古事記 海人なれや己が物から泣く~原文対訳

梓弓の歌 古事記
中巻⑧
15代 応神天皇
大山守の乱
6 海人なれや
天之日矛
原文 書き下し
(武田祐吉)
現代語訳
(武田祐吉)
於是大雀命。
與宇遲能和紀郎子
二柱。
 ここに大雀の命と
宇遲の和紀郎子と
二柱、
 かくてオホサザキの命と
ウヂの若郎子と
お二方、
各讓天下之間。 おのもおのも天の下を讓りたまふほどに、 おのおの天下をお讓りになる時に、
海人貢大贄。 海人あま大贄にへを貢りつ。 海人あまが貢物を獻りました。
     
爾兄辭
令貢於弟。
ここに
兄は辭いなびて、
弟に貢らしめたまひ、
依つて兄の王はこれを拒んで
弟の王に獻らしめ、
弟辭令貢於
兄相讓之間。
弟はまた
兄に貢らしめて、
相讓りたまふあひだに
弟の王はまた
兄の王に獻らしめて、
互にお讓りになる間に
既經多日。 既に許多あまたの日を經つ。 あまたの日を經ました。
     
如此相讓
非一二時
かく相讓りたまふこと
一度二度にあらざりければ、
かようにお讓り遊ばされることは
一度二度でありませんでしたから、
故海人
既疲往還而泣也。
海人あまは
既に往還ゆききに疲れて泣けり。
海人は
往來に疲れて泣きました。
故諺曰。 かれ諺に、 それで諺に、
海人乎。 「海人あまなれや、 「海人だから
因己物而泣也。 おのが物から音ね泣く」といふ。 自分の物ゆえに泣くのだ」というのです。
     

宇遲能和紀郎子者
早崩。
然れども
宇遲の和紀郎子は
早く崩かむさりましき。
しかるに
ウヂの若郎子は
早くお隱れになりましたから、
故大雀命 かれ大雀の命、 オホサザキの命が
治天下也。 天の下治らしめしき。 天下をお治めなさいました。
梓弓の歌 古事記
中巻⑧
15代 応神天皇
大山守の乱
6 海人なれや
天之日矛