源氏物語 澪標:巻別和歌17首・逐語分析

明石 源氏物語
和歌一覧
各巻別内訳
14帖 澪標
蓬生

 
 源氏物語・澪標(みおつくし)巻の和歌17首を抜粋一覧化し、現代語訳と歌い手を併記、原文対訳の該当部と通じさせた。

 

 内訳:9(源氏)、3(明石)、1×5(宣旨の娘=明石姫君乳母、、紫上、花散里、惟光、斎宮)※最初最後
 

澪標・和歌の対応の程度と歌数
和歌間の文字数
即答 6首  40字未満
応答 7首  40~100字未満
対応 4首  ~400~1000字+対応関係文言
単体 0  単一独詠・直近非対応

※分類について和歌一覧・総論部分参照。

 

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 上下の句に分割したバージョン。見やすさに応じて。
 なお、付属の訳はあくまで通説的理解の一例なので、訳が原文から離れたり対応していない場合、より精度の高い訳を検討されたい。
 


  原文
(定家本校訂)
現代語訳
(渋谷栄一)
248
かねてより
隔てぬ仲と
ならはねど
別れ惜し
ものにぞありける
〔源氏〕以前から
特に親しい仲で
あったわけではないが
別れは惜しい気がする
ものであるよ
249
うちつけの
別れ惜し
かことにて
思はむ方に
慕ひやはせぬ
〔宣旨の娘=明石姫君乳母〕口から出まかせの
別れを惜しむことばに
かこつけて
恋しい方のいらっしゃる所に
行きたいのではありませんか
250
いつしかも
うちかけむ
をとめ子が
世を経て撫づる
岩の生ひ先
〔源氏〕早くわたしの手元に
姫君を引き取って
世話をしてあげたい
天女が羽衣で岩を撫でるように
幾千万年も姫の行く末を祝って
251
ひとりして
撫づる
ほどなきに
覆ふばかりの
蔭をしぞ待つ
〔明石〕わたし一人で
姫君をお世話するには
行き届きませんので
大きなご加護を
期待しております
252
思ふどち
なびく方には
あらずとも
われぞ煙に
先立ちなまし
〔紫上〕愛しあっている同士が
同じ方向になびいているのとは
違って
わたしは先に煙となって
死んでしまいたい
253
誰れにより
世を山に
行きめぐり
絶えぬ涙に
浮き沈む身ぞ
〔源氏〕いったい誰のために
憂き世を海や山に
さまよって
止まることのない涙を流して
浮き沈みしてきたのでしょうか
254
松や
時ぞともなき
蔭にゐて
何のあやめも
いかにわくらむ
〔源氏〕海松は、
いつも変わらない
蔭にいたのでは、
今日が五日の節句の五十日の祝と
どうしてお分りになりましょうか
255
数ならぬ
み島隠れに
鳴く鶴を
今日もいかに
問ふ人ぞなき
〔明石〕人数に入らない
わたしのもとで
育つわが子を
今日の五十日の祝いはどうしているかと
尋ねてくれる人は他にいません
256
水鶏だに
おどろかさずは
いかにして
荒れたる宿
入れまし
〔花散里〕せめて水鶏だけでも
戸を叩いて知らせてくれなかったら
どのようにして
この荒れた邸に
月の光を迎え入れることができたでしょうか
257
おしなべて
たたく水鶏
おどろか
うはの空なる
もこそ入れ
〔源氏〕どの家の戸でも
叩く水鶏の音に
見境なしに戸を開けたら
わたし以外の月の光が入って来たら大変だ
258
住吉の
松こそものは
かなしけれ
代のことを
かけて思へば
〔惟光〕住吉の
松を見るにつけ
感慨無量です
昔のことがを忘れられずに
思われますので
259
荒かりし
波のまよひに
住吉の
をばかけて
忘れやはする
〔源氏〕あの須磨の大嵐が荒れ狂った
時に念じた
住吉の
神の御神徳を
どうして忘られようぞ
260
みをつくし
恋ふるしるしに
ここまでも
めぐり逢ひける
えには深し
〔源氏〕身を尽くして
恋い慕っていた甲斐のある
ここで
めぐり逢えたとは、
宿縁は深いのですね
261
数ならで
難波のことも
かひなきに
などみをつくし
思ひそめけむ
〔明石〕とるに足らない身の上で、
何もかも
あきらめておりましたのに
どうして身を尽くしてまで
お慕い申し上げることになったのでしょう
262
露けさの
昔に似たる
旅衣
田蓑の島の
名には隠れず
〔源氏〕涙に濡れる
旅の衣は、
昔、海浜を流浪した時と同じようだ
田蓑の島という
名の蓑の名には身は隠れないので
263
降り乱れ
ひまなき空に
亡き人の
天翔るらむ
宿ぞ悲しき
〔源氏〕雪や霙がしきりに降り乱れている中
空を、亡き母宮の御霊がまだ家の上を離れずに
天翔けっていらっしゃるのだろうと
悲しく思われます
264
消えがてに
ふるぞ悲しき
かきくらし
わが身それとも
思ほえぬ世に
〔斎宮〕消えそうになく
生きていますのが悲しく思われます
毎日涙に暮れて
わが身がわが身とも
思われません世の中に