のほどに 忘るゝは
 長くもない 命の途中で 忘れるか
 

いかに短き 心なるらむ
 どれほど続かぬ 心であるか
 
 ここで忘れる心とは何か。
 普通に考えると、梓弓の子のこと(20-24段)。同じ田舎出身で、この子しかいないと思って結ばれた子(23段・筒井筒)。
 斎宮とは、その子が亡くなって暫く後に知り合ってはいるが、それで心を動かしていることで、そう思った。
 初心忘れて浮気心だなあと。やもめなのに浮気とはこれいかに。そういうお話。
 
 短い刹那のことでも切ないね、なんつって。