古事記~天の眞魚咋 原文対訳

国譲り 古事記
上巻 第四部
国譲りの物語
天の眞魚咋
(あまのまなぐひ)
ニニギの命
原文 書き下し
(武田祐吉)
現代語訳
(武田祐吉)
如此之白而。 かく白して かように申して
乃隠也。    
故随白而。    
     
於出雲國之
多藝志之小濱。
〈多藝志三字以音
出雲の國の
多藝志たぎしの
小濱をばまに、
出雲の國の
タギシの
小濱おはまに
造天之御舍而。 天の御舍みあらかを造りて、 りつぱな宮殿を造つて、
水戶神之孫。 水戸みなとの神の孫ひこ 水戸みなとの神の子孫の
櫛八玉神。 櫛八玉くしやたまの神 クシヤタマの神を
爲膳夫 膳夫かしはでとなりて、 料理役として
獻天御饗之時。 天つ御饗みあへ獻る時に、 御馳走をさし上げた時に、
祷白而。 祷ほぎ白して、 咒言を唱えて
櫛八玉神
化鵜。
櫛八玉の神
鵜に化なりて、
クシヤタマの神が
鵜うになつて
入海底。 海わたの底に入りて、 海底に入つて、
咋出底之波邇。
〈此二字以音
底の埴はこを
咋くひあがり出でて、
底の埴土はにつちを
咋くわえ出て
作天八十毘良迦
〈此三字以音〉而。
天の八十平瓮びらかを
作りて、
澤山の神聖なお皿を
作つて、

海布之柄。
海布めの柄からを
鎌かりて
また海草の幹みきを
刈り取つて來て
作燧臼。 燧臼ひきりうすに作り、 燧臼ひうちうすと
以海蓴之柄。 海蓴こもの柄を  
作燧杵而。 燧杵ひきりぎねに作りて、 燧杵ひうちきねを作つて、
鑚出火
云。
火を鑽きり出でて
まをさく、
これを擦すつて火をつくり出して
唱言となえごとを申したことは、
     
是我所燧火者、 「この我が燧きれる火は、 「今わたくしの作る火は
於高天原者、 高天の原には、 大空高く
神產巢日
御祖命之、
神産巣日御祖
かむむすび
みおやの命の
カムムスビの命の
登陀流天之
新巢之凝烟
〈訓凝姻云州須〉之。
富足とだる天の
新巣にひすの
凝烟すすの
富み榮える
新しい宮居の
煤すすの
八拳垂摩弖燒擧。
〈麻弖二字以音
八拳やつか垂るまで
燒たき擧げ、
長く垂たれ下さがるように
燒たき上あげ、
地下者。 地つちの下は、 地の下は
於底津石根
燒凝而。
底つ石根に
燒き凝こらして、
底の巖に
堅く燒き固まらして、
栲繩之
千尋繩打延、
栲繩たくなはの
千尋繩うち延はへ、
コウゾの
長い綱を延ばして
爲釣海人之。 釣する海人あまが、 釣をする海人あまの
口大之
尾翼鱸。
〈訓鱸云須受岐〉
口大の
尾翼鱸をはたすずき
釣り上げた大きな
鱸すずきを
佐和佐和邇
〈此五字以音
控依騰而。

さわさわに
控ひきよせ騰あげて、
さらさらと
引き寄せあげて、
打竹之
登遠遠
登遠遠邇
〈此七字以音
拆さき竹の
とをを
とををに、
机つくえも
たわむまでに

天之眞魚咋
也。
天の眞魚咋まなぐひ
獻る」
とまをしき。
りつぱなお料理を
獻上致しましよう」
と申しました。
     
故建御雷神。 かれ建御雷の神 かくしてタケミカヅチの神が
返參上。 返りまゐ上りて、 天に還つて上つて
復奏。    
言向和平
葦原中國
之状。
葦原の中つ國を
言向ことむけ平やはしし
状をまをしき。
葦原の中心の國を
平定した
有樣を申し上げました。
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天の眞魚咋
(あまのまなぐひ)
ニニギの命