宇治拾遺物語:仲胤僧都、連歌の事

北面の女雜仕 宇治拾遺物語
巻第十四
14-8 (182)
仲胤僧都
大将、慎み

 
 これも今は昔、青蓮院の座主のもとへ、七宮渡らせ給ひたりければ、御つれづれ慰め参らせんとて、若き僧網、有職など、庚申して遊びけるに、上童のいと憎さげなるが、瓶子取などしありきけるを、ある僧忍びやかに、
 

♪19 うへわらは 大童子にも 劣りたり

 
 と連歌にしたりけるを、人々暫し案ずるほどに、仲胤僧都、その座にありけるが、「やや、胤、早うつきたり」と言ひければ、若き僧たち、いかにと、顔をまもり合ひ侍りけるに、仲胤は、
 

♪19-2 祇園の御会を 待つばかりなり

 
 とつけたりけり。
 

 これをおのおの、「この連歌はいかにつきたるぞ」と、忍びやかに言ひ合ひけるを、仲胤聞きて、「やや、わたう、連歌だにつかぬとつきたるぞかし」といひたりければ、これを聞き伝えたる者ども、一度にはつと、とよみ笑ひけりとか。