枕草子190段 八月ばかりに

十八九 枕草子
中巻中
190段
八月ばかり
すきずきし

(旧)大系:190段
新大系:181段、新編全集:181段-3
(以上全て三巻本系列本。しかし後二本の構成は2/3が一致せず混乱を招くので、以後、三巻本理論の根本たる『(旧)大系』に準拠すべきと思う)
(旧)全集=能因本:305段
 


 
 八月ばかりに、白き単なよらかなるに、袴よきほどにて、紫苑の衣のいとあてやかなるをひきかけて、胸をいみじう病めば、友だちの女房など、数々来つつとぶらひ、外のかたにも、わかやかなる君達あまた来て、「いといとほしきわざかな。例もかうや悩み給ふ」など、ことなしびにいふもあり。
 心かけたる人は、まことにいとほしと思ひなげき、人知れぬなかなどは、まして人目思ひて、寄るにも近くえ寄らず、思ひなげきたるこそをかしけれ。
 いとうるはしう長き髪をひき結ひて、ものつくとて起きあがりたるけしきもらうたげなり。
 上にもきこしめして、御読経の僧の声よき賜はせたれば、几帳ひきよせてすゑたり。ほどもなきせばさなれば、とぶらひ人あまたきて、経聞きなどするもかくれなきに、目をくばりて読みゐたるこそ、罪や得らむとおぼゆれ。
 
 

十八九 枕草子
中巻中
190段
八月ばかり
すきずきし