枕草子182段 村上の前帝の御時に

雪のいと 枕草子
中巻中
182段
村上の前帝
御形の宣旨

(旧)大系:182段
新大系:175段、新編全集:175段
(以上全て三巻本系列本。しかし後二本の構成は2/3が一致せず混乱を招くので、以後、三巻本理論の根本たる『(旧)大系』に準拠すべきと思う)
(旧)全集=能因本:180段
 


 
 村上の前帝の御時に、雪のいみじう降りたりけるを、様器に盛らせ給ひて、梅の花を挿して、月のいと明きに、「これに歌よめ。いかが言ふべき」と、兵衛の蔵人に賜せたりければ、「雪月花の時」と奏したりけるこそ、いみじうめでさせ給ひけれ。「歌などよむは世の常なり。かくをりにあひたることなむ言ひがたき」とぞ、仰せられける。
 

 同じ人を御供にて、殿上に人候はざりけるほど、たたずませ給ひけるに、炭櫃に煙の立ちければ、「かれは何ぞと見よ」と仰せられければ、見て帰り参りて、
 

♪20
  わたつ海の 沖にこがるる 物見れば
  あまの釣して 帰るなりけり
 

と奏しけるこそをかしけれ。蛙の飛び入りて、焼くるなりけり。
 
 

雪のいと 枕草子
中巻中
182段
村上の前帝
御形の宣旨