万葉集 第十四巻:一覧と配置

第十三巻 万葉集
第十四巻
東歌・防人歌
第十五巻

 
 万葉集第十四巻、その一覧と配置(歌の内容はリンク先を参照)。
 ここでは個別の歌の検討というより、全体の配置に示される万葉の構造を見る。
 

 14巻では東歌と防人歌という題が登場する。中身はほぼ無名でわずかに人麻呂歌集。
 その中で、相聞・譬喩歌・雜歌・挽歌という、万葉4巻までの分類を忠実に使用する。
 よって、これまでの流れを総合すれば(特に12巻)、人麻呂が諸国に随行して旅に出て(羇旅發思)、赤人がそれを受けて聞いた歌(問答)である。
 

 つまり出所は人麻呂だが不明でもある。「或本歌曰」とあるもの以外はどこかの本によったのではない。それらは基本左注なのでそれを翻案したと見れる。
 実際に歌われた一字一句というより、その国の風土・人々の印象・特徴を反映して詠まれたものと思う。
 つまり芭蕉の奥の細道が、あったそのままではなく多少脚色されているとされることと同様である。つまり人麻呂と赤人は、芭蕉と曽良のようなもの。
 

第十四巻 目次と配置(3348~3577:230首)
東歌・防人歌
東歌(計219)雑歌(5)相聞(76)譬喩歌(9)雜歌(17)相聞2(112)
防人歌(計11):(5)譬喩歌2(5)挽歌(1)
冒頭の雑歌は一部の本で補われたもの。
冒頭特有5首のパラレル性から、本巻は東歌と防人歌に大別されると解する。
つまり末尾6首も防人歌。引用したデータはそう解釈していないと思われるが。
 
東歌(219首)
(雑歌)(5首)
              3348
上総
3349
下総
3350
常陸
3351
常陸
3352
信濃
 
相聞(76首)
  3353
遠江
3354
遠江
3355
駿河
3356
駿河
3357
駿河
3358
駿河
3359
駿河
3360
伊豆
3361
相模
3362
相模
3363
相模
3364
相模
3365
相模
3366
相模
3367
相模
3368
相模
3369
相模
3370
相模
3371
相模
3372
相模
3373
武蔵
3374
武蔵
3375
武蔵
3376
武蔵
3377
武蔵
3378
武蔵
3379
武蔵
3380
武蔵
3381
武蔵
3382
上総
3383
上総
3384
下総
3385
下総
3386
下総
3387
下総
3388
常陸
3389
常陸
3390
常陸
3391
常陸
3392
常陸
3393
常陸
3394
常陸
3395
常陸
3396
常陸
3397
常陸
3398
信濃
3399
信濃
3400
信濃
 
 
3401
信濃
3402
上野
3403
上野
3404
上野
3405
上野
3406
上野
3407
上野
3408
上野
3409
上野
3410
上野
3411
上野
3412
上野
3413
上野
3414
上野
3415
上野
3416
上野
3417
上野
柿◆
3418
上野
3419
上野
3420
上野
3421
上野
3422
上野
3423
上野
3424
下野
3425
下野
3426
陸奥
3427
陸奥
3428
陸奥
 
譬喩歌(9首)
  3429
遠江
3430
駿河
3431
相模
3432
相模
3433
相模
3434
上野
3435
上野
3436
上野
3437
陸奥
 
雜歌(17首)
  3438
3439
3440
3441
柿◆
3442
3443
3444
3445
3446
3447
3448
3449
3450
3451
3452
3453
3454
 
相聞2(112首)
  3455
3456
3457
3458
3459
3460
3461
3462
3463
3464
3465
3466
3467
3468
3469
3470
柿◆
3471
3472
3473
3474
3475
3476
3477
3478
3479
3480
3481
柿◆
3482
3483
3484
3485
3486
3487
3488
3489
3490
柿◆
3491
3492
3493
3494
3495
3496
3497
3498
3499
3500
 
 
3501
3502
3503
3504
3505
3506
3507
3508
3509
3510
3511
3512
3513
3514
3515
3516
3517
3518
3519
3520
3521
3522
3523
3524
3525
3526
3527
3528
3529
3530
3531
3532
3533
3534
3535
3536
3537
3538
3539
3540
3541
3542
3543
3544
3545
3546
3547
3548
3549
3550
3551
3552
3553
3554
3555
3556
3557
3558
3559
3560
3561
3562
3563
3564
3565
3566
 
防人歌(5首・計11首)
  3567
防人歌
3568
3569
3570
3571
 
譬喩歌2(5首)
  3572
3573
3574
3575
3576
 
挽歌(1首)
  3577
 
 

第十四巻

   
 

東歌

   
   14/3348
題詞 東歌
題訓 東歌あづまうた 雑歌くさぐさのうた
原文 奈都素妣久 宇奈加美我多能 於伎都渚尓 布袮波等<杼>米牟 佐欲布氣尓家里
訓読 夏麻引く海上潟の沖つ洲に船は留めむさ夜更けにけり
仮名 なつそびく うなかみがたの おきつすに ふねはとどめむ さよふけにけり
左注 右一首上総國歌
左注訓 右の一首ひとうたは、上総かみつふさの国の歌。
校異 抒→杼 [類][古][京]
事項 東歌 千葉県 枕詞 市原市 地名
訓異 なつそびく;なつそひく, うなかみがたの;うなかみかたの, ふねはとどめむ;ふねはととめむ,
   
  14/3349
題詞 なし
原文 可豆思加乃 麻萬能宇良<未>乎 許具布祢能 布奈妣等佐和久 奈美多都良思母
訓読 葛飾の真間の浦廻を漕ぐ船の船人騒く波立つらしも
仮名 かづしかの ままのうらみを こぐふねの ふなびとさわく なみたつらしも
左注 右一首下総國歌
左注訓 右の一首は、下総しもつふさの国の歌。
校異 末→未 [万葉集古義]
事項 東歌 千葉県 地名 葛飾区 市原市 景物
訓異 かづしかの;かつしかの, ままのうらみを;ままのうらまを, こぐふねの;こくふねの, ふなびとさわく;ふなひとさわく,
   
  14/3350
題詞 なし
原文 筑波祢乃 尓比具波麻欲能 伎奴波安礼杼 伎美我美家思志 安夜尓伎保思母
訓読 筑波嶺の新桑繭の衣はあれど君が御衣しあやに着欲しも
仮名 つくはねの にひぐはまよの きぬはあれど きみがみけしし あやにきほしも
左注 或本歌曰 多良知祢能 又云 安麻多伎保思母 / (右二首常陸國歌)
左注訓 或ル本ノ歌ニ曰ク、たらちねの。又云ク、あまた着欲しも。
校異 なし
事項 東歌 茨城県 筑波山 地名 恋愛 新婚 婚姻
訓異 にひぐはまよの;にひくはまゆの, きぬはあれど;きぬはあれと, きみがみけしし;きみかみけしし,
   
  14/3350S
題詞 或本歌曰 又云
題訓 或ル本ノ歌ニ曰ク、
原文 多良知祢能 安麻多伎保思母
訓読 たらちねの あまた着欲しも
仮名 たらちねの あまたきほしも
左注 (右二首常陸國歌)
校異 なし
事項 東歌 茨城県 異伝 筑波山 新婚 恋愛
訓異 -
   
  14/3351
題詞 なし
原文 筑波祢尓 由伎可母布良留 伊奈乎可母 加奈思吉兒呂我 尓努保佐流可母
訓読 筑波嶺に雪かも降らるいなをかも愛しき子ろが布乾さるかも
仮名 つくはねに ゆきかもふらる いなをかも かなしきころが にのほさるかも
左注 右二首常陸國歌
左注訓 右の二首ふたうたは、常陸の国の歌。
校異 なし
事項 東歌 茨城県 筑波山 地名 恋情 景物
訓異 かなしきころが;かなしきころか,
   
  14/3352
題詞 なし
原文 信濃奈流 須我能安良能尓 保登等藝須 奈久許恵伎氣<婆> 登伎須疑尓家里
訓読 信濃なる須我の荒野に霍公鳥鳴く声聞けば時過ぎにけり
仮名 しなぬなる すがのあらのに ほととぎす なくこゑきけば ときすぎにけり
左注 右一首信濃國歌
左注訓 右の一首は、信濃の国の歌。
校異 波→婆 [紀][細]
事項 東歌 長野県 地名 真田町 菅平 動物 別離 農事 女歌
訓異 しなぬなる;しなのなる, すがのあらのに;すかのあらのに, ほととぎす;ほとときす, なくこゑきけば;なくこゑきけは, ときすぎにけり;ときすきにけり,
   
 

相聞

   
  14/3353
題詞 相聞
題訓 相聞したしみうた
原文 阿良多麻能 伎倍乃波也之尓 奈乎多弖天 由伎可都麻思自 移乎佐伎太多尼
訓読 あらたまの伎倍の林に汝を立てて行きかつましじ寐を先立たね
仮名 あらたまの きへのはやしに なをたてて ゆきかつましじ いをさきだたね
左注 (右二首遠江國歌)
校異 伎 [類][細](塙) 吉
事項 東歌 相聞 静岡県 枕詞 地名 浜名市 歌謡 歌垣 民謡 恋愛
訓異 ゆきかつましじ;ゆきかつましし, いをさきだたね;いをさきたたに,
   
  14/3354
題詞 なし
原文 伎倍比等乃 萬太良夫須麻尓 和多佐波太 伊利奈麻之母乃 伊毛我乎杼許尓
訓読 伎倍人のまだら衾に綿さはだ入りなましもの妹が小床に
仮名 きへひとの まだらぶすまに わたさはだ いりなましもの いもがをどこに
左注 右二首遠江國歌
左注訓 右の二首は、遠江とほつあふみの国の歌。
校異 なし
事項 東歌 相聞 静岡県 地名 浜名市 恋愛 歌垣 歌謡 民謡
訓異 まだらぶすまに;またらふすまに, わたさはだ;わたさはた, いもがをどこに;いもかをとこに,
   
  14/3355
題詞 なし
原文 安麻乃波良 不自能之婆夜麻 己能久礼能 等伎由都利奈波 阿波受可母安良牟
訓読 天の原富士の柴山この暗の時ゆつりなば逢はずかもあらむ
仮名 あまのはら ふじのしばやま このくれの ときゆつりなば あはずかもあらむ
左注 (右五首駿河國歌)
校異 なし
事項 東歌 相聞 静岡県 富士山 地名 歌垣 歌謡 民謡 恋愛
訓異 ふじのしばやま;ふしのしはやま, ときゆつりなば;ときゆつりなは, あはずかもあらむ;あはすかもあらむ,
   
  14/3356
題詞 なし
原文 不盡能祢乃 伊夜等保奈我伎 夜麻治乎毛 伊母我理登倍婆 氣尓餘婆受吉奴
訓読 富士の嶺のいや遠長き山道をも妹がりとへばけによばず来ぬ
仮名 ふじのねの いやとほながき やまぢをも いもがりとへば けによばずきぬ
左注 (右五首駿河國歌)
校異 なし
事項 東歌 相聞 静岡県 富士山 地名 恋愛
訓異 ふじのねの;ふしのねの, いやとほながき;いやとほなかき, やまぢをも;やまちをも, いもがりとへば;いもかりとへは, けによばずきぬ;けによはすきぬ,
   
  14/3357
題詞 なし
原文 可須美為流 布時能夜麻備尓 和我伎奈婆 伊豆知武吉弖加 伊毛我奈氣可牟
訓読 霞居る富士の山びに我が来なばいづち向きてか妹が嘆かむ
仮名 かすみゐる ふじのやまびに わがきなば いづちむきてか いもがなげかむ
左注 (右五首駿河國歌)
校異 なし
事項 東歌 相聞 静岡県 富士山 地名 恋情 別離 後朝
訓異 ふじのやまびに;ふしのやまへに, わがきなば;わかきなは, いづちむきてか;いつちむきてか, いもがなげかむ;いもかなけかむ,
   
  14/3358
題詞 なし
原文 佐奴良久波 多麻乃緒婆可里 <古>布良久波 布自能多可祢乃 奈流佐波能其登
訓読 さ寝らくは玉の緒ばかり恋ふらくは富士の高嶺の鳴沢のごと
仮名 さぬらくは たまのをばかり こふらくは ふじのたかねの なるさはのごと
左注 或本歌曰 麻可奈思美 奴良久波思家良久 佐奈良久波 伊豆能多可祢能 奈流佐波奈須与 一本歌曰 阿敝良久波 多麻能乎思家也 古布良久波 布自乃多可祢尓 布流由伎奈須毛 / (右五首駿河國歌)
左注訓 或ル本ノ歌ニ曰ク、  ま愛かなしみ寝ぬらくしまらくさならくは伊豆の高嶺の鳴沢なすよ
一本ノ歌ニ曰ク、  逢へらくは玉の緒しけや恋ふらくは富士の高嶺に降る雪なすも
校異 右→古 [西(訂正右書)][類][紀][温] / 久波 [細](塙) 久
事項 東歌 相聞 静岡県 富士山 地名 恋情 歌謡 民謡 歌垣
訓異 たまのをばかり;たまのをはかり, ふじのたかねの;ふしのたかねの, なるさはのごと;なるさはのこと,
   
  14/3358S1
題詞 或本歌曰
題訓 或ル本ノ歌ニ曰ク、
原文 麻可奈思美 奴良久波思家良久 佐奈良久波 伊豆能多可祢能 奈流佐波奈須与
訓読 ま愛しみ寝らくはしけらくさ鳴らくは伊豆の高嶺の鳴沢なすよ
仮名 まかなしみ ぬらくはしけらく さならくは いづのたかねの なるさはなすよ
左注 (右五首駿河國歌)
校異 なし
事項 東歌 相聞 静岡県 地名 伊豆 天城山 尫柜蹋 人目 恋愛 歌垣 民謡 歌謡
訓異 さならくは;ならくは, いづのたかねの;いつのたかねの,
   
  14/3358S2
題詞 一本歌曰
題訓 一本ノ歌ニ曰ク、
原文 阿敝良久波 多麻能乎思家也 古布良久波 布自乃多可祢尓 布流由伎奈須毛
訓読 逢へらくは玉の緒しけや恋ふらくは富士の高嶺に降る雪なすも
仮名 あへらくは たまのをしけや こふらくは ふじのたかねに ふるゆきなすも
左注 (右五首駿河國歌)
校異 なし
事項 東歌 相聞 静岡県 富士山 地名 恋情 歌垣 民謡 歌謡
訓異 ふじのたかねに;ふしのたかねに,
   
  14/3359
題詞 なし
原文 駿河能宇美 於思敝尓於布流 波麻都豆良 伊麻思乎多能美 波播尓多我比奴 [一云 於夜尓多我比奴]
訓読 駿河の海おし辺に生ふる浜つづら汝を頼み母に違ひぬ [一云 親に違ひぬ]
仮名 するがのうみ おしへにおふる はまつづら いましをたのみ ははにたがひぬ [おやにたがひぬ]
左注 右五首駿河國歌
左注訓 一ニ云ク、親にたがひぬ。
右の五首いつうたは、駿河の国の歌。
校異 なし
事項 東歌 相聞 静岡県 駿河湾 地名 植物 恋情 異伝 歌謡 歌垣 民謡
訓異 するがのうみ;するかのうみ, はまつづら;はまつつら, ははにたがひぬ;ははにたかひぬ, [おやにたがひぬ];おやにたかひぬ,
   
  14/3360
題詞 なし
原文 伊豆乃宇美尓 多都思良奈美能 安里都追毛 都藝奈牟毛能乎 <美>太礼志米梅楊
訓読 伊豆の海に立つ白波のありつつも継ぎなむものを乱れしめめや
仮名 いづのうみに たつしらなみの ありつつも つぎなむものを みだれしめめや
左注 或本歌曰 之良久毛能 多延都追母 都我牟等母倍也 美太礼曽米家武 / 右一首伊豆國歌
左注訓 或ル本ノ歌ニ曰ク、白雲の絶えつつも継がむと思へや乱れそめけむ。
右の一首は、伊豆の国の歌。
校異 <>→美 [西(右書)][類][紀][細]
事項 東歌 相聞 静岡県 地名 伊豆 女歌 恋情 序詞
訓異 いづのうみに;いつのうみに, つぎなむものを;つきなむものを, みだれしめめや;みたれしめめや,
   
  14/3360S
題詞 或本歌曰
題訓 或ル本ノ歌ニ曰ク、
原文 之良久毛能 多延都追母 都我牟等母倍也 美太礼曽米家武
訓読 白雲の絶えつつも継がむと思へや乱れそめけむ
仮名 しらくもの たえつつも つがむともへや みだれそめけむ
左注 右一首伊豆國歌
左注訓 右の一首は、伊豆の国の歌。
校異 なし
事項 東歌 相聞 静岡県 異伝 女歌 恋情 序詞
訓異 つがむともへや;つかむともへや, みだれそめけむ;みたれそめけむ,
   
  14/3361
題詞 なし
原文 安思我良能 乎弖毛許乃母尓 佐須和奈乃 可奈流麻之豆美 許呂安礼比毛等久
訓読 足柄のをてもこのもにさすわなのかなるましづみ子ろ我れ紐解く
仮名 あしがらの をてもこのもに さすわなの かなるましづみ ころあれひもとく
左注 (右十二首相模國歌)
校異 なし
事項 東歌 相聞 神奈川県 地名 足柄 序詞 恋愛 狩猟 民謡 歌謡
訓異 あしがらの;あしからの, かなるましづみ;かなるましつみ,
   
  14/3362
題詞 なし
原文 相模祢乃 乎美祢見所久思 和須礼久流 伊毛我名欲妣弖 吾乎祢之奈久奈
訓読 相模嶺の小峰見そくし忘れ来る妹が名呼びて我を音し泣くな
仮名 さがむねの をみねみそくし わすれくる いもがなよびて あをねしなくな
左注 或本歌曰 武蔵祢能 乎美祢見可久思 和須礼<遊>久 伎美我名可氣弖 安乎祢思奈久流 / (右十二首相模國歌)
左注訓 或ル本ノ歌ニ曰ク、
武藏嶺むざしねの小峰見隠し忘れ行く君が名懸けて吾あを音し泣くる
校異 所 [岩波大系](塙)(楓) 可 / <>→遊 [西(右書)][元][類][古][紀]
事項 東歌 相聞 神奈川県 地名 丹沢 別離 恋情 異伝
訓異 さがむねの;さかみねの, いもがなよびて;いもかなよひて, あをねしなくな;わをねしなくな,
   
  14/3362S
題詞 或本歌曰
題訓 或ル本ノ歌ニ曰ク、
原文 武蔵祢能 乎美祢見可久思 和須礼<遊>久 伎美我名可氣弖 安乎祢思奈久流
訓読 武蔵嶺の小峰見隠し忘れ行く君が名懸けて我を音し泣くる
仮名 むざしねの をみねみかくし わすれゆく きみがなかけて あをねしなくる
左注 (右十二首相模國歌)
校異 なし
事項 東歌 相聞 神奈川県 異伝 地名 別離 恋情
訓異 むざしねの;むさしねの, きみがなかけて;きみかなかけて,
   
  14/3363
題詞 なし
原文 和我世古乎 夜麻登敝夜利弖 麻都之太須 安思我良夜麻乃 須疑乃木能末可
訓読 我が背子を大和へ遣りて待つしだす足柄山の杉の木の間か
仮名 わがせこを やまとへやりて まつしだす あしがらやまの すぎのこのまか
左注 (右十二首相模國歌)
校異 なし
事項 東歌 相聞 神奈川県 女歌 別離 悲別 地名 足柄 掛詞
訓異 わがせこを;わかせこを, まつしだす;まつしたす, あしがらやまの;あしからやまの, すぎのこのまか;すきのこのまか,
   
  14/3364
題詞 なし
原文 安思我良能 波I祢乃夜麻尓 安波麻吉弖 實登波奈礼留乎 阿波奈久毛安夜思
訓読 足柄の箱根の山に粟蒔きて実とはなれるを粟無くもあやし
仮名 あしがらの はこねのやまに あはまきて みとはなれるを あはなくもあやし
左注 或本歌末句曰 波布久受能 比可波与利己祢 思多奈保那保尓 / (右十二首相模國歌)
左注訓 或ル本ノ歌ノ末ノ句ニ曰ク、延ふ葛くずの引かり寄り来ね下なほなほに。
校異 なし
事項 東歌 相聞 神奈川県 箱根 地名 足柄 掛詞 植物 恋情 農事 民謡 歌謡 異伝
訓異 あしがらの;あしからの,
   
  14/3364S
題詞 或本歌末句曰
題訓 或ル本ノ歌ノ末ノ句ニ曰ク、
原文 波布久受能 比可波与利己祢 思多奈保那保尓
訓読 延ふ葛の引かば寄り来ね下なほなほに
仮名 はふくずの ひかばよりこね したなほなほに
左注 (右十二首相模國歌)
校異 なし
事項 東歌 相聞 神奈川県 異伝 序詞 恋情 民謡 歌謡
訓異 はふくずの;はふくすの, ひかばよりこね;ひかはよりこね,
   
  14/3365
題詞 なし
原文 可麻久良乃 美胡之能佐吉能 伊波久叡乃 伎美我久由倍伎 己許呂波母多自
訓読 鎌倉の見越しの崎の岩崩えの君が悔ゆべき心は持たじ
仮名 かまくらの みごしのさきの いはくえの きみがくゆべき こころはもたじ
左注 (右十二首相模國歌)
校異 なし
事項 東歌 相聞 神奈川県 地名 鎌倉 稲村が崎 序詞 恋情
訓異 みごしのさきの;みこしのさきの, いはくえの;いはひえの, きみがくゆべき;きみかくゆへき, こころはもたじ;こころはもたし,
   
  14/3366
題詞 なし
原文 麻可奈思美 佐祢尓和波由久 可麻久良能 美奈能瀬河泊尓 思保美都奈武賀
訓読 ま愛しみさ寝に我は行く鎌倉の水無瀬川に潮満つなむか
仮名 まかなしみ さねにわはゆく かまくらの みなのせがはに しほみつなむか
左注 (右十二首相模國歌)
校異 泊 [元][類][古] 伯
事項 東歌 相聞 神奈川県 鎌倉 稲背川 地名 恋愛
訓異 みなのせがはに;みなのせかはに,
   
  14/3367
題詞 なし
原文 母毛豆思麻 安之我良乎夫祢 安流吉於保美 目許曽可流良米 己許呂波毛倍杼
訓読 百づ島足柄小舟歩き多み目こそ離るらめ心は思へど
仮名 ももづしま あしがらをぶね あるきおほみ めこそかるらめ こころはもへど
左注 (右十二首相模國歌)
校異 なし
事項 東歌 相聞 神奈川県 足柄 女歌 恋情 皮肉 揶揄 民謡 歌謡
訓異 ももづしま;ももつしま, あしがらをぶね;あしからをふね, こころはもへど;こころはもへと,
   
  14/3368
題詞 なし
原文 阿之我利能 刀比能可布知尓 伊豆流湯能 余尓母多欲良尓 故呂河伊波奈久尓
訓読 あしがりの土肥の河内に出づる湯のよにもたよらに子ろが言はなくに
仮名 あしがりの とひのかふちに いづるゆの よにもたよらに ころがいはなくに
左注 (右十二首相模國歌)
校異 なし
事項 東歌 相聞 神奈川県 湯河原町 地名 恋情 序詞
訓異 あしがりの;あしかりの, いづるゆの;いつるゆの, ころがいはなくに;ここかいはなくに,
   
  14/3369
題詞 なし
原文 阿之我利乃 麻萬能古須氣乃 須我麻久良 安是加麻可左武 許呂勢多麻久良
訓読 あしがりの麻万の小菅の菅枕あぜかまかさむ子ろせ手枕
仮名 あしがりの ままのこすげの すがまくら あぜかまかさむ ころせたまくら
左注 (右十二首相模國歌)
校異 なし
事項 東歌 相聞 神奈川県 地名 足柄 植物 民謡 歌垣 歌謡 口説翮 恋愛
訓異 あしがりの;あしかりの, ままのこすげの;ままのこすけの, すがまくら;すかまくら, あぜかまかさむ;あせかまかさむ, ころせたまくら;ここせたまくら,
   
  14/3370
題詞 なし
原文 安思我里乃 波故祢能祢呂乃 尓古具佐能 波奈都豆麻奈礼也 比母登可受祢牟
訓読 あしがりの箱根の嶺ろのにこ草の花つ妻なれや紐解かず寝む
仮名 あしがりの はこねのねろの にこぐさの はなつつまなれや ひもとかずねむ
左注 (右十二首相模國歌)
校異 なし
事項 東歌 相聞 神奈川県 箱根 植物 序詞 恋情 怨恨 地名
訓異 あしがりの;あしかりの, にこぐさの;にこくさの, ひもとかずねむ;ひもとかすねむ,
   
  14/3371
題詞 なし
原文 安思我良乃 美佐可加思古美 久毛利欲能 阿我志多婆倍乎 許知弖都流可<毛>
訓読 足柄のみ坂畏み曇り夜の我が下ばへをこち出つるかも
仮名 あしがらの みさかかしこみ くもりよの あがしたばへを こちでつるかも
左注 (右十二首相模國歌)
校異 母→毛 [元][類][古][細]
事項 東歌 相聞 神奈川県 足柄 恋情 尫柜蹋 地名
訓異 あしがらの;あしからの, あがしたばへを;あかしたはへを, こちでつるかも;こちてつるかも,
   
  14/3372
題詞 なし
原文 相模治乃 余呂伎能波麻乃 麻奈胡奈須 兒良波可奈之久 於毛波流留可毛
訓読 相模道の余綾の浜の真砂なす子らは愛しく思はるるかも
仮名 さがむぢの よろぎのはまの まなごなす こらはかなしく おもはるるかも
左注 右十二首相模國歌
左注訓 右の十二首とをまりふたうたは、相模の国の歌。
校異 なし
事項 東歌 相聞 神奈川県 大磯 地名 序詞 恋情
訓異 さがむぢの;さかむちの, よろぎのはまの;よろきのはまの, まなごなす;まなこなす,
   
  14/3373
題詞 なし
原文 多麻河泊尓 左良須弖豆久利 佐良左良尓 奈仁曽許能兒乃 己許太可奈之伎
訓読 多摩川にさらす手作りさらさらになにぞこの子のここだ愛しき
仮名 たまかはに さらすてづくり さらさらに なにぞこのこの ここだかなしき
左注 (右九首武蔵國歌)
校異 泊 [元][古] 伯
事項 東歌 相聞 埼玉県 東京都 多摩川 恋情 地名
訓異 さらすてづくり;さらすてつくり, なにぞこのこの;なにそこのこの, ここだかなしき;ここたかなしき,
   
  14/3374
題詞 なし
原文 武蔵野尓 宇良敝可多也伎 麻左弖尓毛 乃良奴伎美我名 宇良尓R尓家里
訓読 武蔵野に占部肩焼きまさでにも告らぬ君が名占に出にけり
仮名 むざしのに うらへかたやき まさでにも のらぬきみがな うらにでにけり
左注 (右九首武蔵國歌)
校異 なし
事項 東歌 相聞 埼玉県 東京都 地名 女歌 尫柜蹋 人目 恋愛
訓異 むざしのに;むさしのに, まさでにも;まさてにも, のらぬきみがな;のらぬきみかな, うらにでにけり;うらにてにけり,
   
  14/3375
題詞 なし
原文 武蔵野乃 乎具奇我吉藝志 多知和可礼 伊尓之与比欲利 世呂尓安波奈布与
訓読 武蔵野のをぐきが雉立ち別れ去にし宵より背ろに逢はなふよ
仮名 むざしのの をぐきがきぎし たちわかれ いにしよひより せろにあはなふよ
左注 (右九首武蔵國歌)
校異 なし
事項 東歌 相聞 埼玉県 東京都 地名 動物 序詞 女歌 悲別 恋情
訓異 むざしのの;むさしのの, をぐきがきぎし;をくきかきけし,
   
  14/3376
題詞 なし
原文 古非思家波 素弖毛布良武乎 牟射志野乃 宇家良我波奈乃 伊呂尓豆奈由米
訓読 恋しけば袖も振らむを武蔵野のうけらが花の色に出なゆめ
仮名 こひしけば そでもふらむを むざしのの うけらがはなの いろにづなゆめ
左注 或本歌曰 伊可尓思弖 古非波可伊毛尓 武蔵野乃 宇家良我波奈乃 伊呂尓R受安良牟 / (右九首武蔵國歌)
左注訓 或ル本ノ歌ニ曰ク、いかにして恋ひばか妹に武藏野のうけらが花の色に出ずあらむ
校異 なし
事項 東歌 相聞 埼玉県 東京都 地名 植物 尫柜蹋 人目 恋情 女歌
訓異 こひしけば;こひしけは, そでもふらむを;そてもふらむを, むざしのの;むさしのの, うけらがはなの;うけらかはなの, いろにづなゆめ;いろにつなゆめ,
   
  14/3376S
題詞 或本歌曰
題訓 或ル本ノ歌ニ曰ク、
原文 伊可尓思弖 古非波可伊毛尓 武蔵野乃 宇家良我波奈乃 伊呂尓R受安良牟
訓読 いかにして恋ひばか妹に武蔵野のうけらが花の色に出ずあらむ
仮名 いかにして こひばかいもに むざしのの うけらがはなの いろにでずあらむ
左注 (右九首武蔵國歌)
校異 なし
事項 東歌 相聞 埼玉県 東京都 異伝 地名 植物 恋情 序詞
訓異 こひばかいもに;こひはかいもに, むざしのの;むさしのの, うけらがはなの;うけらかはなの, いろにでずあらむ;いろにてすあらむ,
   
  14/3377
題詞 なし
原文 武蔵野乃 久佐波母呂武吉 可毛可久母 伎美我麻尓末尓 吾者余利尓思乎
訓読 武蔵野の草葉もろ向きかもかくも君がまにまに我は寄りにしを
仮名 むざしのの くさはもろむき かもかくも きみがまにまに わはよりにしを
左注 (右九首武蔵國歌)
校異 なし
事項 東歌 相聞 埼玉県 東京都 地名 女歌 怨恨 恋情 序詞
訓異 むざしのの;むさしのの, きみがまにまに;きみかまにまに, わはよりにしを;われはよりにしを,
   
  14/3378
題詞 なし
原文 伊利麻治能 於保屋我波良能 伊波為都良 比可婆奴流々々 和尓奈多要曽祢
訓読 入間道の於保屋が原のいはゐつら引かばぬるぬる我にな絶えそね
仮名 いりまぢの おほやがはらの いはゐつら ひかばぬるぬる わになたえそね
左注 (右九首武蔵國歌)
校異 なし
事項 東歌 相聞 埼玉県 地名 入間 植物 序詞 恋情 民謡 歌垣 歌謡
訓異 いりまぢの;いりまちの, おほやがはらの;おほやかはらの, ひかばぬるぬる;ひかはぬるぬる,
   
  14/3379
題詞 なし
原文 和我世故乎 安杼可母伊波武 牟射志野乃 宇家良我波奈乃 登吉奈伎母能乎
訓読 我が背子をあどかも言はむ武蔵野のうけらが花の時なきものを
仮名 わがせこを あどかもいはむ むざしのの うけらがはなの ときなきものを
左注 (右九首武蔵國歌)
校異 なし
事項 東歌 相聞 埼玉県 東京都 地名 植物 女歌 序詞
訓異 わがせこを;わかせこを, あどかもいはむ;あとかもいはむ, むざしのの;むさしのの, うけらがはなの;うけらかはなの
   
  14/3380
題詞 なし
原文 佐吉多萬能 津尓乎流布祢乃 可是乎伊多美 都奈波多由登毛 許登奈多延曽祢
訓読 埼玉の津に居る船の風をいたみ綱は絶ゆとも言な絶えそね
仮名 さきたまの つにをるふねの かぜをいたみ つなはたゆとも ことなたえそね
左注 (右九首武蔵國歌)
校異 なし
事項 東歌 相聞 埼玉県 地名 行田 序詞 恋情 女歌 民謡 歌謡
訓異 かぜをいたみ;かせをいたみ,
   
  14/3381
題詞 なし
原文 奈都蘇妣久 宇奈比乎左之弖 等夫登利乃 伊多良武等曽与 阿我之多波倍思
訓読 夏麻引く宇奈比をさして飛ぶ鳥の至らむとぞよ我が下延へし
仮名 なつそびく うなひをさして とぶとりの いたらむとぞよ あがしたはへし
左注 右九首武蔵國歌
左注訓 右の九首ここのうたは、武藏の国の歌。
校異 なし
事項 東歌 相聞 埼玉県 東京都 地名 枕詞 序詞 恋情
訓異 なつそびく;なつそひく, とぶとりの;とふとりの, いたらむとぞよ;いたらむとそよ, あがしたはへし;あかしたはへし,
   
  14/3382
題詞 なし
原文 宇麻具多能 祢呂乃佐左葉能 都由思母能 奴礼弖和伎奈婆 汝者故布婆曽毛
訓読 馬来田の嶺ろの笹葉の露霜の濡れて我来なば汝は恋ふばぞも
仮名 うまぐたの ねろのささはの つゆしもの ぬれてわきなば なはこふばぞも
左注 (右二首上総國歌)
校異 毛 [元][類] 母
事項 東歌 相聞 千葉県 木更津 地名 恋情 悲別
訓異 うまぐたの;うまくたの, ぬれてわきなば;ぬれてわきなは, なはこふばぞも;なはこふはそも,
   
  14/3383
題詞 なし
原文 宇麻具多能 祢呂尓可久里為 可久太尓毛 久尓乃登保可婆 奈我目保里勢牟
訓読 馬来田の嶺ろに隠り居かくだにも国の遠かば汝が目欲りせむ
仮名 うまぐたの ねろにかくりゐ かくだにも くにのとほかば ながめほりせむ
左注 右二首上総國歌
左注訓 右の二首は、上総かみつふさの国の歌。
校異 なし
事項 東歌 相聞 千葉県 地名 木更津 羈旅 恋情 望郷
訓異 うまぐたの;うまくたの, かくだにも;かくたにも, くにのとほかば;くにのとほかは, ながめほりせむ;なかめほりせむ,
   
  14/3384
題詞 なし
原文 可都思加能 麻末能手兒奈乎 麻許登可聞 和礼尓余須等布 麻末乃弖胡奈乎
訓読 葛飾の真間の手児名をまことかも我れに寄すとふ真間の手児名を
仮名 かづしかの ままのてごなを まことかも われによすとふ ままのてごなを
左注 (右四首下総國歌)
校異 なし
事項 東歌 相聞 千葉県 地名 伝説 恋愛 民謡 歌謡
訓異 かづしかの;かつしかの, ままのてごなを;ままのてこなを, ままのてごなを;ままのてこなを,
   
  14/3385
題詞 なし
原文 可豆思賀能 麻萬能手兒奈我 安里之<可婆> 麻末乃於須比尓 奈美毛登杼呂尓
訓読 葛飾の真間の手児名がありしかば真間のおすひに波もとどろに
仮名 かづしかの ままのてごなが ありしかば ままのおすひに なみもとどろに
左注 (右四首下総國歌)
校異 婆可→可婆 [細]
事項 東歌 相聞 千葉県 地名 葛飾 伝説 市川
訓異 かづしかの;かつしかの, ままのてごなが;ままのてこなか, ありしかば;ありしかは, なみもとどろに;なみもととろに,
   
  14/3386
題詞 なし
原文 尓保杼里能 可豆思加和世乎 尓倍須登毛 曽能可奈之伎乎 刀尓多弖米也母
訓読 にほ鳥の葛飾早稲をにへすともその愛しきを外に立てめやも
仮名 にほどりの かづしかわせを にへすとも そのかなしきを とにたてめやも
左注 (右四首下総國歌)
校異 なし
事項 東歌 相聞 千葉県 地名 葛飾 新嘗 祭り 恋情 女歌
訓異 にほどりの;にほとりの, かづしかわせを;かつしかわせを,
   
  14/3387
題詞 なし
原文 安能於登世受 由可牟古馬母我 可豆思加乃 麻末乃都藝波思 夜麻受可欲波牟
訓読 足の音せず行かむ駒もが葛飾の真間の継橋やまず通はむ
仮名 あのおとせず ゆかむこまもが かづしかの ままのつぎはし やまずかよはむ
左注 右四首下総國歌
左注訓 右の四首ようたは、下総しもつふさの国の歌。
校異 豆 [元][類](塙) 都
事項 東歌 相聞 千葉県 地名 葛飾 市川 恋情
訓異 あのおとせず;あのおとせす, ゆかむこまもが;ゆかむこまもか, かづしかの;かつしかの, ままのつぎはし;ままのつきはし, やまずかよはむ;やますかよはむ,
   
  14/3388
題詞 なし
原文 筑波祢乃 祢呂尓可須美為 須宜可提尓 伊伎豆久伎美乎 為祢弖夜良佐祢
訓読 筑波嶺の嶺ろに霞居過ぎかてに息づく君を率寝て遣らさね
仮名 つくはねの ねろにかすみゐ すぎかてに いきづくきみを ゐねてやらさね
左注 (右十首常陸國歌)
校異 なし
事項 東歌 相聞 茨城県 地名 筑波山 女歌 歌垣 勧誘 恋愛
訓異 すぎかてに;すきかてに, いきづくきみを;いきつくきみを,
   
  14/3389
題詞 なし
原文 伊毛我可度 伊夜等保曽吉奴 都久波夜麻 可久礼奴保刀尓 蘇提婆布利弖奈
訓読 妹が門いや遠そきぬ筑波山隠れぬほとに袖は振りてな
仮名 いもがかど いやとほそきぬ つくはやま かくれぬほとに そではふりてな
左注 (右十首常陸國歌)
校異 婆 [類] 波
事項 東歌 相聞 茨城県 筑波山 地名 別離 羈旅 恋情
訓異 いもがかど;いもかかと, そではふりてな;そてはふりてな,
   
  14/3390
題詞 なし
原文 筑波祢尓 可加奈久和之能 祢乃未乎可 奈伎和多里南牟 安布登波奈思尓
訓読 筑波嶺にかか鳴く鷲の音のみをか泣きわたりなむ逢ふとはなしに
仮名 つくはねに かかなくわしの ねのみをか なきわたりなむ あふとはなしに
左注 (右十首常陸國歌)
校異 なし
事項 東歌 相聞 茨城県 地名 筑波山 動物 序詞 恋情 別離
訓異 -
   
  14/3391
題詞 なし
原文 筑波祢尓 曽我比尓美由流 安之保夜麻 安志可流登我毛 左祢見延奈久尓
訓読 筑波嶺にそがひに見ゆる葦穂山悪しかるとがもさね見えなくに
仮名 つくはねに そがひにみゆる あしほやま あしかるとがも さねみえなくに
左注 (右十首常陸國歌)
校異 なし
事項 東歌 相聞 茨城県 地名 筑波山 足尾山 序詞 恋情
訓異 そがひにみゆる;しかひにみゆる, あしかるとがも;あしかるとかも,
   
  14/3392
題詞 なし
原文 筑波祢乃 伊波毛等杼呂尓 於都流美豆 代尓毛多由良尓 和我於毛波奈久尓
訓読 筑波嶺の岩もとどろに落つる水よにもたゆらに我が思はなくに
仮名 つくはねの いはもとどろに おつるみづ よにもたゆらに わがおもはなくに
左注 (右十首常陸國歌)
校異 於毛 [元] 毛
事項 東歌 相聞 茨城県 地名 筑波山 序詞 恋情
訓異 いはもとどろに;いはもととろに, おつるみづ;おつるみつ, わがおもはなくに;わかおもはなくに,
   
  14/3393
題詞 なし
原文 筑波祢乃 乎弖毛許能母尓 毛利敝須恵 波播已毛礼杼母 多麻曽阿比尓家留
訓読 筑波嶺のをてもこのもに守部据ゑ母い守れども魂ぞ会ひにける
仮名 つくはねの をてもこのもに もりへすゑ ははいもれども たまぞあひにける
左注 (右十首常陸國歌)
校異 なし
事項 東歌 相聞 茨城県 地名 筑波山 女歌 恋情
訓異 ははいもれども;ははこもれとも, たまぞあひにける;たまそあひにける,
   
  14/3394
題詞 なし
原文 左其呂毛能 乎豆久波祢呂能 夜麻乃佐吉 和須<良>許婆古曽 那乎可家奈波賣
訓読 さ衣の小筑波嶺ろの山の崎忘ら来ばこそ汝を懸けなはめ
仮名 さごろもの をづくはねろの やまのさき わすらこばこそ なをかけなはめ
左注 (右十首常陸國歌)
校異 良延→良 [元][類]
事項 東歌 相聞 茨城県 地名 筑波山 別離 恋情 羈旅
訓異 さごろもの;さころもの, をづくはねろの;をつくはねろの, わすらこばこそ;わすらえこはこそ,
   
  14/3395
題詞 なし
原文 乎豆久波乃 祢呂尓都久多思 安比太欲波 佐波<太>奈利努乎 萬多祢天武可聞
訓読 小筑波の嶺ろに月立し間夜はさはだなりぬをまた寝てむかも
仮名 をづくはの ねろにつくたし あひだよは さはだなりぬを またねてむかも
左注 (右十首常陸國歌)
校異 太尓→太 [元][紀][細][矢]
事項 東歌 相聞 茨城県 筑波山 地名 序詞 恋情
訓異 をづくはの;をつくはの, あひだよは;あひたよは, さはだなりぬを;さはたなりぬを,
   
  14/3396
題詞 なし
原文 乎都久波乃 之氣吉許能麻欲 多都登利能 目由可汝乎見牟 左祢射良奈久尓
訓読 小筑波の茂き木の間よ立つ鳥の目ゆか汝を見むさ寝ざらなくに
仮名 をづくはの しげきこのまよ たつとりの めゆかなをみむ さねざらなくに
左注 (右十首常陸國歌)
校異 なし
事項 東歌 相聞 茨城県 地名 筑波山 恋情 別離 羈旅
訓異 をづくはの;をつくはの, しげきこのまよ;しけきこのまよ, さねざらなくに;さねさらなくに,
   
  14/3397
題詞 なし
原文 比多知奈流 奈左可能宇美乃 多麻毛許曽 比氣波多延須礼 阿杼可多延世武
訓読 常陸なる浪逆の海の玉藻こそ引けば絶えすれあどか絶えせむ
仮名 ひたちなる なさかのうみの たまもこそ ひけばたえすれ あどかたえせむ
左注 右十首常陸國歌
左注訓 右の十首とうたは、常陸の国の歌。
校異 なし
事項 東歌 相聞 茨城県 地名 北浦 植物 恋情
訓異 ひけばたえすれ;ひけはたえすれ, あどかたえせむ;あとかたえせむ,
   
  14/3398
題詞 なし
原文 比等未奈乃 許等波多由登毛 波尓思奈能 伊思井乃手兒我 許<登>奈多延曽祢
訓読 人皆の言は絶ゆとも埴科の石井の手児が言な絶えそね
仮名 ひとみなの ことはたゆとも はにしなの いしゐのてごが ことなたえそね
左注 (右四首信濃國歌)
校異 等→登 [元][類][古][紀]
事項 東歌 相聞 長野県 埴科 地名 伝説 恋情
訓異 いしゐのてごが;いしゐのてこか,
   
  14/3399
題詞 なし
原文 信濃道者 伊麻能波里美知 可里婆祢尓 安思布麻之<奈牟> 久都波氣和我世
訓読 信濃道は今の墾り道刈りばねに足踏ましなむ沓はけ我が背
仮名 しなぬぢは いまのはりみち かりばねに あしふましなむ くつはけわがせ
左注 (右四首信濃國歌)
校異 牟奈→奈牟 [元]
事項 東歌 相聞 長野県 女歌 木曽路 地名 恋愛
訓異 しなぬぢは;しなのちは, かりばねに;かりはねに, あしふましなむ;あしふましむな, くつはけわがせ;くつはけわかせ,
   
  14/3400
題詞 なし
原文 信濃奈流 知具麻能河泊能 左射礼思母 伎弥之布美弖婆 多麻等比呂波牟
訓読 信濃なる千曲の川のさざれ石も君し踏みてば玉と拾はむ
仮名 しなぬなる ちぐまのかはの さざれしも きみしふみてば たまとひろはむ
左注 (右四首信濃國歌)
校異 泊 [元] 伯
事項 東歌 相聞 長野県 千曲川 地名 女歌 恋情
訓異 しなぬなる;しなのなる, ちぐまのかはの;ちくまのかはの, さざれしも;さされしも, きみしふみてば;きみしふみては,
   
  14/3401
題詞 なし
原文 中麻奈尓 宇伎乎流布祢能 許藝弖奈婆 安布許等可多思 家布尓思安良受波
訓読 なかまなに浮き居る船の漕ぎ出なば逢ふことかたし今日にしあらずは
仮名 なかまなに うきをるふねの こぎでなば あふことかたし けふにしあらずは
左注 右四首信濃國歌
左注訓 右の四首は、信濃の国の歌。
校異 なし
事項 東歌 相聞 長野県 地名 千曲川 別離 女歌 恋情 羈旅
訓異 こぎでなば;こきてなは, けふにしあらずは;けふにしあらすは,
   
  14/3402
題詞 なし
原文 比能具礼尓 宇須比乃夜麻乎 古由流日波 勢奈能我素R母 佐夜尓布良思都
訓読 日の暮れに碓氷の山を越ゆる日は背なのが袖もさやに振らしつ
仮名 ひのぐれに うすひのやまを こゆるひは せなのがそでも さやにふらしつ
左注 (右廿二首上野國歌)
校異 なし
事項 東歌 相聞 群馬県 地名 碓氷 別離 女歌 恋情 羈旅
訓異 ひのぐれに;ひのくれに, せなのがそでも;せなのかそても,
   
  14/3403
題詞 なし
原文 安我古非波 麻左香毛可奈思 久佐麻久良 多胡能伊利野乃 於<久>母可奈思母
訓読 我が恋はまさかも愛し草枕多胡の入野の奥も愛しも
仮名 あがこひは まさかもかなし くさまくら たごのいりのの おくもかなしも
左注 (右廿二首上野國歌)
校異 父→久 [代匠記初稿本]
事項 東歌 相聞 群馬県 枕詞 地名 多胡 吉井町 序詞 恋情
訓異 あがこひは;あかこひは, たごのいりのの;たこのいりのの,
   
  14/3404
題詞 なし
原文 可美都氣努 安蘇能麻素武良 可伎武太伎 奴礼杼安加奴乎 安杼加安我世牟
訓読 上つ毛野安蘇のま麻むらかき抱き寝れど飽かぬをあどか我がせむ
仮名 かみつけの あそのまそむら かきむだき ぬれどあかぬを あどかあがせむ
左注 (右廿二首上野國歌)
校異 なし
事項 東歌 相聞 群馬県 地名 序詞 恋情
訓異 かきむだき;かきむたき, ぬれどあかぬを;ぬれとあかぬを, あどかあがせむ;あとかあかせむ,
   
  14/3405
題詞 なし
原文 可美都氣努 乎度能多杼里我 可波治尓毛 兒良波安波奈毛 比等理能未思弖
訓読 上つ毛野乎度の多杼里が川路にも子らは逢はなもひとりのみして
仮名 かみつけの をどのたどりが かはぢにも こらはあはなも ひとりのみして
左注 或本歌曰 可美都氣乃 乎野乃多杼里我 安波治尓母 世奈波安波奈母 美流比登奈思尓 / (右廿二首上野國歌)
左注訓 或ル本ノ歌ニ曰ク、
上毛野小野をぬの多杼里が川路にも夫汝は逢はなも見る人なしに
校異 なし
事項 東歌 相聞 群馬県 地名 恋情
訓異 をどのたどりが;をとのたとりか, かはぢにも;かはちにも,
   
  14/3405S
題詞 或本歌曰
題訓 或ル本ノ歌ニ曰ク、
原文 可美都氣乃 乎野乃多杼里我 安波治尓母 世奈波安波奈母 美流比登奈思尓
訓読 上つ毛野小野の多杼里があはぢにも背なは逢はなも見る人なしに
仮名 かみつけの をののたどりが あはぢにも せなはあはなも みるひとなしに
左注 (右廿二首上野國歌)
校異 なし
事項 東歌 相聞 群馬県 地名 女歌 恋情
訓異 をののたどりが;をののたとりか, あはぢにも;あはちにも,
   
  14/3406
題詞 なし
原文 可美都氣野 左野乃九久多知 乎里波夜志 安礼波麻多牟恵 許登之許受登母
訓読 上つ毛野佐野の茎立ち折りはやし我れは待たむゑ来とし来ずとも
仮名 かみつけの さののくくたち をりはやし あれはまたむゑ ことしこずとも
左注 (右廿二首上野國歌)
校異 なし
事項 東歌 相聞 群馬県 地名 高崎 女歌 恋情
訓異 ことしこずとも;ことしこすとも,
   
  14/3407
題詞 なし
原文 可美都氣努 麻具波思麻度尓 安佐日左指 麻伎良波之母奈 安利都追見礼婆
訓読 上つ毛野まぐはしまとに朝日さしまきらはしもなありつつ見れば
仮名 かみつけの まぐはしまとに あさひさし まきらはしもな ありつつみれば
左注 (右廿二首上野國歌)
校異 なし
事項 東歌 相聞 群馬県 地名 序詞 恋愛 逢会
訓異 まぐはしまとに;まくはしまとに, ありつつみれば;ありつつみれは,
   
  14/3408
題詞 なし
原文 尓比多夜麻 祢尓波都可奈那 和尓余曽利 波之奈流兒良師 安夜尓可奈思<母>
訓読 新田山嶺にはつかなな我に寄そりはしなる子らしあやに愛しも
仮名 にひたやま ねにはつかなな わによそり はしなるこらし あやにかなしも
左注 (右廿二首上野國歌)
校異 毛→母 [元][類][古][紀]
事項 東歌 相聞 群馬県 地名 太田市 金山 尫柜蹋 恋情
訓異 -
   
  14/3409
題詞 なし
原文 伊香保呂尓 安麻久母伊都藝 可奴麻豆久 比等登於多波布 伊射祢志米刀羅
訓読 伊香保ろに天雲い継ぎかぬまづく人とおたはふいざ寝しめとら
仮名 いかほろに あまくもいつぎ かぬまづく ひととおたはふ いざねしめとら
左注 (右廿二首上野國歌)
校異 奴 [元] 努
事項 東歌 相聞 群馬県 地名 伊香保 人目 尫柜蹋 恋情
訓異 あまくもいつぎ;あまくもいつき, かぬまづく;かぬまつく, いざねしめとら;いさねしめとら,
   
  14/3410
題詞 なし
原文 伊香保呂能 蘇比乃波里波良 祢毛己呂尓 於久乎奈加祢曽 麻左可思余加婆
訓読 伊香保ろの沿ひの榛原ねもころに奥をなかねそまさかしよかば
仮名 いかほろの そひのはりはら ねもころに おくをなかねそ まさかしよかば
左注 (右廿二首上野國歌)
校異 なし
事項 東歌 相聞 群馬県 地名 伊香保 序詞 恋情
訓異 まさかしよかば;まさかしよかは,
   
  14/3411
題詞 なし
原文 多胡能祢尓 与西都奈波倍弖 与須礼騰毛 阿尓久夜斯豆之 曽能可<抱>与吉尓
訓読 多胡の嶺に寄せ綱延へて寄すれどもあにくやしづしその顔よきに
仮名 たごのねに よせつなはへて よすれども あにくやしづし そのかほよきに
左注 (右廿二首上野國歌)
校異 之 [元] 久 / 把→抱 [矢]
事項 東歌 相聞 群馬県 地名 多胡 吉井町 序詞 怨恨 恋情 口説翮
訓異 たごのねに;たこのねに, よすれども;よすれとも, あにくやしづし;あにくやしつの,
   
  14/3412
題詞 なし
原文 賀美都家野 久路保乃祢呂乃 久受葉我多 可奈師家兒良尓 伊夜射可里久母
訓読 上つ毛野久路保の嶺ろの葛葉がた愛しけ子らにいや離り来も
仮名 かみつけの くろほのねろの くずはがた かなしけこらに いやざかりくも
左注 (右廿二首上野國歌)
校異 なし
事項 東歌 相聞 群馬県 地名 赤城山 序詞 恋情
訓異 くずはがた;くすはかた, いやざかりくも;いやさかりくも,
   
  14/3413
題詞 なし
原文 刀祢河泊乃 可波世毛思良受 多太和多里 奈美尓安布能須 安敝流伎美可母
訓読 利根川の川瀬も知らず直渡り波にあふのす逢へる君かも
仮名 とねがはの かはせもしらず ただわたり なみにあふのす あへるきみかも
左注 (右廿二首上野國歌)
校異 泊 [元] 伯
事項 東歌 相聞 群馬県 地名 利根川 序詞 女歌 恋愛
訓異 とねがはの;とねかはの, かはせもしらず;かはせもしらす, ただわたり;たたわたり,
   
  14/3414
題詞 なし
原文 伊香保呂能 夜左可能為提尓 多都努自能 安良波路萬代母 佐祢乎佐祢弖婆
訓読 伊香保ろのやさかのゐでに立つ虹の現はろまでもさ寝をさ寝てば
仮名 いかほろの やさかのゐでに たつのじの あらはろまでも さねをさねてば
左注 (右廿二首上野國歌)
校異 なし
事項 東歌 相聞 群馬県 地名 伊香保 序詞 人目 恋愛 逢会
訓異 やさかのゐでに;やさかのゐてに, たつのじの;たつのしの, あらはろまでも;あらはろまても, さねをさねてば;さねをさねては,
   
  14/3415
題詞 なし
原文 可美都氣努 伊可保乃奴麻尓 宇恵古奈<宜> 可久古非牟等夜 多祢物得米家武
訓読 上つ毛野伊香保の沼に植ゑ小水葱かく恋ひむとや種求めけむ
仮名 かみつけの いかほのぬまに うゑこなぎ かくこひむとや たねもとめけむ
左注 (右廿二首上野國歌)
校異 伎→宜 [元][類][古]
事項 東歌 相聞 群馬県 地名 伊香保 植物 譬喩 恋情 反省
訓異 うゑこなぎ;うゑこなき,
   
  14/3416
題詞 なし
原文 可美都氣努 可保夜我奴麻能 伊波為都良 比可波奴礼都追 安乎奈多要曽祢
訓読 上つ毛野可保夜が沼のいはゐつら引かばぬれつつ我をな絶えそね
仮名 かみつけの かほやがぬまの いはゐつら ひかばぬれつつ あをなたえそね
左注 (右廿二首上野國歌)
校異 なし
事項 東歌 相聞 群馬県 地名 植物 序詞 採草歌 恋情
訓異 かほやがぬまの;かほやかぬまの, ひかばぬれつつ;ひかはぬれつつ,
   
  14/3417
題詞 なし
原文 可美都氣努 伊奈良能奴麻乃 於保為具左 与曽尓見之欲波 伊麻許曽麻左礼 [柿本朝臣人麻呂歌集出也]
訓読 上つ毛野伊奈良の沼の大藺草外に見しよは今こそまされ [柿本朝臣人麻呂歌集出也]
仮名 かみつけの いならのぬまの おほゐぐさ よそにみしよは いまこそまされ
左注 (右廿二首上野國歌)
左注訓 柿本朝臣人麻呂ノ歌集ニ出ヅ。
校異 なし
事項 東歌 相聞 群馬県 地名 植物 序詞 恋情 作者:柿本人麻呂歌集
訓異 おほゐぐさ;おほゐくさ,
   
  14/3418
題詞 なし
原文 可美都氣<努> 佐野田能奈倍能 武良奈倍尓 許登波佐太米都 伊麻波伊可尓世母
訓読 上つ毛野佐野田の苗のむら苗に事は定めつ今はいかにせも
仮名 かみつけの さのだのなへの むらなへに ことはさだめつ いまはいかにせも
左注 (右廿二首上野國歌)
校異 奴→努 [元][類]
事項 東歌 相聞 群馬県 地名 佐野 高崎 恋情
訓異 さのだのなへの;さのたのなへの, ことはさだめつ;ことはさためつ,
   
  14/3419
題詞 なし
原文 伊可保世欲 奈可中次下 於毛比度路 久麻許曽之都等 和須礼西奈布母
訓読 伊香保せよ奈可中次下思ひどろくまこそしつと忘れせなふも
仮名 いかほせよ ******* おもひどろ くまこそしつと わすれせなふも
左注 (右廿二首上野國歌)
校異 次 [元][類][古] 吹
事項 東歌 相聞 群馬県 地名 難訓 恋情
訓異 *******;なかなかしなに, おもひどろ;おもひとろ,
   
  14/3420
題詞 なし
原文 可美都氣努 佐野乃布奈波之 登里波奈之 於也波左久礼騰 和波左可流賀倍
訓読 上つ毛野佐野の舟橋取り離し親は放くれど我は離るがへ
仮名 かみつけの さののふなはし とりはなし おやはさくれど わはさかるがへ
左注 (右廿二首上野國歌)
校異 なし
事項 東歌 相聞 群馬県 地名 高崎 恋情 女歌 序詞
訓異 おやはさくれど;おやはさくれと, わはさかるがへ;わはさかるかへ,
   
  14/3421
題詞 なし
原文 伊香保祢尓 可未奈那里曽祢 和我倍尓波 由恵波奈家杼母 兒良尓与里弖曽
訓読 伊香保嶺に雷な鳴りそね我が上には故はなけども子らによりてぞ
仮名 いかほねに かみななりそね わがへには ゆゑはなけども こらによりてぞ
左注 (右廿二首上野國歌)
校異 なし
事項 東歌 相聞 群馬県 地名 伊香保 恋情
訓異 わがへには;わかへには, ゆゑはなけども;ゆゑはなけとも, こらによりてぞ;こらによりてそ,
   
  14/3422
題詞 なし
原文 伊可保可是 布久日布加奴日 安里登伊倍杼 安我古非能未思 等伎奈可里家利
訓読 伊香保風吹く日吹かぬ日ありと言へど我が恋のみし時なかりけり
仮名 いかほかぜ ふくひふかぬひ ありといへど あがこひのみし ときなかりけり
左注 (右廿二首上野國歌)
校異 なし
事項 東歌 相聞 群馬県 地名 伊香保 恋情
訓異 いかほかぜ;いかほかせ, ありといへど;ありといへと, あがこひのみし;あかこひのみし,
   
  14/3423
題詞 なし
原文 可美都氣努 伊可抱乃祢呂尓 布路与伎能 遊吉須宜可提奴 伊毛賀伊敝乃安多里
訓読 上つ毛野伊香保の嶺ろに降ろ雪の行き過ぎかてぬ妹が家のあたり
仮名 かみつけの いかほのねろに ふろよきの ゆきすぎかてぬ いもがいへのあたり
左注 右廿二首上野國歌
左注訓 右の二十二首はたちまりふたうたは、上野かみつけぬの国の歌。
校異 なし
事項 東歌 相聞 群馬県 地名 伊香保 序詞 恋情
訓異 ふろよきの;ふるよきの, ゆきすぎかてぬ;ゆきすきかてぬ, いもがいへのあたり;いもかいへのあたり,
   
  14/3424
題詞 なし
原文 之母都家野 美可母乃夜麻能 許奈良能須 麻具波思兒呂波 多賀家可母多牟
訓読 下つ毛野みかもの山のこ楢のすまぐはし子ろは誰が笥か持たむ
仮名 しもつけの みかものやまの こならのす まぐはしころは たがけかもたむ
左注 (右二首下野國歌)
校異 なし
事項 東歌 相聞 栃木県 地名 太田和山 植物 序詞 恋情
訓異 まぐはしころは;まくはしころは, たがけかもたむ;たかけかもたむ,
   
  14/3425
題詞 なし
原文 志母都家<努> 安素乃河泊良欲 伊之布<麻>受 蘇良由登伎奴与 奈我己許呂能礼
訓読 下つ毛野阿蘇の川原よ石踏まず空ゆと来ぬよ汝が心告れ
仮名 しもつけの あそのかはらよ いしふまず そらゆときぬよ ながこころのれ
左注 右二首下野國歌
左注訓 右の二首は、下野しもつけぬの国の歌。
校異 <>→努 [西(右書)][元][類][古][紀] / 泊 [元] 伯 / 麻努→麻 [西(訂正)][元][類][古][紀]
事項 東歌 相聞 栃木県 地名 恋情 口説翮 求婚
訓異 いしふまず;いしふます, ながこころのれ;なかこころのれ,
   
  14/3426
題詞 なし
原文 安比豆祢能 久尓乎佐杼抱美 安波奈波婆 斯努比尓勢毛等 比毛牟須婆佐祢
訓読 会津嶺の国をさ遠み逢はなはば偲ひにせもと紐結ばさね
仮名 あひづねの くにをさどほみ あはなはば しのひにせもと ひもむすばさね
左注 (右三首陸奥國歌)
校異 毛 [細] 牟
事項 東歌 相聞 福島県 東北地方 地名 会津 磐梯山 悲別 恋情
訓異 あひづねの;あひつねの, くにをさどほみ;くにをさとほみ, あはなはば;あはなはは, ひもむすばさね;ひもむすはさね,
   
  14/3427
題詞 なし
原文 筑紫奈留 尓抱布兒由恵尓 美知能久乃 可刀利乎登女乃 由比思比毛等久
訓読 筑紫なるにほふ子ゆゑに陸奥の可刀利娘子の結ひし紐解く
仮名 つくしなる にほふこゆゑに みちのくの かとりをとめの ゆひしひもとく
左注 (右三首陸奥國歌)
校異 なし
事項 東歌 相聞 福島県 東北地方 地名 筑紫 福岡 遊行女婦 浮気 恋愛 防人
訓異 -
   
  14/3428
題詞 なし
原文 安太多良乃 祢尓布須思之能 安里都々毛 安礼波伊多良牟 祢度奈佐利曽祢
訓読 安達太良の嶺に伏す鹿猪のありつつも我れは至らむ寝処な去りそね
仮名 あだたらの ねにふすししの ありつつも あれはいたらむ ねどなさりそね
左注 右三首陸奥國歌
左注訓 右の三首は、陸奥の国の歌。
校異 なし
事項 東歌 相聞 福島県 東北地方 地名 二本松市 安達太良山 動物 序詞 恋情
訓異 あだたらの;あたたらの, ねどなさりそね;ねとなさりそね,
   
 

譬喩歌

   
  14/3429
題詞 譬喩歌
題訓 譬喩歌たとへうた
原文 等保都安布美 伊奈佐保曽江乃 水乎都久思 安礼乎多能米弖 安佐麻之物能乎
訓読 遠江引佐細江のみをつくし我れを頼めてあさましものを
仮名 とほつあふみ いなさほそえの みをつくし あれをたのめて あさましものを
左注 右一首遠江國歌
左注訓 右の一首は、遠江の国の歌。
校異 なし
事項 東歌 譬喩歌 静岡県 地名 浜名湖 怨恨 恋愛
訓異 -
   
  14/3430
題詞 なし
原文 斯太能宇良乎 阿佐許求布祢波 与志奈之尓 許求良米可母与 <余>志許佐流良米
訓読 志太の浦を朝漕ぐ船はよしなしに漕ぐらめかもよよしこさるらめ
仮名 しだのうらを あさこぐふねは よしなしに こぐらめかもよ よしこさるらめ
左注 右一首駿河國歌
左注訓 右の一首は、駿河の国の歌。
校異 奈→余 [元]
事項 東歌 譬喩歌 静岡県 地名 後朝 恋愛
訓異 しだのうらを;したのうらを, あさこぐふねは;あさこくふねは, こぐらめかもよ;こくらめかもよ,
   
  14/3431
題詞 なし
原文 阿之我里乃 安伎奈乃夜麻尓 比古布祢乃 斯利比可志母與 許己波故賀多尓
訓読 足柄の安伎奈の山に引こ船の後引かしもよここばこがたに
仮名 あしがりの あきなのやまに ひこふねの しりひかしもよ ここばこがたに
左注 (右三首相模國歌)
校異 なし
事項 東歌 譬喩歌 神奈川県 地名 恋愛
訓異 あしがりの;あしかりの, ここばこがたに;ここはこかたに,
   
  14/3432
題詞 なし
原文 阿之賀利乃 和乎可鶏夜麻能 可頭乃木能 和乎可豆佐祢母 可豆佐可受等母
訓読 足柄のわを可鶏山のかづの木の我をかづさねも門さかずとも
仮名 あしがりの わをかけやまの かづのきの わをかづさねも かづさかずとも
左注 (右三首相模國歌)
校異 なし
事項 東歌 譬喩歌 神奈川県 地名 植物 恋愛
訓異 あしがりの;あしかりの, かづのきの;かつのきの, わをかづさねも;わをかつさねも, かづさかずとも;かつさかすとも,
   
  14/3433
題詞 なし
原文 多伎木許流 可麻久良夜麻能 許太流木乎 麻都等奈我伊波婆 古非都追夜安良牟
訓読 薪伐る鎌倉山の木垂る木を松と汝が言はば恋ひつつやあらむ
仮名 たきぎこる かまくらやまの こだるきを まつとながいはば こひつつやあらむ
左注 右三首相模國歌
左注訓 右の三首は、相模の国の歌。
校異 なし
事項 東歌 譬喩歌 神奈川県 鎌倉 地名 掛詞 恋情
訓異 たきぎこる;たききこる, こだるきを;こたるきを, まつとながいはば;まつとなかいはは,
   
  14/3434
題詞 なし
原文 可美都家野 安蘇夜麻都豆良 野乎比呂美 波比尓思物能乎 安是加多延世武
訓読 上つ毛野阿蘇山つづら野を広み延ひにしものをあぜか絶えせむ
仮名 かみつけの あそやまつづら のをひろみ はひにしものを あぜかたえせむ
左注 (右三首上野國歌)
校異 なし
事項 東歌 譬喩歌 群馬県 地名 恋情
訓異 あそやまつづら;あそやまつつら, あぜかたえせむ;あせかたえせむ,
   
  14/3435
題詞 なし
原文 伊可保呂乃 蘇比乃波里波良 和我吉奴尓 都伎与良之母与 比多敝登於毛敝婆
訓読 伊香保ろの沿ひの榛原我が衣に着きよらしもよひたへと思へば
仮名 いかほろの そひのはりはら わがきぬに つきよらしもよ ひたへとおもへば
左注 (右三首上野國歌)
校異 なし
事項 東歌 譬喩歌 群馬県 地名 伊香保 恋愛
訓異 わがきぬに;わかきぬに, ひたへとおもへば;たへとおもへは,
   
  14/3436
題詞 なし
原文 志良登保布 乎尓比多夜麻乃 毛流夜麻乃 宇良賀礼勢奈<那> 登許波尓毛我母
訓読 しらとほふ小新田山の守る山のうら枯れせなな常葉にもがも
仮名 しらとほふ をにひたやまの もるやまの うらがれせなな とこはにもがも
左注 右三首上野國歌
左注訓 右の三首は、上野の国の歌。
校異 <>→那 [西(右書)][元][紀][温]
事項 東歌 譬喩歌 群馬県 地名 太田市 金山 恋情
訓異 うらがれせなな;うらかれせなな, とこはにもがも;とこはにもかも,
   
  14/3437
題詞 なし
原文 美知乃久能 安太多良末由美 波自伎於伎弖 西良思馬伎那婆 都良波可馬可毛
訓読 陸奥の安達太良真弓はじき置きて反らしめきなば弦はかめかも
仮名 みちのくの あだたらまゆみ はじきおきて せらしめきなば つらはかめかも
左注 右一首陸奥國歌
左注訓 右の一首は、陸奥の国の歌。
校異 なし
事項 東歌 譬喩歌 福島県 東北地方 地名 二本松市 安達太良山 女歌 浮気 恋愛
訓異 みちのくの;みちのくの, あだたらまゆみ;あたたらまゆみ, はじきおきて;はしきおきて, せらしめきなば;せらしめきなは,
   
 

雜歌

   
  14/3438
題詞 雜歌
原文 都武賀野尓 須受我於等伎許由 可牟思太能 等能乃奈可知師 登我里須良思母
訓読 都武賀野に鈴が音聞こゆ可牟思太の殿のなかちし鳥猟すらしも
仮名 つむがのに すずがおときこゆ かむしだの とののなかちし とがりすらしも
左注 或本歌曰 美都我野尓 又曰 和久胡思
左注訓 或ル本ノ歌ニ曰ク、美都我野みつがぬに。又曰ク、若子わくごし。
校異 なし
事項 東歌 雑歌 地名 静岡県 鷹狩り 狩り讃美
訓異 つむがのに;つむかのに, すずがおときこゆ;すすかおときこゆ, かむしだの;かむしたの, とがりすらしも;とかりすらしも,
   
  14/3438S
題詞 或本歌曰 又曰
題訓 或ル本ノ歌ニ曰ク、美都我野みつがぬに。又曰ク、若子わくごし。
原文 美都我野尓 和久胡思
訓読 美都我野に 若子し
仮名 みつがのに わくごし
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 雑歌 地名 異伝 狩り讃美
訓異 みつがのに;みつかのに, わくごし;わくこし,
   
  14/3439
題詞 なし
原文 須受我祢乃 波由馬宇馬夜能 都追美井乃 美都乎多麻倍奈 伊毛我多太手欲
訓読 鈴が音の早馬駅家の堤井の水を給へな妹が直手よ
仮名 すずがねの はゆまうまやの つつみゐの みづをたまへな いもがただてよ
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 雑歌 宿駅 宴席 歌謡
訓異 すずがねの;すすかねの, みづをたまへな;みつをたまへな, いもがただてよ;いもかたたてよ,
   
  14/3440
題詞 なし
原文 許乃河泊尓 安佐菜安良布兒 奈礼毛安礼毛 余知乎曽母弖流 伊R兒多婆里尓 [一云 麻之毛安礼母]
訓読 この川に朝菜洗ふ子汝れも我れもよちをぞ持てるいで子給りに [一云 ましも我れも]
仮名 このかはに あさなあらふこ なれもあれも よちをぞもてる いでこたばりに [ましもあれも]
左注 なし
左注訓 一ニ云ク、汝ましも吾あれも。
校異 泊 [元][紀] 伯
事項 東歌 雑歌 戯笑 宴席 異伝 歌謡 東歌
訓異 よちをぞもてる;ちよをそもてる, いでこたばりに;いてこたはりに,
   
  14/3441
題詞 なし
原文 麻等保久能 久毛為尓見由流 伊毛我敝尓 伊都可伊多良武 安由賣安我古麻
訓読 ま遠くの雲居に見ゆる妹が家にいつか至らむ歩め我が駒
仮名 まとほくの くもゐにみゆる いもがへに いつかいたらむ あゆめあがこま
左注 柿本朝臣人麻呂歌集曰 等保久之弖 又曰 安由賣久路古<麻>
左注訓 柿本朝臣人麻呂ノ歌集ニ曰ク、遠くして。又曰ク、歩め黒駒。
校異 麿→麻 [元][類][紀]
事項 東歌 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 異伝 羈旅 恋情 望郷
訓異 いもがへに;いもかへに, あゆめあがこま;あゆめあかこま,
   
  14/3441S
題詞 柿本朝臣人麻呂歌集曰 又曰
題訓 柿本朝臣人麻呂ノ歌集ニ曰ク、遠くして。又曰ク、歩め黒駒。
原文 等保久之弖 安由賣久路古<麻>
訓読 遠くして 歩め黒駒
仮名 とほくして あゆめくろこま
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 雑歌 異伝 作者:柿本人麻呂歌集 羈旅 恋情 望郷
訓異 -
   
  14/3442
題詞 なし
原文 安豆麻治乃 手兒乃欲妣左賀 古要我祢弖 夜麻尓可祢牟毛 夜杼里波奈之尓
訓読 東道の手児の呼坂越えがねて山にか寝むも宿りはなしに
仮名 あづまぢの てごのよびさか こえがねて やまにかねむも やどりはなしに
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 雑歌 地名 静岡県 蒲原町 羈旅 難渋
訓異 あづまぢの;あつまちの, てごのよびさか;てこのよひさか, こえがねて;こえかねて, やどりはなしに;やとりはなしに,
   
  14/3443
題詞 なし
原文 宇良毛奈久 和我由久美知尓 安乎夜宜乃 波里弖多弖礼波 物能毛比弖都母
訓読 うらもなく我が行く道に青柳の張りて立てれば物思ひ出つも
仮名 うらもなく わがゆくみちに あをやぎの はりてたてれば ものもひでつも
左注 なし
校異 弖 [元][類][古] 豆
事項 東歌 雑歌 植物 羈旅 望郷
訓異 わがゆくみちに;わかゆくみちに, あをやぎの;あをやきの, はりてたてれば;はりてたてれは, ものもひでつも;ものもひつつも,
   
  14/3444
題詞 なし
原文 伎波都久乃 乎加能久君美良 和礼都賣杼 故尓毛<美>多奈布 西奈等都麻佐祢
訓読 伎波都久の岡のくくみら我れ摘めど籠にも満たなふ背なと摘まさね
仮名 きはつくの をかのくくみら われつめど こにもみたなふ せなとつまさね
左注 なし
校異 乃→美 [万葉考]
事項 東歌 雑歌 地名 茨城県 真壁郡 植物 野遊び 掛醎合媿 女歌 歌垣 歌謡 恋愛
訓異 われつめど;われつめと, こにもみたなふ;こにものたなふ,
   
  14/3445
題詞 なし
原文 美奈刀<能> 安之我奈可那流 多麻古須氣 可利己和我西古 等許乃敝太思尓
訓読 港の葦が中なる玉小菅刈り来我が背子床の隔しに
仮名 みなとの あしがなかなる たまこすげ かりこわがせこ とこのへだしに
左注 なし
校異 安之能→能 [元][類][古][紀] [西(訂正左書)] 能也
事項 東歌 雑歌 植物 女歌 恋愛
訓異 あしがなかなる;あしかなかなる, たまこすげ;たまこすけ, かりこわがせこ;かりこわかせこ, とこのへだしに;とこのへたしに,
   
  14/3446
題詞 なし
原文 伊毛奈呂我 都可布河泊豆乃 佐<左良乎疑> 安志等比<登>其等 加多理与良斯毛
訓読 妹なろが使ふ川津のささら荻葦と人言語りよらしも
仮名 いもなろが つかふかはづの ささらをぎ あしとひとごと かたりよらしも
左注 なし
校異 泊 [元][紀] 伯 / 左良乎疑 [西(上書訂正)][元][類][紀] / 等→登 [元][類][紀]
事項 東歌 雑歌 植物 尫柜蹋 譬喩 恋愛 遊行女婦
訓異 いもなろが;いもなろか, つかふかはづの;つかふかはつの, ささらをぎ;ささらをき, あしとひとごと;あしとひとこと,
   
  14/3447
題詞 なし
原文 久佐可氣乃 安努奈由可武等 波里之美知 阿努波由加受弖 阿良久佐太知奴
訓読 草蔭の安努な行かむと墾りし道安努は行かずて荒草立ちぬ
仮名 くさかげの あのなゆかむと はりしみち あのはゆかずて あらくさだちぬ
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 雑歌 植物 地名 静岡県 浮島沼 枕詞 新道 譬喩
訓異 くさかげの;くさかけの, あのなゆかむと;あのとなゆかむと, あのはゆかずて;あのとはゆかすて, あらくさだちぬ;あらくさたちぬ,
   
  14/3448
題詞 なし
原文 波奈治良布 己能牟可都乎乃 乎那能乎能 比自尓都久麻提 伎美我与母賀母
訓読 花散らふこの向つ峰の乎那の峰のひじにつくまで君が代もがも
仮名 はなぢらふ このむかつをの をなのをの ひじにつくまで きみがよもがも
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 雑歌 地名 静岡県 引佐郡 三日ヶ町 尾奈山 寿歌 長久
訓異 はなぢらふ;はなちらふ, ひじにつくまで;ひしにつくさま, きみがよもがも;きみかよもかも,
   
  14/3449
題詞 なし
原文 思路多倍乃 許呂母能素R乎 麻久良我欲 安麻許伎久見由 奈美多都奈由米
訓読 白栲の衣の袖を麻久良我よ海人漕ぎ来見ゆ波立つなゆめ
仮名 しろたへの ころものそでを まくらがよ あまこぎくみゆ なみたつなゆめ
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 雑歌 枕詞 地名 茨城県 古川市 掛詞
訓異 ころものそでを;ころものそてを, まくらがよ;まくらかよ, あまこぎくみゆ;あまこきくみゆ,
   
  14/3450
題詞 なし
原文 乎久佐乎等 乎具佐受家乎等 斯抱布祢乃 那良敝弖美礼婆 乎具佐可<知>馬利
訓読 乎久佐男と乎具佐受家男と潮舟の並べて見れば乎具佐勝ちめり
仮名 をくさをと をぐさずけをと しほぶねの ならべてみれば をぐさかちめり
左注 なし
校異 利→知 [類]
事項 東歌 雑歌 地名 宴席 戯笑
訓異 をぐさずけをと;をくさすけをと, しほぶねの;しほふねの, ならべてみれば;ならへてみれは, をぐさかちめり;をくさかりめり,
   
  14/3451
題詞 なし
原文 左奈都良能 乎可尓安波麻伎 可奈之伎我 <古>麻波多具等毛 和波素登毛波自
訓読 左奈都良の岡に粟蒔き愛しきが駒は食ぐとも我はそとも追じ
仮名 さなつらの をかにあはまき かなしきが こまはたぐとも わはそともはじ
左注 なし
校異 古 [西(上書訂正)][元][類][紀]
事項 東歌 雑歌 地名 植物 動物 女歌 宴席
訓異 かなしきが;かなしきか, こまはたぐとも;こまはたくとも, わはそともはじ;わはそともはし,
   
  14/3452
題詞 なし
原文 於毛思路伎 野乎婆奈夜吉曽 布流久左尓 仁比久佐麻自利 於非波於布流我尓
訓読 おもしろき野をばな焼きそ古草に新草交り生ひは生ふるがに
仮名 おもしろき のをばなやきそ ふるくさに にひくさまじり おひはおふるがに
左注 なし
校異 左 [元][類] 佐
事項 東歌 雑歌 野焼翮
訓異 のをばなやきそ;のをはなやきそ, にひくさまじり;にひくさましり, おひはおふるがに;おひはおふるかに,
   
  14/3453
題詞 なし
原文 可是<能>等能 登抱吉和伎母賀 吉西斯伎奴 多母登乃久太利 麻欲比伎尓家利
訓読 風の音の遠き我妹が着せし衣手本のくだりまよひ来にけり
仮名 かぜのとの とほきわぎもが きせしきぬ たもとのくだり まよひきにけり
左注 なし
校異 乃→能 [元][類]
事項 東歌 雑歌 枕詞 羈旅 望郷
訓異 かぜのとの;かせのとの, とほきわぎもが;とほきわきもか, たもとのくだり;たもとのくたり,
   
  14/3454
題詞 なし
原文 尓波尓多都 安佐提古夫須麻 許余比太尓 都麻余之許西祢 安佐提古夫須麻
訓読 庭に立つ麻手小衾今夜だに夫寄しこせね麻手小衾
仮名 にはにたつ あさでこぶすま こよひだに つまよしこせね あさでこぶすま
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 雑歌 植物 恋情
訓異 あさでこぶすま;あさてこふすま, こよひだに;こよひたに, つまよしこせね;つまよしこさね, あさでこぶすま;あさてこふすま,
   
 

相聞2

   
  14/3455
題詞 相聞
原文 古非思家婆 伎麻世和我勢古 可伎都楊疑 宇礼都美可良思 和礼多知麻多牟
訓読 恋しけば来ませ我が背子垣つ柳末摘み枯らし我れ立ち待たむ
仮名 こひしけば きませわがせこ かきつやぎ うれつみからし われたちまたむ
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 女歌 恋情 植物
訓異 こひしけば;こひしけは, きませわがせこ;きませわかせこ, かきつやぎ;かきつやき,
   
  14/3456
題詞 なし
原文 宇都世美能 夜蘇許登乃敝波 思氣久等母 安良蘇比可祢弖 安乎許登奈須那
訓読 うつせみの八十言のへは繁くとも争ひかねて我を言なすな
仮名 うつせみの やそことのへは しげくとも あらそひかねて あをことなすな
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 尫柜蹋 恋愛 女歌
訓異 やそことのへは;よそことのへは, しげくとも;しけくとも,
   
  14/3457
題詞 なし
原文 宇知日佐須 美夜能和我世波 夜麻<登>女乃 比射麻久其登尓 安乎和須良須奈
訓読 うちひさす宮の我が背は大和女の膝まくごとに我を忘らすな
仮名 うちひさす みやのわがせは やまとめの ひざまくごとに あをわすらすな
左注 なし
校異 等→登 [元][類][古][紀]
事項 東歌 相聞 恋愛 不安 別離 女歌
訓異 みやのわがせは;みやのわかせは, ひざまくごとに;ひさまくことに,
   
  14/3458
題詞 なし
原文 奈勢能古夜 等里乃乎加恥志 奈可太乎礼 安乎祢思奈久与 伊久豆君麻弖尓
訓読 汝背の子や等里の岡道しなかだ折れ我を音し泣くよ息づくまでに
仮名 なせのこや とりのをかちし なかだをれ あをねしなくよ いくづくまでに
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 地名 恋情 後朝 女歌
訓異 なかだをれ;なかたをれ, いくづくまでに;いきつくまてに,
   
  14/3459
題詞 なし
原文 伊祢都氣波 可加流安我<手>乎 許余比毛可 等能乃和久胡我 等里弖奈氣可武
訓読 稲つけばかかる我が手を今夜もか殿の若子が取りて嘆かむ
仮名 いねつけば かかるあがてを こよひもか とののわくごが とりてなげかむ
左注 なし
校異 手 [西(上書訂正)][元][類][紀]
事項 東歌 相聞 女歌 作業歌 恋愛
訓異 いねつけば;いねつけは, かかるあがてを;かかるあかてを, とののわくごが;とののわくこか, とりてなげかむ;とりてなけかむ,
   
  14/3460
題詞 なし
原文 多礼曽許能 屋能戸於曽夫流 尓布奈未尓 和<我>世乎夜里弖 伊波布許能戸乎
訓読 誰れぞこの屋の戸押そぶる新嘗に我が背を遣りて斎ふこの戸を
仮名 たれぞこの やのとおそぶる にふなみに わがせをやりて いはふこのとを
左注 なし
校異 家→我 [元][類][古]
事項 東歌 相聞 女歌 新嘗 咎姤歌 妻問媿
訓異 たれぞこの;たれそこの, やのとおそぶる;やとのおそふる, わがせをやりて;わけせをやりて,
   
  14/3461
題詞 なし
原文 安是登伊敝可 佐宿尓安波奈久尓 真日久礼弖 与比奈波許奈尓 安家奴思太久流
訓読 あぜと言へかさ寝に逢はなくにま日暮れて宵なは来なに明けぬしだ来る
仮名 あぜといへか さねにあはなくに まひくれて よひなはこなに あけぬしだくる
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 女歌 恋情 妻問媿 怨恨
訓異 あぜといへか;あせといへか, あけぬしだくる;あけぬしたくる,
   
  14/3462
題詞 なし
原文 安志比奇乃 夜末佐波妣登乃 比登佐波尓 麻奈登伊布兒我 安夜尓可奈思佐
訓読 あしひきの山沢人の人さはにまなと言ふ子があやに愛しさ
仮名 あしひきの やまさはびとの ひとさはに まなといふこが あやにかなしさ
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 枕詞 恋情
訓異 やまさはびとの;やまさはひとの, まなといふこが;まなといふこか,
   
  14/3463
題詞 なし
原文 麻等保久能 野尓毛安波奈牟 己許呂奈久 佐刀乃美奈可尓 安敝流世奈可母
訓読 ま遠くの野にも逢はなむ心なく里のみ中に逢へる背なかも
仮名 まとほくの のにもあはなむ こころなく さとのみなかに あへるせなかも
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 人目 尫柜蹋 恋愛 女歌
訓異 さとのみなかに;さとのみなかみ,
   
  14/3464
題詞 なし
原文 比登其登乃 之氣吉尓余里弖 麻乎其母能 於夜自麻久良波 和波麻可自夜毛
訓読 人言の繁きによりてまを薦の同じ枕は我はまかじやも
仮名 ひとごとの しげきによりて まをごもの おやじまくらは わはまかじやも
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 尫柜蹋 恋愛 女歌
訓異 ひとごとの;ひとことの, しげきによりて;しけきによりて, まをごもの;まをこもの, おやじまくらは;おやしまくらは, わはまかじやも;わはまかしやも,
   
  14/3465
題詞 なし
原文 巨麻尓思吉 比毛登伎佐氣弖 奴流我倍尓 安杼世呂登可母 安夜尓可奈之伎
訓読 高麗錦紐解き放けて寝るが上にあどせろとかもあやに愛しき
仮名 こまにしき ひもときさけて ぬるがへに あどせろとかも あやにかなしき
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 恋情 女歌
訓異 ぬるがへに;ぬるかへに, あどせろとかも;あとせろとかも,
   
  14/3466
題詞 なし
原文 麻可奈思美 奴礼婆許登尓豆 佐祢奈敝波 己許呂乃緒呂尓 能里弖可奈思母
訓読 ま愛しみ寝れば言に出さ寝なへば心の緒ろに乗りて愛しも
仮名 まかなしみ ぬればことにづ さねなへば こころのをろに のりてかなしも
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 尫柜蹋 恋情 女歌
訓異 ぬればことにづ;ぬれはことにつ, さねなへば;さねなへは,
   
  14/3467
題詞 なし
原文 於久夜麻能 真木乃伊多度乎 等杼登之弖 和<我>比良可武尓 伊利伎弖奈左祢
訓読 奥山の真木の板戸をとどとして我が開かむに入り来て寝さね
仮名 おくやまの まきのいたとを とどとして わがひらかむに いりきてなさね
左注 なし
校異 我 [西(上書訂正)][元][類][古][紀]
事項 東歌 相聞 妻問媿 恋愛
訓異 とどとして;とととして, わがひらかむに;わかひらかむに,
   
  14/3468
題詞 なし
原文 夜麻杼里乃 乎呂能<波>都乎尓 可賀美可家 刀奈布倍美許曽 奈尓与曽利鶏米
訓読 山鳥の峰ろのはつをに鏡懸け唱ふべみこそ汝に寄そりけめ
仮名 やまとりの をろのはつをに かがみかけ となふべみこそ なによそりけめ
左注 なし
校異 <>→波 [西(左書)][元][類][紀]
事項 東歌 相聞 尫柜蹋 恋愛 神祭り
訓異 かがみかけ;かかみかけ, となふべみこそ;となふへみこそ,
   
  14/3469
題詞 なし
原文 由布氣尓毛 許余比登乃良路 和賀西奈波 阿是曽母許与比 与斯呂伎麻左奴
訓読 夕占にも今夜と告らろ我が背なはあぜぞも今夜寄しろ来まさぬ
仮名 ゆふけにも こよひとのらろ わがせなは あぜぞもこよひ よしろきまさぬ
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 女歌 妻問媿 恋情
訓異 わがせなは;わかせなは, あぜぞもこよひ;あせそもこよひ,
   
  14/3470
題詞 なし
原文 安比見弖波 千等世夜伊奴流 伊奈乎加<母> 安礼也思加毛布 伎美末知我弖尓 [柿本朝臣人麻呂歌集出也]
訓読 相見ては千年やいぬるいなをかも我れやしか思ふ君待ちがてに [柿本朝臣人麻呂歌集出也]
仮名 あひみては ちとせやいぬる いなをかも あれやしかもふ きみまちがてに
左注 なし
左注訓 柿本朝臣人麻呂ノ歌集ニ出ヅ。
校異 毛→母 [類][紀]
事項 東歌 相聞 女歌 恋情 作者:柿本人麻呂歌集
訓異 きみまちがてに;きみまちかてに,
   
  14/3471
題詞 なし
原文 思麻良久波 祢都追母安良牟乎 伊米能未尓 母登奈見要都追 安乎祢思奈久流
訓読 しまらくは寝つつもあらむを夢のみにもとな見えつつ我を音し泣くる
仮名 しまらくは ねつつもあらむを いめのみに もとなみえつつ あをねしなくる
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 恋情 女歌
訓異 -
   
  14/3472
題詞 なし
原文 比登豆麻等 安是可曽乎伊波牟 志可良<婆>加 刀奈里乃伎奴乎 可里弖伎奈波毛
訓読 人妻とあぜかそを言はむしからばか隣の衣を借りて着なはも
仮名 ひとづまと あぜかそをいはむ しからばか となりのきぬを かりてきなはも
左注 なし
校異 波→婆 [元][紀][古]
事項 東歌 相聞 怨恨 恋情
訓異 ひとづまと;ひとつまと, あぜかそをいはむ;あせかそをいはむ, しからばか;しからはか,
   
  14/3473
題詞 なし
原文 左努夜麻尓 宇都也乎能登乃 等抱可騰母 祢毛等可兒呂賀 於<母>尓美要都留
訓読 左努山に打つや斧音の遠かども寝もとか子ろが面に見えつる
仮名 さのやまに うつやをのとの とほかども ねもとかころが おもにみえつる
左注 なし
校異 由→母 [万葉考]
事項 東歌 相聞 地名 群馬県 高崎市 栃木県 佐野市 羈旅 恋情 序詞
訓異 とほかども;とほかとも, ねもとかころが;ねもとかころか, おもにみえつる;おゆにみえつる,
   
  14/3474
題詞 なし
原文 宇恵太氣能 毛登左倍登与美 伊R弖伊奈婆 伊豆思牟伎弖可 伊毛我奈氣可牟
訓読 植ゑ竹の本さへ響み出でて去なばいづし向きてか妹が嘆かむ
仮名 うゑだけの もとさへとよみ いでていなば いづしむきてか いもがなげかむ
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 羈旅 別離 恋愛 植物
訓異 うゑだけの;うえたけの, いでていなば;いてていなは, いづしむきてか;いつしむきてか, いもがなげかむ;いもかなけかむ,
   
  14/3475
題詞 なし
原文 古非都追母 乎良牟等須礼杼 遊布麻夜万 可久礼之伎美乎 於母比可祢都母
訓読 恋ひつつも居らむとすれど遊布麻山隠れし君を思ひかねつも
仮名 こひつつも をらむとすれど ゆふまやま かくれしきみを おもひかねつも
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 地名 女歌 別離 羈旅
訓異 をらむとすれど;をらむとすれと,
   
  14/3476
題詞 なし
原文 宇倍兒奈波 和奴尓故布奈毛 多刀都久能 努賀奈敝由家婆 故布思可流奈母
訓読 うべ子なは我ぬに恋ふなも立と月のぬがなへ行けば恋しかるなも
仮名 うべこなは わぬにこふなも たとつくの ぬがなへゆけば こふしかるなも
左注 或本歌末句曰 奴我奈敝由家杼 和<奴><由賀>乃敝波
左注訓 或ル本ノ末ノ句ニ曰ク、ぬがなへ行けど我ぬ行がのへば
校異 努→奴 [元][類][紀] / 賀由→由賀 [万葉集略解]
事項 東歌 相聞 羈旅 恋情
訓異 うべこなは;うへこなは, ぬがなへゆけば;ぬかなへゆけは,
   
  14/3476S
題詞 或本歌末句曰
題訓 或ル本ノ末ノ句ニ曰ク、
原文 奴我奈敝由家杼 和<奴><由賀>乃敝波
訓読 ぬがなへ行けど我ぬ行がのへば
仮名 ぬがなへゆけど わぬゆがのへば
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 恋情 異伝
訓異 ぬがなへゆけど;のかなへゆけと, わぬゆがのへば;わのかゆのへは,
   
  14/3477
題詞 なし
原文 安都麻道乃 手兒乃欲婢佐可 古要弖伊奈婆 安礼波古非牟奈 能知波安比奴登母
訓読 東路の手児の呼坂越えて去なば我れは恋ひむな後は逢ひぬとも
仮名 あづまぢの てごのよびさか こえていなば あれはこひむな のちはあひぬとも
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 地名 静岡県 蒲原町 羈旅 恋情
訓異 あづまぢの;あつまちの, てごのよびさか;てこのよひさか, こえていなば;こえていなは,
   
  14/3478
題詞 なし
原文 等保斯等布 故奈乃思良祢尓 阿抱思太毛 安波乃敝思太毛 奈尓己曽与佐礼
訓読 遠しとふ故奈の白嶺に逢ほしだも逢はのへしだも汝にこそ寄され
仮名 とほしとふ こなのしらねに あほしだも あはのへしだも なにこそよされ
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 地名 群馬県 白根山 石川県 白山 尫柜蹋 恋愛 羈旅
訓異 あほしだも;あほしたも, あはのへしだも;あはのへしたも,
   
  14/3479
題詞 なし
原文 安可見夜麻 久左祢可利曽氣 安波須賀倍 安良蘇布伊毛之 安夜尓可奈之毛
訓読 安可見山草根刈り除け逢はすがへ争ふ妹しあやに愛しも
仮名 あかみやま くさねかりそけ あはすがへ あらそふいもし あやにかなしも
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 地名 栃木県 佐野市 赤見町 恋愛
訓異 あはすがへ;あはすかへ,
   
  14/3480
題詞 なし
原文 於保伎美乃 美己等可思古美 可奈之伊毛我 多麻久良波奈礼 欲太知伎努可母
訓読 大君の命畏み愛し妹が手枕離れ夜立ち来のかも
仮名 おほきみの みことかしこみ かなしいもが たまくらはなれ よだちきのかも
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 防人 恋情 羈旅 出発 別離
訓異 かなしいもが;かなしいもか, よだちきのかも;よたちきぬかも,
   
  14/3481
題詞 なし
原文 安利伎奴乃 佐恵々々之豆美 伊敝能伊母尓 毛乃伊波受伎尓弖 於毛比具流之母
訓読 あり衣のさゑさゑしづみ家の妹に物言はず来にて思ひ苦しも
仮名 ありきぬの さゑさゑしづみ いへのいもに ものいはずきにて おもひぐるしも
左注 柿本朝臣人麻呂歌集中出 見上已<訖>也
左注訓 柿本朝臣人麻呂ノ歌集ノ中ニ出ヅ。上ニ見エタルコト已ニ記セリ。
校異 説→訖 [類][紀][古][矢]
事項 東歌 相聞 作者:柿本人麻呂歌集 重出 羈旅 出発 別離 恋情
訓異 さゑさゑしづみ;さゑさゑしつみ, ものいはずきにて;もののいはすきにて, おもひぐるしも;おもひくるしも,
   
  14/3482
題詞 なし
原文 可良許呂毛 須蘇乃宇知可倍 安波祢杼毛 家思吉己許呂乎 安我毛波奈久尓
訓読 韓衣裾のうち交へ逢はねども異しき心を我が思はなくに
仮名 からころも すそのうちかへ あはねども けしきこころを あがもはなくに
左注 或本歌曰 可良己呂母 須素能宇知可比 阿波奈敝婆 祢奈敝乃可良尓 許等多可利都母
左注訓 或ル本ノ歌ニ曰ク、
韓衣裾の打交うちかひ逢はなへば寝なへのからに言痛ことたかりつも
校異 なし
事項 東歌 相聞 恋愛 序詞
訓異 あはねども;あはねとも, あがもはなくに;あかもはなくに,
   
  14/3482S
題詞 或本歌曰
題訓 或ル本ノ歌ニ曰ク、
原文 可良己呂母 須素能宇知可比 阿波奈敝婆 祢奈敝乃可良尓 許等多可利都母
訓読 韓衣裾のうち交ひ逢はなへば寝なへのからに言痛かりつも
仮名 からころも すそのうちかひ あはなへば ねなへのからに ことたかりつも
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 尫柜蹋 恋愛 異伝
訓異 あはなへば;あはなへは,
   
  14/3483
題詞 なし
原文 比流等家波 等<家>奈敝比毛乃 和賀西奈尓 阿比与流等可毛 欲流等家也須家
訓読 昼解けば解けなへ紐の我が背なに相寄るとかも夜解けやすけ
仮名 ひるとけば とけなへひもの わがせなに あひよるとかも よるとけやすけ
左注 なし
校異 <>→家 [西(右書)][元][類][古][紀]
事項 東歌 相聞 女歌 恋情 妻問媿
訓異 ひるとけば;ひるとけは, わがせなに;わかせなに, よるとけやすけ;よるとけやする,
   
  14/3484
題詞 なし
原文 安左乎良乎 遠家尓布須左尓 宇麻受登毛 安須伎西佐米也 伊射西乎騰許尓
訓読 麻苧らを麻笥にふすさに績まずとも明日着せさめやいざせ小床に
仮名 あさをらを をけにふすさに うまずとも あすきせさめや いざせをどこに
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 恋愛
訓異 うまずとも;うますとも, いざせをどこに;いささをとこに,
   
  14/3485
題詞 なし
原文 都流伎多知 身尓素布伊母乎 等里見我祢 哭乎曽奈伎都流 手兒尓安良奈久尓
訓読 剣大刀身に添ふ妹を取り見がね音をぞ泣きつる手児にあらなくに
仮名 つるぎたち みにそふいもを とりみがね ねをぞなきつる てごにあらなくに
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 枕詞 恋愛
訓異 つるぎたち;つるきたち, とりみがね;とりみかね, ねをぞなきつる;ねをそなきつる, てごにあらなくに;てこにあらなくに,
   
  14/3486
題詞 なし
原文 可奈思伊毛乎 由豆加奈倍麻伎 母許呂乎乃 許登等思伊波婆 伊夜可多麻斯尓
訓読 愛し妹を弓束並べ巻きもころ男のこととし言はばいや勝たましに
仮名 かなしいもを ゆづかなべまき もころをの こととしいはば いやかたましに
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 恋情 逢会
訓異 ゆづかなべまき;ゆつかなへまき, こととしいはば;こととしいはは,
   
  14/3487
題詞 なし
原文 安豆左由美 須恵尓多麻末吉 可久須酒曽 宿莫奈那里尓思 於久乎可奴加奴
訓読 梓弓末に玉巻きかくすすぞ寝なななりにし奥をかぬかぬ
仮名 あづさゆみ すゑにたままき かくすすぞ ねなななりにし おくをかぬかぬ
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 恋情
訓異 あづさゆみ;あつさゆみ, かくすすぞ;かくすすそ,
   
  14/3488
題詞 なし
原文 於布之毛等 許乃母登夜麻乃 麻之波尓毛 能良奴伊毛我名 可多尓伊弖牟可母
訓読 生ふしもとこの本山のましばにも告らぬ妹が名かたに出でむかも
仮名 おふしもと このもとやまの ましばにも のらぬいもがな かたにいでむかも
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 尫柜蹋 植物 不安 恋愛
訓異 ましばにも;ましはにも, のらぬいもがな;のらぬいもかな, かたにいでむかも;かたにいてむかも,
   
  14/3489
題詞 なし
原文 安豆左由美 欲良能夜麻邊能 之牙可久尓 伊毛呂乎多弖天 左祢度波良布母
訓読 梓弓欲良の山辺の茂かくに妹ろを立ててさ寝処払ふも
仮名 あづさゆみ よらのやまへの しげかくに いもろをたてて さねどはらふも
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 地名 枕詞 恋愛
訓異 あづさゆみ;あつさゆみ, しげかくに;しけかくに, さねどはらふも;さねとはらふも,
   
  14/3490
題詞 なし
原文 安都左由美 須恵波余里祢牟 麻左可許曽 比等目乎於保美 奈乎波思尓於家礼 [柿本朝臣人麻呂歌集出也]
訓読 梓弓末は寄り寝むまさかこそ人目を多み汝をはしに置けれ [柿本朝臣人麻呂歌集出也]
仮名 あづさゆみ すゑはよりねむ まさかこそ ひとめをおほみ なをはしにおけれ
左注 なし
左注訓 柿本朝臣人麻呂ノ歌集ノ中ニ出ヅ。
校異 なし
事項 東歌 相聞 人目 尫柜蹋 枕詞 恋情 作者:柿本人麻呂歌集
訓異 あづさゆみ;あつさゆみ,
   
  14/3491
題詞 なし
原文 楊奈疑許曽 伎礼波伴要須礼 余能比等乃 古非尓思奈武乎 伊可尓世余等曽
訓読 柳こそ伐れば生えすれ世の人の恋に死なむをいかにせよとぞ
仮名 やなぎこそ きればはえすれ よのひとの こひにしなむを いかにせよとぞ
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 植物 恋情 女歌
訓異 やなぎこそ;やなきこそ, きればはえすれ;きれははえすれ, いかにせよとぞ;いかにせよとそ,
   
  14/3492
題詞 なし
原文 乎夜麻田乃 伊氣能都追美尓 左須楊奈疑 奈里毛奈良受毛 奈等布多里波母
訓読 小山田の池の堤にさす柳成りも成らずも汝と二人はも
仮名 をやまだの いけのつつみに さすやなぎ なりもならずも なとふたりはも
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 植物 恋情
訓異 をやまだの;をやまたの, さすやなぎ;さすやなき, なりもならずも;なりもならすも,
   
  14/3493
題詞 なし
原文 於曽波夜母 奈乎許曽麻多賣 牟可都乎能 四比乃故夜提能 安比波多<我>波自
訓読 遅速も汝をこそ待ため向つ峰の椎の小やで枝の逢ひは違はじ
仮名 おそはやも なをこそまため むかつをの しひのこやでの あひはたがはじ
左注 或本歌曰 於曽波夜毛 伎美乎思麻多武 牟可都乎能 思比乃佐要太能 登吉波須具登母
左注訓 或ル本ノ歌ニ曰ク、
遅速も君をし待たむ向つ峰の椎のさ枝の時は過ぐとも
校異 家→我 [元][類]
事項 東歌 相聞 植物 恋情 異伝
訓異 しひのこやでの;しひのこやての, あひはたがはじ;あひはたかはし,
   
  14/3493S
題詞 或本歌曰
題訓 或ル本ノ歌ニ曰ク、
原文 於曽波夜毛 伎美乎思麻多武 牟可都乎能 思比乃佐要太能 登吉波須具登母
訓読 遅速も君をし待たむ向つ峰の椎のさ枝の時は過ぐとも
仮名 おそはやも きみをしまたむ むかつをの しひのさえだの ときはすぐとも
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 異伝 植物 恋情
訓異 しひのさえだの;しひのさえたの, ときはすぐとも;ときはすくとも,
   
  14/3494
題詞 なし
原文 兒毛知夜麻 和可加敝流弖能 毛美都麻弖 宿毛等和波毛布 汝波安杼可毛布
訓読 子持山若かへるでのもみつまで寝もと我は思ふ汝はあどか思ふ
仮名 こもちやま わかかへるでの もみつまで ねもとわはもふ なはあどかもふ
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 地名 群馬県 子持村 恋情 植物
訓異 わかかへるでの;わかかへるての, もみつまで;もみつまて, なはあどかもふ;なはあとかもふ,
   
  14/3495
題詞 なし
原文 伊波保呂乃 蘇比能和可麻都 可藝里登也 伎美我伎麻左奴 宇良毛等奈久文
訓読 巌ろの沿ひの若松限りとや君が来まさぬうらもとなくも
仮名 いはほろの そひのわかまつ かぎりとや きみがきまさぬ うらもとなくも
左注 なし
校異 文 [細] 毛
事項 東歌 相聞 植物 怨恨 恋情 女歌
訓異 かぎりとや;かきりとや, きみがきまさぬ;きみかきまさぬ,
   
  14/3496
題詞 なし
原文 多知婆奈乃 古婆乃波奈里我 於毛布奈牟 己許呂宇都久思 伊弖安礼波伊可奈
訓読 橘の古婆の放髪が思ふなむ心うつくしいで我れは行かな
仮名 たちばなの こばのはなりが おもふなむ こころうつくし いであれはいかな
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 地名 神奈川県 川崎市 恋情
訓異 たちばなの;たちはなの, こばのはなりが;こはのはなりか, いであれはいかな;いてあれはいかな,
   
  14/3497
題詞 なし
原文 可波加美能 祢自路多可我夜 安也尓阿夜尓 左宿佐寐弖許曽 己登尓弖尓思可
訓読 川上の根白高萱あやにあやにさ寝さ寝てこそ言に出にしか
仮名 かはかみの ねじろたかがや あやにあやに さねさねてこそ ことにでにしか
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 植物 恋愛 譬喩 尫柜蹋
訓異 ねじろたかがや;ねしろたかかや, ことにでにしか;ことにてにしか,
   
  14/3498
題詞 なし
原文 宇奈波良乃 根夜波良古須氣 安麻多安礼婆 伎美波和須良酒 和礼和須流礼夜
訓読 海原の根柔ら小菅あまたあれば君は忘らす我れ忘るれや
仮名 うなはらの ねやはらこすげ あまたあれば きみはわすらす われわするれや
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 植物 譬喩 女歌 怨恨 恋情
訓異 ねやはらこすげ;ねやはらこすけ, あまたあれば;あまたあれは, われわするれや;われはするれや,
   
  14/3499
題詞 なし
原文 乎可尓与西 和我可流加夜能 佐祢加夜能 麻許等奈其夜波 祢呂等敝奈香母
訓読 岡に寄せ我が刈る萱のさね萱のまことなごやは寝ろとへなかも
仮名 をかによせ わがかるかやの さねかやの まことなごやは ねろとへなかも
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 植物 譬喩 恋愛 勧誘
訓異 わがかるかやの;わかかるかやの, まことなごやは;まことなこやは,
   
  14/3500
題詞 なし
原文 牟良佐伎波 根乎可母乎布流 比等乃兒能 宇良我奈之家乎 祢乎遠敝奈久尓
訓読 紫草は根をかも終ふる人の子のうら愛しけを寝を終へなくに
仮名 むらさきは ねをかもをふる ひとのこの うらがなしけを ねををへなくに
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 植物 譬喩 恋愛
訓異 うらがなしけを;うらかなしけを,
   
  14/3501
題詞 なし
原文 安波乎呂能 乎呂田尓於波流 多波美豆良 比可婆奴流奴留 安乎許等奈多延
訓読 安波峰ろの峰ろ田に生はるたはみづら引かばぬるぬる我を言な絶え
仮名 あはをろの をろたにおはる たはみづら ひかばぬるぬる あをことなたえ
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 地名 千葉県 植物 序詞 女歌 恋情
訓異 たはみづら;たはみつら, ひかばぬるぬる;ひかはぬるぬる,
   
  14/3502
題詞 なし
原文 和我目豆麻 比等波左久礼杼 安佐我保能 等思佐倍己其登 和波佐可流我倍
訓読 我が目妻人は放くれど朝顔のとしさへこごと我は離るがへ
仮名 わがめづま ひとはさくれど あさがほの としさへこごと わはさかるがへ
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 恋情 人目 枕詞
訓異 わがめづま;わかまつま, ひとはさくれど;ひとはさくれと, あさがほの;あさかほの, としさへこごと;としさへここと, わはさかるがへ;わはさかるかへ,
   
  14/3503
題詞 なし
原文 安齊可我多 志保悲乃由多尓 於毛敝良婆 宇家良我波奈乃 伊呂尓弖米也母
訓読 安齊可潟潮干のゆたに思へらばうけらが花の色に出めやも
仮名 あせかがた しほひのゆたに おもへらば うけらがはなの いろにでめやも
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 地名 植物 恋情 序詞
訓異 あせかがた;あさかかた, おもへらば;おもへらは, うけらがはなの;うけらかはなの, いろにでめやも;いろにてめやも,
   
  14/3504
題詞 なし
原文 波流敝左久 布治能宇良葉乃 宇良夜須尓 左奴流夜曽奈伎 兒呂乎之毛倍婆
訓読 春へ咲く藤の末葉のうら安にさ寝る夜ぞなき子ろをし思へば
仮名 はるへさく ふぢのうらばの うらやすに さぬるよぞなき ころをしもへば
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 植物 序詞 恋情
訓異 ふぢのうらばの;ふちのうらはの, さぬるよぞなき;さぬるよそなき, ころをしもへば;ころをしもへは,
   
  14/3505
題詞 なし
原文 宇知比佐都 美夜能瀬河泊能 可保婆奈能 孤悲天香眠良武 <伎>曽母許余比毛
訓読 うちひさつ宮能瀬川のかほ花の恋ひてか寝らむ昨夜も今夜も
仮名 うちひさつ みやのせがはの かほばなの こひてかぬらむ きぞもこよひも
左注 なし
校異 泊 [元] 伯 / <>→伎 [西(左書)][元][類][古]
事項 東歌 相聞 地名 長野県 植物 恋情
訓異 うちひさつ;うちひさす, みやのせがはの;みやのせかはの, かほばなの;かほはなの, きぞもこよひも;きそもこよひも,
   
  14/3506
題詞 なし
原文 尓比牟路能 許騰伎尓伊多礼婆 波太須酒伎 穂尓弖之伎美我 見延奴己能許呂
訓読 新室のこどきに至ればはだすすき穂に出し君が見えぬこのころ
仮名 にひむろの こどきにいたれば はだすすき ほにでしきみが みえぬこのころ
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 諸物 恋情 女歌
訓異 こどきにいたれば;こときにいたれは, はだすすき;はたすすき, ほにでしきみが;ほにてしきみか,
   
  14/3507
題詞 なし
原文 多尓世婆美 弥<年>尓波比多流 多麻可豆良 多延武能己許呂 和我母波奈久尓
訓読 谷狭み峰に延ひたる玉葛絶えむの心我が思はなくに
仮名 たにせばみ みねにはひたる たまかづら たえむのこころ わがもはなくに
左注 なし
校異 羊→年 [類][古][紀]
事項 東歌 相聞 植物 序詞 恋情
訓異 たにせばみ;たにせはみ, たまかづら;たまかつら, わがもはなくに;わかもはなくに,
   
  14/3508
題詞 なし
原文 芝付乃 御宇良佐伎奈流 根都古具佐 安比見受安良婆 安礼古非米夜母
訓読 芝付の御宇良崎なるねつこ草相見ずあらば我れ恋ひめやも
仮名 しばつきの みうらさきなる ねつこぐさ あひみずあらば あれこひめやも
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 地名 神奈川県 植物 恋情 序詞
訓異 しばつきの;しはつきの, ねつこぐさ;ねつこくさ, あひみずあらば;あひみすあらは,
   
  14/3509
題詞 なし
原文 多久夫須麻 之良夜麻可是能 宿奈敝杼母 古呂賀於曽伎能 安路許曽要志母
訓読 栲衾白山風の寝なへども子ろがおそきのあろこそえしも
仮名 たくぶすま しらやまかぜの ねなへども ころがおそきの あろこそえしも
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 恋情 地名 石川県
訓異 たくぶすま;たくふすま, しらやまかぜの;しらやまかせの, ねなへども;ねなへとも, ころがおそきの;ころかおそきの,
   
  14/3510
題詞 なし
原文 美蘇良由久 <君>母尓毛我母奈 家布由伎弖 伊母尓許等<杼>比 安須可敝里許武
訓読 み空行く雲にもがもな今日行きて妹に言どひ明日帰り来む
仮名 みそらゆく くもにもがもな けふゆきて いもにことどひ あすかへりこむ
左注 なし
校異 君尓→君 [西(訂正)][類][紀][細] / 抒→杼 [類][紀][細]
事項 東歌 相聞 恋情 羈旅 別離
訓異 くもにもがもな;くもにもかもな, いもにことどひ;いもにこととひ,
   
  14/3511
題詞 なし
原文 安乎祢呂尓 多奈婢久君母能 伊佐欲比尓 物能乎曽於毛布 等思乃許能己呂
訓読 青嶺ろにたなびく雲のいさよひに物をぞ思ふ年のこのころ
仮名 あをねろに たなびくくもの いさよひに ものをぞおもふ としのこのころ
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 恋情
訓異 たなびくくもの;たなひくくもの, ものをぞおもふ;ものあをそおもふ,
   
  14/3512
題詞 なし
原文 比登祢呂尓 伊波流毛能可良 安乎祢呂尓 伊佐欲布久母能 余曽里都麻波母
訓読 一嶺ろに言はるものから青嶺ろにいさよふ雲の寄そり妻はも
仮名 ひとねろに いはるものから あをねろに いさよふくもの よそりづまはも
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 恋情 尫柜蹋
訓異 よそりづまはも;よそりつまはも,
   
  14/3513
題詞 なし
原文 由布佐礼婆 美夜麻乎左良奴 尓努具母能 安是可多要牟等 伊比之兒呂<波>母
訓読 夕さればみ山を去らぬ布雲のあぜか絶えむと言ひし子ろはも
仮名 ゆふされば みやまをさらぬ にのぐもの あぜかたえむと いひしころはも
左注 なし
校異 婆→波 [元]
事項 東歌 相聞 序詞 恋情
訓異 ゆふされば;ゆふされは, にのぐもの;にのくもの, あぜかたえむと;あせかたえむと,
   
  14/3514
題詞 なし
原文 多可伎祢尓 久毛能都久能須 和礼左倍尓 伎美尓都吉奈那 多可祢等毛比弖
訓読 高き嶺に雲のつくのす我れさへに君につきなな高嶺と思ひて
仮名 たかきねに くものつくのす われさへに きみにつきなな たかねともひて
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 恋情
訓異 -
   
  14/3515
題詞 なし
原文 阿我於毛乃 和須礼牟之太波 久尓波布利 祢尓多都久毛乎 見都追之努波西
訓読 我が面の忘れむしだは国はふり嶺に立つ雲を見つつ偲はせ
仮名 あがおもの わすれむしだは くにはふり ねにたつくもを みつつしのはせ
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 女歌 恋情 望郷 羈旅
訓異 あがおもの;あかおもの, わすれむしだは;わすれむしたは,
   
  14/3516
題詞 なし
原文 對馬能祢波 之多具毛安良南敷 可牟能祢尓 多奈婢久君毛乎 見都追思努<波>毛
訓読 対馬の嶺は下雲あらなふ可牟の嶺にたなびく雲を見つつ偲はも
仮名 つしまのねは したぐもあらなふ かむのねに たなびくくもを みつつしのはも
左注 なし
校異 婆→波 [元][類][紀]
事項 東歌 相聞 地名 対馬 長崎県 望郷 羈旅 防人
訓異 したぐもあらなふ;したくもあらなふ, たなびくくもを;たなひくくもを,
   
  14/3517
題詞 なし
原文 思良久毛能 多要尓之伊毛乎 阿是西呂等 許己呂尓能里弖 許己婆可那之家
訓読 白雲の絶えにし妹をあぜせろと心に乗りてここば愛しけ
仮名 しらくもの たえにしいもを あぜせろと こころにのりて ここばかなしけ
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 恋情 別離
訓異 あぜせろと;あせせろと, ここばかなしけ;ここはかなしけ,
   
  14/3518
題詞 なし
原文 伊波能倍尓 伊可賀流久毛能 可努麻豆久 比等曽於多波布 伊射祢之賣刀良
訓読 岩の上にいかかる雲のかのまづく人ぞおたはふいざ寝しめとら
仮名 いはのへに いかかるくもの かのまづく ひとぞおたはふ いざねしめとら
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 序詞 恋情
訓異 かのまづく;かぬまつく, ひとぞおたはふ;ひとそおたはふ, いざねしめとら;いさねしめとら,
   
  14/3519
題詞 なし
原文 奈我波伴尓 己良例安波由久 安乎久毛能 伊弖来和伎母兒 安必見而由可武
訓読 汝が母に嘖られ我は行く青雲の出で来我妹子相見て行かむ
仮名 ながははに こられあはゆく あをくもの いでこわぎもこ あひみてゆかむ
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 恋情
訓異 ながははに;なかははに, いでこわぎもこ;いてこわきもこ,
   
  14/3520
題詞 なし
原文 於毛可多能 和須礼牟之太波 於抱野呂尓 多奈婢久君母乎 見都追思努波牟
訓読 面形の忘れむしだは大野ろにたなびく雲を見つつ偲はむ
仮名 おもかたの わすれむしだは おほのろに たなびくくもを みつつしのはむ
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 恋情 望郷 羈旅
訓異 わすれむしだは;わすれむしたは, たなびくくもを;たなひくくもを,
   
  14/3521
題詞 なし
原文 可良須等布 於保乎曽杼里能 麻左R尓毛 伎麻左奴伎美乎 許呂久等曽奈久
訓読 烏とふ大をそ鳥のまさでにも来まさぬ君をころくとぞ鳴く
仮名 からすとふ おほをそとりの まさでにも きまさぬきみを ころくとぞなく
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 動物 恋情 女歌
訓異 まさでにも;まさてにも, ころくとぞなく;ころくとそなく,
   
  14/3522
題詞 なし
原文 伎曽許曽波 兒呂等左宿之香 久毛能宇倍由 奈伎由久多豆乃 麻登保久於毛保由
訓読 昨夜こそば子ろとさ寝しか雲の上ゆ鳴き行く鶴の間遠く思ほゆ
仮名 きぞこそば ころとさねしか くものうへゆ なきゆくたづの まとほくおもほゆ
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 動物 恋情
訓異 きぞこそば;きそこそは, なきゆくたづの;なきゆくたつの,
   
  14/3523
題詞 なし
原文 佐可故要弖 阿倍乃田能毛尓 為流多豆乃 等毛思吉伎美波 安須左倍母我毛
訓読 坂越えて安倍の田の面に居る鶴のともしき君は明日さへもがも
仮名 さかこえて あへのたのもに ゐるたづの ともしききみは あすさへもがも
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 地名 静岡県 序詞 動物 恋情 女歌
訓異 ゐるたづの;あるたつの, あすさへもがも;あすさへもかも,
   
  14/3524
題詞 なし
原文 麻乎其母能 布能<末>知可久弖 安波奈敝波 於吉都麻可母能 奈氣伎曽安我須流
訓読 まを薦の節の間近くて逢はなへば沖つま鴨の嘆きぞ我がする
仮名 まをごもの ふのまちかくて あはなへば おきつまかもの なげきぞあがする
左注 なし
校異 未→末 [細]
事項 東歌 相聞 植物 動物 序詞 恋情
訓異 まをごもの;まをこもの, ふのまちかくて;ふのみちかくて, あはなへば;あはなへは, なげきぞあがする;なけきそあかする,
   
  14/3525
題詞 なし
原文 水久君野尓 可母能波抱能須 兒呂我宇倍尓 許等乎呂波敝而 伊麻太宿奈布母
訓読 水久君野に鴨の這ほのす子ろが上に言緒ろ延へていまだ寝なふも
仮名 みくくのに かものはほのす ころがうへに ことをろはへて いまだねなふも
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 地名 動物 恋情
訓異 ころがうへに;ころかうへに, いまだねなふも;いまたねなふも,
   
  14/3526
題詞 なし
原文 奴麻布多都 可欲波等里我栖 安我己許呂 布多由久奈母等 奈与母波里曽祢
訓読 沼二つ通は鳥が巣我が心二行くなもとなよ思はりそね
仮名 ぬまふたつ かよはとりがす あがこころ ふたゆくなもと なよもはりそね
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 恋愛
訓異 かよはとりがす;かよはとりかせ, あがこころ;あかこころ,
   
  14/3527
題詞 なし
原文 於吉尓須毛 乎加母乃毛己呂 也左可杼利 伊伎豆久伊毛乎 於伎弖伎努可母
訓読 沖に住も小鴨のもころ八尺鳥息づく妹を置きて来のかも
仮名 おきにすも をかものもころ やさかどり いきづくいもを おきてきのかも
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 動物 羈旅 別離 恋情 出発
訓異 やさかどり;やさかとり, いきづくいもを;いきつくくいもを, おきてきのかも;おきてきぬかも,
   
  14/3528
題詞 なし
原文 水都等利乃 多々武与曽比尓 伊母能良尓 毛乃伊波受伎尓弖 於毛比可祢都母
訓読 水鳥の立たむ装ひに妹のらに物言はず来にて思ひかねつも
仮名 みづとりの たたむよそひに いものらに ものいはずきにて おもひかねつも
左注 なし
校異 乃 [元][類](塙) 能 / 母 [元][類][細](塙) 毛
事項 東歌 相聞 羈旅 出発 別離 恋情
訓異 みづとりの;みつとりの, ものいはずきにて;ものいはすきにて,
   
  14/3529
題詞 なし
原文 等夜乃野尓 乎佐藝祢良波里 乎佐乎左毛 祢奈敝古由恵尓 波伴尓許呂波要
訓読 等夜の野に兎ねらはりをさをさも寝なへ子ゆゑに母に嘖はえ
仮名 とやののに をさぎねらはり をさをさも ねなへこゆゑに ははにころはえ
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 地名 動物 恋愛
訓異 をさぎねらはり;をさきねらはり,
   
  14/3530
題詞 なし
原文 左乎思鹿能 布須也久草無良 見要受等母 兒呂我可奈門欲 由可久之要思母
訓読 さを鹿の伏すや草むら見えずとも子ろが金門よ行かくしえしも
仮名 さをしかの ふすやくさむら みえずとも ころがかなとよ ゆかくしえしも
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 動物 恋愛 序詞
訓異 みえずとも;みえすとも, ころがかなとよ;ころかかなとよ,
   
  14/3531
題詞 なし
原文 伊母乎許曽 安比美尓許思可 麻欲婢吉能 与許夜麻敝呂能 思之奈須於母敝流
訓読 妹をこそ相見に来しか眉引きの横山辺ろの獣なす思へる
仮名 いもをこそ あひみにこしか まよびきの よこやまへろの ししなすおもへる
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 枕詞 恋愛 怨恨 動物
訓異 まよびきの;まよひきの, ししなすおもへる[寛]
   
  14/3532
題詞 なし
原文 波流能野尓 久佐波牟古麻能 久知夜麻受 安乎思努布良武 伊敝乃兒呂波母
訓読 春の野に草食む駒の口やまず我を偲ふらむ家の子ろはも
仮名 はるののに くさはむこまの くちやまず あをしのふらむ いへのころはも
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 動物 序詞 恋情 望郷 羈旅
訓異 くちやまず;くちやます,
   
  14/3533
題詞 なし
原文 比登乃兒乃 可奈思家之太波 々麻渚杼里 安奈由牟古麻能 乎之家口母奈思
訓読 人の子の愛しけしだは浜洲鳥足悩む駒の惜しけくもなし
仮名 ひとのこの かなしけしだは はますどり あなゆむこまの をしけくもなし
左注 なし
校異 乃 [元][類] 能
事項 東歌 相聞 動物 恋情
訓異 かなしけしだは;かなしけしたは, はますどり;はますとり,
   
  14/3534
題詞 なし
原文 安可胡麻我 可度弖乎思都々 伊弖可天尓 世之乎見多弖思 伊敝能兒良波母
訓読 赤駒が門出をしつつ出でかてにせしを見立てし家の子らはも
仮名 あかごまが かどでをしつつ いでかてに せしをみたてし いへのこらはも
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 動物 羈旅 別離 望郷 出発
訓異 あかごまが;あかこまか, かどでをしつつ;かとてをしつつ, いでかてに;いてかてに,
   
  14/3535
題詞 なし
原文 於能我乎遠 於保尓奈於毛比曽 尓波尓多知 恵麻須我可良尓 古麻尓安布毛能乎
訓読 己が命をおほにな思ひそ庭に立ち笑ますがからに駒に逢ふものを
仮名 おのがをを おほになおもひそ にはにたち ゑますがからに こまにあふものを
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 動物 恋情 慰撫
訓異 おのがをを;おのかをを ゑますがからに;えますわれからに,
   
  14/3536
題詞 なし
原文 安加胡麻乎 宇知弖左乎妣吉 己許呂妣吉 伊可奈流勢奈可 和我理許武等伊布
訓読 赤駒を打ちてさ緒引き心引きいかなる背なか我がり来むと言ふ
仮名 あかごまを うちてさをびき こころひき いかなるせなか わがりこむといふ
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 動物 女歌 怨恨 恋愛 序詞
訓異 あかごまを;あかこまを, うちてさをびき;うちてさをひき, わがりこむといふ;わかりこむといふ,
   
  14/3537
題詞 なし
原文 久敝胡之尓 武藝波武古宇馬能 波都々々尓 安比見之兒良之 安夜尓可奈思母
訓読 くへ越しに麦食む小馬のはつはつに相見し子らしあやに愛しも
仮名 くへごしに むぎはむこうまの はつはつに あひみしこらし あやにかなしも
左注 或本歌曰 宇麻勢胡之 牟伎波武古麻能 波都々々尓 仁必波太布礼思 古呂之可奈思母
左注訓 或ル本ノ歌ニ曰ク、
馬柵うませ越し麦食む駒のはつはつに新肌触れし子ろしかなしも
校異 なし
事項 東歌 相聞 異伝 動物 序詞 恋情
訓異 くへごしに;くへこしに, むぎはむこうまの;むきはむこうまの, はつはつに;はつはつて,
   
  14/3537S
題詞 或本歌曰
題訓 或ル本ノ歌ニ曰ク、
原文 宇麻勢胡之 牟伎波武古麻能 波都々々尓 仁必波太布礼思 古呂之可奈思母
訓読 馬柵越し麦食む駒のはつはつに新肌触れし子ろし愛しも
仮名 うませごし むぎはむこまの はつはつに にひはだふれし ころしかなしも
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 異伝 恋情 序詞
訓異 うませごし;うませこし, むぎはむこまの;むきはむこまの, にひはだふれし;にひはたふれし,
   
  14/3538
題詞 なし
原文 比呂波之乎 宇馬古思我祢弖 己許呂能未 伊母我理夜里弖 和波己許尓思天
訓読 広橋を馬越しがねて心のみ妹がり遣りて我はここにして
仮名 ひろはしを うまこしがねて こころのみ いもがりやりて わはここにして
左注 或本歌發句曰 乎波夜之尓 古麻乎波左佐氣
左注訓 或ル本ノ歌ノ発句ニ曰ク、小林をはやしに駒を馳ささげ。
校異 なし
事項 東歌 相聞 異伝 尫柜蹋 恋情 動物
訓異 うまこしがねて;うまこしかねて, いもがりやりて;いもかりやりて,
   
  14/3538S
題詞 或本歌發句曰
題訓 或ル本ノ歌ノ発句ニ曰ク、
原文 乎波夜之尓 古麻乎波左佐氣
訓読 小林に駒を馳ささげ
仮名 をばやしに こまをはささげ
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 異伝 恋情
訓異 をばやしに;をはやしに, こまをはささげ;こまをはささけ
   
  14/3539
題詞 なし
原文 安受乃宇敝尓 古馬乎都奈伎弖 安夜抱可等 比等豆麻古呂乎 伊吉尓和我須流
訓読 あずの上に駒を繋ぎて危ほかど人妻子ろを息に我がする
仮名 あずのうへに こまをつなぎて あやほかど ひとづまころを いきにわがする
左注 なし
校異 豆 [類] 都
事項 東歌 相聞 序詞 恋情 動物
訓異 あずのうへに;あすのうへに, こまをつなぎて;こまをつなきて, あやほかど;あやほかと, ひとづまころを;ひとまつころを, いきにわがする;いきにわかする,
   
  14/3540
題詞 なし
原文 左和多里能 手兒尓伊由伎安比 安可胡麻我 安我伎乎波夜未 許等登波受伎奴
訓読 左和多里の手児にい行き逢ひ赤駒が足掻きを速み言問はず来ぬ
仮名 さわたりの てごにいゆきあひ あかごまが あがきをはやみ こととはずきぬ
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 地名 群馬県 動物 恋情
訓異 てごにいゆきあひ;てこにいゆきあひ, あかごまが;あかこまか, あがきをはやみ;あかきをはやみ, こととはずきぬ;こととはすきぬ,
   
  14/3541
題詞 なし
原文 安受倍可良 古麻<能>由胡能須 安也波刀文 比<登>豆麻古呂乎 麻由可西良布母
訓読 あずへから駒の行ごのす危はとも人妻子ろをまゆかせらふも
仮名 あずへから こまのゆごのす あやはとも ひとづまころを まゆかせらふも
左注 なし
校異 乃→能 [元][類] / 等→登 [元][類]
事項 東歌 相聞 動物 序詞 訓義未詳 恋愛
訓異 こまのゆごのす;こまのゆこのす, ひとづまころを;ひとつまころを, まゆかせらふも[寛]
   
  14/3542
題詞 なし
原文 <佐>射礼伊思尓 古馬乎波佐世弖 己許呂伊多美 安我毛布伊毛我 伊敝<能>安多里可聞
訓読 さざれ石に駒を馳させて心痛み我が思ふ妹が家のあたりかも
仮名 さざれいしに こまをはさせて こころいたみ あがもふいもが いへのあたりかも
左注 なし
校異 伊→佐 [西(訂正右書)][元][類][紀] / 乃→能 [元][類]
事項 東歌 相聞 動物 恋愛 妻問媿
訓異 さざれいしに;さされいしに, あがもふいもが;あかもふいもか,
   
  14/3543
題詞 なし
原文 武路我夜乃 都留能都追美乃 那利奴賀尓 古呂波伊敝<杼>母 伊末太<年>那久尓
訓読 むろがやの都留の堤の成りぬがに子ろは言へどもいまだ寝なくに
仮名 むろがやの つるのつつみの なりぬがに ころはいへども いまだねなくに
左注 なし
校異 抒→杼 [類][細] / 羊→年 [元][類][紀]
事項 東歌 相聞 地名 山梨県 上野原町 恋情
訓異 むろがやの;むろかやの, なりぬがに;なりぬかに, ころはいへども;ころはいへとも, いまだねなくに;いまたねなくに,
   
  14/3544
題詞 なし
原文 阿須可河泊 之多尓其礼留乎 之良受思天 勢奈那登布多理 左宿而久也思母
訓読 あすか川下濁れるを知らずして背ななと二人さ寝て悔しも
仮名 あすかがは したにごれるを しらずして せななとふたり さねてくやしも
左注 なし
校異 泊 [元][類][紀] 伯
事項 東歌 相聞 明日香 奈良 地名 浮気 恋情 後悔 怨恨
訓異 あすかがは;あすかかは, したにごれるを;したにこれるを, しらずして;しらすして,
   
  14/3545
題詞 なし
原文 安須可河泊 世久登之里世波 安麻多欲母 為祢弖己麻思乎 世久得四里世<婆>
訓読 あすか川堰くと知りせばあまた夜も率寝て来ましを堰くと知りせば
仮名 あすかがは せくとしりせば あまたよも ゐねてこましを せくとしりせば
左注 なし
校異 泊 [元][紀] 伯 / 波→婆 [元][類][紀]
事項 東歌 相聞 明日香 奈良 地名 恋情
訓異 あすかがは;あすかかは, せくとしりせば;せくとしりせは, せくとしりせば;せくとしりせは,
   
  14/3546
題詞 なし
原文 安乎楊木能 波良路可波刀尓 奈乎麻都等 西美度波久末受 多知度奈良須母
訓読 青柳の張らろ川門に汝を待つと清水は汲まず立ち処平すも
仮名 あをやぎの はらろかはとに なをまつと せみどはくまず たちどならすも
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 植物 女歌 恋情
訓異 あをやぎの;あをやきの, せみどはくまず;せみとはくます, たちどならすも;たちとならすも,
   
  14/3547
題詞 なし
原文 阿遅乃須牟 須沙能伊利江乃 許母理沼乃 安奈伊伎豆加思 美受比佐尓指天
訓読 あぢの棲む須沙の入江の隠り沼のあな息づかし見ず久にして
仮名 あぢのすむ すさのいりえの こもりぬの あないきづかし みずひさにして
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 動物 恋情 序詞
訓異 あぢのすむ;あちのすむ, あないきづかし;あないきつかし, みずひさにして;みすひさにして,
   
  14/3548
題詞 なし
原文 奈流世<呂>尓 木都能余須奈須 伊等能伎提 可奈思家世呂尓 比等佐敝余須母
訓読 鳴る瀬ろにこつの寄すなすいとのきて愛しけ背ろに人さへ寄すも
仮名 なるせろに こつのよすなす いとのきて かなしけせろに ひとさへよすも
左注 なし
校異 路→呂 [元][類]
事項 東歌 相聞 尫柜蹋 恋情
訓異 こつのよすなす;きつのよすなす,
   
  14/3549
題詞 なし
原文 多由比我多 志保弥知和多流 伊豆由可母 加奈之伎世呂我 和賀利可欲波牟
訓読 多由比潟潮満ちわたるいづゆかも愛しき背ろが我がり通はむ
仮名 たゆひがた しほみちわたる いづゆかも かなしきせろが わがりかよはむ
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 地名 福井県 恋情 女歌 妻問媿
訓異 たゆひがた;たゆひかた, いづゆかも;いつゆかも, かなしきせろが;かなしきせろか, わがりかよはむ;わかりかよはむ,
   
  14/3550
題詞 なし
原文 於志弖伊奈等 伊祢波都可祢杼 奈美乃保能 伊多夫良思毛与 伎曽比登里宿而
訓読 おしていなと稲は搗かねど波の穂のいたぶらしもよ昨夜ひとり寝て
仮名 おしていなと いねはつかねど なみのほの いたぶらしもよ きぞひとりねて
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 恋情 作業歌 歌謡 孤独
訓異 いねはつかねど;いねはつかねと, いたぶらしもよ;いたふらしもよ, きぞひとりねて;きそひとりねて,
   
  14/3551
題詞 なし
原文 阿遅可麻能 可多尓左久奈美 比良湍尓母 比毛登久毛能可 加奈思家乎於吉弖
訓読 阿遅可麻の潟にさく波平瀬にも紐解くものか愛しけを置きて
仮名 あぢかまの かたにさくなみ ひらせにも ひもとくものか かなしけをおきて
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 地名 恋情 女歌 序詞 浮気
訓異 あぢかまの;あちかまの, ひもとくものか;ももとくものか, かなしけをおきて;かなしけをおきて,
   
  14/3552
題詞 なし
原文 麻都我宇良尓 佐和恵宇良太知 麻比<登>其等 於毛抱須奈母呂 和賀母抱乃須毛
訓読 まつが浦にさわゑうら立ちま人言思ほすなもろ我が思ほのすも
仮名 まつがうらに さわゑうらだち まひとごと おもほすなもろ わがもほのすも
左注 なし
校異 等→登 [元][類][紀]
事項 東歌 相聞 地名 宮城県 福島県 尫柜蹋 恋愛 女歌
訓異 まつがうらに;まつかうらに, さわゑうらだち;さわゑうらたち, まひとごと;まひとこと
  わがもほのすも;わかもほのすも,
   
  14/3553
題詞 なし
原文 安治可麻能 可家能水奈刀尓 伊流思保乃 許弖多受久毛可 伊里弖祢麻久母
訓読 あじかまの可家の港に入る潮のこてたずくもが入りて寝まくも
仮名 あぢかまの かけのみなとに いるしほの こてたずくもが いりてねまくも
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 地名 愛知県 序詞 尫柜蹋 恋情
訓異 あぢかまの;あちかまの, こてたずくもが;こてたすくもか,
   
  14/3554
題詞 なし
原文 伊毛我奴流 等許<能>安多理尓 伊波具久留 水都尓母我毛与 伊里弖祢末久母
訓読 妹が寝る床のあたりに岩ぐくる水にもがもよ入りて寝まくも
仮名 いもがぬる とこのあたりに いはぐくる みづにもがもよ いりてねまくも
左注 なし
校異 乃→能 [元][類]
事項 東歌 相聞 恋情
訓異 いもがぬる;いもかぬる, いはぐくる;いはくくる, みづにもがもよ;みつにもかもよ,
   
  14/3555
題詞 なし
原文 麻久良我乃 許我能和多利乃 可良加治乃 於<登>太可思母奈 宿莫敝兒由恵尓
訓読 麻久良我の許我の渡りの韓楫の音高しもな寝なへ子ゆゑに
仮名 まくらがの こがのわたりの からかぢの おとだかしもな ねなへこゆゑに
左注 なし
校異 等→登 [類][細]
事項 東歌 相聞 地名 茨城県 古河 序詞 尫柜蹋 恋愛
訓異 まくらがの;まくらかの, こがのわたりの;こかのわたりの, からかぢの;からかちの, おとだかしもな;おとたかしもな,
   
  14/3556
題詞 なし
原文 思保夫祢能 於可礼婆可奈之 左宿都礼婆 比登其等思氣志 那乎杼可母思武
訓読 潮船の置かれば愛しさ寝つれば人言繁し汝をどかもしむ
仮名 しほぶねの おかればかなし さねつれば ひとごとしげし なをどかもしむ
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 枕詞 恋情 尫柜蹋
訓異 しほぶねの;しほふねの, おかればかなし;おかれはかなし, さねつれば;さねつれは, ひとごとしげし;ひとことしけし, なをどかもしむ;なをとかもしむ,
   
  14/3557
題詞 なし
原文 奈夜麻思家 比登都麻可母与 許具布祢能 和須礼波勢奈那 伊夜母比麻須尓
訓読 悩ましけ人妻かもよ漕ぐ舟の忘れはせなないや思ひ増すに
仮名 なやましけ ひとづまかもよ こぐふねの わすれはせなな いやもひますに
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 序詞 恋情
訓異 ひとづまかもよ;ひとつまかもよ, こぐふねの;こくふねの,
   
  14/3558
題詞 なし
原文 安波受之弖 由加婆乎思家牟 麻久良我能 許賀己具布祢尓 伎美毛安波奴可毛
訓読 逢はずして行かば惜しけむ麻久良我の許我漕ぐ船に君も逢はぬかも
仮名 あはずして ゆかばをしけむ まくらがの こがこぐふねに きみもあはぬかも
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 地名 茨城県 古河 遊行女婦 女歌
訓異 あはずして;あはすして, ゆかばをしけむ;ゆかはをしけむ, まくらがの;まくらかの, こがこぐふねに;こかこくふねに,
   
  14/3559
題詞 なし
原文 於保夫祢乎 倍由毛登母由毛 可多米提之 許曽能左刀妣等 阿良波左米可母
訓読 大船を舳ゆも艫ゆも堅めてし許曽の里人あらはさめかも
仮名 おほぶねを へゆもともゆも かためてし こそのさとびと あらはさめかも
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 序詞 尫柜蹋 恋愛 地名
訓異 おほぶねを;おほふねを, こそのさとびと;こそのさとひと,
   
  14/3560
題詞 なし
原文 麻可祢布久 尓布能麻曽保乃 伊呂尓R<弖> 伊波奈久能未曽 安我古布良久波
訓読 ま金ふく丹生のま朱の色に出て言はなくのみぞ我が恋ふらくは
仮名 まかねふく にふのまそほの いろにでて いはなくのみぞ あがこふらくは
左注 なし
校異 々→弖 [元][類]
事項 東歌 相聞 地名 奈良 吉野 岐阜 序詞 尫柜蹋 恋情
訓異 いろにでて;いろにてて, いはなくのみぞ;いはなくのみそ, あがこふらくは;あかこふらくは,
   
  14/3561
題詞 なし
原文 可奈刀田乎 安良我伎麻由美 比賀刀礼婆 阿米乎万刀能須 伎美乎等麻刀母
訓読 金門田を荒垣ま斎み日が照れば雨を待とのす君をと待とも
仮名 かなとだを あらがきまゆみ ひがとれば あめをまとのす きみをとまとも
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 序詞 恋情 女歌
訓異 かなとだを;かなとてを, あらがきまゆみ;あらかきまゆみ, ひがとれば;ひかのれは,
   
  14/3562
題詞 なし
原文 安里蘇夜尓 於布流多麻母乃 宇知奈婢伎 比登里夜宿良牟 安乎麻知可祢弖
訓読 荒礒やに生ふる玉藻のうち靡きひとりや寝らむ我を待ちかねて
仮名 ありそやに おふるたまもの うちなびき ひとりやぬらむ あをまちかねて
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 植物 序詞 恋情 孤独
訓異 うちなびき;うちなひき,
   
  14/3563
題詞 なし
原文 比多我多能 伊蘇乃和可米乃 多知美太要 和乎可麻都那毛 伎曽毛己余必母
訓読 比多潟の礒のわかめの立ち乱え我をか待つなも昨夜も今夜も
仮名 ひたがたの いそのわかめの たちみだえ わをかまつなも きぞもこよひも
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 地名 茨城県 植物 序詞 恋情
訓異 ひたがたの;ひたかたの, たちみだえ;たちみたえ, きぞもこよひも;きそもこよひも,
   
  14/3564
題詞 なし
原文 古須氣呂乃 宇良布久可是能 安騰須酒香 可奈之家兒呂乎 於毛比須吾左牟
訓読 古須気ろの浦吹く風のあどすすか愛しけ子ろを思ひ過ごさむ
仮名 こすげろの うらふくかぜの あどすすか かなしけころを おもひすごさむ
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 地名 東京都 小菅町 恋情
訓異 こすげろの;こすけろの, うらふくかぜの;うらふくかせの, あどすすか;あとすすか, おもひすごさむ;おもひすこさむ,
   
  14/3565
題詞 なし
原文 可能古呂等 宿受夜奈里奈牟 波太須酒伎 宇良野乃夜麻尓 都久可多与留母
訓読 かの子ろと寝ずやなりなむはだすすき宇良野の山に月片寄るも
仮名 かのころと ねずやなりなむ はだすすき うらののやまに つくかたよるも
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 植物 地名 長野県 恋情
訓異 ねずやなりなむ;ねすやなりなむ, はだすすき;はたすすき,
   
  14/3566
題詞 なし
原文 和伎毛古尓 安我古非思奈婆 曽和敝可毛 加未尓於保世牟 己許呂思良受弖
訓読 我妹子に我が恋ひ死なばそわへかも神に負ほせむ心知らずて
仮名 わぎもこに あがこひしなば そわへかも かみにおほせむ こころしらずて
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 恋情
訓異 わぎもこに;わきもこに, あがこひしなば;あかこひしなは, こころしらずて;こころしらすて,
   
 

防人歌

   
  14/3567
題詞 防人歌
題訓 防人の歌
原文 於伎弖伊可婆 伊毛婆麻可奈之 母知弖由久 安都佐能由美乃 由都可尓母我毛
訓読 置きて行かば妹はま愛し持ちて行く梓の弓の弓束にもがも
仮名 おきていかば いもはまかなし もちてゆく あづさのゆみの ゆづかにもがも
左注 (右二首<問>答)
校異 なし
事項 東歌 相聞 恋情 出発
訓異 おきていかば;おきていかは, あづさのゆみの;あつさのゆみの, ゆづかにもがも;ゆつかにもかも,
   
  14/3568
題詞 なし
原文 於久礼為弖 古非波久流思母 安佐我里能 伎美我由美尓母 奈良麻思物能乎
訓読 後れ居て恋ひば苦しも朝猟の君が弓にもならましものを
仮名 おくれゐて こひばくるしも あさがりの きみがゆみにも ならましものを
左注 右二首<問>答
左注訓 右の二首は、問答とひこたへのうた。
校異 問 [西(訂正右書)][紀][細][温]
事項 東歌 相聞 女歌 恋情 出発
訓異 こひばくるしも;こひはくるしも, あさがりの;あさかりの, きみがゆみにも;きみかゆみにも,
   
  14/3569
題詞 なし
原文 佐伎母理尓 多知之安佐氣乃 可奈刀R尓 手婆奈礼乎思美 奈吉思兒良<波>母
訓読 防人に立ちし朝開の金戸出にたばなれ惜しみ泣きし子らはも
仮名 さきもりに たちしあさけの かなとでに たばなれをしみ なきしこらはも
左注 なし
校異 婆→波 [類]
事項 東歌 相聞 防人 出発 羈旅 望郷 恋情
訓異 かなとでに;かなとてに, たばなれをしみ;てはなれをしみ,
   
  14/3570
題詞 なし
原文 安之能葉尓 由布宜里多知弖 可母我鳴乃 左牟伎由布敝思 奈乎波思努波牟
訓読 葦の葉に夕霧立ちて鴨が音の寒き夕し汝をば偲はむ
仮名 あしのはに ゆふぎりたちて かもがねの さむきゆふへし なをばしのはむ
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 動物 望郷 恋情
訓異 ゆふぎりたちて;ゆふきりたちて, かもがねの;かもかねの, なをばしのはむ;なをはしのはむ,
   
  14/3571
題詞 なし
原文 於能豆麻乎 比登乃左刀尓於吉 於保々思久 見都々曽伎奴流 許能美知乃安比太
訓読 己妻を人の里に置きおほほしく見つつぞ来ぬるこの道の間
仮名 おのづまを ひとのさとにおき おほほしく みつつぞきぬる このみちのあひだ
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 相聞 防人 望郷 不安 恋情
訓異 おのづまを;おのつまを, みつつぞきぬる;みつつそきぬる, このみちのあひだ;このみちのあひた,
   
 

譬喩歌2

   
  14/3572
題詞 譬喩歌
題訓 譬喩歌たとへうた
原文 安杼毛敝可 阿自久麻<夜>末乃 由豆流波乃 布敷麻留等伎尓 可是布可受可母
訓読 あど思へか阿自久麻山の弓絃葉のふふまる時に風吹かずかも
仮名 あどもへか あじくまやまの ゆづるはの ふふまるときに かぜふかずかも
左注 なし
校異 <>→夜 [西(下書)][類][紀][細]
事項 東歌 譬喩歌 地名 茨城県 子飼山 植物 婚姻
訓異 あどもへか;あともへか, あじくまやまの;あしくまやまの, ゆづるはの;ゆつるはの, かぜふかずかも;かせふかすかも,
   
  14/3573
題詞 なし
原文 安之比奇能 夜麻可都良加氣 麻之波尓母 衣我多奇可氣乎 於吉夜可良佐武
訓読 あしひきの山かづらかげましばにも得がたきかげを置きや枯らさむ
仮名 あしひきの やまかづらかげ ましばにも えがたきかげを おきやからさむ
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 譬喩歌 植物 婚姻
訓異 やまかづらかげ;やまかつらかけ, ましばにも;ましはにも, えがたきかげを;えかたきかけを,
   
  14/3574
題詞 なし
原文 乎佐刀奈流 波奈多知波奈乎 比伎余治弖 乎良無登須礼杼 宇良和可美許曽
訓読 小里なる花橘を引き攀ぢて折らむとすれどうら若みこそ
仮名 をさとなる はなたちばなを ひきよぢて をらむとすれど うらわかみこそ
左注 なし
校異 なし
事項 東歌 譬喩歌 植物 婚姻
訓異 はなたちばなを;はなたちはなを, ひきよぢて;ひきよちて, をらむとすれど;をらむとすれと,
   
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題詞 なし
原文 美夜自呂乃 <須>可敝尓多弖流 可保我波奈 莫佐吉伊<R>曽祢 許米弖思努波武
訓読 美夜自呂のすかへに立てるかほが花な咲き出でそねこめて偲はむ
仮名 みやじろの すかへにたてる かほがはな なさきいでそね こめてしのはむ
左注 なし
校異 渚→須 [類][古] / 弖→R [類][紀]
事項 東歌 譬喩歌 地名 植物 恋情
訓異 みやじろの;みやしろの, すかへにたてる;をかへにたてる, かほがはな;かほかはな, なさきいでそね;なさきいてそね,
   
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題詞 なし
原文 奈波之呂乃 <古>奈宜我波奈乎 伎奴尓須里 奈流留麻尓末仁 安是可加奈思家
訓読 苗代の小水葱が花を衣に摺りなるるまにまにあぜか愛しけ
仮名 なはしろの こなぎがはなを きぬにすり なるるまにまに あぜかかなしけ
左注 なし
校異 告→古 [西(訂正頭書)][元][類][紀]
事項 東歌 譬喩歌 植物 恋情
訓異 こなぎがはなを;こなきかはなを, あぜかかなしけ;あせかかなしけ,
   
 

挽歌

   
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題詞 挽歌
題訓 挽歌かなしみうた
原文 可奈思伊毛乎 伊都知由可米等 夜麻須氣乃 曽我比尓宿思久 伊麻之久夜思母
訓読 愛し妹をいづち行かめと山菅のそがひに寝しく今し悔しも
仮名 かなしいもを いづちゆかめと やますげの そがひにねしく いましくやしも
左注 以前歌詞未得勘知國土山川之名也
左注訓 以前ノ歌詞、未ダ国土山川ノ名ヲ勘ヘ知ルコトヲ得ズ。
校異 なし
事項 東歌 挽歌 植物 恋情 後悔 恋愛
訓異 いづちゆかめと;いつちゆかめと, やますげの;やますけの, そがひにねしく;そかひにねしく,