源氏物語 東屋:巻別和歌11首・逐語分析

宿木 源氏物語
和歌一覧
各巻別内訳
50帖 東屋
浮舟

 
 源氏物語・東屋(あずまや)巻の和歌11首を抜粋一覧化し、現代語訳と歌い手を併記、原文対訳の該当部と通じさせた。

 

 内訳:5(柏木の子)、2(浮舟母)、1×4(八宮次女=中の君、左近少将=浮舟求婚者、八宮三女=通称浮舟、弁=老尼)※最初最後
 

東屋・和歌の対応の程度と歌数
和歌間の文字数
即答 6首  40字未満
応答 2首  40~100字未満
対応 0  ~400~1000字+対応関係文言
単体 2首  単一独詠・直近非対応

※分類について和歌一覧・総論部分参照。

 

→【PC向け表示
 上下の句に分割したバージョン。見やすさに応じて。

 なお、付属の訳はあくまで通説的理解の一例なので、訳が原文から離れたり対応していない場合、より精度の高い訳を検討されたい。
 


  原文
(定家本校訂)
現代語訳
(渋谷栄一)
723
見し人の
形代ならば
身に添へて
恋しき瀬々の
なでものにせむ
〔薫〕亡き姫君の
形見ならば、
いつも側において
恋しい折々の気持ちを移して流す
撫物としよう
724
みそぎ河
瀬々に出ださむ
なでもの
身に添ふ影と
誰れか頼まむ
〔八宮次女:中の君〕禊河の
瀬々に流し出す
撫物を
いつまでも側に置いておくと
誰が期待しましょう
725
しめ結ひし
小萩が上も
迷はぬに
いかなる
映る下葉ぞ
〔浮舟母〕囲いをしていた
小萩の上葉は
乱れもしないのに
どうした露で
色が変わった下葉なのでしょう
726
宮城野の
小萩がもとと
知らませば
も心を
分かずぞあらまし
〔左近少将:浮舟求婚者〕宮城野の
小萩のもとと
知っていたならば
露は少しも心を
分け隔てしなかったでしょうに
727
ひたぶるに
うれしからまし
の中に
あらぬ所
思はましかば
〔八宮三女:通称浮舟〕一途に
嬉しいことでしょう
ここが世の中で
別の世界だと
思えるならば
728
憂きには
あらぬ所
求めても
君が盛りを
見るよしもがな
〔浮舟母〕憂き世では
ない所を
尋ねてでも
あなたの盛りの世を
見たいものです
729
絶え果てぬ
清水になどか
亡き人
面影をだに
とどめざりけむ
〔薫〕涸れてしまわない
この清水にどうして
亡くなった人の
面影だけでも
とどめておかなかったのだろう
730
さしとむる
葎やしげき
東屋
あまりほど降る
雨そそきかな
〔薫〕戸口を閉ざすほど
葎が茂っているためか
東屋で
あまりに待たされ
雨に濡れることよ
731
形見ぞと
見るにつけては
朝露の
ところせきまで
濡るる袖かな
〔薫〕故姫君の形見だと思って
見るにつけ
朝露が
しとどに置くように
涙に濡れることだ
732
宿り木は
変はりぬる
秋なれど
おぼえて
澄める月かな
〔弁:尼君・柏木の乳母子〕宿木は
色が変わってしまった
秋ですが
昔が思い出される
澄んだ月ですね
733
里の名も
ながらに
見し人
変はりせる
閨の月影
〔薫:柏木の子〕里の名も
わたしも昔のままですが
昔の人が
面変わりしたかと思われる
閨の月【の面影】です