宇治拾遺物語:大二条殿に小式部内侍、歌読みかけ奉る事

仲胤僧都 宇治拾遺物語
巻第五
5-12 (81)
大二条殿
賀能地蔵

 
 これも今は昔、大二条殿、小式部内侍おぼしけるが、絶え間がちになりけるころ、例ならぬことおはしまして、久しうなりて、よろしくなり給ひて、上東門院へ参らせ給ひたるに、小式部、台盤所にゐたりけるに、出でさせ給ふとて、「死なんとせしは、など問はざりしぞ」と仰せられて過ぎ給ひける。御直衣の裾を引きとどめつつ、申しけり。
 

♪10
 死ぬばかり 嘆きにこそは 嘆きしか
 生きて問ふべき 身にしあらねば

 
 堪へずおぼしけるにや、かき抱きて局へおはしまして、寝させ給ひにけり。