古今和歌集 巻十三 恋三:歌の配置・コメント付

巻十二
恋二
古今和歌集
巻十三
恋歌三
巻十四
恋四
目次
  616
業×
617
敏行
618
業×
619
不知
620
不知
621
柿?
622
業×
623
小町
624
宗于
625
忠岑
626
元方
627
不知
628
忠岑
629
有輔
630
不知
631
不知
632
業×
633
貫之
634
不知
635
小町
636
躬恒
637
不知
638
国経
639
敏行
640
641
不知
642
不知
643
千里
644
業×
645
不知
646
業×
647
不知
648
不知
649
不知
650
不知
651
不知
652
不知
653
春風
654
不知
655
清樹
656
小町
657
小町
658
小町
659
不知
660
不知
661
友則
662
躬恒
663
躬恒
664
不知
665
深養
666
貞文
667
友則
668
友則
669
不知
670
貞文
671
柿?
672
不知
673
不知
674
不知
675
不知
676
伊勢
 
 

※この段では(業)が大量投入される。内容は全て伊勢物語。それが先頭の3つ(あるいは末尾と対称の6つ)の配置に示される。
 
 巻先頭連続の配置は、文屋・小町・敏行の三者のみ(秋下・恋二・物名)。ここに業平を含めない。それを明確に崩す義弟の敏行。
 
 つまり伊勢物語の歌は文屋のもの。業平の歌でも話でもない。だからここまで下げて崩している。
 そういう貫之による配置。
 だから最後に伊勢を置き、対称的に不知を続けた(知られていない実力者・六つの歌という配置)。
 貫之は柿本人麻呂を唯一別格視し、本来置かないのにあえて置いている(仮名序)。つまりこの上下の配置は特別に意図している。ただでさえ先頭連続は特別なのに。
 つまり伊勢は人麻呂と同レベルの作品で影響力。それが紫が源氏でいう「伊勢の海の深き心」。これで業平・在五の話などない。業平を否定し続ける伊勢の記述も全く無視している。それに在五自体そもそも蔑称。それは紫も文脈で意識している。
「「在五中将の名をばえ朽たさじ」とのたまはせて、宮「みるめこそ うらふりぬらめ年経にし伊勢をの海人の名をや沈めむ」かやうの女言にて、乱りがはしく争ふに…」。
 つまり在五という名で、伊勢の無名の著者の名を貶めるなと。前者は伊勢を全く読めない一般の発言。そういう突っ込みでとんでもない騒ぎになった。今も恐らく似たような情況だろう。比較的どうでもいい箇所を見当違いで断定し、業平非難の箇所は完全に無視しもっと古典を勉強しろなどという。つまりそういう人達に業平の非難はどうでもいい。描写がどんなに人の道に外れていようとどうでもいい。それもアリだったとか、むしろ褒めたりする道義観念。「けぢめ見せぬ心」の「在五」で主人公。大らかに愛する心で、著者が業平を思慕しているとか装っているとか、ただただありえない。伊勢を破壊している。もはや意図的。だから紫の上記の表現にもなる。
 
 古今で最も厚い詞書の歌は、筒井筒、東下りの歌。しかも両者は突出している。
 いずれも伊勢の象徴的エピソード。筒井筒は、田舎の幼馴染の男女の話で、業平とは無関係の内容。そして業平には、東(物語では三河)に下った記録もないという。
 他方で、文屋には、上述した配置の小町の歌にからめて、三河に行ったという詞書があり、これは東下りの歌に確実な根拠を残しておこうという、貫之の明確な意図。
 加えて伊勢物語の象徴・二条の后の完全独自の詞書の歌を文屋は二つも持っている。これも同様。
 業平も二つ二条の后の詞書を持っているが、いずれも完全に伊勢からの引用。しかもその一つは直前の素性と完全同一のコピー(屏風のちやはぶる)。
 業平に実力はない。業平は歌をもとより知らない(伊勢101段)。昔男と一方的にみなされたから六歌仙とされている。そうされたのは、当時の社会が文屋を受け入れられなかったから。そんな話はあの頭の軽い業平の話としておけばいい。頭が軽いにしては中々の歌だな。
 それが現在に至るまでの伊勢の軽視と、全体の解釈の滅裂さと、それを物語が複数人によって付け足され続けたことによるという全体の筋を完全に破壊する一方的正当化と、ほぼ文屋に限っての異様なまでの嘲笑的で侮辱的な評に出る。
 伊勢の著者の候補に、二条の后と強力な接点をもつ文屋が一文字もあげられないことがその証拠。つまり文屋の排除・伊勢の解体にこそ、古今の業平認定の意味があった。
 それを許せなかったのが貫之と紫。
 

 
 

巻十三:恋三

   
   0616
詞書 やよひのついたちより
しのひに人にものらいひてのちに、
雨のそほふりけるによみてつかはしける
作者 在原業平朝臣(※問題あり)
原文 おきもせす ねもせてよるを あかしては
 春の物とて なかめくらしつ
かな おきもせす ねもせてよるを あかしては
 はるのものとて なかめくらしつ
コメ 出典:伊勢2段(西の京)。
「それをかのまめ男、うち物語らひて、
帰り来て、いかゞ思ひけむ、
時はやよひのついたち、
雨そほふるにやりける。
『起きもせず 寝もせで夜を 明かしては
 春のものとて 眺め暮しつ』」
   
  0617
詞書 なりひらの朝臣(※問題あり)の家に侍りける女のもとによみてつかはしける
作者 としゆきの朝臣(藤原敏行)
原文 つれつれの なかめにまさる 涙河
 袖のみぬれて あふよしもなし
かな つれつれの なかめにまさる なみたかは
 そてのみぬれて あふよしもなし
コメ 出典:伊勢107段(身を知る雨)。
「むかし、あてなる男ありけり。
その男のもとなりける人を、内記にありける藤原の敏行といふ人よばひけり。
されど若ければ、
文もをさをさしからず、言葉もいひ知らず、いはんや歌はよまざりければ、
かのあれじなる人、案を書きてかゝせてやりけり。めでまどひにけり。
さて男のよめる、
『つれづれの ながめにまさる 涙川
 袖のみひぢて 逢ふよしもなし』」
   
  0618
詞書 かの女にかはりて返しによめる
作者 なりひらの朝臣(在原業平)(※問題あり)
原文 あさみこそ 袖はひつらめ 涙河
 身さへ流ると きかはたのまむ
かな あさみこそ そてはひつらめ なみたかは
 みさへなかると きかはたのまむ
コメ 出典:伊勢107段(身を知る雨)。
「(上の歌に続けて)かへし、
れいの男、女にかはりて、
『浅みこそ 袖はひづらめ 涙川
 身さへながると 聞かばたのまむ』」
   
  0619
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 よるへなみ 身をこそとほく へたてつれ
 心は君か 影となりにき
かな よるへなみ みをこそとほく へたてつれ
 こころはきみか かけとなりにき
   
  0620
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす(※)
原文 いたつらに 行きてはきぬる ものゆゑに
 見まくほしさに いさなはれつつ
かな いたつらに ゆきてはきぬる ものゆゑに
 みまくほしさに いさなはれつつ
コメ 出典:伊勢65段(在原なりける男)。
「男は女しあはねば、かくしありきつゝ
人の国にありきてかくうたふ。
『いたづらに 行きては来ぬる ものゆゑに
 見まくほしさに いざなはれつゝ』」
   
  0621
詞書 題しらす/この歌は、ある人のいはく、
柿本人麿か歌なり
作者 よみ人しらす(一説、柿本人麻呂)
原文 あはぬ夜の ふる白雪と つもりなは
 我さへともに けぬへきものを
かな あはぬよの ふるしらゆきと つもりなは
 われさへともに けぬへきものを
   
  0622
詞書 題しらす
作者 なりひらの朝臣(在原業平)(※問題あり)
原文 秋ののに ささわけしあさの 袖よりも
 あはてこしよそ ひちまさりける
かな あきののに ささわけしあさの そてよりも
 あはてこしよそ ひちまさりける
コメ 出典:伊勢25段(逢はで寝る夜)。
「むかし、男ありけり。
あはじともいはざりける女の、
さすがなりけるがもとにいひやりける。
『秋の野に 笹分けし 朝の袖より も
 あはで寝る 夜ぞ ひぢまさりける』」
   
  0623
詞書 題しらす
作者 をののこまち(小野小町)
原文 見るめなき わか身をうらと しらねはや
 かれなてあまの あしたゆくくる
かな みるめなき わかみをうらと しらねはや
 かれなてあまの あしたゆくくる
コメ 出典:伊勢25段(逢はで寝る夜)。
「(上の歌のようなものに続け)
色好みなる女、返し、
『みるめなき わが身を浦と 知らねばや
 離れなで海人の 足たゆく来る』」
   
  0624
詞書 題しらす
作者 源むねゆきの朝臣(源宗于)
原文 あはすして こよひあけなは 春の日の
 長くや人を つらしと思はむ
かな あはすして こよひあけなは はるのひの
 なかくやひとを つらしとおもはむ
   
  0625
詞書 題しらす
作者 みふのたたみね(壬生忠岑)
原文 有あけの つれなく見えし 別より
 暁はかり うき物はなし
かな ありあけの つれなくみえし わかれより
 あかつきはかり うきものはなし
コメ 百人一首30
有明の つれなく見えし 別れより
 暁ばかり 憂きものはなし
   
  0626
詞書 題しらす
作者 在原元方
原文 逢ふ事の なきさにしよる 浪なれは
 怨みてのみそ 立帰りける
かな あふことの なきさにしよる なみなれは
 うらみてのみそ たちかへりける
   
  0627
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 かねてより 風にさきたつ 浪なれや
 逢ふ事なきに またき立つらむ
かな かねてより かせにさきたつ なみなれや
 あふことなきに またきたつらむ
   
  0628
詞書 題しらす
作者 たたみね(壬生忠岑)
原文 みちのくに 有りといふなる なとり河
 なきなとりては くるしかりけり
かな みちのくに ありといふなる なとりかは
 なきなとりては くるしかりけり
   
  0629
詞書 題しらす
作者 みはるのありすけ(御春有輔)
原文 あやなくて またきなきなの たつた河
 わたらてやまむ 物ならなくに
かな あやなくて またきなきなの たつたかは
 わたらてやまむ ものならなくに
   
  0630
詞書 題しらす
作者 もとかた(在原元方)
原文 人はいさ 我はなきなの をしけれは
 昔も今も しらすとをいはむ
かな ひとはいさ われはなきなの をしけれは
 むかしもいまも しらすとをいはむ
   
  0631
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 こりすまに 又もなきなは たちぬへし
 人にくからぬ 世にしすまへは
かな こりすまに またもなきなは たちぬへし
 ひとにくからぬ よにしすまへは
   
  0632
詞書 ひむかしの五条わたりに
人をしりおきてまかりかよひけり、
しのひなる所なりけれはかとよりしもえいらてかきのくつれよりかよひけるを、
たひかさなりけれはあるしききつけて
かのみちに夜ことに人をふせてまもらすれは、
いきけれとえあはてのみかへりて
よみてやりける
作者 なりひらの朝臣(在原業平)(※問題あり)
原文 ひとしれぬ わかかよひちの 関守は
 よひよひことに うちもねななむ
かな ひとしれぬ わかかよひちの せきもりは
 よひよひことに うちもねななむ
コメ 出典:伊勢5段(関守・築土の崩れ)。
「むかし、男ありけり。
ひんがしの五条わたりに
いと忍びていきけり。
みそかなる所なれば、門よりもえ入らで、
わらべのふみあけたる築泥のくづれより、
通ひけり。…(略)…
『人知れぬ わが通ひ路の 関守は
 宵々ごとに うちも寝ななむ』」
   
  0633
詞書 題しらす
作者 つらゆき(紀貫之)
原文 しのふれと こひしき時は あしひきの
 山より月の いててこそくれ
かな しのふれと こひしきときは あしひきの
 やまよりつきの いててこそくれ
   
  0634
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 こひこひて まれにこよひそ 相坂の
 ゆふつけ鳥は なかすもあらなむ
かな こひこひて まれにこよひそ あふさかの
 ゆふつけとりは なかすもあらなむ
   
  0635
詞書 題しらす
作者 をののこまち(小野小町)
原文 秋の夜も 名のみなりけり あふといへは
 事そともなく あけぬるものを
かな あきのよも なのみなりけり あふといへは
 ことそともなく あけぬるものを
   
  0636
詞書 題しらす
作者 凡河内みつね(凡河内躬恒)
原文 なかしとも 思ひそはてぬ 昔より
 逢ふ人からの 秋のよなれは
かな なかしとも おもひそはてぬ むかしより
 あふひとからの あきのよなれは
   
  0637
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 しののめの ほからほからと あけゆけは
 おのかきぬきぬ なるそかなしき
かな しののめの ほからほからと あけゆけは
 おのかきぬきぬ なるそかなしき
   
  0638
詞書 題しらす
作者 藤原国経朝臣
原文 曙ぬとて 今はの心 つくからに
 なといひしらぬ 思ひそふらむ
かな あけぬとて いまはのこころ つくからに
 なといひしらぬ おもひそふらむ
   
  0639
詞書 寛平御時きさいの宮の歌合のうた
作者 としゆきの朝臣(藤原敏行)
原文 あけぬとて かへる道には こきたれて
 雨も涙も ふりそほちつつ
かな あけぬとて かへるみちには こきたれて
 あめもなみたも ふりそほちつつ
   
  0640
詞書 題しらす
作者 寵(※うつく、と読み、源精の娘ともされるが、詳細不明)
原文 しののめの 別ををしみ 我そまつ
 鳥よりさきに 鳴きはしめつる
かな しののめの わかれををしみ われそまつ
 とりよりさきに なきはしめつる
   
  0641
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 ほとときす 夢かうつつか あさつゆの
 おきて別れし 暁のこゑ
かな ほとときす ゆめかうつつか あさつゆの
 おきてわかれし あかつきのこゑ
   
  0642
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 玉匣 あけは君かな たちぬへみ
 夜ふかくこしを 人見けむかも
かな たまくしけ あけはきみかな たちぬへみ
 よふかくこしを ひとみけむかも
   
  0643
詞書 題しらす
作者 大江千里
原文 けさはしも おきけむ方も しらさりつ
 思ひいつるそ きえてかなしき
かな けさはしも おきけむかたも しらさりつ
 おもひいつるそ きえてかなしき
   
  0644
詞書 人にあひてあしたによみてつかはしける
作者 なりひらの朝臣(在原業平)(※問題あり)
原文 ねぬる夜の 夢をはかなみ まとろめは
 いやはかなにも なりまさるかな
かな ねぬるよの ゆめをはかなみ まとろめは
 いやはかなにも なりまさるかな
コメ 出典:伊勢103段(寝ぬる夜)。
「むかし、男ありけり。
いとまめにじちようにて、
あだなる心なかりけり。
深草のみかどになむつかうまつりける。
心あやまりやしたりけむ、みこたちの使ひ給ひける人をあひいへり。さて、
『寝ぬる夜の 夢をはかなみ まどろめば
 いやはかなにも なりまさるかな』
となむよみてやりける。
さる歌のきたなげさよ。」
   
  0645
詞書 業平朝臣(※問題あり)の
伊勢のくににまかりたりける時、
斉宮なりける人にいとみそかにあひて
又のあしたに人やるすへなくて
思ひをりけるあひたに、
女のもとよりおこせたりける
作者 よみ人しらす(※)
原文 きみやこし 我や行きけむ おもほえす
 夢かうつつか ねてかさめてか
かな きみやこし われやゆきけむ おもほえす
 ゆめかうつつか ねてかさめてか
コメ 出典:伊勢69段(狩の使)。
「むかし、男ありけり。
その男伊勢の国に、狩の使いにいきけるに、
かの伊勢の斎宮なりける人の親、
「常の使よりは、この人、よくいたはれ」
といひやれりければ、親のことなりければ、いと懇にいたはりけり。…(略)…
月のおぼろなるに、小さき童を先に立てて、人立てり。男いとうれしくて我が寝る所に、率ていり、
子一つより丑三つまであるに、まだ何事も語らはぬに、帰りにけり。男いと悲しくて、寝ずなりにけり。…(略)…
明けはなれてしばしあるに、女のもとより言葉はなくて、女のもとより言葉はなくて、
『君やこし 我や行きけむ おもほえず
 夢かうつゝか 寝てか醒めてか』」
   
  0646
詞書 返し
作者 なりひらの朝臣(在原業平)(※問題あり)
原文 かきくらす 心のやみに 迷ひにき
 夢うつつとは 世人さためよ
かな かきくらす こころのやみに まよひにき
 ゆめうつつとは よひとさためよ
コメ 出典:伊勢69段(狩の使)。
「(返し)男いといたう泣きてよめる。
『かきくらす 心の闇に まどひにき
 夢現とは こよひ定めよ』
とよみてやりて、狩に出でぬ。」
   
  0647
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 むはたまの やみのうつつは さたかなる
 夢にいくらも まさらさりけり
かな うはたまの やみのうつつは さたかなる
 ゆめにいくらも まさらさりけり
   
  0648
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 さ夜ふけて あまのと渡る 月影に
 あかすも君を あひ見つるかな
かな さよふけて あまのとわたる つきかけに
 あかすもきみを あひみつるかな
   
  0649
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 君か名も わかなもたてし なにはなる
 みつともいふな あひきともいはし
かな きみかなも わかなもたてし なにはなる
 みつともいふな あひきともいはし
   
  0650
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 名とり河 せせのむもれ木 あらはれは
 如何にせむとか あひ見そめけむ
かな なとりかは せせのうもれき あらはれは
 いかにせむとか あひみそめけむ
   
  0651
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 吉野河 水の心は はやくとも
 たきのおとには たてしとそ思ふ
かな よしのかは みつのこころは はやくとも
 たきのおとには たてしとそおもふ
   
  0652
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 こひしくは したにをおもへ 紫の
 ねすりの衣 色にいつなゆめ
かな こひしくは したにをおもへ むらさきの
 ねすりのころも いろにいつなゆめ
   
  0653
詞書 題しらす
作者 をののはるかせ
原文 花すすき ほにいててこひは 名ををしみ
 したゆふひもの むすほほれつつ
かな はなすすき ほにいててこひは なををしみ
 したゆふひもの むすほほれつつ
   
  0654
詞書 たちはなのきよきかしのひに
あひしれりける女のもとよりおこせたりける
作者 よみ人しらす
原文 思ふとち ひとりひとりか こひしなは
 たれによそへて ふち衣きむ
かな おもふとち ひとりひとりか こひしなは
 たれによそへて ふちころもきむ
   
  0655
詞書 返し
作者 たちはなのきよ木
原文 なきこふる 涙に袖の そほちなは
 ぬきかへかてら よるこそはきめ
かな なきこふる なみたにそての そほちなは
 ぬきかへかてら よるこそはきめ
   
  0656
詞書 題しらす
作者 こまち(小野小町)
原文 うつつには さもこそあらめ 夢にさへ
 人めをよくと 見るかわひしさ
かな うつつには さもこそあらめ ゆめにさへ
 ひとめをよくと みるかわひしさ
   
  0657
詞書 題しらす
作者 こまち(小野小町)
原文 限なき 思ひのままに よるもこむ
 ゆめちをさへに 人はとかめし
かな かきりなき おもひのままに よるもこむ
 ゆめちをさへに ひとはとかめし
   
  0658
詞書 題しらす
作者 こまち(小野小町)
原文 夢ちには あしもやすめす かよへとも
 うつつにひとめ 見しことはあらす
かな ゆめちには あしもやすめす かよへとも
 うつつにひとめ みしことはあらす
   
  0659
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 おもへとも 人めつつみの たかけれは
 河と見なから えこそわたらね
かな おもへとも ひとめつつみの たかけれは
 かはとみなから えこそわたらね
   
  0660
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 たきつせの はやき心を なにしかも
 人めつつみの せきととむらむ
かな たきつせの はやきこころを なにしかも
 ひとめつつみの せきととむらむ
   
  0661
詞書 寛平御時きさいの宮の歌合のうた
作者 きのとものり(紀友則)
原文 紅の 色にはいてし かくれぬの
 したにかよひて こひはしぬとも
かな くれなゐの いろにはいてし かくれぬの
 したにかよひて こひはしぬとも
   
  0662
詞書 題しらす
作者 みつね(凡河内躬恒)
原文 冬の池に すむにほ鳥の つれもなく
 そこにかよふと 人にしらすな
かな ふゆのいけに すむにほとりの つれもなく
 そこにかよふと ひとにしらすな
   
  0663
詞書 題しらす
作者 みつね(凡河内躬恒)
原文 ささのはに おくはつしもの 夜をさむみ
 しみはつくとも 色にいてめや
かな ささのはに おくはつしもの よをさむみ
 しみはつくとも いろにいてめや
   
  0664
詞書 題しらす/この歌、ある人、
あふみのうねめのとなむ申す
作者 読人しらす(よみ人しらす)(一説、あふみのうねめ)
原文 山しなの おとはの山の おとにたに
 人のしるへく わかこひめかも
かな やましなの おとはのやまの おとにたに
 ひとのしるへく わかこひめかも
   
  0665
詞書 題しらす
作者 清原ふかやふ(清原深養父)
原文 みつしほの 流れひるまを あひかたみ
 みるめの浦に よるをこそまて
かな みつしほの なかれひるまを あひかたみ
 みるめのうらに よるをこそまて
   
  0666
詞書 題しらす
作者 平貞文
原文 白河の しらすともいはし そこきよみ
 流れて世世に すまむと思へは
かな しらかはの しらすともいはし そこきよみ
 なかれてよよに すまむとおもへは
   
  0667
詞書 題しらす
作者 とものり(紀友則)
原文 したにのみ こふれはくるし 玉のをの
 たえてみたれむ 人なとかめそ
かな したにのみ こふれはくるし たまのをの
 たえてみたれむ ひとなとかめそ
   
  0668
詞書 題しらす
作者 とものり(紀友則)
原文 わかこひを しのひかねては あしひきの
 山橘の 色にいてぬへし
かな わかこひを しのひかねては あしひきの
 やまたちはなの いろにいてぬへし
   
  0669
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 おほかたは わか名もみなと こきいてなむ
 世をうみへたに 見るめすくなし
かな おほかたは わかなもみなと こきいてなむ
 よをうみへたに みるめすくなし
   
  0670
詞書 題しらす
作者 平貞文
原文 枕より 又しる人も なきこひを
 涙せきあへす もらしつるかな
かな まくらより またしるひとも なきこひを
 なみたせきあへす もらしつるかな
   
  0671
詞書 題しらす/このうたは、ある人のいはく、
かきのもとの人まろかなり
作者 よみ人しらす(一説、かきのもとの人まろ(柿本人麻呂))
原文 風ふけは 浪打つ岸の 松なれや
 ねにあらはれて なきぬへらなり
かな かせふけは なみうつきしの まつなれや
 ねにあらはれて なきぬへらなり
   
  0672
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 池にすむ 名ををし鳥の 水をあさみ
 かくるとすれと あらはれにけり
かな いけにすむ なををしとりの みつをあさみ
 かくるとすれと あらはれにけり
   
  0673
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 逢ふ事は 玉の緒はかり 名のたつは
 吉野の河の たきつせのこと
かな あふことは たまのをはかり なのたつは
 よしののかはの たきつせのこと
   
  0674
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 むらとりの たちにしわか名 今更に
 ことなしふとも しるしあらめや
かな むらとりの たちにしわかな いまさらに
 ことなしむとも しるしあらめや
   
  0675
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 君により わかなは花に 春霞
 野にも山にも たちみちにけり
かな きみにより わかなははなに はるかすみ
 のにもやまにも たちみちにけり
   
  0676
詞書 題しらす
作者 伊勢(伊勢の御)
原文 しるといへは 枕たにせて ねしものを
 ちりならぬなの そらにたつらむ
かな しるといへは まくらたにせて ねしものを
 ちりならぬなの そらにたつらむ