伊勢物語 20段:楓のもみぢ あらすじ・原文・現代語訳

第19段
天雲の
伊勢物語
第一部
第20段
楓のもみぢ
第21段
思ふかひ

 
 目次
 

 ・あらすじ(大意)
 

 ・原文対照
 

 ・現代語訳(逐語解説)
 
 

あらすじ

 
 
 昔男が、大和の女と見交わし(→筒井筒)、互いに呼びあい、会っていた。
 

 しばらくして、男が宮仕えで忙しくなり会えなくなった、三月のこと。
 仕事のかえり道かえで=もみぢを見繕い、歌と一緒に女の子に送った。
 

 君のためのかえでです 春なのに もう秋かけて 「もみじしにけれ(?)」
 その心は、かえれないで、もうしにそう。
 (春なのに、心はずまず フォーリンラブ)
 

 と送ったら、女の子が、返事を京にもって来てくれた。
 まあアキれた、いつのまに、そんな月(好き)になったの。
 君のトコには春もないんだね、って春をもってきてくれた。
 

 なんて賢くて可愛い子! もう、君しかいないよ(泣き)
 それが次の段の、「いとかしこく思ひかはして、こと心なかりけり」。
 次の段は、物語の中で一番和歌が多い、伊勢物語の中で一番大事な物語。
 
 

原文対照

男女
及び
和歌
定家本 武田本
(定家系)
朱雀院塗籠本
(群書類従本)
  第20段 楓のもみぢ
   
 むかし、男、  むかし、おとこ  昔おとこ。
  大和にある女を見て やまとにある女を見て、 やまとにある女を
  よばひてあひにけり。 よばひてあひにけり。 よばひて。あひにけり。
 
  さてほど経て、 さてほどへて、 さてほどへて。
  宮仕へする人なりければ、 宮づかへする人なりければ、 宮づかへしける人なりければ。
  かへりくる道に、 かへりくるみちに、 かへりけるみちに。
  三月ばかりに、 やよひばかりに、 やよひばかりに
  かへでもみぢの、 かえでのもみぢの 山にかえでのもみぢの。
  いとおもしろきを折りて、 いとおもしろきをゝりて、 いとおもしろきをおりて。
  女のもとに道よりいひやる。 女のもとにみちよりいひやる。 すみし女のもとにみちより。
 

34
 君がため
 手折れる枝は春ながら
 きみがため
 たおれるえだははるながら
 君かため
 たをれる枝は春なから
  かくこそ秋の
  紅葉しにけれ
  かくこそ秋の
  もみぢしにけれ
  かくこそ秋の
  紅葉しにけれ
 
  とてやりたりければ返り事は、 とてやりたりければ、  とてやりたりければ。
  京にきつきてなむ 返事は京にきつきてなむ、 返事は京にいきつきてなん。
  もてきたりける。 もてきたりける。 もてきたりける。
 

35
 いつの間に
 移ろふ色のつきぬらむ
 いつのまに
 うつろふいろのつきぬらむ
 いつのまに
 移ろふ色のつきぬらん
  君が里には
  春なかるらし
  きみがさとには
  ゝるなかるらし
  君か里には
  春なかるへし
   

現代語訳

 
 

むかし、男、
大和にある女を見て、よばひてあひにけり。

 
 
むかし、男、
 むかし、男が
 

大和にある女を(▲見て)
 奈良にいる女を見て
(≒見交わして→筒井筒の子)
 

よばひてあひにけり。
 呼びあって会っていた。
 

よばひ
①男が女に言い寄ること。呼ばひ。
(△求婚と解し「婚ひ」と当てるのは語義から無理。婚姻がよばいんになる)
②男が女の寝所に忍んで行くこと。夜這ひ。
 

 以上が一般の定義。
 少なくとも、近現代は②で用いるのが一般だろう。しかしここでは文字通り、男女問わず、呼び呼ばれて会いに行く、という意味に解すべき(狭義の①)。
 この一文はそれを表明している文章とみるべき。だから「見て」「あひに」という、純粋に呼びあう意味でしか整合しない文章にしている。
 呼びあってすることは一緒かもしれないが、明確な合意に意味がある(好き同士)。そしてそれは直ちに結婚を意味しない。継続すれば婚姻の実態をもつ。
 他方で②が竹取のよばひ。これも幅があるが、相手の意向を無視するのは野蛮な夜這い(竹取では逃げるのに追いかけ回す)。確実な合意があるなら良い。
 これを抽象化すると、何もない状態で男から突っ込むのは違う。女性からのアプローチがないと実りがない。そしてそれは男性に比してゆっくりした動き。
 

さてほど経て、宮仕へする人なりければ、かへりくる道に、
三月ばかりに、かへでもみぢの、いとおもしろきを折りて、
女のもとに道よりいひやる。

 
 
さてほど経て、
 さて、しばらく時を経て
 

宮仕へする人なりければ、
(男が)宮仕えする人だったので、
 

かへりくる道に、
(その仕事の)帰り道に、
 
(夜這いした女の家からの帰り道ではない。
 それでは「ほど経て」も「宮仕え」も出した意味が全くなくなる)
 

三月(やよひ)ばかりに、
 三月頃に、
 

(△山に)かへで(の)もみぢの、
 楓=もみじの、
 

いとおもしろきを折りて、
 とても、綺麗で興(京)を感じさせるものを、一振り折って、
 

おもしろし(面白し):現代と同じ。
①趣がある。②楽しい。③珍しい。
 

(△すみし)女のもとに道より(▲いひやる)。
 女のもとに当てて、道中歌を詠んだ。
 

君がため 手折れる枝は 春ながら
 かくこそ秋の 紅葉しにけれ

 
 
君がため
 君のため
 

手折れる枝は 春ながら
 手で折る枝葉 春なのに
 

かくこそ秋の
 このように秋の
 

紅葉しにけれ
 もみじ しにけれ
 ??
 かえでともみじをかけ、しにけれと解く、その心は、
 君の所に「かえれないで、もう死にそう」
(忙しくて里に帰れないけど、会いたいっす。ごめんね)
 

とてやりたりければ返り事は、
京にきつきてなむもてきたりける。
 
 いつの間に 移ろふ色の つきぬらむ
 君が里には 春なかるらし

 
 
とてやりたりければ返り事は、
 といって送ってやれば、返事は
 

京にきつきてなむ
 京に来て、
 

もてきたりける。
 もってきてくれた。(!)
 
 

いつの間に
 

移ろふ色の つきぬらむ
 移ろう色の 月になったの
 

 移ろふ色:女の子が春(色)をもってきてくれたこと。
 
(まあ、秋れた。そんな好きなの? 好きねえ~。
 しかしまんざらでもない様子。だから来てくれた)
 
 

君が里には
 あなたの里には
(里=皮肉)
 

春なかるらし
 春もないんだね。
 
 花の都なら、なんでもあるんじゃないの?
 といいながら、(春を)もって来てくれた。もう、なんて賢い子! もう君しかいないっす(泣)
 
 春:男女のこと。
 心が、ぽかぽかすること。
 スプリング=温泉=ポカポカ=♨