源氏物語 28帖 野分:あらすじ・目次・原文対訳

篝火 源氏物語
第一部
第28帖
野分
行幸

 
 本ページは、高千穂大名誉教授・渋谷栄一氏の『源氏物語の世界』(目次構成・登場人物・原文・訳文)を参照引用している(全文使用許可あり)。
 ここでは、その原文と現代語訳のページの内容を統合し、レイアウトを整えた。速やかな理解に資すると思うが、詳しい趣旨は上記リンク参照。
 
 

 野分(のわき)のあらすじ

 光源氏36歳の秋の話。

 8月のある日、激しい野分(台風)が都を吹き荒れた。六条院の庭の草花も倒れ、そこへ訪れた夕霧は混乱の中で偶然紫の上の姿を垣間見、その美貌に衝撃を受ける。その後祖母大宮の元へ見舞いに参上してからも、爛漫の桜のような紫の上の艶姿は夕霧の脳裏に焼きついて消えなかった。

 野分の去った翌日、源氏は夕霧を連れて、宿下がり中の秋好中宮〔かつての斎宮女御〕を始めとする女君たちの見舞いに回った。玉鬘の元を訪れた時、こっそりと覗き見た夕霧は玉鬘の美しさに見とれると共に、親子とは思えない振舞いを見せる源氏に驚き不審に思う。

 とりどりに花のように美しい女性たちを思って心乱れつつ、雲居の雁へ文を送る夕霧だった。

(以上Wikipedia野分(源氏物語)より。色づけと〔〕は本ページ)
 
目次
和歌抜粋内訳#野分(4首:別ページ)
主要登場人物
 
第28帖 野分(のわき)
 光る源氏の太政大臣時代
 三十六歳の秋野分の物語
 
第一章 夕霧の物語
 継母垣間見の物語
 第一段 八月野分の襲来
 第二段 夕霧、紫の上を垣間見る
 第三段 夕霧、三条宮邸へ赴く
 第四段 夕霧、暁方に六条院へ戻る
 第五段 源氏、夕霧と語る
 第六段 夕霧、中宮を見舞う
 
第二章 光源氏の物語
 六条院の女方を見舞う物語
 第一段 源氏、中宮を見舞う
 第二段 源氏、明石御方を見舞う
 第三段 源氏、玉鬘を見舞う
 第四段 夕霧、源氏と玉鬘を垣間見る
 第五段 源氏、花散里を見舞う
 
第三章 夕霧の物語
 幼恋の物語
 第一段 夕霧、雲井雁に手紙を書く
 第二段 夕霧、明石姫君を垣間見る
 第三段 内大臣、大宮を訪う
 出典
 校訂
 

主要登場人物

 

光る源氏(ひかるげんじ)
三十六歳
呼称:大臣・殿
夕霧(ゆうぎり)
光る源氏の長男
呼称:中将の君・中将・朝臣・君
玉鬘(たまかづら)
内大臣の娘
呼称:西の対・女君・女
内大臣(ないだいじん)
呼称:父の大臣・内の大殿
雲井雁(くもいのかり)
呼称:姫君
秋好中宮(あきこのむちゅうぐう)
呼称:中宮・宮
紫の上(むらさきのうえ)
呼称:南の上・女君・女
花散里(はなちるさと)
呼称:東の御方・東の町
明石御方(あかしのおおんかた)
呼称:明石の御方・北の御殿
明石姫君(あかしのひめぎみ)
呼称:姫君
大宮(おおみや)
呼称:祖母宮・宮

 
 以上の内容は、全て以下の原文のリンクを参照。文面はそのままで表記を若干整えた。
 
 
 

原文対訳

和歌 定家本
(大島本
現代語訳
(渋谷栄一)
  野分(のわき)
 
 

第一章 夕霧の物語 継母垣間見の物語

 
 

第一段 八月野分の襲来

 
   中宮の御前に、秋の花を植ゑさせたまへること、常の年よりも見所多く、色種を尽くして、よしある黒木赤木の籬を結ひまぜつつ、同じき花の枝ざし、姿、朝夕露の光も世の常ならず、玉かとかかやきて作りわたせる野辺の色を見るに、はた、春の山も忘られて、涼しうおもしろく、心もあくがるるやうなり。
 
 中宮のお庭先に、秋の花をお植えあそばしていらっしゃることは、例年よりも見る価値が多くあって、ありとあらゆる種類の花を植えて、風情のある皮のある木と皮をはいだ木との籬垣を結い混ぜて、同じ花の枝ぶりや、姿は、朝夕の露の光も世間のと違って、玉かと輝いて、お造りになった野辺の色彩を見ると、一方では、春の山もつい忘れられて、さわやかで気分が晴々するようで、心も浮き立つほどである。
 
   春秋の争ひに、昔より秋に心寄する人は数まさりけるを、名立たる春の御前の花園に心寄せし人びと、また引きかへし移ろふけしき、世のありさまに似たり。
 
 春秋の優劣に、昔から秋に心を寄せる人は数多くいたが、名高い春のお庭先の花園に心を寄せた人々が、再び掌を返すように秋に心変わりする様子は、時勢におもねる世情と似ていた。
 
   これを御覧じつきて、里居したまふほど、御遊びなどもあらまほしけれど、八月は故前坊の御忌月なれば、心もとなく思しつつ明け暮るるに、この花の色まさるけしきどもを御覧ずるに、野分、例の年よりもおどろおどろしく、空の色変りて吹き出づ。
 
 この庭をお気に召して、里住みなさっていらっしゃる間に、管弦のお遊びなども催したいところであるが、八月は故前坊の御忌月にあたるので、気になさりながら毎日過ごしていらっしゃったが、この花の色がいよいよ美しくなっていく様子を御覧になっていると、野分が、いつもの年よりも激しく、空も変わって風が吹き出す。
 
   花どものしをるるを、いとさしも思ひしまぬ人だに、あなわりなと思ひ騒がるるを、まして、草むらの露の玉の緒乱るるままに、御心惑ひもしぬべく思したり。
 おほふばかりの袖は、秋の空にしもこそ欲しげなりけれ。
 暮れゆくままに、ものも見えず吹きまよはして、いとむくつけければ、御格子など参りぬるに、うしろめたくいみじと、花の上を思し嘆く。
 
 いろいろの花が萎れるのを、それほどにも思わない人でさえも、まあ、困ったことと心を痛めるのに、まして、草むらの露の玉が乱れるにつれて、お気もどうにかなってしまいそうにご心配あそばしていらっしゃった。
 大空を覆うほどの袖は、秋の空にこそ欲しい感じがした。
 日が暮れて行くにつれて、何も見えないほど吹き荒れて、たいそう気味が悪いなので、御格子などをお下ろしになったが、不安でたまらないと花の身をご心配あそばす。
 
 
 

第二段 夕霧、紫の上を垣間見る

 
   南の御殿にも、前栽つくろはせたまひける折にしも、かく吹き出でて、もとあらの小萩、はしたなく待ちえたる風のけしきなり。
 折れ返り、露もとまるまじく吹き散らすを、すこし端近くて見たまふ。
 
 南の御殿でも、お庭先の植え込みを手入れさせていらっしゃったちょうどそのころ、このように野分が吹き出して、株もまばらな小萩が、待っていた風にしては激し過ぎる吹き具合である。
 枝も折れ曲がって、露も結ばないほど吹き散らすのを、少し端近くに出て御覧になる。
 
   大臣は、姫君の御方におはしますほどに、中将の君参りたまひて、東の渡殿の小障子の上より、妻戸の開きたる隙を、何心もなく見入れたまへるに、女房のあまた見ゆれば、立ちとまりて、音もせで見る。
 
 大臣は、姫君のお側にいらっしゃった時に、中将の君が参上なさって、東の渡殿の小障子の上から、妻戸の開いている隙間を、何気なく覗き込みなさると、女房たちが大勢見えるので、立ち止まって、音を立てないで見る。
 
   御屏風も、風のいたく吹きければ、押し畳み寄せたるに、見通しあらはなる廂の御座にゐたまへる人、ものに紛るべくもあらず、気高くきよらに、さとにほふ心地して、春の曙の霞の間より、おもしろき樺桜の咲き乱れたるを見る心地す。
 あぢきなく、見たてまつるわが顔にも移り来るやうに、愛敬はにほひ散りて、またなくめづらしき人の御さまなり。
 
 御屏風も、風がひどく吹いたので、押したたんで隅に寄せてあるので、すっかり見通せる廂の御座所に座っていらっしゃる方、他の人と間違えようもない、気高く清らかで、ぱっと輝く感じがして、春の曙の霞の間から、美しい樺桜が咲き乱れているのを見る感じがする。
 どうにもならぬほど、拝見している自分の顔にもふりかかってくるように、魅力的な美しさが一面に広がって、二人といないご立派な方のお姿である。
 
   御簾の吹き上げらるるを、人びと押へて、いかにしたるにかあらむ、うち笑ひたまへる、いといみじく見ゆ。
 花どもを心苦しがりて、え見捨てて入りたまはず。
 御前なる人びとも、さまざまにものきよげなる姿どもは見わたさるれど、目移るべくもあらず。
 
 御簾の吹き上げられるのを、女房たちが押さえて、どうしたのであろうか、にっこりとなさっているのが、何とも美しく見える。
 いろいろな花を心配なさって、見捨てて中にお入りになることができない。
 お側に仕える女房たちも、それぞれにこざっぱりとした姿に見えるが、目が止まるはずもない。
 
   「大臣のいと気遠くはるかにもてなしたまへるは、かく見る人ただにはえ思ふまじき御ありさまを、いたり深き御心にて、もし、かかることもやと思すなりけり」  「大臣がたいそう遠ざけていらっしゃるのは、このように見る人が心を動かさずにはいられないお美しさなので、用心深いご性質から、万一、このようなことがあってはいけないと、ご懸念になっていたのだ」
   と思ふに、けはひ恐ろしうて、立ち去るにぞ、西の御方より、内の御障子引き開けて渡りたまふ。
 
 と思うと、何となく恐ろしい気がして、立ち去ろうとする、その時、西のお部屋から、内の御障子を引き開けてお越しになる。
 
   「いとうたて、あわたたしき風なめり。
 御格子下ろしてよ。
 男どもあるらむを、あらはにもこそあれ」
 「とてもひどい、気ぜわしい風ですね。
 御格子を下ろしなさいよ。
 男たちがいるだろうに、丸見えになっては大変だ」
   と聞こえたまふを、また寄りて見れば、もの聞こえて、大臣もほほ笑みて見たてまつりたまふ。
 親ともおぼえず、若くきよげになまめきて、いみじき御容貌の盛りなり。
 
 と申し上げなさるのを、再び近寄って見ると、何か申し上げて、大臣もにっこりしてお顔を拝していらっしゃる。
 親とも思われず、若々しく美しく優雅で、素晴らしい盛りのお姿である。
 
   女もねびととのひ、飽かぬことなき御さまどもなるを、身にしむばかりおぼゆれど、この渡殿の格子も吹き放ちて、立てる所のあらはになれば、恐ろしうて立ち退きぬ。
 今参れるやうにうち声づくりて、簀子の方に歩み出でたまへれば、
 女もすっかり成人なさって、何一つ不足のないお二方のご様子であるのを、身にしみて美しく感じられるが、この渡殿の格子も風が吹き放って、立っている所が丸見えになったので、恐ろしくなって立ち退いた。
 今ちょうど参上したように咳払いして、簀子の方に歩き出しなさると、
   「さればよ。
 あらはなりつらむ」
 「そらごらん。
 見えたかもしれない」
   とて、「かの妻戸の開きたりけるよ」と、今ぞ見咎めたまふ。
 
 とおっしゃって、「あの妻戸が開いていたことよ」と、今見てお気づきになる。
 
   「年ごろかかることのつゆなかりつるを。
 風こそ、げに巌も吹き上げつべきものなりけれ。
 さばかりの御心どもを騒がして。
 めづらしくうれしき目を見つるかな」とおぼゆ。
 
 「長年このようなことはちっともなかったものを。
 風は、ほんとうに巌も吹き上げてしまうものなのだなあ。
 あれほどご用心の深い方々のお心を騒がせて。
 珍しく嬉しい目を見たものだ」と思わずにはいられない。
 
 
 

第三段 夕霧、三条宮邸へ赴く

 
   人びと参りて、  家司たちが参上して、
   「いといかめしう吹きぬべき風にはべり。
 艮の方より吹きはべれば、この御前はのどけきなり。
 馬場の御殿、南の釣殿などは、危ふげになむ」
 「たいそうひどい勢いになりそうでございます。
 丑寅の方角から吹いて来ますので、こちらのお庭先は静かなのです。
 馬場殿や南の釣殿などは危なそうです」
   とて、とかくこと行なひののしる。
 
 と申して、あれこれと作業に大わらわとなる。
 
   「中将は、いづこよりものしつるぞ」  「中将は、どこから参ったのか」
   「三条の宮にはべりつるを、『風いたく吹きぬべし』と、人びとの申しつれば、おぼつかなさに参りはべりつる。
 かしこには、まして心細く、風の音をも、今はかへりて、若き子のやうに懼ぢたまふめれば。
 心苦しさに、まかではべりなむ」
 「三条宮におりましたが、『風が激しくなるだろう』と、人々が申しましたので、気がかりで参上いたしました。
 あちらでは、ここ以上に心細く、風の音も、今ではかえって幼い子供のように恐がっていらっしゃるようなので。
 おいたわしいので、失礼いたします」
   と申したまへば、  とご挨拶申し上げなさると、
   「げに、はや、まうでたまひね。
 老いもていきて、また若うなること、世にあるまじきことなれど、げに、さのみこそあれ」
 「なるほど、早く、行って上げなさい。
 年をとるにつれて、再び子供のようになることは、まったく考えられないことだが、なるほど、老人はそうしたものだ」
   など、あはれがりきこえたまひて、  などと、ご同情申し上げなさって、
   「かく騒がしげにはべめるを、この朝臣さぶらへばと、思ひたまへ譲りてなむ」  「このように風が騒がしそうでございますが、この朝臣がお側におりましたらばと、存じまして代わらせました」
   と、御消息聞こえたまふ。
 
 と、お手紙をお託しになる。
 
   道すがらいりもみする風なれど、うるはしくものしたまふ君にて、三条宮と六条院とに参りて、御覧ぜられたまはぬ日なし。
 内裏の御物忌などに、えさらず籠もりたまふべき日より外は、いそがしき公事、節会などの、暇いるべく、ことしげきにあはせても、まづこの院に参り、宮よりぞ出でたまひければ、まして今日、かかる空のけしきにより、風のさきにあくがれありきたまふもあはれに見ゆ。
 
 道中、激しく吹き荒れる風だが、几帳面でいらっしゃる君なので、三条宮と六条院とに参上して、お目通りなさらない日はない。
 内裏の御物忌みなどで、どうしてもやむを得ず宿直しなければならない日以外は、忙しい公事や、節会などの、時間がかかり、用事が多い時に重なっても、真っ先にこの院に参上して、三条宮からご出仕なさったので、まして今日は、このような空模様によって、風より先に立ってあちこち動き回るのは、孝心深そうに見える。
 
   宮、いとうれしう、頼もしと待ち受けたまひて、  大宮は、たいそう嬉しく頼もしくお待ち受けになって、
   「ここらの齢に、まだかく騒がしき野分にこそあはざりつれ」  「この年になるまで、いまだこのように激しい野分には遭わなかった」
   と、ただわななきにわななきたまふ。
 
 と、ただ震えに震えてばかりいらっしゃる。
 
   「大きなる木の枝などの折るる音も、いとうたてあり。
 御殿の瓦さへ残るまじく吹き散らすに、かくてものしたまへること」
 大きな木の枝などが折れる音も、たいそう気味が悪い。
 御殿の瓦まで残らず吹き飛ばすので、 「よくぞおいで下さいましたこと」
  と、かつはのたまふ。
 
と、脅えながらも挨拶なさる。
 
   そこら所狭かりし御勢ひのしづまりて、この君を頼もし人に思したる、常なき世なり。
 今もおほかたのおぼえの薄らぎたまふことはなけれど、内の大殿の御けはひは、なかなかすこし疎くぞありける。
 
 あれほど盛んだったご威勢も今はひっそりとして、この君一人を頼りに思っていらっしゃるのは、無常な世の中である。
 今でも世間一般のご声望が衰えていらっしゃることはないけれども、内の大殿のご態度は、親子であるのにかえって疎遠のようであったのだ。
 
   中将、夜もすがら荒き風の音にも、すずろにものあはれなり。
 心にかけて恋しと思ふ人の御ことは、さしおかれて、ありつる御面影の忘られぬを、
 中将は、一晩中激しい風の音の中でも、何となくせつなく悲しい気持ちがする。
 心にかけて恋しいと思っていた人のことは、ついさしおかれて、先程の御面影が忘れられないのを、
   「こは、いかにおぼゆる心ぞ。
 あるまじき思ひもこそ添へ。
 いと恐ろしきこと」
 「これは、どうしたことだろう。
 だいそれた料簡を持ったら大変だ。
 とても恐ろしいことだ」
   と、みづから思ひ紛らはし、異事に思ひ移れど、なほ、ふとおぼえつつ、  と、自分自身で気を紛らわして、他の事に考えを移したが、やはり、思わず御面影がちらついては、
   「来し方行く末、ありがたくもものしたまひけるかな。
 かかる御仲らひに、いかで東の御方、さるものの数にて立ち並びたまひつらむ。
 たとしへなかりけりや。
 あな、いとほし」
 「過去にも将来にも、めったにいない素晴らしい方でいらっしゃったなあ。
 このような素晴らしいご夫婦仲に、どうして東の御方が、夫人の一人として肩を並べなさったのだろうか。
 比べようもないことだな。
 ああ、お気の毒な」
   とおぼゆ。
 大臣の御心ばへを、ありがたしと思ひ知りたまふ。
 
 とつい思わずにはいられない。
 大臣のお気持ちをご立派だとお分かりになる。
 
   人柄のいとまめやかなれば、似げなさを思ひ寄らねど、「さやうならむ人をこそ、同じくは、見て明かし暮らさめ。
 限りあらむ命のほども、今すこしはかならず延びなむかし」と思ひ続けらる。
 
 人柄がたいそう誠実なので、不相応なことを考えはしないが、「あのような美しい方とこそ、同じ結婚をするなら、妻にして暮らしたいものだ。
 限りのある寿命も、きっともう少しは延びるだろう」と、自然と思い続けられる。
 
 
 

第四段 夕霧、暁方に六条院へ戻る

 
   暁方に風すこししめりて、村雨のやうに降り出づ。
 
 明け方に風が少し湿りを含んで、雨が村雨のように降り出す。
 
   「六条院には、離れたる屋ども倒れたり」  「六条院では、離れている建物が幾棟か倒れた」
   など人びと申す。
 
 などと人々が申す。
 
   「風の吹きまふほど、広くそこら高き心地する院に、人びと、おはします御殿のあたりにこそしげけれ、東の町などは、人少なに思されつらむ」  「風が吹き巻いているうちは、広々とはなはだ高い感じのする六条院には、家司たちは、殿のいらっしゃる御殿あたりには大勢詰めていようが、東の町などは、人少なで心細く思っていらっしゃることだろう」
   とおどろきたまひて、まだほのぼのとするに参りたまふ。
 
 とお気づきになって、まだ夜がほんのりとする時分に参上なさる。
 
   道のほど、横さま雨いと冷やかに吹き入る。
 空のけしきもすごきに、あやしくあくがれたる心地して、
 道中、横なぐりの雨がとても冷たく吹き込んでくる。
 空模様も恐ろしいうえに、妙に魂も抜け出たような感じがして、
   「何ごとぞや。
 またわが心に思ひ加はれるよ」と思ひ出づれば、「いと似げなきことなりけり。
 あな、もの狂ほし」
 「どうしたことか。
 更に自分の心に物思いが加わったことよ」と思い出すと、「まことに似つかわしくないことでであるよ。
 ああ、気違いじみている」
   と、とざまかうざまに思ひつつ、東の御方に、まづまうでたまへれば、懼ぢ極じておはしけるに、とかく聞こえ慰めて、人召して、所々つくろはすべきよしなど言ひおきて、南の御殿に参りたまへれば、まだ御格子も参らず。
 
 と、あれやこれやと思いながら、東の御方にまず参上なさると、脅えきっていらっしゃったところなるので、いろいろとお慰め申して、人を呼んで、あちこち修繕すべきことを命じ置いて、南の御殿に参上なさると、まだ御格子も上げていない。
 
   おはしますに当れる高欄に押しかかりて、見わたせば、山の木どもも吹きなびかして、枝ども多く折れ伏したり。
 草むらはさらにもいはず、桧皮、瓦、所々の立蔀、透垣などやうのもの乱りがはし。
 
 いらっしゃる近くの高欄に寄り掛かって、見渡すと、築山の多数の木を吹き倒して、枝がたくさん折れて落ちていた。
 草むらは言うまでもなく、桧皮、瓦、あちこちの立蔀、透垣などのような物までが散乱していた。
 
   日のわづかにさし出でたるに、憂へ顔なる庭の露きらきらとして、空はいとすごく霧りわたれるに、そこはかとなく涙の落つるを、おし拭ひ隠して、うちしはぶきたまへれば、  日がわずかに差したところ、悲しい顔をしていた庭の露がきらきらと光って、空はたいそう冷え冷えと霧がかかっているので、何とはなしに涙が落ちるのを、拭い隠して、咳払いをなさると、
   「中将の声づくるにぞあなる。
 夜はまだ深からむは」
 「中将が挨拶しているようだ。
 夜はまだ深いことだろうな」
   とて、起きたまふなり。
 何ごとにかあらむ、聞こえたまふ声はせで、大臣うち笑ひたまひて、
 とおっしゃって、お起きになる様子である。
 何事であろうか、お話し申し上げなさる声はしないで、大臣がお笑いになって、
   「いにしへだに知らせたてまつらずなりにし、暁の別れよ。
 今ならひたまはむに、心苦しからむ」
 「昔でさえ味わわせることのなかった、暁の別れですよ。
 今になって経験なさるのは、つらいことでしょう」
   とて、とばかり語らひきこえたまふけはひども、いとをかし。
 女の御いらへは聞こえねど、ほのぼの、かやうに聞こえ戯れたまふ言の葉の趣きに、「ゆるびなき御仲らひかな」と、聞きゐたまへり。
 
 とおっしゃって、しばらくの間仲睦まじくお語らいになっていらっしゃるお二方のご様子は、たいそう優雅である。
 女のお返事は聞こえないが、かすかながら、このように冗談を申し上げなさる言葉の様子から、「水も漏らさないご夫婦仲だな」と、聞いていらっしゃった。
 
 
 

第五段 源氏、夕霧と語る

 
   御格子を御手づから引き上げたまへば、気近きかたはらいたさに、立ち退きてさぶらひたまふ。
 
 御格子をご自身でお上げになるので、あまりに近くにいたのが具合悪く、退いて控えていらっしゃる。
 
   「いかにぞ。
 昨夜、宮は待ちよろこびたまひきや」
 「どうであった。
 昨夜は、大宮はお待ちかねでお喜びになったか」
   「しか。
 はかなきことにつけても、涙もろにものしたまへば、いと不便にこそはべれ」
 「はい。
 ちょっとしたことにつけても、涙もろくいらっしゃいますので、たいそう困ったことでございます」
   と申したまへば、笑ひたまひて、  と申し上げなさると、お笑いになって、
   「今いくばくもおはせじ。
 まめやかに仕うまつり見えたてまつれ。
 内大臣は、こまかにしもあるまじうこそ、愁へたまひしか。
 人柄あやしうはなやかに、男々しき方によりて、親などの御孝をも、いかめしきさまをば立てて、人にも見おどろかさむの心あり、まことにしみて深きところはなき人になむ、ものせられける。
 さるは、心の隈多く、いとかしこき人の、末の世にあまるまで、才類ひなく、うるさながら。
 人として、かく難なきことはかたかりける」
 「もう先も長くはいらっしゃるまい。
 ねんごろにお世話して上げるがよい。
 内大臣は、こまかい情愛がないと、愚痴をこぼしていらっしゃった。
 人柄は妙に派手で、男性的過ぎて、親に対する孝養なども、見ための立派さばかりを重んじて、世間の人の目を驚かそうというところがあって、心底のしみじみとした深い情愛はない方でいらっしゃった。
 それはそれとして、物事に思慮深く、たいそう賢明な方で、この末世では過ぎたほど学問も並ぶ者がなく、閉口するほどだが。
 人間として、このように欠点のないことは難しいことだなあ」
   などのたまふ。
 
 などとおっしゃる。
 
   「いとおどろおどろしかりつる風に、中宮に、はかばかしき宮司などさぶらひつらむや」  「たいそうひどい風だったが、中宮の御方には、しっかりした宮司などは控えていただろうか」
   とて、この君して、御消息聞こえたまふ。
 
 とおっしゃって、この中将の君を使者として、お見舞を差し上げなさる。
 
   「夜の風の音は、いかが聞こし召しつらむ。
 吹き乱りはべりしに、おこりあひはべりて、いと堪へがたき、ためらひはべるほどになむ」
 「昨夜の風の音は、どのようにお聞きあそばしましたでしょうか。
 吹き荒れていましたが、あいにく風邪をひきまして、とてもつらいので、休んでいたところでございました」
   と聞こえたまふ。
 
 とご伝言申し上げなさる。
 
 
 

第六段 夕霧、中宮を見舞う

 
   中将下りて、中の廊の戸より通りて、参りたまふ。
 朝ぼらけの容貌、いとめでたくをかしげなり。
 東の対の南の側に立ちて、御前の方を見やりたまへば、御格子、まだ二間ばかり上げて、ほのかなる朝ぼらけのほどに、御簾巻き上げて人びとゐたり。
 
 中将は御前を辞して、中の廊の戸を通って、参上なさる。
 朝日をうけたお姿は、とても立派で素晴らしい。
 東の対の南の側に立って、寝殿の方を遥かに御覧になると、御格子は、まだ二間ほど上げたばかりで、かすかな朝日の中に、御簾を巻き上げて、女房たちが座っていた。
 
   高欄に押しかかりつつ、若やかなる限りあまた見ゆ。
 うちとけたるはいかがあらむ、さやかならぬ明けぼののほど、色々なる姿は、いづれともなくをかし。
 
 高欄にいく人も寄り掛かっている、若々しい女房ばかりが大勢見える。
 気を許している姿はどんなものであろうか、はっきり見えない早朝では、色とりどりの衣装を着た姿は、どれもこれも美しく見えるものでる。
 
   童女下ろさせたまひて、虫の籠どもに露飼はせたまふなりけり。
 紫苑、撫子、濃き薄き衵どもに、女郎花の汗衫などやうの、時にあひたるさまにて、四、五人連れて、ここかしこの草むらに寄りて、色々の籠どもを持てさまよひ、撫子などの、いとあはれげなる枝ども取り持て参る、霧のまよひは、いと艶にぞ見えける。
 
 童女を庭にお下ろしになって、いくつもの虫籠に露をおやりになっていらっしゃるのであった。
 紫苑、撫子、濃い薄い色の袙の上に、女郎花の汗衫などのような、季節にふさわしい衣装で、四、五人連れ立って、あちらこちらの草むらに近づいて、色とりどりの虫籠をいくつも持ち歩いて、撫子などの、たいそう可憐な枝をいく本も取って参上する、その霧の中に見え隠れする姿は、たいそう優艷に見えるのであった。
 
   吹き来る追風は、紫苑ことごとに匂ふ空も、香のかをりも、触ればひたまへる御けはひにやと、いと思ひやりめでたく、心懸想せられて、立ち出でにくけれど、忍びやかにうちおとなひて、歩み出でたまへるに、人びと、けざやかにおどろき顔にはあらねど、皆すべり入りぬ。
 
 あとから吹いて来る追風は、紫苑の花すべてが匂う空も、薫物の香も、お触れになった御移り香のせいかと、想像されるのもまことにみごとなので、つい緊張されて、御前に進みにくいけれども、小声で咳払いして、お歩き出しになると、女房たちははっきりと驚いた顔ではないが、皆奥に入ってしまった。
 
   御参りのほどなど、童なりしに、入り立ち馴れたまへる、女房なども、いとけうとくはあらず。
 御消息啓せさせたまひて、宰相の君、内侍など、けはひすれば、私事も忍びやかに語らひたまふ。
 これはた、さいへど、気高く住みたるけはひありさまを見るにも、さまざまにもの思ひ出でらる。
 
 御入内されたころなどは、子供だったので、御簾の中によくお入りなにっていたので、女房なども、たいしてよそよそしくはない。
 お見舞いを言上させなさって、宰相の君や、内侍などのいる様子がするので、私事も小声でお話しになる。
 こちらはこちらで、何といっても、気品高く暮らしていらっしゃる様子を見るにつけ、さまざまなことが思い出される。
 
 
 

第二章 光源氏の物語 六条院の女方を見舞う物語

 
 

第一段 源氏、中宮を見舞う

 
   南の御殿には、御格子参りわたして、昨夜、見捨てがたかりし花どもの、行方も知らぬやうにてしをれ伏したるを見たまひけり。
 中将、御階にゐたまひて、御返り聞こえたまふ。
 
 南の御殿では、御格子をすっかり上げて、昨夜、見捨てることのできなかった花々が、見るかげもなく萎れて倒れているのを御覧になった。
 中将が、御階にお座りになって、お返事を申し上げなさる。
 
   「荒き風をも防がせたまふべくやと、若々しく心細くおぼえはべるを、今なむ慰みはべりぬる」  「激しい風を防いでくださいましょうかと、子供のように心細がっておりましたが、今はもう安心しました」
   と聞こえたまへれば、  と申し上げなさると、
   「あやしくあえかにおはする宮なり。
 女どちは、もの恐ろしく思しぬべかりつる夜のさまなれば、げに、おろかなりとも思いつらむ」
 「妙に気が弱くいらっしゃる宮だ。
 女ばかりでは、空恐ろしくお思いであったに違いない昨夜の様子だったから、おっしゃる通り、不親切だとお思いになったことであろう」
   とて、やがて参りたまふ。
 御直衣などたてまつるとて、御簾引き上げて入りたまふに、「短き御几帳引き寄せて、はつかに見ゆる御袖口は、さにこそはあらめ」と思ふに、胸つぶつぶと鳴る心地するも、うたてあれば、他ざまに見やりつ。
 
 とおっしゃって、すぐに参上なさる。
 御直衣などをお召しになろうとして、御簾を引き上げてお入りになる時、「低い御几帳を引き寄せて、わずかに見えたお袖口は、きっとあの方であろう」と思うと、胸がどきどきと高鳴る気がするのも、いやな感じので、他の方へ視線をそらした。
 
   殿、御鏡など見たまひて、忍びて、  殿が御鏡などを御覧になって、小声で、
   「中将の朝けの姿は、きよげなりな。
 ただ今は、きびはなるべきほどを、かたくなしからず見ゆるも、心の闇にや」
 「中将の朝の姿は、美しいな。
 今はまだ、子供のはずなのに、不体裁でなく見えるのも、親心の迷いからであろうか」
   とて、わが御顔は、古りがたくよしと見たまふべかめり。
 いといたう心懸想したまひて、
 と言って、ご自分のお顔は、年を取らず美しいと御覧のようです。
 とてもたいそう気をおつかいになって、
   「宮に見えたてまつるは、恥づかしうこそあれ。
 何ばかりあらはなるゆゑゆゑしさも、見えたまはぬ人の、奥ゆかしく心づかひせられたまふぞかし。
 いとおほどかに女しきものから、けしきづきてぞおはするや」
 「中宮にお目にかかるのは、気後れする感じがします。
 特に人目につく趣味ありげなところも、お見えでない方だが、奥の深い感じがして何かと気をつかわされるお人柄も方です。
 とてもおっとりして女らしい感じですが、なにかおもちのようでいらっしゃいますよ」
   とて、出でたまふに、中将ながめ入りて、とみにもおどろくまじきけしきにてゐたまへるを、心疾き人の御目にはいかが見たまひけむ、立ちかへり、女君に、  とおっしゃって、外にお出になると、中将は物思いに耽って、すぐにはお気づきにならない様子で座っていらっしゃったので、察しのよい人のお目にはどのようにお映りになったことか、引き返してきて、女君に、
   「昨日、風の紛れに、中将は見たてまつりやしてけむ。
 かの戸の開きたりしによ」
 「昨日、風の騷ぎに、中将はお隙見したのではないでしょうか。
 あの妻戸が開いていたからね」
   とのたまへば、面うち赤みて、  とおっしゃると、お顔を赤らめて、
   「いかでか、さはあらむ。
 渡殿の方には、人の音もせざりしものを」
 「どうして、そのようなことがございましょう。
 渡殿の方には、人の物音もしませんでしたもの」
   と聞こえたまふ。
 
 とお答え申し上げなさる。
 
   「なほ、あやし」とひとりごちて、渡りたまひぬ。
 
 「やはり、変だ」と独り言をおっしゃって、お渡りになりった。
 
   御簾の内に入りたまひぬれば、中将、渡殿の戸口に人びとのけはひするに寄りて、ものなど言ひ戯るれど、思ふことの筋々嘆かしくて、例よりもしめりてゐたまへり。
 
 御簾の中にお入りになってしまったので、中将は、渡殿の戸口に女房たちのいる様子がしたので近寄って、冗談を言ったりするが、悩むことのあれこれが嘆かわしくて、いつもよりもしんみりとしていらっしゃった。
 
 
 

第二段 源氏、明石御方を見舞う

 
   こなたより、やがて北に通りて、明石の御方を見やりたまへば、はかばかしき家司だつ人なども見えず、馴れたる下仕ひどもぞ、草の中にまじりて歩く。
 童女など、をかしき衵姿うちとけて、心とどめ取り分き植ゑたまふ龍胆、朝顔のはひまじれる籬も、みな散り乱れたるを、とかく引き出で尋ぬるなるべし。
 
 こちらから、そのまま北の町に抜けて、明石の御方をお見舞いになると、これといった家司らしい人なども見えず、もの馴れた下女どもが、草の中を分け歩いている。
 童女などは、美しい衵姿にくつろいで、心をこめて特別にお植えになった龍胆や、朝顔の蔓が這いまつわっている籬垣も、みな散り乱れているのを、あれこれと引き出して、元の姿を求めているのであろう。
 
   もののあはれにおぼえけるままに、箏の琴を掻きまさぐりつつ、端近うゐたまへるに、御前駆追ふ声のしければ、うちとけ萎えばめる姿に、小袿ひき落として、けぢめ見せたる、いといたし。
 端の方についゐたまひて、風の騷ぎばかりをとぶらひたまひて、つれなく立ち帰りたまふ、心やましげなり。
 何となくもの悲しい気分で、箏の琴をもてあそびながら、端近くに座っていらっしゃるところに、御前駆の声がしたので、くつろいだ糊気のない不断着姿の上に、小袿を衣桁から引き下ろしてはおって、きちんとして見せたのは、たいそう立派なものである。
 端の方にちょっとお座りになって、風のお見舞いだけをおっしゃって、そっけなくお帰りになるのが、恨めしげである。
 

386
 「おほかたに 荻の葉過ぐる 風の音も
 憂き身ひとつに しむ心地して」
 「ただ普通に荻の葉の上を通り過ぎて行く風の音も
  つらいわが身だけにはしみいるような気がして」
 
   とひとりごちけり。
 
 とつい独り言をいうのであった。
 
 
 

第三段 源氏、玉鬘を見舞う

 
   西の対には、恐ろしと思ひ明かしたまひける、名残に、寝過ぐして、今ぞ鏡なども見たまひける。
 
 西の対では、恐ろしく思って夜をお明かしになった、その影響で、寝過ごして、今やっと鏡などを御覧になるのであった。
 
   「ことことしく前駆、な追ひそ」  「仰々しく先払い、するな」
   とのたまへば、ことに音せで入りたまふ。
 屏風なども皆畳み寄せ、ものしどけなくしなしたるに、日のはなやかにさし出でたるほど、けざけざと、ものきよげなるさましてゐたまへり。
 近くゐたまひて、例の、風につけても同じ筋に、むつかしう聞こえ戯れたまへば、堪へずうたてと思ひて、
 とおっしゃるので、特に音も立てないでお入りになる。
 屏風などもみな畳んで隅に寄せ、乱雑にしてあったところに、日がぱあっと照らし出した時、くっきりとした美しい様子をして座っていらっしゃった。
 その近くにお座りになって、いつものように、風の見舞いにかこつけても同じように、厄介な冗談を申し上げなさるので、たまらなく嫌だわと思って、
   「かう心憂ければこそ、今宵の風にもあくがれなまほしくはべりつれ」  「このように情けないなので、昨夜の風と一緒に飛んで行ってしまいとうございましたわ」
   と、むつかりたまへば、いとよくうち笑ひたまひて、  と、御機嫌を悪くなさると、たいそうおもしろそうにお笑いになって、
   「風につきてあくがれたまはむや、軽々しからむ。
 さりとも、止まる方ありなむかし。
 やうやうかかる御心むけこそ添ひにけれ。
 ことわりや」
 「風と一緒に飛んで行かれるとは、軽々しいことでしょう。
 そうはいっても、落ち着くところがきっとあることでしょう。
 だんだんこのようなお気持ちが出てきたのですね。
 もっともなことです」
   とのたまへば、  とおっしゃるので、
   「げに、うち思ひのままに聞こえてけるかな」  「なるほど、ふと思ったままに申し上げてしまったわ」
   と思して、みづからもうち笑みたまへる、いとをかしき色あひ、つらつきなり。
 酸漿などいふめるやうにふくらかにて、髪のかかれる隙々うつくしうおぼゆ。
 まみのあまりわららかなるぞ、いとしも品高く見えざりける。
 その他は、つゆ難つくべうもあらず。
 
 とお思いになって、自分自身でもほほ笑んでいらっしゃるのが、とても美しい顔色であり、表情である。
 酸漿などというもののようにふっくらとして、髪のかかった隙間から見える頬の色艶が美しく見える。
 目もとのほがらか過ぎる感じが、特に上品とは見えなかったのであった。
 その他は、少しも欠点のつけようがなかった。
 
 
 

第四段 夕霧、源氏と玉鬘を垣間見る

 
   中将、いとこまやかに聞こえたまふを、「いかでこの御容貌見てしがな」と思ひわたる心にて、隅の間の御簾の、几帳は添ひながらしどけなきを、やをら引き上げて見るに、紛るるものどもも取りやりたれば、いとよく見ゆ。
 かく戯れたまふけしきのしるきを、
 中将は、たいそう親しげにお話し申し上げていらっしゃるのを、「何とかこの姫君のご器量を見たいものだ」と思い続けていたので、隅の間の御簾を、その奥に几帳は立ててあったがきちんとしていなかったので、静かに引き上げて中を見ると、じゃま物が片づけてあったので、たいそうよく見える。
 このようにふざけていらっしゃる様子がはっきりわかるので、
   「あやしのわざや。
 親子と聞こえながら、かく懐離れず、もの近かべきほどかは」
 「妙なことだ。
 親子とは申せ、このように懐に抱かれるほど、馴れ馴れしくしてよいものだろうか」
   と目とまりぬ。
 「見やつけたまはむ」と恐ろしけれど、あやしきに、心もおどろきて、なほ見れば、柱隠れにすこしそばみたまへりつるを、引き寄せたまへるに、御髪の並み寄りて、はらはらとこぼれかかりたるほど、女も、いとむつかしく苦しと思うたまへるけしきながら、さすがにいとなごやかなるさまして、寄りかかりたまへるは、
 と目がとまった。
 「見つけられはしまいか」と恐ろしいけれども、変なので、びっくりして、なおも見ていると、柱の陰に少し隠れていらっしゃったのを、引き寄せなさると、御髪が横になびいて、はらはらとこぼれかかったところ、女も、とても嫌でつらいと思っていらっしゃる様子ながら、それでも穏やかな態度で、寄り掛かっていらっしゃるのは、
   「ことと馴れ馴れしきにこそあめれ。
 いで、あなうたて。
 いかなることにかあらむ。
 思ひ寄らぬ隈なくおはしける御心にて、もとより見馴れ生ほしたてたまはぬは、かかる御思ひ添ひたまへるなめり。
 むべなりけりや。
 あな、疎まし」
 「すっかり親密な仲になっているらしい。
 いやはや、ああひどい。
 どうしたことであろうか。
 抜け目なくいらっしゃるご性分だから、最初からお育てにならなかった娘には、このようなお思いも加わるのだろう。
 もっともなことだが。
 ああ、嫌だ」
   と思ふ心も恥づかし。
 「女の御さま、げに、はらからといふとも、すこし立ち退きて、異腹ぞかし」など思はむは、「などか、心あやまりもせざらむ」とおぼゆ。
 
 と思う自分自身までが気恥ずかしい。
 「女のご様子は、なるほど、姉弟といっても、少し縁遠くて、異母姉弟なのだ」などと思うと、「どうして、心得違いを起こさないだろうか」と思われる。
 
   昨日見し御けはひには、け劣りたれど、見るに笑まるるさまは、立ちも並びぬべく見ゆる。
 八重山吹の咲き乱れたる盛りに、露のかかれる夕映えぞ、ふと思ひ出でらるる。
 折にあはぬよそへどもなれど、なほ、うちおぼゆるやうよ。
 花は限りこそあれ、そそけたるしべなどもまじるかし、人の御容貌のよきは、たとへむ方なきものなりけり。
 
 昨日拝見した方のご様子には、どこか劣って見えるが、一目見ればにっこりしてしまうところは、肩も並べられそうに見える。
 八重山吹の花が咲き乱れた盛りに、露の置いた夕映えのようだと、ふと思い浮かべずにはいられない。
 季節に合わないたとえだが、やはり、そのように思われるのであるよ。
 花は美しいといっても限りがあり、ばらばらになった蘂などが混じっていることもあるが、姫君のお姿の美しさは、たとえようもないものなのであった。
 
   御前に人も出で来ず、いとこまやかにうちささめき語らひ聞こえたまふに、いかがあらむ、まめだちてぞ立ちたまふ。
 女君、
 御前には女房も出て来ず、たいそう親密に小声で話し合っていらっしゃったが、どうしたのであろうか、真面目な顔つきでお立ち上がりになる。
 女君は、
 

387
 「吹き乱る 風のけしきに 女郎花
 しをれしぬべき 心地こそすれ」
 「吹き乱す風のせいで女郎花は
  萎れてしまいそうな気持ちがいたします」
 
   詳しくも聞こえぬに、うち誦じたまふをほの聞くに、憎きもののをかしければ、なほ見果てまほしけれど、「近かりけりと見えたてまつらじ」と思ひて、立ち去りぬ。
 
 はっきりとは聞こえないが、お口ずさみになるのをかすかに聞くと、憎らしい気がする一方で興味がわくので、やはり最後まで見届たいが、「近くにいたなと悟られ申すまい」と思って、立ち去った。
 
   御返り、  お返歌は、
 

388
 「下露に なびかましかば 女郎花
 荒き風には しをれざらまし
 「下葉の露になびいたならば
  女郎花は荒い風には萎れないでしょうに
 
   なよ竹を見たまへかし」  なよ竹を御覧なさい」
   など、ひが耳にやありけむ、聞きよくもあらずぞ。
 
 などと、聞き間違いであろうか、あまり聞きよい歌ではない。
 
 
 

第五段 源氏、花散里を見舞う

 
   東の御方へ、これよりぞ渡りたまふ。
 今朝の朝寒なるうちとけわざにや、もの裁ちなどするねび御達、御前にあまたして、細櫃めくものに、綿引きかけてまさぐる若人どもあり。
 いときよらなる朽葉の羅、今様色の二なく擣ちたるなど、引き散らしたまへり。
 
 東の御方へ、ここからお渡りになる。
 今朝の寒さのせいで内輪の仕事であろうか、裁縫などをする老女房たちが御前に大勢いて、細櫃らしい物に、真綿をひっかけて延ばしている若い女房たちもいる。
 とても美しい朽葉色の羅や、流行色でみごとに艶出ししたのなどを、ひき散らかしていらっしゃった。
 
   「中将の下襲か。
 御前の壺前栽の宴も止まりぬらむかし。
 かく吹き散らしてむには、何事かせられむ。
 すさまじかるべき秋なめり」
 「中将の下襲か。
 御前での壷前栽の宴もきっと中止になるだろう。
 このように吹き散らしたのでは、何の催し事ができようか。
 興ざめな秋になりそうだ」
   などのたまひて、何にかあらむ、さまざまなるものの色どもの、いときよらなれば、「かやうなる方は、南の上にも劣らずかし」と思す。
 御直衣、花文綾を、このころ摘み出だしたる花して、はかなく染め出でたまへる、いとあらまほしき色したり。
 
 などとおっしゃって、何の着物であろうか、さまざまな衣装の色が、とても美しいので、「このような技術は南の上にも負けない」とお思いになる。
 御直衣、花文綾を、近頃摘んできた花で、薄く染め出しなさったのは、たいそう申し分ない色をしていた。
 
   「中将にこそ、かやうにては着せたまはめ。
 若き人のにてめやすかめり」
 「中将にこそ、このようなのをお着せなさるがよい。
 若い人の直衣として無難でしょう」
   などやうのことを聞こえたまひて、渡りたまひぬ。
 
 などというようなことを申し上げなさって、お渡りになった。
 
 
 

第三章 夕霧の物語 幼恋の物語

 
 

第一段 夕霧、雲井雁に手紙を書く

 
   むつかしき方々めぐりたまふ御供に歩きて、中将は、なま心やましう、書かまほしき文など、日たけぬるを思ひつつ、姫君の御方に参りたまへり。
 
 気疲れのする方々をお回りになるお供をして歩いて、中将は、何となく気持ちが晴れず、書きたい手紙など、日が高くなってしまうのを心配しながら、姫君のお部屋に参上なさった。
 
   「まだあなたになむおはします。
 風に懼ぢさせたまひて、今朝はえ起き上がりたまはざりつる」
 「まだあちらにおいであそばします。
 風をお恐がりあそばして、今朝はお起きになれませんでしたこと」
   と、御乳母ぞ聞こゆる。
 
 と、御乳母が申し上げる。
 
   「もの騒がしげなりしかば、宿直も仕うまつらむと思ひたまへしを、宮の、いとも心苦しう思いたりしかばなむ。
 雛の殿は、いかがおはすらむ」
 「ひどい荒れようでしたから、宿直しようと存じましたが、宮が、たいそう恐がっていらっしゃったものですから。
 お雛様の御殿は、いかがでいらっしゃいましたか」
   と問ひたまへば、人びと笑ひて、  とお尋ねになると、女房たちは笑って、
   「扇の風だに参れば、いみじきことに思いたるを、ほとほとしくこそ吹き乱りはべりしか。
 この御殿あつかひに、わびにてはべり」など語る。
 
 「扇の風でさえ吹けば、たいへんなことにお思いになっているのを、危うく吹き壊されるところでございました。
 この御殿のお世話に、困りっております」などと話す。
 
   「ことことしからぬ紙やはべる。
 御局の硯」
 「大げさでない紙はありませんか。
 お局の硯を」
   と乞ひたまへば、御厨子に寄りて、紙一巻、御硯の蓋に取りおろしてたてまつれば、  とお求めになると、御厨子に近寄って、紙一巻を、御硯箱の蓋に載せて差し上げたので、
   「いな、これはかたはらいたし」  「いや、これは恐れ多い」
   とのたまへど、北の御殿のおぼえを思ふに、すこしなのめなる心地して、文書きたまふ。
 
 とおっしゃるが、北の御殿の世評を考えれば、そう気をつかうほどでもない気がして、手紙をお書きになる。
 
   紫の薄様なりけり。
 墨、心とめておしすり、筆の先うち見つつ、こまやかに書きやすらひたまへる、いとよし。
 されど、あやしく定まりて、憎き口つきこそものしたまへ。
 紫の薄様の紙であった。
 墨は、ていねいにすって、筆先を見い見いして、念を入れて書きながら筆を休めていらっしゃるのが、とても素晴らしい。
 けれども、妙に型にはまって、感心しない詠みぶりでいらっしゃった。
 

389
 「風騒ぎ むら雲まがふ 夕べにも
 忘るる間なく 忘られぬ君」
 「風が騒いでむら雲が乱れる夕べにも
  片時の間もなく忘れることのできないあなたです」
 
   吹き乱れたる苅萱につけたまへれば、人びと、  風に吹き乱れた刈萱にお付けになったので、女房たちは、
   「交野の少将は、紙の色にこそととのへはべりけれ」と聞こゆ。
 
 「交野の少将は、紙の色と同じ色の物に揃えましたよ」と申し上げる。
 
   「さばかりの色も思ひ分かざりけりや。
 いづこの野辺のほとりの花」
 「それくらいの色も考えつかなかったな。
 どこの野の花を付けようか」
   など、かやうの人びとにも、言少なに見えて、心解くべくももてなさず、いとすくすくしう気高し。
 
 などと、このような女房たちにも、言葉少なに応対して、気を許すふうもなく、とてもきまじめで気品がある。
 
   またも書いたまうて、馬の助に賜へれば、をかしき童、またいと馴れたる御随身などに、うちささめきて取らするを、若き人びと、ただならずゆかしがる。
 
 もう一通お書きになって、右馬助にお渡しになったので、美しい童や、またたいそう心得ている御随身などに、ひそひそとささやいて渡すのを、若い女房たちは、ひどく知りたがっている。
 
 
 

第二段 夕霧、明石姫君を垣間見る

 
   渡らせたまふとて、人びとうちそよめき、几帳引き直しなどす。
 見つる花の顔どもも、思ひ比べまほしうて、例はものゆかしからぬ心地に、あながちに、妻戸の御簾を引き着て、几帳のほころびより見れば、もののそばより、ただはひ渡りたまふほどぞ、ふとうち見えたる。
 
 お戻りあそばすというので、女房たちがざわめき、几帳を元に直したりする。
 先ほど見た花の顔たちと、比べて見たくて、いつもは覗き見など関心もない人なのに、無理に、妻戸の御簾に身体を入れて、几帳の隙間を見ると、物蔭から、ちょうどいざっていらっしゃるところが、ふと目に入った。
 
   人のしげくまがへば、何のあやめも見えぬほどに、いと心もとなし。
 薄色の御衣に、髪のまだ丈にははづれたる末の、引き広げたるやうにて、いと細く小さき様体、らうたげに心苦し。
 
 女房が大勢行ったり来たりするので、はっきりわからないほどなので、たいそうじれったい。
 薄紫色のお召物に、髪がまだ背丈には届いていない末の広がったような感じで、たいそう細く小さい身体つきが可憐でいじらしい。
 
   「一昨年ばかりは、たまさかにもほの見たてまつりしに、またこよなく生ひまさりたまふなめりかし。
 まして盛りいかならむ」と思ふ。
 「かの見つる先々の、桜、山吹といはば、これは藤の花とやいふべからむ。
 木高き木より咲きかかりて、風になびきたるにほひは、かくぞあるかし」と思ひよそへらる。
 「かかる人びとを、心にまかせて明け暮れ見たてまつらばや。
 さもありぬべきほどながら、隔て隔てのけざやかなるこそつらけれ」など思ふに、まめ心も、なまあくがるる心地す。
 
 「一昨年ぐらいまでは、偶然にもちらっとお姿を拝見したが、またすっかり成長なさったようだ。
 まして盛りになったらどんなに美しいだろう」と思う。
 「あの前に見た方々を、桜や山吹と言ったら、この方は藤の花と言うべきであろうか。
 木高い木から咲きかかって、風になびいている美しさは、ちょうどこのような感じだ」と思い比べられる。
 「このような方々を、思いのままに毎日拝見していたいものだ。
 そうあってもよい身内の間柄なのに、事ごとに隔てを置いて厳しいのが恨めしいことだ」などと思うと、誠実な心も、何やら落ち着かない気がする。
 
 
 

第三段 内大臣、大宮を訪う

 
   祖母宮の御もとにも参りたまへれば、のどやかにて御行なひしたまふ。
 よろしき若人など、ここにもさぶらへど、もてなしけはひ、装束どもも、盛りなるあたりには似るべくもあらず。
 容貌よき尼君たちの、墨染にやつれたるぞ、なかなかかかる所につけては、さるかたにてあはれなりける。
 
 祖母宮のお側に参上なさると、静かにお勤めをなさっている。
 まずまずの若い女房などは、こちらにも伺候しているが、物腰や様子、衣装なども、栄華を極めている所とは比較にもならない。
 器量のよい尼君たちが、墨染の衣装で質素にしているのが、かえってこのような所では、それなりにしみじみとした感じがするのであった。
 
   内の大臣も参りたまへるに、御殿油など参りて、のどやかに御物語など聞こえたまふ。
 
 内大臣も参上なさったので、御殿油などを灯して、のんびりとお話など申し上げになさる。
 
   「姫君を久しく見たてまつらぬがあさましきこと」  「姫君に久しくお目にかからないのが情けないこと」
   とて、ただ泣きに泣きたまふ。
 
 とおっしゃって、ただひたすらお泣きになる。
 
   「今このごろのほどに参らせむ。
 心づからもの思はしげにて、口惜しう衰へにてなむはべめる。
 女こそ、よく言はば、持ちはべるまじきものなりけれ。
 とあるにつけても、心のみなむ尽くされはべりける」
 「もうすぐこちらに参上させましょう。
 自分からふさぎ込んでいまして、惜しいことに痩せてしまっているようです。
 女の子は、はっきり申せば、持つべきではございませんでした。
 何かにつけて、心配ばかりさせられました」
   など、なほ心解けず思ひおきたるけしきしてのたまへば、心憂くて、切にも聞こえたまはず。
 そのついでにも、
 などと、依然として不快にこだわっている様子でおっしゃるので、情けなくて、ぜひにともお申し上げなさらない。
 その話の折に、
   「いと不調なる娘まうけはべりて、もてわづらひはべりぬ」  「たいそう不出来な娘を持ちまして、手を焼いてしまいました」
   と、愁へきこえたまひて、笑ひたまふ。
 宮、
 と、愚痴をおこぼしになって、にが笑いなさる。
 宮、
   「いで、あやし。
 女といふ名はして、さがなかるやうやある」
 「まあ、変ですこと。
 あなたの娘という以上、出来の悪いことがありましょうか」
   とのたまへば、  とおっしゃると、
   「それなむ見苦しきことになむはべる。
 いかで、御覧ぜさせむ」
 「それが体裁の悪いことなのでございます。
 ぜひ、御覧に入れたいものです」
   と、聞こえたまふとや。
 
 と申し上げなさったとか。
 
 
 

【出典】

 
  出典1 植ゑたてて君がしめゆふ野辺なれば玉とも見よと露や置くらむ(古今六帖一-五六二 伊勢)(戻)  
  出典2 春はただ花のひとへに咲くばかりもののあはれは秋ぞまされる(拾遺集雑下-五一一 読人しらず)春はただ花こそは咲け野辺ごとに錦を張れる秋はまされり(論春秋歌合-二 豊主)(戻)  
  出典3 春秋に思ひ乱れて分きかねつ時につけつつ移る心は(拾遺集雑下-五〇九 紀貫之)色見えで移ろふものは世の中の人の心の花にぞありける(古今集恋五-797 小野小町)(戻)  
  出典4 大空をおほふばかりの袖もがな春咲く花を風に任せじ(後撰集春中-六四 読人しらず)(戻)  
  出典5 宮城野のもとあらの小萩露を重み風を待つごと君をこそ待て(古今集恋四-六九四 読人しらず)(戻)  
  出典6 人の親の心は闇にあらねども子を思ふ道に惑ひぬるかな(後撰集雑一-一一〇二 藤原兼輔)(戻)  
  出典7 苅萱の穂に出でて物を言はねどもなびく草葉にあはれとぞ見し(古今六帖六-三七八七)(戻)  
 
 

【校訂】

 
  備考--(/) ミセケチ--$ 抹消--# 補入--+ 傍書--= ナゾリ--& 独自異文等--* 朱筆--<朱> 不明--△  
  校訂1 おろかなりとも思い--おろかにし(にし/$なりともおほひ)(戻)  
  校訂2 けざけざと--けさ/\(/\/+と<朱>)(戻)  
  校訂3 引き上げて--ひま(ひま/$)ひきあけて(戻)  
  校訂4 御さま--(/+御)さま(戻)  
  校訂5 見れば--みれ(れ/+は<朱>)(戻)  
  校訂6 小さき--ちう(う/$い)さき(戻)  
 

 
 ※(以下は当サイトによる)大島本は、定家本の書写。
 書写の信頼度は、大島本<明融(臨模)本<定家自筆本、とされている。