古事記~根の国(根堅州國) 原文対訳

迫害② 古事記
上巻 第三部
大国主の物語
根の国
根の国②
原文 書き下し
(武田祐吉)
現代語訳
(武田祐吉)
御祖命 御祖の命、  そこで母の神が
告子云可參向 子に告りていはく、 「これは、
須佐能男命
所坐之
根堅州國。
「須佐の男の命の
まします
根ねの堅州かたす國にまゐ向きてば、
スサノヲの命の
おいでになる
黄泉の國に行つたなら、
必其大神
議也。
かならずその大神
議はかりたまひなむ」
とのりたまひき。
きつと
よい謀はかりごとをして下さるでしよう」
と仰せられました。
     
故隨詔命而。 かれ詔命みことのまにまにして そこでお言葉のままに、
參到
須佐之男命之
御所者。
須佐の男の命の
御所みもとに
參ゐ到りしかば、
スサノヲの命の
御所おんもとに
參りましたから、
其女
須勢理毘賣出見。
その女須勢理毘賣
すせりびめ出で見て、
その御女おんむすめの
スセリ姫ひめが出て見て
爲目合而。相婚。 目合まぐはひして婚あひまして、 おあいになつて、
還入。
白其父言
還り入りて
その父に白して言さく、
それから還つて
父君に申しますには、
甚麗神來。 「いと麗しき神來ましつ」
とまをしき。
「大變りつぱな神樣がおいでになりました」
と申されました。

 

迫害② 古事記
上巻 第三部
大国主の物語
根の国
根の国②

解説

 
 
 「御祖命」は、古事記では造化三神の「神產巢日(カミムスビ)」にのみかかる。
 したがって、母の神といっても大国主の母ではなく、神々の母という意味。
 一般にそう扱われる存在は普通は天照。つまり天照はカミムスビの一つの顕現(分神)。だから別格の扱いを受けている。
 そして神產巢日と天照は、大国主に続く天若日子の段で何度も並べて記されている(別々の存在という訳ではなくパラレルの存在ということ)。
 

 よって冒頭の表現は、天照がスサノオの行く末、その末裔である大国主を案じていることの表れ。
 両者の関係性が切れていないことは、スサノオ神逐後、地上で天照の弟を名乗り、草薙の剣を天照に献上していることにも示される。
 

 大国主は、行く先々で神々による受難を被ったが、その原因を作ったスサノオに、何か(アドバイスを)聞くようにと言っている。
 大国主がなぜか国をまかせられるのは、スサノオの子孫というだけではなく、イザナギからの統治の命を受け継いでいるからそうなる。
 つまり大国主はスサノオの分身(転生)。その本来の自分に自己内部の問題解決の相談をせよといっており、つまり内省を求めている。
 

 根の国というのは、前段の木の国を受けているが、木の国とは木の俣から出て(無名になって堕ちて生まれ)逃げたことを受けている。
 その見えている現象を生み出している、見えない根本原因、それを象徴させたが根の国。国の不幸の原因。それは外にはなく足元にある。
 地中なので地獄。よってそういう描写になる。