古事記 黒日売(黒姫)~原文対訳

イワヒメ 古事記
下巻①
16代 仁徳天皇
イワヒメ皇后の嫉妬物語
2 黒姫
おしてるや難波の歌
原文 書き下し
(武田祐吉)
現代語訳
(武田祐吉)
爾天皇。 ここに天皇、 しかるに天皇、
聞看。
吉備
海部直之女。
名黑日賣。
其容姿端正。
吉備きびの
海部あまべの直あたへが女、
名は黒日賣くろひめ
それ容姿端正かほよしと
聞こしめして、
吉備きびの
海部あまべの直あたえの女、
黒姫くろひめという者が
美しいと
お聞き遊ばされて、
喚上而使也。 喚上めさげて使ひたまひき。 喚めし上げてお使いなさいました。
     
然畏其大后之嫉。 然れども
その大后の嫉みますを畏かしこみて、
しかしながら
皇后樣のお妬みになるのを畏れて
逃下本國。 本つ國に逃げ下りき。 本國に逃げ下りました。
     
天皇坐高臺。 天皇、高臺どのにいまして、 天皇は高殿においで遊ばされて、
望瞻
其黑日賣之。
船出浮海以。
その黒日賣の
船出するを
望み見て
黒姫の
船出するのを
御覽になつて、
歌曰。 歌よみしたまひしく、 お歌い遊ばされた御歌、
     

くろざやの歌

     
淤岐幣邇波 沖方へには 沖おきの方ほうには
袁夫泥都羅羅玖 小舟つららく。 小舟おぶねが續いている。
久漏邪夜能 くろざやの   
摩佐豆古和藝毛 まさづこ吾妹わぎも、 あれは愛いとしのあの子こが
玖邇幣玖陀良須 國へ下らす。 國へ歸るのだ。
     
故大后。  かれ大后  皇后樣は
聞是之御歌。 この御歌を聞かして、 この歌をお聞きになつて
大忿。 いたく忿りまして、 非常にお怒りになつて、
遣人於大浦。 大浦に人を遣して、 船出の場所に人を遣つて、
追下而。 追ひ下して、 船から黒姫を追い下して
自歩追去。 歩かちより追やらひたまひき。 歩かせて追いはらいました。
イワヒメ 古事記
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16代 仁徳天皇
イワヒメ皇后の嫉妬物語
2 黒姫
おしてるや難波の歌