徒然草235段 主ある家:原文

人の物 徒然草
第六部
235段
主ある家
丹波に出雲

 
 主ある家には、すずろなる人、心のままに入り来ることなし。
あるじなき所には、道行き人みだりにたち入り、狐、梟やうのものも、人げにせかれねば、ところえ顔に入り住み、こだまなどいふけしからぬ形もあらはるるものなり。
また鏡には色形なきゆゑに、よろづの影来りてうつる。
鏡に色形あらましかばうつらざらまし。
虚空よく物を容る。
われらが心に、念々のほしきままに来たり浮かぶも、心といふもののなきにやあらむ。
心に主あらましかば、胸の中にそこばくのことは入り来たらざらまし。